京都家庭裁判所宮津支部 平成16年(家)408号 審判 2006年10月24日
主文
1 相手方Cの寄与分を2808万0970円と定める。
2 被相続人の遺産を次のとおり分割する。
(1) 申立人は別紙株式目録1のうち1000株,同目録4のうち2500株,同目録5のうち2023株,同目録6のうち2000株,同目録9のうち2000株,同目録15のうち1株の各株式を取得する。
(2) 相手方Bは別紙株式目録1のうち1000株,同目録5のうち2000株,同目録6のうち2000株,同目録8のうち457株の各株式を取得する。
(3) 相手方Cは別紙株式目録2,3,7及び10ないし14の各株式,同目録1のうちの1960株,同目録4のうちの3000株,同目録5のうちの2800株,同目録6のうちの5629株及び同目録15のうちの1株の各株式,別紙土地目録記載の各土地並びに別紙建物目録記載の各建物を取得する。
(4) 相手方Cは,申立人に対し上記(1)の各株式に係る株券を,相手方Bに対し上記(2)の各株式に係る株券を,それぞれ引き渡せ。
3 相手方Cは,上記2(3)の遺産取得の代償として,申立人に対し147万9312円を,相手方Bに対し537万3135円を,本審判確定の日から3か月以内に,それぞれ支払え。
4 本件手続費用は各自の負担とする。
理由
1 相続の開始,相続人及び法定相続分
本件記録によれば,次のとおり認められる。
(1) 被相続人は平成14年×月×日死亡し,相続が開始した。
相続人は,被相続人の長女であるD,二女であるH(平成16年×月×日死亡)の夫である相手方Eとその長女である同F,被相続人の四女である申立人,長男である相手方C,五女である同Bである。
(2) 上記各相続人の法定相続分は,申立人,D,相手方C,同Bが各5分の1,E及びFが各10分の1である。
2 相続分の譲渡
D,E及びFは,いずれも平成16年×月×日付け相続分譲渡届出書をもって,それぞれの相続分を相手方Cに譲渡する旨の意思表示をした。
したがって,相手方Cの相続分は5分の3となった。
3 遺産の範囲
(1) 本件記録によれば,別紙土地目録記載の土地(以下「本件土地」という。),別紙建物目録記載の建物(以下「本件建物」という。)及び別紙株式目録記載の株式(以下「本件株式」という。)が相続開始時,被相続人の遺産に属していたことが認められる。
(2) 申立人は,相手方Cが,被相続人の預金通帳と印鑑を預かっており,何年間にもわたって被相続人の預金を引き出していた旨主張するが,上記申立人主張の事実を認めるに足る証拠はない。なお,本件記録によれば,被相続人名義の郵便貯金(記号○○○○○,番号○○○○○○○。相続開始時の残高は420円)及び○○銀行○○支店普通預金(口座番号○○○○○。相続開始時の残高579円)が存することが認められるが,当事者間において,これらの預貯金を本件遺産分割の対象とする合意はないから,これらは本件遺産の範囲には含めないものとする。
(3) また,申立人は,本件土地から生じる地代の相続開始後4年間の合計額が227万7988円であり,同期間の株式配当の合計額が152万4126円である旨主張するが,これらについても,当事者間で本件遺産分割の対象とする合意がないから,本件遺産の範囲には含めないものとする。
4 特別受益
(1) 相手方Cの特別受益
ア 申立人は,相手方Cが中学入学から大学卒業まで○○市内で過ごした学費合計765万円,下宿費1000万円(1年分を100万円として10年分)を特別受益として持ち戻すべきであると主張する。
この点,本件記録によれば,相手方Cは,昭和6年×月×日に出生し,昭和19年4月○○市内の○○大学○○中学校に入学し,叔父宅に1年間寄宿した後,10年間○○市内で下宿生活を送り,昭和29年3月○○大学法学部を卒業したことが認められる。
しかし,他方で,申立人は,昭和4年×月×日に出生し,昭和21年3月に高等女学校を卒業後,○○師範学校に進学し,昭和24年3月に同校を卒業したこと,また,相手方Bは昭和10年×月×日に出生し,昭和29年3月に○○高校を卒業した後,○○市内で申立人と同居し,昭和30年4月に○○短期大学に入学したこと,また,D(大正12年×月×日生)も師範学校を卒業し,H(大正14年×月×日生)も高等女学校を卒業したことが認められ,かかる進学状況に照らせば,当時において,相手方Cのみが他の姉妹に比して高等教育を受けたということはできない。
したがって,同相手方の学費及び下宿費について特別な受益と解することはできず,この点に関する申立人の主張は採用できない。
イ また,相手方Bは,被相続人が昭和38年ころまで相手方Cの生活費を負担していたのでその相当分が相手方Cの特別受益に当たる旨主張し,申立人は,相手方Cと被相続人の同居期間48年間の住居費及び主食費の合計8640万円を相手方Cの特別受益として持ち戻すべきである旨主張する。
この点について,本件記録によれば,相手方Cは,上記大学卒業後,昭和29年4月から被相続人と同居し,昭和33年に婚姻した後も引き続いて本件建物で被相続人と同居していたことが認められるが,他方で,相手方C及びその妻はいずれも小学校の教員として稼働し,給与収入を得ていたと認められるから,被相続人が相手方Cの生活費を負担していたと直ちに認めることはできない。
また,本件記録によれば,相手方C及びその家族は本件建物に無償で居住し,また,本件土地で生産された農作物等を無償で消費していたことが認められるが,被相続人が,その意向に従って同居する相手方Cの家族にかかる無償利用を許していたものと認められるから,これらの利益については特別受益として持ち戻すべきものには当たらず,上記申立人及び相手方Bの主張は採用できない。
ウ 以上によれば,相手方Cについては特別受益として持ち戻すべき贈与は存しない。
(2) 申立人及び相手方Bの特別受益
ア 相手方Cは,申立人,相手方B,D及びHが昭和62年に被相続人から500万円相当の株式の譲渡を受けた旨主張する。
この点,本件記録によれば,被相続人から,昭和62年の同人の米寿祝の際に,申立人が○○電鉄株式1000株及び□□電鉄株式2000株を,相手方Bが□□電鉄株式3000株を,Hが○○百貨店株式3000株を,Dが○○電鉄株式3000株を,それぞれ贈与されたことが認められる。
しかし,他方で,相手方Cも,昭和43年に被相続人から○○株式3000株の贈与を受けていることが認められ,この点を考慮すると,上記申立人及び相手方Bらが株式の贈与を受けたことを,特別な受益と評価することはできない。
イ また,申立人は,相手方Bが昭和34年に○○市に家を建てた際に,被相続人から費用を負担してもらっており(申立人が昭和60年に○○市の物件を購入した際には被相続人から援助を受けていない),その相当額が同相手方の特別受益に当たる旨主張するが,申立人主張の援助及びその金額を認めるに足る証拠はない。
ウ 以上によれば,申立人及び相手方Bについても持ち戻すべき特別受益はない。
5 寄与分
(1) 相手方Cは,「同相手方は,被相続人の死亡時まで同居をし,被相続人の農業を若いころから手伝い,昭和38年×月×日に被相続人の妻が死亡してからは,同相手方夫婦が生活の面倒を見ていた。平成6年以降は,被相続人は認知症となって暴力を振るうようになり,平成10年ころからは至る所で失禁,失便するなど,症状が重くなり,平成12年には要介護2級の認定を受けるに至った。また,同相手方は,被相続人のために,別紙『相手方Cの支出一覧表』の『主張金額』欄記載のとおり,合計4830万1509円の金員を支出した。」旨主張して,寄与分を定める処分の申立てをし,これに対し,申立人は「相手方Cは公務員で農業従事者でなく,また,被相続人はその生前ほとんど健康であったため,相手方C夫妻の勤務や行動が束縛されることはなかった。逆に相手方Cの家族は被相続人から住居や食料の提供を受け,子の養育援助まで受けていたから,相手方Cが被相続人と長期間同居し,その妻が炊事や洗濯等をしていたとしても,同居人としての相互扶助の域を出ない。また,被相続人の療養看護で付添人を必要とした期間はわずかであり,特別養護老人ホームのデイサービスを受けるための送迎も相互扶助の範囲内の行為である。」旨主張し,相手方Cの寄与は認められないとして争うので,以下,検討する。
(2) 本件記録によれば,次の事実が認められる。
ア 被相続人は,小学校卒業後,農業に従事し,大正12年に妻と婚姻し,同年にDを,大正14年にHを,昭和4年に申立人を,昭和6年に相手方Cを,昭和10年に同Bをもうけ,その後は養蚕の地区組合長や村会議員,農協専務理事等を務めた。D,H,申立人,相手方Bはそれぞれ教員等として稼動し,Dは昭和21年に,Hは昭和22年,申立人は昭和32年に,相手方Bは昭和34年にそれぞれ婚姻した。
イ 相手方Cは,大学卒業後,昭和29年4月に教員として○○小学校に赴任し,被相続人夫婦と同居を始め,その後は○○地方の小学校に勤務する傍ら,休日には被相続人の農作業を手伝った。同相手方は,昭和33年に婚姻し,その妻は小学校に勤務するとともに家事をこなした。相手方Cは,被相続人の妻が昭和38年に死亡した後も引き続き被相続人と同居生活を続け,平成3年に○○町教育委員会を最後に退職した後は,臨時職員として勤務し,その後,平成16年3月まで○○町教育委員会教育長を務めた。
ウ 被相続人は,自己の農業収入や地代収入については株式の投資に充てるなどした。
他方で,相手方Cは,平成3年ころから,別紙「相手方Cの支出一覧表」4ないし13,16ないし33の「認定」欄記載のとおり,本件土地及び本件建物の取得,維持,改良に係る費用を支出した。(なお,本件記録によれば,同表1ないし3の各寄付は,同相手方が寺の檀家として寄付したものであるから,同相手方自身のための支出と認められる。同14,15の墓地購入及び造成費用についても,同相手方がいわゆる○○家の跡取りとして○○家の祭祀を営む地位を承継し,その地位に基づいて支出したものと認められ,同相手方自身のための支出と認められる。また,同表10の税金関係について,相手方Cは,区費,集落排水負担金,寺割り,お布施等も含めて,合計968万円を支出した旨主張するが,上記区費等は地区住民もしくは寺の檀家として同相手方自身のための費用といえ,本件土地及び本件建物の固定資産税については平成3年以前から相手方Cがこれを負担していたことを認めるに足る証拠はないから,同年から相続が開始した平成14年までの12年間分について1年分約11万円として132万円を認める。また,同相手方提出の平成17年×月×日付上申書添付資料15,24―2によれば,同表12の「本宅裏山崩土除去作業費用」は19万円,同表22の「水洗化に伴う改造費」は163万4503円と認められる。)
エ 被相続人は平成6年ころから,認知症の症状が出るようになったため,相手方Cは,そのころから被相続人の地代収入等を管理し,農機具等の購入・管理費や農繁期の雇人費用等に充てた。
被相続人の容態はその後悪化し,平成10年ころからは排泄等につき相手方C夫婦の介助を要するようになり,平成11年に要介護認定2の認定を受けて介護施設でデイサービスを受けるようになり,相手方Cやその家族がその送迎に当たった。被相続人は,平成13年には要介護3の認定を受け,平成14年×月×日に腸閉塞で○○病院に入院し,相手方C夫婦,相手方B及び申立人が当番制で介護に当たったが,同年×月×日に死亡した。
(3) 上記(2)の事実によれば,相手方Cは,昭和29年から本件相続開始に至るまで被相続人の農業を手伝ったほか,本件不動産の取得や維持管理のために合計3488万円余を支出するなどし,さらに,平成10年ころからは認知症の症状が重くなった被相続人の療養看護にも努めたことが認められ,被相続人の遺産の形成維持に一定の貢献をしたと認められる。もっとも,相手方Cは,他方で,被相続人の同居の親族として本件建物を自宅として無償で使用したり,本件土地から収穫された農作物等を消費するなどして,被相続人との同居により生活上の利益を得ていたことが認められる。
そこで,同相手方の寄与分の算定に当たっては,上記農業手伝の態様や期間,金銭支出の金額及びその対象,療養介護の内容及び期間等を考慮するほか,同居の親族として一定程度の相互扶助義務を負っていることをその減価要素として考慮する必要があり,これらを総合すると,本件遺産の30%をもって,同相手方の寄与分と定めるのが相当である。
そうすると,後記のとおり,本件遺産の評価額合計は9360万3235円であるから,同相手方の寄与分は2808万0970円となる。
6 遺産の評価
(1) 本件調停及び審判手続の経緯によれば,当事者間において,相続開始時及び分割時の本件遺産の評価につき,次のアないしウのとおり,明示ないし黙示の合意があると認められる。
ア 本件土地のうち別紙土地目録1ないし11,17ないし35及び59記載の各土地については,申立人提出の○○不動産鑑定(不動産鑑定士○○○○)作成の平成16年×月×日付け鑑定評価書記載の評価額によるものとする。
イ 本件土地のうち上記ア以外の土地については,申立人提出の平成14年×月×日付け税理士○○○○作成の財産評価報告書記載の評価額とする。
ウ 本件建物については,平成14年度の固定資産税の評価額とする。
エ 本件株式については,申立人の平成16年×月×日付け上申書添付の「②株式の評価表」の「採用評価額」欄及び申立人の平成17年×月×日付け上申書添付の「追加2銘柄」の「採用評価額」欄記載の金額を各1株あたりの評価額とする。
(2) 以上によれば,相続開始時及び分割時の本件遺産の評価額は,別紙土地目録,別紙建物目録及び別紙株式目録の各評価額欄記載のとおりとなる。
7 具体的相続分の算定(別紙「相続分計算表」のとおり)
(1) 相続開始時及び分割時の相続財産の価格
5277万9060円(本件土地の評価額合計)+44万6788円(本件建物の評価額合計)+4037万7387円(本件株式の評価額合計)=9360万3235円
(2) みなし相続財産の額
9360万3235円(遺産額)-2808万0970円(寄与分)=6552万2265円
(3) 各相続人の本来的相続分
ア 申立人及び相手方B
6552万2265円×5分の1=1310万4453円
イ 相手方C
6552万2265円×5分の3=3931万3359円
(4) 各相続人の具体的相続分
ア 申立人及び相手方B
1310万4453円
イ 相手方C
3931万3359円+2808万0970円(寄与分)=6739万4329円
8 分割に関する当事者の意見
(1) 申立人
別紙土地目録2及び3記載の田,同目録59記載の雑種地,別紙株式目録1のうち1000株,同4のうち2500株,同5のうち3823株,同6のうち2000株,同9のうち2000株,同15のうち1株の各株式の取得を希望する。
(2) 相手方B
別紙土地目録2及び3記載の田,別紙株式目録1,5,6,8記載の株式の取得を希望し,申立人との差額については代償金で取得したい。
(3) 相手方C
本件土地は先祖伝来の田畑であり,相手方Cが勤務の傍ら家族で農作業をし,その維持管理にあたってきた。よって,これらは相手方Cがすべて取得したい。
申立人及び相手方Bに対しては代償金を支払いたい。
9 当裁判所の定める分割方法
(1) 本件土地及び本件建物
ア 本件記録によれば,相手方Cは,被相続人の生前からその農業を手伝っていたが,相続開始後も本件土地のうち農地については引き続いて第三者に耕作させたり,自ら耕作するなどして農業を営んでいること,別紙土地目録2及び3記載の田は平成6年×月に農業経営基盤強化促進法による交換により取得されたものであるが,相手方Cが交換分合による清算金を支払い,現在も同相手方が○○○○と小作契約を締結して耕作されていること,相手方Cは相続開始後も引き続いて本件建物に家族で居住し,本件土地目録31ないし35の宅地等をその敷地として利用しているほか,その他の宅地等についても第三者に賃貸するなどし,同目録59記載の雑種地は,同相手方が第三者に賃貸し,資材置場として利用されていることが認められ,他方で,申立人は○○市所在の自宅で家族と居住し,相手方Bも○○市所在の自宅で家族と居住し,両名とも婚出した後はたまに帰省することがあったが,農業経営や宅地等の管理には関与していなかったことが認められる。
イ 上記本件土地及び本件建物の利用状況等を考慮すると,申立人及び相手方Bは上記のとおり農地等の一部の取得を希望しているが,これらを申立人及び相手方Bに取得させるべき合理的理由はなく,本件土地及び本件建物については,いずれも相手方Cに単独取得させるのが相当である。
(2) 本件株式
ア 本件記録によれば,相手方Cは,別紙株式目録の「所在」欄記載のとおり,本件株式の株券を自宅ないし金融機関に預託して保管していることが認められる(なお,株式目録1のうちの3910株,同2のうちの99株,同4のうちの5000株及び同5のうちの6000株については,本件相続開始後,相手方Cに名義変更がされている)。
イ 上記保管状況並びに上記申立人及び相手方Bが取得を希望している銘柄等を考慮すると,申立人には別紙「申立人取得財産」記載の各株式を,相手方Bには別紙「相手方B取得財産」記載の各株式を,それぞれ取得させ,その余は相手方Cが取得することとするのが相当である。
(3) 上記の分割方法によれば,相手方Cが取得する財産の価額は,別紙「相手方C取得財産」記載のとおり,合計7424万6776円となるから,上記具体的相続分(6739万4329円)を超える685万2447円については,それぞれ申立人及び相手方Bに代償金を支払うべきであるところ,本件記録によれば,相手方Cに上記代償金の支払能力があると認められる。
そして,相手方Cが支払うべき代償金の金額は,申立人については147万9312円(申立人の具体的相続分1310万4453円と同人が取得する上記株式の評価額合計1162万5141円との差額),相手方Bについては537万3135円(同相手方の具体的相続分1310万4453円と同人が取得する上記株式の評価額合計773万1318円との差額)とそれぞれ認められ,また,これらの金額について,本件審判確定後3か月間の猶予を置くこととする。
10 よって,主文のとおり審判する。
(家事審判官 久保井恵子)
<以下省略>