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京都家庭裁判所 平成21年(少)675号 決定 2009年6月26日

少年

A (平成4.○.○生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は,

第1  Bと共謀の上,援助交際と称し,金銭の対償を約束して少年と性交する成人男性に対し,それを口実として因縁をつけて金員を喝取することを企て,平成20年11月27日午後9時5分ころ,a市b区c町d番地eコンビニエンスストア××駐車場において,少年の性交の相手となったC(当時43歳)に対し,Bが「俺の女に何すんねん。どやねん。車の中に入れんかいや。」等と大声で怒鳴り,Cが運転する軽四輪乗用自動車の後部座席に少年とともに乗り込み,同所からa市b区c町g番地a市上下水道局××路上までの同車内において,Bが,Cに対し,「こいつはまだ16歳やぞ。」等と申し向け,少年も「前にやった奴は,警察に捕まったんやで。」等と申し向け,さらに,Bが「お前の人生めちゃくちゃにしたろか。誠意を見せてくれるか。」等と語気鋭く申し向けて,暗に金員を要求し,もしその要求に応じなければ,その身体に危害を加えるような気勢を示して,Cを畏怖困惑させ,よって,同日午後9時33分ころ,同区f町g番地eコンビニエンスストアh店内において,Cから現金20万円の交付を受けて,これを喝取した

第2  B,D,E,Fと共謀の上,援助交際と称し,金銭の対償を約束して少年と性交する成人男性に対し,それを口実として因縁をつけて金員を喝取することを企て,同年12月5日午後10時55分ころから同日午後11時15分ころまでの間,a市b区c町i番地h店駐車場において,同所に駐車中の普通乗用自動車内にいたG(当時45歳)に対し,Bが同車内の少年を指し,「この子16やで。援交やろ。」「警察に電話すんで。」「あんたの人生めちゃめちゃになるで。」等と語気鋭く申し向け,Dが携帯電話を架ける素振りをして,暗に金員を要求し,もしその要求に応じなければ,その身体,名誉に危害を加えるような気勢を示して,Gを畏怖困惑させ,金員を喝取しようとしたが,同人が警察に通報したため,その目的を遂げなかった

ものである。

(法令の適用)第1の事実 刑法60条,249条1項

第2の事実 刑法60条,250条,249条1項

(処遇の理由)

1  本件は,2名共犯で,少年の援助交際の相手方となった男性から,いわゆる美人局の形態により,金員を脅し取った恐喝既遂の事案及び,5名共犯で,同様の態様により,金員を脅し取ろうとしたが,その男性が警察に通報したため,目的を遂げなかったという恐喝未遂の事案である。

その非行態様は,いずれも少年が売春行為に及んだ上,その売春行為の相手となった男性の弱みに付け込み,金員を得ようとする卑劣なものであり,暴力団まがいの悪質なものである。少年は,Eらから,繰り返し援助交際を強いられ,その援助交際により得られた利益も,すべて収奪される状況下,本件各非行がなされており,少年は,ある意味被害者といえなくはない(判示第1,第2の非行の際,援助交際で得られた金員及び,判示第1の非行により脅し取った20万円のうち,Bから分け前として得た2万円は,すべてEに渡している。)。しかしながら,後記2のとおり,少年は,保護観察中であったにもかかわらず,共犯少年らとの関係を解消することなく,安易に本件各非行にかかわり,判示第1の非行においては,自らも被害男性に対し,「前にやった奴は,警察に捕まったんやで。」等と言って脅しており,本件各非行にかかる少年の責任は重い。

2  少年は,中学1年生時までは問題行動がなかったが,中学2年生時に友人関係が変わったことで,万引き,喫煙,夜遊びを繰り返すようになり,中学3年生時には,原動機付自転車の無免許運転をするようにもなった。そして,少年は,平成18年3月及び同年8月に,万引きで検挙された(いずれの事件も,審判不開始の決定を受けた。)ものの,その後も万引きを重ね,高校1年生時の平成19年7月に万引きをしたことにより,当裁判所において,同年11月29日,保護観察決定を受けた。

ところが,少年は,平成19年10月に高校を中退した後,友人宅で寝泊まりするようになっており,同保護観察決定後も,その状況は変わらず,就労も長続きしないまま,平成20年9月ころからは,保護司のもとへの定期的な来訪も途絶えている。そして,同年9月ころから,少年は,援助交際を始めるようになり,同年6月に通学し始めた通信制高校も,怠学するようになった。そのため,保護観察官が,少年に対し,出頭を指示して指導するも,その指導の効果は上がらずに,少年は,本件各非行に及んでいる。そしてその後,少年は,保護観察官からの出頭指示にも応じなくなり,平成21年4月21日,判示第1の非行により,通常逮捕されるに至っている。

さらにまた,少年は,不良交友の中で,平成19年冬ころからシンナー吸引をするようになり,その後,大麻を吸ったり,赤玉,MDMAといった薬物も服用するようになり,本件各非行により逮捕勾留されたり,観護措置がとられる中で,薬物乱用による後遺症状と思われる幻視,幻覚等がみられるようになっている(少年は,少年鑑別所に収容されて,投薬治療を受けたこと等で,症状は,ある程度改善されたが,引き続き投薬治療が必要な状況にある。)。

3  少年は,年齢に比して精神発達,社会性ともに未成熟で,自己統制力や欲求不満耐性に乏しく,衝動性傾向があり,抑止力が不足しており,周囲への甘えや依存心の強さが目立つ,自己中心的な性格である。そのため,自主性,主体性が求められる社会的な場面では,現実吟味力や現実検討力が弱く,周囲の状況や自分の置かれている立場を考えて主体的に行動することができずに,その場の状況や雰囲気に容易に流されて,人に左右されたり,利用されたりしやすい。

少年が,本件各非行に安易に荷担したり,Eらから利用されるがまま援助交際を続けていた背景には,少年の上記性格ないし行動傾向が影響している。

4  少年の依存性が強い等の上記性格傾向から,少年は,妹に周囲の関心が向くことに不満を溜めていたものの,これをうまく言語化できず,いい子にしていることで,周囲の歓心を買っていた。ところが,少年は,中学2年生時から万引きを繰り返すようになったり,リストカットも繰り返すようになっている。これらの行為は,親に注意や関心を向けさせるためのサインであったとも考えられる。

しかし,少年の父は,口べたで,暴力を振るって少年の問題行動を押さえ込もうとしたため,かえって少年の反発を招いている。一方,少年の母は,少年の寂しさを感じつつも,これにうまく対処できないままであり,平成20年8月ころには,少年の携帯電話のメールを見て,少年がEらから金員を要求されていることを感じ取り,少年に対して,金を取られているのではないかと問うてはいるものの,これを少年が否定すると,それ以上の追及はせず,その後はかえって,少年を放任するような状況となっている。

ただ,少年の母は,平成21年2月ころにも,少年が金を取られているのではないかとして,少年を追及し,その際には,少年が,母に対して,金を要求され続けていた旨を正直に話している。しかしその後も,少年は,年長者の求めに応じて,援助交際をした上,恐喝行為に荷担し,援助交際で得た金員も,その年長者に渡しており,少年の母の上記対処が,少年の非行の歯止めになっていない。

上記のような父母における,少年に対する監護の不十分さも,少年が非行を繰り返す背景となっている。

また,少年自身,父母に対して甘え,依存したいと思う一方,反発してしまい,現実検討力の乏しさゆえに,表面的に甘えさせてくれる年長の不良者に依存し,不良交友を続けて,薬物にも依存する状況となっている。

5  上記のとおりの,本件各非行の悪質さや,その責任の重さ,保護観察の状況を含む,本件各非行に至る経過,少年の性格特性や行動傾向,薬物使用の内容並びに保護者の監護状況等を総合考慮すると,現在,少年には更生に向けての意欲がみられ,また,父母にも,従前の監護のあり方について問題があるとの認識が芽生えつつあり,親子間の関係改善の兆しもみられるものの,少年の社会内処遇は相当とはいえず,少年を矯正施設に収容し,本件各非行の責任の重さを認識させるとともに,少年の性格特性等に配慮しながら,少年が非行を繰り返したり,薬物に依存を深めていった状況を内省させて,不良交友並びに薬物使用の断絶の意思を確固たるものとさせ,加えて,少年自身が周囲からの悪い影響を受けることなく,自律的,主体的に判断し,行動する力を身に付け,社会適応力を高めていく必要があると判断される。

そして併せて,少年の父母に対しても,少年との面会の機会等を通して,少年の思いをくみ取りながら,少年との間で,円滑にコミュニケーションを図ることができるようになることが,真の意味での少年の更生にとって不可欠であることを認識させるよう,少年院での働きかけがなされることが望まれる。

6  以上の次第で,少年を中等少年院に送致することとし,少年法24条1項3号,少年審判規則37条1項を適用して,主文のとおり決定する。

(裁判官 野中百合子)

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