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京都地方裁判所 昭和57年(ワ)315号 判決 1984年2月21日

原告

森口寛道

ほか一名

被告

水野春光

主文

一  被告は原告森口寛道に対し金二〇〇万一五八四円及びこれに対する昭和五三年九月二七日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告森口寛道のその余の請求及び原告森口寛一郎の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用中原告森口寛道と被告との間ではこれを一五分し、その一を被告の、その余を同原告の負担とし、原告森口寛一郎と被告との間では同原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告森口寛道に対し金二九六五万四七八三円及びこれに対する昭和五三年九月二七日から支払済に至るまで年五分の割による金員を支払え。

2  被告は原告森口寛一郎に対し金二〇〇万円及びこれに対する同月二七日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

左記交通事故(以下本件事故という。)が発生した。

(一) 日時 昭和五三年九月二六日午後六時四五分頃

(二) 場所 京都市南区吉祥院中河原西屋敷町一番地の二先路上

(三) 加害車 三菱小型乗用自動車(京五六な八八六四号、以下加害車という。)

運転者 被告

(四) 被害者 原告森口寛道

(五) 態様 被告が交通整理の行われていない交差点である本件事故現場を加害車を運転して北から南へ向け進行したところ、同交差点を西から東に向け自転車に乗つて進行していた原告森口寛道と衝突した。

(六) 結果 原告森口寛道は本件事故により頭部外傷(脳内出血)、頸椎捻挫、左下腿骨折及び第三、第五頸椎変形の傷害を負い、九条病院に昭和五三年九月二六日から昭和五四年四月三〇日まで二一七日間入院し、昭和五四年五月一日から同年六月九日まで通院し、浜坂七釜温泉病院に同年六月一〇日から昭和五六年二月二〇日まで六二二日間入院して治療を受けたが、かねて小児麻痺のため右下肢に異常があつたところ、右傷害により左足も損傷したことにより殆ど歩行不能な状態、頸部症候群及び左手の知覚異常等の後遺障害を残し、右症状は昭和五六年二月二〇日固定した。なお右後遺症は自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表八級程度の障害に相当する。

2  責任原因

(一) 運行供用者責任

被告は、加害車を所有し、これを自己のため運行の用に供していた。

(二) 不法行為責任

被告は、前方不注視、速度違反、徐行義務違反の過失により、本件事故を発生させた。

3  損害

(一) 原告森口寛道に関し

(1) 治療費

(イ) 後記(ロ)を除く治療費 金七一八万〇三七〇円

(ロ) 浜坂七釜温泉病院 金一四万八二九五円

水田整形外科病院 金七六三〇円

京都大学医学部附属病院 金二〇五八円

愛生会山科病院 金八〇〇円

(2) 付添看護費 金一〇八万四七一〇円

(3) 入院雑費 金八三万八〇〇〇円

一日一〇〇〇円の割合による八三八日分

(4) 通院交通費 金二四万〇五五〇円

(5) 逸失利益

(イ) 休業損害

原告森口寛道は、本件事故当時京都パーカライジング株式会社に勤務し毎月の給与金一二万一〇〇〇円、夏の賞与金五万円、冬の賞与金一〇万円の収入を得ていたところ、本件事故日である昭和五三年九月二六日より症状固定日である昭和五六年二月二〇日まで約二九か月間休業を余儀なくされ、右収入を得ることができなかつたので、その間の原告の得べかりし利益の喪失による損害は金三九〇万九〇〇〇円となる。

(ロ) 後遺症による損害

原告森口寛道は前記後遺症によりその労働能力の四五パーセントを喪失したところ、症状固定時四二歳で本件事故にあわなければ六七歳まで二五年間稼働でき、この間前記金額程度の収入を得続けることができたものと考えられるので、右金額を基礎とし年五分の割合による中間利息を新ホフマン方式により控除して後遺症による逸失利益の本件事故当時の現価を求めると金一一四九万四〇〇〇円となる。

(6) 慰謝料

(イ) 入通院分

九条病院分 金二〇一万円

浜坂七釜温泉病院分 金二八四万円

(ロ) 後遺症分 金五三七万六〇〇〇円

(7) 損害の填補

原告森口寛道は被告から治療費七一八万〇三七〇円、入院付添費一〇八万四七一〇円、通院交通費二四万〇五五〇円の弁済を受けている。

(8) 弁護士費用 金三二〇万円

(二) 原告森口寛一郎に関し

原告森口寛一郎は同森口寛道の父親であるところ、同原告の本件事故による傷害のため多大の精神的苦痛を被つたが、この慰謝料としては少なくとも金二〇〇万円を下らない。

4  よつて原告森口寛道は被告に対し右損害残額のうち金二九六五万四七八三円、原告森口寛一郎は被告に対し金二〇〇万円及びそれぞれこれらに対する本件不法行為の日の翌日である昭和五三年九月二七日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1(一)ないし(五)の各事実は認める。

同1(六)の事実のうち原告森口寛道がその主張のとおり入通院したことは認めるが、その主張の如き傷害を負つたことは知らず、その余は否認する。

同2(一)、(二)の各事実は認める。

同3(一)(1)(イ)、(2)、(4)、(7)の各事実は認める。

同3(一)(1)(ロ)、(3)、(5)、(8)の各事実は否認する。

同3(一)(6)、(二)の主張は争う。

三  抗弁

1  過失相殺

本件事故発生については、原告森口寛道にも、交通頻繁な本件事故現場(交差点)を横断するに際し、中央分離帯で一旦停止せず、かつ左方(北方)の安全確認を怠つた過失があるので、これを損害額の算定に当つて斟酌すべきである。

2  損害の填補

原告森口寛道は被告から休業損害として金二二〇万二四〇〇円を、自賠責保険から金四〇三万円を受領している。

四  抗弁に対する認否

抗弁1の事実は否認する。

同2の事実は認める。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生について

請求原因1(一)ないし(五)の各事実及び同(六)の事実のうち原告森口寛道が本件事故により九条病院に昭和五三年九月二六日から昭和五四年四月三〇日まで二一七日間入院し、昭和五四年五月一日から同年六月九日まで通院し、浜坂七釜温泉病院に同年六月一〇日から昭和五六年二月二〇日まで六二二日間入院して治療を受けたことは当事者間に争いがなく、いずれも成立に争いのない甲第七、第八号証、第一一号証の一ないし四、乙第一二号証の一ないし四並びに原告森口寛一郎及び同森口寛道各本人尋問の結果によると、原告は、本件事故により頭部外傷(脳出血)、頸椎捻挫、左下腿骨折、第三及び第五頸椎変形の傷害を負い、その結果自覚症状として頭重、眩暈、頸部痛、左上肢放散痛、左足関節拘縮及び疼痛、左手の巧緻運動の不全等が存し、他覚症状として左頸部・左肩・左腰部の圧痛、第三頸椎の変形、第五頸椎の扁平化、左脛腓骨々折後の変形、跛行、左足関節の拘縮、左上肢筋力低下、左足関節の運動制限(屈曲九〇度、底屈一三〇度)等がみられる後遺障害を残し、右障害は昭和五六年二月二〇日症状が固定したこと、そして自賠責保険上右後遺症は自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一〇級一一号該当の認定を受けていることが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

二  責任原因について

請求原因2(一)の事実は当事者間に争いがないから、被告は自賠法三条に基づき本件事故により原告森口寛道が受けた損害を賠償すべき責任がある。

三  原告森口寛道の損害について

1  治療費

原告森口寛道が本件事故による傷害のため治療費七一八万〇三七〇円を負担したことは当事者間に争いがなく、いずれも成立に争いのない甲第四号証の一、二、第五、第六号証及び原告森口寛一郎本人尋問の結果によると、原告森口寛道は本件事故による傷害のため更に治療費として水田整形外科病院に診断書代四〇〇〇円を含む金七六三〇円を、京都大学医学部附属病院に金二〇五八円を、愛生会山科病院に金八〇〇円をそれぞれ支払つたことが認められる。

なお、成立に争いのない甲第三号証及び原告森口寛一郎本人尋問の結果によると、原告森口寛道は浜坂七釜温泉病院に治療費として金一四万八二九五円を支払つていることが認められるが、本件事故との因果関係を認むるに足りる証拠がない。

2  付添看護費及び通院交通費

原告森口寛道が本件事故による傷害のため付添看護費一〇八万四七一〇円、通院交通費二四万〇五五〇円を要したことは当事者間に争いがない。

3  入院雑費

原告森口寛道が本件事故による傷害のため少なくともその主張の八三八日間入院したことは当事者間に争いがないところ、その間入院雑費として少なくとも一日当たり金五〇〇円の支出を要したことは経験則上容易に推認されるところであるから、入院雑費合計金四一万九〇〇〇円の損害を被つたことが認められる。

4  逸失利益

(一)  休業損害

原告森口寛一郎本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第九号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める乙第一三号証、原告森口寛道及び同森口寛一郎各本人尋問の結果によると、原告森口寛道は本件事故当時京都パーカライジング株式会社に塗装工として勤務し、本件事故以前少なくとも一か月平均九万五八三三円(((昭和五三年七月の月収九万六〇〇〇円+同年八月の月収八万四〇〇〇円+同年九月の月収一〇万七五〇〇円))÷三、但し一円未満切捨、以下同様)を下らない給料及び年間一五万円(年二回で六月に五万円、一二月に一〇万円)の賞与を得ていたところ、本件事故による受傷のため本件事故日の翌日以降症状固定日の昭和五六年二月二〇日まで休業を余儀なくされ収入を得られなかつたことが認められ、甲第九号証の記載及び原告森口寛一郎本人尋問の結果中右認定に抵触する部分は乙第一三号証に照らし直ちに採用し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によると原告は次のとおり得べかりし利益金三一二万五一四八円を得ることができず、同額の損害を被つたことが認められる。

(算式)

昭和53年9月27日から昭和53年12月31日まで

(9万5833+15万/12)×4/30+(9万5833+15万/12)×3=33万9443

昭和54年1月1日から昭和55年12月31日まで

(9万5833×12+15万)×2=259万9992

昭和56年1月1日から昭和56年2月20日まで

(9万5833+15万/12)+(9万5833+15万/12)×20/28=18万5713

(二)  後遺症による損害

前認定の後遺症の内容程度によると原告森口寛道はその労働能力の二七パーセントを喪失したものと認めるのが相当である。そして原告森口寛道本人尋問の結果によると同原告は症状固定日当時四二歳の男性であつたことが認められるところ、本件事故にあわなければ六七歳まで二五年間少なくとも前記金額程度の収入(年間合計一二九万九九九六円)を得続けることができたものと推認されるので、同額を基礎として前記労働能力喪失割合を乗じ、同額から新ホフマン方式により中間利息を控除して右二五年間の逸失利益の本件事故当時の価格を求めると、その金額は金五五九万六三二六円となる。

(算式)

129万9996×0.27×15.944=559万6326

5  慰謝料

前記認定の傷害の部位程度、入通院期間、後遺症の内容程度その他本件に顕れた諸般の事情を勘案すれば、本件事故によつて原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料は金六〇〇万円が相当である。

6  過失相殺

いずれも成立に争いのない乙第五、第八ないし第一一号証、原告森口寛道及び被告各本人尋問の結果によると、本件事故現場は南北に通じる通称葛野大路通りで、東西に通ずる道路(但し交差点の東側道路は東南方面に斜めに通ずる。)と交わる信号機による交通整理の行われていない交差点内であること、葛野大路通りの道路は歩車道の区別がある直線のアスフアルト舗装からなり、車道の中央には植樹された中央分離帯が設けられているところ、右交差点の北詰付近にも中央分離帯が存し、また右中央分離帯のやゝ北側には東西に通じる横断歩道が設けられていること、被告は、本件事故当時、葛野大路通りの南行車線路上を被告車を運転し北から南に向け時速約五〇キロメートルで、かつ前照燈を減光して進行し、本件事故現場付近に差しかかつた際、右横断歩道の歩行者の有無を認めたうえ遠方の日本電池前にある信号の表示を注視した後自車直前をみたところ、右交差点北詰の中央分離帯の南側から自車進路前方へ東進してくる原告森口寛道の乗つた自転車を約七・二メートル接近して初めて発見し急ブレーキをかけたが間に合わず自車右前部を自転車の左側面部に衝突せしめ同人を路上に転倒させたこと、なお当時周囲は暗いうえ右中央分離帯のため被告車進路からの右交差点反対車線側の見とおしは困難な状況にあつたこと、一方原告森口寛道は、その頃前照燈を点燈して自転車に乗り右東西に通じる道路の交差点の西側道路を西から東に向け進行し、右交差点詰付近で一旦停止し葛野大路通りの北行車線を北進してくる車両の状況を確認した後右交差点を東進すべく発進したが、葛野大路通りの中央分離帯付近で北方の交通の状況を十分確認しないまま東に向けそのまま南行車線上に進入したところ、その瞬間被告車と衝突したことが認められ、原告森口寛道本人尋問の結果中右認定に抵触する部分はたやすく措信し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によると被告には本件事故発生につき前方不注視、減速不十分の過失がある一方、原告森口寛道にも本件事故発生について左側方不注視の過失があつたものというべきである。

そしてその他本件事故の状況、態様等に鑑みると、損害額の算定に当つて原告森口寛道の過失を斟酌しその三割を減額するのが相当であるから、過失相殺するときは、前記損害の合計額は金一六五五万九六一四円となる。

7  損害の填補

原告森口寛道が被告から治療費七一八万〇三七〇円、入院付添費一〇八万四七一〇円、通院交通費二四万〇五五〇円、休業損害二二〇万二四〇〇円、自賠責保険から金四〇三万円を受取つたことは当事者間に争いがなく、これを前記損害額から控除すると金一八二万一五八四円となる。

8  弁護士費用

原告森口寛一郎本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第一〇号証及び同尋問の結果によると、原告森口寛道は原告訴訟代理人に本件訴訟の提起追行を委任し、着手金一〇〇万円、費用二〇万円、報酬二〇〇万円の支払を約していることが認められるところ、本件事案の性質、本件の経過、認容額に鑑みると、被告に対して賠償を求め得る本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は金一八万円が相当である。

四  原告森口寛一郎の慰謝料請求について

原告森口寛一郎本人尋問の結果によると、同原告は原告森口寛道の父であることが認められるところ、同原告は前記認定の被告の不法行為による原告森口寛道の傷害、後遺症のため多大の精神的苦痛を受けたことは容易に推認されるところであるが、原告森口寛道尋問の結果によれば、同原告は現在稼働可能な程度に一応回復し就職していることが認められ、前認定の程度の傷害を以てしては原告森口寛一郎の精神的苦痛が同森口寛道が生命を害された場合にも比肩すべきか、または右の場合に比して著しく劣らない程度のものであることは未だ認め難い。

したがつて、原告森口寛一郎の慰謝料請求は理由がない。

五  よつて原告らの本訴請求は原告森口寛道において被告に対し金二〇〇万一五八四円及びこれに対する本件不法行為の日の翌日である昭和五三年九月二七日から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、同原告のその余の請求及び同森口寛一郎の請求はいずれも失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小山邦和)

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