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京都地方裁判所 昭和61年(ワ)2010号 1988年4月06日

原告

南部恵美子

右訴訟代理人弁護士

加藤英範

久保哲夫

中村和雄

被告

近畿生コン株式会社

右代表者代表取締役

田上正男

右訴訟代理人弁護士

森川清一

主文

一  原告、被告間に、雇用契約関係が存在することを確認する。

二  被告は原告に対し、昭和六一年二月二五日限り金六万四八八〇円及び昭和六一年三月二五日から毎月二五日限り月額金九万九四九九円の割合による金員を支払え。

三  その余の原告の請求を棄却する。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

五  この判決は第二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  原告、被告間に、雇用契約関係が存在することを確認する。

2  被告は原告に対し、昭和六一年二月二五日から毎月二五日限り月額金一〇万八七二九円の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  被告

1  原告の本件請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

被告は、京都市山科区勧修寺西北出町一八番地において、生コンクリート(以下、生コンという。)及びセメント二次製品の製造並びに販売等の営業活動をなしている株式会社である。一方、原告は、昭和五七年一月一六日、被告との間に雇用契約を締結し、以来右住所地にある被告の生産技術課試験係において、試験作業及び試験事務等の仕事に従事してきたものである。

2  労務提供の拒否

被告は、昭和六〇年一二月二三日、原告に対し、突然、文書により、同六一年一月三一日限りで解雇する旨通知して、原告を解雇した。さらに被告は原告に対し、同六一年一月二七日到達の同月二五日付文書により、原告の同年二月一日以降の労務提供の受領を拒否する旨通知してきた。原告は同年二月一日以降労務提供すべく就労要求したが、被告は受領を拒否した。

3  雇用契約の内容

原告は昭和五七年一月一六日被告と雇用契約を締結したが、その際合意された労働条件は以下のとおりであった。

(一) 就労時間は午前九時から午後四時三〇分までとする。

(二) 賃金は時給五二〇円とする。

(三) 仕事内容は生産技術課に勤務し、試験係としてコンクリート強度試験成績書の作成及び型枠磨き等とする。

(四) 厚生年金、健康保険、雇用保険に加入する。

(五) 雇用期間は期限を定めず、他の従業員と同様とする。

そして被告は、右雇用契約を締結する際、原告に対し、雇用期間については期間の定めのないものと説明し、さらに当時の安田工場長は「なれるまでは、辛い仕事やけど頑張って続けてや。」等と述べ、原告は「頑張ります。」等と答えている。そして、昭和五七年一月一八日付臨時雇用契約書が存在するが、これは、昭和五七年四月に締結されたものである。つまり、原告は、昭和五七年四月、仕事に従事してから三か月を経過した頃、当時の安田工場長から「とりあえず形だけやから。」といわれて、被告が用意してきた臨時雇用契約書に内容もよく検討せずに押印したものであり、原告及び被告には期間の定めのある雇用契約締結の意思はなかった。

4  期間の定めのない雇用契約の法理の適用

(一) 雇用契約の更新反復

仮に当初原告、被告間で締結された雇用契約が一年間の有期限契約であったとしても、以下の事実からして、原告、被告間の雇用契約は、期間の定めのない契約に転化した、あるいは期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在するに至ったというべきである。

すなわち、被告の安田工場長は、昭和五九年八月、臨事雇用契約書なる文書(契約期間を一年としその始期を昭和五九年一月に遡らせたもの)を示したうえ、被告の親会社である三谷商事株式会社の書類処理上の必要性によるものであって、原告には何等の影響を及ばさない旨説明した。原告はその言を信頼し押印した。しかし、契約更新時期にあたるはずの昭和五八年一月及び同五九年一月に、原告、被告間において契約更新の話は一切なされなかった。

(二) 原告の労働内容

原告の仕事内容は被告の要請により徐々に増大していった。従来の前記仕事に加え、昭和五八年には塩化ビニール板の洗浄やコンクリートミキサー車から生コンを採取しモールドに詰める作業をも担当するようになった。昭和五九年には、さらに配合設計書の作成も担当した。昭和六〇年にはコンピュータ作業も行うようになった。就労以来従事してきた仕事のいずれも、季節的又は臨時的仕事ではなく、被告にとって継続的に必要なものばかりであった。この結果として被告の業務遂行にとって原告の存在は不可欠なものとなっていた。

(三) 他の従業員の労働条件との比較

原告は入社当時より一貫して給与規定二三条ないし二五条の適用により他の従業員と同一の日に、同一の支給率による賞与(昭和五七年七月に一〇万円、同年一二月に一五万円、同五八年七月、同年一二月、同五九年七月、同年一二月及び同六〇年七月に各一四万五〇〇〇円、同年一二月に一四万円)を支給されてきた。また、原告は昭和五八年より同六〇年まで他の従業員と同様毎年四月に給与規定一八条ないし二一条に基づいて定期昇給を得てきた。

原告の就業時間は、入社当時は午前九時より午後四時三〇分までであったが、昭和五八年一〇月頃より、被告全体の勤務時間の変更(三〇分繰上げ)にともなって午前八時三〇分から午後四時までとなった。いずれも、他の従業員に比べて出勤時間が僅か三〇分遅いだけで退社時間は他の従業員と同様であった。

原告の休日は、日曜日、祝際日、年末年始及び第一、第三土曜日であり、他の従業員と全く同一である。就業規則一三条の適用によるものである。

原告は昭和五七年三月末頃から、被告の要請により残業勤務をするようになり、以後本件解雇に至るまで継続して残業勤務を続けてきた。残業にあたっては就業規則一四条、給与規定一四条に基づいて割増賃金が支給されてきた。

原告は以下のとおり有給休暇を得てきた。

昭和五八年一月一八日から同五九年一月一七日までの間に六日間

昭和五九年一月一八日から同六〇年一月一七日までの間に七日間

昭和六〇年一月一八日から同六一年一月一七日までの間に八日間

右の有給休暇日数は就業規則二四条一項の適用によるものであるが、右の如く順次一日づつ追加されているのは、原告の雇用契約が一年間ごとに切断されたものではなく、昭和五七年から一貫して継続したものであることを示すものである。

つまり被告は原告に対し、就労時間、退職金の点を除いては全て就業規則、給与規定の適用をしてきたのである。

(四) 解雇の不必要性

原告が従事している試験係は同人の不在により業務が全く消化できない事態となっている。被告は他の従業員に対し早出や残業の大幅延長を求めて当面しのいでいるが、それでも対処しきれず、工務課の林や生コン協同組合に出向している斎藤課長にも協力させている。さらに被告は、原告解雇後、掃除やお茶くみを担当する者をあらたに雇い入れている。したがって被告は、原告を解雇する必要性は全く持ち合せていない。

5  被告の不当労働行為

(一) 被告の組合に対する態度

昭和四五年四月、全日本自動車運輸労働組合(以下、全自運という。)の組合員となった被告の従業員は、全自運京滋地方本部京都地域支部に所属し、同支部の近畿生コン分会(以下、分会という。)を結成した。昭和五〇年四月、分会は全自運の京都地域支部から全自運関西地区生コン支部に所属支部を変更し、昭和五二年九月、全自運は全日本運輸一般労働組合(以下、運輸一般という。)と名称を変更し、全自運関西地区生コン支部も全日本運輸一般労働組合関西地区生コン支部(以下、関生支部という。)と名称をかえた。同五五年頃から関生支部内で、闘争手段、組合運営のありかた、及び組合と企業の関係等をめぐって、関生支部武委員長ら執行部と運輸一般中央との間で対立が生じ、昭和五八年一〇月武委員長らは運輸一般を集団離脱し、運輸一般関西地区生コン支部労働組合(以下、関生労組という。)を結成した。被告内でも運輸一般を離脱し関生労組へ参加する分会員一六名(関生労組近畿生コン分会)と、従前の分会(関生支部近畿生コン分会)に留るもの六名とが生じた。関生労組はその後、全日本建設運輸連帯労組(以下、連帯労組という。)と名称をかえ、関生労組近畿生コン支部も、全日本建設運輸連帯労組関西地区生コン支部近畿生コン分会(以下、連帯分会という。)と名乗るようになった。

会社は二つの分会が存在することを知りながら連帯分会と結託し、関生支部の分会を徹底して差別し企業から排除しようとしてきた。すなわち、被告は、それまでの関生支部との間の協定慣行等一切を連帯労組及び連帯分会にのみ適用し、関生支部の分会に適用を拒否した。その結果として賃金差別、労働条件差別が生じている。

また、被告は関生支部の分会の細野兄弟(運転手)を全く理由がないのに解雇した。そのうえで被告は連帯労組との間の優先雇用協定や右二名の排除を画策した。被告は昭和五八年一〇月一〇日以降連帯労組との団交は親密に行いながら関生支部やその分会の団交申入れを一切拒否した。連帯労組の分会員等による関生支部の分会員に対する職場内暴力事件が生じたが、被告はこれを放置し、かえって関生労組員を解雇せよという連帯労組の要求を受け入れた。そして、関生支部の分会員が暴力に屈し被告を辞めて行くのを期待した。

これらに対し、関生支部は不当解雇には京都地方裁判所の仮処分決定と裁判上の和解で職場復帰を勝ち取った。団交拒否については、労働委員会を経て被告に団交に応じさせている。暴力事件については告訴し、暴力組合員は刑事裁判で有罪となった。しかし、なお被告は団交内容の不誠実、賃金、労働条件差別等基本的な部分での不当労働行為をやめてはいない。

(二) 原告の組合加盟と不当労働行為

原告は昭和五九年一〇月二〇日運輸一般に加盟し関生支部分会員となった。その後原告はビラまき、集会参加等を行ってきた。昭和六〇年一月関生支部と分会は、原告が運輸一般の組合員であり同分会員であることを正式に通告した。これに対し被告は、嫌悪する関生支部分会が大きくなること、運転部門でなく事務部門にも影響力が生じて来ることに耐えられず、親会社の組合否認の基本方針を実践するには解雇しかなかった。したがって本件解雇は原告が運輸一般あるいは関生支部の分会員であることを理由とするものであるから、、労働組合法七条一号に該当する不当労働行為であり、無効である。

6  原告の賃金

原告は、昭和六一年二月一日から就労を拒否され、昭和六一年二月分以降の賃金の支払いをうけていない。原告の賃金は、毎月二〇日締切り、当月二五日支払いであるが、被告によれば、雇用契約は昭和六一年一月一七日満了のところ、同月三一日まで暫定的延長とされ、同日をもって不当解雇されているため、原告の平均賃金を算出するにあたっては、昭和六〇年一〇月から同年一二月までの三か月間の賃金の平均を基礎とするのが相当である。そこで原告の右三か月間の賃金を平均すれば月一〇万八七二九円となる。

よって、原告は被告に対し、雇用契約関係の存在の確認及び雇用契約に基づき第一(当事者の求めた裁判)の一(原告)の2記載の金員の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因1(当事者)の事実中、原告が試験作業及び試験事務等の仕事に従事してきた事実は否認し、その余の事実は認める。原告は、型枠磨きに従事していたものである。

2  同2(労務提供の拒否)の事実は認める。

3  同3(原告の労働内容)の事実中、原告は昭和五七年一月一六日被告と雇用契約を締結した事実、その際合意された労働条件は、就労時間は午前九時から午後四時三〇分までとすること、仕事内容は生産技術課に勤務し、型枠磨きに従事すること、厚生年金、健康保険、雇用保険に加入すること、などであった事実は、いずれも認め、昭和五七年一月一六日に締結された雇用契約のうち、試験係としてコンクリート強度試験成績表の作成に従事したこと、時給五二〇円であったこと、雇用期間の定めがなかったことは、いずれも否認する。雇用期間は一年間であり、賃金は時給五〇〇円であった。その余は争う。

4  同4(期間の定めのない雇用契約の法理の適用)の(一)(雇用契約の更新反復)の事実は争う。同(二)(原告の労働内容)の事実中、原告の仕事内容は被告の要請により徐々に増大し、従来の仕事に加え、昭和五八年には塩化ビニール板の洗浄や生コンを採取しモールドに詰める作業をも担当するようになった事実、昭和六〇年にはコンピュータ作業も行うようになった事実、就労以来、従事してきた仕事のいずれも季節的又は臨時的仕事ではなく被告にとって継続的に必要なものばかりであった事実は、いずれも認め、その余は否認する。同(三)(他の従業員の労働条件との比較)の事実は明らかに争わない。同(四)(解雇の不必要性)の事実は争う。

5  同5(被告の不当労働行為)の(一)(被告の組合に対する態度)の事実中、昭和四五年四月、全自運の組合員となった被告の従業員が、全自運京滋地方本部京都地域支部に所属し、同支部の分会を結成した事実、同五〇年四月分会は、全自運の京都地域支部から全自運関西地区生コン支部に所属支部を変更し、昭和五二年九月、全自運は運輸一般と名称を変更し、全自運関西地区生コン支部も関生支部と名称をかえた事実、被告内で運輸一般を離脱し関生労組へ参加する分会員一六名(関生労組近畿生コン分会)と、従前の分会(関生支部近畿生コン分会)に留るもの六名とが生じた事実、関生労組はその後連帯労組と名称をかえ、関生労組近畿生コン分会は連帯分会と名乗っている事実、被告が関生支部の分会の細野兄弟(運転手)を解雇した事実、職場内暴力事件が生じた事実は、いずれも認め、被告が昭和五八年一〇月一〇日以降連帯労組との団交は親密に行いながら関生支部やその分会の団交申入れを一切拒否した事実は否認し、昭和五五年頃から関生支部内で闘争手段、組合運営のありかた、及び組合と企業の関係等をめぐって、関生支部武委員長ら執行部と運輸一般中央との間で対立が生じ、昭和五八年一〇月武委員長らは運輸一般を集団離脱し、関生労組を結成した事実は、不知。関生支部が、不当解雇には京都地方裁判所の仮処分決定と裁判上の和解で職場復帰を勝ち取り、団交拒否については、労働委員会を経て被告に団交に応じさせ、暴力事件については告訴して暴力組合員は刑事裁判で有罪となった事実は、いずれも明らかに争わず、その余は争う。

同5の(二)(原告の組合加盟と不当労働行為)の事実中、昭和六〇年一月関生支部と分会が、原告が運輸一般の組合員であり同分会員であることを正式に通告した事実は認め、原告が昭和五九年一〇月二〇日運輸一般に加盟し関生支部分会員となり、その後原告がビラまき、集会参加等を行ってきた事実は不知。その余は争う。

6  同6(原告の賃金)は争う。

7  被告の主張

昭和五七年一月一六日に締結された原告被告間の雇用契約の雇用期間は一年である。

被告は、昭和五五年三月二一日から実施の給与規定により、正規の従業員に対し、本給として基本給(六〇パーセント)、能率給(二〇パーセント)、物価手当(二〇パーセント)を、出勤手当として出勤一日につき四〇〇円を、都市手当として月額五〇〇〇円を、生活補助給として家族手当等をそれぞれ支給していた。これに対し、原告は昭和五七年一月一八日、被告との間で臨時雇用契約を締結したので、右記載の正規の従業員に支払われるべき諸給与は支払われず、その賃金は一時間につき五〇〇円(昭和六〇年五月分からは六三〇円)であった。昭和六〇年三月五日、関生支部分会から被告に対し、初めて原告を正従業員に採用し、賃金の改訂をするよう要求がでたが、被告はこれを拒否した。よって、原告は正規の従業員ではない。

第三証拠(略)

理由

一  当事者間に争いのない事実

被告は、京都市山科区勧修寺西北出町一八番地において、生コン及びセメント二次製品の製造並びに販売等の営業活動をなしている株式会社である事実、原告は、昭和五七年一月一六日被告との間に雇用契約を締結し、以来右住所地にある被告の生産技術課試験係に従事してきた事実、被告は、昭和六〇年一二月二三日、原告に対し、突然、文書により、同六一年一月三一日限りで解雇する旨通知して、原告を解雇した事実、さらに被告は原告に対し、同六一年一月二七日到達の同月二五日付文書により、原告の同年二月一日以降の労務提供の受領を拒否する旨通知してきた事実、原告は同年二月一日以降労務提供すべく就労要求したが、被告は受領を拒否した事実、原告は昭和五七年一月一六日被告と雇用契約を締結した際合意された労働条件は、就労時間は午前九時から午後四時三〇分までとすること、仕事内容は生産技術課に勤務し、型枠磨きに従事すること、厚生年金、健康保険、雇用保険に加入すること、などであった事実、原告の仕事内容は被告の要請により徐々に増大し、従来の前記仕事に加え、昭和五八年には塩化ビニール板の洗浄や生コンを採取しモールドに詰める作業をも担当するようになった事実、昭和六〇年にはコンピュータ作業も行うようになった事実、就労以来、従事してきた仕事のいずれも季節的又は臨時的仕事ではなく被告にとって継続的に必要なものばかりであった事実、昭和四五年四月全自運の組合員となった被告の従業員は、全自運京滋地方本部京都地域支部に所属し、同支部の分会を結成した事実、昭和五〇年四月分会は、全自運の京都地域支部から全自運関西地区生コン支部に所属支部を変更し、昭和五二年九月、全自運は運輸一般と名称を変更し、全自運関西地区生コン支部も関生支部と名称をかえた事実、被告内で運輸一般を離脱し関生労組へ参加する分会員一六名(関生労組近畿生コン分会)と、従前の分会(関生支部近畿生コン分会)に留るもの六名とが生じた事実、関生労組はその後連帯労組と名称をかえ、関生労組近畿生コン分会も連帯分会と名乗るようになった事実、被告は関生支部の分会の細野兄弟(運転手)を解雇した事実、職場内暴力事件が生じた事実、昭和六〇年一月関生支部と分会は、原告が運輸一般の組合員であり同分会員であることを正式に通知した事実は、いずれも当事者間に争いがない。

請求原因4(三)(他の従業員の労働条件との比較)の事実及び関生支部は不当解雇には京都地方裁判所の仮処分決定と裁判上の和解で職場復帰を勝ち取り、団交拒否については、労働委員会を経て被告に団交に応じさせて、暴力事件については告訴して暴力組合員は刑事裁判で有罪となった事実は、いずれも被告は明らかに争わないから自白したものとみなす。

二  雇用期間の定め

(証拠略)並びに前記一(当事者間に争いのない事実)の事実によれば次の事実を認めることができる。

(一)  原告は、昭和五七年一月一六日、被告において就職の面接をうけ、雇用契約を締結したが、その際の労働条件は就業時間は午前九時から午後四時三〇分まで、賃金は時給五〇〇円、仕事の内容はコンクリート型枠磨き及びコンクリート強度試験成績書作成及び庶務の仕事、厚生年金及び健康保険に加入することをそれぞれ約したが、雇用期間については何等話合いはなかった。なお、正従業員の就業時間は、その当時午前八時三〇分から午後四時三〇分までであった。また、正従業員の給料は時給ではなく月給制である。

(二)  原告の仕事は就職後少しづつ増大し、ミキサー車から生コンを採取してモールドに詰める作業、配合設計書の作成、コンピュータの操作等を行うようになり、これらの仕事はいずれも被告にとって継続的に必要なものであった。

(三)  昭和五七年四月頃、被告の安田工場長は原告に対し、雇用期間を昭和五七年一月一八日から昭和五八年一月一七日までの一年間とする昭和五七年一月一八日付の臨時雇用契約書と題する契約書を提示し、事務手続上の形式を整えるだけである旨説明し、原告が雇用期間は一年間となっていることに疑問をもち質問すると、安田工場長は一年間で辞めさせるものではない旨答えたので、原告はこれに署名した。

(四)  昭和五九年八月一日頃、右安田工場長は原告に対し、雇用期間を昭和五九年一月一八日から昭和六〇年一月一七日までの一年間とする昭和五九年一月一八日付の臨時雇用契約書を提示し、やはり会社の書類上必要なもので、形式的なもので今までと実態上の変化はない、急ぐからと説明し、原告に署名させた。原告はその後右契約書に疑問を感じ、被告の従業員で結成している関生支部に相談し、昭和五九年八月三日頃、右契約を撤回する旨被告に申入れ、右申入れは同月六日に被告に到達した。

(五)  被告の代表取締役田上正男は昭和六〇年一二月二〇日頃、原告に対し、雇用期間を昭和六〇年一月一八日から昭和六一年一月一七日までの一年間とする昭和六〇年一月一八日付の臨時雇用契約書を提示し、翌日までに署名するよう求めたが、原告は署名をしなかった。すると、被告は、昭和六〇年一二月二三日原告に対し、原告との雇用契約は昭和六一年一月一七日で満了するが、同月三一日まで雇用期間を延長し、同日付で退職してもらう旨の書面を手渡し、昭和六一年一月二五日頃、同日付の同内容の文書を原告に送付し、同年二月一日以降原告の就労を拒否した。

以上の事実によれば、原告被告間には雇用期間を一年間とする臨時雇用契約書が二通交わされているが、原告が被告に就職する際には雇用期間については何等の合意もなかったこと、右二通の臨時雇用契約書の作成時期は、一回目は就職後三か月も後の時期であり、二回目は雇用期間を一年とした場合の更新時期から七か月も経過した後であること、右契約書を交わすとき、右契約書を提示した安田工場長は右契約書は形式的なものであることを強調し、この契約書で雇用期間に変更が生じるものではないかのような説明をしたことが、それぞれ認められ、これらの点を総合すれば、原告被告間に雇用期間を一年間とする雇用契約の合意が成立したと認めることは困難である。

なお、仮に原告被告間に雇用期間を一年間とする合意があったとしても、右に認定した各点に加え、原告が就職した後、一年毎の更新を行なうべき時期には更新手続は全く行われず、原告は退職の話もなく三年間被告で働いてきたこと、前記のとおり原告の労働時間及び賃金体系は正従業員と異なるが、その仕事の内容は季節的なものではなく被告にとって欠くことのできない作業であったこと、などの点を併せ考えれば、原告被告の雇用契約における意思は、いずれかから格別の意思表示がなければ当然に更新されるべき雇用契約を締結する意思であったというべきである。そして、このような雇用契約においては、期間満了を理由とする雇い止めは実質において期間の定めのない雇用契約における解雇の意思表示にあたるから、解雇に関する法理を類推適用するべきである。そして、被告は雇用期間満了以外に解雇理由を特に主張していない。(証拠略)によれば、被告の営業成績は必ずしも好調とはいえないことが認められ、被告はこの点を解雇理由として主張するかのようであるが、そのことだけで原告の解雇を正当と解するには足りず、その他原告の解雇を正当とするに足りる主張はない。

三  賃金

平均賃金の算定は、最終の賃金受領の直前の賃金支払締切日から過去三か月の賃金を平均するのが相当であるところ、(証拠略)によれば、被告の賃金支払締切日は毎月二〇日であり、当月二五日支払いであることが認められ、(証拠略)によれば、最終の賃金支払締切日は昭和六一年一月二〇日であること、その時から過去三か月の昭和六〇年一一月分から昭和六一年一月分の一か月の平均賃金は金九万九四九九円であり、一日の平均賃金は三二四四円であること、昭和六一年一月二一日から同月三一日までの賃金四万九一〇八円は既に支払われているか少なくとも被告の提供があったことが、それぞれ認められる。したがって被告の未払賃金は、昭和六一年二月二五日に支払われるべき賃金としては一日の平均賃金の二〇日分の六万四八八〇円、その後の賃金は毎月九万九四九九円とするのが相当である。

四  結論

以上より、その余を判断するまでもなく原告の本件請求は主文の限りで理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡文夫)

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