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京都地方裁判所 昭和56年(ワ)1710号 判決 1984年3月30日

原告

株式会社ジャックス

右代表者

渡邊達弥

右訴訟代理人

寺田武彦

井上博隆

被告

荒谷順子

被告

荒谷好喜

右両名訴訟代理人

森下弘

金子武嗣

山下綾子

主文

一、原告の各請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告(請求の趣旨)

1、被告らは原告に対し、金六五九、二九一円および内金五八万円に対する昭和五六年六月二二日以降支払済まで年29.2パーセントの割合による金員を連帯して支払え。

2、訴訟費用は被告らの負担とする。

3、この判決は仮りに執行することができる。

二、被告

主文同旨

第二、当事者の主張

一、請求の原因

1、被告荒谷順子は、昭和五五年五月一五日株式会社テイスターからジュースの自動販売機一台(品番FDP一五三F)を代金(現金価格)五八三、〇〇〇円で買い受けた。

2、原告は、同日被告荒谷順子の委託により、前項記載の商品代金のうち金五八〇、〇〇〇円を、左記の約定により、被告荒谷順子に代つて前記販売店に立替払する旨のクレジット契約を締結した。

(一) 代払額 金五八〇、〇〇〇円

(二) 返済額 金七三四、八六〇円

(但し、クレジット手数料と代払額の合計金)

(三) 返済方法 昭和五五年七月より同五八年六月迄毎月二七日限り金二〇、四〇〇円宛(但し、第一回は金二〇、八六〇円)を銀行振込・自動振替により合計三六回の分割で支払うこと

(四) 特約 (1)分割払金の支払を一回でも遅滞し、原告から二〇日間以上の期間を定めて支払を催告したにもかかわらず支払をしなかつたときは、直ちに期限の利益を喪失すること

(2)期限の利益喪失の日より完済迄年29.2パーセントの割合による遅延損害金を支払うこと

3、被告荒谷好喜は、前項記載のクレジット契約の締結に際し、契約上の債務者である被告荒谷順子が右クレジット契約に基づき、原告に対して負担する一切の債務について連帯保証した。

4、テイスターは本件自動販売機の製造者である富士電機食機関西株式会社(以下富士電機という)の販売代理店であるが、本件売掛金債権を富士電機に譲渡した。

5、原告は昭和五五年六月二〇日本件立替払契約にもとづき金五八万円を富士電機に弁済した。

6、ところで被告荒谷順子(以下たんに被告という)は、前記クレジット契約に基づく分割払金のうち、昭和五五年七月分の支払を遅滞し、その後も支払をしなくなつた。そこで、原告は被告に対し、昭和五六年六月一日、同年六月二一日迄に遅滞金二〇四、四六〇円を支払うよう催告したが、支払がなかつた。

7、よつて、原告は被告らに対し、前記返済額金七三四、八六〇円から別表(1)の計算による期限の利益喪失後の手数料金七五、五六九円を控除した金六五九、二九一円と、この金額から別表(2)の計算による期限喪失時までの未払手数料金七九、二九一円を控除した立替金残元金五八万円に対する右期限の利益喪失日である昭和五六年六月二二日から完済まで右約定の年29.2パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。

二、請求の原因に対する認否

第1項ないし第3項及び第6項の事実を認める。第4項及び第5項の事実は知らない。

三、抗弁

1、原告の債務不履行による解除

(一) テイスターは、被告に対する売掛債権を富士電機へ債権譲渡するにつき、被告に譲渡の通知をしていないから右債権譲渡は被告に対抗しえない。

(二) よつて、原告の富士電機に対する弁済は、被告が原告に委託した債務の弁済とはなしえないから、原告は被告に対する債務を履行していないこととなる。そこで、被告は原告の債務不履行を理由に、昭和五七年七月一六日本件クレジット契約を解除した。

2、テイスターに対する売買契約の解除と立替払の無効

(一) 被告が本件自動販売機を購入して約一ヶ月も経ない昭和五五年六月初めころに本件自動販売機は硬貨を投入しても品物が出ず、また釣銭も出なくなる故障を起こし、ジュースの販売が不能となつた。

(二) そこで被告はテイスターに対し再三修理をするよう催促したが、テイスターは全くこれに応じず、そのうち、本件自動販売機の電線がショートしてしまつた。

(三) そこで被告は、昭和五五年六月中旬頃口頭にてテイスターに対し、早急に修理すること、若し修理しなければ契約を解除する旨の停止条件付解除の意思表示をなした。

(四) しかるに、テイスターは何らの返答もなさず、相当期間が経過した。従つて、少くとも昭和五五年六月末ころには本件自動販売機の売買契約は解除され、被告の売買代金支払債務は遡及的に消滅した。

(五) 原告はテイスターの売買代金を継続的に立替払いすることをその業務としており、被告とテイスター間の本件自動販売機の売買と原告・被告間の本件契約とは密接不可分の関係にあるから、本件自動販売機の右売買契約の解除により、被告のテイスターに対する代金支払債務が消滅したことによつて、信義則上原告に対する立替金支払債務も消滅するものと解すべきである。すなわち、

(1) 原告と被告のクレジット契約は、単なる金融機関と消費者との目的の定まらない金銭貸借ではなく、原告の出捐する金員は本件自動販売機の代金の支払いのためのみに使われる、つまり被告はそれ以外の用途に使用できないという目的が拘束された金銭消費貸借である。本件クレジット契約は本件自動販売機の売買契約がなければそもそも存立しないのであつて、まさに一体といわなければならない。

(2) 原告とテイスターとは売主、貸主という地位の差はあつたとしても特定の商品を売買するために経済的にも法的にも密接不可分なるむすびつきが存在している。

即ち、原告は自らと提携する各販売社と独自に基本契約をなし、この基本契約のもとに実質的に継続的な資金供給関係が存在している。また、各販売店には原告作成のクレジット契約の書類を一切所持させており、すべての手続は販売店がなすこととなつている。

原告とテイスターとの間においても、基本契約のもとに実質的な継続的資金供給関係が存在し、本件自動販売機の売買についてもこの一環としてなされ、原告の作成した契約書類を有するテイスターの金星某という社員が売買契約はもちろん、クレジット契約の手続をなしている。原告の社員は一切登場しないうちに、売買契約とクレジット契約の手続がなされている。

(3) このように手続面からも実態面からも、原告とテイスターとの一体性は明らかである。このような場合に被告とすれば、自動販売機の瑕疵等の売買契約上の事由について全く主張できず、代金だけは支払わなければならないということは不合理といわなければならない。特に本件のようにテイスターが倒産している場合には強くあてはまる。被告が売買契約上の抗弁をクレジット契約においても主張できることは信義則上当然といわなければならない。

(4) なお、原被告間に締結されたクレジット契約書には、被告が購入した商品の瑕疵、故障等を理由に被告は原告への支払いを怠らない旨の条項(以下抗弁権切断条項という)が記戴されているが、右条項はいわゆる例文であつて、原被告間に右の如き意思の合致はなかつた。仮りにこれを肯定しうるとしても、売主が買主に抗弁権を放棄させることは許されないところ、原告とテイスターの密接不可分な関係からして、売主と同様の立場に立つ原告が抗弁権の切断を主張することは信義則上許されない。

3、同時履行の抗弁

(一) テイスターの被告に対する右2の(一)ないし(三)記載の内容の本件自動販売機の修理債務と被告らのテイスターに対する本件売買代金の支払債務とは、同時履行の関係にある。

(二) 即ち、本件自動販売機の故障の時期からして本件自動販売機の引渡しは不完全な形で履行されていたことは明らかだからである。

(三) 前項で主張したと同様の理由により、本件にあつては被告はテイスターに対する抗弁を原告にも主張しうるから、被告らはテイスターから本件自動販売機の修理債務が履行されるまで右立替金の支払いを拒絶する。

四、抗弁に対する認否と反論

1、抗弁第1項につき、テイスターが被告に債権譲渡の通知をしなかつたことを認めるが、原告の債務不履行の主張を争う。

2、被告らの抗弁第2項及び第3項の事実上の主張を否認し、法律上の主張を争う。

(一) 仮りに本件自動販売機に何らかの瑕疵が発生したとしても、本件クレジット契約においては抗弁権切断の特約が交されている。

(二) 仮にテイスターと被告との間の売買契約が解除されたとしても、原告の被告らに対する求償債権に何ら影響を及ぼすものではない。

原告と被告らとの間の契約は、被告とテイスターとの間の売買契約とまつたく別個のクレジット契約であり、原告が右クレジット契約にもとづいて立替払いをした後に、右売買契約が解除されたとしても、クレジット契約の効力に何ら影響を及ぼすものではなく、右クレジット契約にもとづく原告の立替払いおよび被告らの立替金返還債務、即ち原告の被告らに対する求償債権の行使に影響を及ぼすものではない。従つて、また、自動販売機の修理債務と立替金返還債務とは、対立する一個の双務契約上の債務の関係ではないから、同時履行の関係に立たない。

五、債権譲渡の通知不存在の抗弁に対する再抗弁

1、本件自動販売機の製造業者である富士電機、その特約販売店であるテイスターおよび原告の間で、あらかじめ右自動販売機の販売及び代金決済方法に関する基本約束が出来ており、第一に製品の販売を特約販売店であるテイスターが為すとともに、第二に右製品の購入者と原告との間で代金立替払いを内容とするクレジット契約を締結し、第三にテイスターから富士電機に対する前記売買代金債権の債権譲渡を前提として、原告が富士電機に対して代金立替払のための金銭を支払うことになつている。そして、原告は、自動販売機の売買代金債務について、その債務者である被告との間で右売買代金債務の立替払いを内容とする本件クレジット契約を締結しているわけであるから、原告は、右売買代金債務の支払いに関して本来の債務者である被告と同一の地位にたつものといえる。従つて、自動販売機を売却したテイスターが売買代金債権を富士電機に債権譲渡した場合、右債権譲渡の通知は、本来の債務者である被告だけではなく、原告に対するものも有効と考えるべきである。

2、ところで、自動販売機の購入者である被告との間で本件クレジット契約を締結したことにより、右売買代金債務の立替払いをする義務を負つている原告は、前記のとおり、右売買代金債権の債権者であるテイスターから富士電機に対する債権譲渡についてあらかじめ承認し、同意を与えていた。従つて、本件において、テイスターから富士電機に対する債権譲渡行為について、被告に対し通知がなくても、譲受人は右債権譲渡を対抗しうるものである。

六、再抗弁に対する認否

争う。原告とテイスターと富士電機の間でどのような契約が締結されようとも、買受人である被告が関与してはいない。従つて、債権譲渡の通知を受ける権限は買主の地位にもとづくものであるから、買主としての地位が原告に移転したことはなく、また右権限を与えたこともない。更に、原告が代金の支払につき被告と同一の立場に立つたとしても、債権譲渡につき予め承諾を与える権限が原告に生ずる理由はない。

第三、証拠関係<省略>

理由

一、請求原因第1項ないし第3項及び第6項の事実は当事者間に争いがない。<証拠>によれば、請求の原因第4項、第5項の事実を認めることができる。

二、抗弁第1項に対する判断

1、抗弁(一)の事実は当事者間に争いがない。

2、そこで更に再抗弁につき判断する。<証拠>によれば、本件自動販売機の売買以前から、原告と本件自動販売機の製造者である富士電機との基本契約及び富士電機とその特約販売店であるテイスターとの特約店契約によつて、(一) 富士電機が製造した製品をテイスターが販売すること、(二) 製品の購入者と原告との間で代金立替払いを内容とするクレジット契約を締結すること、(三) テイスターは富士電機に右売買代金債権を譲渡すること、(四) 原告は購入者に代り、富士電機に代金を立替払いをすることがそれぞれ約束され、これに従つて大量の取引が反復、継続してきたことが認められる。ところで、テイスターが売買代金債権を富士電機に譲渡するについては、債務者である被告に通知を要するのが原則ではあるけれども、もともと債権譲渡の通知を要する法意は債務者の二重払いの危険を防止することにあると考えられるから、本件の如く、富士電機とテイスターが特約店契約を締結していること、被告が実質上の売買代金債務を支払うべき相手がテイスターではなく原告となること、弁論の全趣旨によりテイスターが既に倒産して数年が経過し、もはや同社から売買代金債権の請求を受ける現実的可能性が零に等しいと認められること等の事情に照らせば、被告が債権譲渡の通知がないことを主張するのは、取引の実態に即することなく法を形式的にのみ解釈するとの謗りを免れず、失当である。

三、抗弁第2項についての判断

1、<証拠>によれば、(一)被告荒谷順子はお好み焼店を経営していること、(二)本件自動販売機の売買契約が締結された当日(当事者間に争いのない請求原因事実では昭和五五年五月一五日であるが、本項においては、右証拠により五月九日と認める)、テイスターの販売員金星は、自動販売機を設置し、配線工事をなし、即日販売に供しうるようになしたこと、(三)自動販売機の設置、三年間の作動維持も売買の対価に含まれていたこと、(四)ところが五月には被告店舗へ来る客が所定の貨幣を入れても缶ジュースが出てこないことがある故障が生じ、翌六月には電気の配線部分が故障し、自動販売機が作動しなくなつたこと、(五)被告は右故障につき数回テイスターに電話連絡をして修理を依頼したが、テイスターの係員は修理者を派遣する旨を答えたもののついに一度も修理に来なかつたこと、(六)そこで被告は同六月テイスターに電話で右修理義務違反を理由に売買契約を解除したこと、の各事実が認められ、これに反する証拠はない。右事実によれば、同被告のテイスターに対する契約解除は有効であり、従つて、売買代金債務は遡及的に消滅したこととなる。

2、そこで右債務の消滅を以つて、本件クレジット契約にもとづく原告の立替金支払請求を拒みうるかを検討する。

(一)  形式的にみれば、原告が主張するとおり、被告の主張には無理がないではない。

(二)  しかしながら、<証拠>によれば、①先に判示したとおり、原告と富士電機の基本契約及び富士電機とテイスターの特約店契約によつて、富士電機が自動販売機を製造し、テイスターがこれを割賦販売し、テイスターが富士電機に債権を譲渡し、原告が購入者の支払うべき代金債務を早期に立替払いすることを約束し合つて、右三者は継続的に大量に取引にかかわつてきたもので、本件取引もその一環であること、②右各契約を前提に、テイスターが製品を販売するときは、購入者と交わす契約書には原告のクレジット契約を利用することが不動文字として印刷されており、割賦販売を望む購入者は必然的に原告とクレジット契約を申込むような仕組みとなつていること、また、原告はテイスターにクレジット契約締結の誘引と申込を受ける権限を付与していること、③原告はクレジット契約には実質的には関与せず、クレジット契約書には、原告の判断においてクレジット契約の申込を承諾する余地を残し確認の電話をする旨の記載部分があるけれども、右は購入者がテイスターから製品を購入する意思を有することの確認にすぎず、購入者の支払能力等の信用調査を全てテイスターに委ねていること、そして、本件売買においても右と同様であつて、テイスターの販売員金星が販売と同時にクレジット契約書を作成していること、④テイスターと被告間の割賦販売においては、契約書中に自動販売機の所有権はテイスターに留保する旨の特約が記載されているが、原告と被告間クレジット契約書においても右所有権はテイスターから直接原告に移転する旨の記載があること、⑤テイスターと被告間の契約書中には、原告と被告間のクレジット契約が成立しないときは、別の支払方法について合意が成立しない限り、売買契約は効力を失う旨の記載があること、の各事実が認められ、これに反する証拠はない。

(三) 右の事実からすると、各特約の効力についての判断はともかくとして、①本件売買契約が本件クレジット契約の前提をなすだけではなく、クレジット契約の締結が売買契約の原則的な存続条件とされており、両契約は一方のみでは存在しえず、両契約が存在するか両契約とも存在しえないかのいるれかと構想されているのであつて、極めて強い存続上の牽連関係に立つていること、②原告は、代金を立替払以前から自動販売機の所有権を取得するほどに売主と同様の立場に立つことを意図していること、③富士電機とテイスターと原告は、富士電機の製品の製造、販売につき、原告が前二社へ継続的に資金を供給し、前二社が購入者から高利の手数料を取得しうる権能を原告に付与する形で、それぞれ経済上の利益を共有し合つており、かつそのため原告の為すべき手続をテイスターが代行し、その結びつきは常態となつている、ことを指摘することができる。してみれば、形式上はともかく、取引の実態としては本件売買契約とクレジット契約の一体のものであり、被告からみれば原告とテイスターはいわば売主側の者と観念すべきものである。ところが原告の主張は、原告がテイスターの資金力その他商取引をなす相手としての適格性についての情報を得易い立場にあるにもかかわらず、テイスターとともに選択した割賦販売の方法、即ち、被告がテイスターに売買代金を分割弁済するのではなく、原告に立替金を分割弁済する方法を、テイスターにつき十分な信用調査などを現実に為しうるわけではない一般の購入者たる被告に事実上強要しておきながら、売主テイスターの債務不履行に対抗しうべき被告の法的手段を原告が売主ではないとして、封じようとするのであつて、いかにも正義の観念に反するというほかない。

(四) 以上を要するに、原告の主張は形式的には整合しているけれども、本件事実関係のもとにおいては、原告は被告とのクレジット契約における信義誠実の原則により、売主テイスターの債務不履行にかかわる被告の抗弁につき売主と同一負担を甘受すべきである。

ところで原告は、原被告間において抗弁権切断の特約が為された旨を主張し、前記甲第一号証中にはその旨の記載があるけれども、その契約書中における記載の要領及び被告荒谷順子の供述より、本件契約時に同被告が右特約の存することを認識していたとは認めることはできず、右主張は失当であるばかりでなく、仮りにこれを認めうるとしても、右に判断したところよりして、売主に準ずる立場にある原告が売主の責任を免れうるとの特約の効力を肯定することはできない。

(五)  右検討したところによれば、被告の売買代金債務は原告が立替払した当時存在しなかつたから、右立替払は無効であり、被告は原告に立替金支払債務を負担しないこととなる。被告の債務が存しない以上、被告荒谷好喜の保証債務も当然存在しない。被告らの抗弁には理由がある。

四、よつて原告の請求はいずれも理由がないことに帰するから、失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(杉本順市)

別表<省略>

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