大判例

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京都地方裁判所園部支部 昭和25年(タ)1号 判決

原告 田中あき子

被告 田中邦男(いずれも仮名)

一、主  文

原告と被告とを離婚する。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告は主文同旨の判決を求めその請求の原因として原告は被告の妻である。被告は生來癲癇の持病を有し、昭和二十一年三月頃突然の癲癇発作から精神異常となり強暴な行爲があつたから入院加療の処置をとり、同二十四年七月頃一時小康を得たので退院したところ更に同二十五年一月三十日精神異常となり精神病患者として京都府立医科大学附属病院神経精神科花園分院に入院し現在に至つている。而して被告の病状は年を経るに従い強度となり回復の見込なく原告も漸次生活に窮し、実家その他の援助により漸く今日に至つたが今後これ以上の援助は到底望まれないから被告との離婚を求めるため本訴に及んだと述べた。<立証省略>

被告特別代理人は「原告の請求を棄却する」との判決を求め、原告の請求原因事実は認めるが、請求には應じ難いと述べた。<立証省略>

当裁判所は職権により原告本人田中あき子を訊問した。

三、理  由

眞正に成立したと認める甲第一号証(戸籍謄本)によれば被告と原告とは昭和十九年三月八日婚姻の届出を了し、現在夫婦の関係にあることが明らかである。

そこで原被告間に原告主張のような離婚の原因になる事実があるかどうかについて考えてみる。前記甲第一号証、眞正に成立したと認める甲第二号証(医師の証明書)証人山田さと子の証言及び原告本人訊問の結果を綜合すれば次の事実を認めることができる。

被告は父亡田中貞邦の二男として明治四十年八月十一日出生し昭和三年三月三十日父の死亡によつて家督相続し、昭和八年十一月十一日田村芳子と婚姻してその間に長女花子をもうけたが、右芳子は昭和十一年四月二十日死亡し、次いで昭和十八年五月九日、十四歳年少の原告と婚姻の式を挙げ前記の届出を了した。被告は生來癲癇の持病を有し、原告がこれを知つたのは婚姻予約後のことであり、原告生家と被告家とは親戚の間であつたから親同志の話し合いで婚姻は進められ昭和十八年五月結婚式を挙げて同棲した。原告は被告と同棲後三日目に被告の持病の発作に惱まされ、それ以來月に二回位の割合で癲癇の発作を見ていたが、昭和二十一年三月頃被告は突然の発作から精神異常となり、走つたり、暴れたりして正気を回復しなかつたので園部町の援助により癲癇病患者として長岡病院に入院し、三年余り加療の処置をとつたが、昭和二十四年七月病状が良くなつた訳でもないのに單に町経費の都合で退院を余儀なくされ、退院後自宅で遊んだり手内職をしたりしていた。

ところが更に昭和二十五年一月三十日強度の発作が起つて手がつけられず、遂に精神に異常を來し、被告は京都府立医科大学附属病院神経精神科花園分院に入院させられ現在に至つている。而して被告の病状は前記長岡病院入院前と退院後とを比べると発作の回数も非常にふえ、発作が起れば容易に治まらぬ程度に悪化し、遂に精神病となり現在においては継続して入院保護加療を要するばかりでなく、完全な治癒は到底望み得られない状況にある。ひるがえつて被告の家族についてみるに原告との間には子供はなく、母ひでは被告の妹山田さと子方に寄寓し、原告が新制中学校卒業まで養育して來た被告の長女花子は母亡芳子の姉の家に引取られ、原告は居住する家屋もなく織物工場の工員として工場内に止宿し、僅少の收入の中から被告の経費を捻出しつゝ漸く生活を続けているのである。

以上認定した事実によれば原告には民法第七百七十條第一項第四号にいわゆる配偶者が強度の精神病にかゝり回復の見込がないという離婚事由のあることが明白である。一方被告の肉親としては被告のために、原告が現在のまゝ被告との婚姻関係にあることを望み原告の離婚の請求に應じられないと主張することは一應納得できるところである。然しながら本來精神的協同生活を基盤とする夫婦生活において原告は同棲以來七年絶えず被告の癲癇の持病に惱まされ、その間被告の入院によつてすでに約四年の長きにわたる空白を過ごし、將来に対する何の希望も持てず、現在とても喘ぎながらその日暮しの生活を続けているのである。何時果つべしともわからぬ苦難と忍從をこの上原告に要求をすることは些か酷に過ぎるものといわねばならない。回復の見込のない精神病におかされた被告の不幸は同情に堪えないのであるが、子宝にも惠まれない二十九歳の原告が將来を犠牲にしてこの不幸を共に分たねばならぬとすることはできない。

以上の次第であるから原被告間の離婚を求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九條、第九十五條を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 平峰隆)

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