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京都地方裁判所 昭和58年(行ウ)4号 判決 1984年12月06日

京都市北区大宮釈迦谷一〇番地

原告

原告竹中茂訴訟承継人

竹中裕子

同所同番地

原告

原告竹中茂訴訟承継人

竹中一東志

同所同番地

原告

原告竹中茂訴訟承継人

竹中智史

同所同番地

原告

原告竹中茂訴訟承継人

竹中成周

未成年につき法定代理人親権者母

竹中裕子

岐阜県大垣市代官町一一番地

原告

服部ふじ

山口県山口市大字陶一一三四番地

セキスイハウス山口寮

原告

竹中啓伸

大阪府堺市大美野一一番地

原告

竹中敦子

原告ら訴訟代理人弁護士

猪野愈

京都市上京区一条通西洞院東入元真如堂町三五八番地

被告

上京税務署長

土肥米之

指定代理人検事

笠原嘉人

主文

一  原告らの請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告ら

被告が、昭和五五年一月二一日付で訴外亡竹中準平に対してした竹中準平の昭和五三年分所得税の更正処分(以下本件処分という)を取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決。

二  被告

主文同旨の判決。

第二当事者の主張

一  本件請求の原因事実

(一)  竹中準平は、訴外富士商事株式会社(以下富士商事という)の代表取締役であったが、昭和五四年二月二二日、昭和五三年分の所得税の確定申告をしたところ、被告は、昭和五五年一月二一日、本件処分をした。

右確定申告並びに本件処分の内容及びその後の課税の経緯は、別表1記載のとおりである。

(二)  竹中準平は、昭和五六年四月四日死亡し、その卑属である原告竹中茂、同服部ふじ、同竹中啓伸、同竹中敦子が、遺産相続人としてその権利義務を承継取得したところ、原告竹中茂は、昭和五八年一〇月一六日死亡し、その妻子である原告竹中裕子、同竹中一東志、同竹中智史、同竹中成周が、遺産相続人としてその権利義務を承継取得した。

(三)  本件処分は、竹中準平の昭和五三年分の所得を過大に認定した点で違法であるから、原告らは、本件処分の取消しを求める。

二  被告の答弁

(一)  本件請求の原因事実中(一)、(二)の各事実は、認める。

(二)  同(三)の主張を争う。

三  被告の主張

(一)  竹中準平の昭和五三年分の所得及び税額は、別表2記載のとおりである。以下に分説する。

1 <1> 給与所得金額

竹中準平は、昭和五三年中に、九七万一三三二円の年金を受領した。

竹中準平は、昭和五三年一二月三一日現在で満六五歳以上であるが、昭和五三年分の合計所得金額が一〇〇〇万円を越えるので、右受領年金より老年者年金特別控除額七八万円を控除し得ない(所得税法(昭和四〇年法律三三号による改正後のもの、以下法という)二条一項三〇号、租税特別措置法(昭和五四年法律一五号による改正前のもの、以下措置法という)二九条の四参照)。

したがって、給与所得金額は、収入金額九七万一三三二円から給与所得控除額五〇万円(法二八条三項一号)を控除した四七万一三三二円である。

2 <2> 分離長期譲渡所得金額

被告主張の分離長期譲渡所得金額は、二三三三万四〇〇〇円であり、その計算の根拠は、次のとおりである。

<省略>

<ア> 譲渡価額

竹中準平は、昭和五三年一月一八日、買主訴外中澤八束と京都市北区大宮釈迦谷一〇番二六二 雑種地三一九平方メートル及び同所一〇番二六三 山林一〇平方メートル(以下本件物件という)を、二七〇〇万円で売買する契約を締結した。

竹中準平は、右契約に際して、中澤八束が負担すべき仲介料を負担することを口頭で約束し、同年三月三〇日、中澤八束が負担すべき仲介料八四万円及び自身が負担すべき仲介料五〇万円の合計一三四万円を仲介業者訴外高田伝蔵へ支払った。

したがって、竹中準平の譲渡価額は、二七〇〇万円から、負担した買主分仲介料八四万円を差し引いた二六一六万円である。

<イ> 取得費

本件物件の取得費は、譲渡価額二六一六万円の一〇〇分の五に相当する金額である(措置法三一条の三参照)。

<ウ> 譲渡費用

譲渡費用は、仲介料五〇万円及び登記代一万八〇〇〇円合計五一万八〇〇〇円である。

<エ> 特別控除額

分離長期譲渡所得の特別控除額は、一〇〇万円である(措置法三一条三項参照)。

3 竹中準平の昭和五三年分の分離長期譲渡所得には、法六四条二項の適用がない。すなわち、

(1) 法六四条二項が適用されるためには、次の実体的及び手続的要件が具備されなければならない。

(a) 保証債務契約等(主たる債務)が存在すること。

(b) 求償権の行使が不可能となる以前に、保証債務契約が締結されていること。

(c) 保証債務が履行されていること。

(d) 保証債務の履行後に求償権の行使が不可能となること。

(e) 確定申告に際して、法六四条二項の規定の適用を受けたい旨の申告をすること。

(2) ところで、竹中準平は、本件物件の譲渡代金全額を、訴外新富士通商株式会社(以下新富士通商という)に貸し付けたもので、富士商事の保証債務を履行していないから、前記要件中(c)の要件を欠くことになる。

なお、竹中茂らは、昭和五〇年六月三日、新富士通商を設立し、富士商事(同年三月一八日取引停止処分を受けて倒産)の営業を引き継いだ。

(3) 本件譲渡代金の使途は、次のとおりである。

(手付金一五〇万円について)

手付金一五〇万円は、竹中準平が昭和五三年三月六日、新富士通商に貸し付けたところ、新富士通商は、本件物件の仮差押登記抹消請求訴訟の供託金として支払った三〇〇万円(乙第九号証の一)の一部に充当した。

(残代金二五五〇万円について)

(a) 竹中準平は、同月三〇日、残代金二五五〇万円の内、仲介料等一三五万八〇〇〇円を差し引いた残額二四一四万二〇〇〇円全額を手付金同様、新富士通商に貸し付け、新富士通商も竹中準平からの借入金として会計処理をした。

(b) 新富士通商は、同日右借入金の内二〇〇〇万円を、新富士通商の代表取締役訴外松井清祐の主宰する訴外有限会社マツヰ(以下マツヰという)に貸し付けた。

(c) マツヰは、同年四月五日、松井清祐の名で訴外京都中央信用金庫円町支店の竹中茂の普通預金口座へ四四〇万円を振り込んだ。

このことは、会計伝票から明らかに、マツヰが新富士通商に借入金四四〇万円を返済したものである。

(d) マツヰは、同月一一日、新富士通商へ四一〇万円を返済し、同日、新富士通商は、富士商事の債権者訴外上野寛一へ四一〇万円代位弁済した。

(e) さらに、マツヰは、同年七月二一日、京都中央信用金庫円町支店の富士商事の普通預金口座へ八〇万円振り込んだ。

これも、前記(c)同様、マツヰが、新富士通商へ借入金八〇万円を返済したものである。

(f) そして、新富士通商の昭和五四年三月三一日終了事業年度の法人税確定申告書の付属明細書によると、当該事業年度末日現在で、マツヰへの貸付金残高一〇五一万四〇〇〇円(一八万六〇〇〇円の回収年月日不明)が計上されている。

(g) 新富士通商は、昭和五三年三月三〇日、竹中準平から借り入れた二四一四万二〇〇〇円の内二〇〇〇万円については前記のとおりマツヰに貸し付け、残額については富士商事の債権者京都信用保証協会へ、同日、三一四万七〇四円、同年四月八日、八〇万円及び同月二六日、一〇万円をそれぞれ代位弁済した。

そして、新富士通商は、富士商事の債務の弁済額を、富士商事への貸付金として、計上している。

(まとめ)

以上の事実から、竹中準平は、本件物件の譲渡代金全額を新富士通商へ貸し付けたものであり、新富士通商が富士商事の債務を一部弁済したにすぎない。したがって、竹中準平は、本件物件の譲渡代金で富士商事の保証債務を履行したことにはならない。

4 結論

竹中準平の昭和五三年分の分離長期譲渡所得金額は、二三三三万四〇〇〇円であるから、本件処分は、その範囲内で認定されたことになるし、これに対する税額の算出が正当であることは、いうまでもない。なお、竹中準平には、このほかに給与所得とこれに対する税額があるのである。

そうして、竹中準平は、法六四条二項の適用があるとして、過少申告をしたから、本件処分によって、相当の過少申告加算税賦課決定処分をしたことも正当である。

四  原告らの認否と反論

(認否)

被告の主張事実中、竹中準平には被告主張の年金収入のあったこと、竹中準平が被告主張の売買をして、代金を受領し、手数料、登記代を支払ったこと、以上のことは、認める。

(反論)

(一) 竹中準平は、富士商事の借入について、連帯保証をしていた。

(二) 本件物件の売買代金は、すべて、次の富士商事の負債の保証債務の履行に充てられたから、法六四条二項が適用されるべきである。すなわち、

(1) 京都信用保証協会に対する債務 五四六万八八九四円

元金四三八万円、利息一〇八万八六〇四円(同協会が債権者京都信用金庫円町支店に代位弁済した昭和五〇年九月二六日までの支払利息一八万八六〇四円と、竹中準平が同協会に昭和五三年四月二六日に返済した際の支払利息九〇万円との合計)及び手数料二〇〇円

(2) 京都中央信用金庫円町支店に対する債務 二六六万五八二四円

元金二二八万八二一〇円(昭和五〇年六月一二日現在)、利息三七万七六一四円(昭和五三年一月三〇日までの支払利息)

(3) 京都銀行太秦安井支店に対する債務 五三七万五一八五円

元金四六三万四四二三円(昭和五〇年一〇月一三日現在)、利息七四万〇七六二円(昭和五一年五月一七日から昭和五三年四月六日までの利息)

(4) 京都信用金庫円町支店に対する債務 七九〇万三〇五九円

元金七九〇万三〇五九円(昭和五三年七月五日現在)

(5) マツヰに対する債務 二〇八七万六九九一円

マツヰが、富士商事の取引先の債務について、竹中準平に代って昭和五一年五月三一日までに代位弁済した金額である。

(6) 株式会社協和(以下協和という)に対する債務 一〇〇万円

富士商事と協和との間で昭和五〇年六月一一日作成された協定書に基づき、竹中準平が協和に代位弁済した。

(7) 株式会社九木商店(以下九木商店という)に対する債務 二五万円

富士商事と九木商店との間で同年七月一六日作成された念書に基づき、九木商店に代位弁済した。

(8) 上野寛一に対する債務 四二〇万円

上野寛一と竹中準平との間で昭和五一年七月八日作成された念書等に基づき上野寛一に代位弁済した。

(三) もっとも、右代位弁済金のうち、次の金額は、昭和五〇年三月一八日富士商事が倒産してから本件物件を譲渡するまでの間に履行されたが、これは、本件物件の売却が短期間に実現せず、他方、遅延損害金のみ徒らに加算されていくところから、やむなく、竹中準平が新富士通商から一時借り受けて弁済し、後日、本件物件の譲渡代金を新富士通商に入れる方法がとられた。したがって、その実質は、竹中準平が、本件物件の譲渡代金を、右保証債務の履行に充てたとみるべきである。竹中準平と新富士通商との間には、何の取引もない。

京都信用保証協会 一三二万八一〇〇円

京都中央信用金庫 二六六万五八二四円

京都銀行 二七〇万五一八五円

京都信用金庫 七九〇万三〇五九円

マツヰ 一〇五〇万円

株式会社協和 一〇〇万円

上野寛一 一〇万円

(四) 富士商事は、資産内容が悪く、竹中準平が求償権を行使することは、不可能である。

五  被告の反駁

(一)  京都信用保証協会に対する債務について

一四二万七九〇〇円は、本件物件の譲渡代金の収受前である昭和五一年一一月三〇日から昭和五三年三月一七日の間に返済されている。

残額は、前述したとおり、新富士通商が、竹中準平からの借入金で代位弁済した(二九〇円は不突合)。

(二)  京都中央信用金庫円町支店に対する債務について

右債務は、竹中準平が本件物件の譲渡代金の収受前である昭和五三年一月三〇日完済されている。

(三)  京都銀行太秦安井支店に対する債務について

新富士通商は、昭和五三年四月六日、二六七万円を代位弁済して富士商事への貸付金とし、残額は、本件物件の譲渡前である昭和五二年四月一六日までに返済されている。

(四)  京都信用金庫円町支店に対する債務について

新富士通商は、昭和五三年七月から昭和五四年二月までの間に七〇万円を代位弁済し、これを富士商事への貸付金としている。

残額七二〇万三〇五九円は、未払である。

(五)  マツヰに対する債務について

右債務は、富士商事の売掛金等の支払をマツヰが為替手形(振出人松井清祐、引受人マツヰ)により代位弁済した際、竹中準平が、同手形に裏書保証をしたものであるが、同手形は、決済された。

(六)  協和に対する債務について

右債務は、本件物件の譲渡代金収受前の昭和五〇年六月一一日に返済されている。

(七)  九木商店に対する債務について

新富士通商は、昭和五三年九月五日から昭和五四年一月一二日まで五回にわたり五万円あて二五万円を代位弁済し、富士商事への貸付金としている。

(八)  上野寛一に対する債務について

右債務のうち一〇万円は、本件物件の譲渡代金収受前の昭和五一年一二月二〇日支払われており、残額四一〇万円は、新富士通商が代位弁済した。

(九)  以上のとおり、本件物件の譲渡代金は、原告らの主張する富士商事の債務の弁済に充てられた事実はなく、前述したとおりの用途に充てられたのである。

第三証拠関係

本件記録中の証拠関係目録記載のとおり。

理由

一  本件請求の原因事実中、(一)、(二)の各事実は、当事者間に争いがない。

二  竹中準平には、和年五三年中に九七万一三三二円の年金収入のあったことは、当事者間に争いがないから、被告主張の給与所得金額四七万一三三二円があったことになることは、法二条一項三〇号、措置法二九条の四、法二八条三項一号によって明らかである。

三  竹中準平の昭和五三年分の分離長期譲渡所得について判断する。

(一)  竹中準平が、昭和五三年中に本件物件を売却して二七〇〇万円をえたこと、竹中準平が被告主張の仲介料及び登記代を負担したこと、以上のことは、当事者間に争いがない。

(二)  成立に争いがない乙第八号証の一ないし九、同第九号証の一ないし三(原本の存在についても争いがない)、同第一二号証、同第三八号証、弁論の全趣旨によって成立が認められる同第一〇、一一号証や弁論の全趣旨を総合すると、本件物件の譲渡代金の使途は、被告主張どおりであることが認められ、この認定に反する証拠はない。

(三)  原告らは、竹中準平が、本件物件の譲渡前に新富士通商から金を借り受けて保証債務を履行し、本件物件の譲渡代金を新富士通商に入れたのであるから、本件物件の譲渡代金は、実質上保証債務の履行に充たると主張しているが、前掲乙第八号証の一、二、同第九号証の一によると、手付金一五〇万円は、竹中準平の新富士通商に対する貸付金として、残代金二四一四万二〇〇〇円(仲介料などを差し引いた残額)も、同様竹中準平から新富士通商への貸付金として、会計処理がなされており、新富士通商の竹中準平に対する保証債務履行のための立替金若しくは貸付金の返済として処理されていないことが認められるから、原告らの主張を採用することは無理である。とりわけ、原告ら主張の前提である竹中準平が、本件物件を譲渡する前に新富士通商から金を借りて保証債務を履行したことが認められる的確な証拠が見当たらないのである。

(四)  そうすると、本件物件の譲渡代金が、竹中準平の富士商事のための保証債務の履行として使用された事実が認められない以上、法六四条二項の適用がないことは、いうまでもない。したがって、本件物件の譲渡代金は、被告主張どおり、分離長期譲渡所得として課税されるわけで、その税額が、被告主張どおりであることは、税法の計算上明らかである。

四  本件処分は、過少申告加算税の賦課決定処分を含め正当であるから、原告らの本件請求は、失当である。そこで、行訴法七条、民訴法八九条に従い主文のとおり判決する。

(裁判長判事 古崎慶長 判事 小田耕治 判事補 長久保尚善)

別表一 課税経過表

<省略>

別表二

竹中準平の所得及び税額表

<省略>

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