京都地方裁判所福知山支部 平成11年(ワ)24号 判決 2001年5月14日
原告
筒井速夫
原告
山本周一
原告ら訴訟代理人弁護士
宮本平一
同
久保哲夫
被告
三精輸送機株式会社
同代表者代表取締役
本多孟
同訴訟代理人弁護士
高島照夫
同
石井教文
同
池口毅
同
佐藤吉浩
同
川上良
主文
1 原告らと被告との間において,原告らがそれぞれ労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 原告らの訴えのうち,この判決確定後における金員支払請求にかかる部分をいずれも却下する。
3 被告は,原告筒井速夫に対し,平成10年3月から本判決確定に至るまでの間,毎月28日限り,1か月68万7135円の割合による金員を支払え。
4 被告は,原告山本周一に対し,平成10年3月から本判決確定に至るまでの間,毎月28日限り,1か月48万7987円の割合による金員を支払え。
5 原告山本周一のその余の支払請求を棄却する。
6 訴訟費用は,これを10分し,その1を原告らの負担とし,その余を被告の負担とする。
7 この判決は,3項及び4項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1 原告らと被告との間において,原告らが労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告は,原告筒井速夫に対し,平成10年3月から,毎月28日限り,1か月68万7135円の割合による金員を支払え。
3 被告は,原告山本周一に対し,平成10年3月から,毎月28日限り,1か月50万3795円の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,被告から契約の解消を通告された原告らが,被告との間の契約が労働契約であると主張して,原告らが労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と未払賃金の支払を求めた事案である。
1 前提事実(これらの事実については,当事者間に争いがないか,括弧内に記載した証拠によって容易に認定することができる。)
(1) 当事者
ア 被告は,輸送機並びに昇降機の製作,販売等を目的とする株式会社であり,被告には,昭和48年6月に開設された福知山工場がある。
イ 福知山工場には,平成9年11月当時,正社員(約60名)や下請業者(8社)の従業員など合計約140名あまりの者が稼働しており,原告など常用と呼ばれる身分の者は10名ないし21名ほどいた(ただし,どのような身分にある者が常用と呼ばれていたかについては,争いがある。)。
ウ 原告筒井は,昭和47年から大阪にあった被告の本社工場で稼働していたが,工場の福知山移転に伴い,昭和48年7月から福知山工場で稼働するようになった。
原告筒井は,同人,高橋和明,野間昇で構成される組「筒井工業」の代表者であった。
エ 原告山本は,昭和48年7月から同工場で稼働してきた。
原告山本は,当初は筒井工業に属していたが,昭和52年4月から,同人,三瀬正雄で構成される組「山瀬産業」の代表者となった。
オ 原告らは,福知山工場の機械等の生産の流れの中では,仕上げ3班に属していた。仕上げ3班には,正社員,派遣労働者,筒井工業及び山瀬産業を構成する常用が所属し,6つのグループに分かれて,福知山工場や外注の下請業者が製造した各種遊戯機,各種舞台機構の部品の仕上げ組立てを行っており,原告らは,福知山工場内でのこれら作業や発注先の現場といった工場外における据え付け作業に従事してきた。
(<証拠略>)
カ なお,原告らと被告との間の契約関係は,雇用であるかあるいは請負であるかは別として,第三者を介さない直接的なものである。
原告らの1か月の平均受給額は,原告筒井につき68万7135円(平成9年3月から平成10年2月までの1か年の平均)であり,原告山本につき50万3795円(平成9年10月から同年12月までの3か月間の平均)である。
(2) 事実経過
ア 被告は,労基署による常用らの労働実態の調査により労働安全衛生法の実施不備が指導されたことを踏まえ,昭和63年5月25日付で「是正報告書」を提出するとともに原告らに対し,正式の請負の形にしたい旨を申し出たが,原告らは,この申し出を拒否した。
イ 原告ら常用は,平成3年11月16日,常用作業者協力会を発足させた。
そして,原告らが中心となって被告と交渉した結果,平成4年2月17日付で,被告と各常用の組の代表者及び下請業者との間で請負工事取引基本協定書(甲12は,原告筒井と被告との間のもの。以下「本件協定書」という。)が,また,被告と各常用の組の代表者及び常用作業に従事することあ(ママ)る下請業者で構成される工場内下請協力会との間の連名による覚書(甲11,以下「本件覚書」という。)が締結された。
ウ 原告山本は,平成8年9月17日,作業中に,右大腿骨転子貫通骨折,右手関節から右手部圧挫傷,腹部打撲の傷害を負う事故にあい,同日から同年11月28日まで,平成9年3月3日から同月28日まで,平成10年1月19日から同月31日まで,京都ルネス病院に各入院して手術を受けるなどし,同年4月2日ほぼ症状固定の状態になったものの,同年5月31日まで,継続して治療を受けた。
原告ら及び神内浩次は,原告山本の負傷を契機に,下請協力会世話役として,被告に対し,平成9年5月13日,労災補償としての休業補償を求め,また,原告山本は,同年6月10日,更にこれを求めたものの,被告は休業補償に関する合意はないとしてこれを拒否した。
そこで,原告ら常用は,同年8月24日,全日本運輸一般労働組合に加入し,同労働組合中丹地域支部三精輸送機分会を結成し,同月25日,被告に団体交渉を求めたが,被告は,原告らが従業員ではなく請負人(下請)であるとしてこれも拒否した。
このため,組合は,同月(ママ)12月2日,京都府地方労働委員会に対し,団体交渉あっせんの申立てをし,平成10年1月6日,団体交渉あっせんが行われたが,被告は,原告らが本来の請負であることを認めない限り話し合いの意思がないことを表明し,あっせんは不調となった。
(<証拠略>)
エ 一方被告は,平成9年5,6月ころから,エレベータ部門について品質管理に関する国際規格(ISO9001)の認証を取得する関係から,下請や外注取引に関する基本契約書を全社統一のものとする作業を進めており,その一環として,下請協力会世話役である原告らや神内浩次に対し,同年7月11日,製品製作および工事請負基本契約書(<証拠略>の原稿にあたるもの,以下「新規請負契約書」という。)を示して,これによる取引に移行させたいとの意向を表明した。これに対し,原告らや神内浩次は,下請協力会世話役として,同年8月8日,新規請負契約書は,本件協定書や本件覚書を変更することになるので,その趣旨を明らかにするよう求めた。
そこで,被告は,担当課長や次長を通じて各下請業者や常用らとの間で交渉を重ねる一方,主立(ママ)った者らを集めて協力を要請し,同年12月ころまでには,原告らを除くほとんどの常用や下請業者らの同意を取り付けた。
そして,被告は,原告らに対し,同月8日ころ,請負工事取引基本協定書に基く本来の形態に移行させたく,発注などの具体的方法に関しては打ち合わせの上決定したいので,追って案内したいとする文書(甲29)を送付し,次いで,平成10年1月8日ころ,同年2月20日をもって従来の契約を打ち切る旨の通知文書(甲32)を送付した。これに対し,原告らは,被告に対し,同年1月19日ころ,被告が契約したら条件を示すとして,契約条件を示さないまま契約を結ぶように強要し,応じなければ取引終了とするとしていることは不服であるとし,本件覚書に基き協議をするよう文書(甲33)により求めた。
しかし,被告は,翌20日ころ,原告らに対しては,新規請負契約書を参考として送付する一方(甲34の1及び2),新規請負契約書による契約に応じた者らに対しては,出張仮払方法や残業,休日などの時間管理の方法,健康診断などに要する費用負担などを(ママ)変更を内容とする文書(甲34の3及び4)を送付した。
そこで,原告らは,同年2月5日付質問書(甲35)や同月16日付「申し入れ」(甲36)により新規請負契約書と本件覚書との関係を質したが,被告は明確な回答をしなかった。
なお,同年1月20日ころまでに,原告らの組子であった高橋和明,野間昇及び三瀬正雄は,いずれも,被告と新規請負契約書による契約に応じた下請業者である有限会社大進工業の従業員となったし,その余の常用及び下請業者らも,原告ら及び福知山工場での就労をやめた者らを除いては,全て,新規請負契約書に基づく下請業者となるか又はその従業員となった。(<証拠・人証略>)
オ 被告は,平成10年2月20日限りで,原告らの就労を認めない。
カ なお,福知山労働基準監督署は,被告に対し,平成9年11月,原告らに労基法所定の有給休暇を認めるよう口頭勧告を,同年12月12日,文書勧告を行い,また平成10年4月,原告山本の前記事故を被告に就労中の労災事故として取り扱った。
また,福知山公共職業安定所長は,同年9月3日,原告らが被告を事業主とする事業に雇用される雇用保険の被保険者であることを確認した。
これに対し,被告は,これらの判断の相当性を争っている。
2 争点
(1) 原告らと被告間の各契約が労働契約かどうか
(2) 仮に原告らと被告間の各契約が労働契約であるとした場合,それが終了したかどうか
(3) 原告らの平均賃金
3 当事者の主張
(1) 原告らと被告間の各契約が労働契約かどうかについて
ア 原告らの主張
原告らと被告間の各契約関係は,別紙主張対比表の原告らの主張欄に記載の諸事情からして,労働契約そのものである。
組は,主として賃金管理のための便宜的なものに過ぎず,原告らは,被告の指揮監督のもとに,労務提供をしていた労働者である。
イ 被告の主張
原告らと被告間の各契約関係は,別紙主張対比表の被告の主張欄に記載の諸事情からして,請負契約そのものであって,労働契約ではない。
原告らは,今回の紛争発生に至るまで,被告に対し,直接雇用を要求したこともなく,下請事業主として行動してきたものであり,組子の数は少人数にとどまるとはいえ,組子の報酬を含めて一括して代金請求をしていた独立事業主が被告と雇用関係にあるとはいえない。
(2) 仮に原告らと被告間の各契約が労働契約であるとした場合,それが終了したかどうかについて
ア 被告の主張
原告らとの契約は期間を1年とする契約であり,平成10年2月20日限り,更新されずに終了した。
仮に更新拒絶について,相当と認められる特段の事情が必要であるとしても,次のとおりその事情が認められる。
(ア) 被告は,原告らとの契約関係が下請請負契約であることを明確にする的で新規請負契約への更改を意図して,原告らを除く下請業者全てとの間で新規請負契約を締結した結果,原告らに属していた組子は全て他の下請業者の従業員となったため,原告らは独立した下請業者としての適格性を喪失した。
(イ) 原告らは,被告が,新規請負契約への更新に際し,覚書等で保障された処遇を維持する旨明言したのに,これを拒否したものである。また,原告らだけとの間で旧契約を更新することは他の下請業者との間で差別になるし,2種類の契約を併存させることには事業経営上合理性も正当性もない。
(ウ) 原告らとの契約が雇用契約であったとしても,被告は,長期化する深刻な不況下で,舞台装置,遊戯機械の受注の大幅な削減と受注採算の悪化に対処するため,コスト削減,合理化を血のにじむような思いで行ってきたもので,その中で2名だけ存在することになる原告らを解雇することには,就労者を正従業員と下請事業者に整理する正当な理由があった。
(エ) 原告らとの間の契約において約定されている1年という期間は,原告らが,他の企業の下請業者となるか,独立自営するか労働者として就職するかを熟慮し,方針決定するための準備期間として相当な長さである。したがって,仮に平成10年2月20日における期間満了による契約関係解消に理由がなくとも,契約期間は,平成11年2月20日に満了した。
イ 原告らの主張
原告らは,被告において25年ほど働いてきたから,被告との契約関係は期間の定めのない契約に転化した。
また,本件覚書(5)項には1か年経過時で解除することはないと明記されているし,被告は平成4年3月31日の話し合いでもそのように言明していた。
なお,解雇の主張については争う。
(3) 原告らの平均賃金について
ア 原告らの主張
原告らの1か月の平均賃金は,原告筒井につき68万7135円(平成9年3月から平成10年2月までの1か年の平均)であり,原告山本につき50万3795円(平成9年10月から同年12月までの3か月間の平均)である。
イ 被告の主張
原告ら主張の期間における1か月平均支給額は,原告らの主張どおりであるが,その金額は,通年の平均支給額を上回っており,これによるのは相当ではない。
すなわち,原告筒井の平成9年度の基準日給は2万4976円,年間就労日数269日として計671万8544円であり,これを12か月で除すると1か月平均55万9879円(端数切上)となる。
また,原告山本に対する平成9年5月から同年12月までの間の平均支給額は47万4206円(端数切上)であり,平成10年1月分の支給額は36万8608円であるし,平成9年5月から平成10年1月までの平均支給額も46万2472円である。
第3争点に対する判断
1 争点(1)(原告らと被告間の各契約が労働契約かどうか)について
(1) 前提事実及び括弧内に記載した証拠によれば,次の事実を認めることができる。
ア 事実経過について
(ア) 原告筒井は,かつて被告の下請である先川工業の従業員として,大阪にあった被告の本社工場で稼働していたが,昭和47年,福知山工場の開設に向けて被告の常用となり,昭和48年6月,福知山工場の開設に伴って組子を有する組「筒井工業」の代表者となり,以後,福知山工場において「常用」身分で稼働してきた。一方,原告山本は,同年7月ころから,福知山工場において,筒井工業の組子として「常用」身分で稼働し始めたが,昭和52年4月,同じく筒井工業の組子であり「常用」身分の三瀬正雄とともに組「山瀬産業」を新設し,その代表者として稼働してきた(なお,原告らが稼働を開始するにあたり,期間についての合意がなされたことを窺わせるべき証拠はない。)。
原告らや組子らは,被告の正社員としその採用試験を経てはいない。しかし,被告は,それらの者が稼働を開始するにあたっては,親方から本人の紹介を受け,かつ,親方に本人の技量や職歴についての説明を求めた上でその可否を判断することとしており(なお,<証拠略>(小林前工場長の陳述書)では,この点は,会社の「了解」と表現されている。),小林前工場長は,「近年は下請の組の仕事量が増大する見通しもなかったので,下請の組もふやさない,組子の増員を原則として了解しない方針をとっており」(<証拠略>・小林前工場長の陳述書),現に福知山工場開設当時以外には組子の採用例はなかったし,組子の移動についても,前記昭和52年4月の原告山本及び三瀬正雄のケース以外には,例がなかった。
(<証拠・人証略>)
(イ) 被告は,労基署による常用らの労働実態の調査により労働安全衛生法の実施不備が指導されたことから,昭和63年5月25日付で「是正報告書」を提出するとともに,原告らに対し,正式の請負の形にしたい旨を申し出たが,原告らを含む常用は,この申し出を拒否した。
(ウ) 原告ら常用は,平成3年11月16日,福知山工場内で落下事故が発生したことを契機として,三精輸送機株式会社常用作業者協力会を発足させ,被告に対し,被告が常用作業者に労働基準法に定められた人権擁護と安全の保障をすることなどを要求した。
これに対し,被告は,同月29日,死亡と後遺障害についての上乗せ補償には応じるが,本件協定書のとおりの協定の締結を求める旨回答し,平成4年1月31日,覚書の原案(甲8)を提示した。その後,原告ら及び神内浩次は,常用作業者協力会の世話人として,受注者が被告に与えた損害など負担について,協定書にある受注者負担でも,覚書原案にある双方協議による決定でもなく,原則として正社員に準じるものとすることや,労働災害時の保障額や旅費交通費,高所作業手当の改善などについて交渉を重ね,同年2月17日付で,被告の福知山工場長と各常用の組の代表者及び下請業者との間で本件協定書が,また,同工場長と各常用の組の代表者及び常用作業に従事することあ(ママ)る下請業者で構成される工場内下請協力会との間の連名による本件覚書が締結された。
本件協定書には,福知山工場から発注する請負工事取引に関し,発注は原則として注文書により行うものとする(2条),工事代金は,原則として,完成し引渡した当月末日より翌月20日とするが,長期にわたるもので分割検収が必要な場合は,毎月末に出来高を認定し,翌月末に支払う(5条),受注者は,工事施工に際し工事責任者として優秀な専門技術者を施工場所に常駐させ,被告と密接な連絡をとり,工事を施工,従業員を指揮監督し,工事に対する責めに任ずるものとする,ただし,被告の指揮下で業務を行う場合はこの限りではない(8条1項),受注者の作業又はその従業員のために被告に生じた損害は,一切受注者において負担するものとする(19条),受注者は,労働基準法その他法令に定める諸事項を遵守し,その手続及び費用は受注者負担とする(20条1項),受注者は,本協定及び個別契約の各条項に違反し,被告に損害を与えた場合はその損害を賠償しなければならない,受注者は工事の施行について第三者の生命,身体,財産等に損害を与えることのないよう万全の注意を払うものとし,万一これを与え,又は損害に関する紛争を生じたときは受注者が一切の処理にあたり,これについて賠償を要したときは,その費用は受注者がこれを負担する(22条),有効期間は1か年とするが,期間満了1か月前までに双方において異議の申し出がないときは,本協定は更に1か年延長されるものとし,以後も同じとする(25条)といった記載がある。
本件覚書には,被告と工場内下請協力会との間に請負工事取引基本協定を結ぶにあたり,完全な請負業務への移行は現状難しいが,今後お互いの努力により早期に実現を目指す方向へ進みたい,それまでの間,下記の事項について覚書を取り交わし業務の円滑なる運営を果たしたい,但し現在請負業務を実施されているところに対してはこの覚書は該当しない,但し常用としての扱いには適用する(前文),基本協定8条の1について,従業員を指揮監督し工事に対する責めに任ずるものとするとあるが,現実には人員分散のため指揮監督が困難であるので当分の間被告の指揮監督を受けながら業務を遂行することとする((1)項),基本協定19条について,もしこういう事態に立ち至ったときには双方で協議をし決定することとし,原則として正社員に準じる((2)項),基本協定20条について,当分の間,定期健康診断費用・じん肺健康診断費用は正社員に準じ被告の全額負担とし,溶接技術証明取得に対する費用は,基本級の新規受験に要するものは双方の半額負担とするが,その余は被告の全額負担とする((3)項),基本協定22条について,もしこういう事態に立ち至ったときには双方で協議をし決定することとし,原則として正社員に準じる((4)項),基本協定25条について,有効期間が1か年となっているのは,長期の契約を結ぶことにより同じ条件にて隷属することを避けることにあり,不満な条件であれば双方いずれかの申し出により現契約を破棄し新しい条件の元(ママ)に契約を結び直すことができることを意味するものであって,1か年経過時点で契約解除するとのことではないことを承知おかれたい((5)項),時間外手当の割増については,残業手当や休日出勤手当は時間給の1.3倍,深夜業手当は時間給の1.6倍とするといった記載や労働災害時の保障額や旅費交通費,高所作業手当などに関する記載がある。
(<証拠略>)
(エ) 原告らや神内浩次は,平成4年3月23日,福知山工場内下請協力会世話人として,被告に対し,常用への作業服を無償貸与,有給休暇の付与,土曜出勤時の休日出勤手当の支給,冬季夏季一時金の支給,正社員に準じる以上の昇給などを求めた。
しかし,被告は,早期に請負へ移行するよう努力中であり,2か月ほどの期間で全体を請負業務としたいので要求には応じられない,ただし,全部を請負とするわけにはいかない場合には時間給の請負としたい,その場合の各人の日給の金額の調整については,4月の改訂時期に若干の調整を各個別に行いたいと回答して,原告らや神内浩次の前記要求に応じない意向を明らかにした。
(<証拠略>)
イ 勤務形態について
(ア) 福知山工場には,平成9年11月当時,正社員(約60名)や下請業者(8社)の従業員など合計約140名あまりの者が稼働していた。そのうち21名ほどが時間給によって働く者であり,福知山工場では,これら時間給によって働く者が常用と呼ばれていた。このうち11名ほどは,主として時間給ではなく,仕事に(ママ)完成に対して一定の報酬を受けるという請け仕事に従事していたが,残り10名ほどは主として時間給によって稼働していた。
原告筒井については,かつて被告の申し入れにより時間給の約3割増に相応する報酬を受ける約定による請負作業に従事したことがあるが,そのような作業に従事したのは,原告筒井の26年以上に及ぶ勤務年数のうち53日間だけであり,それ以外は時間給によって稼働していたし,原告山本は,専ら時間給によって稼働していた。
(<証拠・人証略>)
(イ) 勤務時間に関しては,常用に対しては,被告の福知山工場長が,年間の常用者カレンダーを作成,交付して,出勤日や休日を具体的に指定してきた。
被告は,平成9年4月10日以降,常用の勤務時間を年間平均で週40時間以内とし,かつ,それまで休日とされていた日曜日,祝日,国民の休日,年末年始(12月31日から翌1月4日まで)及び会社が必要と認める日に加えて,第1,第3,第5土曜日を新たに休日とした(なお,正社員については,これらの外第2,第4土曜日が休日とされている。)。
被告は,常用の1日の勤務時間を,正社員と同様に午前8時30分から午後4時50分までの拘束8時間20分(うち労働時間7時間35分,休憩時間45分)と定め,被告のタイムカードで管理し,欠勤,遅刻,早出,外出についても,被告所定の用紙による届出を求めている。
これら勤務時間の定めのもとでは,原告ら常用は,被告以外の業務に従事することはそもそも予定されておらず,現に従事した例もなかった。
(<証拠・人証略>)
(ウ) 作業指揮については,原告ら常用は,福知山工場内の班に所属し,班長等と呼ばれる被告の正社員である職制の指示により,被告の定める工程表にしたがった所属班としての作業に従事するほか,班内の他のグループや他の班など忙しい部署への応援作業にも従事した。残業や休日出勤などや,発注先の現場といった工場外の据え付け場所等へ出張についても全て被告の職制の指示に基づいて行われた。作業グループの構成員については,被告が定めた。また,組子に対する作業指示も,被告の職制が,組の代表者を介さずに行い,そのことは本件覚書の中でも確認された。もっとも,これらの指示は,個々の作業方法についてまで及ぶものではなく,その点については,それぞれの常用の技術判断に委ねられていた。
常用が用いる作業道具類については,全て,被告から貸与され,必要な工具が生じたときは,班長に申し出て被告が購入し,被告の工具台帳に記帳し,被告が管理していた。
常用は,自ら費用を負担し,名札の色に違いはあるものの,正社員と同じ作業服及び靴を使用している。
原告筒井は,被告の顧客との関係上から,被告から,一度ならず,被告の工場製造課員としての名刺(<証拠略>)を支給され,それらを使用した。
(<証拠・人証略>)
(エ) 常用が受ける対価については,基本的に時間給であるし,その時間には,手待ち時間など仕事がない時間も算入される。
各組の代表者は,各組の常用について,毎月20日締めにより,被告が設置したタイムカードの記録に基き遅刻や早退に伴う調整をした勤務時間,各人の時間給並びに時間外,休日又は深夜の就労による割増額を明記した伝票により集計して被告に提出し,被告がその内容をタイムカード等と照合し,その金額から被告所定の立替金を差し引いた残額が,毎月28日限り,各組毎に一括して組の代表者の銀行口座に振込んで支給される。原告筒井は,組子である野間昇及び高橋和明から,労災保険及び失業保険関係の手続代行の依頼を受け,組子分の労災保険料(1人年間約7万2480円),雇用保険料(1人年間約8万3352円),事業税分担金等に相当にする費用などとして1人1か月2万6000円あまり(被告支給額の約5.66パーセント)を支給額から控除することとし,これを被告の支給額から控除し,かつ,所得税の源泉徴収をした上で組子に交付していた(もっとも,原告筒井に対しては,組子が2名となった後には,労災保険料などの一部として,毎月1万円が被告から支払われていた。)。一方,原告山本は,支給額総額のうち自己が受けるべき対価分だけの払い戻しを受け,組子である三瀬正雄の分については,三瀬が自ら払い戻しを受けていた。
出張時の旅費,宿泊費,高所作業手当,残業時の給食についても,常用に対しては,正社員に準じて支給され,時間外や,休日出勤については3割,深夜については6割が時間給に割増される。
平成9年度の時間給は,原告筒井が3295円であり,原告山本が,三瀬正雄,高橋和明及び野間昇と同額である2797円であった。被告は,毎年5月,正社員の賃上げ額を勘案して常用らの時間給を決定し,各組の代表者に対し,その組の常用らの時間給を示した。そして,原告筒井はその金額を組に属する組子に示していたし,原告山本の時間給は,組子である三瀬正雄と同額であった。
原告筒井は,昭和48年以来,その所得を営業所得として確定申告してきた。また,原告山本は,平成元年3月,税務署の指導を受けるまでは所得税を納めていなかったが,平成2年3月以後,その所得を給与所得として確定申告している。
(<証拠・人証略>)
(オ) 原告ら常用に対しては,就業規則そのものが適用されることはないし,定年の定めもない。また,被告は,常用に対しては,被告を事業主とする労災保険への加入を認めない立場を取っており,原告筒井については,その組子らとともに「筒井工業」として労災保険の適用を受けており,原告山本については,平成9年12月31日までは,被告の下請である栄進機工を事業主とする労災保険の適用を受けるべく,栄進機工の承諾を受けていた。
しかし,原告らの定期健康診断やじん肺検査については,正社員に準じて被告が費用を負担して実施され,溶接技術者受験更新費用は,全額又は半額が被告負担とされている。
(<証拠略>)
(2) 以上に認定した事実に基き,原告らと被告間の各契約が労働契約であるかどうかを判断する。
ア 原告らがかつては組子を有した組の代表者であり,平成4年2月17日ころには「請負工事取引基本協定書」と題する本件協定書の調印に応じ,また同年3月ころには,自ら福知山工場内下請協力会世話人と称して被告と交渉にあたったこともあること,また個々の作業方法については原告らの技術判断に委ねられる部分があったことなどからすると,原告らと被告間の各労務供給契約に,請負契約と見られうる側面があることは否めない。
イ しかし,原告らと被告間の各労務供給契約に請負契約と見られうる側面があるにしても,その労務提供が被告の指揮監督下に行われ,その報酬が労務提供の対償であるならば,原告らは,労働者性を満たし,その契約は労働契約であることになる。
そして,原告らは,(1) 正社員とほぼ同様の勤務日及び勤務時間の指定及び管理を受けて,被告の製造業務に専属的に従事し,(2) 被告の提供する設備を用い,被告の工場内又は被告の職制から指示された場所において,被告の職制の指示に基き,属する仕上げ3班としての作業を行うほか,必要に応じて忙しい他の部署への応援作業に従事し,(3) しかも,組子に対する指示も,被告の職制が直接に行っていて,原告らはこれに関与する立場にはないなど労務提供についての代替性もなかったのであるから,原告らは,被告の指揮監督下で労務を提供していたということができるし,報酬についても,原告らは,基本的に時間外割増賃金を含む時間給の支給を受けていたから,それが労務提供の対償であるということができる。
したがって,原告らは,労働者性を満たし,その契約は労働契約であることになる。
なお,原告らは,正社員と同様の採用試験を経ていないし,就業規則の適用もなく,組子を有し,対価については,組子の対価を含む金額について,所得税の源泉徴収並びに社会保険及び雇用保険の保険料の控除を受けずに支給を受け,これを,原告筒井は事業所得として,原告山本は給与所得として確定申告していたといった事実も認められる。しかしながら,これらの事情は,労働者性が問題となる限界的事例において,その判断を補強するのには役立つ事情ではあるが,本件においては,前述のように原告らの使用従属性は相当に明確である。しかも,被告は,その勤務及び作業に関しては,原告らや組子に対する作業指揮を直接に行っていたばかりか,原告らや組子に対する報酬額も実質的には決定していたなどという事実関係のもとでは,原告らには,独立の使用者としての実態はないことになるし(なお,最高裁判所昭和51年5月6日判決・民集30巻4号409頁は,受入企業から請負代金名目で対価の支払を受けていた派遣企業(有限会社)の役員である社外工について,受入企業の就業規則の適用がないとしても,受入企業との間に労組法の適用を受けるべき雇用関係の成立していたものと解するのが相当であるとされた事案である。),公租公課の負担関係も被告が源泉徴収などを行わなかったことの結果に過ぎない。したがって,これらの事情によって前記判断を左右することはできない。
2 争点(2)(仮に原告らと被告間の各契約が労働契約であるとした場合,それが終了したかどうか)について
(1) 原告らとの契約が期間を1年とする契約であるかどうかについて
ア 平成4年2月17日付の本件協定書(甲12,乙2,乙3)には,有効期間は1か年とするが,期間満了1か月前までに双方において異議の申し出がないときは,本協定は更に1か年延長されるものとし,以後も同じとする(25条)とする記載がある。
イ しかし,前認定のとおり原告らとの契約関係が昭和47,8年から継続されてきたし,そもそも当初契約については,期間の定めがあったとは認められないばかりか,本件協定書と同日付で締結された本件覚書(甲11,乙4)には,前記基本協定25条に関し,有効期間が1か年となっているのは,長期の契約を結ぶことにより同じ条件にて隷属することを避けることにあり,不満な条件であれば双方いずれかの申し出により現契約を破棄し新しい条件の元(ママ)に契約を結び直すことができることを意味するものであって,1か年経過時点で契約解除するとのことではないことを承知おかれたい((5)項)とする条項があることなどからすると,原告らと被告間の労働契約は,本件協定書25条に関わりなく,実質において,期間の定めのない契約に類似するものであると認められることになる。
したがって,原告らにおいて本件協定書に記載された期間満了後もこの契約関係が継続されるものと期待することに合理性があるから,従前の取扱を変更して契約更新を拒絶することが相当と認められる特段の事情が被告に存しない限り,被告において,原告らとの間の労働契約を期間満了により一方的に終了させることは許されない。
(2) 平成10年2月20日限りで契約更新を拒絶したことについて,それが相当と認められる特段の事情が被告に存したかどうかについて
ア 原告らの組子は,その頃,被告と新規請負契約書による契約を締結した有限会社大進工業の従業員となり,原告らは組子を有しなくなったことは既に認定したとおりである。
しかし,そもそも,原告らと被告間の契約関係は,労働契約であるから,原告らが組子を有しなくなったからといって,原告らに労働者としての適格性がなくなったと認めることはできない。
イ 被告は,新規請負契約への更新に際し,覚書等で保障された処遇を維持する旨明言したと主張する。
しかし,被告が平成10年1月20日付で原告らに参考として送付し新(ママ)たな請負契約書(甲34の1及び2)によれば,同契約は,常用との契約が完全な請負契約であることを明確化したものであることが認められるから,原告らがその締結に応じるとすれば,従前の原告らの地位が不安定化することにつながりかねない。
また,原告らが,同年2月5日付質問書(甲35)や同月16日付「申し入れ」(甲36)により新しい契約書と本件覚書との関係を質したのに対し,被告は本件覚書を破棄すると回答するにとどまったことは前提事実として認定したとおりである。
そうすると,被告は,従前の契約の更新を拒絶するにあたっては,代償的措置を明確にしないまま,原告らの地位を不安定にしかねない内容の新規請負契約への移行を提案したにとどまることになるのである。
ウ 証拠(<証拠・人証略>)によれば,被告の売上が平成9年以降,年々減少しつつあり,平成12年3月期のエレベータ,舞台装置及び遊戯機械についての受注残高は,平成9年3月期のおよそ半分となっていること,しかし会社全体としての当期利益は平成10年3月期に5億4700万円に減少したものの,その後8億円台を維持していることの事実が認められる。
したがって,今直ちに経営合理化のため人員整理をすすめる必要性があったことが客観的に認められる状態であるとはいえないし,まして,十分に協議し,希望退職者を募るといった手段その他解雇を回避するために有効な何らかの方策を講じたことを窺うことはできないから,未だ解雇回避のための十分な努力を払ったということはできない。
(3) 結局,被告は,整理解雇要件が具備されているとは認められない状況下において,代償的措置を明確にしないまま,原告らの地位を不安定にしかねない内容の新規請負契約への移行を提案して,平成10年2月20日限りで従前の契約の更新を拒絶したにとどまることになるのであり,この被告の契約更新拒絶について,それが相当と認められるに足り(ママ)だけの特段の事業経営上の合理的必要性が被告にあったとは認められないし,正にそのような情勢のもとで,新規請負契約の締結に応じるか応じないかは,常用各人がそれぞれの事情を踏まえて判断し,対応すべき事柄であったことになる。それゆえ,2種類の契約が存続し,新規請負契約の締結に応じた者と応じなかった原告らとで契約上の地位が異なることになるからといって,それは契約関係が異なることの帰結であって他の者との差別とはならないし,原告らがその地位を失うべき理由ともならない。
また,平成11年2月20日に更新拒絶後1年が経過したからといって,同日限りで原告らと被告との間の労働契約関係が終了したとすべき理由も認められない。
したがって,契約終了をいう被告の主張は採用できない。
(4) そうすると,原告らは,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあるというべきところ,被告がこれを争っているので,この地位の確認を求める原告らの請求は理由がある。
3 争点(3)(原告らの平均賃金)について
(1)証拠(<証拠・人証略>)及び弁論の全趣旨によれば,被告から支給を受けていた1か月平均の労働対価は,原告筒井が68万7135円(平成9年3月から平成10年2月までの1か年の月平均額)であり,原告山本が48万7987円である(なお,同原告については,平成8年9月17日の事故により負傷し,平成9年1月中旬からは通院しながら就業するようになったものの,その後同年3月3日から同月28日まで再入院し,同年5月21日から再び就業するようになったという経過に鑑み,平成9年6月から平成9年12月までの7か月の月平均額によるものとするが,その間の月毎の支給額などは右の表に記載のとおりである。)と認められる。
したがって,以上によれば,原告らは,平成10年2月21日以降も(ただし,原告らに対する給与の締め日は毎月20日であり,支払日は毎月28日であるから,平成10年2月21日以降の分の給与の最初の支払日は,3月28日となる。),1か月分の賃金として,原告筒井が68万7135円,原告山本が48万7987円の支払を求める権利を有するものというべきことになる。
(2) もっとも,本件口頭弁論終結日以降の分の賃金請求は,将来請求であるし,将来の給付を求める訴えは,あらかじめその請求をする必要がある場合に限り,提起することができるところ(民事訴訟法135条),この判決確定に至るまでの分については予めこれを請求する利益と必要性があると認められるものの,その後の分については,労働契約上の地位が訴訟によって確定すれば,特段の事情がない限り,その後の期間について使用者が賃金を払わないとは認め難い。そして,本件においても,その特段の事情については,特に主張,立証はなされていない。
<省略>
したがって,本判決確定後の期間についての金員支払請求は不適法である。
4 結論
以上のように原告らの訴えのうち,本判決確定後の期間についての金員支払請求は不適法であり,その余の本訴請求は主文において認容した限度で理由があり,その余は理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判官 松井英隆)
別紙 主張対比表
<省略>