京都家庭裁判所 平成16年(家)2382号 審判 2004年9月21日
申立人 京都市長 G
事件本人 A
親権者父 B
主文
申立人が事件本人を児童自立支援施設に入所させることを承認する。
理由
第1申立ての趣旨及び申立ての実情の要旨
事件本人については、平成14年9月2日、京都家庭裁判所において、情緒障害児短期治療施設に入所させることを承認するとの審判がなされ(当庁平成14年(家)第○○○○号)、以後、事件本人は、情緒障害児短期治療施設である「○○寮」において、中学卒業時の家庭復帰を目標として監護されてきた。
しかしながら、事件本人の問題行動は改善している面もあるが、改善していない面もあり、また、事件本人と親権者父との関係調整は未だできていない状態であって、中学卒業時における家庭復帰の見込がない。
事件本人は、定時制高校への進学を希望しているが、「○○寮」では、中学卒業時に退所する必要があることから、中学卒業後における事件本人への継続的養育監護による問題行動への働きかけができる施設として、児童自立支援施設への入所が適切であると思料されるが、親権者父は、事件本人の家庭復帰への見込がないにもかかわらず、児童自立支援施設への入所についての同意をしない。
よって、承認を求めて本件申立てをした。
第2当裁判所の判断
1 本件記録及び当庁平成14年(家)第○○○○号事件記録によれば、次の事実を認めることができる。
(1) 事件本人は、親権者父B(昭和○年○月○日生。以下「親権者父」という。)とC(昭和○年○月○日生)との間の長男として、平成○年○月○日出生した。平成3年5月17日、両親が、事件本人の親権者を父と定めて協議離婚したため、その後しばらく親権者父の母(事件本人の祖母)の養育監護を受けていた。
親権者父は平成6年4月17日再婚し、同年○月、事件本人の異母弟のDが生まれ、事件本人は、平成8年4月小学校に入学すると同時に親権者父宅に引き取られ、以後、親権者父、父の妻E、異母弟Dと4人で生活するようになった。
(2) 親権者父らとの同居開始後間もなく、事件本人には、コンビニエンスストアでの万引きや家出という問題行動が見られるようになった。
平成9年4月、事件本人の一家は現住所に転居して、小学校2年生であった事件本人は転校し、平成10年1月には、異母弟Fが生まれた。
このころ、事件本人は、学校では特段の問題行動はなかったが、下校後、自宅に帰りたがらず、祖母宅に行ったり、夜中までスーパー、本屋、ゲームセンター等で過ごすようになり、万引きで、警察の世話になるようになった。
(3) 平成10年9月(事件本人は小学校3年生)、事件本人の通う小学校は、事件本人の前記のような行動につき、○○市児童相談所に相談し、以後、同児童相談所が、事件本人にかかわるようになった。
平成11年2月、同児童相談所の担当者が親権者父及びEに対し、事件本人について、一定期間家庭からの分離が必要であることを説明したが、児童福祉施設への入所について同意が得られなかった。
平成11年5月(事件本人は小学校4年生)、事件本人が小学校内で現金の窃盗をしたことから、児童相談所は親権者父に対し、一時保護所への入所を勧めたが、親権者父は、「必要ない」と拒否した。
事件本人は、平成10年ころから、度々家出し、万引きや友達との金銭トラブルを起こし、事情を知った親権者父は、その都度、事件本人に問い質し、事件本人が否定しても、事件本人を平手で殴ったり、足で蹴ったりしていた。事件本人が、学校に顔を腫らして登校したこともあり、また、事件本人が小学校4、5年生の頃には、親権者父が事件本人の顔を蹴り、事件本人を歯医者に連れて行かねばならなくなったことがあった。
(4) その後も、事件本人の前記のような問題行動(家出、万引き等)が修まらず、段々と問題行動が激しくなってきたことから、平成13年9月(事件本人は小学校6年生)、児童相談所では事件本人について情緒障害児短期治療施設へ入所させることが必要であると判断し、平成14年1月、児童相談所の担当者が親権者父及びEに対し、その説明をしたが、親権者父は、施設入所への同意を拒否した。
しかしながら、その後も、事件本人の家出が続き、平成14年4月5日(事件本人は中学校1年生)、家出を契機に、児童相談所一時保護所に保護されるに至った。
同年6月28日、京都市長は、児童福祉法28条に基づき、福祉施設収容の承認の申立てをし(当庁平成14年(家)第○○○○号事件)、事件本人は、同年7月2日から、一時保護委託により、現在事件本人が入所している○○寮に入所し、以後、事件本人は同所で生活している。
(5) 平成14年9月2日、京都家庭裁判所は、事件本人が、知的能力面でも行動面でも問題を抱えており、その養育監護には特別の配慮を要する状況にあるところ、親権者である父は、平成14年4月5日に、事件本人が一時保護となった以降、児童相談所での面談や施設入所の手続きを拒否し、事件本人の今後の処遇や課題について、親としての児童相談所に対する協力は一切しないと表明していることに照らすと、保護者である親権者父に事件本人を監護させることは、著しく事件本人の福祉を害するものであると認められるから、事件本人の適切な監護のためには、事件本人を情緒障害児短期治療施設に入所させるのが相当であるなどとして、事件本人を情緒障害児短期治療施設に入所させることを承認するとの審判をし、同審判は同月25日確定した。
(6) ○○寮入寮後、事件本人を中学卒業と同時に家庭復帰させることを目標として、教育プログラムが組まれ、事件本人は、同寮の教育プログラムの中で、特定の職員とは信頼関係を結び、その関係の中で甘えたり自信の感情を表出できるようになった。しかし、現段階では、感情を制御し行動を律するまでには至っておらず、一部職員に対する暴言・暴力等の問題行動があり、平成16年6月22日には、事件本人が他児への暴力を振るうのを止めようとした職員の首を腕で絞め、さらに止めに入ろうとした他の職員に対しても暴行を加え、打撲等の怪我を負わせるということがあった。
○○寮入寮後、事件本人と親権者父との面会・通信は断絶し、平成16年5月からようやくその交流が再開されたが、未だ、親子関係が修復されるには至っておらず、親権者父は、事件本人を引き取ることについては、現段階では消極的である。
このような状況から、中学を卒業する平成17年3月に、事件本人が家庭復帰できる状態になっていない。
(7) 以上の経緯から、児童相談所では、事件本人の問題行動については、中学卒業後も長期的に養育監督できる環境が必要と判断しているが、○○寮には、最長で平成17年3月までしか在籍できない。
事件本人は定時制高校への進学を希望しており、家庭復帰が無理である以上、長期的な養育監護が可能な施設へ入所させる必要性があるところ、親権者父は、当庁家庭裁判所調査官に対し、「行政が事件本人を『責任をもって直す。』と言ったのだから、最後まで直して返してくれればよい。事件本人が自分で出て行ったのに、協力するつもりはない。」と述べて、入所についての同意を拒否している。
事件本人は、施設を変わることについて、自分の問題を克服して親権者父と再び同居して生活するために有益であり、また、定時制高校への進学希望を実現するためにも必要であると受け止めている。
2 上記認定事実によれば、現在事件本人が入所している施設においては、平成17年3月までしか在籍できないところ、事件本人が同時期までに家庭復帰できる目処はついておらず、事件本人の適切な監護のためには、平成17年3月以降も在籍できる事件本人の育成に適切な福祉施設に入所させることが相当であるが、親権者父はこれに同意していないと認められる。
そうすると、事件本人について、児童福祉法28条に規定する児童福祉機関の措置権を行使すべき事態にあるというべきだから、事件本人の福祉のためには、事件本人を、中学卒業後も在籍可能で、定時制高校への進学も可能となる施設である児童自立支援施設に入所させるのが相当である。
よって、主文のとおり審判する。
(家事審判官 白神恵子)