京都地方裁判所 昭和61年(わ)109号 判決 1986年12月22日
本籍
三重県桑名郡木曽岬村大字雁ヶ地五八九番地の一
住居
京都市伏見区醍醐鍵尾町一四番地の一六
無職
黒宮功
昭和一五年八月三日生
右の者に対する相続税法違反、所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官山根英嗣出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年六月及び罰金七〇〇万円に処する。
未決勾留日数中三〇日を右懲役刑に算入する。
右罰金を完納することができないときは、金一万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は
第一 全国同和対策促進協議会中央本部事務総長であったものであるが、杉本一郎、同本部本部長大石忠勝らと共謀の上、京都市山科区西野山岩ヶ谷町一二番地に居住する右杉本がその所有する同市右京区嵯峨鳥居本小坂町一六番地ほか五筆の宅地・建物及び付属建物等を昭和五八年五月二六日インターナショナルインベストメント株式会社に四億七〇〇〇万円で売却譲渡したことに関する所得税を免れようと企て、右杉本の実際の昭和五八年分分離課税の長期譲渡所得金額は三億六一八九万八一七〇円、総合課税の総所得金額は四三〇万三七二八円で、これに対する源泉徴収税額を除いた所得税額が一億二二九〇万七八〇〇円であり、かつ右所得は昭和五八年分として申告すべきであるのに、右譲渡時期は昭和五七年一二月三〇日で、買主は全学校用地整備社であり、しかも全国同和対策促進協議会中央本部に対し売却に要した費用として不動産管理手数料一億六七〇〇万円を支払った旨仮装するなどして、昭和五八年七月一八日、同市右京区西院上花田町一〇番地の一所在所轄右京税務署に右杉本の昭和五七年分分離課税の長期譲渡所得金額が一億一五三四万一九九四円、これに対する所得税額三〇二五万円について申告れ漏れとなっていた旨の虚偽の昭和五七年分所得税修正申告書を提出して前期宅地・建物等の譲渡にかかる所得税について申告ずみであるかのように装うなどした上、昭和五九年三月三日、同市東山区馬町通東大小路西入新シ町所在所轄東山税務署において、同署長に対し、右杉本の昭和五八年分分離課税の長期譲渡所得金額はなく、総合課税の総所得金額は四三〇万三七二八円で、これに対する源泉徴収税額を除いた所得税額は九万八一〇〇である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま納期限までに右の正規の所得税額一億二二九〇万七八〇〇円との差額一億二二八〇万九七〇〇円を納付せず、もって不正の行為により同額の税を免れた
第二 全国同和対策促進協議会京都府連合本部事務局長であったものであるが、松井宏治、司法書士大西勝則及び同本部会長笠原正継らと共謀の上、松井利一が昭和五九年四月九日死亡したことにより、いずれも国内に居住する同人の妻松井マサ、右松井利一の実子松井宏次、同友田史江、同小泉敏恵、右松井宏次の子で右松井利一の養子松井宏一郎、同松井啓二郎及び同松井利治において右松井利一の財産を相続していたところ、右松井宏次において同人の相続財産にかかる相続税については納税義務者として、右友田史江、小泉敏恵、松井宏一郎、松井啓二郎及び松井利治の各相続財産にかかる相続税については各納税義務者の代理人として、その各相続税の申告をするにあたり、これを免れまたは免れさせようと企て、相続財産の課税価格の総額が一八億二〇二五万三〇〇〇円でこれに対する相続税額の総額は八億〇六〇四万四〇〇〇円であり、うち右松井宏次の実際の相続財産の課税価格が三億五四八一万七〇〇〇円でこれに対する相続税額は一億九三八三万二五〇〇円であり、右友田史江の実際の相続財産の課税価格が一億一三六九万九〇〇〇円でこれに対する相続税額は六一六二万九〇〇〇円であり、右小泉敏恵の実際の相続財産の課税価格が一億一三六九万九〇〇〇円でこれに対する相続税額は六一六二万九〇〇〇円であり、右松井宏一郎の実際の相続財産の課税価格が三億二四三七万一〇〇〇円でこれに対する相続税額は一億七六七八万四二〇〇円であり、右松井啓二郎の実際の相続財産の課税価格が二億八八九六万九〇〇〇円でこれに対する相続税額は一億五七八三万七九〇〇円であり、右松井利治の実際の相続財産の課税価格が二億八一六四万円でこれに対する相続税額は一億五三八〇万一八〇〇円あるにもかかわらず、被相続人の右松井利一が全国同和対策促進協議会京都府連合会本部(会長笠原正継)から一一億三二〇〇万円の債務を負担しており、右松井宏次においてそのうち三億〇二〇〇万円を、右友田史江においてそのうち五五〇〇万を、右小泉敏恵においてそのうち五五〇〇万円を、右松井宏一郎においてそのうち二億六六〇〇万円を、右松井啓二郎においてそのうち二億三〇〇〇万円を、右松井利治においてそのうち二億二四〇〇万円をそれぞれ承継したと仮装するなどした上、同年一一月一〇日、京都市伏見区鑓屋町所在所轄伏見税務署において、同署長に対し、相続財産の課税価格の総額が七億〇五五九万四〇〇〇円でこれに対する相続税額の総額は一億五〇二三万七九〇〇円であり、右松井宏次の相続財産の課税価格が六〇三〇万四〇〇〇円でこれに対する相続税額は二四九七万七六〇〇円てあり、右友田史江の相続財産の課税価格が五八六九万九〇〇〇円でこれに対する相続税額は二四三九万〇八〇〇円であり、右小泉敏恵の相続財産の課税価格が五八六九万九〇〇〇円でこれに対する相続税額は二四三九万〇八〇〇円であり、右松井宏一郎の相続財産の課税価格が六一五五万四〇〇〇円でこれに対する相続税額は二五七〇万九二〇〇円であり、右松井啓二郎の相続財産の課税価格が六二一五万二〇〇〇円でこれに対する相続税額は二五六四万九二〇〇円であり、右松井利治の相続財産の課税価格が六〇八二万三〇〇〇円でこれに対する相続税額は二五〇〇万一五〇〇円である旨の内容虚偽の相続税の申告書を提出し、そのまま右松井宏次の右相続にかかる正規の相続税額一億九三八三万二五〇〇円との差額一億六八八五万四九〇〇円を、右友田史江の右相続にかかる正規の相続税額六一六二万九〇〇〇円との差額三七二三万八二〇〇円を、右小泉敏恵の右相続にかかる正規の相続税額六一六二万九〇〇〇円との差額三七二三万八二〇〇円を、右松井宏一郎の右相続にかかる正規の相続税額一億七六七八万四二〇〇円との差額一億五一〇七万五〇〇〇円を、右松井啓二郎の右相続にかかる正規の相続税額一億五七八三万七九〇〇円との差額一億三二一八万八七〇〇円を、右松井利治の右相続にかかる正規の相続税額一億五三八〇万一八〇〇円との差額一億二八八〇万〇三〇〇円をそれぞれ納付せず、もって、不正の行為により右松井宏次に対する右同額の税を免れるとともに右友田史江、小泉敏恵、松井宏一郎、松井啓二郎、松井利治に対する右各同額の税を免れしめた
ものである。
(証拠の標目)
判示全部の事実について
一 被告人の当公判廷における供述
判示第一の事実について
一 被告人の検察官に対する各供述調書(昭和六一年五月二一日付、同月二二日付、同月二三日付、同月二四日付、同月二六日付)
一 大石忠勝(五通)、杉本一郎(昭和六一年五月九日付を除く六通)、杉本仁郎、杉本克子(二通)、杉本善夫(二通)、松井信夫、奥村善弘、澤井満、笠原明道、和泉義輝及び大川功の検察官に対する各供述調書謄本
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(昭和六一年五月二六日付)謄本
一 大蔵事務官各作成の各証明書(昭和六一年五月二三日付四通)謄本
一 大蔵事務官作成の査察官調査書謄本
一 検察官作成の捜査報告書
判示第二の事実について
一 被告人の検察官に対する各供述調書(昭和六一年一月二五日付、同年二月一日付、同月四日付、同月五日付、同月六日付)
一 分離前の相被告人笠原正継の当公判廷における供述
一 証人安東謙の当公判廷における供述
一 松井宏次(八通―各謄本)、笠原正継(昭和六一年一月二五日付、同月二九日付、同月三一日付、同年二月一二日付―二通)、稲石文男(同年一月二四日付-謄本)、大西勝則(同日付、同月二八日付、同年二月五日付-各謄本)、大西弘一(謄本)、松井マサ(二通―各謄本)、友田史江(謄本)、小泉敏恵(謄本)、藤本昇(二通―各謄本)及び松井啓子(二通-各謄本)の検察官に対する各供述調書
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(昭和六一年二月五日付)謄本
一 大蔵事務官作成の証明書(昭和六一年二月五日付-松井宏次らの相続税の申告に関するもの)謄本
(法令の適用)
罰条
判示第一の所為
刑法六五条一項、六〇条、所得税法二三八条一項
判示第二の所為
各納税義務者ごとに刑法六五条一項、六〇条、相続税法六八条一項(友田史江、小泉敏恵、松井宏一郎、松井啓二郎、松井利治の税を免れしめた点についてさらに同法七一条一項)
観念的競合の処理
刑法五四条一項前段、一〇条(判示第二の各罪は一罪として犯情の最も重い松井宏次の税に関する脱税の罪の刑で処断)
刑種の選択
いずれも懲役と罰金の併科刑
併合罪の処理
刑法四五条前段
懲役刑について
刑法四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重)
罰金刑について
刑法四八条二項(各罪所定の金額を合算)
宣告刑
懲役一年六月及び罰金七〇〇万円
未決勾留日数の算入
刑法二一条(三〇日を右懲役刑に)
労役場留置
刑法一五八条(右罰金の金一万円を一日に換算してた期間)
懲役刑の執行猶予
刑法二五条一項(四年間)
よって、主文のとおり判決する。
昭和六一年一二月二六日
(裁判官 森岡安廣)