京都地方裁判所舞鶴支部 平成8年(ワ)28号 判決 2001年5月18日
原告
上羽大造
右訴訟代理人弁護士
高田良爾
被告
フナツ産業株式会社
右代表者代表取締役
船津高士
右訴訟代理人弁護士
坂東宏和
同
石那田隆之
主文
一 被告は、原告に対し、金一九一三万六一六五円及びこれに対する平成八年六月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求
被告は、原告に対し、金三〇二一万五二三九円及びこれに対する平成八年六月六日(本件訴状が被告に送達された日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 本件は、原告がH型鋼の仮組立作業中、溶接H型鋼組立矯正機(以下「本件機械」という。)の押さえローラー部上部と本件機械上部の鉄枠との間に手を挟まれ負傷したとして、使用者である被告に対し、雇用契約上の安全配慮義務違反に基づく損害賠償を請求した事案である。
二 前提となる事実(争いがない事実及び証拠上容易に認定できる事実)
1 被告は、鉄くずの販売、鉄鋼二次製品の加工・販売を業とする株式会社で、京都府舞鶴市大字長浜小字宮谷<番地略>に舞鶴工場を有している。
2 原告は、平成七年九月一日、被告に雇用され、舞鶴工場で稼働していた。
3 原告は、次の事故(以下「本件事故」という。)に遭い、これにより両手圧挫創(右第三、四指挫滅創及び打撲並びに左手打撲)の傷害を負った。
(1) 日時 平成七年九月二七日午前一〇時五〇分ころ
(原告は、本件事故の発生時間を午前一〇時三〇分ころ、と主張し(平成八年九月二四日付準備書面)、原告は、その本人尋問において、午前一〇時二〇分ころ、と供述し、その間に矛盾があって一貫しないところ、乙第四号証、証人東日出也の証言によれば、右のとおり、認定することができる。)
(2) 場所 前記被告舞鶴工場内
(3) 態様 原告が、仮溶接後のH型鋼を本件機械に登って足で押し出そうとした際、作動させて上昇中の押さえローラーを停止させないままその上部の鉄棒に両手を置いて作業したため、右鉄棒と本件機械上部の鉄枠の間に両手を挟まれた。
(甲三、四、乙四、一七ないし二〇、証人東日出也、原告本人)
4 通院経過
原告は、本件事故による受傷のため、次のとおり、通院した。
(1) 鳥井医院
平成七年九月二七日から同年一〇月三日まで(実日数七日)
(2) 市立舞鶴市民病院
平成七年一〇月四日から平成八年五月一七日まで(実日数六一日)
(乙一七ないし二〇)
5 症状固定
原告は、平成八年五月一七日、障害が治癒した旨の診断を受け、症状が固定した。
(乙一八、二四の2)
6 労災認定
原告は、本件事故により舞鶴労働基準監督署長の労災認定を受け、症状固定時において、本件事故の後遺障害として等級八級四号に該当する手指の機能障害があると認定された。
(甲一一、乙二四の2)
7 労災給付
原告は、労災保険から療養補償給付(四七万一〇八四円)、休業補償給付(一三二万二四七五円)及び障害補償給付(四七九万九六二六円)の合計六五九万三一八五円の支給を受けた。
三 争点
本件の主な争点は、被告の安全配慮義務違反の有無、損害額、特に原告の後遺障害の有無、その程度及び過失相殺である。
1 被告の責任原因
(一) 原告の主張(安全配慮義務違反)
(1) 被告は、原告との雇用契約に基づき、労働提供過程から生じる危険につき、その生命、身体の危険を予見し、結果発生を防止すべき安全配慮義務を負っているところ、①原告が事故時従事していたH型鋼の仮組立作業は、本件機械に取り付けられたローラーなどの作動、重量のある鋼材の移動による危険を伴うものであり、しかも、原告は、雇用されてわずか二七日目、単独で作業をするようになったのも平成七年九月一八日以降のことで作業に慣れていなかったのであるから、原告を右作業に従事させるに当たっては、作業工程を十分説明するほか、熟練の作業員を配置して作業を指導監督する義務があった。また、②本件機械に登って型鋼を移動させる作業方法は、危険を伴うものであるから、被告にはこのような作業方法の禁止を指示する義務があった。更に③原告は、本件機械の外枠と押さえローラー上部の鉄棒の間に手を挟まれ受傷したのであるが、被告にはそのような事故が起きないように押えローラーを調整する義務があった。
(2) 被告は、右義務をいずれも怠り、安全配慮義務に違反した。
(二) 被告の認否及び主張
原告の安全配慮義務違反の主張は、否認ないし争う。
(1) 原告は、事故当時見習い研修中であり、舞鶴工場の責任者である訴外甲野太郎(以下「訴外甲野」という。)が行う機械の操作及びH型鋼の移動等の作業を、傍らで見ながら習得することが主な業務で、たまに訴外甲野の指導監督の下で簡単な作業をしていた。本件事故時行っていたH型鋼仮組立作業に必要な床上操作式クレーン技能講習、玉掛技能講習及びアーク溶接の特別教育を受けていない原告に対しては、一人で作業をしないように指導していた。
(2) 本件事故当時、訴外甲野は、原告に待機を命じて本件機械から約五メートル離れたところで荷下ろし作業を始めた。したがって、原告は、訴外甲野が戻ってくるまで待機すべきであるにもかかわらず、本件機械の押さえローラーを作動させたばかりか、本来クレーンを使ってH型鋼を移動させるべきであるのに本件機械に登って足で動かそうとして、上昇する押さえローラー部上部の鉄棒に手を乗せたもので、上司の指示に違反した上、見習いとしての権限を逸脱する行為であり、被告には本件事故を予見できなかった。また、原告が作動させた押さえローラーは、スイッチ操作で簡単に停止させることができるのにこれをしなかった原告の落ち度も大きい。
(3) このように見習いの中の原告に対しては、一人で作業することを禁じ、訴外甲野の作業を見て覚えさせることを主とし、機械を操作させる場合も訴外甲野が傍で指導していたのであるから、安全指導は徹底していた。本件事故は、原告が待機の指示に反し、勝手に作業をしたことから生じたものであって、被告に安全配慮義務違反はない。仮に被告に何らかの安全配慮義務違反があるとしても、右義務違反と損害との間に因果関係はない。
2 損害額
(一) 原告の主張
(1) 治療費 四七万一〇八四円
(2) 休業損害 二二三万二八二八円
原告は、本件事故日から症状が固定した平成八年五月一七日まで(二三四日間)休業を余儀なくされた。本件事故当時、原告の日額給与は九五四二円であったから、その休業損害は、右金額となる。
(3) 逸失利益
二二一〇万四五一二円
原告(昭和二五年一二月一五日生)は、本件事故の後遺障害(等級八級四号)により労働能力の四五パーセントを喪失したものであり、原告の日額給与九五四二円(年額三四八万二八三〇円)を基礎とし、六七歳まで二一年間の逸失利益を新ホフマン方式により算定すると、右金額となる。
(4) 慰謝料 一〇〇〇万〇〇〇〇円
(5) 弁護士費用
二〇〇万〇〇〇〇円
(二) 被告の認否及び主張
(1) 原告の損害額の主張については、治療費については認めるが(ただし、労災保険から全額支給済みである。)、その余はいずれも否認ないし争う。
① 原告は、損害額算定の基礎となる収入について、通勤手当及び給食手当を含めて算出しているものと考えられるが、これらの手当を含ませるべきではない。右の手当を除外して算出した収入は、日額八八一六円(年額三二一万七八四〇円)である。また、被告は、既に平成七年九月二八日から同月三〇日までの休業補償をしているから、休業損害に起算日は、同年一〇月一日である。
② 原告は、本件事故によって右手指の腱や骨に損傷を受けておらず、また、レントゲン撮影によっても右手に骨萎縮はないのであるから、指に可動制限が生じることは医学的に不合理である。仮に原告に後遺障害があるとしても、リハビリ等によって漸次回復が見込まれるから、労働能力喪失期間は長くとも五年間を超えない。
(2) 過失相殺
本件事故は、前記1の(二)で主張したように、原告が指示に従わずに独自の判断で行った危険な行為によって発生したものであるから、一〇〇パーセントに近い過失相殺がなされるべきである。
(3) 損害の填補
労災保険からは、ほかに休業特別支給金四四万〇七四八円、障害特別支給金六五万円が支払われているから、これも損益相殺の対象とされるべきである。
第三 争点に対する判断
一 本件事故に至る経過等
前提となる事実に、証拠(甲一〇、一二ないし一五、乙三、四、八、九の1ないし20、一〇の1ないし21、一一の1ないし20、一三、二三、二六、検甲一、二、三の1、2、四の1ないし3、七ないし一四、検乙一の1ないし7、二、証人日笠則行、同乙川次郎、同甲野太郎、原告本人、弁論の全趣旨)を総合すれば、次の事実が認められる。
1 原告(昭和二五年一二月一五日生)は、平成七年八月二六日、知人の紹介で被告の採用面接(代表者らが面接)を受けて被告に採用された。
2 原告は、面接時、東京で一三年間タクシー運転手をしていて工場での作業経験は全くないことを述べ、被告からは、当面、現場で作業見習いとして働いてもらい、数か月経験を積んだ後、担当する作業を決める旨の説明を受けた。
3 原告は、同年九月一日から被告の舞鶴工場に出勤し、初日は、右工場内の第一工場の責任者で、原告を指導することとなった訴外甲野から約一時間半にわたって入社時の安全衛生特別教育を受け、現場の作業工程のうち、アーク溶接、クレーン及び玉掛け合図作業は、特別教育を受け、あるいはその技能講習を修了しなければできないことなどの説明を受けた後、訴外甲野を補佐して指導する立場にあった被告従業員の訴外乙川次郎(以下「訴外乙川」という。)が本件機械を操作して行うH型鋼の仮組立作業の補助をし、以後、同月一四日まで訴外乙川に付いて同様の仕事に従事した(その主な内容は、クレーンで鋼材を移動させる際、鋼材をクランプで挟む、自動溶接後の型鋼を手で押してローラー台上に送り出す作業及び本件機械の操作盤のスイッチ操作などである。なお、同月七日は、訴外乙川に付いて二時間ほど右作業に従事し、その後、被告の下請会社の従業員訴外日笠則行(以下「訴外日笠」という。)が行っていたBH溶接作業を補助した。)。そして同月一八日から二一日までは、訴外甲野に付いて右仮組立作業に従事し、同月二二日から二五日までは、訴外日笠に付いてBH溶接を習い、同月二六日には、再び訴外甲野に付いてH型鋼の仮組立作業の補助に従事した。訴外甲野、同乙川及び同日笠は、いずれも当該作業に必要な技能資格を有しており、右期間中、原告が単独で作業することはなく、訴外甲野らの作業を見て作業手順、方法等を覚え、その指導監督の下に作業の一部を補助的に行っていたにすぎなかった。
なお、原告は、同月一八日から単独で作業をしていたと主張するが、この点に関する原告の陳述部分(甲一〇、一五)ないし供述部分には不自然な変遷があって到底信用できず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
4 H型鋼の仮組立作業の手順は、次のとおりである。
(1) クレーンによりフランジ用鋼板を本件機械のローラー台にセットする。
(2) クレーンによるウェーブ用鋼板をフランジ用鋼板の中央部にT型になるようにセットする。
(3) T型にセットした鋼板の端部を手溶接する。
(4) T型鋼を、ガイドローラー等の回転によりローラー台上を移動させながら本件機械の自動溶接のスイッチを操作して部分溶接する。
(5) 押さえローラーを三〇センチメートルほど上昇させ、部分溶接したT型鋼の端部を手で押してローラー台上に五〇センチメートルほど送り出す。このとき、重量等によって手で送り出せない場合は、クレーンで移動させる。
(6) もう一方の端部を手溶接する。
(7) クレーンによりフランジ用鋼板を本件機械のローラー台にセットする。
(8) クレーンにより部分溶接したT型鋼を反転させ、右フランジ用鋼板の中央部にH型にセットする。
(9) H型にセットした鋼板の端部を手溶接する。
(10) H型鋼を、ガイドローラー等の回転によりローラー台上を移動させながら本件機械の自動溶接のスイッチを操作して部分溶接する。
(11) 押さえローラーを三〇センチメートルほど上昇させ、部分溶接したH型鋼の端部を手で押してローラー台上に五〇センチメートルほど送り出す。このとき、重量等によって手で送り出せない場合は、クレーンで移動させる。
(12) もう一方の端部を手溶接する。
(13) クレーンによりH型鋼をローラー台から下ろす。
5 訴外乙川は、右と同様の作業をする際、ローラー台に上がって手で型鋼を押したり、機械に登って型鋼を足で押し出すことがあり、本件事故前にも原告を指導して本件機械を使ってH型鋼の仮組立作業を行ったときも、本来、右のような作業方法は危険を伴うことから、行ってはいけないとされており、手で押して送り出し、これができない場合にはクレーンを使って送り出すべきであったにもかかわらず(被告が、原告に対し、このような作業上の注意をしていたことを認める証拠はない。)、原告の目の前で本件機械に登り、足で型鋼を押し出したことがあった。
6 原告は、平成七年九月二七日午前八時ころから訴外甲野が本件機械を使って行うH型鋼(高さ九〇〇ミリメートル・幅三〇〇ミリメートル・長さ一一メートル・重さ三トン)の仮組立作業の補助(玉掛け作業の補助、訴外甲野の監督の下で行う右自動溶接のスイッチ操作、右4の(5)、(11)の型鋼の送り出し等)に従事していたが、同日午前一〇時五〇分ころ、右4の(10)の作業中、機械を作動させたまま訴外甲野がその場から四、五メートル離れた場所に移動し、同所で荷下ろし作業をしていた間、原告が右4の(11)の作業を始め、自動溶接後のH型鋼を押し出そうとしたところ、H型鋼がローラーに引っ掛かったため本件機械に登って押さえローラー上部の鉄棒に両手を置いて足で型鋼を送り出そうとした。しかし、押さえローラーのスイッチを停止させなかったため本件事故に遭った。
なお、被告は、訴外甲野が荷下ろし作業のためその場を離れる際、原告に待機を指示したと主張し、乙第二一号証、証人甲野の証言中にはこれに沿うような陳述部分及び供述部分があるが、その指示は、「ちょっと、待っとけよ」と言ってその場を離れたというにすぎず、作業を中止する意味の待機の指示としては、必ずしも明確、かつ適切であるとはいえない上、まだ経験の浅い原告が右指示を無視してまで敢えて作業を行うとは考え難いことを考え併せると、右陳述部分及び供述部分はにわかに信用できず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
7 本件事故後、本件機械の押さえローラーが取り付けられている仮組立用油圧シリンダーが破損し、これを交換したことにより、本件機械の金属製外枠と押さえローラー部上部の鉄棒の間に手が挟まれることがない程度の余裕ができた。
二 被告の安全配慮義務違反の有無について
1 使用者は、その従業員に対し、雇用契約に基づく法律関係の付随義務として、従業員が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示の下に労務を提供する過程において、従業員の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負っているものと解するのが相当である。
2 そこで、右の点を前記認定事実に照らして検討すると、本件H型鋼の仮組立作業は、長さ一一メートル、重さ三トンもの鋼材を、本件機械に取り付けられたローラー等を作動させて、移動させながら溶接などをする作業であり、作業を誤って鋼材に挟まれるなどの事故が発生する可能性のあることは容易に予測できたというべきである。そして、原告が、今まで工場での作業経験がなく、また、本件事故当時、被告に採用され、見習いとして本件H型鋼の仮組立作業を始めてから正味二〇日ほどの経験しかなかったため、十分作業に習熟しておらず、余裕のない段階であったことを併せ考えると、被告としては、原告について、作業に習熟した従業員に指導させて、適切な方法により本件仮組立作業の行程を遂行できるように習得させるとともに、その作業方法、状況などを監督し、危険な方法で本件仮組立作業をしたり、本件機械の危険な操作、運転があれば、これを是正するなどして、安全かつ速やかに作業ができるよう配慮すべき注意義務があったというべきである。
しかし、被告は、右注意義務を怠り、原告に対し、本件機械に登ってする作業方法の危険性を説明していなかったことがうかがわれるほか、訴外甲野を補佐して原告の指導に当たらせていた訴外乙川が、機械に登って本件と同様に足で鋼材を押し出す危険な作業方法をしているのを禁止しなかったため、訴外乙川が、原告に本件機械を使ってH型鋼の仮組立作業を指導した際、その面前で本件機械に登ってH型鋼を足で押し出す危険な方法で作業をすることを防止することができず、原告がこれを見習って同様の方法で作業を行い本件事故に遭ったものである。また、被告は、見習い中で、作業に必要な資格を持たない原告には、単独で作業をさせていなかったのであるから、本件事故時、原告を指導していた訴外甲野が荷下ろし作業のためにその場を離れるに当たっては、現に機械を作動させたまま作業の途中でその場を離れたのであるから、原告に対し、作業の中止を明確に指示すべきであったのに、これをしなかった上、わずか四、五メートルしか離れていない場所にいて、容易に原告の状況を把握することができたのであるから、原告が作業を始めたときはこれを中止させるか、その作業状況を監督することができたにもかかわらず、これを怠ったため本件事故の発生を防止できなかったことが認められる。そうすると、被告には、右の点で、安全配慮義務違反があったというべきである。
さらに、原告は、本件機械を調整して本件機械の外枠と押さえローラー部上部の鉄棒の間に余裕を設け、手が挟まれないよう配慮すべき義務があると主張するが、過去に本件同様の事故が発生するなどして危険が現実化したことを認める証拠のない本件にあっては、被告に右のような安全配慮義務まで課すことはできない。
三 原告の損害について
1 治療費 四七万一〇八四円
原告が本件事故による受傷により治療を受け、その費用として四七万一〇八四円の支出を要したことは、当事者間に争いがない。
2 休業損害
二一七万〇五八四円
前提となる事実及び証拠(乙四六ないし四八、弁論の全趣旨)によれば、原告の給与は、いわゆる日給月給であり、平成七年九月一日から同月二〇日までの給与として一八万八六一二円(基本給一五万六五二二円、時間外手当一万三〇四〇円、給食手当二二五〇円、通勤手当一万六八〇〇円)、同月二一日から同月二六日までの給与として一〇万四三三三円(基本給五万二一七四円、勤務手当三万一三〇四円、休日手当一万三〇四三円、時間外手当三二六〇円、給食手当九〇〇円、通勤手当て三六五二円。なお、右の通勤手当は、被告の主張するように休業補償と解されるから、損益相殺の対象とされるべき性質のものであり、休業損害算定の基礎から除外されるべきである。)の支給を受けたこと、原告は、本件事故により、事故当日である平成七年九月二七日から平成八年五月一七日までの二三四日間休業を余儀なくされたことが認められる。
そして、給食手当は、給与分に含ましめるのが相当であるが、通勤手当は、除外するのが相当であるから、これを前提に一日当たりの収入を算定すると、九二七六円(一円未満切り捨て)となる。
(一七万一八一二円+六万九三七七円)÷二六=九二七六円
したがって、これを基礎に二三四日間分の休業損害を算定すると、二一七万〇五八四円となる。
3 逸失利益
二三五一万六四一〇円
前提となる事実及び証拠(甲三、乙一七ないし一九、二四の2、鑑定の結果)によれば、原告は、残存した障害により、症状固定時である四五歳から労働可能期間である六七歳まで二二年間にわたって四五パーセントの労働能力を喪失したと認めるのが相当である。被告は、この点に関し、縷々主張するが、いずれも採用できない。
そして、原告が入社して一か月足らずで本件事故に遭ったもので、当時の給与を基礎に逸失利益を算定することは不合理であること、及び原告の年齢を考慮すると、原告の逸失利益の算定については、平成八年賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計男子労働者の全年齢平均賃金である年間五六七万一六〇〇円の七〇パーセントに相当する年間三九七万〇一二〇円を基礎とすべきである。
これを前提に、ライプニッツ方式(係数13.1630)により中間利息を控除し、原告の逸失利益を算定すると、原告の逸失利益は、二三五一万六四一〇円となる(円未満切り捨て)。
397万0120円×0.45×13.1630=2351万6410円
4 慰謝料 八五〇万〇〇〇〇円
本件事故の態様、原告の負傷の内容、通院の経過、障害の内容及び程度など、本件にあらわれた一切の事情を総合すると、原告の慰謝料としては、八五〇万円が相当である。
四 過失相殺
前記一の認定事実に、同二において判示したところによれば、本来、原告は、訴外甲野らの指導監督の下で作業を行わなければならない立場にあったもので、訴外甲野らがその場にいない場合には、同人らが戻るまで作業を中止すべきであったにもかかわらず、訴外甲野が他の作業に従事するためその場を離れた間に、自身の判断で作業を続けた上、作動し上昇中の押さえローラー部上部の鉄棒に手を置けば、その鉄棒と本件機械の外枠との間に手を挟まれることは容易に認識できたにもかかわらず、自ら作動させた押さえローラーを停止させることなく、その上部の鉄棒に両手をおいたまま作業を続けたため本件事故に遭ったものであるから、原告には、本件事故発生について過失があるというべきである。そして、双方の過失を対比すると、原告にも三〇パーセントの過失があったとするのが相当である。
五 損害の填補
原告が労災保険から療養補償給付として四七万一〇八四円、休業補償給付として一三二万二四七五円及び障害補償給付として四七九万九六二六円の給付を受けたことは当事者間に争いがない。
被告は、この点に関し、他に休業特別支給金、障害特別支給金が給付されており、これらも損益相殺の対象とされるべきであると主張するが、右特別支給給付金は、社会保障的色彩の強い給付であり、損害の填補性を有しない。(最二小判平成八年二月二三日民集五〇巻二号二四九頁参照)
また、前記三の2で認定したように、被告は、原告の休業損害の補償として三万一三〇四円を支払っているから、これも損益相殺の対象となる。
六 弁護士費用
本件事案の内容、審理経過及び認容額その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係にある弁護士費用相当の損害は、一五〇万円と認めるのが相当である。
七 総額 一九一三万六一六五円
(裁判官・大西良孝)