京都家庭裁判所 平成16年(少)444号 決定 2004年6月03日
少年 D・H (昭和61.8.8生)
主文
少年を医療少年院に送致する。
理由
(非行事実)
少年は、
第1 平成15年12月15日午後8時30分ころ、京都市左京区○○町××番地○○駅ホームにおいて、A(当時22歳)に対し、その顔面を手拳で数回殴打する等の暴行を加え、よって同人に加療約1か月間を要する顔面打撲挫傷及び鼻骨骨折の傷害を与えた
第2 平成16年4月7日午後3時35分ころ、少年の肩書住所の自宅玄関前において少年を訪ねてきた交際相手であるB(当時18歳)に対し、やにわにその頭部等を手拳で殴打する等の暴行を加え、よって、同人に加療約1週間を要する頭部、胸部及び背部打撲の傷害を与えた
第3 平成16年4月7日午後4時37分ころ、上記自宅において、「17歳の少年が包丁を持って暴れている」旨の通報を受け少年による自傷他害を防止するために少年宅に駆け付けた京都府○○警察署勤務の警察官C(当時40歳)に対し、所携のペティナイフ1本(刃体の長さ約13.0センチメートル)を、同ペティナイフが同警察官の身体の枢要部に刺さったなら、同警察官が死亡するに至るかもしれないことを認識しながら、意に介さず、あえて同ペティナイフを同警察官に投げつける暴行を加え、もって同警察官の職務の執行を妨害したが、同ペティナイフが同警察官の所持した防御楯に突き刺さるにとどまったため、警察官殺害の目的を遂げなかった
ものである。
(法令の適用)
第1、第2の各事実について いずれも刑法204条
第3の事実について 刑法95条1項、203条、199条
(事実認定の補足説明)
1 付添人は、第1の事実について、少年が実行犯であることは否定しないが、単独犯ではなく、BとDの両名との共犯である旨主張し、本件第444号事件記録中の「申立書」には、少年、B及びDが事前にAを「しばこう」と話をした旨の記載部分があり、Aの警察官調書にも、同人が本件はBが仕組んだように思えてならない旨を述べた部分がある。
しかしながら、同記録によれば、上記申立書は、少年の精神状態が後記のとおり不安定であったため、本件についての少年の取調べが控えられていたところ、少年の父親から捜査機関に対し、父親において少年から聴取した内容を書面にしたとして送付されてきたものであるが、事情を聴取した時点での少年の精神状態が不明であるうえ、実行方法や役割分担といった具体的な共謀内容に関する記載もなく、BとDがそれぞれその警察官調書中で少年がAを殴打したことに驚いた旨述べていることに対比すると、申立書の上記記載部分は信用することができないものと言わざるを得ない。また、Aの警察官調書中の上記部分についても、同調書によれば、Aは、Bから呼び出されてBと話し込んでいたところを少年に突然殴りつけられたが、止めに入ったBと少年のやり取りを聞き、Bと少年が知り合いであると思って、上記のとおり考えたに過ぎないことが窺われるのであって、これをもって少年、B及びDが黙示的にでも共謀していたことの証拠とするには不十分であるところ、他に、少年ら3人が共謀したことを認めるに足りる証拠はない。
したがって、少年は単独でAに暴行を加えたものと認めるのが相当であるから、付添人の上記主張は採用しない。
2 付添人は、第2の事実について、少年は、本件非行当日の早朝に服用した薬物の影響で、記憶がなく、責任能力を喪失していた旨主張する。
そこで検討するに、一件記録によれば、少年は、平成15年7月ころからBと交際して性的関係を持ち、同年12月ころにBが妊娠したことを知ったが、その後、Bが少年に無断で妊娠中絶したことから、情緒不安定となり、平成16年2月には、Bが浮気をしていると感じて、自分の感情を制御できなくなり、家の中にあるものをひどく壊したうえ、同月19日に精神安定剤と風邪薬を大量に服用して自殺を図ったので、同日から同年3月19日まで医療法人○○会○○病院に入院したこと、少年は、同病院を退院後、自宅に戻って投薬治療を続けたが、薬を飲んだ振りをして、実際には飲まなかったり、Bと別れると言いながら、毎日のようにBと会うなどし、他方、Bも、精神的に不安定な面があって、少年の両親から少年と会わないよう頼まれたにもかかわらず、少年を呼び出して会ったり、少年の両親から別れさせられそうになったと少年に言いつけて、少年の感情を高ぶらせるなどしたこと、少年は、本件非行当日の早朝にBと電話をしていた際、Bから少年がBの携帯電話番号をインターネット上に掲載したと責められて口論となり、自殺するつもりで眠剤6錠とリボトリール(衝動性をコントロールするための薬剤)14錠を服用し、しばらく眠った後、同日午後2時過ぎころ目を覚まし、訪ねてきたBに自宅玄関前で暴行を加えて、本件第2の非行を敢行したこと、少年の病状等について、上記病院の担当医は、「行為障害」と診断し、精神病院での治療の限界を感じているが、責任能力は十分あると考えていること、以上の事実が認められる。また、鑑別結果通知書添付の精神科診断票によると、少年の診断名は「境界性人格障害の疑い」で、一過性の記憶障害に見られる解離性症状などの徴候が認められるとされている。
上記認定したところによれば、少年は、Bとの関係が悪化すると、自らの精神状態も悪化する関係にあったということができ、第2の非行当日は、Bと口論し、自殺を図るつもりで薬物を服用したほどであったから、相当程度感情が高ぶっていたものと推測される。しかしながら、少年は、第2の事実について平成16年4月30日に取調べを受けた際、当初は記憶がない旨弁解したものの、その日のうちに、Bに暴行を加えた状況から始まって、第2の非行後、自宅に戻り、包丁を3本持ち出して、妹に突き付けるに至ったことまでの概要を時系列に沿って供述したほか、自ら非行状況の再現をし、その後も、同年5月6日に、Bに暴行するに至った原因や、暴行を加えた「瞬間」の状況について、その大筋を供述しており、これらの供述や再現した非行状況は、Bの供述やB自身が再現した被害状況と概ね合致していて、少年の記憶は相当程度保たれているということができる(本件第548号事件記録中の少年の平成16年4月30日付弁解録取書及び各警察官調書、警察官作成の「傷害犯行状況の再現について」「傷害被害状況の再現について」と題する各書面、Bの警察官調書)。
これらを総合すると、少年は、非行当日の早朝に薬物を服用し、非行当時は感情が高ぶっていたとはいえ、非行当時、是非善悪を判断しそれに従って行動する能力を有していたことが明らかである。したがって、付添人の上記主張は採用しない。
3 付添人は、第2の事実について、Bの傷害部位が確認できないとも主張しているが、送致記録中の医師○○作成の診断書によって傷害部位は十分に認めることができる。したがって、付添人のこの主張も採用しない。
4 付添人は、第3の事実について、少年は警察官がほぼ全身を防御楯で覆っているのを確認してペティナイフを投げ付けたのであるから、少年には殺意がなく、また、本件現場に臨場した警察官の第一義的職務は少年の保護であるから、少年を保護する過程で、少年が警察官にペティナイフを投げ付けた行為は、公務執行妨害罪の構成要件に該当しない旨主張する。
そこで検討するに、本件第648号事件記録中の関係証拠によれば、少年は、第2の非行を敢行した後、少年の母親によってBと引き離されたが、母親が少年の手を離した隙に自宅に入り、台所から包丁を3本持ち出して、たまたま屋内にいた少年の妹に包丁を突き付け、屋内に入ろうとする母親に対し「近寄ったら殺すぞ。」等と言い出したこと、京都府○○警察署勤務の警察官である上記Cら数名の警察官は、母親から上記110番通報を受けて少年宅に急行し、屋内に入ったところ、少年は、2階の自室に立てこもっており(妹は既に少年の隙をみて屋外に逃げ出していた。)、やにわに自室のドアの隙間から包丁を突き出して警察官らを威嚇した後、ドアを開け、自室内で、両手に1本ずつ包丁を持ち、その刃を自らの頸動脈付近にあてて「来るな。首切って死ぬんや。来たら殺すぞ。」と叫んだり、腹部に包丁を突き刺す素振りをし、更に、包丁を捨てるよう説得する警察官らに対し「何人殺したら死刑になるやろなあ。警察官を全部前に並ばせえ。ポリ殺したら死刑になるやろ。」などと言って、包丁を投げつける素振りを繰り返したこと、Cは、このような少年の様子を見て、このままでは少年に自傷他害の虞れがあり、緊急に少年を保護する必要があると判断し、少年が自室のベランダ側から室内に入ろうとした警察官がいるのに気を取られた隙に、防御楯(ポリカーボネート樹脂製。厚さ8ミリメートル、横50センチメートル、縦80センチメートル)を携行して少年の部屋の中に入ろうとしたところ、少年は、これに気づいて急に反転し、右手に持っていた上記ペティナイフを頭上に振り上げて、少年の部屋の入り口付近にいたCに投げつけたこと、Cは、とっさにそれまで上端が肩付近までくるように持っていた防御楯を上げて、顔面や頭部を覆うようにし、そのため、ペティナイフは防御楯の上部中央付近に突き刺さって止まったこと、少年は、その後も他の包丁を警察官らに投げつけようとしたが、警察官らに制圧され、殺人未遂並びに公務執行妨害容疑により現行犯逮捕され、翌8日から同月23日まで再び上記○○病院に入院したこと、以上の事実が認められる。
上記認定したところによれば、本件に使用された凶器は刃体の長さ約13.0センチメートルの鋭利なペティナイフで、人体の枢要部に突き刺さった場合には十分な殺傷能力のあるものであるところ、少年は、そのような凶器であることを熟知しながら、これを、身体の枢要部で、かつ、その時点では防御楯で覆われておらず、無防備の状態にあったCの顔面付近をめがけて投げつけたものと推認することができる。したがって、少年にCに対する殺意がなかったとは到底考えられないが、他方、少年がCに恨みや憤りの念を抱いていたような事情はうかがえず、少年自身も、警察官に刺されば死ぬかも知れないと判っていながら、敢えて投げつけた旨述べていること(少年の平成16年4月7日付警察官調書)などからすると、少年が確定的な殺意を持っていたとまでは断定できず、少なくとも未必的な殺意をもってペティナイフを投げつけたものと認めるのが相当である。
また、以上の事実関係によれば、少年の挙動は警察官職務執行法3条1項1号にいう精神錯乱者を疑わせるに十分であり、少年には自傷他害の虞れがあると客観的に認めうる状況にあったことが認められる。したがって、Cが少年を保護しようとした行為は、警察官職務執行法に基づく保護行為としてなされたもので、適法な職務行為であり、公務執行妨害罪の構成要件に欠けるところはない。したがって、付添人の上記主張はいずれも採用しない。
5 付添人は、第3の事実についても、上記2と同様、責任能力を喪失していた旨主張する。
そこで検討するに、少年は、上記4で認定したとおり、第3の非行時には警察官職務執行法3条1項1号にいう精神錯乱の状態にあったものである。しかしながら、本件第648号事件記録中の関係証拠によれば、少年は、上記のとおり現行犯逮捕された際、警察官に包丁を投げつけたことは間違いない旨述べ、引き続き行われた取調べにおいても、包丁を警察官に投げつけたことを再度認めた上で、投げつけた理由は「最後の悪あがき」で、警察官に刺されば死ぬかも知れないと判っていながら、敢えて投げつけたが、そのときは何も考えておらず、「だから悪あがきと言ったでしょう。」とか、投げつけた包丁が楯に刺さったので「セーフ(…ほっ)です。」などと、本件犯行の動機や犯意、犯行後の心境について、簡略ながらも自らの言葉で述べているのであって(少年の平成16年4月7日付弁解録取書及び同日付警察官調書)、少年は、少なくとも犯行当日は、警察官にペティナイフを投げ付けたことを明確に記憶しており、また、殺人未遂に終わって安堵するなど、ある程度の規範意識を保持していたことも認められる。更に、少年の述べる「最後の悪あがき」という理由からすると、自宅に立てこもって警察官にペティナイフを投げつけたという本件の特異な経過も了解できないことではない。
そうすると、少年は、その後、Bに怪我をさせたことと、その後母と自宅に向かったことは覚えているが、それから翌朝までのことは、薬のせいで全く覚えていない旨述べ(本件第648号事件記録中の少年の平成16年5月17日付以降の各警察官調書)、当審判廷においても同様の供述をしているが、本件第3の非行当時、是非善悪を判断しそれに従って行動する能力を失っていたとはいえないと解するのが相当である。したがって、付添人の上記主張は採用しない。
(処遇の理由)
1 本件は、交際相手のBとトラブルを起こした男性に対する傷害(第1の事実)と、B自身に対する傷害(第2の事実)、並びに、Bを負傷させた後、自宅に立てこもって、包丁を持ち出し、駆け付けた警察官にペティナイフを投げ付けたという殺人未遂と公務執行妨害(第3の事実)の事案である。
2 少年は、Bとの交際が始まって以降、Bとの関係が悪化すると、自らの精神状態も悪化し、その行動や感情が制御できなくなって、衝動的な行動をとるようになってきた。少年には境界性人格障害の疑いもあり、その場の状況や対人関係によっては、少年は今後も衝動的な行為を繰り返すおそれが強い。したがって、少年の再非行を抑止するには、少年に本件各非行の重大さを認識させるとともに、このような障害や問題のあることも認識させ、適切な治療を受けさせることが不可欠である。しかるに、少年は、従来、自ら進んで治療を受けたり、積極的に問題の解決に向けて努力しようとする意欲に乏しかったのみならず、現在では、第3の非行について、薬のせいで記憶がない旨述べており、それが、責任回避ではなく、境界性人格障害に起因するものであったとしても、自らのやったことを正しく認識できないのであれば、そのような状態にある少年の要保護性は極めて高いと言わざるを得ない。なお、少年調査票によれば、少年がこのような状態になってしまった大きな要因としては、Bとの関係の悪化の他に、少年が、その成育環境の中で、自分の思いを表明して周囲に適切な助けを求めることが十分にできてこなかったこともあり、少年は自分の殻に閉じこもって我慢をする姿勢を身につけてしまうとともに、嫌なことから目を背けることによって、自分の落ちつかなさや安定のなさから逃げ出し、身を守ろうとしていたとの指摘がなされている。
3 少年の両親は、少年に適切な医療を受けさせるため、病院探しに奔走するなど、少年の監護に熱意を有しているが、少年の現状に照らすと、鑑別結果通知書にもあるように、両親が少年を支えていくことは困難であり、その監護能力には限界がある。また、少年は、平成15年9月5日に道路交通法違反(速度違反)保護事件により保護観察決定を受けたが、上記のとおり、入院を繰り返すなどしたため、保護観察機関による適切な指導を受ける状態にはない。
4 以上の諸点によれば、少年に対しては、社会内処遇で再非行を抑止することは難しいとみるべきであり、医療と矯正の両面からの適切な関与が可能な医療少年院において、専門医による投薬治療や精神療法などを施しながら、どのような理由があろうとも、他人を傷つけるような行為が許されないことを体得させることが不可欠であると判断する。
よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判官 生熊正子)
〔参考〕 抗告審(大阪高裁 平16(く)292号 平16.7.21決定)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
第1抗告の趣旨及び理由
少年の抗告の趣旨及び理由は、要するに、(1)少年は、殺人未遂及び公務執行妨害について、まったく記憶がないのであるから、その非行事実を認定した原決定には重大な事実の誤認がある、(2)少年は、殺人未遂及び公務執行妨害について、その記憶がないのであるが、これは責任逃れをしているのではなく、その余の傷害2件については十分反省をしている上、医療少年院に入院しなくても、社会内で両親の愛情の下で治療を受けられるのであるから、少年を医療少年院に送致した原決定は処分の著しい不当がある、よって同決定を取り消すことを求める、というものである。
第2抗告理由に対する判断
1 抗告理由(1)について
一件記録によれば、少年が、原決定が認定する殺人未遂及び公務執行妨害の非行事実に及び、その際、故意及び責任能力に欠けるところがなかったことが優に認められるのであり、この点について原決定に事実誤認はない。すなわち、少年が、自宅において暴れていたところ、これを取り押さえて少年を保護するために駆けつけた警察官に対して、ペティナイフ1本(刃体の長さ約13.0センチメートル)を投げつける行為に及んだという、殺人未遂及び公務執行妨害の外形的な事実関係については、原審付添人も争わず、証拠上明らかに認められるところである。そして、原決定が説示するとおり、本件ペティナイフが十分な殺傷能力を有していること、少年がそのような凶器の形状を熟知していたこと、少年がそのペティナイフを被害警察官の顔面付近に投げつけたことなどの事情を認定した上、少年において、確定的な殺意まではなかったものの、ペティナイフが被害警察官に刺さり死ぬかもしれないとわかっていながらあえて投げつけたという未必的な殺意を認定するところは正当であって是認されるべきである。また、逮捕時、その後の弁解録取時及び取調べ時においては、少年が犯行の動機、犯意、態様等について明確な記憶を有していたと認められること、その犯行態様も了解できないほど特異なものとはいえないことなどを説示した上、犯行当時、少年に責任能力が認められたと判断するところも正当であって、是認されるべきである。更に指摘すると、証拠によれば、少年は、犯行当時、被害警察官がヘルメットをとると、その警察官と顔見知りであったことから、「お前か」「ヘルメットかぶってるしわからへんかった」などと言って被害警察官が誰であるか認識していることが認められるのであり、このような言動に照らせば、少年が事理を認識する能力に欠けるところがなかったものと認められる。確かに、少年が犯行当時錯乱していたこと、一過性の記憶障害などの解離性症状等の徴候が存在することといった事情も認められるものの、これをもって前記の認定を妨げるものとは認められない。
そうすると、原決定には事実誤認は認められず、この点について、少年の抗告は理由がない。
2 抗告理由(2)について
本件は、少年が、交際相手の女性に迷惑をかけた男性に制裁を加えようと考えて手拳で殴打するなどして傷害を負わせたという傷害1件、交際相手の女性の携帯電話の番号をインターネット上に無断で流出させた旨同女から文句を言われたため、これに腹を立てて同女を手拳で殴打するなどして傷害を負わせたという傷害1件及び前記のとおりの警察官に対する殺人未遂及び公務執行妨害各1件の事案である。
原決定が処遇の理由の項で説示するところは正当であって是認されるものである。すなわち、少年には自己の行動や感情を制御できず衝動的な行動をとる問題性がある上、境界性人格障害の疑いもあり、将来も本件各非行のような衝動的行動に出るおそれがあること、そのためには少年自身にその問題性を自覚させ適切な治療を施す必要があること、その問題性の大きさやこれまでの治療が奏功していないことにかんがみると、もはや両親による監護では少年の更生を図ることが困難であること、少年は平成15年9月に保護観察処分を受けているが、自殺未遂を図ったり、本件各非行に及ぶなどして、保護観察所から適切な指導を受ける機会を自ら放棄していることなどの事情が認められるのである。そうすると、少年がそれなりに反省の態度を示して更生の意欲を見せていること、殺人未遂及び公務執行妨害について記憶がないと述べている点は解離性症状等の現れとして理解することが可能であって、必ずしも虚偽の弁解を弄して反省の態度を見せていないとして非難することまではできないことなどの事情を総合しても、少年を医療少年院に送致した家庭裁判所の判断は正しいのであって、その処分が著しく不当なものであるとは認められない。
したがって、この点についても、少年の抗告には理由がない。
第3適用法令
少年法33条1項
(裁判長裁判官 島敏男 裁判官 江藤正也 伊藤寿)