京都地方裁判所 昭和60年(わ)733号 判決 1986年9月04日
本籍
京都府長岡京市長岡三丁目四三番地
住居
同市野添二丁目七番一二号 市営住宅B棟一〇二号
不動産業手伝い
今井正義
昭和一一年五月二二日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官肱岡勇夫出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年四月及び罰金二〇〇〇万円に処する。
未決拘留日数中六〇日を右懲役刑に算入する。
右罰金を完納することができないときは、金四万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
理由
被告人は、元全日本同和会京都府・市連合会乙訓支部長であるが、
第一 香山利次、西村勝雄、同連合会会長鈴木元動丸、同会事務局長長谷部純夫及び同会事務局次長渡守秀治らと共謀の上、右香山がその所有する京都市南区久世殿城町三〇六番地の一ほか一筆の田を昭和五八年七月二七日一億九、八〇〇万円で売却譲渡したことに関して、右譲渡にかかる所得税を免れようと企て、右香山の実際の五八年分分離課税の長期譲渡所得金額は一億八、四七八万五、一〇〇円、総合課税の総所得(農業所得、不動産所得)金額は三三四万二、三八四円で、これに対する所得税額は五、六一七万六、八〇〇円であるにもかかわらず、、株式会社ワールドが有限会社同和産業から二億円の借入れをし、その債務について右香山が連帯保証人となり、右ワールドが破産したことから右連帯保証債務を履行するために右不動産を譲渡し、その譲渡収入で同年九月一五日に一億六、五〇〇万円を履行したが、右ワールドに対する求償不能により同額の損害を被った旨仮装するなどした上、同五九年三月九日、同市下京区間之町五条下る大津町八番地所在所轄下京税務署において、同署長に対し、右香山の五八年分分離課税の長期譲渡所得金額は一、〇九五万円、総合課税の総所得金額は三三四万二、三八四円で、これに対する所得税額は二三二万六、二〇〇円である(ただし申告書には医療費控除の計算誤りのため、所得税額は二三一万九、六〇〇円と記載)旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により右の正規の所得税額五、六一七万六、八〇〇円との差額五、三八五万六〇〇円を免れ、
第二 中嶋純次、辻逸朗、前記鈴木元動丸、前記長谷部純夫及び前記渡守秀治らと共謀の上、右中嶋がその所有する京都市伏見区久我西出町一一番の三二ほか四筆の田を昭和五八年一一月三〇日及び同年一二月五日の二回にわたり二億四、七〇七万二、八四〇円で売却譲渡したことに関して右譲渡にかかる所得税を免れようと企て、右中嶋の実際の五八年分分離課税の長期譲渡所得金額は一億二一〇万二、〇八二円、総合課税の総所得(農業所得、不動産所得、配当所得、利子所得、雑所得)金額は二〇二万五、四八三円で、これに対する所得税額(源泉徴収分を除く。)は二、六八四万九、六〇〇円であるにもかかわらず、株式会社ワールドが有限会社同和産業から一億二、〇〇〇万円の借入れをし、その債務について右中嶋が連帯保証人となり、右ワールドが破産したことから右連帯保証債務を履行するために右不動産を譲渡し、その譲渡収入で同年一二月一〇日に九、一〇〇万円を履行したが、右ワールドに対する求償不能により同額の損害を被った旨仮装するなどした上、同五九年三月九日、同市右京区西院上花田町一〇番地の一所在所轄右京税務署において、同署長に対し、右中嶋の五八年分分離課税の長期譲渡所得金額は一、一一〇万二、〇八二円、総合課税の総所得金額は二〇二万五、四八三円で、これに対する所得税額(源泉徴収分を除く。)は二二九万二、六〇〇円である(ただし申告書には配当控除の計算誤りのため、所得税額は二二九万一、九〇〇円と記載)旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により右の正規の所得税額二、六八四万九、六〇〇円との差額二、四五五万七、〇〇〇円を免れ、
第三 小林經男、辻逸朗、前記鈴木元動丸、前記長谷部純夫及び前記渡守秀治らとの共謀の上、右小林がその所有する同市伏見区久我西出町一一番三一ほか一筆の田を同五八年一一月三〇日九、二四八万円で売却譲渡したことに関して右譲渡にかかる所得税を免れようと企て、右小林の実際の五八年分分離課税の長期譲渡所得金額は八、五〇〇万九、六四〇円、綜合課税の総所得(不動産所得、給与所得)金額は六七六万八、三三八円で、これに対する所得税額(源泉徴収分を除く。)は二、一八八万三、四〇〇円であるにもかかわらず、前記株式会社ワールドが前記有限会社同和産業から一億円の借入れをし、その債務について、右小林が連帯保証人となり、右ワールドが破産したことから、右連帯保証債務を履行するために右不動産を譲渡し、その譲渡収入で同年一二月一五日に七、八〇〇万円を履行したが、右ワールドに対する求償不能により同額の損害を被った旨仮装するなどした上、同五九年三月九日、大阪府茨木市上中条一丁目九番二一号所在所轄茨木税務署において、同署長に対し、右小林の五八年分分離課税の長期譲渡所得金額は七三五万三、八〇〇円、総合課税の総所得金額は六七六万八、三三八円で、これに対する所得税額(源泉徴収分を除く。)は一六九万九、一〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により右の正規の所得税額二、一八八万三、四〇〇円との差額二、〇一八万四、三〇〇円を免れ、
第四 辻逸朗、前記鈴木元動丸、前記長谷部純夫及び前記渡守秀治らと共謀の上、右辻がその所有する京都市伏見区久我本町七番地一七ほか九筆の田を昭和五八年八月二二日一億四九一万円で売却譲渡したことに関して右譲渡にかかる所得税を免れようと企て、右辻の実際の五八年分分離課税の長期譲渡所得金額は七、八三七万一、三五四円、総合課税の総所得(給与所得、不動産所得)金額は一七四万二、〇〇〇円で、これに対する所得税額(源泉徴収分を除く。)は一、九一二万七、一〇〇円であるにもかかわらず、株式会社ワールドが有限会社同和産業から八、〇〇〇万円の借入れをし、その債務について右辻が連帯保証人となり、右ワールドが破産したことから右連帯保証障債務を履行するために右不動産を譲渡し、その譲渡収入で同年九月一〇日に六、五〇〇万円を履行したが、右ワールドに対する求償不能により同額の損害を被った旨仮装するなどした上、同五九年三月九日、同市伏見鎚屋町所在所轄伏見税務署において、同署長に対し、右辻の五八年分分離課税の長期譲渡所得金額は八八七万一、三五四円、総合課税の総所得金額は一七四万二、〇〇〇円で、これに対する所得税額は(源泉徴収分を除く。)は一八一万九、八〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により右の正規の所得税額一、九一二万七、一〇〇円との差額一、七三〇万七、三〇〇円を免れ、
第五 安田由紀夫、前記辻逸朗、前記鈴木元動丸、前記長谷部純夫及び前記渡守秀治らと共謀の上、右安田がその所有する同市伏見区久我西出町五番一三の田を同五九年一一月二八日一億四、九七六万円で売却譲渡したことに関して右譲渡にかかる所得税を免れようと企て、右安田の実際の五九年分分離課税の長期譲渡所得金額は六、八六七万三、六九一円、綜合課税の総所得(給与所得)金額は四六八万一、六七一円で、これに対する所得税額(源泉徴収分を除く。)は一、六二二万八、四〇〇円であるにもかかわらず、前記株式会社ワールドが前記有限会社同和産業から八、〇〇〇万円の借入れをし、その債務について右安田が連帯保証人となり、右ワールドが破産したことから右連帯保証債務を履行するために右不動産を譲渡し、その譲渡収入で同年六月一〇日六、二〇〇万円履行したが、右ワールドに対する求償不能により同額の損害を被った旨仮装するなどした上、同六〇年三月九日、前記所轄伏見税務署において、同署長に対し、右安田の五九年分分離課税の長期譲渡所得金額は、六六七万三、九六一円、総合課税の総所得金額は四六八万一、六七一円で、これに対する所得税額(源泉徴収分を除く。)は一三三万四、六〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により右の正規の所得税額一、六二二万八、四〇〇円との差額一、四八九万三、八〇〇円を免れ、
第六 村上治、中村源治郎、有田峻宏、前記鈴木元動丸、前記長谷部純夫、前記渡守秀治および全日本同和会京都府・市連合会南支部長藤本勝英らと共謀の上、右村上がその所有する同市西京区大原野北春日町七七三番地の田を同五九年一二月二二日七、五〇〇万円で売却譲渡したことに関して右譲渡にかかる所得税を免れようと企て、右村上の実際の五九年分分離課税の長期譲渡所得金額は六、五一七万七、〇〇〇円で、これに対する所得税額は一、四六六万一、〇〇〇円であるにもかかわらず、前記株式会社ワールドが前記有限会社同和産業から九、〇〇〇万円の借入れをし、その債務について右村上が連帯保証人となり、右ワールドが破産したことから右連帯保証債務を履行するために右不動産を譲渡し、その譲渡収入で同年一二月二八日六、二〇〇万円履行したが、右ワールドに対する求償不能により同額の損害を被った旨仮装するなどした上、同六〇年三月一二日、前記所轄右京税務署において、同署長に対し、右村上の五九年分分離課税の長期譲渡所得金額は、六一七万七、〇〇〇円でこれに対する所得税額は九七万四、二〇〇円(ただし申告書には扶養控除の適用誤りのため所得税額は九〇万八、二〇〇円と記載)である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により右の正規の所得税額一、四六六万一、〇〇〇円との差額一、三六八万六、八〇〇円を免れ、
第七 加藤壽雄、西村勝雄、前記鈴木元動丸、前記長谷部純夫及び前記渡守秀治らと共謀の上、右加藤がその所有する京都市東山区新橋通大和大路東入二丁目清本町三七六番地の二所在の宅地、建物を昭和五九年六月二一日池田千鶴子に一億六、七七九万六、〇〇〇円で売却譲渡したことに関して右譲渡にかかる所得税を免れることを企て、右加藤の実際の五九年分分離課税の長期譲渡所得金額は一億五、七八九万六、一〇〇円で、これに対する所得税額が四、四一六万九、九〇〇円であり、かつ、右譲渡所得は五九年分として申告すべきところ、右譲渡時期は、同年五八年一二月二二日で、買主は寺石源太郎であり、しかも株式会社ワールドが前記有限会社同和産業から二億円の借入れをし、その債務について、右加藤が連帯保証人となり、右ワールドが破産したことから右連帯保証債務を履行するために右不動産を譲渡し、その譲渡収入で同五九年六月二二日に一億四、五〇〇万円を履行したが、右ワールドに対する求償不能により同額の損害を被ったとして、同五九年六月二三日、東山税務署に、右加藤の五八年分分離課税の長期譲渡所得金額が八四〇万六、二〇八円、これに対する所得税が一七一万三、七〇〇円について申告漏れとなっていた旨の虚偽の五八年分所得税修正申告書を提出して前記宅地、建物の譲渡にかかる所得税について申告済みであるように装うなどした上、同六〇年三月一五日、同市左京区聖護院円頓美町一八番地所在所轄左京税務署において、同署長に対し、右加藤の五九年分分離課税の長期譲渡所得金額はなく、総合課税の総所得は八〇万一、五四一円で、これに対する所得税額はない旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により右の正規の長期譲渡所得に対する所得税額四、四一六万九、九〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示全部の事実について
一 被告人の当公判廷における供述
一 第五回及び第六回公判調書中の被告人の各供述部分
一 被告人の検察官に対する供述調書五通(検145ないし149号)
一 証人長谷部純夫に対する京都地方裁判所第四刑事部の尋問調書の謄本二通
一 証人長谷部純夫に対する京都地方裁判所第二刑事部の尋問調書の謄本
一 鈴木元動丸の検察官に対する供述調書八通の各謄本(検158、159、166、169ないし173号)
一 長谷部純夫の検察官に対する供述調書九通の各謄本(検150、174ないし181号)
判示第一、第二並びに第四ないし第七の各事実について
一 大蔵事務官横井啓文作成の報告書の謄本(検167号)
判示第一及び第七の各事実について
一 第一回公判調書中の被告人の供述部分
判示第一の事実について
一 被告人の検察官に対する供述調書四通(検21ないし24号)
一 香山利次の検察官に対する供述調書の謄本五通
一 西村勝雄の検察官に対する供述調書の謄本六通(検10ないし15号)
一 矢作正和、田代和子、長谷部純夫(検151号)及び鈴木元動丸(検160号)の検察官に対する各供述調書の各謄本
一 大蔵事務官加藤賢一作成の脱税額計算書の謄本(検1号)
一 大蔵事務官小幡隆作成の証明書の謄本(検2号)
判示第二ないし第六の各事実について
一 第二回公判調書中の被告人の供述部分
判示第二及び第三の各事実について
一 被告人の検察官に対する供述調書四通(検81、82、85、86号)
判示第二の各事実について
一 被告人の検察官に対する供述調書(検83号)
一 中嶋純次の検察官に対する供述調書の謄本六通
一 吉田弘幸の検察官に対する供述調書の謄本三通(検56ないし58号)
一 牧良次の検察官に対する供述調書の謄本二通
一 萩森功一、長谷部純夫(検153号)及び鈴木元動丸(検162号)の検察官に対する各供述調書の各謄本
一 萩森功一(検62号)、倉橋壽弘(検61号)及び森岡富士雄(検77号)の大蔵事務官に対する各質問てん末書の各謄本
一 大蔵事務官満井義明作成の脱税額計算書の謄本(検48号)
一 大蔵事務官吉田稔作成の証明書の謄本(検49号)
判示第三の各事実について
一 被告人の検察官に対する供述調書(検84号)
一 小林経男の検察官に対する各供述調書の謄本五通
一 小林ユリ子、吉田弘幸(検72号)、長谷部純夫(検154号)及び鈴木元動丸(検163号)の検察官に対する各供述調書の各謄本
一 倉橋壽弘(検73号)、萩森功一(検74号)、森岡富士雄(二通、検78、79号)及び久本恒雄の大蔵事務官に対する各質問てん末書の各謄本
一 大蔵事務官深山二男作成の脱税額計算書の謄本
一 大蔵事務官末澤正純作成の証明書の謄本
一 大蔵事務官横井啓文作成の報告書の謄本(検168号)
判示第四の事実について
一 被告人の検察官に対する供述調書(検141号)
一 辻逸朗の検察官に対する供述調書の謄本六通(検96、98ないし102号)
一 倉橋壽弘の検察官に対する供述調書の謄本三通(検90ないし92号)
一 久貝義男、辻喜男(二通)、辻道子、長谷部純夫(検155号)及び鈴木元動丸(検163号)の検察官に対する各供述調書の各謄本
一 大蔵事務官横山吉一作成の脱税額計算書の謄本
一 大蔵事務官中澤光雄作成の証明書の謄本
判示第五の事実について
一 被告人の検察官に対する供述調書(検142号)
一 安田由紀夫の検察官に対する供述調書の謄本六通
一 安田シズエ(三通)、鈴木元動丸(二通、検119、164号)及び長谷部純夫(検156号)の検察官に対する各供述調書の各謄本
一 森岡富士雄(検115号)及び井口泰三の大蔵事務官に対する各質問てん末書の各謄本
一 大蔵事務官山野重夫作成の脱税額計算書の謄本
一 大蔵事務官中哲夫作成の証明書の謄本
判示第六の事実について
一 被告人の検察官に対する供述調書二通(検143号、144号)
一 村上治の検察官に対する供述調書の謄本四通
一 廣田富司、阪本節子(二通)、村上弘、海老名昭宏(二通)、岩崎静枝、林博、中村源治郎(三通)、藤本勝英、有田峻宏(三通)、長谷部純夫(検157号)及び鈴木元動丸(検165号)の検察官に対する供述調書の各謄本
一 大蔵事務官岩崎亘男作成の脱税額計算書の謄本
一 大蔵事務官吉田稔作成の証明書の謄本(検121号)
判示第七の事実について
一 被告人の検察官に対する供述調書五通(検43ないし47号)
一 西村勝雄の検察官に対する供述調書の謄本六通(検33ないし38号)
一 田代和子、丹羽徹、加藤嘉壽子、長谷部純夫(検152号)及び鈴木元動丸(検161号)の検察官に対する各供述調書の各謄本
一 寺石源太郎及び森岡富士雄(検32号)の検察官に対する各供述調書
一 加藤寿雄の大蔵事務官に対する質問てん末書の謄本四通
一 大蔵事務官中川靖雄作成の脱税額計算書の謄本
一 大蔵事務官小山満作作成の証明書の謄本
(法令の適用)
一 罰条 判示各事実についていずれも刑法六五条一項、六〇条、所得税法二三八条一項
二 刑種の種類 いずれも懲役刑と罰金刑を併料(罰金刑につきいずれも所得税法二三八条二項適用)
三 併合罪の処理 刑法四五条前段
懲役刑について 刑法四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重)
罰金刑について 刑法四八条二項(判示各罪所定の罰金額を合算)
四 宣告刑 懲役一年四月及び罰金二〇〇〇万円
五 未決勾留日数の算入 刑法二一条(六〇日を懲役刑に算入)
六 労役場留置 刑法一八条(金四万円を一日に換算した期間)
(量刑の理由)
本件は、元全日本同和会京都府・市連合会乙訓支部長である被告人が、同連合会の税務対策と称し、同連合会幹部や当該納税者らと共謀の上、架空の債務を作出する等の方法により前後七回にわたり合計一億八八〇〇万円余の所得税を免れさせた事案であり、その脱税金額自体巨額であり、ほ脱率も高率で、納税の公平を失わせ、誠実な納税者の納税意欲を阻害した程度は著しく、それ自体重大な犯罪である上、納税者からは脱税の見返りに多額の金員を受け取り、これを仲介者、被告人、全日本同和会京都府・市連合会及び同幹部らで分配し(もっとも一部は実際の納税に充てられている。)、被告人においては本件だけで実に二千数百万円という利得にあずかっているのであって、誠に悪質な事判というべく、被告人の刑事責任は重いといわなければならない。また、被告人は、全日本同和会京都府・市連合会が組織的、日常的に本件のような脱税行為を行うようになったその当初からこれに加わり、架空債務作出のために利用された有限会社同和産業の設立にも関与し、本件各犯行においても、納税者あるいは紹介者との折衝、いわゆるカンパ金額の算定と決定、全日本同和会京都府・市連合会やその幹部との連絡折衝(この点についてのみ判示第六を除く。)等の面で積極的、かつ重要な役割を果たしているので、あり、その動機が主として自ら取得しうる多額の手数料にあったことやいわば常習的に本件のような脱税行為を行っていたことをも考えると、その犯情は悪い。たしかに、全日本同和会京都府・市連合会の同種手口による脱税が相当期間にわたり繰り返されていたのに、税務当局がこれに対する毅然とした対応を欠いたままこれを放置していたために本件各犯行が誘発されたとの一面のあることは否定できないところであり、税務当局のそうした対応は責められるべきではあるが、被告人が前述のとおり全日本同和会京都府・市連合会によって行われた本件のような脱税行為のその当初からこれに深く関与し、脱税行為であることはこれを認識しながら税務当局の右のような態度にいわば便乗して自らの利を図るため本件各犯行を繰り返してきたことを考えると、税務当局の対応を被告人にとって有利な一事情として考えることはともかく、その刑事責任軽減のために大きくしん酌することは相当とは言い難い。
右のような事情、得に本件事案の重大性、悪質性、被告人の果たした役割、被告人の得た利益の額等の点に鑑みると、前述のような税務当局の対応、被告人には昭和三九年と同四三年に罰金刑に処せられた以外に前科がないこと、本件各納税者との間に被告人の得た手数料の一部を返還することで示談を成立させていること(もっとも、本件各納税者に合計一千万円を支払うというにとどまり、被告人の得た利益を大きく下回っている上、現在履行されているのはそのうちの三〇〇万円にすぎない。)、被告人なりに反省していることが窺われること等本件に現れた被告人に有利な又は同情すべき事情を十分考慮しても、懲役刑について刑の施行を猶予すべきものとはとうてい考えることはできず、実刑を科すのが相当であり、主文のとおり量刑した。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 安井久治)