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京都家庭裁判所 平成17年(家)2443号 審判 2006年3月31日

申立人 A

相手方 B

参加人 C

未成年者 D

主文

相手方及び参加人は、申立人に対して、年1回、4月15日限り、未成年者の写真2葉(上半身の写っているもの1葉及び全身が写っているもの1葉)及び未成年者が通う学校の通知票の写し(当該送付の日から1年前までのもの)を送付しなければならない。

理由

第1申立ての趣旨

1  主位的な申立ての趣旨

(1)  相手方及び参加人は、申立人に対し、次のとおり未成年者に面接させる

ア 毎週1回、土曜日又は日曜日の午前10時から午後6時までの間の面接、又は、毎月2回、土曜日の午前10時から翌日曜日の午後6時までの間の申立人方における宿泊を伴う面接

イ 前項の場合、相手方は、午前10時に、○○駅(又は△△駅)において、未成年者を申立人に引き渡し、申立人は、午後6時に、○○駅(又は△△駅)において、未成年者を相手方に引き渡す

ウ ア項のほか、夏休み中に20日間、春休み中及び冬休み中に各5日間の申立人方における宿泊を伴う面接

(2)  相手方及び参加人は、申立人に対し、申立人が未成年者の学校の行事に参加すること及び申立人が電話で未成年者と適宜の会話をすることを許し、申立人が送った手紙、学用品等の品物を未成年者に渡す

との審判を求める。

2  予備的な申立ての趣旨

(1)  相手方及び参加人は、申立人に対し、未成年者が通学する京都府○○郡△△町立□□小学校において、毎月2回、同校校長の指定する日に、京都家庭裁判所所属の家庭裁判所調査官立ち会いのもとに、1時間程度、未成年者と面接交渉させる

(2)  相手方及び参加人は、申立人に対し、上記小学校における未成年者の学校行事に、申立人を参加させる

(3)  相手方及び参加人は、申立人に対し、上記小学校における(1)項の未成年者との面接交渉及び(2)項の学校行事への参加を、いずれも妨害してはならない

との審判を求める。

第2当裁判所の判断

1  本件記録及び関連事件記録(京都地方裁判所平成14年(人)第×号人身保護請求事件、大阪家庭裁判所平成14年(家)××号親権者変更申立事件及び大阪高等裁判所平成16年(ラ)第××号親権者変更審判に対する抗告事件)によれば、以下の事実が認められる。

(1)  申立人と相手方は、平成10年5月12日に婚姻し、同年×月×日に長女である未成年者をもうけた。

(2)  申立人は婚姻前の平成10年3月に約300万円の負債を抱えて自己破産し、免責決定も受けていたが、平成11年3月以降、無断で相手方の消費者金融カードを使用したり、相手方の友人等の氏名を冒用するなどして消費者金融から借金をした。平成13年7月中旬ころにこの事実が相手方に発覚し、相手方が関与してねん出した金(以下「本件返済資金」という。)でこの申立人の借金は返済することができた。

(3)  申立人と相手方は、平成13年7月26日、未成年者の親権者を相手方と定めて協議離婚の届出をしたが、申立人はその後も相手方と同居して未成年者を監護養育していた。

(4)  申立人は、平成14年7月7日、相手方が不在の間に、未成年者を連れて△△市○○区所在の申立人の両親宅に移り住み、以後未成年者は申立人及びその親族らの下で生活していた。

(5)  そのような中、相手方から申立人に対して人身保護請求がなされ、京都地方裁判所は、平成14年12月4日、未成年者の釈放と相手方への引渡しを命ずる判決をし、同日、未成年者は相手方に引き渡された。なお、前記人身保護請求に係る判決については、申立人が上告受理を申し立てたが、平成15年2月4日、最高裁判所は上告不受理決定をした。

(6)  申立人は、平成14年10月18日、未成年者の親権者を申立人とするよう求める親権者変更申立事件を大阪家庭裁判所に申し立て、大阪家庭裁判所は、平成15年12月25日、未成年者の親権者を相手方から申立人に変更する旨の決定をした。

(7)  前記のように平成14年12月4日に未成年者が申立人から相手方に引き渡された後、平成14年12月29日に相手方の父親が亡くなり、その通夜の際に申立人は未成年者に対面したが、それ以後現在に至るまで、申立人は未成年者と対面できておらず、電話等による間接的接触もなかった。

また、平成15年12月19日付けで相手方から申立人に対し、申立人を未成年者に会わせることについての申し出の手紙が送付されたが、申立人はこれに応答しなかった(この点につき、申立人は、本件調査において、既に大阪家庭裁判所で未成年者の親権者を相手方から申立人へと変更する審判が認容されていたにも関わらず、未成年者が今後も相手方の下で生活することを前提とする面接交渉の申し出はおかしいと思ったこと、親権者変更の審判通知を受けて急に相手方が起こした動きであること、金銭的要求を併記していること、未成年者との面接交渉にかこつけ申立人を呼び出したがっていることを疑ったことなどからである旨述べている。)。

(8)  平成16年10月8日に、大阪高等裁判所において、親権者変更審判に対する抗告審の決定が出た。同決定は、原審判を取消し、申立てを却下する内容のものであったため、未成年者の親権者は相手方であることとなった。

(9)  申立人は、相手方に対して、平成17年1月29日、申立人と未成年者の面接交渉を求める趣旨の調停を申し立て(当庁平成17年(家イ)第××号)、同調停については4回の期日が開催されたが、平成17年7月21日に不成立となり、本件に審判移行した。

なお、平成17年8月6日には、申立人は、相手方に対して、仮に面接交渉をさせることなどを求める審判前の保全処分の申立て(当庁平成17年(家ロ)第××号事件)を行っている。

(10)  相手方は、本件返済資金に関係して、平成17年8月ころ、京都地方裁判所に申立人を被告とする貸金請求事件を提起した(同事件の判決は、平成18年3月下旬に予定されていたところである。)。また、相手方は、平成17年11月4日に、申立人に対し養育料の支払いを求める審判を当裁判所に申し立てている。

(11)  申立人は、平成17年4月1日付けで損害保険会社の正社員となっており、週休2日で働き、手取りで約16万円から17万円の給与を得ているほか、賞与も得ている。

申立人は、乳腺に関する病気で経過観察を受けているほか、コンタクトレンズを使用している関係で眼科での検査を受けているが、健康上特に大きな問題は見当たらない。

(12)  相手方は、平成16年10月ころから参加人と同居しており、平成17年12月24日に相手方と参加人は婚姻届出を終えた。参加人は、現在既に従前の氏から現在の氏であるCに氏の変更を済ませており、平成18年3月27日には、未成年者を養子とする届出も済ませた。

なお、参加人は、平成18年5月に相手方との間の子を出産する予定である。

相手方は、その実父から引き継いだ会社を、自宅を事務所として経営しており、同会社から給料として月額15万円を受け取っている。相手方は、参加人及び未成年者と同居し、3人分の生活費を前記会社からの給料から支出している。

相手方の父の妻であったEは、平成16年1月14日に日本への永住許可を取得したが、平成16年11月ころから韓国に帰っており、基本的には韓国で生活するようになってきている。

参加人が同居するようになってから、食事の世話、学校の準備や未成年者の勉強の指導は参加人が中心にするようになり、相手方は仕事と育児を両方担っていたころから比べると楽になってきている。相手方の休日は日曜日だけだが、相手方、参加人及び未成年者の3人で外出している。

(13)  最近は、参加人が未成年者に対してその日の出来事を尋ねており、相手方は未成年者に対して、重点を定めて指導をしており、参加人も具体的な項目を挙げて未成年者に対するしつけの方針を考えている。

未成年者は、平成14年12月4日に前記人身保護請求が認められて以後は、相手方の実家(現在の住所)で主として相手方の監護を受けて生育し、平成15年4月からは△△町立□□小学校に通学している。

未成年者は、前記小学校には嫌がらず通っており、平成17年5月から相手方の勧めにより週3回空手を習っている。未成年者は、学校及び家庭で明るく生活している。

(14)  当庁家庭裁判所調査官が行った未成年者に対する面接調査の結果は以下のようなものであった。

未成年者は、申立人のことを覚えているかという旨の質問に対して「覚えている。顔は覚えていない。髪の毛が黄土色、茶色だったことは覚えている。」と答え、申立人と一緒にしたことについての質問には、「お母さんが何かしてきたとき。三階で遊んだ。小さいころ。」と答え、申立人のことについては「思い出すことあまりない。」と答えている。また、申立人に対して会いたいと思うことについては「ある。」と答えつつ、そのようなときに相手方に言うかという質問については、「話しない。」と答え、言っても喜ばないからか、との質問には「うん。」と答えている。「ママがDちゃんに会いたいと言ったらDちゃんはどうする。」との質問には「会うの嫌。」、「Cちゃんのお腹に赤ちゃんがいる。あんなところに居ったら赤ちゃんが育たないと思うから。大人になったら考えると思うけど。」と答えている。

未成年者は、参加人のことを「Cちゃん」と呼んでいたが、家庭裁判所調査官が行ったテストの中で、状況によっては「お母さん」と呼んでいる(実際に調査官面接以外の場面で最近は未成年者が参加人のことを「お母さん」と呼ぶことが出てきている。)。

なお、相手方の言によれば、同人は未成年者に対して、申立人を思い出させるような話はしておらず、1年ほど前ころに未成年者に、申立人に会いたいか質問したところ、未成年者は「いい。」、「行かへん。」と応答したとのことであり、また、家庭裁判所調査官が面接する前日に「申立人に会いたいか。」と未成年者に尋ねたが、未成年者は、家庭裁判所調査官に対してした回答と同趣旨の回答を相手方に対してもしたとのことである。

(15)  なお、申立人は、平成17年9月15日付けの上申書2において、学校での面接交渉に関連する主張の中で、試行的面接交渉をしないよう当裁判所に求めている。

2  以上を前提として判断する。

(1)  未成年者の住所地が日本にある本件においては、日本の裁判所に国際裁判管轄が認められる。また、本件においては、法例21条により準拠法は子の本国法となると解され、日本国籍と韓国籍を有すると解される未成年者の本国法は法例28条1項により日本法となるから、結局日本法が準拠法となる。

(2)  前記認定のように、相手方と参加人が既に名実共に夫婦としての生活を開始しており、未成年者と参加人との養子縁組も既になされ、未成年者も既に相手方及び参加人の子として家族共同生活を送るようになっており、現在の未成年者の心身の状態に特に問題は見当たらない。

ただし、未成年者と参加人との心理的な結び付きが実親子間のものと実質的に同等といい得るほど強固なものとなっているとまでいうことはできない。

このような状況を前提とすると、現時点においては、未成年者を取り巻く保護環境を乱すことを避ける観点から、申立人の未成年者に対する面接交渉が制約を受けることはやむを得ないものといえる。

(3)  次に未成年者の面接交渉に対する意向について検討する。

前記のような家庭裁判所調査官との面接の際の回答状況等からみたとき、現在の未成年者は、申立人に対する思慕の情がなくなったわけではないが、申立人と会うことは否定する意向を述べている。ただしこれについては相手方及び参加人に対する配慮等の複雑な感情が影響しているとみることができる。このような相手方及び参加人に対する複雑な感情の影響があるとみられることを考えると、前記のような未成年者の意向表明を過大に評価するべきではないが、一方、既に就学している未成年者が、参加人が妊娠している子のことを申立人の生活環境に関係させて具体的な理由を一応述べ、大人になったら考えるという将来の展望も付け加えて述べていることからすれば、未成年者なりに現在の自らの置かれている状況を理解しつつ一応の判断をしているものとして、一定の重みがある意向表明であるととらえるのが相当である。

(4)  また、申立人と相手方との間には、前記認定のように従前様々な態度での係争があった上、少なくとも本審判直前まで係争状態が継続しているのであり、そのような申立人及び相手方との関係の中で面接交渉を行うことによって、これまで係争に巻き込まれてきた未成年者の心情の安定を乱すおそれはないとはいえない。

(5)  以上の事情その他本件に関する事情を総合考慮すると、少なくとも現時点においては、申立人の未成年者に対する面接交渉の実施は、未成年者の福祉の観点から問題が大きいというべきであり、認めることは相当ではない。

なお、申立人は、電話での会話や、申立人から未成年者へ送付した手紙、学用品等の引渡しについても申立ての趣旨で求めているが、前記のような事情(特に未成年者と参加人との関係が、問題があるとまではいえないが未だ強固なものとはいい難いものであること)からすれば、申立人が求めているこれらの態様による接触も少なくとも現時点では相当ではないというべきである。

また、申立人が求めている学校における面接交渉や学校行事への参加は、学校の理解と協力なしには実現できないものであるが、前記のように最近まで紛争状況にあった申立人及び相手方との関係等の事情を考えると、学校に継続的にそのような負担を強いることは妥当とはいえず、このような学校における面接交渉や学校行事への参加も現実的な方策とはいい難い。

(6)  ただし、前記のような未成年者の意向や申立人に対する思慕の情がなくなってはいないこと等を考えると、将来的には未成年者自身が明確に申立人との面接を希望する意思を表明するようになる可能性も十分あるのであるから、同人の現状に関する一定の情報を申立人に与え、将来の申立人と未成年者との面接を円滑にすることは、未成年者の福祉のためという観点から十分意義のあることであるといえる(相手方は、家事審判官審問において、写真及び通知票の写しの送付については申立人のためとしか考えられない旨述べているが、前記のような意義があることからすればこの点についての相手方の認識は正確なものとはいい難い。また、相手方及び参加人は、申立人の過去の言動をとらえ、申立人の人格上の問題点を指摘しているが、本件に現れた一切の事情を考慮しても、申立人と未成年者の面接交渉を将来的に完全に禁ずべきまでの事情はうかがわれない。相手方及び参加人には、少なくとも将来に向かっては、未成年者の申立人に対する感情等についての理解を深めていくことが期待される。)。

そこで、主文記載のような写真及び通知票写しの送付を相手方に命ずるのが相当である。

(7)  その他、当事者双方が主張している点を検討しても、前記のような判断を覆すに足りるものは見当たらない。

(8)  よって主文のとおり審判する。

(家事審判官 三上潤)

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