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京都地方裁判所 昭和61年(ワ)2553号 判決 1987年8月27日

昭和四二年(ワ)第一五〇七号土地所有権移転登記抹消登記手続請求事件(以下「基本事件」という。)

昭和四九年(ワ)第九六一号土地所有権確認等請求独立当事者参加事件(以下「参加事件」という。)

昭和六一年(ワ)第一七五四号土地所有権移転登記手続反訴請求事件(以下「第一反訴事件という。)

同年(ワ)第二五五三号土地所有権移転登記手続反訴請求事件(以下「第二反訴事件」という。)

基本事件原告(参加事件被参加人)、第一、二反訴事件各反訴原告(以下「原告」という。)

田所久一

右訴訟代理人弁護士

松井清志

亀田得治

井上善雄

基本事件及び参加事件訴訟代理人弁護士

赤塚宋一

中村亀雄

小山孝徳

基本事件被告(以下「被告」という。)亡岩井朱二郎訴訟承継人亡林正男訴訟承継人

林愛子

被告同

林紀子

被告同

林義子

被告同

林寛明

被告同

林正憲

被告 亡岩井朱二郎訴訟承継人

岩井實

被告同

田中久江

被告 亡岩井朱二郎訴訟承継人 岩井喜造訴訟承継人

岩井富代美

被告同

岩井康修

右九名訴訟代理人弁護士

高田良爾

第一反訴事件反訴被告(以下「反訴被告」という。)

株式会社窪田

右代表者代表取締役

窪田操

右訴訟代理人弁護士

高田良爾

参加事件参加人、第二反訴事件反訴被告(以下「参加人」という。)

株式会社伏見桃山ゴルフクラブ(旧商号・株式会社伏見桃山国際ゴルフクラブ)

右代表者代表取締役

西上廣夫

右訴訟代理人弁護士

浅岡建三

山﨑雅視

梶原正雄

参加事件訴訟代理人弁護士

久保田敏夫

主文

一  原告の被告らに対する請求並びに反訴被告及び参加人に対する各反訴請求をいずれも棄却する。

二  原告と参加人との間において、別紙物件目録記載の土地が参加人の所有であることを確認する。

三  訴訟費用は全事件を通じ、すべて原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  基本事件について

1  請求の趣旨

(一) 原告に対し、被告林愛子は金二五万円、同林紀子、同林義子、同林寛明、同林正憲は各金六万二五〇〇円、同岩井實、同田中久江は各金五〇万円、同岩井富代美、同岩井康修は各金二五万円及び右各金員に対する昭和三九年一月二九日から支払ずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

(二) 訴訟費用は被告らの負担とする。

(三) 仮執行宣言

2  請求の趣旨に対する答弁

(一) 原告の請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

二  参加事件について

1  参加請求の趣旨

(一) 別紙物件目録記載の土地が参加人の所有であることを確認する。

(二) 参加費用は原告の負担とする。

2  参加請求の趣旨に対する答弁

(一) 参加人の請求を棄却する。

(二) 参加費用は参加人の負担とする。

三  第一反訴事件について

1  反訴請求の趣旨

(一) 反訴被告は、原告に対し、金二〇〇万円及びこれに対する昭和五八年一二月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 反訴費用は反訴被告の負担とする。

(三) 仮執行宣言

2  反訴請求の趣旨に対する答弁

(一) 原告の反訴請求を棄却する。

(二) 反訴費用は原告の負担とする。

四  第二反訴事件について

1  反訴請求の趣旨

(一) 参加人は、原告に対し、別紙物件目録記載の土地について、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

(二) 反訴費用は参加人の負担とする。

2  反訴請求の趣旨に対する答弁

(一) 原告の反訴請求を棄却する。

(二) 反訴費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  基本事件について

1  請求原因

(一) 訴外山田佐紀子及び同山田喜代子(以下、両名を「山田ら」という。)は、以前別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を所有していた。

(二) 原告は、山田らとの間に、昭和三七年六月、本件土地(ただし、立木については、二〇年生以上の立木を除く。)を代金は公簿面積に基づき坪当り金八〇〇円で同人らから買い受ける旨の売買契約(以下「第一売買契約」という。)を締結した。

(三) ところが、訴外亡岩井朱二郎は、山田らから本件土地の管理を任せられていたので、同人らが自己に相談なく本件土地を売却したことを知つて、これに不満をもち、原告が本件土地につき所有権移転登記を受けることを妨害するため、山田らと共謀のうえ、同人らから、昭和三九年一月二九日、本件土地につき所有権移転登記を受けた。

仮に岩井朱二郎が同日山田らから本件土地を買い受けていたとしても、右売買契約(以下「第二売買契約」という。)は、岩井朱二郎が山田らに代つて裁判をなすために締結されたものであり、信託法一一条に違反し無効であり、また、右所有権移転登記の経緯に照らせば、岩井朱二郎は背信的悪意者であり、同人のなした第二売買契約による本件土地の買受け行為は違法である。

(四) そのため、原告は、昭和四二年の本件訴え提起以来、長年にわたつて自己の本件土地の所有権を保全するため訴訟追行を余儀なくされたものであり、岩井朱二郎の右行為は、原告に対する不法行為を構成する。

(五)(1) 原告は、岩井朱二郎の右不法行為によつて甚大な精神的苦痛を受けたものであり、その慰謝料としては、金一〇〇万円が相当である。

(2) 原告は、本件訴えの提起及び追行のため、大阪弁護士会所属の弁護士松本泰郎、同亀田得治、同松井清志、同井上善雄に対し、金一〇〇万円を支払つた。

(六)(1) 岩井朱二郎は、昭和五三年八月二二日に死亡し、同人の子である訴外亡林正男、同岩井喜造、被告岩井實、同田中久江の四名が岩井朱二郎の負担していた右損害賠償債務を各四分の一ずつ相続した。

(2) 林正男は、昭和五八年三月七日に死亡し、同人の妻である被告林愛子が林正男の負担していた右損害賠償債務のうち二分の一を、また、林正男の子である被告林紀子、同林義子、同林寛明、同林正憲の四名が同損害賠償債務のうち各八分の一ずつそれぞれ相続した。

(3) 岩井喜造は、昭和六〇年一月三〇日に死亡し、同人の子である被告岩井富代美、同岩井康修の二名が岩井喜造の負担していた前記損害賠償債務を各二分の一ずつ相続した。

(七) よつて、原告は、不法行為による損害賠償請求権に基づき、被告林愛子に対し金二五万円、同林紀子、同林義子、同林寛明、同林正憲に対し各金六万二五〇〇円、同岩井實、同田中久江に対し各金五〇万円、同岩井富代美、同岩井康修に対し各金二五万円及び右各金員に対する不法行為の日である昭和三九年一月二九日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  請求原因に対する認否

(一) 請求原因(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の事実は否認する。

第一売買契約は、次の各理由により、客観的に見て成立していない。

(1) 山田らは、第一売買契約の契約書(乙第一号証)を緑地解除申請の書類と誤信しており、本件土地を売却する意思を有していなかつた。

(2) 第一売買契約において、当事者間では、本件土地上の立木の処理の問題及び売買代金の算定基準を公簿面積と実測面積のいずれにするかという問題について合意されておらず、売買契約における目的物及び売買代金額が確定していなかつたものである。

(3) 山田らは、第一売買契約の締結にあたつて、亡山田喜三の名を用いており、第一売買契約は死者の名をもつてした契約である。

(三) 同(三)の事実のうち、岩井朱二郎が昭和三九年一月二九日に本件土地につき山田らから所有権移転登記を受けたこと、同人が第二売買契約を締結したことは認め、その余は否認する。第二売買契約は、同人が、山田らから本件土地を金三二五万円で買い受けるもので、同人の買受け行為は正当な行為である。

(四) 同(四)の事実は否認する。岩井朱二郎が原告主張の登記を了した当時、本件土地の所有権は原告に帰属していなかつたのであるから、不法行為成立の余地はない。

(五) 同(五)の事実は否認する。

(六) 同(六)の事実は認める。

(七) 同(七)は争う。

3  抗弁

(一) 山田らは、第一売買契約の締結にあたつて、代替地との交換ないしその提供がなされなければ、本件土地の売却に応じないことを表示していたが、その代替地が確保できたものと誤信するとともに、本件土地の公簿面積四〇四〇坪と実測面積六七三七坪との間に大きな差があることについても誤信していた。

(二) 原告の指示のもとに山田らとの間で第一売買契約の交渉にあたつた訴外萩原清治は、代替地と交換でなければ本件土地の売却に応じない山田らを欺いて、代替地を確保できたものと称してその旨山田らを誤信させ、右売買契約を締結したものである。そこで、山田らは、原告に対し、昭和三七年六月末ころ、右売買契約を取り消す旨の意思表示をしている。

(三) 第一売買契約は、本件土地について現状変更の許可(緑地解除)ないしその見通しがつくこと及び本件土地の工事に着工する前に代金を授受することを停止条件とするものであつた(乙第一号証の第二、八項)。

4  抗弁に対する認否

(一) 抗弁(一)、(二)の各事実は否認する。山田らは、自らの意思に基づいて売買契約書(乙第一号証)に署名捺印したものであり、また、右売買契約の締結にあたつて当事者間で代替地の話が出たことはなかつたから、被告らの錯誤及び詐欺の主張は理由がない。

(二) 同(三)の事実は否認する。被告ら主張の条項は、停止条件を定めたものではない。

二  参加事件について

1  参加請求原因

(一) 山田らは、以前本件土地を所有していた。

(二)(1) 参加人は、山田らから、昭和三七年九月ころ、本件土地を代金坪当り金八〇〇円で買い受けた(以下、この売買契約を「第三売買契約」という。)。その際、形式上は原告が本件土地の買主とされたが、これは、当時参加人会社がまだ設立準備段階であつたため、設立後参加人会社の代表取締役になる予定であつた原告の名義でとりあえず本件土地を買い受けたものであり、このことは原告自身も了承していた。

(2) 右(1)の主張が認められないとしても、原告は、昭和三七年九月ころ、山田らから本件土地を代金坪当り金八〇〇円で買い受け(第一売買契約に該当する。)、次いで、参加人は、原告から、昭和三八年一二月一三日ころ、本件土地を右と同額で買い受けた。

(3) 右(2)の主張が認められないとしても、参加人は、山田らから、昭和三八年春から夏ころ、本件土地を代金坪当り金八〇〇円で買い受けた。

(三) しかるに、原告は、本件土地が参加人の所有であることを争つている。

(四) よつて、参加人は、原告に対し、本件土地が参加人の所有であることの確認を求める。

2  参加請求原因に対する認否

(一) 参加請求原因(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の事実はすべて否認する。前記一の1の請求原因(二)のとおり、本件土地は、原告個人が、山田らから、昭和三七年六月、代金坪当り金八〇〇円で買い受けたものである。

(三) 同(三)の事実は認める。

(四) 同(四)は争う。

3  抗弁(参加請求原因(二)の(1)に対して)

参加人主張の第三売買契約は、参加人にとつて財産引受にあたるから、その原始定款に記載がない以上無効である(商法一六八条一項)。

4  抗弁に対する認否

争う。

5  再抗弁

(一) 本件土地は、参加人がその設立前にゴルフ場の会員募集を行い、その入会金をもつて買収したものであり、本件土地を含めゴルフ場用地は参加人会社の帳簿上土地勘定に、入会金は預り保証金勘定にそれぞれ記帳されている。参加人会社の主たる債権者は、右預り保証金の債権者らであり、引当てになる資産は、本件土地を含むゴルフ場用地がほとんどである。また、本件土地を過大に評価したということもなく、更に、参加人会社は、原告が実質上唯一の発起人として設立し、設立後も実質的に原告の一人会社として運営されてきたものである。したがつて、商法一六八条一項の趣旨から考えて、参加人主張の第三売買契約には、同条は適用されない。

(二) 仮に、第三売買契約が原告主張のように無効であつたとしても、参加人は、昭和三八年以来本件土地をゴルフ場として使用しており、この間原告が異議を述べたこともなかつたから、第三売買契約は、民法一一九条の法意により有効になつたものと解すべきである。

6  再抗弁に対する認否

いずれも争う。

三  第一反訴事件について

1  反訴請求原因

(一) 前記一の1の請求原因(一)(本件土地の従前所有者)のとおり

(二) 同(二)(第一売買契約の成立)のとおり

(三) 同(三)(岩井朱二郎の所有権移転登記の存在、第二売買契約の違法性)のとおり

(四)(1) 岩井朱二郎は、昭和五三年八月二二日に死亡し、同人の子である亡林正男、同岩井喜造、被告岩井實、同田中久江の四名が岩井朱二郎の地位を承継した。

(2) 林正男は、昭和五八年三月七日に死亡し、同人の妻である被告林愛子、林正男の子である被告林紀子、同林義子、同林寛明、同林正憲の五名が林正男の地位を承継した。

(五) 反訴被告は、前記(二)のとおり原告が本件土地を買い受けたこと及び前記(三)のとおり岩井朱二郎が本件土地につき所有権移転登記を受けた経緯並びに本件土地をめぐつて裁判が行われていることを十分知りながら、被告林愛子、同林紀子、同林義子、同林寛明、同林正憲、同岩井實、同田中久江、亡岩井喜造の八名から、昭和五八年一二月九日、本件土地を買い受けたと称し、右同日、本件土地につき所有権移転登記を受け、更に、参加人に対し、和解に基づいて、昭和六一年一〇月九日、本件土地の所有権移転登記を了した。

(六) 右のとおり反訴被告は、故意又は過失によつて原告の本件土地の所有権保全を妨害したものであり、反訴被告の右行為は、原告に対する不法行為を構成する。

(七)(1) 原告は、反訴被告の右不法行為によつて甚大な精神的苦痛を受けたものであり、その慰謝料としては、金一〇〇万円が相当である。

(2) 原告は、反訴被告からの当事者参加に対する応訴、本件反訴請求訴訟の提起及び追行のため、大阪弁護士会所属の弁護士亀田得治、同松井清志、同井上善雄に対し、金一〇〇万円を払つた。

(八) よつて、原告は、反訴被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、金二〇〇万円及びこれに対する不法行為の日である昭和五八年一二月九日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  反訴請求原因に対する認否及び反訴被告の主張

(一) 反訴請求原因(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の事実は否認する。

(三) 同(三)の事実に対する認否は、前記一の2の(三)のとおりである。

(四) 同(四)の事実は認める。

(五) 同(五)の事実のうち、反訴被告が、被告林愛子、同林紀子、同林義子、同林寛明、同林正憲、同岩井實、同田中久江、亡岩井喜造の八名から、昭和五八年一二月九日、本件土地につき所有権移転登記を受けたこと及び反訴被告が、参加人に対し、和解に基づいて、昭和六一年一〇月九日、本件土地につき所有権移転登記を了したことは認め、その余は否認する。

なお、反訴被告が右被告林愛子らから右のとおり本件土地につき所右権移転登記を受けたのは、同被告らから、昭和五八年一二月九日、本件土地を買い受けたことに基づくものである。

(六) 同(六)、(七)の各事実は否認する。反訴被告が原告主張の各登記を経由した当時、本件土地の所有権は参加人に属し、原告に帰属していなかつたのであるから、不法行為は成立しない。

(七) 同(八)は争う。

四  第二反訴事件について

1  反訴請求原因

(一) 前記一の1の請求原因(一)(本件土地の従前所有者)のとおり

(二) 同(二)(第一売買契約の成立)のとおり

(三) 参加人は、現在本件土地の所有名義人である。

(四) よつて、原告は、参加人に対し、所有権に基づき、本件土地について真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をなすことを求める。

2  反訴請求原因に対する認否

(一) 反訴請求原因(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の事実は否認する。

(三) 同(三)の事実は認める。

(四) 同(四)は争う。

3  抗弁

(一) 前記二の1の参加請求原因(二)(参加人の本件土地の所有権取得原因)のとおり

(二)(1) 亡岩井朱二郎は、山田らから、昭和三九年一月二九日、本件土地を金三二五万円で買い受け、右同日、その旨の所有権移転登記を了した。

(2) 前記三の1の反訴請求原因(四)(岩井朱二郎、林正男の死亡とその相続関係)のとおり

(3) 反訴被告は、被告林愛子、同林紀子、同林義子、同林寛明、同林正憲、同岩井實、同田中久江、亡岩井喜造の八名から、昭和五八年一二月九日、本件土地を買い受け、右同日、その旨の所有権移転登記を了した。

(三) 参加人と反訴被告は、昭和六一年一〇月九日、本件土地は参加人の所有であることを確認する旨の和解契約を締結し、右和解に基づき、右同日本件土地につき所有権移転登記を了した。

4  抗弁に対する認否

(一) 抗弁(一)の事実はすべて否認する。

(二) 抗弁(二)について、(1)の事実のうち、亡岩井朱二郎が、山田らから、昭和三九年一月二九日、本件土地につき所有権移転登記を了したことは認め、その余は否認する、(2)の事実は認める。(3)の事実のうち、反訴被告が、被告林愛子、同林紀子、同林義子、同林寛明、同岩井實、同田中久江、亡岩井喜造の八名から、昭和五八年一二月九日、本件土地につき所有権移転登記を了したことは認め、その余は否認する、(4)の事実は認める。

5  再抗弁(抗弁(二)の(1)に対し)

(一) 岩井朱二郎のなした第二売買契約は、通謀虚偽表示あるいは信託法一一条に違反するものとして無効である。

(二) 参加人も、本件土地の所有権移転の経緯及び裁判中であることを知悉しながら、真実の買主である原告の権利を妨害する意図をもつて、反訴被告から和解に基づいて、本件土地につき所有権移転登記を受けたのであるから、参加人も背信的悪意者であり、原告は、参加人に対し、登記なくして対抗しうる。

6  再抗弁に対する認否

いずれも争う。

第三  証拠<省略>

理由

一山田らは、以前本件土地を所有していたことは、すべての当事者間で争いがない。

二そこで、山田らから原告又は参加人の何れに本件土地の所有権が帰属したかについて判断する。

1(一)  <証拠>を総合すれば、原告は、以前から訴外株式会社枚方国際ゴルフクラブの代表取締役としてその経営にあたつていたが、昭和三六年ころから、更に本件土地周辺にゴルフ場を設置する計画を立て、その経営のための参加人会社を設立し、原告自身、その代表取締役に就任することになつていたことから、ゴルフ場用地の買収を中心となつて行つたこと、参加人会社は、原告が中心となつて昭和三八年二月一五日に設立され、原告が代表取締役に就任したが、それ以前の同年初めころから、会社設立を前提として、ゴルフ会員の募集、銀行取引等を行つており、入会申込者から集めた入会金を買収資金として、本件土地周辺の土地を広く買収し、参加人会社の経理上、買収したゴルフ場用地を土地勘定に、また、入会金を預り保証金勘定として処理していたこと、そして、右土地の売買代金及び公租公課は、参加人において支払い、その領収証も参加人が名宛人となつていること、本件土地についても、同土地は、参加人会社の経理上、右のようなゴルフ場用地買収の一環として、参加人自身が買収した旨の処理がなされており、このような経理処理について、原告は、特に異議を述べたこともないこと、参加人が買収した本件土地周辺のゴルフ場用地は、便宜上原告の個人名で所有権移転登記がなされていたため、参加人から原告に対して右土地について真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求める訴えが提起され、同土地については、参加人会社設立後、参加人が前所有者から買受け、所有権を取得したとの理由で、参加人が同訴訟で勝訴したことが認められ、<証拠>中、右認定に反する部分はにわかに措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(二)  <証拠>を総合すれば、原告は、本件土地を買収するについて、その具体的な交渉をすべて当時枚方国際ゴルフクラブの従業員であつた萩原清治に任せており、買収代金額は、実測済みの土地を除き、原則として公簿面積(坪数)に坪単価を乗ずる方法により算定することとし、坪単価の決定が主たる交渉課題であり、同人も、山田らと本件土地買収の交渉を行うにあたつて、買収後本件土地をゴルフ場として利用する旨述べ買収への協力方を要請していたこと、そのため、山田らもゴルフ場経営者へ本件土地を売却する意図であつて原告の氏名は売買契約書で初めて知つたこと、萩原清治は、山田らから本件土地の管理を委ねられていた岩井朱二郎との間で、本件土地の買収交渉を重ねていたが、進展をみないので、本人らと直接折衝をするため、昭和三七年九月ころ、山田ら方を訪れ、山田ら方では、山田ら及び山田佐紀子の夫である訴外山田昭三が応待し、この三名が相談のうえ、本件土地(ただし、立木については、二〇年生以上の立木を除く。)を代金は公簿面積に基づき坪当り金八〇〇円で売却することとして、山田昭三が、山田らにかわつて売買契約書(乙第一号証)の売主欄に当時の本件土地の登記名義に合わせて亡山田喜三名で署名し捺印したこと、右売買契約書の前文には、「桃山国際ゴルフ株式会社創立中の田所久一が該ゴルフ場建設計画予定地として買受申出にかかる下記地区の各土地所有者は右買受申出につき左記条件を以て右買受申出を承諾する。」という記載があり、また、同売買契約書における買主名は原告であるものの、これに付された住所の記載は、枚方国際ゴルフクラブの所在地であることが認められ、<認拠>中右認定に反する部分はにわかに措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(三)  <証拠>を総合すれば、原告は、昭和三八年一二月二三日付けをもつて、買収にかかるゴルフ場用地につき宅地造成に関する工事の許可を得たが、これより先、同月一二日、山田ら宅において、同人に対し本件土地代金三二三万二〇〇〇円を提供したが、受領を拒まれたので、翌一三日、自己の名義で本件土地の売買代金として右金員を法務局に供託したが、同金員は、参加人が支出したこと、本件土地につき山田らから亡岩井朱二郎に対して所有権移転登記がなされた後、原告が岩井朱二郎に対し本件土地につき処分禁止の仮処分を申請し、昭和三九年三月二四日にその旨の仮処分決定がなされたが、その際、右仮処分の保証金も参加人が支出したことが認められ、<証拠>中右認定に反する部分はにわかに措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(四)  <証拠>を総合すれば、参加人は、昭和三八年夏ころから本件土地上の立木を伐採し、その後造成工事を行つて本件土地をゴルフ場となし、以後ゴルフ場として本件土地を利用していること、近年では本件土地とその周辺の土地との境界も外形上定かでなくなつていることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(五)  <証拠>によれば、昭和三七年ないし三八年当時においては、ゴルフ場に対する規制が厳しく、また、資金調達の点からも個人名の方がやり易かつたこと、また、山田らとの間では、本件土地と代替地を交換するという話もあつたことから、買主は形式上原告個人名にしておくことが便宜であつたこと、本件土地に関する開発許可も原告個人名でなされていることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(六)  また、<証拠>によれば、参加人会社は、資本金三〇〇万円の同族会社で数人の株主から成るが、実質的には原告一人が経営、支配する原告の個人的会社であつたことが認められ、更に、<証拠>によれば、前記枚方国際ゴルフクラブを創設したときも、原告は、その敷地を一旦原告個人名義にし、そののちに同社所有としたこと、本件土地周辺の土地の買収をめぐる別件訴訟において、原告は、買収した土地は、参加人に移転するつもりだつた旨供述していることが認められ、右認定に反する証拠はない。

2(一)  以上の認定事実によれば、原告は、昭和三八年二月一五日、参加人会社を設立し、代表取締役に就任していたものであるが、その設立準備中から、参加人のため、ゴルフ場用地を、広く買収していたのであり、本件土地も同様の目的で、昭和三七年九月ころ、萩原清治に買収させていたが、当時は、参加人は設立中であり、また、前記1の(五)の理由により、一旦原告において右土地を購入したうえ、参加人会社設立後、その所有権を移転する意図で、本件土地を買受けたもの(第一売買契約が成立したこと)と認められ、右権利の移転については、山田らも予め容認していたと解せられる。

(二)  ところで、原告は、参加人会社設立後、原告名義で購入した土地も含め、総て参加人会社の会計帳簿上、参加人会社の所有として処理し、その売買代金、公租公課も参加人が自己資金をもつて支払つているのであり、また、購入した土地はゴルフ場用地として造成され、参加人がゴルフ場として使用していること、参加人会社設立後、原告名義で購入し、所有権移転登記をなした、本件土地周辺のゴルフ用地については、真実は参加人が購入したものであつて、参加人が所有者であると認められていることは前記認定のとおりであり、これらに照らせば、本件土地のみ参加人会社設立後も原告に所有権が残されていると解するのは不合理であり、遅くとも、参加人が、原告名義で本件売買代金三二三万二〇〇〇円を法務局に供託した昭和三八年一二月一三日までには、原告は、参加人に対し、第一売買契約上の買主の地位を移転し、本件土地の所有権を譲渡したと認めるのが相当である。

<証拠判断略>

3 しかして、被告ら主張の抗弁(一)(錯誤による無効)について検討するに、<証拠>中、前記二の1の(五)に認定した、山田らとの間では、本件土地と代替地を交換するという話もあつたとの事実を超えて、右主張にそう供述部分は、<証拠>に照らしにわかに措信することができず、他に右抗弁事実を認めるに足りる証拠はない。

4  次いで、被告ら主張の抗弁(二)(詐欺による取消し)について考えるに、<証拠>中右主張にそう供述部分は、前項後段に挙示の各証拠に対比して措信し難く、他に右抗弁事実を認めるに足りる証拠はない。

5  更に、被告ら主張の抗弁(三)(停止条件付き)について判断するに、<証拠>によれば、山田らのなした第一売買契約に関する契約書(乙第一号証)二項には「甲(原告)の申請する右のゴルフ場建設予定地の現状変更許可(緑地解除)があつたときは甲はそのとき以後速に又現状変更の許可の見透がついたときはそのとき以後速にこの契約に基づく履行として乙との山林売渡証書の作成代金の受渡並びに所有権移転登記に必要な書類の受渡を行い且土地の引渡を行うものとする。」、八項には「右のゴルフ場建設予定地即本件土地についての現状変更許可(緑地解除)の有無を問わず甲がゴルフ場建設工事前代金の受渡をしないときはこの契約はその効力を生じない。」との記載があることが認められるが、右条項はいずれも債務の履行を約定したものであつて、第一売買契約の効力の発生につき停止条件を付したものと解し難く、他に右抗弁事実を認めるに足りる証拠はない。

ところで、前記三2の(二)に認定した原告の参加人に対する本件土地の譲渡行為は、商法二四六条の事後設立に該当し、また、同法二六五条の取締役と会社間の取引にも該当すると解せられるが、当時参加人会社は、実質的に原告一人が経営する原告の個人的会社であつたことは前記認定のとおりであるから、右各条所定の手続を履践しなかつたとしても、右譲渡が無効であるとはいえない。

6  以上の次第で、本件土地は、参加人の所有に属するに至つたものというべく、参加人の原告に対する参加請求は理由があるが、原告の参加人に対する反訴請求は失当である。

三次に、原告の被告ら及び反訴被告に対する請求について検討するに、岩井朱二郎が本件土地につき、昭和三九年一月二九日山田らから所有権移転登記を受けたことは当事者間に争いがないところ、原告は、それ以前の昭和三八年一二月一三日までには、本件土地の所有権を参加人に譲渡し、その所有権を喪失したことは前記二で説示のとおりであるから、岩井朱二郎が山田らから所有権移転登記を受けたことは、原告の本件土地の所有権を侵害したものと認めることはできないし、反訴被告が、岩井朱二郎の相続人から本件土地につき更に所有権移転登記を受けた点も同様である。

してみれば、原告の被告ら及び反訴被告に対する各請求は、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がない。

四よつて、原告の被告らに対する本訴請求並びに反訴被告及び参加人に対する各反訴請求はいずれも理由がないからこれらを棄却し、参加人の原告に対する参加請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官鐘尾彰文 裁判官彦坂孝孔 裁判官髙橋善久)

別紙物件目録

一 京都市伏見区小栗栖西ノ峯一一番

山林 五一九〇平方メートル

(一五七〇坪)

一 同所一二番

山林 四〇〇三平方メートル

(一二一一坪)

一 同所一五番

山林 四一六一平方メートル

(一二五九坪)

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