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京都地方裁判所 昭和56年(ワ)158号 判決 1982年12月24日

原告

青松義夫

右訴訟代理人

三宅邦明

被告

冨士ネオ工業株式会社

右代表者

田村吉造

右訴訟代理人

平栗勲

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実<省略>

理由

一<証拠>を総合すると請求原因(一)項の事実<注・Aに対する一、四五〇万円の手形貸付>が認められる。

二<証拠>を総合すると次の事実が認められる。

(一)  原告は、別表(二)1、2の手形が不渡になつたため、松下及び右手形の裏書人である雨堤敦(以下「雨堤」という。)に返済を要求し、昭和五四年八月一五日前後ころ松下から別表(三)記載の各手形を受取つていたが、後日同表2の手形の振出人の押印がないことに気づき、その後同人から右手形と同一内容の手形(以下「別表(三)2の代りの手形」という。)を受取つた。

(二)  ところが、原告は、同月二三、四日ころ雨堤から「被告会社の常務から、八月二七日満期の手形を止めてもらいたい、そしたら現金で差換するし、南林工業の手形(別表(三)2の代りの手形及び同3の手形)も保証する、という話しがあるので、被告会社の常務に電話してほしい」との電話を受け、尾田に電話したところ、そのことで会つて話しをしたい」とのことで、尾田の希望により同月二七日ころ大阪のロイヤルホテルで雨堤とともに、尾田及び松下らと会合した。そしてその際原告は、尾田から「冨士ネオ工業株式会社常務取締役」の肩書が記載されている尾田の名刺を受取り、互いに自己紹介した。

(三)  右会合において、原告は、尾田から「八月二七日満期の手形を止めてくれたら、その代りに丸天商会の四〇〇万円分(別表(二)1ないし4)を八月末に原告の家に現金で持つて行く。この金はうちの方で始末する。別表(三)2の代りの手形と同3の手形はうちで保証する。裏書する。ただし、別表(三)2の代りの手形の期日を一一月末にしてもらいたい」旨の申出を受け、その理由を尋ねたところ、尾田は「松下がうちの出入業者で、泣きつかれどうしようもない。うちで始末せんとどうしようもない」などといつて説明した。

そこで、原告は、右申出を了承し、被告の裏書を受けるため、持参していた別表(三)2の代りの手形と同3の手形を尾田に預けたが、別表(三)2の代りの手形は、振出人である南林工業有限会社による支払期日の書換を受けるため、直ちに尾田から松下に渡された。

そして、その直後原告が尾田に対し、右約束について念を押したところ、尾田は「子供の話しじやあるまいし、間違いおへん。うちがするといえばする」などと確言した。

(四)  ところが、原告は、その後尾田が右約束を守らなかつたため、同年九月一〇日ころ雨堤を使者として尾田から別表(三)2の手形を取戻した。また、別表(三)2の代りの手形については、松下が他に割引依頼しているとの理由で取戻すことができなかつた。

(五)  ところで、被告は浄化槽工事等を業とする会社であるが、昭和五二年ころから松下が被告に出入するようになり、同人の紹介で工事を受注して同人に謝礼金を与えたり、相互に手形の割引をし合う関係にあつた。

そして、尾田は、前記会合の数日前、松下から、「被告の裏書があれば手形を割つてもらえるので、手形に被告の裏書をしてほしい」旨の依頼を受け、右依頼が発端となつて前記会合がもたれた。

以上の事実が認められ、<証拠>は前掲各証拠に照らして採用し難く、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

右認定のような被告と松下との関係や尾田の言動及び原告と尾田とは八月二七日ころの会合が初対面であり、原告は尾田の個人的資力を判断する材料を持つていなかつたと考えられることなどの事実に徴すると、尾田は被告の常務取締役として、原告に対し、右同日ころ松下の原告に対する一、四五〇万円の債務のうち、当時既に不渡になつていた別表(二)1ないし4の各手形分合計四〇〇万円を同年八月末日限り支払う旨約して債務引受し、また別表(三)2の代りの手形及び同3の手形に裏書する旨約したものと認めるのが相当である(原告は、別表(三)2の代りの手形及び同3の手形に関し、「被告は、右手形差入分合計六〇〇万円につき保証ないし債務引受した」旨主張するが、右二通の手形は、原告が、既に別表(二)記載の手形により松下に貸付けていた貸金の支払のため受領したものであつて、右二通の手形によつて貸付けたものではないし、尾田が本件に関与するに至つたきつかけも、松下から裏書を依頼されたことにあり、そして裏書することを約して右手形を預つたものであることに徴すると、前記八月二七日ころの会合における話しの中で、尾田が語つた「手形はうちで保証する」との言葉は、他に「裏書する」との発言とも相まつて、結局右二通の手形に、手形金の支払について担保責任を生じるところの裏書をすることを約したものであつて、原告の松下に対する一、四五〇万円の貸金債権のうち右手形二通の金額に相当する六〇〇万円について保証ないし債務引受したものであるとは認め難いものというべきである。)。

三そこで、被告の責任について判断する。

<証拠>によると、尾田は、昭和四六、七年ころ被告に入社し、営業部長として勤務していたが、同五〇年ころから、取締役として登記されていないけれども、被告の代表取締役田村吉造の了承を得て常務取締役の肩書を使用するようになり、右肩書を記載した名刺を使用していたほか、被告発行の被告の営業経歴書にも「常務取締役尾田欣三」と記載して役員の表示をしていたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

そうすると、商法二六二条の類推適用により、被告は原告に対し、尾田がした前項認定の行為につきその責に任じなければならないものというべきである。

四次に、<証拠>によると、原告は、松下に対する本件一、四五〇万円の債権により根抵当権を実行し(和歌山地方裁判所御坊支部昭和五四年(ケ)二六号不動産競売事件)、その配当手続の際、競売裁判所に別紙充当明細書のとおり充当を申出、昭和五六年一一月二六日右明細書のとおり合計一一、一五二、五三九円の配当を受けたことが認められる。

また、<証拠>によると、原告は、右配当期日に先立つ昭和五六年七月七日被告との間で、原告が右競売事件において受領する配当金は、別表(二)11の手形の元利金から同1の手形の方へ順次充当する旨合意したことが認められる。

それで、原告は、右配当金を別紙充当明細書のとおり債権者である原告による指定充当ないし合意充当した旨主張し、被告は法定充当すべきであると主張するところ、担保権の実行による競売は、担保権の内容を実現するため、その目的物を国家機関によつて換価する公法上の処分であるから、右手続上の配当にあたつては、弁済者が任意に弁済する場合の弁済者と弁済受領者との間の合意による充当や弁済者又は弁済受領者による指定充当は許されず、常に法定充当すべきものと解するのが相当である。なぜなら、指定充当は、「相手方に対する意思表示によつてこれをなす」(民法四八八条三項)べきものであるところ、前記競売事件に適用ないし準用されるべき民事執行法附則四条、三条、二条による廃止前の競売法、改正前の民事訴訟法はもとより、民事執行法にも右のような指定充当を予定した規定は存在せず、弁済者と弁済受領者との間の合意による充当を予定した規定も存在しないし、仮に指定充当が許されるとすると、民法四八八条二項により弁済者は異議を述べることができ、配当手続が煩瑣になることを免れないのであつて、国家が関与して債権者に満足を得させる競売手続にあつては、公平妥当な充当を目的とする法定充当の方法によることが制度の趣旨に則したものであると考えられるからである。

そこで、原告が配当を受けた前記配当金を法定充当すると、別表(二)1ないし4の手形分合計四〇〇万円とこれに対する昭和五四年九月一日以降年五分の損害金は全額充当されることが計算上明らかである。

五以上によれば、原告の本訴請求のうち、被告が松下の原告に対する債務を引受けたものとみるべき別表(二)1ないし4の各手形分合計四〇〇万円の貸金債権とこれに対する昭和五四年九月一日以降年五分の損害金債権は、原告が前記競売事件における配当によつてその全額の弁済を受け、また、別表(三)2又は3の手形分については、尾田が被告の常務取締役として右2の代りの手形及び3の手形に裏書することを約したにとどまり、原告の松下に対する一、四五〇万円の貸金債権のうち右手形二通の金額に相当する六〇〇万円について保証ないし債務引受したものとは認められないのであるから、結局被告は原告に対し、原告の本訴請求債権を弁済すべき義務を有しないものというべきである。

よつて、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することにし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(喜久本朝正)

別表(一)ないし(三)<省略>

(別紙)充当明細書<省略>

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