京都簡易裁判所 昭和57年(ハ)2230号 判決 1984年12月13日
原告 甲野花子
被告 福川正夫
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し一〇万二九三〇円とこれに対する昭和五八年一月一九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行の宣言。
二 請求の原因の要旨
1 被告は乙山春夫弁護士らを代理人として甲野太郎に対する京都簡易裁判所昭和五四年(ハ)第一一七四号事件につき昭和五五年六月六日成立した和解調書の執行力ある正本に基づき京都地方裁判所執行官に有体動産差押執行の申立をし、その執行は昭和五六年五月三〇日実施されたが、その際太郎の妻である原告は、その所有する保管庫一個(評価額三〇〇〇円)をも差押えられたので、右評価額の金員を保証供託して第三者異議を提訴した。
2 当初は原告自ら出廷していたが、右有体動産差押執行の際乙山弁護士が執行に関与させた山本友三が執行当時現場で撮影した右保管庫の写真もあり、第三者異議訴状の送達を受けた段階で調査すれば、保管庫の所有者が原告であることを容易に知り得たにもかかわらず、被告は反論立証資料もなく、乙山弁護士を代理人として、応訴抗争するので、原告は訴訟追行に困難となった。
3 原告は、やむなく第三回口頭弁論から高橋秀三弁護士を代理人に依頼し、勝訴判決を得右判決は確定した。
4 かくして、原告は高橋弁護士に支払った着手金、報酬金、1の供託金取戻費用など合計一〇万二九三〇円の損害を蒙ったから、被告に対し損害賠償金合計一〇万二九三〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五八年一月一九日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
三 証拠の提出、援用及び認否(括弧内は附陳)《省略》
四 理由
1 右請求の原因のうち、被告が本件差押を乙山弁護士に委任し、同弁護士から京都地方裁判所執行官に有体動産差押えの申立てが行われ、右差押執行に事務員山本友三が立会い、保管庫一個が差し押えられ、原告は第三者異議訴訟を提起し、当初出延していたが、高橋弁護士が代理人となり、被告は乙山弁護士を代理人として応訴し、原告勝訴の判決が確定したことは、当事者間に争いがない。
2 しかし、執行官は職権に基づいて差押をするものであって、目的物の選択につき債権者の指示を受けないのであり、《証拠省略》によれば、執行には債務者も関与したが被告もその代理人らも執行当時現場に臨んでいないばかりでなく、執行現場で原告からもその夫からも、保管庫が原告の所有であるとの主張や、これを差押えることについての異議や苦情も出ず差押は円滑に行われたことが認められるのであり(《証拠判断省略》)、《証拠省略》によれば、本件保管庫の上に数本の物指し、数個の細長い紙箱の存在することが認められるとはいえ、右《証拠省略》、前叙差押執行状況、《証拠省略》によれば、差押当日差押執行場所であり原告肩書地でもある甲野太郎住所地の三階建家屋には原告の夫でもある債務者甲野太郎の氏名のみを記載した表札が掲げられて世帯主は債務者であることが窺われ、一階には畳屋の機械もあり、一階は畳屋の作業場であり債務者の職業は畳屋であることが認められ、階上一〇畳の部屋には、和裁、習字、生花の稽古等に使用する場所である旨を表示する記載がされた札、紙などは認められず、また、当時そのような稽古ないし作業は行われていず、保管庫の高さは一メートルに足らず、右一〇畳東北隅東側北端の壁を背にして西向きに置かれた保管庫の北側の壁面天井ぎわには南向きにルームクーラーが掛けられ、同壁の西に続く長押には南向きに絵入りカレンダーも掛けられ、右一〇畳は畳敷であって畳屋の作業場でなく、和裁、習字、生花の稽古場ないし作業場あるともみえず、夫婦の居間であると見えたことが認められ、債務者ないし債務者側で、保管庫を開けて執行官に保管庫の内部を見せた事実も認められない。《証拠判断省略》 さすれば《証拠省略》によって右差押当日乙山弁護士に代って前叙差押執行に同行し差押現場で差押執行に関与した法律事務所事務員が山本友三であったことは認められるが、被告が原告から本件保管庫につき提起された第三者異議の訴の訴状を送達されて差押え執行をした執行官や右執行に関与した山本友三に差押執行の状況を質したとしても、右山本の関与した差押執行当時の本件保管庫等を含む現場写真を見たとしても、本件保管庫が原告の所有物であることを知り得たことは認められず、ほかに被告の故意過失を窺うに足る証拠はない。
3 よって、その余の事実につき判断を加えるまでもなく、原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 園部秀信)