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京都地方裁判所 昭和58年(ワ)397号 判決 1986年7月31日

原告

大谷暢道

右訴訟代理人弁護士

松村美之

被告

真宗大谷派

右代表者代表役員

五辻實誠

右訴訟代理人弁護士

表権七

三宅一夫

入江正信

山下孝之

千森秀郎

長谷川宅司

吉川哲朗

主文

一  原告の、被告が原告に対して昭和五七年五月七日付でなした原告より連枝の身分を除く旨の決定の無効確認請求の訴えを却下する。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が原告に対して昭和五七年三月一日付でなした原告を重懲戒七年に処する旨の判定は無効であることを確認する。

2  被告が原告に対して昭和五七年五月七日付でなした原告より連枝の身分を除く旨の決定は無効であることを確認する。

3  被告は、原告に対し、金二一五万六五一一円及び昭和五八年二月二六日以降本件判決言渡日に至るまで一か月金二〇万七六〇一円の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決、並びに右3項につき仮執行の宣言。

二  被告

1  原告の訴えを却下する。

2  右が認められないときは、原告の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二  当事者の主張

一  原告の請求の原因

1  当事者

(一) 原告は、真宗大谷派法主である訴外大谷光暢の四男であり、その身分は連枝である。

(二) 被告は、宗祖親鸞聖人の立教開祖の精神により、教義を宣布、儀式を執行し、社会教化に必要な公益事業を行うことを目的として、昭和二七年四月一〇日設立された宗教法人であり、本山本願寺を中心として寺院、教会その他の所属団体、僧侶及び壇徒、信徒を包括する宗門である。

2  懲戒処分

(一) 被告における懲戒処分手続

被告は、その包括する僧侶について非違行為があつたときは懲戒処分をなすこととし、刑事訴訟法類似の手続を定め、その機関を設けている。すなわち、内部規範として懲戒条例を制定し、非違行為の内容及びそれに対する処分種目を定め、非違行為を行つた僧侶に対し、除名、重懲戒、軽懲戒、謹慎及び譴責の五種の懲戒処分を課すこととし、また、具体的な手続としては、審問院組織条例を制定して審問院を設置し、これが刑事訴訟法類似の審問条例に則つて懲戒処分を行うこととされている。

(二) 原告に対する懲戒処分

(1) 原告は、昭和五二年八月一一日、同五三年一二月一一日及び同五六年一〇月三〇日の三回にわたつて、被告総務部長より申告(告訴、告発に相当)されたところ、同年一二月一六日、審問院監察室(検察庁に相当)は、原告が連枝の地位を利用して不当に宗政に介入し、また、被告の内紛の激化するに伴い、資金調達の必要から本願寺の財産を不当に処分したとして提訴(起訴に相当)した。

(2) そこで、審問院審問室(裁判所に相当)は、昭和五七年三月一日審問会期日を開き、右提訴事実をすべて認め、また、原告が内紛事件に首謀的役割を今日まで続け、その後も一片の反省もなく宗門の正常化を妨げているのみか、むしろ混乱を助長していること、及び監察段階や審問会に正当と認むべき理由もないのに出頭しなかつたことの事実を独自に認定し、これらすべてを非違行為として、原告を懲戒条例第二九条により重懲戒七年に処する旨の判定をなした(判決に相当、以下、「本件懲戒処分」という。)。

(3) 本件懲戒処分の種目は重懲戒であるが、懲戒条例第八条によれば、その具体的内容は、「懲戒に処した期間中、自己が所属する寺院又は教会以外の場所において僧侶の分限を行うことを禁止し、すべての役職務を差免し、教師、学階、褒賞及び一般衣体を除く衣体を剥奪し、堂班を最下級に降す。」と定められている。すなわち、まず、自己が所属する寺院又は教会以外の場所において僧侶としての行為を行うことは許されず、門徒の自宅で行われる葬式や年忌法要に出向いてお勤めすることすら一切できなくなり、次に、すべての役職務を差免され、仮に住職の地位にあるものはそれをも失うこととなり、自己の寺院において行われる法要等についても、住職として出仕することはできなくなり、また、教師、学階等を剥奪し、堂班を最下級に降すとは、僧侶として最も低い階級である得度式を受けた直後の状態に戻されることであり、あらゆる儀式における序列が最下位になることである。

3  本件懲戒処分の違法性

(一) 原告は、連枝という特別の身分を有するので、被告審問院は連枝に対しては懲戒権がなく、従つて本件懲戒処分は無効である。その事由は、次の(1)ないし(3)記載のとおりである。

(1) 連枝も得度式を受けたものであるから被告の僧侶であるが、一般の僧侶の僧籍が寺院又は法人である教会に置かれるのに対して、連枝の僧籍は本山に置かれる(本山寺法第一五条二項)等特別の取扱いがなされている。

(2) 連枝については、本山寺法第一五条六項において、「連枝であつて、その体面を汚すような行為のあつたとき(中略)は、住職は、加談会に諮つて、その待遇を停め、若しくはその身分を除くことができる。」と定められており、一般の僧侶とは異なる手続によつて懲戒処分がなされ、また、その処分内容も異なることとされている。従つて、連枝たる原告に対し、一般の僧侶に対する適用法規である審問条例を適用したのは違法である。

(3) 懲戒条例第八条による重懲戒を受けた者は、一般衣体を除く衣体が剥奪され、堂班を最下級に降されることになつているが、連枝は連枝履歴簿に記載された衣体を付けることが許されているのみで、一般衣体というものがなく、また、堂班(着座場所)についても、一般の僧侶と異なつた特別指定された場所に着座するのみで、連枝に最下級という概念は通用しないのであり、右堂班法衣条例は連枝に対する懲戒を全く予定していない。

(二) 被告のなした本件懲戒処分は、以下のとおり手続的に違法であり、無効である。

(1) 審問条例第一五条及び第一六条によれば、審問長は審問会を開く期日を定め、被申告者、審問院監察室及び補佐人に通知しなければならないとされ、かつその通知及び召喚状は、少なくとも当該期日の七日前に行わなければならないと規定されている。

(2) ところが、本件の場合、審問会は前記2の(二)の(2)のとおり昭和五七年三月一日に開かれたが、その通知及び招喚状が原告に到達したのは同年二月二五日であり、同日より審問会の期日までの間には僅か四日間しかなく、右審問条例第一六条に違反する。

審問条例第一六条の規定は、被申告者に適切な防禦権を行使させるための準備期間を与えるためのものであるから、右規定に対する違反は被申告者の防禦権の侵害であり、本件懲戒処分の効力そのものに影響を及ぼす重大な瑕疵であるから、本件懲戒処分は手続的に違法であり、無効である。

(三) 被告のなした本件懲戒処分は、以下のとおり実体的にも違法であり、無効である。

(1) 本件懲戒処分は、昭和五五年一一月一八日、原、被告間に成立した合意に反する。

すなわち、原告と被告代表者との間で、昭和五五年一一月二二日、即決和解が行われ、被告内部での紛争につき一応の和解が成立したが、それに先立ち、同月一八日、原告と被告代表者との間で、「紛争に関与した者に対する報復的懲戒は、どのような事情があろうとも一切行わない。」旨の合意が成立したが、本件懲戒処分は、まさしく紛争の一方当事者である原告に対する報復的懲戒にほかならないから、右合意に違反し、無効である。

(2) 本件懲戒処分は、前記2の(二)の(3)のとおり、除名に極めて近い苛酷な内容を有する重懲戒であるが、このような重大な懲戒処分をなすにあたつては、慎重かつ厳正に審理し、証拠に基づき厳密な事実認定をなすべきであることは条理上当然であるところ、本件懲戒処分にあたり、被告が原告の非違行為として認定した前記事実は、いずれも漠然かつあいまい模糊としており、しかも証拠に基づかないものであるから、極めて不当であり、本件懲戒処分は懲戒権の濫用であつて違法であり、無効である。

4  原告の連技たる身分を除く旨の決定

被告は、昭和五七年五月七日、原告の連技たる身分を除く旨の決定をなし、そのころ原告にその旨通知した(以下、「本件決定」という。)。

5  本件決定の違法性

本件決定は、以下のいずれの理由によつても違法であり、無効である。

(一) 前記本山寺法第一五条六項において、連枝よりその身分を除くには、本願寺住職が加談会に諮つたうえで決定することとされており、決定権は右本願寺住職にあるから、本件決定は本来権限を有しない者がなしたものである。

(二) 本件決定は、実質的には原告に対する報復的懲戒にほかならないから、前記3の(三)の(1)の合意に反するものである。

(三) 原告より連枝の身分を除くことは、原告の被告における地位を根底から覆すものであつて、極めて重大であり、かつ内容的にも苛酷な処分であるから、このような処分をなすにあたつては、被処分者たる原告に弁明の機会を与え、慎重かつ厳正な審理をなしたうえ、証拠に基づき厳密な事実認定をなすべきであることは条理上当然であるところ、本件決定にあたり、被告は、原告に対し、何ら弁明の機会を与えず、突然一方的になしたものであり、また、その理由とするところも、「連枝にありながら、今日まで何らの反省もなく、連枝にあるまじき言動をもつて宗門を混乱せしめてきた。」というのみで、具体的な事実が摘示されていないし、証拠によつて認定されたものでもないから、本件決定は条理に反し、懲戒権の濫用である。

6  金員請求について

(一) 原告は、従前、被告より、毎月二五日限り、

(ア) 内事部出仕手当 金八万五〇一円

(イ) 連枝回付金 金一二万七一〇〇円を支給されていた。

(二) 被告は、原告に対し、本件懲戒処分を理由として、昭和五七年四月分以降右(ア)の支給を停止し、また、本件決定を理由として、同年五月分以降右(イ)の支給を停止した。

7  よつて、原告は、被告に対し、本件懲戒処分及び本件決定がいずれも無効であることの確認と、昭和五七年四月二六日から同五八年二月二五日までの間の右内事部出仕手当及び同五七年五月二六日から同五八年二月二五日までの間の右連枝回付金の総合計金二一五万六五一一円並びに同五八年二月二六日以降本件判決言渡日に至るまで一か月合計金二〇万七六〇一円の割合による右内事部出仕手当及び連枝回付金の支払いを求める。

二  請求の原因に対する被告の認否

1  請求の原因1の(一)のうち、原告が大谷光暢の四男であり、元連枝であつたことは認め、その余の事実は否認する。同1の(二)のうち、被告の目的は否認し、その余の事実は認める。

2  同2の事実はすべて認める。

3  同3の(一)は争う。

同3の(二)のうち、(1)の事実、及び審問会が昭和五七年三月一日に開かれたことは認めるが、その余の事実は否認する。

同3の(三)の(1)、(2)はいずれも争う。

4  同4の事実は認める。

5  同5は争う。

6  同6の事実は認める。

7  同7は争う。

三  被告の本案前の抗弁及び主張

1  被告の本案前の抗弁

(一) 本件懲戒処分の無効確認請求について

(1) 原告の右請求は、宗教法人たる被告の内部規律の問題である懲戒処分についての争いであり、本来司法権の及ぶものはない。

(2) 同請求は、懲戒処分の無効確認というものであり、右処分によつて生ずる原、被告間の具体的な法律関係の争いではないから、司法権の範囲外のものである。

(二) 本件決定の無効確認請求について

(1) 連枝は、原告主張の本山寺法を前提とすれば、「本願寺の住職及び法嗣又は先代住職の子であつて、得度式を受けた者」とされ、本願寺住職を補佐する本願寺における宗教上の地位であり、また、被告主張の現行宗憲、内事章範によれば、「門主及び新門又は前門の子であつて得度式を受けた男子」をいい、「儀式について門主を補佐するもの」であり、被告における宗教上の最高位者たる門主に由来する宗教上の地位であつて、いずれにせよ、連枝は宗教上の地位であるから、連枝たる身分を除く行為は宗教上の行為であつて、司法権の範囲外のものである。

(2) 連枝は、原告主張の本山寺法を前提とすれば、本願寺における身分であつて、本願寺を相手として訴を提起すべきであり、被告を相手としたのでは本願寺に判決の効力が及ばず、粉争の根本的解決とならないから、即時確定の利益を欠くものである。

(三) 金員請求について

右請求は、右(一)、(二)に記載の、宗教法人たる被告の内部規律の問題、及び連枝たる宗教法上の地位を前提とするものであるから、不適法である。

2  被告の主張

(一) 被告の原告に対する懲戒権の有無について

(1) 原告主張の本山寺法は、新宗憲の施行(昭和五六年六月一一日)に伴つて廃止されているから、請求の原因3の(一)の(1)、(2)の各主張は、いずれも前提を欠くものである(後記(五)「本山寺法廃止の経緯、合法性について」参照。)。

(2) また、懲戒条例は、被告の僧侶一般に適用されるものであり、連枝といえども被告の僧侶である以上、非違行為についての懲戒処分を除外されるいわれはない。

(二) 本件懲戒処分の手続的適法性について

原告に対する懲戒手続は、昭和五六年一二月一六日、監事よりの提訴によつて審問が開始され、審問会を同月二五日午後一時、昭和五七年一月二一日午前一一時の二回開いたが、原告はいずれも出頭せず、第三回期日を同年二月二三日午前一一時と指定したが、その前日、原告より、訴外安居院憲美を通じて右期日は差支えるとの連絡を受けたため、右期日を変更して、同年三月一日午前一一時とする旨右訴外人を通じて通知のうえ、念のため審問会の期日の通知及び召喚状が発せられ、右三月一日に原告を重懲戒七年に処する旨の判定を下したものである。従つて原告主張のように手続的に違法な点はない。

(三) 本件懲戒処分の実体的適法性について

(1) 原告主張のような「紛争に関与した者に対する報復的懲戒は、どのような事情があろうとも一切行わない。」旨の合意が成立した事実はない。

また、昭和五五年二月に成立した大谷光暢らと五辻内局らとの間の和解に際して五辻内局側代理人が大谷光暢に差し入れた「覚書」は、被告の紛争に関連して、右和解以前の行為について、和解の成立した事情を斟酌して善処しようとするものであり、右和解以後の行為についての取決めではなく、また、和解を尊重して行動することが前提とされているものである。しかるに原告は、右和解成立後も現在に至るまで、右和解に反する行動をとり、宗門の秩序を乱しているものであるから、被告において、右「覚書」によつて、原告に対し懲戒処分が行えないわけではない。

更に、右「覚書」は、被告の宗務行政についてのものであり、被告の司法機関である審問院が右「覚書」の存在をも考慮に入れたうえで審問手続を行つているのであつて、何ら違法はない。

(2) 審問院が判定書の事由欄で摘示した原告の行為は、全て事実である。

例えば、井波別院の離脱問題については、原告は、前記和解において、被告の別院について、その代表役員の地位を住職から輪番に移すことに同意し、原告が住職となつている別院については、その趣旨に沿つた別院の規則の変更に必要な行為をするとともに、その規則変更認証の申請を知事に対して行い、自己以外の者が住職となつている別院については、代表役員の変更にできる限りの努力をすることを確約していた。ところで、井波別院は原告が住職である別院であるから、原告は、右和解に従つて、右別院について、代表役員の変更に関する規則の変更を行うべきであるにも拘らず、右和解後離脱の規則変更の認証申請を促進しているが、右行為は、和解に反する。また、福井別院の離脱問題についても原告が積極的に参画しており、被告宗門の混乱を助長していることは明らかである。

(四) 被告の原告に対する本件決定をなす権限の有無及び本件決定の適法性について

(1) 本山寺法を前提とする請求原因5の(一)の主張は、その前提を欠き失当であることは前記2の(一)の(1)のとおりである(後記(五)「本山寺法廃止の経緯、合法性について」参照。)。

(2) 請求の原因5の(二)に対する反論は、前記2の(二)の(1)のとおりである。

(3) 原告は、連枝の地位を利用して宗門を乱しているため内事会議、内局会議の議を経て連枝の身分を除かれたものであり、何らの違法も存しない。

(五) 本山寺法の廃止の経緯、合法性について

原告主張の本山寺法が廃止された経過は、以下のとおりである。

(1) 真宗大谷派の宗憲は、昭和五一年の定期宗議会において改正され、管長に関する規定は次のとおり変更された。すなわち、旧宗憲第一五条二項の「管長は、本派を主管し、代表する。」との規定を削除し、第一七条の三を新設し、「管長の宗務に関する行為は、すべて内局の助言と承認とを必要とし、内局がその責を負ふ。」との規定を置き、第一九条の旧規定「管長は、内局の補佐と同意によつて、左の宗務を行ふ。」とあるのを、「管長は、内局の上申により、左の事項を行はなければならない。」と改められ、管長の行うべき事項のうち、宗議会に関する事項について招集及び解散を除く、開会、閉会、会期の延長、停会が削除された。

また、管長推戴条例第八条も、昭和五一年の右定期宗議会において、次のとおり改正された。すなわち、同条例第八条は、「管長が欠けて直ちに後任を定めがたいとき、未成年であるとき、久しきに亘りてその職務を行うことができないとき、又は正当の事由なくしてその職務を行わないときは管長代務者を置く。」ものとし、第九条は、「管長代務者の決定は、参与会、常務員会の四分の三以上の出席した会議で、四分の三以上の多数を以てこれを決する。」こととし、「管長代務者の就任を要する場合の認定は、宗務総長が参与会及び常務員会に諮つてこれを定める。」こととされた。

(2) 右昭和五一年の定期宗議会は、大谷光暢管長の職務拒否に伴つて選任された訴外嶺藤亮管長代務者によつて招集されたものであり、同人の職務執行については争いがあつたが、右定期宗議会の議決は、以下の経緯により、法律上有効なものとして確定した。

すなわち、まず、当時、大谷光暢管長及び原告らと内局側で紛争が続いていたところ、昭和五五年一一月初めに至り、両者の間で、大谷光暢及び原告側は、①被告及び本願寺の代表役員の地位を宗務総長に移すこと、②訴外竹内良恵が管長代務者として行つた宗務、嶺藤亮が宗務総長及び管長代務者として行つた宗務、訴外五辻實誠が宗教総長として行つた宗務、並びに昭和五〇年より同五五年までの間に開催された宗議会及び門徒評議員会の議決をすべて瑕疵なく有効なものとして承認すること、③全国の別院の代表権を輪番に移すことに同意し、一方、内局側は、①大谷光暢らに対する刑事告訴を取下げること、②大谷光暢らが本願寺の代表役員名で負担した債務を内局側において処理することに同意するという和解が成立した。

そして、右合意に基づき、内局側は大谷光暢を管長と認め、二人管長の異常事態を収拾して、大谷光暢管長は五辻内局を任命し、右合意事項の承認並びに実現のため、臨時宗議会を招集した。昭和五五年一一月一九日に招集された臨時宗議会は、冒頭、大谷光暢側と内局側の右合意事項、とりわけ過去の宗務及び宗議会の議決について、出席議員五一名の全員一致によつてこれを承認し、代表権移譲に必要な規則の改正を審議し、全て可決して終了した。

更に、大谷光暢側と五辻内局側とは、昭和五五年一一月二二日即決和解(京都簡易裁判所昭和五五年(イ)第八八号)を行い、右合意事項は和解調書に記載され、確定判決と同一の効果を有するに至つた。

(3) 昭和五六年五月二七日の定期宗議会における宗憲改正、本山寺法の廃止

(イ) 被告においては、宗憲上(旧宗憲第二三条)、定期宗議会を毎年一回招集しなければならないとされ、会計年度(毎年七月から翌年六月末まで)の関係から、年度内に予算を成立させるために六月中に審議を終えなければならず、毎年、年度末に開催されてきたものであるが、昭和五六年度においては、同年四月四日、五辻宗務総長が大谷光暢の代理人である内藤頼博弁護士を通じて、定期宗議会の招集方の上申を行つた。

(ロ) ところが、大谷光暢管長は、管長には宗務について実質的権限はなく、内局の上申によつて職務を行うべきこととされ(前記旧宗憲第一九条)、また、定期宗議会については議案の明示を要求する法規、慣例もないのに、議案を明示せよとの法外な要求をして、同月二二日、内藤弁護士を通じて定期宗議会の招集を拒否する旨を五辻宗務総長に通知した。

(ハ) 大谷光暢管長の右定期宗議会の招集拒否は、極めて重大な義務違反である。定期宗議会による予算が議決できないことになれば、末寺からの宗費等の上納金によつてのみ運営され、自身の固有財産をもたない被告としては、七月以降、被告はもちろん、本願寺の宗教上の行事を含む一切の運営が不可能となるため、このように特別重大な宗憲第一九条の義務違反を、内局が拱手傍観することが許されないことは明らかであつた。そこで、緊急事態に対する措置として、五辻宗務総長は、大谷光暢管長の定期宗議会の招集拒否が、「正当の事由なくしてその職務を行わないとき」(前記管長推戴条例第八条)に該当すると判断し、管長代務者設置のための参与会、常務員会を同月二三日招集し、念のため翌二四日に再度大谷光暢管長に対して定期宗議会招集方の上申を行つたが、大谷管長が再度招集を拒否したため、同月二七日、参与会及び常務員会を開催し、以上の事情を説明して管長代務者を置くべき場合かどうかを図つた結果、管長代務者を置くべき旨決議され(参与会は、出席議員九名中八名の、常務員会は、出席議員九名中八名の賛成)、竹内良恵が管長代務者に選任されたものである。

(ニ) 竹内良恵管長代務者は、昭和五六年四月二七日、定期宗議会を招集し、同年五月二七日より開催された定期宗議会において、宗憲が改正され、同時に本山寺法が廃止されて、真宗本廟条例、内事章範が制定され、真宗大谷派の法主が廃止され、真宗大谷派門主たる後職が設けられた。そして、竹内管長代務者により右宗憲その他の条例は、同年六月一一日直ちに公布直ちに施行された。

以上の次第であるから、本山寺法を前提とする原告の各主張は、いずれも失当である。

四  被告の本案前の抗弁及び主張に対する原告の認否、反論

1  被告の本案前の抗弁はいずれも争う。

(一) 同(一)及び同(二)の(1)について

被告の右主張は、一般論としては認められるが、例外的に、当該処分が、①それにより被処分者の生活の基盤を覆す程度に重大であり、かつ、②処分手続が著しく正義に悖るか、あるいはその処分が全く事実上の根拠に基づかない場合か、若くは内部規定に照らしてもなおその処分内容が社会観念上著しく妥当を欠くものと認められる場合には、司法権の対象になるものと解すべきである。

ところで、原告に対する本件懲戒処分は、原告より一切の宗教上の地位及び収入の途を奪う苛酷なものであり、また、本件決定も、原告の被告内部における地位を絶対的に剥奪するものであり、かつ従来被告より支給されていた連枝回付金の支給が停止されることにより原告の生活に重大な影響を与える処分であり、その処分手続、内容はいずれも違法なものであるから、司法権の対象となると解すべきである。

(二) 同(二)の(2)について

被告が従来推進してきたいわゆる「宗本一体化政策」、すなわち、宗教法人としての本願寺の役員に被告の役員の職にあるものをもつてあて(宗教法人「本願寺」規則第二章)、財務についてもすべて被告の管轄の下に置く(同規則第三章)ことにより、本願寺は現在では実質的に形骸化し、あたかも被告の一部局のような観を呈している。また、原告の連枝たる身分を除く処分を現実になしたのは被告であり、本願寺は右処分には一切関与しておらず、更に、被告は、右処分は被告の内部規範である内事章範に基づくものとしてその適法性を主張し、現実に原告の連枝としての活動を妨害しているのであるから、原告は、被告を相手としてはじめて有効に右処分の違法性を主張できるものである。

2  被告の主張(一)はいずれも争う。

3  同(二)のうち、昭和五七年二月二三日午前一一時の審問会期日を同年三月一日午前一一時と変更する旨、安居院憲美を通じて連絡したことは否認し、その余の事実は認める。

4  同(三)の(1)は争う。

原告は、昭和五二年八月一一日、昭和五一年当時本願寺財産たる不動産に担保権の設定をしたことを理由として、また、昭和五三年一二月一一日、渉成園を譲渡担保に供したことを理由として、更に昭和五六年一〇月三〇日、昭和五一年当時本願寺財産たる不動産につき所有権移転登記をした点につき原告が関与していたと判決で認定されたことを理由として、各々審問院監察室に申告され、これを受けて監察室は審問院審問室に提訴し、本件懲戒処分となつたものであるが、右懲戒の理由となる原告の非違行為は、全て和解以前の時期の問題を取り上げたもので、まさに報復的懲戒そのものであり、和解時の合意に反するものである。

5  同(三)の(2)は否認ないし争う。

また、原告が各審問会期日に出頭しなかつたのは、正当な事由によるものであるから、これをもつて懲戒の理由とするのは不当である。すなわち、原告は、昭和五六年一〇月三〇日被告審問院監察室に申告されて以来、同室に対し、同五五年一一月二二日の即決和解の際、五辻實誠らの代理人より前記「覚書」が大谷光暢、原告ら側に交付されたことを指摘し、右「覚書」の趣旨につき審問院監査室がどのように理解しているのか釈明を求めていたにも拘らず、同室より何らの回答もなかつたので、原告は、懲戒につき重大な関連性を有する右「覚書」につき何らの釈明も得られぬまま一方的に手続を進められるのは極めて不当であるとして、昭和五六年一二月二六日及び同五七年一月二一日の各審問会期日には出頭せず、また、そのころ原告が住職を勤めていた井波別院瑞泉寺の行事があり、そちらに出席しなければならなかつたため同五七年二月二三日の審問会期日には出頭しなかつたものである。

6  同(四)はいずれも否認ないし争う。

7(一)  同(五)の(1)は争う。昭和五一年の定期宗議会は、嶺藤亮が管長代務者として招集したものであるが、同人は当時管長代務者ではなく、また、それより前の同年五月二五日、裁判所から管長、代表役員代務者としての職務執行停止の仮処分命令を受けていたので、嶺藤亮には右宗議会を開催する権限はなく、従つて、右宗議会における宗憲改正及び管長推戴条例の改正はいずれも無効である。

(二)  同(五)の(2)も争う。

(三)  同(五)の(3)も争う。

宗憲改正が議決されたとする昭和五六年五月二七日の定期宗議会は、適法な招集権者による招集によつて開催されたものではなく、議決は存在せず、従つて右宗憲改正もありえず、宗憲附則の定めにより本山寺法が廃止されたとする被告の主張は、理由がない。

すなわち、昭和五六年の定期宗議会の招集に関する管長大谷光暢宛の上申書は、内局より同年四月二四日午後四時一五分ころ内事部へ届けられ、しかも翌四月二五日午前一〇時までに、允裁して欲しい旨の付箋が付けられていた。ところで、従来より宗議会の招集を求める上申書には議案が記載されており、管長は、記載された議案の審議を求めるため宗議会を招集していたものであるが、前記定期宗議会の招集を求める上申書には議案の記載がなく、内事部長より総務部長にこの点の確認がなされたが、「予算、決算の審議をすることは決定しているが、その余のことについては言えない。」との返答であつた。昭和五〇年度の宗議会の招集の上申時にも議案の上申がなく、管長側と内局側が協議の結果、今後必ず議案を上申するという了解点に立つて宗議会開会となつた前例もあり、管長大谷光暢は、議案の上申を強く求めていた。しかるに、内局は、右上申をしないばかりか、宗議会招集方上申の前日である四月二三日に参与会員に打電するとともに、同日の速達便にて「管長代務者設置に関する件」を議題として参与会の招集通知をし、かつ、四月二七日の常務員会、参与会が開催され、竹内良恵が管長代務者に選任され、同人が前記定期宗議会を招集したものである。

管長推戴条例第八条にいう「管長がその職務を行わないとき」というのは、内局の上申により管長が定められた職務を行うべきすべての条件が完備しているにもかかわらず、故意又は不当にその職務を行わないときという意味と解すべきところ、前記のとおり管長大谷光暢が昭和五六年の定期宗議会の允裁を直ちに行わなかつたのは、招集を求める上申書に宗議会の議案の記載がなく、議案に関する上申を待つていたためで、何ら不当に職務を放置していたものではなく、従つて竹内良恵管長代務者については設置の要件を欠き無効であつて、同人は管長代務者の地位になく、かかる者の招集した宗議会は招集権者の招集に基づく宗議会ではないから無効であり、従つて、右宗議会における宗憲改正、同附則による本山寺法の廃止もすべて無効である。

第三  証拠<省略>

理由

第一被告の本案前の抗弁について

一本件懲戒処分について

被告は、本件懲戒処分の無効確認請求は、被告の内部規律の問題であり、また、右処分によつて生ずる原、被告間の具体的法律関係の争いでないから、司法権の範囲外のものである旨主張するので、右の各点について検討する。

1  まず、本件懲戒処分(重懲戒七年)に処せられた者は、すべての役職務を差免され、住職の地位にある者は、それをも失うことになり、自己の寺院において行われる法要等についても、住職として出仕することができなくなることは当事者間に争いがなく、また、<証拠>によれば、本件懲戒処分により、原告は、被告の役職務としての内事部出仕をも差免されたことが認められ、従つて、本件懲戒処分によつて原告の具体的法律、権利関係に変動を生ずるものであるから、右処分に関する争いは具体的法律関係に関する争いであると認めることができ、更に、原告は、本件懲戒処分の手続的、実体的違法性を主張してその無効確認を求めていることは請求の原因3記載のとおりであるところ、右主張についての判断は宗教上の教義にかかわる場合でもない。そうすると、本件懲戒処分の無効確認請求は、原、被告間の具体的法律関係の争いでない旨の被告の主張は採用できない。

2  次に、被告は、本件懲戒処分は、宗教法人たる被告の内部規律の問題であるから司法権の対象にならない旨主張する。成程、本件懲戒処分が、その性質上、宗教法人たる被告の内部規律の問題であるとの面を有することは否定できない。しかし、本件懲戒処分に処せられた者は、右1に判示の不利益を受けるほか、自己が所属する寺院又は教会以外の場所において僧侶としての行為を行うことは許されず、門徒の自宅で行われる葬式や年忌法要に出向いてお勤めすることすら一切できなくなること、教師、学階を剥奪され、僧侶として最も低い階級である得度式を受けた直後の状態に戻され、あらゆる儀式における序列が最下位になることは当事者間に争いがなく、また、<証拠>によれば、間接的には内事部出仕による手当の支給も受けられなくなることが認められ、かかる重大な事態に至ることを考慮すれば、当該懲戒処分が手続上著しく適正を欠くと認められる場合、若しくは全く事実上の根拠に基づかないと認められる場合、又は、内部規律に照らしてもなおその処分内容が社会観念上著しく妥当性を欠くものと認められる場合においても、なお司法権の対象外として放置することは、宗教法人の内部規律に仮託した無法を許す結果となつて妥当ではなく、右の各場合に限つて裁判所の判断を限定することは、宗教法人の自治をおかすことにもならないと考えられる。そうすると、本件懲戒処分につき、右の各場合があるか否かに限定して、その適否を裁判所として判断をなし得るものと解するを相当とする。

二本件決定について

1  被告は、連枝は、原告主張の本山寺法を前提としても、また、被告主張の内事章範を前提としても、いずれも宗教上の地位であるから、連枝たる身分を除く行為も宗教上の行為であつて、司法権の対象外のものである旨主張するので、この点について検討する。

(一) 昭和五六年五月二七日の定期宗議会において、宗憲改正がなされ、同時に本山寺法が廃止されて内事章範が制定されたことは後記第二の二において判示のとおりであるから、本山寺法を前提とする連枝の地位は現在存在しないので、かかる連枝の地位を除く処分の無効確認を求めることはそれ自体利益がなく、更に、右改正後の現宗憲、内事章範下における連枝の地位の性格を検討するに、<証拠>を総合すれば、右現宗憲、内事章範下において、被告における門首とは、本派の僧侶及び門徒を代表して真宗本廟の宗祖聖人真影の給仕並びに仏祖の崇敬に任じ、僧侶及び門徒の首位にあつて、同朋とともに真宗の教法を聞信するものとされ、被告における宗教上の最高位者とされること、その権限は、儀式の執行等宗教的儀礼的なものにとどまり、特に宗憲で特別に規定されたもののほか、宗務執行に関する権限を有しないとされていること、他方、連枝は、門首及び新門(一定の門首後継者で得度式を受けた者)又は前門(門首がその地位を退任した場合の呼称)の子であつて得度式を受けた者というとされ、儀式について門首を補佐するとされていること、被告の代表者、財産管理等については、別に宗憲(乙第一号証)、宗教法人「真宗大谷派」規則(同第四号証)等に定めがあり、連枝がその地位において被告の人事権や財産上の取引についての事務を行う権限を有する旨規定されたものは存在しないので、連枝は被告の人事権や財産上の取引についての事務を行う権限を有せず、宗教上の活動を行うにとどまること、以上の事実が認められ(これに反する証拠はない。)、これらの事実を総合すると、現宗憲、内事章範下における連枝の地位は、被告における単なる宗教上の地位にとどまると解するのが相当である。

(二) もつとも、連枝の地位が右に判示のとおり被告における宗教上の地位にすぎないとしても、連枝たる身分を除かれることによつて、原告が請求の原因6に主張するように連枝回付金の支給が停止されたとすれば、この限りでは原告は、具体的な法律関係を主張して争うものであると解される余地もあるので、右の点について更に検討する。

連枝の地位は、被告における宗教上の地位にすぎないことは前記判示のとおりであり、これに鑑みれば、連枝と被告との間には一定の契約関係は認められず、また、<証拠>によれば、連枝回付金が支給される趣旨は、連枝としての一応の対面を保つという意味で、連枝という地位にあること自体を原因として支給されるものであつて、職務に対する対価性はないことが認められ、また、原告は、従前被告より、毎月二五日限り連枝回付金一二万七一〇〇円を支給されてきたことは当事者間に争いがないが、<証拠>によれば、被告から原告に対する右連枝回付金の支給については、格別の支給決定ないし双方の合意はなされず、一方的に被告から原告に対して手渡により支給されてきたことが認められ、右認定の各事実に照らせば、原告が被告に対し権利として連枝回付金の支払請求権を有すると認めることは困難である。

(三)  以上の次第で、連枝の地位を除く処分(本件決定)の無効確認請求は、具体的な権利又は法律関係の存否について確認を求めるものとはいえないので、このような訴えは確認の訴えの対象となるべき適格を欠くものに対する訴えとして不適法であるものといわなければならない。

なお、原告は、事実欄の第二の四の1の(一)記載の例外的な場合には、右に判示のような事情があつても司法権の対象になる旨主張するが、たとえ原告主張のように、本件決定により原告の生活の基盤にその主張の重大な影響があるとしても、本件決定の無効確認請求の訴えは、前記判示の性質を有し、結局、法令の適用による終局的解決の不可能なものである。

2 そうすると、連枝の地位を除く処分の無効確認請求の訴えは、不適法として却下を免れない。

三金員請求について

原告は、内事部出仕手当及び連枝回付金として一定の具体的な金員の支払いを求めているものであるところ、前記判示のとおり連枝の地位は宗教上の地位ではあるが、原告としては、右各金員を、法律上の権利としてその支払いを求め得るものとして主張しているものであるから、その主張の当否はともかくとして、その権利の有無を判断するについて、宗教法人たる被告の教義にかかわることになるものではないばかりか、その自治をおかす結果になるものでもないから、金員請求の訴えを不適法として却下すべきであるとの被告の主張は採用できない。

第二本案について

一請求原因1の事実(当事者)について

原告が大谷光暢の四男であり、元連枝であつたこと、及び被告が昭和二七年四月一〇日設立された宗教法人であつて、本山本願寺を中心として寺院、教会その他の所属団体、僧侶及び壇徒、信徒を包括する宗門であることは当事者間に争いがない。

二本山寺法の廃止について

原告は、本山寺法を前提とした主張をなし、他方、被告は、昭和五六年五月二七日の定期宗議会において宗憲の改正がなされ、同時に本山寺法が廃止された旨主張するので、これらの点につき検討する。

1  <証拠>を総合すれば、昭和五一年の第一〇三回定期宗議会において、宗憲改正及び管長推戴条例の改正が行われたこと、右のうち、宗憲改正については、旧宗憲第一五条二項の「管長は、本派を主管し、代表する。」との規定を削除し、第一七条の三を新設し、「管長の宗務に関する行為は、すべて内局の助言と承認を必要とし、内局がその責を負ふ。」との規定を置き、第一九条の旧規定「管長は、内局の補佐と同意によつて、左の宗務を行ふ。」とあるのを、「管長は、内局の上申により、左の事務を行はなければならない。」と改められたこと、また、管長推戴条例の改正については、同条例第八条は、「管長が欠けて直ちに後任が定めがたいとき、未成年であるとき、久しきに亘りてその職務を行うことができないとき、又は正当の事由なくしてその職務を行わないときは、管長代務者を置く。」ものとし、第九条は、「管長代務者の決定は、参与会、常務員会の四分の三以上の出席した会議で、四分の三以上の多数を以てこれを決する。」こととし、「管長代務者の就任を要する場合の認定は、宗務総長が参与会及び常務員会に諮つてこれを定める。」こととされたこと、以上の各事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  もつとも、原告は、右昭和五一年の第一〇三回定期宗議会は、嶺藤亮管長代務者によつて招集されたものであるところ、右嶺藤亮は管長代務者ではなく、また、同人は裁判所から職務執行停止の仮処分を受けていたから、右宗憲改正及び管長推戴条例の改正は、いずれも無効である旨主張するので、右の点につき更に検討する。

<証拠>を総合すれば、昭和五五年一一月初め、大谷光暢らと被告内局側で、大谷光暢は、①被告及び本願寺の代表役員の地位を宗務総長に移すこと、②竹内良恵が管長代務者として行つた宗務、嶺藤亮が宗務総長及び管長代務者として行つた宗務、五辻實誠が宗務総長として行つた宗務、並びに昭和五〇年より同五五年までの間に開催された宗議会及び門徒評議員会の議決をすべて瑕疵なく有効なものとして承認すること、③全国の別院の代表権を輪番に移すことに同意し、一方、内局側は、①大谷光暢らに対する刑事告訴を取下げること、②大谷光暢らが本願寺の代表役員名で負担した債務を内局側において処理することに同意すること等を内容とする和解が成立したこと、その後、大谷光暢管長によつて招集された昭和五五年一一月一九日の第一一一回臨時宗議会において、五辻實誠が宗務総長として右和解内容を報告したところ、藤谷議員が、「嶺藤内局以来行われた一切の宗務並びに宗議会の議決承認行為に対し瑕疵なきものとして有効であることを宗議会としても承認する。」旨の決議を求める緊急動議を提出したこと、そこで議長の訴外古賀制二が右動議を議題とすることに決定したこと、同宗議会は出席議員五一名の全員一致で、昭和五〇年六月六日開催の第一〇一回宗議会から同五五年六月六日開催の第一一〇回宗議会までの合計一〇回の宗議会の決議及び承認についてすべて瑕疵のないものとして有効である旨承認するほか、①嶺藤亮ら内局が行つた宗務及び本願寺の事務、②嶺藤亮管長代務者が行つた宗務及び本願寺の事務、③竹内良恵管長が大谷派の管長として行つた宗務及び本願寺の事務、④五辻ら内局が行つた宗務及び本願寺の寺務がすべて瑕疵ないものとして有効なものであると承認する旨の決議をしたこと、そして昭和五五年一一月二二日京都簡易裁判所において、申立人竹内良恵、同嶺藤亮、同五辻實誠、同古賀制二と相手方大谷光暢、同大谷智子、同大谷暢道間で前記和解条項による起訴前の和解が成立したこと、以上の各事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

以上の経緯を考慮すれば、昭和五一年の第一〇三回定期宗議会における宗憲改正及び管長推戴条例の改正は、法律上有効なものとして確定したと解するのが相当である。

3  以上を前提として、昭和五六年五月二七日に開催された定期宗議会における宗憲改正、本山寺法の廃止の適否について検討する。

(一) <証拠>を総合すれば、昭和五六年当時、被告においては、宗憲上定期宗議会を毎年一回以上開くこととされていたこと、そこで同年四月四日、五辻實誠宗務総長が大谷光暢の代理人である内藤頼博弁護士を通じて定期宗議会の招集方の上申を行つたこと、しかし、大谷光暢管長は、議案を明示せよという要求をなして、同月二二日、右内藤弁護士を通して定期宗議会の招集を拒否する旨を五辻實誠宗務総長に通知したこと、そこで五辻實誠宗務総長は、大谷光暢管長の定期宗議会招集拒否が、「正当の事由なくしてその職務を行わないとき」(管長推戴条例第八条)に該当すると判断し、管長代務者設置のための参与会、常務員会を同月二三日に招集したこと、そして念のため、翌二四日に再度大谷光暢管長に対して定期宗議会の招集方の上申を行つたが、大谷光暢管長が再び招集を拒否したこと、そのため同月二七日、参与会、常務員会を開催し、以上の事情を説明して管長代務者を置くべき場合かどうかを図つた結果、管長代務者を置くべき旨決議され、竹内良恵が管長代務者に選任されたこと、竹内良恵管長代務者は、同年四月二七日、定期宗議会を招集し、同年五月二七日より開催された定期宗議会で宗憲改正がなされ、改正された宗憲の附則により、同時に本山寺法が廃止されたこと、また、同宗議会で内事章範が制定され、連枝の地位も同条例に基づくものと改められたこと、同条例附則により、従前連枝であつた者は、同条例による連枝とみなされたこと、新宗憲及び内事章範は昭和五六年六月一一日施行されたこと、以上の各事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二) ところで、前記1で認定した事実によれば昭和五一年の宗憲改正により、管長には宗務に関して実質的権限はなく、内局の上申によつて職務を行うべきこととされたことが認められ、また、<証拠>によれば、臨時宗議会の招集発令については議案の明示が明文で要求されているのに対して、定期宗議会のそれについては、特に議案の明示を要求する規定はなく、またその旨の慣例も存しないことが認められ、以上を総合考慮すれば、大谷光暢が定期宗議会の招集をしなかつたのは、管長推戴条例第八条にいう「正当の事由なくして職務を行わないとき」に該当し、管長代務者設置の要件は充足しており、竹内良恵を管長代務者に選任し、同人が昭和五七年四月二七日定期宗議会を招集したことも適法であつたものと認められ、徒つて同年五月二七日に開催された定期宗議会における前記宗憲改正、内事章範の制定、及び本山寺法の廃止は適法であつたものと認めるのが相当である。

4  従つて、連枝の地位は、内事章範に基づく地位に変更されたものと認められ、この点に関し、本山寺法を前提とする原告の主張はすべて採用することができない。

三請求の原因2の事実(本件懲戒処分がなされたこと)は当事者間に争いがない。

四そこで、本件懲戒処分が、原告主張のとおり違法、無効であるかについて以下検討する。

1  請求の原因3の(一)(被告の原告に対する懲戒権)について

(一) 原告は、連枝といえども被告の僧侶であるが、一般の僧侶の僧籍が寺院又は法人である教会に置かれるのに対し、連枝の僧籍は本山に置かれる(本山寺法第一五条二項)等特別の取扱いがなされ、また、懲戒処分についても、一般の僧侶とは異なる手続によつて懲戒処分がなされ、その処分内容も異なることとされており(同法第一五条六項)、連枝は特別の身分を有する旨主張するが、右本山寺法は、昭和五六年五月二七日の定期宗議会における宗憲改正に伴つて廃止されたこと、前記二に判示のとおりであるから、同法を前提とする原告の主張は採用できない。

(二) また、<証拠>によれば、懲戒処分に関する関連法規においては、懲戒処分の対象となる僧侶について、「僧侶の非違行為」、「非違のあつた僧侶」という様に一般的に規定されており、特に連枝を除外する趣旨の規定は存在しないこと、審問院の院長も、当時、連枝が被告の僧侶である以上、懲戒条例の適用対象になるという解釈をとつていたことが認められ、右各点を考慮すれば、連枝といえども被告審問院の懲戒手続に服すると解するのが相当である。なお、原告はその本人尋問において、特別の身分を有する連枝には懲戒権が及ばない旨供述するが、右認定事実に照らすとたやすく措信できず、また、原告は、堂班法衣条例との関係でも連枝に対する懲戒は予定されていない旨主張する。しかし、<証拠>によれば、同条例は、僧侶の法要式における序列並びに法衣の種類及びその依用を定めることを目的とすること、同条例は連枝に関するものを除外していること(同条例第一条)が認められるが、同条例は、右目的との関連で連枝を除外しているに過ぎないと考えられ、同条例の存在のみで、被告の懲戒処分に関する関連法規が連枝には及ばないと解することはできない。この点の原告の主張も採用できない。

2  請求の原因3の(二)(本件懲戒処分の手続的違法性)について

(一) 同3の(二)の(1)の事実は当事者間に争いがない。

(二) そこで、同3の(二)の(2)について検討する。

原告に対する懲戒手続は、昭和五六年一二月一六日、監事からの提訴によつて審問が開始されたこと、審問会を同月二五日午後一時、昭和五七年一月二一日午前一一時の二回開いたが、原告はいずれも出頭しなかつたこと、第三回期日が同年二月二三日午前一一時と指定されたが、その前日原告から右期日は差支えるとの連絡があつたため、右期日を同年三月一日午前一一時に変更し、改めて審問会の期日の通知及び招換状が発せられたこと、以上の各事実は当事者間に争いがなく、また、<証拠>によれば、右三月一日の審問会の通知及び招換状が原告に到達したのは同年二月二五日であることが認められる。そして、<証拠>によれば、昭和五六年二月二三日の審問会は、原告不出頭のまま一応開かれた後、次の審問会期日を同年三月一日午前一一時に変更し、その旨、右二三日に、電話で訴外安居院憲美を通じて原告に通知したことが認められる。

ところが、<証拠>を総合すれば、右のとおり昭和五七年二月二三日の審問会期日を同年三月一日に延ばしたのは、手続的には期日の延期、変更という手続であり、新たな審問会期日の決定ではなかつたこと、期日の延期、変更の場合については、特に審問条例(甲第一三号証)にも、期日の通知、招換状の送付と審問会期日の間の猶予期間に関して規定がないこと、当時、審問院長も、右のような場合には、審問条例第一六条の規定は適用されないと解釈していたことが認められる。してみれば、昭和五七年三月一日に審問会を開いたのは審問条例第一六条に違反し、手続的に違法である旨の原告の主張は採用できない。

3  請求の原因3の(三)(本件懲戒処分の実質的違法性)について

(一) 同3の(三)の(1)について

原告は、昭和五五年一一月一八日、原、被告間で、「紛争に関与した者に対する報復的懲戒は、どのような事情があろうとも一切行わない。」旨の合意が成立した旨主張するので、この点につき判断する。

成程、<証拠>によれば、右同日、「竹内良恵外三名は、大谷光暢に対し、本件紛争に関連して行われた懲戒処分の減免及び離脱寺院の復帰に関して、その事実を斟酌して善処することを約諾する。」旨の記載がある覚書が作成されたことが認められるが、その趣旨はあいまいであつて、右「覚書」の文言上、原告主張のような合意を読み取ることは困難であり、また、<証拠>によれば、昭和五五年一一月二二日成立した即決和解においては、原告主張のような合意には一切触れられていないことが認められ、右によれば、原告主張の合意を推認することはできず、<証拠>中、原告の主張に副う部分は、右認定事実、及び他に右主張事実を裏付ける証拠がないことに照らし、たやすく措信できず、他に原告主張の合意を認めるに足りる証拠はない。

(二) 同3の(三)の(2)について

原告は、本件懲戒処分にあたり、被告が原告の非違行為として認定した事実はいずれも漠然かつあいまい模糊としており、しかも証拠に基づかないものであるから、本件懲戒処分は違法であり、無効である旨主張するので、右の点について検討する。

(1) <証拠>を総合すれば、原告は、昭和五二年八月一一日、同五三年一二月一一日及び同五六年一〇月三〇日の三回に亘つて被告総務部長より申告されたが、右各申告は、いずれも証拠を添付してなされていること、同年一二月一六日、審問院監察室が原告を提訴した際も、右各申告内容に基づいてなされたこと、本件懲戒処分の判定書(甲第七号証)には具体的に認定事実が記載されており、しかもその認定は提訴状及び申告書に記載ないし添付された書類に基づいて審理したうえでなされていること、原告は、井波別院瑞泉寺の住職を勤めていたところ、昭和五五年一一月に成立した和解に従つて、代表役員の変更に関する規則の変更を行うべきにも拘らず、その後被告からの右寺院の離脱の規則変更の認証申請を促進しており、右井波別院瑞泉寺の離脱問題に参画していたこと、以上の事実が認められ、更に、原告自身、その本人尋問において、闘争資金確保のため本願寺財産を処分したこと自体は認める旨供述していること等を考え併わせれば、被告審問院が、原告は、連枝の地位を利用して不当に宗政に介入し、また、これらのための資金調遠のため本願寺財産を不法に処分した旨認定したのは、事実に基づく妥当なものであつたと認めるのが相当である。

(2) また、<証拠>を総合すれば、原告は、審問院監察室の再三にわたる呼出にも理由を述べず応じなかつたこと、審問会期日の通知、招換状に対しては、単に前記「覚書」(甲第二二号証)についての釈明を求め、あるいは「家庭の事情」、「自坊の用事」という理由の返答をなすのみで、具体的理由を明らかにすることなく審問会期日にはいずれも出頭しなかつたこと、原告は、当時、井浪別院瑞泉寺の住職を兼ねており、同別院においては、月末の二八日講、その一〇日前に開かれる役員会、開信会、経友会、責任役員との会合等の行事があつて、原告はそのたびに京都から同別院に赴くことになつていたこと、しかしながら、右のうち、開信会と経友会は、やむを得ない事情があれば原告不在でも行えること、また、責任役員との会合は、年一回以上であるものの、普通七月に行われていること、以上の各事実が認められ、以上を総合して考察すれば、原告が監察段階及び審問段階においていずれも正当と認むべき理由も無いのに出頭しなかつたと認定した被告審問院の判定は不当とはいえない。もつとも、右各証拠によれば、原告は、本件懲戒処分が決定された昭和五七年三月一日の審問会期日には、二八日講のため右井波別院に赴いていたことが認められるが、これのみでは、正当な理由による不出頭とはいえず、前記認定に照らすと、被告審問院が原告の正当の事由なき不出頭を懲戒事由の一つにした点に違法はないと解するのが相当である。

(三) しかして、以上判示の諸点を考慮すると、重懲戒七年とする本件懲戒処分の内容が社会観念上著しく妥当性を欠くものと認めることも困難である。

3  そうすると、原告の本件懲戒処分が違法、無効である旨の主張は採用できない。

五請求の原因6(金員請求)について

1  請求の原因6の事実は、当事者間に争いがない。

2  ところで、前記説示したところによれば、原告は、本件懲戒処分により、内事部出仕を差免されたことになるから、昭和五七年四月分以降の内事部出仕手当金の請求権を有しない。そうすると、原告の右金員の支払請求は理由がない。

3 次に、原告は、連枝回付金の請求をするが、前記第一の二の1の(二)に判示のとおり、原告が被告に対し右回付金の支払を求めることができる権利を有することを認めることは困難である。そうすると原告の右金員の支払請求も理由がない。

第三結び

以上判示したところによれば、原告の本訴請求のうち、本件決定の無効確認請求の訴えは不適法であるからこれを却下し、その余の請求(本件懲戒処分の無効確認請求及び金員請求)はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官山﨑末記 裁判官彦坂孝孔 裁判官高橋善久)

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