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京都地方裁判所宮津支部 平成20年(ワ)81号 判決 2009年9月25日

原告

同訴訟代理人弁護士

新保英毅

原告補助参加人

同訴訟代理人弁護士

小嶋敦

被告

Y1

同訴訟代理人弁護士

由良尚文

被告

Y2有限会社

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

畑中宏夫

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用のうち、原告と被告らとの間に生じたものは原告の負担とし、原告補助参加人と被告らとの間に生じたものは同参加人の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告Y1を被告Y2有限会社の取締役から解任する。

第二事案の概要

一  事案の要旨

本件は、原告が、会社法八五四条に基づき、被告Y2有限会社(以下「被告会社」という。)の取締役である被告Y1(以下「被告Y1」という。)につき、その取締役からの解任を求めた事案である。

二  前提事実

以下の事実は、当事者間に争いがないか、《証拠省略》により容易に認められる事実である。

(1)  被告会社は、昭和六一年一〇月一五日に成立した有限会社であり、会社法の施行に伴い、特例有限会社として存続する株式会社である。

(2)  被告Y1は、平成四年一二月五日から平成一八年一一月七日までの間被告会社の代表取締役であったところ、その在任中である平成一〇年三月三一日から平成一八年八月三一日にかけて、社員総会の認許ないし株主総会の承認を受けないで、自己に対する貸付金名目で合計数千万円単位の会社資金を引き出した。

(3)  被告会社では、被告Y1が代表取締役を務めていた時期を含め、長年にわたって社員総会ないし株主総会が招集・開催されていなかった。

(4)  被告Y1は、平成一八年九月一六日に開催された臨時株主総会において、上記(2)の貸付金問題の解決策(返済計画)を提案したものの否決され、その後、同年一一月七日には代表取締役を辞任し、平成一九年五月三〇日には取締役から解任された。

(5)  被告会社の発行済み株式総数は一二一〇株であり、当初、原告、被告Y1、B及びCが三〇〇株ずつ、Dが一〇株をそれぞれ引き受け保有していたが、後に、Dが死亡し、その遺族による株式譲渡の効力が争われ、また、原告と被告Y1との間における原告持ち株一五〇株の譲渡の効力が争われたことにより、B及びCが三〇〇株ずつを保有することについては意見の一致を見たものの、原告と被告Y1の保有株数については意見の一致を見ず、訴訟による解決が図られた結果、当裁判所は、平成二〇年四月一一日、被告Y1が四六〇株の株式を有する株主である旨を確認する判決をし、その控訴審たる大阪高等裁判所は、同年九月一二日、控訴を棄却するとの判決をし(ただし、請求の減縮に伴い、被告Y1が四五〇株の株式を有する株主である旨を確認する旨に変更された。)、その後同判決が確定した。

とはいえ、いずれにしても、原告は、発行済み株式の一〇〇分の三以上の数の株式を六か月前から引き続き有する株主に該当する。

(6)  被告会社では、平成二〇年六月二七日に臨時株主総会が開催され、B及び原告を取締役から解任することを求める議案(第八号議案)及び新役員の選任を求める議題につき、被告Y1及びBを取締役に、原告を監査役にそれぞれ選任するとの議案(第九号議案)が可決された(厳密にいえば、上記第八号議案について、これに賛成したのは被告Y1及びCであり、反対したのは原告及びBであって、上記のとおり、その時点では原告と被告Y1の保有株数に争いがあったため、上記議案の可否も判然としなかったが、後に、被告Y1が四五〇株を保有する《その裏返しとして、原告の保有株式は一五〇株となる。》との判決が確定したため、これをあてはめ、賛成多数により可決されたものとされた。また、上記第九号議案について、被告Y1及びCは全て賛成し、原告及びBは、第八号議案の可決を条件に、Bの取締役選任及び原告の監査役選任についてのみ賛成し、被告Y1の取締役選任に反対したところ、第八号議案について述べたと同様、後に確定した判決結果をあてはめ、賛成多数により可決されたものとされた。)。

三  争点及びこれに関する当事者の主張

(1)  被告Y1を解任する旨の議案が株主総会において否決されたか。

(原告の主張)

平成二〇年六月二七日に開催された株主総会において、被告Y1の取締役選任決議が成立した直後、原告が同被告の取締役解任の動議を提出し、採決の結果否決された。

(被告らの主張)

原告の上記主張は争う。

原告のいう動議なるものは、その実質において、取締役選任議案に対する反対意見を繰り返し表明したというにすぎず、「当該役員を解任する旨の議案」に当たらない。

(2)  被告Y1において、会社法八五四条一項にいう「職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実」があったか。

(原告の主張)

被告Y1は、代表取締役の在任中である平成一〇年三月三一日から平成一八年八月三一日にかけて、社員総会の認許ないし株主総会の承認を得ず、かつ、同被告とD以外の株主には秘したまま、会社から同被告に対する貸付金名目で合計一億二三九三万八二三八円もの会社資金を引き出したほか、平成一八年夏ころまで、社員総会ないし株主総会を開催せず、他の株主を排除し、恣意的な会社運営を行ってきた。これらは、いずれも会社法八五四条一項にいう「法令に違反する重大な事実」に該当し、とりわけ、前者は特別背任ないし業務上横領といった犯罪にも当たる行為である。

(被告らの主張)

被告Y1が社員総会の認許ないし株主総会の承認を得ず、会社から貸付を受けたことは争わない。ただし、その金額は合計八七五五万円である。

社員総会ないし株主総会を開催していなかったとの点も、株主全員の黙示的な合意に基づくもので、他の株主から開催を求められたこともなく、被告Y1ひとりの「法令に違反する重大な事実」に当たるとはいえない。

そもそも、会社法八五四条一項にいう「役員の職務の執行に関し不正の行為」等は、解任の訴えにより地位を奪われようとしている当該任期中のものを指し、それ以前の不正行為等は、原則として、同項に定める解任事由に当たらないというべきところ、原告が問題視する点はいずれも現在の任期中のものでなく、かつ、それを解任事由と認めるべき例外的事情もないから、結局、被告Y1において、同項所定の解任事由があるとはいえない。

第三争点に対する判断

一  争点(1)について

前記前定事実のほか、《証拠省略》によれば、平成二〇年六月二七日に開催された株主総会において、第八号議案及び第九号議案が決議に付された直後、原告は、第九号事案の可決を条件として、被告Y1を取締役から解任することを求める議案を提出したこと、これに対して、被告Y1から動議として扱うこと自体に異論が出されたが、議長はその議案を取り上げ、決議に付したところ、否決されたことが認められる。

以上の認定事実によれば、本件が会社法八五四条一項にいう「当該役員を解任する旨の議案が株主総会において否決された」との要件を満たすことは明らかである。

これに対し、被告らは、動議として取り上げた議長の議事進行を非難するが、原告が株主提案権を有する株主であることは明らかであり、かつ、取締役会設置会社でない被告会社にあっては提案時期に制限がなく、株主総会の議場におけるも可能と解されることからすれば、唯一の方途であったかは別論としても、議長の議事進行に非難されるべき点は見当たらないのであって、この点に関する被告らの主張は採用の限りでない。

二  争点(2)について

会社法八五四条にいう役員解任の訴えは、会社の役員に不正行為等一定の事由(以下「解任事由」という。)がある場合においては、株主総会でその解任が否決されたとき(否決があったと同視することができるときを含む。)といえども、多数派株主の専横的支持のもとに依然としてその地位にとどまらせることを不当であるとして、少数株主権の行使のひとつとして認められたものと解される。かかる制度目的を達するためには、判決により、解任事由が生じた時又はそれが判明した時における当該役員の残存任期を将来に向かって失わせる必要があることは明らかであるが、裏を返せば、それをもって、上記の制度目的を達しうるといえる。また、会社法は、役員の資格として、過去に解任事由に該当する事実がなかったことを要求しているわけでもなく、役員の欠格事由として、過去に解任事由に該当する事実があったことを定めているわけでもないところ、解任事由が発生・判明した後、当該役員が辞任や任期満了により、その地位をいったん失い、再度役員として選任された場合にまで、再任前の解任事由を理由として解任の訴えを提起することができるとしたのでは、法が定めていない資格ないし欠格事由を認めることになりかねない。さらに、会社法は、多数決原理を原則としながらも、例外的に一定の場合にはそれを修正し、多数派株主からの専横から少数株主を擁護せんとしている(役員解任の訴えもそのひとつである。)のであって、常に多数決原理が完徹されるわけでも、多数派株主による専横が許されるわけでもないとはいえ、やはりその原則・例外という位置づけに照らすと、その例外に該当するとされる場合はある程度制限的に解されるべきである。以上によれば、当該役員による辞任とその後の再任とが一体として少数株主による解任の訴えを免れる目的をもってなされたと認められるなど特段の事情が存しない限り、当該任期の開始前に発生・判明した事由は、会社法八五四条一項にいう解任事由に当たらないと解するのが相当である。

これを本件についてみると、被告Y1による不正経理及び社員総会ないし株主総会の不開催があったのは平成一八年までのことであり、それが判明した後、代表取締役の辞任や取締役の解任にまで至ったのであって、いずれも現在の任期より前のことであることは明らかであるほか、取締役の解任から今般の就任まで約一年間の空白期間を生じており、その後の再任との間に一体性を有しているとはいえず、上記にいう特段の事情が認められるともいえない。原告は、同被告による弁償が完了していないことを殊更に重視するが、弁償が完了しておらず、不正行為により生じた結果が解消されていないとしても、不正行為そのものが継続していないことは明らかであって、詰まるところ、弁償が完了していないとの点は、各株主が株主総会における議決権行使に当たって考慮すべき事情に当たるとしても、それを超えて、成立した決議の効力を覆滅させるまでの事情には当たらないというべきである。

以上によれば、原告の請求は、会社法八五四条が要求する解任事由を具備しないというに帰し、理由がない。

三  結論

よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 田中幸大)

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