大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

仙台地方裁判所 平成元年(ワ)227号 判決 1991年4月30日

主文

一  本訴原告の請求をいずれも棄却する。

二  反訴原告の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、本訴反訴ともに四分し、その三を本訴原告の負担とし、その一を本訴被告らの負担とする。

事実

(本訴請求)

第一  本訴原告の請求

一  本訴被告らは本訴原告に対し、連帯して金二八三万〇二〇〇円及びこれに対する昭和六一年九月二三日から支払済みまで年14.6パーセントの割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は本訴被告らの負担とする。

三  仮執行宣言

第二  本訴原告の請求原因

一  本訴原告は、機械及び車両等のリースを主たる目的とする会社であり、本訴被告株式会社自動車免許更新共済会(以下、「本訴被告会社」という。)は、各種証明写真の撮影等を主たる目的とする会社である。

二  リース契約の締結

本訴原告と本訴被告会社は、昭和六〇年一〇月二八日、次のとおりのリース契約を締結した。

1 リース物件

ミロク・MS―1(オフィスコンピューター装置、以下、「本件コンピューター」という。)

2 リース物件設置場所

本訴被告会社の住所地

3 リース期間

昭和六一年一月一四日から昭和六六年一月一三日まで

4 リース料

一か月金五万三四〇〇円 総額三二〇万四〇〇〇円

5 リース料支払方法

(一) 第一回 昭和六一年一月一四日

(二) 第二回以降 昭和六一年二月一〇日から昭和六五年一二月一〇日まで五九回に分割して毎月一〇日限り支払う。

(三) 支払方法 口座振替 JCB経由

6 引渡し確認と瑕疵免責

(一) リース物件について、本訴被告会社はその検査を遂げ、完全な状態で売主から引渡しを受けたことを確認する。

(二) 本訴原告は、リース物件の瑕疵について一切の責を負わず、隠れたる瑕疵があったときも、本訴被告会社は売主の株式会社ミロク経理(以下、「ミロク経理」という。)との間でその解決を行ない、本訴原告に対しては一切の請求をしない。

7 契約解除

(一) 本訴被告会社が、本件契約に違反する行為のあったとき、リース料の支払いを一回でも怠ったとき、または、信用状態が著しく悪化したと本訴原告が認めた場合は、本訴原告は催告を要しないで本件契約を解除できる。

(二) 本件契約が解除されたとき、本訴被告会社は本訴原告に対し、直ちにリース物件を本訴原告の指定する場所に持参して返還し、併せて残リース料相当額を損害金として支払う。

(三) 前項に基づき、リース物件が返還されたときは、本訴原告はリース物件の処分手取を前項の損害金に充当する。

8 遅延利息

本訴被告会社がリース料その他の金銭の支払を怠ったときは、年14.6パーセントの割合による遅延利息を支払う。

三  連帯保証

本訴被告金石太は、昭和六〇年一〇月二八日、本件契約に基づく本訴被告会社の一切の債務について連帯保証した。

四  リース物件の引渡し

本訴原告は本訴被告会社に対し、昭和六〇年一一月二五日、リース物件を引渡した。

五  契約解除

本訴被告会社は昭和六一年七月一〇日までのリース料金三七万三八〇〇円の支払をしたが、同年八月一〇日に支払うべきリース料の支払を怠った。そこで、本訴原告は、昭和六一年九月二二日到達の書面をもって、本件契約を解除する旨の意思表示をした。

六  よって、本訴原告は本訴被告らに対し、連帯して残リース料相当の約定損害金二八三万〇二〇〇円及びこれに対する契約解除の日の翌日である昭和六一年九月二三日から支払済みまで年14.6パーセントの割合による約定遅延損害金の支払を求める。

第三  請求原因に対する本訴被告らの認否

一  請求原因一の事実は認める。

二  請求原因二の事実のうち、本訴原告と本訴被告会社との間でリース契約を締結したこと、リース物件には少なくとも本件コンピューターを含んでいることのほか、リース物件設置場所、リース期間、リース料、リース料支払方法は認める。

三  その余の請求原因事実はすべて否認する。

四  リース物件及びその引渡しについての被告らの主張

本件リース契約の対象物件には、本件コンピューターのほかに、コンピューターソフトウェア一式、顧客管理用ディスクと本件コンピューター及び右ソフト類の一般的操作方法の指導という役務の提供が含まれており、昭和六一年二月、本件コンピューター及びコンピューターソフトウェア一式の引渡しを受けたが、顧客管理用ディスクの交付がなく、右一般的操作方法の指導がない。

本訴被告会社は、ミロク経理の破産により、本件コンピューターの操作の指導を受けることが不可能となって、本件コンピューターを事実上、使用できない状態にあるから、リース物件の引渡しは完了していないとみるべきであり、リース料の支払義務はない。

第四  本訴被告らの抗弁

一  ミロク経理の債務不履行と本訴原告に対する対抗

1 本訴原告とミロク経理とは、緊密な提携関係にあった。

すなわち、本訴原告とミロク経理は、提携リース契約を締結し、本訴原告はリース残債について一括してミロク経理の保証を取った。これによりミロク経理は売買代金が容易に回収できるために売上も飛躍的に伸び、本訴原告もミロク経理の保証によりリース契約の飛躍的な拡大を図った。

2 ミロク経理は、本訴被告会社が本件コンピューターを導入するに際し、本件コンピューターとソフトウェアの一般的操作方法を指導する旨約したが、そのほかに、本訴被告会社が本件コンピューターによる数万人規模の顧客管理をすることにしていたので、そのためのディスク追加設置とその操作方法を指導する旨約した。

3 ところが、ミロク経理は、前記2の債務を履行しないまま、昭和六一年八月事実上倒産し、同年九月には破産した。

4 本訴原告とミロク経理とは緊密な提携関係にあるから、本訴被告らは、信義則上、ミロク経理の債務不履行を本訴原告に対しても主張でき、ミロク経理が前記2の債務を履行するまで、同時履行の抗弁権を行使してリース料の支払を拒絶できる。

二  ミロク経理の瑕疵担保責任と本訴原告に対する対抗

1 本訴原告とミロク経理とは、前記一の1に記載のとおり、緊密な提携関係にあった。

2 本件のように本件原告と売主のミロク経理とに緊密な提携関係がある場合、信義則上及び公平の観念から瑕疵担保責任免責特約の主張は制限される。

3 本訴被告会社は、前記一の2、一の3に記載の事情で本件コンピューターを操作できないでいるが、これはリース物件に隠れた瑕疵があるのと同等に評価できる。

4 本訴被告らは、本件コンピューターの瑕疵を理由にリース料の支払を拒絶できる。

三  信義則違反ないし権利の濫用

1 ミロク経理は、昭和六一年八月に事実上倒産し、同年九月に破産宣告を受けたのであるが、八月の手形決済資金に不足をきたすことが判明した時点で、当時最大の提携リース契約先であるとともに融資なども依頼するという密接な関係にあった本訴原告に資金援助を依頼した。

2 ところが、本訴原告は、ミロク経理に対する援助をするかわりに、第一回の手形不渡りの出た昭和六一年八月七日夜半にミロク経理を欺罔して同社から現金、有価証券などを持ち出して業務の遂行を不可能に至らしめた。

3 本訴原告は、ミロク経理の倒産に重大な関与をしてユーザー(使用者)に著しい損害を与えておきながら、本訴被告らに対し契約上の債務履行を求めており、このようなことは権利の濫用に当たり許されないと言うべきである。

4 さらに、ミロク経理が資金繰りにひっ迫し破産に至った原因の一つに本訴原告も関与した提携リースが挙げられる。提携リースではユーザーの信用力に関係なくリースができ、ミロク経理はコンピューターを至るところで売りさばいた。ミロク経理の売上は飛躍的に伸びそれにともない本訴原告のリース料収入も飛躍的に伸びたが、一方でユーザーの信用力に無関係に販売したため、リース料の未払も増大し、保証責任に基づくミロク経理の本訴原告に対する支払責任も急激に増大する結果となった。ミロク経理はこの支払をするために、さらに販売を拡大する必要に迫られ、昭和六〇年夏ころからユーザーに対するメンテナンスやコンピューター操作の指導もおろそかにして、無理をして販売を続けるという自転車操業の状態に陥った。

5 本訴原告は、ミロク経理のこのような状態を知りうる立場にあったし、来るべき結果をかなり以前から想定していたものと思われる。しかし、本訴原告が提携リースを廃止する旨ミロク経理に申し入れたのは破産管財人の報告によると昭和六一年五月である。一方、本訴被告会社が契約書に署名したのが昭和六〇年一〇月、コンピューターが来たのが昭和六一年二月であるが、ほとんど操作指導もなく、約束のディスクも入らず、その後まもなくミロク経理に連絡しても連絡が取れなくなってしまったのである。

6 以上の事実から考えると、本訴原告は、ミロク経理の破産に一端の責任があるし、又、ミロク経理の自転車操業的販売にも責任があると言わざるを得ない。ところが、本訴原告は、リース契約という隠れ簔を使い、自らの責任を棚上げしてリース料残額相当損害金を被告らに請求している。このような本訴原告の請求は信義則に反するし権利の濫用に当たると解すべきである。

第五  抗弁に対する本訴原告の反論

一  リース物件の瑕疵

本訴被告会社が本件リース契約条項第四条において、リース物件につき完全な状態で引渡しを受けたことを確認し、リース物件の瑕疵については一切を本訴被告会社とサプライヤー(売主)との間で解決するものとし、本訴原告に対しては一切の請求をしない旨の合意をした以上、リース物件に瑕疵(ソフトウェアの引渡しがないとか、サプライヤーによる立上がり指導がないとかを含めて)があることを主張することは、契約上許されないことは当然のことながら、信義則上も許されるべきものではない。

二  本訴原告とミロク経理との間には業務提携契約が存在するが、右業務提携契約は、リース契約書類をミロク経理に預けて申込の媒介をさせ、取扱品目の限定、取引限度額の設定、ミロク経理による包括保証によって、リース契約の申込に対する審査等を簡素化し、リース料率を画一化し、もって契約手続を簡略化、迅速化しようとする趣旨に出たものにすぎない。そこで本訴原告とミロク経理間で締結された業務提携契約書を一読するなら、右契約書がそれ以上に、無審査、無調査でリース契約に応じるとか、リース料率や契約条項の決定をミロク経理に委ねるとか、リース料の回収をミロク経理に担当させるなどというものではないことがわかる。

およそファイナンスリースとは実質的にはユーザーに対する金融上の信用供与であって、リース会社、サプライヤー、ユーザーの三者は鼎立状態にあり、サプライヤーに対するユーザーの抗弁はリース会社には主張できない。

三  ミロク経理を倒産させたのは本訴原告であるかの如き主張は事実に反する。

ミロク経理の管財人の報告書によると、昭和六一年八月七日第一回の不渡りを発生させたのは、イトマンファイナンスであり、第二回の不渡りを発生させたのは、日本コンピューターシステムである。本訴原告は、「イトマンが手形を不渡りにした以上、これ以上協力できない」としたものに過ぎない。

(反訴請求)

第一  反訴原告の請求

一  反訴被告は反訴原告に対し、金三七万三八〇〇円及びこれに対する平成三年三月七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は反訴被告の負担とする。

三  仮執行宣言

第二  反訴原告の請求原因

一  ミロク経理はコンピューターシステムなどの販売を目的とする会社であり、反訴原告及び反訴被告は、本訴請求原因一に記載したことを目的とする会社である。

二  反訴原告は、昭和六〇年一〇月ころ、会計処理及び数万人規模の顧客管理に使用するため、ミロク経理のコンピューターシステムを導入することにし、ミロク経理との間でコンピューターシステムの導入利用に関し、次の契約を締結した。

1 内容

反訴原告は、ミロク経理製造の本件コンピューター、顧客管理用ディスク、コンピューターソフトウェア一式を導入し、ミロク経理は本件コンピューター及び右ソフト類の一般的操作方法を反訴原告に指導する。

2 導入方法

反訴被告のリース契約による。

三  反訴原告は、ミロク経理との右契約に基づき、昭和六〇年一〇月二八日、反訴被告と左記内容のリース契約を締結した。

1 リース物件

本件コンピューター、顧客管理用のディスク及びコンピューターソフトウェア一式並びに本件コンピューター及び右ソフト類の一般的操作方法の指導の役務提供

2 リース期間、リース料、支払期日

本訴請求原因二記載の内容と同一

四  反訴原告は、昭和六一年一月一四日から同年七月までのリース料合計金三七万三八〇〇円を反訴被告に支払った。

五  ミロク経理は、昭和六一年二月になって、本件コンピューター及びコンピューターソフトウェア一式を反訴原告に引渡したが、顧客管理用ディスクを引渡しせず、前記一般的操作方法の指導を行っていない。

ミロク経理は、昭和六一年八月事実上倒産し、同年九月には破産した。

六  ミロク経理の債務不履行と契約解除

本訴請求第四抗弁一に記載のとおりの事情でミロク経理に債務不履行があり、これを本訴被告に対しても対抗できるから本訴原告は本反訴状をもって債務不履行を理由として本件リース契約を解除する旨の意思表示をする。

七  ミロク経理の瑕疵担保責任と契約解除

本訴請求第四抗弁二に記載のとおりの事情で本件リース物件には隠れた瑕疵があり、かつ、反訴被告の瑕疵担保責任免責特約の主張は制限されるから、反訴原告は本反訴状をもって瑕疵を理由として本件リース契約を解除する旨意思表示をする。

八  よって、反訴原告は反訴被告に対し、本件リース契約の解除による不当利得返還請求権に基づき、既払リース料金三七万三八〇〇円及びこれに対する契約解除の日である平成三年三月七日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三  請求原因に対する反訴被告の認否

一  請求原因一の事実は認める。

二  請求原因二の事実は知らない。

三  請求原因三の事実のうち、リース物件に顧客管理用のディスク、コンピューターソフトウェア一式、本件コンピューターを含む一般的操作方法の指導が含まれることは否認し、その余の事実は認める。

四  請求原因四の事実は認める。

五  請求原因五の事実のうち、ミロク経理が昭和六一年八月事実上倒産し、同年九月に破産したことは認め、その余の事実は知らない。

六  請求原因六の事実のうち、反訴被告とミロク経理が提携関係にあり、ミロク経理の保証を取っていたこと、ミロク経理が倒産、破産したことは認め、提携関係が緊密であったことは否認し、ミロク経理の債務不履行を反訴被告に対抗できること並びに本件リース契約の債務不履行を理由とする契約解除の効力は争い、その余の事実は知らない。

七  請求原因七の事実のうち、提携関係が緊密であったことは否認し、瑕疵担保責任免責特約の主張の制限、リース物件の瑕疵の存在、瑕疵担保責任を理由とする契約解除の効力は争い、その余の事実の認否は前記六と同旨。

理由

(本訴請求)

一  請求原因一の事実は当事者間に争いがない。

二  リース契約の締結

請求原因二の事実のうち、本訴原告(以下、「原告」という。)と本訴被告会社(以下、「被告会社」という。)がリース契約を締結したこと、リース物件には少なくとも本件コンピューターを含んでいること、契約内容としてのリース物件設置場所、リース期間、リース料及びリース料支払方法、以上の事実は当事者間に争いがなく、引渡し確認と瑕疵免責、契約解除、遅延利息についての特約は、証人水口則夫の証言、<書証番号略>(リース契約書)、<書証番号略>によりこれを認める。

三  リース物件

リース物件に本件コンピューター(<書証番号略>によれば、その基本仕様はCPU((中央処理装置))、アイテムブック、漢字タブレット、各種キー、フロッピーディスク三基、ディスプレイ、プリンターである。)が含まれていることは前記のとおりであるが、被告らは、リース物件には本件コンピューターのほかに、コンピューターソフトウェア一式、顧客管理用ディスク並びにこれらの一般的操作方法の指導という役務の提供が含まれていると主張している。

しかし、証人水口則夫の証言、<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、本件リース契約は実質的にはリース会社がユーザー(使用者)に金融の便宜を供与する性質を有するファイナンスリースという契約であり、リース契約を利用しようとするユーザーがまずサプライヤー(売主)との間でリース物件を特定し、納期等を決定し、次にサプライヤーはその決定されたところに従い、リース会社に当該リース物件についての見積書を提出し、他方ユーザーはリース契約書によってリース契約の申込をし、リース会社はこれら書類によりリース物件を認識し、特定して、サプライヤーからリース物件を買受けてその所有権を取得し、これをユーザーにリースするというものであるところ、被告会社が原告に提出したリース契約書のリース物件欄には「ミロクMS―1」とのみ記載され、サプライヤーであるミロク経理が原告に提出した注文請書兼請求書(<書証番号略>)の物件名欄には「ミロクMS―ONE」、その数量欄には「1」とのみ記載されていること、オフィスコンピューターのリース取引において、通常コンピューター本体とソフトウェア(プログラム)は性質上、セットでユーザーに引渡されることを予定されているが、ソフトウェアを無償でサービスするか、あるいは有償とするか、有償の場合、現金払いとするかリース取引とするかはユーザーとサプライヤーの合意によって決められ、リース会社はそれに関与していないことが通常であるところ、原告は被告会社とミロク経理との間でソフトウェアについてどのような合意がなされたかを知らないこと、ソフトウェアは独立して取引の対象となるものであり、又、オフィスコンピューターを導入する主体の業種、使用目的によってその必要とするソフトウェアは異なるからソフトウェアをリース取引の対象とする場合はそれを特定する必要があるところ、前記のとおりリース契約書等には本件コンピューターが表示されているのみでソフトウェア等の記載は見当らないこと、以上の事実が認められ、これらに照せば、被告らの前記主張は採用できず、本件リース契約の対象物件は文字どおり本件コンピューターだけであるということになる。

なお、証人白出敦子は、被告会社が会計処理及び数万人規模の顧客管理に使用するためにコンピューターシステムなどの販売を目的とする会社であるミロク経理のコンピューターシステムを導入するに際し、ミロク経理との間で、ミロク経理から本件コンピューターのほかに顧客管理用ディスク、コンピューターソフトウェア一式を導入し、さらに本件コンピューター及び右ソフト類の一般的操作方法の指導を受けることを約したことが認められるが、原告は被告会社とミロク経理との間の右合意に直接関与しておらず、原告はリース契約書等の記載表示からリース対象物件を認識しているなどの前記認定事実に照らすと、被告会社とミロク経理との間の右合意があるからといって、本件リース契約の対象物件に顧客管理用ディスク等も含まれるものと推認することはできない。

四  リース物件の引渡し

証人白出敦子の証言及び弁論の全趣旨によれば、リース物件である本件コンピューターは昭和六〇年一一月か一二月ころ、ミロク経理から被告会社に納品されて引渡され、その後、昭和六一年二月ころまでにはコンピューターソフトウェア一式が被告会社に納品されていることが認められる。

五  被告金石太の連帯保証

証人白出敦子の証言、<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、被告金石太は昭和六〇年一〇月二八日、本件リース契約に基づく被告会社の一切の債務について連帯保証したことが認められる。

六  契約解除

<書証番号略>によれば、被告会社が昭和六一年八月一〇日に支払うべきリース料の支払を怠ったため、原告は被告会社に対し、昭和六一年九月二二日到達の書面をもって本件リース契約を解除する旨の意思表示をしたことが認められる。

七  被告らの抗弁について

被告らは、信義則上、ミロク経理に対する債務不履行あるいは瑕疵担保責任を原告に対抗でき、リース料の支払を拒絶できるし、また、原告のリース料残額相当損害金の支払請求は信義則に反し権利の濫用にあたると主張しているので、この点について検討する。

1  ミロク経理の債務不履行とその重要性

前記三のとおり、被告会社が会計処理及び数万人規模の顧客管理に使用するためにミロク経理からコンピューターシステムを導入するに際し、ミロク経理との間で本件コンピューターのほかに顧客管理用ディスク及びコンピューターソフトウェア一式を導入し、ミロク経理から本件コンピューター及び右ソフト類の一般的操作方法の指導を受けることを約したが、証人白出敦子の証言、<書証番号略>によれば、ミロク経理は被告会社に対して、右顧客管理用ディスクを納品せず、かつ、右一般的操作方法の指導について、本件コンピューター納品後、電源の入れ方、フロッピーの入れ方などの簡単な説明を三〇分くらい行っただけで、一週間から一〇日間の期間を必要とする非専門家の一般顧客に対する指導を行わず、右各義務を履行しないまま倒産したこと、被告会社では現在本件コンピューターを操作できない状態であることが認められる。

ところで、被告会社は本件コンピューターを含むコンピューターシステムを営業用に導入したものであり、適時にその目的に応じてコンピューターシステムを操作できなければ本件コンピューターは経済的には無価値となり、これを導入した意義は全く失われるものであって、本件コンピューターとその操作可能性及び実効性は密接不可分な関係にあるし、コンピューターシステムはその特殊性から目的に応じた操作ができるようになるには一定の知識と経験が必要であるところ、<書証番号略>によれば、ミロク経理は本件コンピューターの機種であるミロクMS―1について、システム計画、効率的な運用法の指導その他の諸問題を専門員が相談を受け、導入効果があがるように強力な援助協力をする旨ユーザーに対して表示していたことが認められ、これに証人白出敦子の証言を総合すれば、被告会社はミロク経理からの前記一般的操作方法の指導があることを確信し、これを前提にコンピューターシステムの導入を決め、その際に本件コンピューターについてリース契約を締結したことが認められるから(勿論、以上のことは原告にとっても容易に予想できるものである。)、被告会社にとって、ミロク経理の前記債務不履行は本件リース契約の前提条件が失われ、その契約の存在意義が没却するほど重要な問題であるといえる。

2  原告とミロク経理との間の緊密な提携関係

証人水口則夫の証言、<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、原告は昭和六一年七月現在でミロク経理の株式の約1.2パーセントを保有する持株数の順位一二位の株主であったこと、原告はミロク経理と業務提携契約を締結し、リース契約書類一式をミロク経理に預け、ミロク経理の販売員が自社の商品の販路を開くときに同時にリース契約の勧誘と申込の媒介をさせ、リース契約が成立すると直ちにミロク経理に売買代金を支払う一方、ユーザーが支払うべきリース残債につきミロク経理が一括して支払うことの保証責任を取ったこと、このような仕組みによりミロク経理は売買代金が容易に回収できることから売上を飛躍的に伸ばし、原告もミロク経理の保証によりリース契約の飛躍的拡大を図り、ミロク経理の営業努力によって自らも売上を伸ばすという相互依存関係にあったことが認められる。

3  原告とミロク経理倒産とのかかわり

<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

ミロク経理は、昭和六一年八月に事実上倒産し、同年九月に破産宣告を受けたものであるが、ミロク経理が資金繰りにひっ迫し破産に至った原因の一つに原告も関与した提携リースが挙げられる。すなわち、提携リースではユーザーに対する信用調査等が簡素化されているため、ユーザーの信用力にあまり関係なく、リースが可能となっているところから、ミロク経理はコンピューターを至るところで販売し、売上を増加させ、これに伴って原告のリース料収入も増加したが、ユーザーに対する厳重な選別なしに販売したため、リース料の未払も増大し、ミロク経理の原告に対する保証責任も急激に増大した。そして、この支払のためにミロク経理は販売拡大の必要に迫られ、昭和六〇年夏ころからユーザーに対するメンテナンスやコンピューター操作の指導もおろそかにして無理をして販売を続ける自転車操業の状態に陥り、そのころ各リース会社においてもリース未払率の増加に懸念を抱き始めていた。

さらに、原告はミロク経理の倒産に次のような関与をした。

ミロク経理は、新機種用のソフトウェアの開発ミス及び納品の遅れ、リース料未払に対する保証責任の増大、ソフトウェア開発の過大投資、パッケージソフトウェア有料化に伴う失敗などの理由から、昭和六一年ころには資金繰りがひっ迫し、昭和六一年八月、イトマンファイナンスに振出していた一八億円の手形(満期同年八月七日)と大日本コンピューターシステムの六億円の手形(満期同年八月一一日)について決済できるか、延期できるかが経営上の危機として生じていた。ミロク経理はこの危機を切り抜けるために永年の取引先であり、かつ、最大の債権者である原告に資金援助を懇願し、融資に関し自社の財務内容の調査検討をしてもらうこととし、イトマン側には手形決済の延期を強く要請していた。しかし、イトマンはミロク経理の要請を拒否し、同年八月七日、イトマンの手形は不渡りとなり、同日夜までミロク経理と協議を重ねていた原告からもこれ以上ミロク経理に協力できないとの結論が出された。ところで、これに先立ち、同日、ミロク経理は、原告から万一不渡り事故発生の際の混乱を回避するために手持現金や重要書類を一時本社以外に保管することを勧められ、引出し可能な銀行預金を全て現金化し、これを段ボール箱に入れ、他の有価証券、手形、小切手帳、各種契約書と共にホテルに運び、原告関係者と会議を続けていたが、会議中、一時債権者だけで話合うからミロク経理関係者は部屋を出てくれとの要請があり、ミロク経理関係者が部屋を出て、再び部屋に戻ると原告関係者のほとんどが部屋から姿を消し、段ボール箱も持ち去られ、原告の会社役員から今後の協力ができない旨告げられた。ミロク経理関係者は原告会社役員らに右現金等の返還を要求したが、同人らはわからないと言い張るばかりで返還に応じなかった。

ミロク経理は原告の右現金等の持ち出しにより当面の必要な経理処理も全くできず、経営者らの必死の努力にもかかわらず、同年八月一一日には第二回の手形不渡りを出さざるをえなくなり、ここに銀行取引は停止され倒産の止むなきに至り、その後の和議申請も、原告の右行為により再建の可能性を著しく困難にさせ、支社に対する日常の現金送金もできず、全ての業務に大混乱を生じ、和議の可能性を低め、結局、裁判所の許容するところとならず、遂に破産宣告を受けるに至った。

4  結論

以上の事情を総合考慮すると、原告の被告らに対するリース料残額相当損害金の請求は、本件コンピューターと密接不可分な関係にある重要な債務を履行しないミロク経理と緊密な提携関係や相互依存関係にある原告が、右債務不履行について間接的ではあるが重大な関与をしておきながら、当初から右債務不履行の発生を全く予想できず、かつ、ミロク経理の倒産により右債務の履行請求あるいは損害賠償請求を実現できなくなっている被告らに対し、本件リース契約上の利益を一方的に満足する形で契約上の義務(契約解除後の約定損害金の支払義務)の履行を求めるものであるということができ、信義誠実の原則に違反する権利の行使であると評価せざるをえない。

なお、本件リース契約が金融的性格を有するファイナンスリース契約であり、リース物件の瑕疵等について原告が責任を負わないなどの約定があり、リース料とリース物件の使用収益との対応関係が希薄であること、本件リース契約の対象物件が本件コンピューターのみであることを考慮しても、前記1ないし3の特段の事情が認められる本件においては、ファイナンスリース契約の原理原則をそのまま適用することはできないと解する。

八  以上の次第で、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(反訴請求)

一  反訴原告は、本件リース契約において反訴原告が反訴被告に対して支払った昭和六一年一月一四日から同年七月までのリース料合計金三七万三八〇〇円について、本件リース契約の解除を理由に反訴被告が不当利得したものであるとしてその返還を求めているが、リース物件である本件コンピューターは反訴原告に引渡され、本件リース契約は有効に成立しており(本訴請求についての判示のとおり)、右リース料の支払は本件リース契約の義務の履行としてなされたものであるところ(争いのない事実)、金融的性格を有し、継続的な契約である本件リース契約が後日解除となっても契約自体から生じた法律効果は遡及的に消滅することはなく、したがって、反訴被告が本件リース契約に基づく権利として受領した右リース料が法律上の原因を欠く利得となることはないから、反訴原告の本件リース契約解除による不当利得返還請求権は認められない。

二  よって、反訴原告の反訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 片瀬敏寿)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例