京都地方裁判所 昭和60年(ワ)2806号 判決 1987年10月30日
原告
株式会社坂元建設
右代表者代表取締役
坂元次夫
右訴訟代理人弁護士
飯田昭
被告
伊東政男
主文
一 原告の各請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 原告の求める裁判
一 第一次請求
被告は原告に対し、別紙物件目録記載の建物を明け渡し、かつ昭和六〇年八月一日から右明渡しまで一か月一〇万円の割合による金員を支払え。
二 第二次請求
被告は原告に対し、金一四七一万九七二四円、及びこれに対する昭和六〇年一二月二九日から右支払いまで年五パーセントの割合による金員を支払え。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
四 仮執行宣言
第二 被告の求める裁判
主文と同旨
第三 原告の請求原因
一 原告は昭和六〇年四月一五日、住吉建設株式会社から、代金二九〇〇万円で、別紙物件目録記載の建物(以下本件建物という。)の建築を請け負つた。
二 原告は、昭和六〇年六月二九日まで、自ら全ての材料を支出して、一四七一万九七二四円相当の建築工事をして、その出来高部分の本件建物の所有権を取得した。
三 原告は住吉建設株式会社から右請負工事代金を全く受け取つていない。
四 被告は昭和六〇年六月二九日原告に工事を中止させ、原告が被告と契約して本件建物の建築を続行する意思があることを申し出たにも拘らず、その後株式会社稲富に請け負わせて、昭和六〇年八月頃本件建物の建築を続行、完成させた。
五 被告は右当時、右出来高部分の本件建物が原告の所有であることを知つていた。
六 被告は、遅くとも昭和六〇年八月一日以降、本件建物を占有使用している。
七 本件建物の昭和六〇年八月一日以降の相当賃料は、一か月一〇万円を下回らない。
八 原告は自ら材料を支出して建築工事を行なつたものであるから、その建前が原告の所有に属することは明らかである。
被告は株式会社稲富に請け負わせて残工事を行なつているが、被告がその一方的な事由により原告の工事を中止させた本件の場合においては、完成建物の所有権は原告に属すると解するべきである。
仮に、本件完成建物の所有権が被告に属すると解されるとすれば、被告は建前が原告の所有に属することを知りながら、建築を続行完成させてその所有権を取得したものであるから、被告は民法二四八条、七〇四条により原告が本件建物の建築に支出した金額を償還する義務がある。
九 よつて、原告は被告に対し次のとおり求める。
1 第一次的には、所有権に基づき本件建物の明け渡し、及び所有権の行使を妨げられた賃料相当の損害金の支払い、
2 第二次的には、民法二四八条、七〇四条による償金、及びこれに対する遅延損害金の支払い。
第四 請求原因に対する被告の認否と主張
一 請求原因四、六の事実は認める。
二 請求原因一、二、三の事実は知らない。
三 請求原因五、七の事実は争う。
第五 被告の主張
一 被告は、昭和六〇年三月二〇日、住吉建設株式会社に、代金三五〇〇万円、工期同年八月二五日までの約で、被告所有の宅地上に本件建物の建築を請け負わせる契約をした。この契約には、施主は工事中契約を解除することができ、この場合工事の出来形部分は施主の所有とする条項があつた。
二 被告は、住吉建設株式会社に対し、右建築請負代金として、昭和六〇年三月一〇日一〇〇万円、同年四月一〇日九〇〇万円、同年五月一三日九五〇万円の計一九五〇万円を支払つた。
三 住吉建設株式会社は倒産し、本件請負契約を履行することは困難となつたので、被告は昭和六〇年六月二一日同社に対し、請負契約を解除する意思表示をした。
四 被告は昭和六〇年七月二九日株式会社稲富に、代金二五〇〇万円、工期同年一〇月一六日の約で、右未完成の建前に工事を加え、本件建物を完成させ、完成建物は被告の所有とする旨の契約をした。
五 株式会社稲富は材料を負担して昭和六〇年一〇月三一日までに工事を完成させ、その頃代金全額を被告から受領し、本件建物を被告に引き渡した。
六 原告や住吉建設株式会社は、原告による本件建物の一括下請負について、被告の承諾を得ていない。
第六 被告の主張に対する原告の認否
一 右主張三の事実のうち、契約解除の意思表示をしたことは認める。
二 右主張五、六のうち、被告が株式会社稲富と契約して本件建物の建前に工事して完成させたことは認める。
第七 証拠<省略>
理由
一事実関係
<証拠>によれば、次の事実を認めることができ、この認定を覆すに足る証拠はない。なおこの認定事実のうち、一部は当事者間に争いがないが、その点は前記事実摘示のとおりである。
1 被告は、昭和六〇年三月二〇日、住吉建設株式会社に、代金三五〇〇万円、工期同年八月二五日までの約で、被告所有の宅地上に本件建物の建築工事をすることを請け負わせる契約をした。この契約には、施主は工事中契約を解除することができ、この場合工事の出来形部分は施主の所有とする条項があつた。
2 住吉建設株式会社は、同年四月一五日、原告に、代金二九〇〇万円、工期同年八月二五日までの約で、本件建物の建築を請け負わせる契約をした。この契約では、本件建物、建前の所有権の帰属について明示の約定はなかつた。
3 右2の建築請負工事の範囲は右1の建築請負工事の範囲と全く同一であつた。つまり、住吉建設株式会社はその請け負つた建築工事を、一括して、原告に請け負わせたものであつた。原告も施主が被告であり同社が請負人であることを知つていたが、原告も同社もこの一括下請負について被告の承諾を得なかつた。
4 原告は自ら材料を負担して昭和六〇年六月下旬まで本件建物の建築工事を行なつた。
5 原告が建築工事を取り止めた時点における本件建物(この状態における本件建物を本件建前という。)は、基礎工事と鉄骨構造が完成し、屋根が葺かれ、外壁(道路に面した部分を除く。)と二、三階の床ができた状況であつた。
6 原告が行なつた本件建物工事の出来高は、全体の29.83パーセントであつて、完成工事費を三五〇〇万円と仮定した場合には約一〇四四万円、完成工事費を二九〇〇万円と仮定した場合には約八六五万円である。
7 被告は、住吉建設株式会社に対し、右建築請負代金として、昭和六〇年三月一〇日一〇〇万円、同年四月一〇日九〇〇万円、同年五月一三日九五〇万円の計一九五〇万円を支払つた。
8 原告は住吉建設株式会社より本件建物建築請負代金を全く受け取つていない。
9 住吉建設株式会社は、昭和六〇年六月支払いを停止して倒産し、同月一三日自己破産の申請をし、同年七月四日京都地方裁判所で破産宣告を受けた。
10 被告は昭和六〇年六月一七日頃、原告より聞かされて初めて、本件建物の建築は原告が一括下請けする契約をして、建築していたものであること、原告は住吉建設株式会社から代金を受け取つていないことを知つた。
11 住吉建設株式会社が本件請負契約を履行することは困難となつたので、被告は昭和六〇年六月二一日同社に対し、請負契約を解除する意思表示をした。
12 原告は被告に本件建物の建築を直接に請け負わせて欲しいと申し出たが、結局原告と被告の間では請負契約は締結されなかつた。被告は昭和六〇年六月二九日原告に建築工事の中止を求め、同年七月二二日には原告を被申請人として、本件建前の執行官保管、被告の建築続行許可、建築妨害禁止の仮処分を得て、執行した。
13 被告は昭和六〇年七月二九日株式会社稲富に、代金二五〇〇万円、工期同年一〇月一六日の約で、右未完成の本件建前に工事を加え、本件建物を完成させる契約をした。
14 株式会社稲富は材料を負担して昭和六〇年一〇月三一日までに右工事を終えて本件建物を完成させ、その頃代金全額を被告から受領し、本件建物を被告に引き渡し、被告はその名義に所有権保存登記をした。
15 原告、住吉建設株式会社は、いずれも建築業法による許可を受けた建築業者である。
二本件建前の所有権の帰属
前記一に認定のとおり、被告は請負人の住吉建設株式会社に出来高を越える額の代金を支払つており、しかも契約解除のときはその建前は被告の所有とするとの約定があつたのであるから、被告と同社との間では本件建前は、この解除以降被告の所有に属したものと言うことができる。
下請人の原告は自ら材料を支出して工事を行ない、同社から代金の支払いを受けていないものである。しかし、本来下請人は請負人が建物所有権を施主に移転させるのを補助する性格のものである。そのうえ、建築業法二二条では一括下請は禁止されているに拘らず、原告は一括下請であることを知りながら、被告の書面による承諾を得ないまま工事を行なつたのみならず、被告はこの一括下請が行なわれたことさえ知らなかつたものであり、このような下請人はなお請負人の補助者的性格が強いと言える。これらを考慮すると、本件建前は原告、被告の間でも、被告の所有に属すると解するのが相当である。
三結論
以上判断のとおり、本件建前は被告の所有であるから、これに被告において加工して完成させた本件建物も被告の所有であることは明らかであつて、所有権にもとづく本件建物明け渡しと所有権侵害を理由とする家賃相当損害金支払いとを求める原告の第一請求は理由がない。
本件建前が被告の所有である以上、被告がこれに加工したことにより、原告に損害が生じ、被告に利得が生じるものではないから、民法二四八条、七〇四条の償金とその遅延損害金との支払いを求める原告の第二次請求も理由がない。
よつて、原告の各請求を棄却することとし訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官井関正裕)
別紙物件目録<省略>