京都地方裁判所舞鶴支部 平成5年(わ)5号 判決 1993年9月07日
主文
被告人を懲役三年に処する。
未決勾留日数中一五〇日を右刑に算入する。
押収してある覚せい剤結晶粉末一袋(平成五年押第四号の1)を没収する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、昭和六〇年ころから覚せい剤を常習的に使用するようになり、前刑出所後、覚せい剤を再び常習的に使用するようになり、密売人から覚せい剤を数グラム単位で一括して買い入れては、自己使用分の買い入れ費用を捻出するなどの営利目的で一部を小分けして他に買入れ価格以上で密売するなどしていたものであるが、
第一 営利の目的をもって、みだりに、平成四年一〇月二二日午後一〇時ころ、大阪府守口市八雲西町二丁目二六番一二号パチンコ店八雲会館の駐車場において、瀧本健治に対し、フェニルメチルアミノプロパン塩酸塩である覚せい剤結晶粉末約〇・五グラムを代金八〇〇〇円で譲り渡し
第二 みだりに、平成四年一一月一〇日午前一時ころ、同市八雲中町二丁目一〇番三号先路上において、瀧本春雄に対し、フェニルメチルアミノプロパンを含有する覚せい剤約〇・五グラムを無償で譲り渡し
第三 営利の目的をもって、みだりに、平成四年一一月二四日午後七時ころ、前記八雲会館前路上において、中村治美に対し、フェニルメチルアミノプロパンを含有する覚せい剤約〇・一三五グラムを代金三〇〇〇円で譲り渡し
第四 営利の目的をもって、みだりに、平成五年一月二三日午後三時ころ、前記八雲会館前路上において、片山政夫に対し、フェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤約〇・三グラムを代金五〇〇〇円で譲り渡し
第五 法定の除外事由がないのに、平成五年一月二四日午前七時ころ、同市八雲西町四丁目一番九号ミドリパンション八号室において、フェニルメチルアミノプロパンを含有する覚せい剤約〇・三グラムを水に溶かして自己の身体に注射して使用し
第六 営利の目的をもって、みだりに、平成五年一月二四日午後五時一二分ころ、前記八雲会館の駐車場において、フェニルメチルアミノプロパンの塩酸塩である覚せい剤結晶粉末約二・六グラム(平成五年押第四号の1)を所持したものである。
(証拠の標目)(省略)
(累犯前科)
被告人は、平成元年一月二七日大阪地方裁判所で覚せい剤取締法違反の罪により懲役一年二月に処せられ、平成二年二月一四日に右刑の執行を受け終わったものであって、右事実は検察事務官作成の前科調書及び同判決書謄本によってこれを認める。
(法令の適用)
被告人の判示第一、第三、第四及び第六の各所為はいずれも覚せい剤取締法四一条の二第二項、一項に、判示第二の所為は同法四一条の二第一項に、判示第五の所為は同法四一条の三第一項一号、一九条にそれぞれ該当するところ、前記の前科があるので刑法五六条一項、五七条により以上の各罪の刑についてそれぞれ再犯の加重をし(ただし、判示第一、第三、第四及び第六の各罪についてはいずれも同法一四条の制限)、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により刑及び犯情の最も重い判示第六の罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重をし、右刑期の範囲内で被告人を懲役三年に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中一五〇日を右刑に算入し、押収してある覚せい剤結晶粉末一袋(平成五年押第四号の1)は判示第六の罪に係る覚せい剤で犯人である被告人の所有するものであるから覚せい剤取締法第四一条の八第一項本文によりこれを没収する。
なお、検察官の求刑は懲役三年六月及び罰金一〇万円であるが、譲渡代金が日常的に費消される程度の少額であることに照らし罰金は併科しないこととし、また、「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例に関する法律」所定の没収、追徴について検討するに、本件のごとく覚せい剤の買入れと一部の密売が累行された場合にあっては、初回の譲渡代金(不法収益)をもって次回の覚せい剤を買い入れた場合等には、同覚せい剤及びその譲渡代金が「(初回の)不法収益に由来する財産」と認められることもあり、結局、判示第六の被告人が所持していた覚せい剤(平成五年押第四号の1)は「(従前の)不法収益に由来する財産」であると認められる余地がないわけではなく、判示のとおり同覚せい剤を没収した上、重ねて従前の譲渡代金相当価額を追徴することが二重処罰の疑いもあり、この点についての明確な立証も困難であるから、同法所定の没収、追徴を要しないと解する。
(量刑の理由)
被告人の判示一連の犯行は、多数回にわたる継続的な買入れ、自己使用、密売の一環として敢行されたもので、被告人の常習性には根強いものがあり、累計すれば自己使用分を除いても相当多量に達する覚せい剤を安易に密売するなどしていたもので、その犯情は悪質であり、覚せい剤を広めた刑責は重いといわざるをえない。
しかして、被告人が前刑出所後大阪市内の清掃会社で稼働していたこと、今回の捜査において本件の事実関係を素直に認め、当公判廷においても反省して更生を誓っていることなど、被告人に有利な諸事情を考慮しても、懲役三年の刑はやむをえないところである。
よって、主文のとおり判決する。