京都地方裁判所 昭和58年(ワ)1886号 判決 1986年8月08日
原告
趙勇宏
右訴訟代理人弁護士
東浦菊夫
広瀬英二
右訴訟復代理人弁護士
松村奏之
被告
国
右代表者法務大臣
遠藤要
右指定代理人
大江保
外三名
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 原告が別紙図面「えおかきくけA′ABCEF及びえ」を順次結んだ土地(以下「本件土地」という。)について所有権を有することを確認する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 (売買による所有権取得)
(一) 本件土地は、京都市北区衣笠荒見町二〇番七宅地三〇七・三〇平方米(以下「二〇番七の土地」という。)の一部である。
(二) 二〇番七の土地は、京都市北区衣笠荒見町二〇番七宅地一六三・七〇平方米(以下「旧枝番七の土地」という。)と、同所同番一四宅地一四三・六〇平方米(以下「旧枝番一四の土地」という。)の二筆の土地を合筆したものである。
(三) 旧枝番七の土地は、訴外山崎賢二(以下「山崎」という。)がもと所有していたものであるが、昭和三八年四月三〇日山崎と訴外趙玄九(以下「玄九」という。)とが同土地につき売買契約を締結し、次いで玄九と原告は同年五月三一日同土地につき売買契約を締結した。
(四) 旧枝番一四の土地は、山崎がもと所有していたものであるが、山崎と原告は昭和三八年五月三一日同土地につき売買契約を締結した。
2 (時効取得)
仮に本件土地が国有地であつたとしても、原告は、昭和三八年五月三一日より本件土地を占有してきたものであり、昭和五八年五月三一日の経過と共に二〇年の取得時効により本件土地の所有権を取得した。よつて原告は本訴において右時効を援用する。
3 しかるに、被告は、原告の本件土地に対する所有権を争う。
よつて原告は、本件土地につき原告が所有権を有することの確認を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は否認する。
2 同3の事実は認める。
三 抗弁(時効取得に対して)
本件土地は、昭和一三年ころ、蛇行状の河川を直線上に改修した結果生じた土地であつて、本件土地に隣接する天神川の護岸擁壁を実質上保護し、護岸擁壁と一体となつて、河川の安定に寄与している公共用財産である。よつて、時効取得の対象とはならない。
四 抗弁に対する認否
本件土地が蛇行状の河川を直線状に改修した結果生じた土地であることは認めるが、その余の事実は否認する。
五 再抗弁
原告が本件土地の占有を開始した昭和三八年五月三一日当時、本件土地についてすでに黙示の公用廃止があつた。
六 再抗弁に対する認否
否認する。本件土地は、今なお実質上、護岸擁壁の保護地として、また、河川の安定に寄与する土地として、公共の用に供されているものである。
第三 証拠<省略>
理由
一請求原因1(売買による所有権取得)について
請求原因1の(一)の事実については、これを認めるに足りる証拠がない。かえつて、<証拠>によれば、本件土地は公図に地番の記入のない国有地であつて、二〇番七の土地に含まれないことが認められる。
よつて、その余の点について判断するまでもなく、請求原因1は理由がない。
二請求原因2(時効取得)について
被告は、請求原因2の事実(昭和三八年五月三一日以降二〇年間の占有)を明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。なお時効援用の事実は当裁判所に顕著である。
三抗弁について
抗弁のうち、本件土地が昭和一三年ころ蛇行状の河川を直線状に改修した結果生じた土地であることは、当事者間に争いがない。したがつて、本件土地は、もと河川敷地であつて、旧河川法に基づく河川又は準用河川の指定の有無にかかわらず、自然公物として公共用財産であつたことが認められる。そして、<証拠>を総合すれば、昭和一三年ころに行なわれた右改修工事によつて本件土地は土居とされ、河川敷地としての形態的要素は滅失したものの、本件土地に隣接する天神川のコンクリートの護岸擁壁(法尻部分の幅一・〇八ないし一・二四メートル、高さ一・六ないし二・二メートル)と一体となりこれを実質上保護する土居として、なお公共の用に供されていたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
四再抗弁について
再抗弁について判断するに、公共用財産が、長年の間事実上公の目的に供用されることなく放置され、公共用財産としての形態機能を全く喪失し、その物のうえに他人の平隠かつ公然の占有が継続したが、そのため実際上公の目的が害されることもなく、もはやその物を公共用財産として維持すべき理由がなくなつた場合には、右公共用財産について、黙示的に公用が廃止されたものとして、取得時効の成立を妨げないと解されるところ、右基準に適合する客観的状況は、自主占有開始の時点までに存在していることを要するものと解するのが相当である。
これを本件についてみるに、<証拠>によれば、原告が本件土地の占有を開始した昭和三八年五月三一日ころ、本件土地は天神川のコンクリートの護岸擁壁を保護する土居であつたこと、原告は、右擁壁の上に石垣、コンクリート、ブロックを積み、本件土地を宅地に造成して、昭和三八年一一月八日に建築確認を受け同三九年一月一〇日に右造成地上にアパートを建てたこと、同四八年一〇月一日に右アパートを取り壊し、新たに家を建てるため建築確認を申請したところ、国有地が含まれているという理由で受け付けられなかつたため、その後は本件土地を駐車場として使用し、現在に至つていることが認められ、右認定に反する証拠はない。
そして右認定事実によれば、本件土地が宅地あるいは駐車場となつたのは、原告の占有開始後の原告の行為によつてであり、原告の占有開始時においては河川管理施設であるコンクリートの護岸擁壁を保護する土居であつたのであるから、原告の本件土地の占有開始時までに、本件土地について前記の黙示の公用廃止があつたものとみるべき基準を具備したものということはできない。
再抗弁は理由がない。
五結論
よつて、本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官重吉孝一郎)