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京都地方裁判所 昭和58年(行ウ)29号 判決 1988年2月23日

京都市中京区寺町通蛸薬師上ル式部町二六七番地

原告

井藤要一郎

右訴訟代理人弁護士

高田良爾

京都市中京区柳馬場通二条下ル等持町一五番地

被告

中京務署長

被告

喜多村和夫

右指定代理人

松本佳典

高木國博

村田巧一

谷川利明

石井出澄

中村嘉造

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一申立

一  原告

1  被告が原告に対し昭和五七年二月二七日付でした原告の昭和五三年分、昭和五四年分及び昭和五五年分の所得税の更正処分(審査裁決により一部取消された後のもの)を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文と同旨。

第二主張

一  請求の原因

1  原告は、肩書住所地において衣料品小売業を営む者であるが、被告に対し、本件係争年分の確定申告をした。

被告は、昭和五七年二月二七日付で原告に対し昭和五三年分、昭和五四年分及び昭和五五年分の所得税の更正処分(以下本件処分という)をした。

原告は、本件処分に対し、異議申立及び審査請求をした。

国税不服審判所長は、昭和五八年五月三一日、審査請求一部認容の裁決をした。

以上の経過と内容は、別表1記載のとおりである。

2  しかし、本件処分には次の違法事由がある。

(一) 被告の調査担当者は、原告に対する税務長差にあたり、事前通知、調査の理由の開示をしなかつた。

(二) 被告は、原告の本件係争年分の所得金額を過大に認定した。

よつて、本件処分の取消を求める。

二  請求の原因に対する認否

請求の原因1の事実は認め、同2の事実は争う。

三  抗弁等

1  被告の調査担当者は、昭和五六年一〇月二六日、原告方に臨場し、本件係争年分の所得金額の計算の基礎となる帳簿書類等の提示と事業内容の説明を求めた。原告は、具体的な調査理由を開示しない限り、調査に応じる義務はないとして、調査を拒否した。

その為、被告はやむなく反面調査のうえ推計課税の方法で本件処分をしたのであつて、本件処分に手続的瑕疵はない。

2  所得金額

(一) 原告の本件係争年分の売上原価(仕入金額)は別表2記載のとおりである。なお、昭和五四年分は、同表記載の他に菅谷株式会社からジョッキーというブランドの肌着を仕入れており、同年分の売上原価合計は、一四四九万四三三六円となる。

(二) 同業者の選定と原価率及び所得率の算定は、次のとおりである。

被告は、本件係争年分で次の条件に該当する同業者を抽出し、別票3記載のとおりの事例を得た。

イ 衣料品(呉服、洋服地を除く)小売業を営み、それ以外の事業を兼業していない者で、中京税務署管内に事業所を有している者であること。

ロ 年間を通じ継続して序業を営んでいること。

ハ 継続して青色申告書を提出し、不服申立又は訴訟係属中でないこと。

ニ 本件係争年分における売上原価の金額がいずれも五〇〇万円(原告の昭和五三年分売上原価一一〇三万円余の約五〇パーセントを基準とした)以上二九〇〇万円(原告の昭和五四年分の売上原価一四三一万円余の約二〇〇パーセントを基準とした)未満の範囲内にあること。

右同業者は、営業地域、営業規模等の点で原告と類似性があり、青色申告であるからその数値は正確である。従つて、右同業者から同業者原価率、同業者所得率を算定し、これを原告に適用することには合理性がある。

なお、原告はその仕入商品を分類して原告の原価率が右同業者原価率より高く、推計に合理性がないと主張するが、その大口仕入先である株式会社ジョーカーズ及び株式会社キングソツクスからの仕入商品の「上代」すなわち小売定価が明らかでなく、上代のとおりの価格で販売できない商品の数量及び値引額も明らかでないから、右原告主張は理由がない。

(三) 特別経費は、別表4記載のとおりである。

(四) 以上によれば、事業所得金額は、別表5記載のとおりとなる。

3  以上によれば、原告の主張するような違法はなく、原告の本件係争年分の事業所得は本件処分を上回つており、本件処分は適法である。

四  抗弁に対する認否等

1  抗弁等1前段の事実は認めるが、後段は争う。

2  所得金額について

(一) 抗弁等2(一)の事実中別票2記載の売上原価を認め、その余を否認する。

(二) 売上金額及び算出所得金額を否認する。

原告の原価率は別表6記載のとおりであり、被告主張の同業者原価率を原告に適用することには合理性がない。

また、被告主張の同業者が紳士服の販売をしているか否かは明らかでないが、原告は紳士服を取扱つていなかつた。

更に、被告主張の同業者には訴外森下三郎に対する推計課税の根拠として主張された同業者六名を含んでいるところ、原告と同訴外人とは営業規模、業態及び立地条件が全く異なつているから、かかる推計には合理性がない。

(三) 特別経費のうち、支払利息を認め、地代家賃の事業用割合を争う。地代家賃の事業用割合は九〇パーセントである。

(四) 事業専従者控除を認める。

第三証拠

記録中の証拠に関する調書記載のとおり。

理由

一  原告が、肩書住所地において衣料品小売業を営むであること、被告に対して本件係争年分の確定申告をしたこと、被告が本件処分をしたこと、国税不服審判所長が審査請求一部認容の裁決をしたこと、以上の経過と内容が別表1記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

二  推計の必要性

原告は、被告の調査担当者が、原告に対する税務調査にあたり、事前通知、調査理由の開示をしなかつたと主張する。

しかし、被告が質問検査権を行使する際の事前通知、具体的調査理由の告知等実施細目については実定法上特段の定めがなく、権限ある調査担当者の合理的選択に委ねられているものと解される。ところで、原告が、昭和五六年一〇月二六日、原告方に臨場した調査担当者から本件係争年分の所得金額の計算の基礎となる帳簿書類等の提示と事業内容の説明を求められ、具体的な調査理由を開示しない限り、調査に応じる義務はないとして、これを拒否したことは当事者間に争いがなく、また、原告本人尋問の結果によれば、右同日、調査担当者が事前通知なく原告方を訪れ、身分証明書を提示し、本件係争年分の申告が正しいかどうかの確認のため調査に来た旨を告げたのに対し、原告は、調査理由を具体的に説明するよう求め、具体的な説明がない限り調査に協力しない旨を答えたこと、その後、昭和五七年二月ころ、再び、同調査担当者が事前通知なく原告方を訪れ、修正申告のため中京税務署に来るよう勧告したのに対し、原告はこれを拒否したことが認められる。

右の事実によると、調査担当者が事前通知なく臨場し、具体的調査理由を開示しなかつたことが調査の違法事由になると認めるべき特段の事情は窺えず、原告が調査の違法事由として主張するところは、いずれも理由がない。原告は調査を拒否し、修正申告のための話合いをも拒否したもので、被告が推計課税の方法で本件処分をするも止むを得なかつたと認められる。

三  所得金額

1  別表2記載の売上原価は、当事者間に争いがない。

2  推計の合理性

(一)  原告本人尋問の結果によれば、原告は、昭和三一年頃から肩書住所地の借家において「メンズシヨツプイトウ」の屋号で紳士用衣料品(セーター、肌着、ジヤンバー、靴下などの軽衣料)の小売業(店頭販売)を営んでいるが、呉服や洋服地は取扱つていないことが認められる。

(二)  証人中村嘉造の証言により真正に成立したと認める乙二号証、三号証及び同証言によれば、被告が、その主張のとおり、本件係争年分に、衣料品(呉服、洋服地を除く)小売業を営み、それ以外の事業を兼業せず、中京税務署管内に事業所を有し、年間を通じて継続して事業を営み、継続して青色申告書を提出し、不服申立又は訴訟係属中でなく、その売上原価の金額が被告の把握した原告の売上原価の約五〇パーセント以上約二〇〇パーセント未満の範囲内にある同業者を抽出し、別表3記載のとおりの事例を得たことが認められる。

右同業者は、営業地域、営業規模等の点で原告と類似性があり、青色申告であるからその数値は正確である。

原告は、右と異なる原価率を主張し(但し、原告主張の別票6から導かれる原価率がいくらであるかの具体的な主張はない。)、その証拠として甲二ないし六七六号証の各仕入先納品書を提出する。しかし、原告本人尋問の結果によれば、原告には売上、仕入、経費などを記載した帳簿があると認められるにもかかわらず、これを証拠として提出しないことも考慮すると、納品書の掛率の記載のみをもつてしては右原告主張の原価率を認めるに足りないこと言うまでもなく、他に原告主張の原価率を認めるに足る証拠はない。原告は紳士用衣料品であるセーター、肌着、ジヤンバー、靴下などの軽衣料の小売業を営んでいた者であり、右同業者は、衣料品(呉服、洋服地を除く)小売業を営む者で、背広、コート、ブレザー等を販売する者をも含んでいる。しかし、前掲中村の証言によれば、営業地域及び営業規模の類似する範囲内では、セーター、肌着、ジヤンバー、靴下などの軽衣料のみを販売し、背広、コート、ブレザー等を販売しない者を抽出することが困難であつたと認められ、また、このような取扱商品により原価率、所得率に顕著な差があるか否かも判然とせず、仮りに差があるとしても、本件同業者は一四名と多数であつて、広く紳士用衣料品全般についての同業者率を算定したものと認められるから、このようにある程度広範囲に同業者を抽出し、より一般的な同業者率を算出し、これを適用することに合理性がないとはいえない。

以上によれば、右同業者から同業者原価率、同業者所得率を算定し、これを原告に適用することには合理性がある。この認定を左右するに足る主張、立証はない。

被告主張の同業者群の内に訴外森下三郎に対する推計課税の根拠として主張された同業者六名を含んでいるとしても、原告と右同業者群とが営業地域及び営業規模において類似性があることは前記のとおりであつて、原告と同業者群とが類似し、その同業者群と同訴外人とが類似しても、原告と同訴外人とが必ずしも類似するとは言えないことは、むしろ当然の論理であり、右合理性ありとの認定を左右し難い。

3(一)  支払利息は当事者間に争いがない。

(二)  家賃の金額は原告が明らかに争わないから当事者間に争いがないものとみなし、その事業用割合は、成立に争いがない乙一一号証及び原告本人尋問の結果により、被告主張のとおりと認める。

(三)  事業専従者控除については当事者間に争いがない。

4  以上により、原告の本件係争年分の事業所得金額を計算すると、別表7記載のとおりとなること、計数上明らかである。

四  そうすると、その余の判断をするまでもなく、本件処分は右に認定した事業所得の範囲内であるから、被告が原告の本件係争年分の事業所得を過大に認定した違法はない。

よつて、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井関正裕 裁判官 田中恭介 裁判官 榎戸道也)

別表1

原告の係争各年分所得税の課税関係一覧表

<省略>

別表2

仕入金額の内訳

<省略>

別表3

昭和53年分同業者率の算定について

<省略>

昭和53年分同業者率の算定について

<省略>

昭和54年分同業者率の算定について

<省略>

昭和54年分同業者率の算定について

<省略>

昭和55年分同業者率の算定について

<省略>

昭和55年分同業者率の算定について

<省略>

別表4

特別経費

<省略>

注 原告が賃借している店舗兼住宅は、その賃借料は昭和53年分が344,000円、昭和54年分が408,000円、昭和55年分が408,000円であり、床面積は一階が86.20平方メートル、二階が73.36平方メートルであるが、一階のうち15坪を店舗として使用し、2階のうち3坪を倉庫として使用し、その余を家事用に使用している。

従って、総床面積(86.20+73.36=159.56平方メートル≒48坪)のうち一階部分の15坪と二階部分の3坪との18坪が店舗用部分の面積であり、店舗用部分の面積が総面積に占める割合は、18坪÷48坪×100=37.5パーセントとなる。

昭和53年分は、344,000円×37.5パーセント=129,000円

昭和54年分と昭和55年分は、いずれも、408,000円×37.5パーセント=153,000円

別表5

所得金額の計算(被告の主張)

<省略>

注 売上原価は、実地たな卸の状況が不明であるから、係争各年の期首、期末のたな卸高を同額とし、各年分の仕入金額を売上原価とした。なお、昭和53年分と昭和55年分は別表2記載のとおりであり、昭和54年分は別表2記載の金額に菅谷株式会社からの仕入金額を加えた額である。

別表6

53年度

<省略>

54年度

<省略>

55年度

<省略>

別表7

所得金額の計算(当裁判所の認定)

<省略>

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