京都地方裁判所 昭和56年(行ウ)17号 判決 1985年5月29日
京都府船井郡八木町大字八木小字杉ノ前二二番地一
原告
西河卯雄
訴訟代理人弁護士
高田良爾
京都府船井郡園部町小山東町溝辺二一番地二
被告
園部税務署長
菊池和夫
指定代理人検事
田中治
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一、当事者の求める裁判
一、原告
被告が、昭和五五年一月二一日付で原告に対してした、原告の昭和五一年分ないし昭和五三年分(以下本件係争年分という)の所得税更正処分(裁判によって一部取り消された後のもの・本件処分という)のうち、昭和五一年分の総所得金額一一一万一、〇一九円、昭和五二年分の総所得金額が一一二万九、〇〇七円、昭和五三年分の総所得金額が一〇五万三、五二五円を、いずれも超える部分を取り消す。
訴訟費用は、被告の負担とする。
との判決。
二、被告
主文同旨の判決。
第二、当事者の主張
一、原告の本件請求の原因事実
1 原告は、西河設備という屋号で水道等管工事を営む白色申告納税者であるが、本件係争年分の所得税の確定申告をしたところ、被告は、昭和五五年一月二一日、原告に対し、更正処分をした。そこで、原告は、異議の申立て、審査請求をしたが、その経緯と内容は、別表1の1ないし3の課税の経緯記載のとおりである。
2 しかし、本件処分は、次の理由によって違法である。
(一) 被告の部下職員は、税務調査をするについて、その理由を開示せず、違法な調査に基づいて本件処分をした。
(二) 被告は、原告の本件係争年分の所得を過大に認定した。
3 結論
原告は、被告に対し、本件処分のうち請求の趣旨第一項掲記の総所得金額を超える部分の取消しを求める。
二、被告の答弁
本件請求の原因事実中1の事実は認め、2の主張を争う。
三、被告の主張
1 被告の部下職員は、本件係争年分の所得税の調査のため原告方に赴き、本件係争年分の事業所得の金額及び不動産所得の金額の計算の基礎となるべき帳簿書類の提示を求めた。しかし、原告は、右帳簿書類を全く提示せず、事業の実態についてなんら具体的な説明を行わず、税務調査に応じなかった。
そこで、被告は、やむを得ず、原告の取引先等について調査を行い、その結果に基づき、本件処分をしたものである。
2 原告の本件係争年分の総所得金額
原告の本件係争年分の課税総所得金額の計算は、別表2に記載のとおりであるが、その詳細を以下に述べる。
(事業所得の金額)
(一) 水道工事業に係る所得金額
(1) 原告の収入金額は、<1>大手管工事業者からの下請工事及び病院・工場等の継続的な大口工事(以下これらを「下請・大口工事分」という)に係る収入金、<2>その他工事(以下「その他工事分」という)に係る収入金、<3>八木町水道管工事業組合からの利益分配金(以下単に「組合からの利益分配金」という)に区分できるところ、その区分別の収入金額の明細は、別表3記載のとおりである。
ア、「下請・大口工事分」の収入金額
「下請・大口工事分」の収入金額は、別表3の<1>のとおり公立南丹病院、南丹酪農農業協同組合、住重油圧機器株式会社、住友イートン機器株式会社、影近設備工業株式会社及び安田株式会社(以下「公立南丹病院外五社」という)との取引によるものであり、実額計算したものである。
イ、「その他工事分」の収入金額
「その他工事分」の収入金額は、別表3の<2>のとおり「その他工事分」の売上原価に、「その他工事分」の平均原価率二五・〇六パーセントを適用して推計したものであるが、右売上原価並びに平均原価率については後述する。
なお、これらの工事に係る工事現場は、不特定多数で、しかもその工事は単発的に行われる上、原処分調査時等において、原告から右工事に係る帳簿書類が提示されていないため、被告は、右各工事のすべての収入金額を確認することができなかったものである。
ウ、「組合からの利益分配金」
「組合からの利益分配金」は別表3の<3>のとおりであるが、これは、昭和五一年において八木町水道管工事業組合の組合員が、共同で行った工事について組合の得た利益金額のうち、原告に分配された金額である。
(2) 売上原価
ア、総売上原価
原告の本件係争年分の総売上原価は、別表4記載のとおりであるが、このうち、仕入先不明分の売上原価の詳細は別表5の1ないし3記載のとおりである。
イ、「下請・大口工事分」の売上原価
「下請・大口工事分」の売上原価は、原告が、公立南丹病院外五社に対し発行した請求書等に基づき算定した平均原価率三九・二一パーセントを「下請・大口工事分」の収入金額に適用して推計したものであるが、右平均原価率を算定した経緯は、以下に述べるとおりである。
(ア) 公立南丹病院外五社からの本件係争年分の全合計収入金額は、二、〇三四万二、四五八円であるが、このうち原告が発行した請求書等によって、収入(請求)金額の明細内訳(工賃・原材料費等の区分)が具体的に判明するものは、別表6の1ないし11に示したとおり九九二万八、七五四円だけである。
(イ) 右九九二万八、七五四円の工事代金に対応する総原材料費は、右各表に示した「原材料費」、「消耗品」及び「経費及び消耗品」のうちの消耗品の合計金額五九七万一、五一九円であり、その算出過程は次のとおりである。
(算式)
(原材料費) (消耗品) (経費及び消耗品) (左のうち消耗品の割合)
五、八五六、五八八円+三二、九七六円+二一二、二六二円×〇・三八六一=五、九七一、五一九円
(注) 別表6の1ないし11に示した「経費及び消耗品」は、原告が発行した請求書等に経費と消耗品が合算して記載されているものについてはその区分が明確でないため、経費と消耗品が区分して請求されている請求書に基づき、「経費」と「消耗品」の合計額に対する消耗品の割合三八・六一パーセントを次表のとおり算定し、この割合を適用して「経費及び消耗品」のうち消耗品の金額を推計したものである。
現場名 請求年月日 経費 消耗品 合計
南丹酪農 五一年一二月切 八、二一八円 三、五〇〇円 一万一、七一八円
右同 五二年 三月切 五三〇円 二、〇〇〇円 二、五三〇円
合計 八、七四八円 五、五〇〇円 一万四、二四八円
五、五〇〇円÷一四、二四八=〇・三八六一
(ウ) 右のとおり、原告は、請求書の記載内容からは九九二万八、七四五円工事代金に対して五九七万一、五一九円の原材料を使用したとして、施主等に請求しているのであるが、この原材料の請求金額と原告の実際の原材料の仕入金額を対比してみると、別表7の1ないし5に示したとおり、平均三四・八一パーセントの差益が発生していることが判明した。
なお、右各表に示した実例は、原告の各仕入先の売掛金元帳と原告が施主等に対し発行した請求書を対応させ、各仕入先が原材料を配送した現場と原告の工事現場が一致するもののうちから、<1>配送年月日と工事年月日がほぼ一致するもので、<2>品名及びサイズが一致するものをすべて抽出したものである。
(エ) そして、九九二万八、七五四円の工事代金に対応する右差益を除外したところの原材料の仕入金額は、次の算式のとおり、三八九万二、八三四円となり、その結果「下請・大口工事分」の平均原価率は、三九・二一パーセントとなる。
(算式)
……収入(請求)金額の明細内訳が具体的に判明するもの 九、九二八、七五四円
……に対する原材料で施主等への請求金額 五、九七一、五一九円
(原材料費) (消耗品) (経費及び消耗品) (消耗品の割合)
五、八五六、五八八円+三二、九七六円+二一二、二六二×〇・三八六一=五、九七一、五一九円
() (平均差益率)
五、九七一、五一九円×(一-〇・三四八一)=三、八九二、八三四円
(
三、八九二、八三四円÷九、九二八、七五四円=〇・三九二一
ウ、「その他工事分」の売上原価
(ア) 「その他工事分」の収入金額推計の基となった「その他工事分」の原価率二五・〇六パーセントの算出については、原告が八木町から発注をうけた水道管引込み、敷設・修理工事等(以下「八木町発注工事」という)については、八木町水道課が原告に対し支払った工事代金のうち請求金額の内訳が具体的に判明したものがあったので、その内訳が判明した工事代金を基に、次の算式により平均的な原価率を算出したものである。
(算式)
……八木町発注工事の内、収入金額の内訳が具体的に判明する工事代金 六五七、五五〇円(別表8参照)
……に対応する原材料の請求金額 二五二、七六五円(別表8参照)
() (別表7の1ないし5の平均差益率) (原材料の仕入金額)
二五二、七六五円×(一-〇・三四八一)=一六四、七七八円
(原材料の仕入金額) () (「その他工事分」の原価率)
一六四、七七八円÷六五七、五五〇円=〇・二五〇六
(イ) 本件係争年分の「その他工事分」の売上原価は、総売上原価(別表4)から「下請・大口工事分」の売上原価を差し引いて算定したものである(別表12の<7>のとおり)。
(3) 一般経費
被告は、原告が、原処分調査時において、調査担当者に帳簿書類を提示しなかったため、本件係争年分の一般経費については、同業者の平均的な一般経費率を適用して推計したが、その比率の算出経過は別表9のとおりであり、同比率を適用して算出した原告の本件係争年分の一般経費は次のとおりである(別表12の<8>参照)
(算式)
(総収入金額) (同業者率) (一般経費)
昭和五一年分……一九、八四四、二一九円×〇・一四五四=二、八八五、三五〇円
(同右) (同右) (同右)
昭和五二年分……二〇、〇四三、六五七円×〇・一五三三=三、〇七二、六九三円
(同右) (同右) (同右)
昭和五三年分……二二、〇七六、八二八円×〇・一六三八=三、六一六、一八五円
右同業者を選定した経緯及びその推計の合理性については以下のとおりである。
原告は、肩書地で水道等管工事業を営む者であるが、原告の事業内容について被告が確認したことは、<1>水道管の配管工事を主とし、他にガス管の配管工事等を行うこと、<2>その工事現場は、八木町及びその近隣の市町村に限られていること、<3>本件係争年分の原材料の各仕入金額が四六〇万円から六〇〇万円程度であること等である。
そこで、被告は、原告の事業内容を基準に、原告の所轄税務署(園部税務署)、並びにこれに隣接する京都府下の福知山、上京、右京、左京の各税務署管内の同業者の中から、本件係争年分について次の<1>ないし<6>のすべての基準に該当する者を選定した。
<1> 水道等管工事業を営んでいる個人であること
<2> 青色申告書を提出していること
<3> 年間を通じて継続して事業を営んでいること
<4> 他の業種と業兼していないこと
<5> 不服申立て中又は訴訟係属中でないこと
<6> 工事収入金額に対応する原材料費が二〇〇万円から一、〇〇〇万円までの範囲であること(被告が原告の売上原価すなわち原材料費を主帳するに当たり、確認し得た原告の原材料費は、昭和五一年分五六三万二、六四九円、昭和五二年分四六六万四、九四五円、昭和五三年分六〇八万四、〇七九円であったため、事業規模の類似性を担保する意味から、原材費が右各金額の最低額の約五〇パーセントである二〇〇万円から最高額の約一五〇パーセントである一、〇〇〇万円までの範囲内にある同業者に限定)
右により選定された同業者は、その選定基準が原告の事業内容に基づき設定されたものであることより、結果として、原告の事業内容と比較して業種・業態及び事業規模が類似している者である。
右により選定した同業者は、昭和五一年分が一四件、昭和五二年分が一七件、昭和五三年分が一八件であった(別表8参照)。その抽出は、大阪国税局長の園部・福知山・上京・右京・左京の各税務署長に対する通達指示により行われたものであって、抽出に当たっての恣意の介入はないし、選定された同業者の一般経費率は、各同業者が所轄税務署長に提出した青色申告決算書に記載されている金額(ただし、所得税調査が行われた者については調査の結果得られた金額)によって算定されたものであり、その算定根拠となる資料はすべて正確なものである。
したがって、被告が右同業者の平均的な一般経費率を用いて原告の本件係争年分の一般経費を推計したことは、<1>抽出した同業者が原告と比較して業種・業態・事業規模が類似していること、<2>同業者の選出に恣意がないこと、<3>同業者の一般経費率の算定根拠となる資料が正確なこと、以上のことから合理的なものである。
(4) 雇人費
本件係争年分中原告方で働いていた従業員は、訴外広瀬六三郎一人である。
被告は、本件係争年分での広瀬六三郎に関する諸税を調査したところ、<1>原告は、所得税を源泉徴収していないこと、<2>広瀬六三郎は、所得税の確定申告書を所轄税務署長に提出していないこと、<3>広瀬六三郎は、昭和五二年分の町民税(所得税は昭和五一年分)に係る申告書を八木町長に提出していないこと、<4>広瀬六三郎の長男訴外広瀬久和は、昭和五三年分及び昭和五四年分の町民税(所得税は昭和五二年分及び昭和五三年分)について、広瀬六三郎を扶養親族として申告していること、以上のことを確認した。
そうすると、原告が広瀬六三郎に対し、所得税等諸税が賦課される金額以上の給与を支払ったとは認められないため、被告は、原告の本件係争年分の雇人費として次の計算をした。
(算式)
(昭和五一年分)
(給与所得控除) (基礎控除) (所得税が課税されない給与の最高額)
五〇〇、〇〇〇円+二六〇、〇〇〇円=七六〇、〇〇〇円
(昭和五二年分及び昭和五三年分)
(給与所得控除) (基礎控除) (所得税が課税されない給与の最高額)
五〇〇、〇〇〇円+二九〇、〇〇〇円=七九〇、〇〇〇円
なお、町民税が課税されない給与の最高額及び扶養親族として認定される給与の最高額は、いずれも右所得税が課税されない給与の最高額を下回るが、被告は、原告有利に所得税が課税されない給与の最高額によって原告の本件係争年分の雇人費を算定した。
(5) 外注費
原告の本件係争年分の外注費は、別表10記載のとおり原告が施主等に対して発行した請求書等に基づき算定したものであるが、被告は、このうち、古林隆夫に対する外注費のみ推計した。
原告は、昭和五一年中に影近設備工業株式会社から亀岡第六保育園の工事を下請しているところ、右工事を行うに当たり、古林隆夫の応援を同年二月上旬から五月上旬までの約三か月間受けている。
右古林隆夫の応援は、労務の提供に当たるため、被告は、これを人件費の支払いと同視し、同業者の雇人一人当たりの平均的な年間給与支給額に基づき、次のとおり古林隆夫に対する外注費を四二万二、一四二円と推計した。
(算式)
右推計に用いた同業者は、一般経費を推計するに当たり用いた同業者と同じであり、同業者の雇人一人当たりの平均的な年間給与支給額の明細は、別表11のとおりである。
(6) 所得金額
右水道工事業に係る本件係争年分の所得金額は、「下請・大口工事分」の収入金額、「その他工事分」の収入金額及び「組合からの分配金」の合計額から、「下請・大口工事分」の売上原価、「その他工事分」の売上原価、一般経費、雇人費及び外注費の合計額を差し引いた金額で、昭和五一年分は九六四万四、一七八円、昭和五二年分は一、〇九二万四、五八二円、昭和五三年分は一、一三三万五、〇三八円である(別表12の<11>)。
(二) 農業に係る所得金額
原告の本件係争年分の農業に係る所得金額は、別表2の<8>記載のとおりである。
(不動産所得の金額)
原告の本件係争年分の不動産所得の金額は、いずれも原告の本件係争年分の所得税の確定申告書に記載された金額である(別表2の<10>)。
(所得控除額)
原告の本件係争年分の所得控除額については、昭和五一年分の社会保険料控除を除いては、すべて原告の本件係争年分の所得税の確定申告書に記載された金額である。
原告は、昭和五一年分の社会保険料控除を、右確定申告書に一三万三、八四〇円と記載しているが、正しくは、国民健康保険料一〇万〇、四二〇円、国民年金料三万三、六〇〇円の合計一三万四、〇二〇円である(別表2の<12>)。
(まとめ)
原告の本件係争年分の課税総所得金額は、本件処分のそれを上廻ることは明白である。
年分 被告主張額(円) 本件処分の額(円)
昭和五一 八八六万九、八〇六 五〇二万一、〇〇〇
昭和五二 九四〇万六、四二八 三七二万八、〇〇〇
昭和五三 一、〇七一万九、二四四 四七八万二、〇〇〇
3 結論
被告のした本件処分には、原告主張の手続的瑕疵はないし、原告の本件係争年分の総所得金額を過大に認定した違法はない。
四、被告の主張に対する原告の反論
1 被告主張の総所得金額の計算中、次の金額は認める。
別表2の<8>、<10>、<18>の各金額
別表3の<1>、<3>の各金額
別表10の各金額、但し古林隆夫分をのぞく。
2 被告主張の一般経費率、原価率を争う。
3 原告の本件係争年分の「その他の工事分」の収入金額は、次のとおりである(別表13の1ないし3)。
年分 金額 (円)
昭和五一 六一五万八、〇〇〇
昭和五二 六七六万九、一〇九
昭和五三 八四七万二、八八一
4 被告は、原告の本件係争年分の「その他の工事分」の原価率を、二五・〇六パーセントと算出する際、別表8の「経費」欄記載の金額を加算して算出しなければならない。この経費は、パイプを接続するための接着剤が主であるから、原材料に入るのである。
5 別表2の<5>の雇人費には、更に同業者の平均人件費率を適用されるべきである。
五、被告の反駁
別表8記載の金額は、八木町長の回答による金額であるから正確である。
仮に、原告主張の接着剤のような消耗品が、経費の中に含まれているとしても、その割合は、「下請・大口工事分」の原材料費率を計算するに当たって算定した消耗品の割合が、原材料に対し、わずか約一・四パーセントと推測され、被告主張の原告の所得金額にはほとんど影響を与えないものである。
第三、証拠関係
本件記録中の証拠関係目録記載のとおり。
理由
一、本件請求の原因事実中1の事実は、当事者間に争いがない。
二、本件に顕われた証拠を仔細に検討しても、被告の部下職員がした本件税務調査に、原告主張の手続的瑕疵のあることが認められる証拠はない。したがって、原告のこの主張は、採用しない。
三、原告の本件係争年分の課税総所得金額について
1 原告の本件係争年分の総所得金額のうち、別表2の<8>の農業所得の金額、<10>の不動産所得の金額は当事者間に争いがないし、別表2の<18>の所得控除の合計金額も、当事者間に争いがない。
2 そこで、争いのある原告の水道工事業に係る事業所得金額について判断する。
(一) 原告の本件係争年分の水道工事業に係る事業所得金額のうち、別表3の<1>の「下請・大口工事分」の金額及び<3>の利益分配金の金額は、当事者間に争いがない。
(二) したがって、争点は、別表3の<2>の「その他の工事分」の収入金額及び別表2の<2>、<4>、<5>、<6>に絞られる。
(三) ところで、被告は、原告の本件係争年分の水道工事業に係る所得金額として、別表12の各金額を主張しているので検討する。
(1) 別表4、別表5の1ないし3の各金額は、証人後藤洋次郎の証言によって成立が認められる乙第五号証、同第九号証、同第一三号証、同第一九、二〇号証、同第二三号証、同第二八号証、同第三〇ないし第三七号証や同証言及び弁論の全趣旨によって認めることができ、この認定に反する証拠はない。
なお、別表5の1ないし3に適用された差益率三四・八一パーセントは、別表7の1ないし5に基づくものであり、別表7の1ないし5の証拠は、同表の証拠欄に掲記された乙号各証である。
そして、この別表4の売上原価が、別表2の<2>、別表12の<5>の売上原価計上される。
このうち別表12の<6>の「下請・大口工事分」の売上原価は、<2>の「下請・大口工事分」の収入金額(別表3の<1>の当事者間に争いのない金額)に、〇・三九二一の原価率を乗じて得られた額である。
この原価率は、別表6の1ないし11によるが、同表の証拠は、別表6の1ないし3の証拠欄掲記の証拠による(書証の成立は、証人後藤洋次郎の証言による)。
(2) 別表12の<2>の「その他の工事分」の収入金額は、<7>の「その他の工事分」の売上原価を原価率〇・二五〇六で除したものである。
この売上原価率は、別表8、別表7の1ないし5の差益率をもとにして被告主張の方法によって算出されたものである。そして別表8は、証人後藤洋次郎の証言によって成立が認められる乙第二九号証の一ないし四による。
原告は、「その他の工事分」の金額を、別表13の1ないし3記載のとおり少ない額を主張しているが、その裏付けとなる証拠を提出しないから、原告主張の額をとりえない。原告が証拠として提出している甲第一ないし第二二号証は、原告が取引先に出した請求書の写にすぎず、これらが、全取引の請求書であるかどうかが判らないし、内容的にも、乱雑である(年が違ったり、月が違ったものが混在している)。そして、これら請求書だけによっては、実際の収入金額が判らないとしなければならない。
なお、原告の提出した別表13の1ないし3に添付された明細を証明するため、売掛金、日計表などの帳簿を提出しないから、この明細が、何によって作成されたかが判らないのである。
原告は、原価率(〇・二五〇六)を計算する際、別表8の「経費」欄の金額を加算すべきことを主張している。
そして、原告は、その本人尋問で、この経費に接着剤など消耗品が入っていると供述している。しかし、この経費が、全部消耗品であるのかどうかは判らないし、別表8は、八木町長が作成した乙第二九号証の一ないし四によって作成されたものであるから、正確であり、原告のこの主張は、採用しない。
(三) 別表12の<1>の総収入金額の計算は、<2>、<3>、<4>の各金額の合計金額である。
(四) 別表<12>の<8>の一般経費
証人後藤洋次郎の証言によって成立が認められる乙第三九ないし第四七号証や同証言によると、被告主張の条件によって、同業者を選出しそれを整理したものが、別表9であることが認められる。
そして、この同業者の選出には、合理性があるから、別表9の同業者率によって、一般経費を算出すると、別表12の<8>記載のとおりになることは、計算上明らかである。
(五) 別表12の<9>の雇人費
原告の本件係争年分の雇人が、広瀬六三郎一人であったことを、原告が明らかに争わないから、自白したものとみなす。
原告は、雇人費の実額を主張しないから、被告の主張額を正当と認める。なお、原告は、同業者の平均人件費率をも考慮すべきであると主張しているが、この主張は、独自の主張であって採用しない。
(六) 外注費
別表10の外注費は、古林隆夫の分をのぞき当事者間に争いがない。
そして、原告は、古林隆夫の分を単に否認するにすぎないから、被告主張の額を認める。そうすることが、原告に有利になるわけであるから、原告としては、古林隆夫の分がより多額であるのなら、そのことを、主張して証明すれば足りる。しかし、原告は、そうしないのである。
(七) まとめ
以上の次第で、別表12の計算は、正当であり、原告の本件係争年分の水道工事業に係る事業所得金額は、次のとおりになる(別表2の<7>)。
年分
昭和五一 九六四万四、一七八
昭和五二 一、〇二九万四、五八二
昭和五三 一、一三三万五、〇三八
3 原告の本件係争年分のその他の所得と所得控除額について争いがないから、原告の本件係争年分の課税総所得金額は、被告主張の額になり、これが、本件処分のそれを上廻ることは、いうまでもない。
年分 裁判所の認定額(円) 本件処分の額(円)
昭和五一 八八六万九、八〇六 五〇二万一、〇〇〇
昭和五二 九四〇万六、四二八 三七二万八、〇〇〇
昭和五三 一、〇七一万九、二四四 四七八万二、〇〇〇
四、むすび
被告のした本件処分には、原告主張の手続的違法はないし、原告の総所得金額を過大に認定した違法はないから、原告の本件請求は、失当として棄却を免れない。そこで、行訴法七条、民訴法八九条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判長判事 古嵜慶長 判事補 長久保尚善 判事小田耕治は、転補のため署名押印することができない。判事 古嵜慶長)
別表1の1
課税の経緯 昭和51年分
<省略>
別表1の2
課税の経緯 昭和52年分
<省略>
別表1の3
課税の経緯 昭和53年分
<省略>
別表2
課税総所得金額
<省略>
別表3
収入金額
<省略>
別表4
総売上原価
<省略>
別表5の1
仕入先が判明しない売上原価
<省略>
別表5の2
<省略>
別表5の3
<省略>
別表6の1
原告が施主等に発行した請求書等のうち、取引金額の内容が具体的に判明するもの(下請・大口工事分)
<省略>
別表6の2
<省略>
別表6の3
<省略>
別表6の4
<省略>
別表6の5
<省略>
別表6の6
<省略>
別表6の7
<省略>
別表6の8
<省略>
別表6の9
<省略>
別表6の10
<省略>
別表6の11
<省略>
別表7の1
原材料の平均差益率
<省略>
(注)「φ」印は、管の直径を示し、単位はmmである。(以下同じ)。
「仕入(乙第28号証)」欄に記載した「018」等の番号は、乙第28号証の「売掛金元帳」の左横に付されている番号を示す。
別表7の2
<省略>
別表7の3
<省略>
別表7の4
<省略>
別表7の5
<省略>
別表8
八木町発注工事のうち収入(請求)金額の内容が具体的に判明するもの(その他工事分)
<省略>
別表9
同業者の一般経費率
<省略>
別表10
外注費
<省略>
別表11
同業者の雇人1人当りの平均的な年間給与支給額
<省略>
別表12
水道工事業に係る所得金額
<省略>
No.1
昭和51年 6,158,000.-
<省略>
No.1
昭和52年 6,769,109.-
<省略>
No.1
昭和53年 8,472,881.-
<省略>
別表13の1
昭和51年分
<省略>
別表13の2
昭和52年分
<省略>
別表13の3
昭和53年分
<省略>