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京都家庭裁判所 昭和38年(家)2309号 審判 1963年12月26日

申立人 沖山治子(仮名)

相手方 沖山勇(仮名)

主文

相手方沖山勇は申立人沖山治子に対し昭和三六年一一月以降同人等の別居期間中一ヶ月金一万五千円ずつを毎月一日限り(本審判確定の日以前の分は同月末日限り)申立人に送金して支払え

理由

本件申立の要旨は、申立人と相手方とは昭和三三年二月結婚式を挙げ、同年四月一一日婚姻の届出をなし、同年一一月二五日両名の間に長女一子が出生したのであるが、夫婦不和のため昭和三五年三月申立人は長女を伴つて相手方と別居するに至り、現在に及んでいる。相手はその別居に当り、申立人と長女との生活費として毎月金四万円を申立人に支払うことを約束したが、その後二回程その金額を送金し、その後は申立人に断りもなく金一万五千円に減額して昭和三六年一〇月まで毎月送金して来たに止つている。申立人としては長女と共に自活するため月額金四万円程度を要するので、相手方に対し同額の婚姻費用の支払いを求める、というのである。

当裁判所は当事者の提出した諸資料および職権により調査した結果を綜合して認められる諸般の事情、特に申立人、相手方または長女の資産、負債、収入、生活の状況、当事者間のこれまでの経緯を考慮し、申立人及び長女に対する婚姻費用分担として相手方に主文記載のとおりの金員の支払を命ずることを相当と認める。以下特に考慮に容れた事情について説明を附加する。

一、申立人と相手方とは婚姻以来二年で別居するに至つたものであるが、その別居については申立人側の責に帰すべき事由は殆ど認められない。しかも相手方は昭和三六年四月申立人を相手どり離婚訴訟を提起し(京都地方裁判所昭和三六年(タ)第六号事件)、同訴訟は昭和三八年四月三〇日原告(相手方)の請求棄却の判決言渡があり、同判決は同年六月八日に確定した程であつて、申立人と相手方との夫婦関係は殆ど調整の余地はないが、一方協議離婚が成立する見込もないものと認められるのであるから、別居状態すなわち婚姻費用分担を要する状態は今後長期にわたるものといわざるを得ない。

二、相手方は映画俳優であつて、その仕事に繁閑があり、出演による収入は一定せず、その実収入の全体を把握することはかなり困難であるばかりでなく、その生活態様殊に経済的な面についてもまた負債関係についても、その実体を知ることは具体的調査の及び得るところではない。ただその収入関係について概略を把えて判断の基礎とする外はない、まして将来にわたつてその職業や経済の関係を予測することは不可能であるから、今後生活の諸条件が変化しても相手方が婚姻費用分担として確実に支出し得ると認められる程度の額を考慮した結果裁判所は平均月一万五千円を相当と認めたものである。

三、申立人は別居以来実父の庇護の下に生活し、実父の好意によるものとはいえ若干の収入があつたのであるが、今後別居状態が続くとすれば、申立人は職業に就く能力を有しているのであるから、職を求めて収入を図るのが相当であり、従つて将来申立人自身の生活費および長女の養育費の一部を自ら負担することも考慮に容れられることである。申立人等の生活費支弁のため相手方から受ける額として月一万五千円程度では十分であるとはいえないが、諸般の事情を考え合わせ、申立人としてはこの程度で甘んずる外はない。

四、しかし申立人の主張のとおり、相手方は申立人等と別居するに当り昭和三五年三月九日付の相手方から田中良男(申立人の実弟)宛の書面により申立人および長女の月々の生活費として四万円を送金する旨の約定をなし、この約定はその後二ヶ月位相手方から送金があつたことは認められる。この約定は申立人と相手方との間の婚姻費用分担の契約と解せられるものであつて、もとよりその約定は存続する限り有効である。申立人はこの契約に基きその履行を請求することができるのであるが、家庭裁判所に対しこの契約に基く請求権の確認またはその履行請求について審判を求めることはできない。また婚姻費用分担請求の申立をする以上は、家庭裁判所はその約定に拘束されず、独自に相当額の判定をすることは当然である。ただ、家庭裁判所がその審判を下した場合約定による請求権の効力如何が問題となり得るのであるが、当裁判所は審判により給付が定められた範囲以上に婚姻費用負担が約定されている場合は、その超過する部分について約定による請求権を行使することを妨げないとの解釈をとり、本審判したものである。

五、本件婚姻費用分担の請求は昭和三六年二月九日当裁判所に申立てられたのであるが、前記約定の一部履行として相手方から昭和三六年一〇月まで本審判と同額の月一万五千円の送金がなされているので、その翌月から以降について婚姻費用の負担を命じた。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 城高次)

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