大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和57年(ワ)2116号 判決 1986年7月04日

原告

藤森卓

右訴訟代理人弁護士

小山千蔭

出口治男

坂和優

中島俊則

小野誠之

崎間昌一郎

被告

学校法人立命館

右代表者理事

天野和夫

右訴訟代理人弁護士

北川敏夫

植松繁一

高木茂太市

山下潔

上羽光男

浜田次雄

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、被告の経営する立命館大学産業社会学部への再入学許可の意思表示をせよ。

2  被告は、原告に対し、一〇〇万円及びこれに対する昭和五六年四月二一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  第2項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

原告の請求の趣旨第一項を却下する。

2  本案の答弁

(一) 原告の請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一請求原因

(主位的請求原因)

1 原告は、昭和五二年四月に被告の設置する立命館大学産業社会学部の学生となつたところ、昭和五四年度分の学費の一部をその納入期日までに納めることができなかつたため、立命館大学学費納付規程(以下「学費規程」という。)第九条に基づき、昭和五五年三月三一日、被告により除籍されたものの、三ケ月以内に退学届を出さなかつた。

2 ところで、立命館大学休学、復学および退学、再入学に関する規程(以下「再入学規程」という。)第一〇条は、「退学した者が、保証人連署をもつて再入学を願い出たときは、学部長はこれを許可することがある。」と規定し、学費未納除籍者で除籍後三ケ月以内に退学届を出さなかつた者の再入学についても、同条の類推・準用により同様の取り扱いがなされている。そこで、原告が、昭和五六年三月二日、同条の定めるところに従つて再入学許可の申請手続をなしたところ、被告は、同年四月二一日、原告の再入学申請を不許可とする旨告知した。更にその後、原告は、同年九月九日及び昭和五七年三月二四日にも同様の再入学申請をなしたが、被告はこれをいずれも不許可とした。

3(一) しかしながら、学費未納除籍者の再入学について、再入学規程第一〇条が類推されるとしても、自らの意思に基づく退学と学費未納という経済的要因による除籍とでは除籍原因に大きな違いがあるから、学費未納除籍者の再入学の要件・基準については、裁量的表現となつている右規定第一〇条が全く同一に適用されるべきいわれはなく、教育条理的解釈及び立命館大学における慣行的解釈によつて判断されるべきであり、それらの解釈によれば、次のとおり、学費未納除籍者は除籍原因の回復、即ち、学業継続意思と経済事情の好転さえあれば、当然に再入学を求める権利を有すると解すべきである。

(1) 教育条理的解釈

憲法二六条一項及び教育基本法三条一項は、教育を受ける権利の保障、特に経済的理由による教育を受ける権利の差別禁止を謳つているから、学費未納の故に除籍された者の再入学を求める権利は、他の原因により籍を失つた者以上に強く保障されるべきである。そして立命館大学においては、学費未納により除籍された後三ケ月以内に滞納学費を添えて復籍を願い出れば、除籍原因の解消として当然に復籍するとの取り扱いがなされているところ(立命館大学教務事務取扱規則一六条)、同じ学費未納除籍者であつて、右の復籍と再入学では、既に入学を許可された後に籍を失つたもので、除籍の原因が学費未納であること、許可された後は、入学の場合のように一回生から始める必要はなく、元の回生に戻り、既取得単位を引き継ぐことにおいて同一であり、他方、入学とは右のいずれの点においても全く異なるものであるから、学費未納除籍者の再入学に関する許可基準も、復籍の場合と同様、「除籍時の就学を阻む条件が一定の解決をしているか否か。」、つまり除籍原因の解消(学業継続意思と経済事情の好転)の有無によるべきである。もつとも、大学紛争を契機に、右要件を具備した除籍者であつても、補導的観点からみて望ましくない行為を行つた学生につき、教育裁量権を行使して再入学を不許可とすることの当否が問題となつてきた。しかし、元来、教務的事項と補導的事項とは学則上も性質上も異質であつて、両事項は区別して取扱うべきものであるから、例えば過去に明白な暴力行為を振つたことが明らかで、その故に補導的側面から制裁の必要な者が、処分未了のまま除籍になつて再入学を求めてきた場合を想定すると、結局のところ退学処分に付される場合を別として、教務的な側面の除籍原因の解消さえあれば再入学を許可し、その上で懲戒処分すべきであり、補導的観点から教育裁量権を行使して再入学を不許可とすることは許されない。もつとも再入学の場合には、除籍の場合と異なり、学部長・学部主事・補導主事(現在の学生主事)の学部三役のうち補導主事が中心となつて補導委員が面接をし、学部三役が再入学相当者を決めるという手続を要するが、前記のように復籍の場合には除籍となつて三ケ月以内という短い期間であるため、滞納学費を納める行為がとりもなおさず除籍原因の解消を意味することになるのに対し、再入学の場合に右のとおり手続が加重されているのは、二年未満であるにしても、三ケ月以上の期間が経過しているため、除籍原因が解消したか否かの判断が面接によらなければ困難であることによるものにすぎず、復籍の場合と異質の許可条件を意味するものではない。このようにみて来ると、学費未納除籍者で、除籍原因の解消により再入学を請求する者に対しては、特段の事情なき限りこれを許可すべき義務があるというべきである。

(2) 立命館大学における慣行的解釈

通常の学費未納除籍者の再入学許可は、現実の運用実態からみても、本件に至るまで「除籍時の就学を阻む条件が一定の解決をしているかどうか」、即ち、面接で学費不払の原因とその解消の確認をするだけで当然に認められてきたのであり、本件以前に、学費未納除籍者の再入学が不許可となつた事例は、大学紛争にからむ「暴力行為、大学破壊に関与した者」を除き一例もなく、通常の学費未納除籍者であれば例外なく許可されている。しかも、右「暴力行為、大学破壊に関与した者」に対する再入学不許可の運用基準は、学則上の根拠のない補導主事会議の申合せによるもので、全学部の教授会の承認を受けていないから、学則の解釈基準として規範的基準たりえないものである。結局、立命館大学においては大学紛争の前後を問わず「除籍時の就学を阻む条件が一定の解決をしたか否か」が唯一の規範的な意味を有する解釈基準となるのである。これによれば、除籍原因の解消さえあれば、特段の事情なき限り、再入学の権利を取得することに疑義はない。

(二) そうだとすれば、原告は、昭和五五年九月頃から京都バスの交通整理員のアルバイトの職を得、時間的にも経済的にも余裕ができたために、立命館大学における勉学の意義をとらえ直そうと考え、再入学申請するに至つたものであり、除籍原因の解消(学業継続意思と経済事情の好転)の要件を充足している。したがつて、原告は被告に対し、第一回再入学申請時に再入学許可の意思表示を求める権利を取得した。

4 仮りに再入学の許否が裁量にかかるものであるとしても、本件三回の不許可はいずれも、原告が昭和五五年六月六日に暴力行為を振つたことを前提に、補導主事会議の申合せを再入学許否の基準として適用し、原告が暴力否定のルールを明確に承認しないとの理由でなされたものであり、次のとおり裁量権踰越の違法がある。

(一) 本件不許可理由の不当性と裁量権踰越

(1) 暴力行為についての事実誤認

補導主事会議の申合せは、大学破壊や暴力行為に参加したことが明白な者であつて、かつ、暴力否定のルールを明確に承認しない者を基準の内容とするところ、原告は一切暴力行為を行つていないし、少なくとも明白な暴力行為は行つていないから、右基準が適用されるべきいわれはない。ところで原告は、当日学友会系の学生から両腕を別々に掴まれるなどして行動を制圧された際に、掴まえられている両腕を振りほどこうとして手を後方に振り払つたことがあるだけである。この際に原告の左手が束縛者の手を離れて左前方から左後方に半円をえがき、左斜め前方にいた人間に偶然かすつた可能性はあるものの、如何なる意味でも殴つたことはない。

(2) 原告が暴力否定のルールを明確に承認しないとの判断の不当性

被告は、原告が昭和五六年四月七日に、ヘルメットを肯定する内容のビラを蒔いている者と約一〇分間立話で雑談をしたところ、そのことが彼等との「共同行動」であり、暴力否定のルールを明確に承認していないことになると判断したが、右判断には次のとおりの違法がある。

(イ) 補導主事会議の申合せにおいて、明白に暴力行為があつたと判断される者に要求される暴力否定のルールの明確な承認は、当該暴力行為についての反省と誓約があれば十分とすべきであつて、「学内、学外の者を問わず、ヘルメット、角材、鉄パイプなどを所持しての構内立入、集会、デモ等は一切認めない。」等を内容とした学園振興懇談会の「学園から暴力をなくすための確認」(以下「学振懇確認」という。)の承認・積極的擁護の約束まで含むと解すべきではないから、ヘルメット着用に関して原告がいかなる見解をとろうが、それは補導主事会議の申合せにいう暴力否定のルールの明確な承認に牴触することとはならない筈である。

(ロ) 仮にヘルメットの着用を肯定する見解が、補導主事会議の申合せにいう暴力否定のルールの明確な承認に牴触するとしても、ヘルメットを肯定する内容のビラを蒔いている人と雑談したからといつて、直ちにヘルメット着用は自由だとの思想表明をしたことにはならない。まして本件では原告は友人の蒔くビラの内容を全く知らなかつたのであるから、右のような思想を表明したことになる筈がない。また、右にいう暴力否定のルールの明確な承認とは、他人がヘルメットを冠つた場合にこれを積極的に指弾することを趣旨とするもので、他人がヘルメットを肯定する内容のビラを蒔くのを止めさせることまで含むものではないから、原告には暴力否定のルールの明確な承認に何ら牴触するところがない。

(ハ) 仮に被告が、ヘルメットを肯定するビラを蒔くような人間と口をきいたことを以つて、暴力否定のルールの明確な承認に牴触すると判断したのであれば、それは、自己の行為ではなくて、悪い行為をやつた他人との付合いによつて責任を負うものといえ(付合いによる有罪の論理)、憲法一三条及び教育基本法に定める個人主義原理に違反する非合理的かつ違法なものである。

(3) 非違行為と処分との合理的均衡の欠如

本件再入学不許可決定は、昭和五五年六月六日の暴力事件といわれる件についての処分手続を引き継ぎ、暴力問題についての反省を強要し、最終的にそれがないことを理由に籍の回復ができないとの不利益を与えたものであるから、実質的にみて退学という懲戒処分権の行使があつたものといえるところ、右実質的処分の対象となつた行為は、仮に被告主張のとおりのものであつたとしても、戒告ないし警告程度のものであるから、非違行為と処分との間の合理的均衡を失し、裁量権踰越であることは明らかである。

(二) 手続の不当性と裁量権踰越

(1) 補導主事会議の申合せは、①暴力行為を明白に振つたか否かという事実認定手続を踏まえ、②暴力行為についての反省と将来の誓約の有無を確認して許否を決めるという審査手続を予定しているところ、被告は、本件の三回にわたる不許可決定手続のいずれにおいても、原告の暴力行為の存否について最初から有罪認定をなし、充分な再調査・弁明の機会の付与をなすことなく、暴力行為認定手続を省略して指導面接に入つたものであり、自ら定めた手続によらなかつた違法がある。

(2) 被告は、指導面接に際して、原告に対し、補導主事会議の申合せの基準を越えて、被告の考える恣意的な「体制」(学則等の規範的性格を全く有しない関係者間の内部的確認にすぎない学振懇確認に基づき、それを更に恣意的に拡大解釈して、ヘルメット着用を肯定する内容のビラを蒔くことを禁じ、他人がこの趣旨のビラを蒔いている時には指弾しなければならない積極的義務があるとするもの。)に忠誠を誓うことを求めるとともに、そのためには原告の思想改変と他人の行動に対する指弾約束まで必要であるとの態度で臨んだものであり、「教育機関にふさわしい手続と方法」でないことは明らかであり、違法である。

したがつて、原告は被告に対し、第一回再入学許可申請時に再入学許可の意思表示を求める権利を取得した。仮に原告が被告に対し、第一回再入学申請につき許可の要件がなかつたとしても、第二回再入学許可申請時に、また、第一、第二回再入学許可申請につき許可の要件がなかつたとしても、第三回再入学許可申請時に、いずれにしても再入学許可の意思表示を求める権利を取得した。

5 しかるに被告は、三回にわたり再入学不許可決定をなし、原告に多大な精神的苦痛を与えた。右精神的苦痛による損害は一〇〇万円を下らない。

(予備的請求原因)

1 主位的請求原因1、2に同じ。

2 仮に被告の再入学不許可決定が違法でないとしても、原告に暴力行為がなく、また、第三者がヘルメット着用に及んだ場合にこれを阻止しなければならない指弾義務の根拠は何らないのに、被告は、暴力行為及び右指弾義務を認めなければ、再入学を不許可とする旨の不利益を暗に示唆して、原告に対して二回にわたつて義務なき反省文の作成提出、延いては思想的改変や行動面での改変を強要し、そのため原告に多大の精神的苦痛を与えた。右精神的苦痛による損害は一〇〇万円を下らない。

二  被告の本案前の主張

再入学を許可するか否かは、教授会において当該出願者が再び立命館大学における教育の対象者としての適格を有するか否かを審議し、決定するものであり、その審議、決定は教育上の見地からする教授会の教育的裁量に属する事項であるから裁判所の司法審査に適さない。

三  被告の本案前の主張に対する原告の答弁

再入学の許否の判断は「学生が一般市民として有する公の施設を利用する権利」に関わるから、単に大学の内部的な問題に留まらず司法審査の対象となることはいうまでもない。

四  請求原因に対する認否

(主位的請求原因)

1 請求原因1、2の事実は認める。

2 同3ないし5の事実は否認する。

(予備的請求原因)

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2の事実は否認する。

五  被告の主張

1  再入学の許否の裁量性

再入学申請に対する許可は、次のとおり、義務的なものでなく、裁量的なものである。

(一) 再入学についての立命館大学の規定

再入学について立命館大学においては、「退学した者が、保証人連署をもつて再入学を願い出たときは、学部長はこれを許可することがある。」と裁量的表現で規定されているところ、昭和二六年六月二三日の大学協議会の決定、昭和二七年四月一日施行の「立命館大学教学事務取扱規則」及び産業社会学部「学習要領」によれば、再入学は、退学した者、学費未納で除籍された者を問わず、右規定のとおり裁量的であることは明らかである。

(二) 教育条理的解釈について―学費未納除籍者の復籍と再入学の差異

学費未納で除籍された者が、再度、立命館大学の学籍を回復する場合には、復籍と再入学との二つの制度があるが、復籍と再入学とはもともと実質的に異なつた制度である。復籍は、勉学意欲を有しながら、経済的理由で期日までに学費を納入できない場合や、あるいは単に納入期日を忘れて学費納入が遅れて除籍された場合等いわば学費納入の遅れにより一律に除籍された者を救済するものであり、したがつて、規定上からも取扱い(慣行)からも、復籍許可は義務的なものとなつている。これに対して、再入学は、本来ならば再入学試験を受験すべきところ、立命館大学にかつて在籍していた者であることから、在学中の学習状況、学籍を失うに至つた理由、その後の経過、再入学後の学習計画その他を総合的に判断し、あらためて立命館大学の学生として教育を受けるのに相応しいかどうか決定するものであるが、学費未納除籍を経て完全除籍がなされる学生には、経済的理由のみでなく、(イ)学習意欲を失い、これが学費未納に連なる場合、(ロ)大学側の指導的措置を免れるため、一旦除籍されて大学から離れる場合、(ハ)他大学受験を志すため除籍する場合等さまざまな理由があることが多く、単なる経済的理由のみで除籍され、完全に学籍を失つた後に再入学をするというプロセスはむしろ少ないのであるから、形式が学費未納で除籍された場合だからといつて、学業継続意思と経済的事情の好転があれば当然に再入学が認められるというものではない。そして、再入学は、右のとおり既に学籍を失つている者に対して新たな再「入学」を許可するものであり、その可否の裁量は、学籍を有している者に対する懲戒処分(補導的観点からの教育裁量権の行使)とは明らかに異なるから、裁量権が否定されるべきいわれはない。

(三) 立命館大学における再入学制度の慣行

(1) 大学紛争以前の立命館大学における再入学の取り扱いは各学部で必ずしも一致したものではなく、再入学の面接審査に際して、本人の除籍ないし退学の事情ばかりでなく、今後の勉学意欲の有無、その他の判断も総合して、教学の対象としての適格を有するかどうかを考慮してその許否を決するという方針をとる学部もあれば、他方、単に除籍あるいは退学時の就学を阻む問題が解決したかどうかを確認し許否を決する学部もあり、各学部が独自に判断していたが、昭和四四年以降の「大学紛争」において暴力や破壊行動を行なつて、自ら学園を去りあるいは学費未納のまま除籍された者が、昭和四五年以降、再入学申請する動きが生じたため、再入学制度の基本的なあり方について大学としての統一的なルールを確立することが必要となつた。

(2) 昭和四五年度の討議を通じて全学的に了解された再入学制度運用の基本方針は次のとおりであり、

(イ) 再入学は、一旦学生たる身分を完全に喪失した者が、再び、新たに学生として入学する制度であり、復籍とは異なつたものであること。したがつて、再入学を願い出る資格の有無と、再入学の可否とは別問題であり、再入学願出者が自動的に許可されるものではないこと。

(ロ) 再入学の許否の判断においては、本人が学籍を失うに至つた諸事情、勉学意欲の有無、その他教学の対象たるに相応しい資格を有するかどうかの判断を加えること。

本人が嘗て在学していた時の勉学態度・言動等も、右の観点から判断の対象とされるべきこと。

(ハ) 学生に対する懲戒処分と、再入学許否の判断とは異なつたものであるから、判断の基準は同一でないこと、即ち、学生に対する懲戒処分は、本人が学生たる身分を有していることを考慮する必要があるが、制裁としての処分ではない再入学の場合は、本人が大学において勉学を続けるにふさわしい適格性の有無の総合的判断であるから、教授会の自由な判断の余地も広いものであること。

右基本方針を前提とした上で、昭和四七年四月四日の補導主事会議において、大学破壊や暴力行為に参加したことが明白である者及び暴力否定のルールを明確に承認しない者は再入学を許可しないことが確認された。そして、現実にも昭和四六年度以降の学費未納除籍者の再入学不許可は、一二例に及んでいる。

(3) したがつて、立命館大学における学費未納除籍者の再入学は、慣行的にその許可が義務づけられているとは到底いえない。

2  本件再入学不許可決定の相当性

再入学許可は、既に述べたごとく、単に経済的理由の回復や本人の就学継続意思のみでなく、本人が大学において勉学するに相応しい適格性を有するか否かの総合的判断であり、本件においても、暴力行為のみが再入学許可の基準となつているのではなく、(イ)原告が大学自治を守るための全学的なルールを守ることの確証を得られなかつたこと、(ロ)原告の在学時代の行動や再入学面接における態度において、大学と学生との信頼関係を著しく破壊していること、(ハ)再入学後真面目に勉学し、単位不足を取り戻して卒業することの確証がえられないことの総合的判断に基づくものである。

そして、本人の学生時代の行動や成績、面接中の態度などから、本学において勉学するに相応しい適格があるかどうかの判断は、教授会が責任をもつて行なうものであり、その濫用のないかぎり、教授会の裁量に委ねられるものである。

(一) 本件不許可理由の相当性

(1) 補導主事会議の申合せは、大学破壊や暴力行為に参加したことが明白である者及び暴力否定のルールを明確に承認しない者は再入学を許可しないことを確認したものであるところ、原告から暴力を受けたという学生の申立があり、暴力行為の存在を疑わせる事実が存するにもかかわらず、原告は被告からの面接による事情聴取に応じないばかりか、公開事情聴取の要求をなした。そして、暴力行為はもとより、公開事情聴取の要求も大学の自治を危うくし、大学の存在自体を否定するものであるから、原告は、本学の学生たる身分を失う直前、直後に本学のルールに反するような行為をなした者といえ、同人に補導主事会議の申合せを適用したことは当然のことであり、何らの違法はない。

(2) 再入学の審査は、本学において勉学を続けるのに相応しい適格性の有無を総合判断するものであり、教授会の裁量の余地が広いものであるから、第三回の面接で原告が「ヘルメットを冠ることも思想、信条にもとづく行為だ。」などと述べたことに基づき、原告を教育の対象者としての適格性を有しない者と判断したとしても何らの違法はない。また、第三回目の面接において、原告が昭和五六年四月七日にヘルメットを肯定する内容のビラを蒔いている者と一〇分間立話をしたことについて被告から質問がなされているが、それは従前の面接の経過と右行動との間の整合性の判断をする資料を収集するためであり、決して右出来事を非難したり、弾劾したりするためになされたものではない。

(3) 再入学は既に学籍を失つている者に対して新たな再「入学」を許可するものであり、学籍を有している者に対する懲戒処分とは異なつて、裁量の余地が広いものであるから、仮に現学生に対して退学処分という厳しい措置をとるものでなかつたとしても、それが大学と学生との間の信頼関係の維持の確証が得られないときには、再入学不許可という結論をとつても何らの裁量権踰越はない。

(二) 手続の相当性

原告は、被告において、暴力行為に対する厳しい反省と暴力行為の否定の判断のために、面接で補導主事会議の申合せ以外の学振懇確認を用い、更にそれに基づく思想改変を迫つた違法があると主張するが、面接は教授会の判断材料を求める方法であるから、面接者が教授会の判断資料を収集するために原告に対し、学振懇確認に基づく質問をすることは当然である。

第三  証拠<省略>

理由

第一本案前の判断

被告が、再入学の許否はその性質上、当該出願者がその大学における教育の対象者としての適格性を有するか否かという教育的裁量に属するから、自由裁量というべきで、裁判所の司法審査は及ばないと主張するので以下検討する。

大学がその教育目的のために、法の許す範囲において学生の管理につき自治権、自律権を与えられていることはこれを認むべきであるけれども、大学が一旦自ら制定し、大学、学生双方に対して拘束力を有する規則が存する場合には、大学といえども、その規則に従うべきであることはいうまでもない。

この見地からすると、後述のように、被告大学にあつては、一旦除籍されて三ケ月を経過した者であつても、除籍後二ケ年内なら再入学の申請権を有するのであり、これが許否は当該者の学生たる地位の復活の有無に直接かかわるのであるから、裁判所法三条にいう法律上の争訟に当ると解すべきである。したがつて、被告の本案前の主張は理由がなく、排斥を免れない。

第二本案の判断

一原告は、被告の設置する立命館大学産業社会学部の学生であつたところ、学費未納により被告から昭和五五年三月三一日付で除籍されたこと、その後原告は、昭和五六年三月二日に再入学規程第一〇条に従つて再入学申請の手続をしたが、被告は同年四月二一日これを不許可としたこと、更に原告は同年九月九日及び同五七年三月二四日の二度にわたり再入学申請の手続をなしたが、被告はこれらをいずれも不許可としたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

そこで、本件事案に則して、まず被告が原告の再入学を不許可とするに至つた経過について考察する。

<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができる。

1  被告は、昭和四四年以降に発生したいわゆる学園紛争による多大の犠牲を契機として、その正常化の過程で学園から暴力を一掃することを自らの課題とし、再入学制度の運用についても全学的な討議が重ねられた末、昭和四七年四月四日に至り、再入学許否の審議決定機関である各学部教授会の意向を反映した各学部補導主事(後の学生主事)会議において、再入学は願出の権利に基づくもので、大学はこれを受付け、教学の対象たるに相応しい資格を有するかなどを審査するのであるが、すくなくとも、暴力行為に参加したことが明白である者や、暴力の全面的否定を明確に承認しない者は、許可しないとの趣旨の申し合せを確認し、爾来それが審査の一つの基準とされた。

2  原告が在籍していた産業社会学部の教授会(以下「教授会」という。)は、昭和五五年六月六日、学園内において「秋葉の会」を名乗る黒ヘルメットを冠つた学生の情宣活動に関連し、これを擁護するとみられる行動に出た原告から暴力を受けたという学生米津鉄夫の被害申告を受けた。原告は、当時、すでに学費未納除籍になつていたものの、なお三ケ月の復籍可能該当者であつた関係上、右学部所属の宮本正興学生主事(以下「宮本主事」という。)が事務担当者を通じて原告に対し、二回に亘り事情聴取の面接通知をした。しかし、原告は、その事情聴取によつては事実の経過を正しく判断して貰えないと考えて応じなかつたばかりか、書面をもつて宮本主事に対し、日時・場所を指定し公開事情聴取なら応ずる旨を伝えた。そのほか、「秋葉の会」を名乗る学生グループ及び原告を推測させる「F」名義をもつて、「黒ヘルメットでビラまきしてどこが悪いねん」という見出で、公開事情聴取を求める趣旨のビラが蒔かれた。教授会は、かかる挙に接して、原告が弁明の権利と責任を回避したと受け留めたが、そのうちに原告の復籍可能期間が経過して除籍が確定したため、同年(五五年)七月頃、原告の除籍確認をした際、同時に原告から再入学申請があつても、無条件では許容できないとの確認をし、この件につき一応の決着をつけた。

3  ところが、前叙のとおり原告から第一回目の再入学申請がなされるに至つたため、教授会の下部組織である学生委員会が、慣例により教授会の審議資料を収集する方法として、昭和五六年三月一〇日、原告と第一回の面接をし、前項で認定した原告にかかる一連の言動について質問したところ、原告は、学園内でのヘルメット着用禁止につき十分な理解を示さず、米津鉄夫に対する暴行についても意図性を否定し、ただ米津が意図的と受け留めているなら謝罪しても良いなどと述べた。しかし、学生委員らは、終始厳しい姿勢で臨み、原告に対し、現在のままの認識では極めて不十分で教授会に推せないし、入れるか入れないか判らないと説明して、自己の認識を文書化して提出するよう求めた。すると、原告は素直に応じ、同月一三日、ヘルメット着用問題が全学構成員の願を踏みにじり、学内秩序をみだす行為であると考えるに至つたこと、米津に対する行為は、たとえ単なる「もみあい」であつたとしても、無責任であつたことを反省し、謝罪したいなどと記載した書面を提出した。そこで、学生委員会は、教授会に経過や同書面の内容を報告し、その意向を受けて原告の反省の誠実性を見究めるべく、同月二七日、第二回目の面接をしたところ、原告は、米津に対する暴力行為を全面的に認め、同人と全学に謝罪するし、公開事情聴取要求という挑戦的態度をとつたことについても深く詫びるなどと、一段と反省の姿勢を示すとともに、同委員会の要請により右の趣旨のほか、「暴力行為等によつて全学構成員の良心を踏みにじる様なことがあれば、それらの行為を、私自身積極的に指弾していきたいと思います。」などと覚悟のほどを書面にして提出した。学生委員会では、再び教授会に経過を報告したものの、なお原告の反省の信頼性に疑念をもち、同年四月八日、第三回目の面接を実施した。ところが、同委員会は、原告がその前日の七日、学内でヘルメット・覆面姿での情宣活動を正当などと主張する内容のビラ蒔きをしていた学生達と約三〇分間話をしていたとの情報を入手していたため、原告がそれらの者と共同行動をしていたのではないかとか、反省文で示した姿勢との喰い違いなどについて厳しく追求したところ、原告が開き直り、「学園内でヘルメットを冠ることも、思想・信条に基づいての行為だ。」などと主張した。教授会は、このような経過を踏まえて、原告の反省を真意と受け留めず、原告が依然として一切の暴力行為を否定し、本学の民主的ルールを順守するという大学構成員としての基本的要件を欠いていると判断し、過去に暴力行為を働いた者の再入学は許さないとの原則に従い、再入学を不許可とした。

4  原告は、再入学が不許可となつた後、赤ゼッケンをつけて講義に出席したり、構内で大学当局や教授会を非難する演説やビラ蒔をし、また事務室入口に公開質問状を掲示したほか、街頭に出て同内容の宣伝活動をした。その後、原告の第二、第三回の再入学申請に対し、学生委員会がその都度、状況の変化の有無を調査するため面接したものの、例えば原告は、再入学の不許可が不当であるから抗議行動をするのは当然であり、さきに提出した反省文も面接者の誘導による意に反した内容であるなどと述べ、更に第二回目の再入学が不許可となるや、構内でハンガーストライキーを敢行するといつた調子であつた。教授会は、こういつた状況を踏まえて、いずれの再入学をも不許可とした。

以上の事実を認めることができ、同認定に反する<証拠>は措信できず、他に同認定を動かすに足る証拠はない。

二学費未納除籍者の再入学許可についての裁量の可否

そこで進んで、立命館大学における学費未納除籍者に対する再入学の許可が、除籍原因の解消である学業継続意思と経済事情の好転さえあれば義務づけられるものであるか否かについて検討する。

1  立命館大学における学則等の規定の形式

立命館大学における再入学については、退学者に関する再入学規程第一〇条に「退学した者が、保証人連署をもつて再入学を願い出たときは、学部長はこれを許可することがある。」との裁量的表現の規定があるのみで、学費未納除籍者に固有の再入学についての明文の規定が存しないことは当事者間に争いがないところ、<証拠>を総合すれば、右規定が制定される以前に、昭和二六年六月二三日の大学協議会の決定で、学費未納除籍者の再入学も退学者の場合と同様に取り扱われるものであることが確認され、昭和二七年四月一日施行の「立命館大学教学事務取扱規則」(昭和四一年二月一七日廃止)では「学費納付規定第一〇条により除籍された者が、保証人連署を以つて再入学を願い出たときは、教授会の議を経てこれを許可することがある。」(同規則七条)と学費未納除籍者の再入学につき裁量表現となつていること、原告の在籍していた産業社会学部の「学習要領」において「退学または学費滞納により除籍された者が、再び学業を続けようとする場合は、退学または除籍処分を受けた日から二ケ年以内に所定の手続をすればもとの回生に再入学を許可することがある。」と学費未納除籍者の再入学を退学者の場合と同様に扱つていることの各事実が認められ、右事実を総合すれば、規定上、再入学については、退学の場合と学費未納で除籍された場合とを問わず同じ取扱いを受け、裁量規定である再入学規程一〇条が適用されるものと解される。

2  再入学と復籍の差異

復籍についての許可が義務的であることは当事者間に争いがないところ、原告が学費未納除籍者の再入学と復籍とは、除籍の原因及び学生たる権利義務を有する地位の復活の効果が同一であるから、学費未納除籍者の再入学に関する許可基準も、復籍の場合と同様、除籍原因の解消(学業継続意思と経済事情の好転)の有無のみによるべきであると主張するので、以下検討する。なるほど、学費未納除籍者の復籍と再入学とは、除籍の原因がいずれも学費未納であること、許可された後は、入学の場合のように一回生から始める必要はなく、元の回生と既取得単位を引き継ぐことにおいて同一である。しかしながら、<証拠>によると、復籍の場合には滞納学費の納入により除籍の取り扱いが遡及的に消除され、学籍の連続性が認められるのであるが、それだけでなく復籍可能期間中であつても、場合により通学証明書や学割の発行を受けうることができるなど、学生としての待遇を享受しうることが認められるのであり、これらの事情を総合すると、復籍は、三ケ月の猶予期間を限度として滞納学費を確保するための便法と位置づけるのが相当である。

そうだとすれば、復籍と再入学とは全く異質の制度であることが明らかであり、したがつて両者を同じ俎上に置かんとする原告の論は失当であり採用できない。そして、再入学は、学籍を失い本来ならば再度入学試験を受験すべき者に対して、嘗つて立命館大学に在籍していた者であることから新たな再「入学」を許可するものであり、学籍を有している者に対する懲戒処分(補導的観点からの教育裁量権の行使)とは明らかに異なるから、原告主張の補導的観点からの裁量権否定原理ないし制約原理は本件につき不適切であり採用できない。

3  立命館大学における慣行

更に原告は、現実の運用実態からみても、立命館大学においては大学紛争の前後を問わず「除籍時の就学を阻む条件が一定の解決をしたか否か。」を唯一の基準とする慣行が存すると主張し、<証拠>によれば、なるほど昭和四四年の大学紛争以前には、不許可となつた事例がないことが認められる。しかしながら、一の1で認定したところによれば、それが原告の再入学許否の審査に妥当する慣行でないことは明らかであり、この点の原告の主張も採用できない。

三本件再入学不許可決定と裁量権の踰越の有無

原告は、学費未納除籍者に対する再入学の許可が裁量にかかるものであつたとしても、本件再入学不許可決定には裁量権の踰越があり違法であると主張するので、以下検討する。

まず、被告が本件再入学申請を不許可とした理由の根幹は、前認定事実によれば第一回不許可決定から第三回不許可決定までを通じて、原告が暴力行為を明白に行い、かつ、暴力否定のルールを明確に承認しないものに該当すると判断したことにあることは動かし難い。

しかして、再入学の許可とは、本来ならば再度、入学試験を経由すべき者に対して、かつてその大学に在籍していたことから、勉学するに相応しい適格性を有する場合に学生としての地位の復活を認めるものであるところ、大学において勉学するに相応しい適格性を有するか否かを決するについては、本人の在学中の行動や成績、学籍を失うに至つた実質的理由、その後の経過、面接中の態度等の諸般の要素を考量する必要があり、これらの点の判断は、学内の事情に通暁し、直接教育の衝に当るものの裁量に相当程度任すのでなければ、適切な結果を期待することができないことは明らかであり、前叙のとおり再入学規程一〇条が裁量的表現の体裁になつているのも、この趣旨と対応するものというべきである。

そこで、この見地から、さきに認定した原告の再入学申請を不許可とした経過を考察すると、被告が不許可とした判断は、なお裁量の範囲内のそれと解するのが相当であり、判断手続上の側面(但し、反省文強要の点は暫く置く)を含めて非難されるべき点はなく、これに反する原告の各主張はいずれも失当であつて採用できない。

四反省文の作成提出の強要について

原告は、被告が反省文の作成提出を強要したと主張する。しかし、原告が反省文を作成提出した経緯はさきに認定のとおりであつて、被告側の強要があつたとは認め難いというべきである。

五以上説示のとおりであるから、原告の各請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官石田 眞 裁判官大西忠重 裁判官小山邦和は転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官石田 眞)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例