京都家庭裁判所 昭和33年(家イ)331号 審判 1958年12月27日
申立人 沖正子(仮名)
相手方 小山武尚(仮名)
主文
相手方は申立人に対し金一〇万円を支払わなければならない。
理由
申立人は相手方に対し相手方の責に帰すべき事由によりて相手方と離婚せざるをえなくなつたことおよび婚姻生活中における精神的肉体的苦痛を原因として慰藉料の支払を求めて調停を申し立てたので当裁判所は数度に亘り調停委員会を開き調停成立に努力したがその成立をみなかつた。
ところで申立人および相手方の審問、証人前島貞、同田中新三、同沖千恵の尋問の結果、当裁判所調査報告書(昭和三三年七月九日付、同年一〇月八日付および同月二九日付)調停調書ならびに当裁判所昭和三三年(家イ)第三三〇号離婚等調停事件の当事者の戸籍謄本の各記載を総合すれば申立人と相手方は昭和一九年○月○○日結婚式を挙げ爾来比較的最近まで同棲しその間昭和二〇年○月○○日婚姻届をなし三児をあげたものであるが両名ともかなり強情な性格で殊に相手方は絶対に自己の信ずるところを曲げず両者は性格の上で調和せず風波がたえず、相手方が申立人に対し暴力を振うことも稀でなく(その場合申立人も之に応じ実力に訴えたこともあつたようであるが)とくに相手方が酒気をおびているときは申立人に対し加えられる暴力の度が甚だしかつたものであるが相手方は昭和二八年頃から女遊びがはげしくなり昭和三二年一〇月頃からは平沼某女と関係をもち同女の許に入り浸るに至つて申立人相手方間の結婚生活は破綻を来し、ついに昭和三三年一〇月一三日当裁判所において両名は同日限り調停離婚し両名間の未成年者三名の親権者を相手方とし同人において監護養育することとなつてしまつたことが認められる。
これによつてみれば両名の離婚のやむなきに至つたことについては相手方に責任があると考えられるところ相手方は申立人が当裁判所に対し申し立てた離婚、親権者指定等の調停事件においては調停委員会のあつせんにより申立人との間に合意をなし調停を成立せしめることとしたのであるがこの離婚を原因とする本件慰藉料請求については上記の如く理由があるにも拘らず全然その支払をなすことを肯んじないものであること、ならびに当裁判所構内において申立人を殴打した相手方の行為に鑑み家庭内における相手方の態度がさこそと察せられることに鑑み調停は成立しなかつたがなお審判をもつて本件を解決するのを相当と認め調停委員露木竹次、同中村つなの意見をきき当事者の財産収入の状況、申立人の健康状態(一方の腎臓は結核のため摘出されており又膀胱炎を起し易いので通常人と同程度の社会的活動をなすことは不可能な状態)、両名間の未成年者三名はすべて相手方に引き取られていること等の事情を参酌し相手方は申立人に対し慰藉料として金一〇万円を支払うべきものと認め、家事審判法第二四条により主文の通り審判する。
(家事裁判官 奥田英一)