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京都地方裁判所 昭和60年(わ)908号 判決 1985年11月21日

本籍

京都市西京区下津林楠町九〇番地

住居

右同所

農業

中村利秋

昭和六年一〇月二五日生

本籍

京都市西京区下津林楠町九〇番地

住居

右同所

アパート経営

中村艶子

昭和一〇年一二月一日生

右両名に対する各相続税法違反被告事件について、当裁判所は検察官關本倫敬出席のうえ審理をし、次のとおり判決する。

主文

被告人両名をそれぞれ懲役四月及び罰金五〇〇万円に処する。

被告人らにおいてその罰金を完納することができないときは、それぞれ金八〇〇〇円を一日に換算した期間、その被告人を労役場に留置する。

被告人両名に対し、この裁判確定の日から各三年間それぞれその懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人中村利秋は、中村祐三郎の養子、被告人中村艶子は、右祐三郎の長女として、いずれも右祐三郎が昭和五八年一月一日死亡したことにより同人の財産を相続したものであるが

第一  被告人中村利秋は、全日本同和会京都府・市連合会が報酬を得て虚偽の申告書を作成したうえ申告手続を代行し、組織的に脱税を請負っていることを聞知するや、右中村艶子とも相談のうえこれを利用して自己の相続財産にかかる相続税を免れようと企て、辻井哲男を通じて同連合会事務局長長谷部純夫に自己の相続税申告書の作成、申告手続の代行等を依頼し、ここに右中村艶子、右辻井さらに同人から右長谷部、同連合会事務局次長渡守秀治、同連合会会長鈴木元動丸らと順次共謀のうえ、自己の相続財産にかかる実際の課税価格が九〇〇六万四〇八二円で、これに対する相続税額は、二〇二五万五〇〇〇円であるにもかかわらず、同年六月二九日、京都市右京区西院上花田町一〇番地の一所在所轄右京税務署において、同署長に対し、被相続人中村祐三郎が有限会社同和産業から一億六〇〇〇万円の債務を負担しており、自己においてそのうちの六〇〇〇万円を承継したと仮装するなどしたうえ、自己の相続財産にかかる課税価格が二一五七万三八〇三円で、これに対する相続税額は、一二万六四〇〇円である旨の虚偽の相続税の申告書を提出し、もって、不正の行為により右相続にかかる自己の正規の相続税額二〇二五万五〇〇〇円と右申告税額との差額二〇一二万八六〇〇円を免れた

第二  被告人中村艶子は右同様に自己の相続財産にかかる相続税を免れようと企て、右同様に右中村利秋、右辻井さらに用人から右長谷部、右渡守、右鈴木らと順次共謀のうえ、自己の相続財産にかかる実際の課税価格が八九八五万九四五二円で、これに対する相続税額は、二〇一九万四二〇〇円であるにもかかわらず、前記日時場所において、前記右京税務署長に対し、右のとおり被相続人中村祐三郎が有限会社同和産業から一億六〇〇〇万円の債務を負担しており、自己においてそのうちの六〇〇〇万円を承継したと仮装するなどしたうえ、自己の相続財産にかかる課税価格が二一三四万九七五五円で、これに対する相続税額は、一一万二四〇〇円である旨の虚偽の相続税の申告書を提出し、もって、不正の行為により右相続にかかる自己の正規の相続税額二〇一九万四二〇〇円と右申告税額との差額二〇〇八万一八〇〇円を免れた

ものである。

(証拠の標目)

判示事実全部につき

一  被告人両名の当公判廷における各供述

一  被告人中村利秋の検察官に対する供述調書四通(昭和六〇年六月二八日付、同年七月二六日付、同月二七日付、同年八月五日付)

一  被告人中村艶子の検察官に対する供述調書二通(昭和六〇年七月二九日付―五四丁に添付書類のあるもの、同年八月四日付―二二丁に添付書類のあるもの)

一  辻井哲男(昭和六〇年七月一九日付、同月二〇日付、同月二五日付―五丁に添付書類のあるもの、各謄本)、小野義雄(同月二二日付、同月二三日付―一二丁に添付書類のあるもの、各謄本)、長谷部純夫(抄本)、鈴木元動丸(謄本)、辻孫治、中村ハナ、中川君子、宮本清子、中村好子及び北阪とみ枝の検察官に対する各供述調書

一  右京税務署長作成の証明書

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書

一  大蔵事務官作成の報告書謄本

一  京都市西京区長認証の戸籍謄本(筆頭者中村祐三郎のもの)

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、違法性の認識を故意の要件と解したうえで、被告人両名には違法性の認識も違法性を認識する可能性もなかったと主張するが、違法性の認識の可能性はともかく違法性の認識まで故意の要件と解することは疑問であるうえ、前掲各証拠によれば、被告人両名は虚偽の債務を仮装するなどして正規の相続税額の大部分を免れることを熟知していたことなどが認められ、被告人両名に違法性の認識の可能性のあったことはもちろん違法性の認識のあったことも明らかであるので、弁護人の主張は採用できない。

(法令の適用)

罰条 被告人らの各所為につき、それぞれ刑法六〇条、相続税法六八条一項(いずれも懲役刑と罰金刑を併科)

宣告刑 被告人両名につき、それぞれ懲役四月及び罰金五〇〇万円

労役場留置 被告人らの各罰金刑につき、それぞれ刑法一八条(それぞれ金八〇〇〇円を一日に換算した期間)

執行猶予 被告人らの各懲役刑につき、それぞれ刑法二五条一項(各三年間)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 森岡安廣)

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