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京都地方裁判所宮津支部 平成16年(ワ)46号 判決 2005年1月31日

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原告

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同訴訟代理人弁護士

由良尚文

京都府●●●

被告

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主文

1  原告,被告間で金銭消費貸借に基づく原告の被告に対する貸金返還債務が存在しないことを確認する。

2  被告は,原告に対し,50万9500円及びこれに対する平成16年7月18日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

3  原告のその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用はこれを3分し,その1を原告の,その余を被告の負担とする。

5  この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求の趣旨

1  主文第1項と同旨

2  被告は,原告に対し,101万9000円及びこれに対する平成16年7月18日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

1  本件は,原告が,被告から金員を借り入れた原告が被告からの違法な取立てによって合計101万9000円を支払い,損害を被ったとして,貸金返還債務の不存在確認並びに不法行為に基づく損害賠償請求として101万9000円及び不法行為日の後である平成16年7月18日(訴状送達の日の翌日)以降の民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。

2  前提事実(末尾に証拠等を記載した事実以外はいずれも当事者間に争いがない。)

(1)  被告は,●●●商事の屋号で貸金業登録を受け,京都府宮津市で貸金業を営んでいる。

(2)  被告は,平成6年11月14日,原告に対し,弁済期を定めず利息月2分との約定で50万円を貸し付け,原告から毎月利息の返済を受けた。

被告は,平成8年3月8日,原告に対し,利息月2分弁済期を平成18年3月末日と定めて100万円を貸し付け(甲8),その後も,同年5月16日ころ,同年6月3日,同年6月30日,同年8月3日ころ,同年9月13日ころ,同年10月15日ころ,同年11月12日ころ,同年12月12日,各50万円を貸し付け(甲2,乙4ないし乙8),平成9年1月16日に上記貸付金をまとめて600万円の金銭消費貸借契約書(甲9)を作成し,この600万円の返還債務についても原告の妻は被告に対し連帯保証する旨約した。その後も,被告は,原告に同年2月13日,同年3月9日に各50万円を貸し付けた(乙2,乙3)。(以下,これらの被告と原告との間の継続的な貸金契約を「本件貸金契約」といい,同契約に基づく被告の原告に対する貸金債権を「本件貸金債権」という。)

(3)  原告は,平成13年7月ころ,京都地方裁判所宮津支部に自己破産の申立てをし(同庁平成13年(フ)62号),同年10月1日午後5時破産宣告決定を受け,平成14年3月26日に免責決定(平成13年(モ)88号)を受け,同免責決定は同年4月27日確定した(甲4,甲5)。被告は上記破産手続において本件貸金債権につき債権者として届出をされ,原告は,上記免責に関し債権者25名に合計30万円を任意配当し,被告に対しても平成14年1月18日に11万8184円を支払った(甲3,甲6)。

(4)  原告は,平成14年5月13日から平成16年5月12日までの間,別紙「原告の返済状況一覧」記載のとおり,被告に対し,合計101万9000円を返済した(甲2,甲7の1ないし15)。

3  当事者の主張

(原告)

(1) 原告は,借入額面が600万円になったころ,被告から「こういう状況で他にも返せないんやったら,破産する方がええんやないか。ただし,うちのとこだけは破産は認めんからな。」と言われるようになった。

被告は,平成13年春ころ,原告の自宅に来て「お前とこ,どうなっとんじゃ。」「どうするんじゃ。」「お前が払いきらんなら嫁の実家を売ってでも払え。」などと午前6時ころから1時間半にわたり,自宅の内外で大声を出し,原告及びその家族は幼い子供を含め,大変怖い思いをした。また,原告は,同年7月ころ,その母とともに,被告方に遅滞している貸金の返済にいったが,その際,被告は,傍らに置いてあった一升瓶を振り上げてすごい形相で「なめとんのか。殺したろか。」などと申し向けて脅迫した。

原告は,このような被告の態度によって,被告に強い恐怖感を抱くようになった。

(2) 原告は,上記のとおり,免責決定を受け,被告を含む破産債権者に対する債務の全部ついてその責任を免れた。しかるに,被告はこのことを知りながら,原告に対し,毎月「うちはあんたの破産は認めない。それは最初の契約の時に言うてあったはずや。」「いつ払うんじゃ。どうなっとるんじゃ。」などとしつこく電話をして従前同様の返済を要求したため,原告は,やむなく上記2(4)のとおり合計101万9000円を支払い,同額の損害を被った。

(被告の主張)

原告は,平成8年1月ころ,競馬の呑行為で借金が始まり,現在では死ぬしかない,700万円あれば生きられるなどと述べて被告に借入れ方を依頼したので,被告は,破産法の説明をするとともに,一度に700万円を貸す資力はない,この件については破産は認めない,元金が700万円に至ったときは妻の保証が必要である,返済計画を立て金利の高いところから返済をしていくことなどを貸付けの条件として口頭で伝え,その後,上記のとおり,原告に数回にわたり,金員を貸し付けた。

被告は,平成13年春ころ一度だけ午前7時半過ぎころ原告宅に行き,原告,妻及びその父親と応接間で面談して本件貸金債権の話をした。その際,被告が少し大きな声を出したことはあるかもしれないが,病人や子供の前で貸金に関する話をしたことはない。

また,被告は,同年9月ころ,原告から12月ころまで利子を5万円ほどに負けてくれ,借金の原因となった競馬の呑行為についても口外しないように頼まれ,破産手続においても原告に泣いて頼まれたため裁判所等に返答することができなかったが,免責後の取立てについては,最初から違法であることを承知の上でしたことは事実である。なお,被告は,平成16年3月中旬ころ,原告から再度借入れを申し込まれ,これを断ったが,その際,原告は,被告に,十分利益を与えた,違法な利息を取った証拠があるなどと述べた。被告は,原告に対し,今まで一度も本件貸金債権の元金の返済を受けておらず,その請求もしていない。また,原告の利子の支払はほぼ毎回遅れていたが,その遅延損害金も請求していない。

第3判断

1  前提事実,証拠(甲2,甲10,乙1,乙11,乙12,証人●●●子,原告本人,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

(1)  原告は,平成6年夏ころ,●●●から被告を紹介され,同年11月14日に被告から50万円の貸し付けを受けた。その際,被告は,原告に対し,貸付けの条件として,将来,原告が破産して免責を受けても被告はこれを認めないので必ず返済してもらうと述べた。

(2)  原告は,平成8年3月8日に被告に100万円を貸し付け,平成9年1月16日に従前の貸付けをまとめて600万円とする借用証書を被告と作成したが,その際にも,原告及びその当時の妻で原告の債務を被告に対して連帯保証した●●●(旧姓「●●●」。以下「●●●子」という。)に対し,同様に,将来,原告らが破産し免責決定を受けても被告は認めない旨を述べた。

(3)  被告は,その後も,上記のとおり,平成9年3月9日まで貸付けをし,また,原告は,被告に対し,本件貸金債権の利息として,毎月,平成6年ころから平成8年5月ころまでは1万円ないし2万円を,同月以降は平成9年4月ころまでは4万円から13万円を,同年5月12日以降は概ね14万円を支払っていた。

(4)  原告の被告への本件貸金債権の利息の返済は平成12年秋ころから頻繁に滞るようになり,また,原告は,平成13年春ころには他の消費者金融業者に対する債務についても返済不能となり,被告へ返済もできない状況になった。被告は,同年3月ころ,原告方に支払を催促する電話をかけたが,電話に出た●●●子がすぐに通話を切ったため,その翌日の早朝,原告の自宅前で大きな声を出して来訪を告げ,同人方の応接間で,原告や●●●子らに対し「どうするつもりや。」などと大声で述べ,しばらく世間話をした後,支払の催促先として原告と●●●子の勤務先の電話番号を聞いて帰った。

原告は,その後再び,被告に対する支払を滞らせるようになり,同年7月ころ,母親と同道して被告方に本件貸金債権の利息の一部として3万円を持参したが,被告は,側にあった一升瓶を振り上げ「なめとんのか。殺したろか。」などと述べて怒ったので,原告は,同月26日ころ,被告に30万円を弁済した。

(5)  原告は,同年7月ころ,破産申立手続をしたが,同年9月ころ,被告と利息の返済方法を話し合って,同年12月まで毎月5万円を支払い,それ以降は毎月12万円を支払うことを約した。

他方で,被告は,原告の上記破産手続において破産債権者として平成14年1月18日に11万8184円の振込送金を受けたが,その後も原告に利息の支払を電話で督促してその支払を受け,原告の免責決定が確定した平成14年4月27日以降も支払が遅れたときは原告に電話を架けてその支払を督促した。原告は,この被告の督促に対し,免責決定を受けたので支払わないと述べたこともあったが,被告は,免責は認めないことは最初の契約のとき言っていたはずであると述べて支払を求めたため,原告は,これに応じて,別紙「原告の返済状況一覧」記載のとおり,平成16年5月12日まで本件貸金債権の利息として合計101万9000円を支払った。

2(1)  上記1の認定事実によれば,被告の原告に対する本件貸金債権は,免責債権となったことが認められるから,原告の被告に対する本件貸金契約に基づく貸金返還債務の不存在確認請求は理由がある。

(2)  また,上記1の認定事実によれば,被告は,原告が本件貸金債権について免責決定を受け,その取立てができなくなったことを知りながら,同決定の確定後も,電話で支払を督促して合計101万9000円の支払を受けたことが認められ,このような被告の督促行為は,社会通念上相当性を欠くといえ,したがって,原告は,被告の違法な督促行為によって,上記101万9000円の損害を被ったと認められる。

もっとも,上記認定事実によれば,被告は,当初から度々原告に対し本件貸金債権については破産手続にかかわらず支払をしてもらう旨述べ,原告はこれを承知の上で貸付けを受け,その後,破産手続の係属中にも利息の支払方法について被告と合意するなどしていたことが認められるから,上記損害の発生については,原告側にも相当程度の落ち度があることは否定できない。そこで,この点については原告側の過失として斟酌することとし,その割合については被告の督促の態様等も総合考慮して5割をもって相当と認める。

よって,被告は,原告に対し,不法行為に基づく損害賠償として50万9500円の支払義務を負う。

3  以上によれば,原告の請求は主文記載の限度で理由があるからその限度でこれを認容し,その余は理由がないから棄却し,訴訟費用の負担につき民訴法61条,64条本文を,仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。

(裁判官 久保井恵子)

<以下省略>

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