京都地方裁判所 昭和60年(わ)804号 判決 1985年12月11日
本籍
京都市西京区下津林楠町八五番地
住居
同区下津林水掛町一〇-二
会社員
髙橋義治
昭和一八年二月一日生
右の者に対する相続税法違反被告事件について、当裁判所は検察官山田一清出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役六月及び罰金三〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金一万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判の確定した日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、実父髙橋卯三郎が昭和五八年一月二〇日死亡したことに伴なう自己の相続税を支払うべく土地の売却を知人に依頼していたところ、同年六月ころ、知人の紹介により知合った小野義雄及び辻井哲男から被相続人に架空の債務があった旨仮装するなどして相続税を安くする方法を聞かされてこれに賛同し、これより先、全日本同和会京都府・市連合会が組織活動の一環として右同様の方法で脱税を行うことを互いに了解していた右連合会会長鈴木元動丸、同会事務局長長谷部純夫、同会事務局次長渡守秀治らとも長谷部の意を受けた辻井を介して意志を相通じ、ここに小野、辻井、鈴木、長谷部、渡守と共謀の上、右相続税を免れることを企て、実際の課税価額が一億二三四〇万九〇八二円でこれに対する相続税額は三九四五万四五〇〇円であるにもかかわらず、被相続人の右髙橋卯三郎が有限会社同和産業(代表取締役鈴木元動丸)から八二〇〇万円の債務を負担しており、被告人において右債務を承継してこれを全額支払ったと仮装するなどした上、長谷部及び辻井について同年七月一四日、京都市右京区西院上花田町一〇番地の一所在所轄右京税務署に赴き、同署長に対し、相続財産の課税価額が四一四〇万九〇八二円で、これに対する相続税額は三六七万二七〇〇円である旨の虚偽の相続税申告書を提出し、もって不正の行為により右相続にかかる正規の相続然額九四五万四五〇〇円との差額三五七八万一八〇〇円を免れたものである。
(証拠の標目)
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する各供述調書(検第二一ないし二三号)
一 髙橋とみよ(検第四、五号)、池田文夫(検第六、七号)、小野義雄(検第八ないし一一号、いずれも謄本)、辻孫治(検第一二号)、辻井哲男(検第一三ないし一五号、いずれも謄本)、長谷部純夫(検第二五号謄本)及び鈴木元動丸(検第二六号、謄本)の検察官に対する各供述調書
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(検第一号)、証明書(検第二号)及び報告書(検第二四号、謄本)
一 西京区長作成の除籍謄本(検第三号)
(法令の適用)
罰条 相続税法六八条一項、刑法六〇条
刑種の選択 懲役刑及び罰金刑
宣告刑 懲役六月及び罰金三〇〇万円
労役場留置 同法一八条
懲役刑の執行猶予 同法二五条一項
(量刑の理由)
本件は被告人が三五〇〇万円以上の相続税を免れた事案であり、その脱税額や、土地の譲渡所得に関しても同様の脱税を行っていることにも照らせて、犯情は決して軽いとは言えない。しかしながら、被告人は共犯者に強く勧められて脱税を決意し、またその方法も共犯者に任せきりにするなど犯行関与の程度は終始従属的であり、これに、当然のこととはいえ被告人は本件相続に関し正規税額のほかに延滞税と重加算税の合計一六〇〇万円余りを納付し、更には本件で共犯者に手渡した一八〇〇万円余りの内の大半が返還されていないこともあって長年居住してきた土地家屋を処分することを余儀なくされ、現在では借家住まいを強いられるなど既にかなりの社会的制裁を受けていると見られることも合せ考えれば、被告人に対しては懲役刑の執行を猶予し、罰金刑については主文の刑を科するのが相当と判断する。
よって主文のとおり判決する。
(裁判官 氷室眞)