大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和61年(ワ)2068号 判決 1988年10月28日

原告

髙田淳

右法定代理人親権者

髙田米明

原告

髙田米明

右両名訴訟代理人弁護士

鶴田啓三

被告

木 下 喜兵衛

右訴訟代理人弁護士

加 藤 明 雄

主文

一  被告は原告髙田淳に対し、金三、〇六一万六、一六六円及び内金二、八六一万六、一六六円に対する昭和六一年一〇月一日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は原告髙田米明に対し、金五四五万三、〇〇〇円及びこれに対する昭和六一年一〇月一日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを三分し、その二を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

五  この判決は第一項及び第二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告髙田淳に対し金一億一、三二一万九、〇二六円及び内金一億〇、五二一万九、〇二六円に対する昭和六一年一〇月一日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は原告髙田米明に対し金一、八二二万五、〇〇〇円及びこれに対する昭和六一年一〇月一日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

被告が、昭和六〇年七月三日午後七時三〇分ころ、京都府相楽郡木津町大字木津小字池田一〇番地先の東西に通じる国道一六三号線(以下「国道」という。)に南北に通じる町道南垣外雲村線(以下「町道」という。)がT字型に交差する交差点(以下「本件交差点」という。)において、普通乗用自動車(登録番号八八京う六六三五号。以下「被告車」という。)を運転して町道を北から進行してきて国道を西へ右折進行するに際し、折から自動二輪車(登録番号奈み一八八九号。以下「原告車」という。)を運転して国道を東から西へ直進し本件交差点に進入しようとした原告髙田淳(以下「原告淳」という。)に原告車と被告車との衝突の危険を感じさせて急制動の措置をとらせ、原告車を転倒させたうえ前方に滑走させ、原告淳を国道南側に設置されていた街路灯に衝突させる交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

2  運行供用者

被告は本件事故の際、被告車を自己のために運行の用に供していた。

3  傷害及び後遺障害

(一) 原告淳は本件事故により、脳挫傷、両側硬膜外血腫、開放性頭蓋骨々折、四肢挫傷の傷害を受けた。

(二) 原告淳の右傷害は昭和六一年四月七日症状固定したが、同原告には、重度意識障害、四肢完全麻痺、外来刺激に対する反応を認めないという後遺障害(自賠責後遺障害等級第一級に該当)が存する。

4  損害

(原告髙田淳)

原告淳が右傷害及び後遺障害により被った損害は以下のとおりである。

(一) 治療費(金三六五万八、〇三二円)

原告淳(法定代理人親権者父髙田米明。以下原告淳の行為について法定代理人の記載を省略する。)は、田辺中央病院に対し金六万〇、八二五円を、蘇生会病院に対し金三五九万七、二〇七円を、いずれも右傷害の治療費として支払った。

(二) 付添費(金三〇万円)

(1) 原告淳の兄髙田望(以下「望」という。)及び姉髙田香(以下「香」という。)は、本件事故当日ないし昭和六〇年八月三一日までの間、原告髙田米明(以下「原告米明」という。)とともに又は交替で原告淳に付添い看護した。

(2) 原告淳は右期間中、重症のため近親者三名の付添看護を要した。

(3) 望は当時飲食店に勤務し、金三二万〇、八〇〇円の月収があり、香は当時店員として勤務し、金一四万八、〇〇〇円の月収があったもので、望の付添費として金二〇万円、香の付添費として金一〇万円は下らない。

(三) 入院雑費(金一〇五万三、八〇〇円)

原告淳は本件事故当日ないし昭和六三年二月一五日までの間(九五八日間)入院し、その間入院雑費として、一日一、一〇〇円の割合で金一〇五万三、八〇〇円の支出を余儀なくされた。

(四) 将来の付添看護料及び入院雑費(金五、七四五万七、〇五九円)

原告淳は終生入院治療及び付添看護を要し、一日につき入院雑費一、一〇〇円、付添看護料五、〇〇〇円を要するところ、同原告の余命は昭和六三年二月一六日から五四年であるから、将来の付添看護料及び入院雑費は左記計算式のとおりとなる。

(計算式)

6,100(入院雑費1日1,100円+付添看護料1日5,000円)×365(日)×25.806(54年に相当する新ホフマン係数)=5,745万7,059円

(五) 逸失利益(金五、六三三万五、一一七円)

(1) 原告淳は、昭和四三年九月八日生の男子であるが、右後遺障害により労働能力を一〇〇パーセント喪失した。

(2) 原告淳は満一八歳より四九年間就労可能であったから、逸失利益は左記のとおりとなる。

昭和六〇年分 金一八四万九、六〇〇円(同年度の賃金センサス産業計、企業規模計、学歴計一八歳男子労働者の年収)

昭和六一年分 金一八七万七、九〇〇円(同年度の右同賃金センサス)

昭和六二年分 金二〇〇万九、三五三円(昭和六一年の年収を1.07倍したもの)

昭和六三年以降 金五、〇五九万八、二六四円(二一五万〇、〇〇七円〔昭和六二年の年収を1.07倍したもの〕×23.534〔四六年に相当する新ホフマン係数〕)

(以上合計金五、六三三万五、一一七円)

(六) コルセット代(金一二万〇、一〇〇円)

原告淳は右傷害の治療に必要なコルセットを代金一二万〇、一〇〇円で購入した。

(七) 医師看護婦謝礼(金七万円)

(八) 交通費(金三万円)

香は右(二)記載の付添看護のため交通費金三万円を支出した。

(九) 慰謝料(金一、五〇〇万円)

前記事情に照らせば、原告淳の慰謝料は金一、五〇〇万円が相当である。

(一〇) 弁護士費用(金八〇〇万円)

原告淳は本訴提起に際して原告ら代理人に対し、本訴の弁護士費用として金八〇〇万円を支払う旨約した。

(原告髙田米明)

原告米明が原告淳の右傷害及び後遺障害により被った損害は以下のとおりである。

(一) 付添費(金七九〇万五、〇〇〇円)

(1) 原告米明は本件事故当日ないし昭和六三年二月一五日までの間原告淳に付添い看護した。

(2) 原告淳は右期間中、重症のため近親者の付添看護を要した。

(3) 原告米明は当時レコードレンタル業を営み金三〇万円の月収があったが、右看護のためこれを廃業した。

(4) 右事実に照らすと、原告米明の付添費は昭和六〇年七月三日から昭和六二年三月三一日までは一か月三〇万円の割合で六三〇万円、同年四月一日から昭和六三年二月一五日までの三二一日間は一日五、〇〇〇円の割合で一六〇万五、〇〇〇円の合計七九〇万五、〇〇〇円が相当である。

(二) 交通費(金三二万円)

原告米明は右付添看護のため交通費金三二万円を支出した。

(三) 慰謝料(金一、〇〇〇万円)

前記事情に照らせば、原告米明の慰謝料は金一、〇〇〇万円が相当である。

5  損害の填補

原告は自動車損害賠償責任保険から保険金二、八六七万八、〇八二円及び被告から弁済金一二万七、〇〇〇円を受領した。

6  よって被告に対し、自動車損害賠償保障法三条に基づき、原告淳は金一億六、〇二四万九、一〇八円から自動車損害賠償責任保険の保険金二、八六七万八、〇八二円及び一部弁済金一二万七、〇〇〇円を控除した金一億一、三二一万九、〇二六円の賠償金及び弁護士費用を除く内金一億〇、五二一万九、〇二六円に対する本件事故の後である昭和六一年一〇月一日から支払い済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを、原告米明は金一、八二二万五、〇〇〇円の賠償金及びこれに対する本件事故の後である昭和六一年一〇月一日から支払い済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因第1項(本件事故の発生)、同第2項(運行供用者)、同第3項(傷害及び後遺障害)及び第5項(損害の填補)の各事実は認める。

2  原告淳に関する同第4項(損害)のうち、(一)(治療費)の事実、(二)(付添費)のうち、原告淳が入院期間中重症のため近親者の付添看護を要したこと、(四)(将来の付添看護料及び入院雑費)のうち、原告淳が終生入院治療及び付添看護を要することは認め、その余については事実は否認し、主張は争う。

3  原告米明に関する同第4項(損害)のうち、(一)(付添費)のうち(1)(付添看護)の事実は不知、(2)(要付添看護)の事実は認め、(3)(米明の収入)の事実は否認し、(4)は争う。(二)(交通費)の事実は否認し、(三)(慰謝料)は争う。

三  抗弁

1  免責

(一) 被告の無過失

被告は本件交差点に進入する際、国道の東方向を本件交差点より約四五メートル先の地点まで安全確認し、同一方向から本件交差点へ向け進行中の自動車等が存しないことを確認のうえ、本件交差点へ進入した。

(二) 原告淳の過失

原告淳は本件交差点へ向け進行中、適宜減速し右方道路の安全確認をしたうえで本件交差点へ進入すべきであったのに、これを怠り、時速九〇キロメートル以上の猛スピードのまま本件交差点を通過しようとしたため本件事故を惹起させた。

(三) 被告車の欠陥等

本件事故の際被告車には構造上の欠陥及び機能の障害は存しなかった。

2  過失相殺

(一) 信号の状況

本件事故当時本件交差点は信号機が設置され、原告淳の対面信号は黄色点滅であった。

(二) 速度超過

原告淳は、本件交差点付近の国道の最高速度が三〇キロメートル毎時であったにもかかわらず、これを上回る時速九〇キロメートル以上の猛スピードで進行し、本件交差点へ進入する際も減速しなかったため、本件事故を惹起させ又は同原告の傷害の程度を重くした。

(三) ヘルメット着用方法

原告淳は本件事故の際ヘルメットを着用していたが、あごひもをしめなかったため、原告車転倒のころヘルメットが離脱し、これにより同原告の傷害の程度が重くなった。

(四) 保守点検不良

原告車は本件事故の際、タイヤ及び制動装置の保守点検不良のため、制動が間に合わなかった。

(五) 改造車両

本件事故時の原告車は、競技専用のセパレートハンドルが逆ハの字型に取付けられ、マフラーは集合マフラーが取付けられ、後部車両番号灯が水平に近く取付けられて車両番号の確認が不能となっており、このため道路運送車両法により道路上の交通の用に供することが禁止されていたにもかかわらず、原告淳はこれを知りながら原告車を運転したため本件事故を惹起させた。

(六) 運転技術の未熟

自動車の運転は小型車から徐々に大型車へ移行して初めて安全運転に必要な運転技術が体得できるにもかかわらず、原告淳は以前約一か月間原動機付自転車に乗った経験があった程度で満一六歳になるや直ちに排気量四〇〇ccの自動二輪車である原告車に乗って本件事故に至ったもので、未だ原告淳の運転技術が未熟であったため本件事故を惹起させた。

四  抗弁に対する認否

抗弁第2項(過失相殺)(一)(信号の状況)は認め、その余は否認する。

五  再抗弁

1  信号の状況

本件事故当時本件交差点は信号機が設置され、被告の対面信号は赤色点滅であった。

2  被告の過失

被告は本件交差点へ進入するに際し、一旦停止して左方道路の安全を確認して進行すべきであったのにこれを怠ったため本件事故を惹起させた。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁第1項の事実は認め、同第2項の事実は否認する。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因第1項(本件事故)、同第2項(運行供用者)及び同第3項(傷害及び後遺障害)の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

二同第4項(損害)について

1(原告淳)同項(一)(治療費)は当事者間に争いがない。

2(原告淳)同項(二)(付添費)及び(原告米明)同項(一)(付添費)について

(一) 前記(第一項)のとおり原告淳が本件事故により前記傷害及び後遺障害を負った事実は当事者間に争いがなく、また原告淳が本件事故当日ないし昭和六三年二月一五日までの入院期間中重症のため近親者の付添看護を要した事実も当事者間に争いがなく、右各事実に加え原告米明本人尋問の結果を総合するならば、原告米明が右期間中原告淳に付添看護した事実及び当初の二か月間は同原告の兄望と姉香も交替で付添看護した事実を認定することができる。

(二)  しかしながら、右各事実及び本件全証拠によるも、原告淳が重症であったものの、原告米明の右付添看護に加えて望及び香の近親者三名が同時に原告淳に対し付添看護する必要のあった事実を認定することはできない。よって、同項(二)(付添費)の主張は理由がない。

(三)  そこで原告米明の付添費につき検討する。

近親者付添費の額を算定するにあたっては、付添人が付添をしたことによって就労が不可能となり、減収となった額を基準とするのではなく、社会通念に従い妥当とされる一定額の基準によるべきである。

よって、同原告の付添費は、経験則及び原告淳の傷害の程度等前記事情に鑑みて一日当り金五、〇〇〇円が相当であり、前記のとおり原告米明は本件事故当日ないし昭和六三年二月一五日までの間合計九五八日間原告淳に付添看護したことが認められるから、左記計算式のとおり原告米明の付添費は金四七九万円が相当である。

(計算式)

5,000円×958(日)=479万円

3(原告淳)同項(三)(入院雑費)について

<証拠>によれば、原告淳は本件事故当日ないし昭和六三年二月一五日までの間合計九五八日間入院治療を受けた事実が認められるところ、同原告の支出した入院雑費は右入院日数及び原告淳の傷害の程度等前記事情に鑑みて一日当り金一、一〇〇円を下回らないと認められるから、同原告の入院雑費は左記計算式のとおり金一〇五万三、八〇〇円が相当である。

(計算式)

1,100円×958(日)=105万3,800円

4 同項(四)(将来の付添看護料及び入院雑費)について

(一)  同項(四)のうち原告淳が終生入院治療及び付添看護を要する事実は当事者間に争いがない。

(二)  原告淳の余命について

前述のとおり、原告淳は重度意識障害、四肢完全麻痺、外的刺激に対する反応を認めない後遺症を有し回復の見込みのない、いわゆる完全な植物人間の状態にある。経験則上この様な患者の場合、誤飲による肺炎や窒息、褥創による敗血症、尿路感染等の生命に対する危険に常にさらされているのであって、平均余命まで生存することは考え難く、その生存期間は不確定要素が大きいが、事故時二〇歳未満の患者の場合は、それを否定するに充分な特段の事由がない限り、その余命は満四〇歳程度までと考えるのが妥当である(最高裁判所昭和六〇年(オ)第八三五号昭和六三年六月一七日第二小法廷判決)。従って、原告淳の余命は昭和六三年二月一六日から二一年とするのが相当であり、これに反する余命を肯認するに足る証拠は存しない。

(三)  昭和六三年二月一六日以降の同原告の付添看護料及び入院雑費は、同原告の後遺障害の内容等前記事情に鑑みて、一日当り金五、〇〇〇円及び金一、一〇〇円が各相当である。

(四)  そこで同原告の将来の付添看護料及び入院雑費は、左記計算式のとおり金三、一四〇万二、二七一円(円未満切り捨て)となる。

(計算式)

6,100円(入院雑費1日1,100円+付添看護料1日5,000円)×365(日)×14.103872(21年に相当する新ホフマン係数)=3,140万2,271.008円

5 同項(五)(逸失利益)について

(一)  原告淳が昭和四三年九月八日生れの男子であることは<証拠>によって明らかであり、本件事故当時満一六歳の男子であったから、昭和六二年度(一八歳)から就労を開始し、昭和六二年度一八歳男子全労働者平均程度の収入を得たものと認められる。

(二)  昭和六二年度一八歳男子全労働者平均収入について算出すると、昭和六〇年度一八歳男子全労働者の平均年収は金一八四万九、六〇〇円(昭和六〇年賃金センサス産業計・企業規模計・男子労働者学歴計・満一八歳ないし一九歳の年収)、昭和六一年度の同収入は金一八七万七、九〇〇円であり(同年の右同賃金センサス)、その間の伸び率は1.53006パーセント(小数点五位未満切り捨て)であるから、昭和六一年度の右年収に右伸び率を乗じて昭和六二年度の右年収を推定すると、その額は左記計算式のとおり金一九〇万六、六三一円(円未満切り捨て)となる。

(計算式)

187万7,900円×1.0153=190万6,631.87円

(三)  前記認定の原告淳に存する後遺障害の内容によれば、原告淳が右後遺障害により、労働能力を一〇〇パーセント喪失した事実が認められる。

(四)  同原告が満六七歳まで就労可能であるとみられるから、同原告の就労可能年数は四九年となるが、前記認定のとおり、同原告の余命は満四〇歳までの二一年間であると認められるので、右就労可能年数中四〇歳を超える二七年間については、生活費として逸失利益から五〇パーセントを控除すべきである。

そこでまず四〇歳までの逸失利益を求めると、左記計算式1のとおり金二、七七九万八、八〇〇円(円未満切り捨て)であり、次に四一歳から六七歳までの逸失利益を求めると、左記計算式2のとおり金九三七万六、九六八円(円未満切り捨て)であるから、全逸失利益は両者を合計して金三、七一七万五、七六八円となるが、これは昭和六二年における価額であるから、事故当時(昭和六〇年)の価額に換算すると、左記計算式3のとおりその額は金三、三七九万六、一五二円(円未満切り捨て)となる。

(計算式1)

190万6,631円(年収)×14.580063(22年に相当する新ホフマン係数)=2,779万8,800.0977円

(計算式2)

190万6,631円(年収)×0.5(生活費控除)×(24.416228(49年に相当する新ホフマン係数)−14.580063(22年に相当する同係数))=937万6,968.55505円

(計算式3)

3,717万5,768円÷(1+0.05(法定利率)×2(年))=3,379万6,152.7272円

(五)  従って、原告淳の逸失利益は金三、三七九万六、一五二円となり、原告淳主張の逸失利益算定方法中、これと異なる部分は採用できない。なお原告淳主張の算定方法中、同原告が一六歳時及び一七歳時にも一八歳男子全労働者平均収入を得ることを前提とする部分があるが、同原告が本件事故時に収入を得ていたことを認めるに足る証拠はないので、右算定方法を採用することはできない。

6 同項(六)(コルセット代)について

<証拠>によれば、同項(六)の事実を認定することができる。

7 同項(七)(医師看護婦謝礼)について

本件全証拠によるも、右事実を認定することができない。

8 同項(八)(交通費)について

前述(第二項2)のとおり香の付添看護が必要であった事実を認定することができないので、香の交通費請求は理由がない。

9 同項(九)(慰謝料)について

前記認定の各事実に照らせば、原告淳の慰謝料は金一、二〇〇万円が相当である。

10 (原告米明)請求原因第4項(二)(交通費)について

近親者の付添看護のための交通費は、特段の事情のない限り付添費に含めて考慮されるから、本件では右特段の事情につき主張立証がないので、原告米明の交通費請求は理由がない。

11 同項(三)(慰謝料)について

前記認定の各事実に照らせば、原告米明の慰謝料は金三〇〇万円が相当である。

三抗弁第1項(免責)(一)(被告の無過失)・再抗弁第2項(被告の過失)について

1  当事者間に争いがない請求原因第1項の事実及び信号の状況の事実に、<証拠>によれば、次の事実が認められる。

(一)  本件事故現場は、東西に通じる国道(アスファルト舗装され平坦な片側各一車線の道路で、車道幅員約9.8メートル)に、南北に通じる町道(アスファルト舗装され平坦な道路で、車道幅員約5.2メートル)がT字型に交差する本件交差点付近であるが、右国道は最高速度三〇キロメートルの交通規制がなされ、本件交差点には信号機が設置されていたが、本件事故当時、右国道方向は黄点滅、右町道方向は赤点滅の状態にあった。また、本件交差点の北東角に店舗が建っているため、同交差点における右町道方向から右国道東方向の見通しは不良であった。更に、本件事故当時は雨あがりで路面は湿潤状態にあった。

(二)  本件事故当時、被告は、被告車を運転して右町道を北から南へ進行し、本件交差点に差しかかったもの、他方、原告淳は、原告車を運転して右国道を東から西へ時速約六〇キロメートルで走行して本件交差点に差しかかろうとしたものであるが、被告は別紙図面①地点(以下記号のみ示す。)で一旦停止した後本件交差点に進入し、時速約一〇キロメートルで②地点を通過して右折を開始しようとし、被告車が②地点を通過する時点で原告車はfile_3.jpg地点を走行しており、被告は②地点から右file_4.jpg地点の原告車を発見することが可能であったにもかかわらず、本件交差点を通過する東行車に気をとられ左方向の安全確認を怠ったまま、②地点を通過して右折を開始したところ、その直後、被告は同乗中の木下隆弘(以下「隆弘」という。)から原告車の存在を指摘されて間もなく制動措置をとり国道のセンターラインを本件交差点内に延長した線付近で停止したが、原告淳は、右被告車との衝突の危険を感じて急制動をかけたところ、原告車はfile_5.jpg地点で転倒滑走し、file_6.jpg地点で街路灯に衝突した。

以上のとおり認められる。

もっとも、<証拠>によれば、被告は捜査官に対し、本件交差点を右折する際②地点で左方道路の安全確認をしたが左方から走行して来る自動車等はなかった旨述べた事実が認められ、また、<証拠>によれば、被告は本件事故現場における昭和六〇年八月一四日の実況見分において同様の指示説明をした事実を認めることができるけれども、他方、<証拠>によれば、被告は本件事故当日の取調べにおいて司法警察員に対し、右折の際左方道路の安全確認が不充分であったことを認める内容を述べていること、<証拠>によれば、検察官の取調べの際被告は、右折の際西行車両はないだろうという気持ちで左方を見ていたのでよく注意して見ていなかった旨述べていることが認められることに照らすと、前記進行左方向の安全を確認したとの被告の供述記載及び指示説明部分は採用することができない。

他に右認定を覆すに足る証拠はない。

2  右認定した事実によれば、被告車は右折車であり、しかも、本件事故当時、同車の進行方向の信号は赤点滅状態にあったのであるから、被告としては、交差道路である国道上の交通の安全を確認し、接近してくる車両との衝突の危険を回避するためその進行妨害を避けるなど所要の措置をとるべき義務があったものというべきところ、被告はこれを怠り、進行左方向の安全を確認しないまま漫然右折を開始したため、折から、本件交差点に差しかかろうとしていた原告淳に衝突の危険を感じさせ、急制動の措置をとらせて原告車を転倒させたものと認められる。

以上のとおり、被告には左方向の安全確認を怠った過失が認められるので、再抗弁第2項(被告の過失)を認定することができ、他方抗弁第1項(一)(被告の無過失)を認定することができないので、その余の点につき判断するまでもなく被告の免責の主張は理由がない。

四過失相殺について

(抗弁第2項(二)(速度超過)について)

1  前記認定した事実によれば、原告淳にも、国道の最高速度(三〇キロメートル毎時)を約三〇キロメートル毎時超過する速度で走行した過失があると認められるところ、そのことが、急制動の結果、当時路面が湿潤状態であったこととも相まって転倒及び原告の街路灯への衝突という事態を引き起こす一因となったものと解せられる。

(同項(三)(ヘルメット着用方法)について)

2  しかも、<証拠>によれば、原告淳は、本件事故当時ヘルメットを着用して走行していたものの、同ヘルメットには本来あるべきあごひもがついておらず、あごひもを装着していなかったため、本件事故の際、転倒と同時にヘルメットが脱落し、原告の頭部が直接街路灯に激突したことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はないところ、前記同原告の本件事故による傷害及び後遺障害の内容、程度に鑑みれば、右ヘルメットの脱落により同原告の傷害及び後遺障害の程度が重くなったことは否定し難い。

3  なお、抗弁第2項(六)(保守点検不良)の主張はこれを認定する証拠はないし、(七)(改造車両)及び(八)(運転技術の未熟)の主張は、仮に被告主張のとおり原告車が改造車両であり又は原告淳の運転技術が未熟であったとしても、これらが本件事故発生又は原告淳の傷害発生に寄与したことを認めるに足る証拠がないから、いずれも採用できない。

4  そこで、右認定した原告淳における諸事実に加え、前記被告の過失の内容、程度を併せ考慮すると、原告の損害を算定するにあたって三割の過失相殺をするのが相当である。

五認容すべき請求金額

1  原告淳について

(一)  原告淳の損害は前記認定のとおり、治療費金三六五万八、〇三二円、入院雑費金一〇五万三、八〇〇円、将来の付添看護料及び入院雑費金三、一四〇万二、二七一円、逸失利益三、三七九万六、一五二円、コルセット代金一二万〇、一〇〇円及び慰謝料金一、二〇〇万円であり、合計金八、二〇三万〇、三五五円である。

(二)  前述のとおり本件過失割合は原告淳三割、被告七割とみるのが相当であるから、左記計算式のとおり過失相殺すると金五、七四二万一、二四八円(円未満切り捨て)となる。

(計算式)

8,203万0,355円×(1−0.3)=5,742万1,248.5円

(三)  同原告が自動車損害賠償責任保険の保険金二、八六七万八、〇八二円及び一部弁済金一二万七、〇〇〇円を受領したことは、当事者間に争いがなく、これらを控除すると残額は金二、八六一万六、一六六円となる。

(四)  請求原因第4項(一〇)(弁護士費用)について

前記認定の各事実を総合するならば、本訴の弁護士費用は金二〇〇万円が相当である。

(五)  そこで弁護士費用を加えると、原告淳につき認容すべき金額は金三、〇六一万六、一六六円となる。

2  原告米明について

(一)  原告米明の損害は前記認定のとおり、付添費金四七九万円及び慰謝料金三〇〇万円であり、合計金七七九万円である。

(二)  原告淳の前記過失は原告側の過失としてその割合に応じて原告米明の損害からも控除されるべきであるから、左記計算式のとおり過失相殺すると金五四五万三〇〇〇円となる。

(計算式)

779万円×(1−0.3)=545万3,000円

(三)  従って、原告米明につき認容すべき請求金額は金五四五万三、〇〇〇円となる。

六結論

以上のとおり、本訴請求は本件自動車損害賠償金のうち、原告淳につき金三、〇六一万六、一六六円及び弁護士費用を除く内金二、八六一万六、一六六円に対する本件事故の後である昭和六一年一〇月一日から支払い済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを、原告米明につき金五四五万三、〇〇〇円及びこれに対する本件事故の後である昭和六一年一〇月一日から支払い済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度においていずれも理由があるからこれを認容し、その余の各請求はいずれも失当であるからこれらを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官小北陽三 裁判官河合健司 裁判官長沢幸男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例