京都地方裁判所 昭和60年(わ)978号 判決 1986年3月20日
本籍
京都府城陽市寺田東ノ口一〇番地の二
住居
右同所
会社員
戸山孝
昭和一四年七月一三日生
右の者に対する相続税法違反被告事件につき当裁判所は検察官山田廸弘出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年及び罰金二五〇万円に処する。
右罰金を完納しないときは、金二万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。
右懲役刑については、この裁判確定の日から三年間その執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、奥村典子、奥村文浩、上田幸弘、全日本同和会京都府・市連合会会長鈴木元動丸、同連合会事務局長長谷部純夫及び同連合会事務局次長渡守秀治らと共謀の上、右典子の実父で右文浩の養父である奥村博司が昭和五九年四月二八日死亡したことに基づく右典子及び右文浩の各相続財産にかかる相続税を免れることを企て、右典子の相続財産にかかる実際の課税価額が一億九、五六二万九、三四三円で、これに対する相続税額は七、四一九万八、四〇〇円であり、右文浩の相続財産にかかる実際の課税価額が一億六、六八七万二、八四九円で、これに対する相続税額は六、二九九万八、六〇〇円であるにもかかわらず、被相続人の右奥村博司が有限会社同和産業(代表取締役鈴木元動丸)から二億九、六五〇万円の債務を負担しており、右典子においてそのうちの一億五、九〇〇万円を、右文浩において同じく一億三、七五〇万円をそれぞれ承継したと仮装するなどの行為により、同年一〇月二九日、京都府宇治市大久保町井ノ尻六〇番地の三所在所轄宇治税務署において、同署長に対し、右典子の相続財産にかかる課税価額が三、六六二万九、三四三円で、これに対する相続税額は三九八万四、七〇〇円であり、右文浩の相続財産にかかる課税価額が三、〇二七万八、三四九円で、これに対する相続税額は三三三万四、二〇〇円である旨の虚偽の相続税の申告書を提出し、もって不正の行為により右各相続にかかる右典子の正規の相続税額七、四一九万八、四〇〇円との差額七、〇二一万三、七〇〇円を、右文浩の正規の相続税額六、二九九万八、六〇〇円との差額五、九六六万四、四〇〇円をそれぞれ免れたものである。
(証拠の標目)
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する供述調書(検第16ないし19号)
一 証人上田幸弘の当公判廷における供述
一 上田幸弘(四通、但し白紙貼付部分を除く)、奥村典子(二通)、奥村文治(二通)、岩崎義彦、鈴木元動丸、中川敏夫及び藤井孝三の検察官に対する各供述調書(謄本)
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書及び証明書
(補足説明)
弁護人は、被告人は本件申告手続を上田幸弘に取り次いだだけで、実際にその申告手続を行った鈴木元動丸ら全日本同和会京都府・市連合会の関係者とは面識がなく、これと共謀したこともないので、被告人の本件行為は幇助犯にとどまる旨主張している。
しかし、前掲各証拠によれば、被告人は、右上田幸弘と共に判示奥村典子及び同奥村文浩に対し「上田の知っている同和会関係者にその相続税納付申告手続を頼めば、正規の税額の約六割で済ませてもらえるので頼んであげる」旨申し向けて右奥村両名からその依頼を受け、これに応じて更に被告人から依頼された右上田において、元同和会善法支部長であった岩崎義彦を介して判示鈴木元動丸、同長谷部純夫及び同渡守秀治らに右申告手続を依頼し、その結果順次共謀にもとづく判示脱税行為がなされたことが認められ、被告人の右関与態様に照らせば、被告人の行為が右各人らとの共同正犯に該当することは明らかであって、弁護人の主張は採用できない。
(法令の適用)
判示所為 刑法六五条一項、六〇条、相続税法六八条一項(刑法五四条一項、一〇条により一罪として犯情の重い奥村典子の脱税についての罪の刑に従う)
刑の選択 懲役及び罰金の併科刑
労役場留置 刑法一八条
執行猶予 懲役刑につき同法二五条一項
(裁判官 長﨑裕次)