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京都家庭裁判所 平成12年(家)607号 2002年5月07日

主文

1  本件申立てをいずれも却下する。

2  本件手続費用は申立人の負担とする。

理由

第1申立の趣旨

1  主位的申立の趣旨

相手方らは申立人に対し、財産分与として、別紙遺産目録(1)ないし(16)記載の不動産につき、持分2分の1の持分移転登記手続を行え。

2  予備的申立の趣旨

申立人の別紙遺産目録(1)ないし(16)記載の各不動産につき寄与分が2分の1であることを定める。

第2当裁判所の判断

1  主位的申立

(1)  本件当事者の国籍はいずれも大韓民国であるから、本件については、大韓民国民法を適用すべきであり、同法839条の2第3項によれば、配偶者の財産分割請求権は離婚の日から2年を経過すれば消滅するところ、被相続人は平成9年10月2日死亡したものであるから、ひとまず申立人主張のとおり、死亡が離婚と同視でき、死亡配偶者に対して財産分割を請求できると仮定しても、上記死亡から2年以上経過した平成12年5月8日になされた本件申立は、財産分割請求権消滅後になされたものであって、ひとまず失当というほかはない。

(2)  これに対して、申立人は、別紙記載のとおり、本件申立は、被相続人の死亡から2年以上経過した後になされたことをもって失当として許されないとすることは、実質的な不正義を招来する形式論にすぎないと主張するので、以下にこれを検討する。

(3)  本件記録によれば、申立人は、当庁に対し、平成10年2月4日、本件相手方らを相手方とする共有物分割の調停(同年(家イ)第○○○号共有物分割調停申立事件、以下「前件」という)を申し立てたが、同年6月17日これを取り下げたこと、申立人は、前件と並行して、ソウル家庭法院に対し、申立人と被相続人との間に事実婚が成立していたことの確認を求める訴訟(97ドゥ××××事実上の婚姻関係の存在確認請求事件)を提起し、同地裁での同年6月12日付敗訴判決に対する控訴を経て、平成11年5月26日、ソウル高等法院において事実上の婚姻関係の存在を確認する旨の勝訴判決(98ル××××事件、以下「別件判決」という)を得たこと、申立人は、上記判決が言い渡されたため、改めて本件申立をすることとしたと主張すること、以上の事実が認められる。

(4)  以上の事実関係の下では、申立人は、共有物分割請求権と財産分割請求権とは互いに異なる法的根拠に成立する権利であって、これを同視することはできないばかりでなく、前件は取下によって申立の効力自体が消滅しているのであるから、被相続人の死亡後2年が経過する前に本件申立をしなければ、財産分割請求権が消滅することとなることは容易に予見することができ、かつ消滅前に本件申立を適法にすることができたと考えられる。

しかるに、申立人は、相手方らの不誠実な態度によって、正当な利益を得ることを妨げられ、本件の解決を延引されてきたと主張するが、申立人において、相手方の妨害ないし遅延工作によって、財産分割請求権の消滅前に本件申立をすることができなかったと認めるに足りる証拠は存在せず、申立人において、自己に責めを帰することができない正当な理由により、別件判決言渡後平成11年10月1日までの間に本件申立をすることができなかった事情が存在したことについては、他に主張立証がない。

さらに、申立人と被相続人との間に事実婚が成立していたか否かは事実問題であって、事実婚に基づいて財産分割を請求するためには、訴訟手続によりその存否の確認を経ることが必要であったと解することができないから、申立人は、被相続人の死亡後いつでも財産分割請求をすることができたものと考えることができる。

(5)  そうすると、申立人は、被相続人の死亡後2年が経過する前に本件申立をすることができたものであって、正当な理由によって本件申立をすることができなかったということはできないから、本件において申立人が財産分割請求権が消滅しているとすることにつき、実質的な不正義を招来する形式論にすぎないということはできず、申立人の前記主張は失当というべきである。

2  予備的申立

大韓民国民法1008条の2の解釈上、被相続人につき遺産分割事件が係属していないにもかかわらず、寄与分審判を申し立てることができると解することもできないから、予備的申立もまた不適法であって却下を免れないというべきである。

3  よって、主文のとおり審判する。

(家事審判官 三谷博司)

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