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仙台地方裁判所 平成10年(ワ)1152号 判決 2001年12月25日

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

(第1事件)

1  主位的請求

被告A株式会社は,原告に対し,別紙物件目録記載(1)及び同記載(2)の土地上空に架設されている高圧架空送電線中,上記各土地の上空にある電線部分を撤去せよ。

2  予備的請求

被告A株式会社は,原告に対し,金5000万円及びこれに対する平成6年6月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(第2事件)

被告国は,原告に対し,金1000万円及びこれに対する平成11年6月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

第1事件は,仙台地方裁判所平成○年(ケ)第○○○号不動産競売事件(以下「本件競売事件」という。)による売却を原因として別紙物件目録記載(1)の土地(以下「本件係争地(1)」という。)の所有権を,和解を原因として別紙物件目録記載(2)の土地(以下「本件係争地(2)」という。)の所有権を取得した原告が,被告A株式会社(以下「被告A」という。)に対して,本件係争地(1)及び(2)の上空に被告A所有の高圧架空送電線(以下「送電線」という。)が架設されていることにより,建物等の建築及び工作物を設置することが制限されているとして,主位的に本件係争地(1)及び(2)の所有権に基づき本件係争地(1)及び(2)上の送電線の撤去を,予備的に線下補償相当額の損害賠償を求めている事案であり,第2事件は,原告が,登記官が本件係争地(1)の土地の公図(甲10。別紙図面(1)(別紙図面(1)省略)。以下「本件公図」という。)等の備付けに当たり,実地調査の実施等を怠った過失と,執行官が本件競売事件において誤った現況調査報告書を作成した過失によって,本件係争地(1)が実在するものと誤信し,本件競売事件によりこれを買い受けたとして,国家賠償法1条1項に基づき,買受代金相当額の損害の内金又は線下補償相当額の損害賠償を求める事案である。

1  争いのない事実等(証拠等を掲げた部分以外は当事者間に争いがない。)

(1)  被告Aは,昭和42年12月16日,宮城県宮城郡d町b字c(当時。現在の仙台市a区b字cに相当する。以下「c」という。)73番8に所在する送電線の鉄塔(宮城幹線○号鉄塔。以下「○号鉄塔」という。)を基点とし,c73番9の土地の上空を通過する送電線を架設するために,c73番9の土地について,当時の所有者であったB商事株式会社(以下「B商事」という。)との間で建造物築造禁止等を内容とする地役権を設定し,仙台法務局昭和42年12月18日受付第○○○○○号をもって地役権設定登記を了した(乙2,3,9,10)。

また,被告Aは,昭和46年10月27日,c73番9の北東側隣接地である宮城県宮城郡d町b字c76番7(当時。現在の仙台市a区c町76番7に相当する。以下,現在の仙台市a区c町についても,単に「c」という。)の送電線架設部分につき,有限会社C不動産(以下「C不動産」という。)との間で線下補償契約を締結して補償を行った(乙1,28の1・2)。ただし,被告Aは,c76番7の土地に対する地役権設定登記は行っていない(乙11,丙17)。

(2)  本件係争地(1)には,原告を権利者とする抵当権(仙台法務局平成3年7月24日受付第□□□□□号の平成3年7月23日設定,債権額3000万円,債務者C不動産,抵当権者D観光株式会社の抵当権が,平成5年3月31日債権譲渡により原告に移転され,同法務局平成5年4月9日第△△△△△号をもって,その旨の附記登記がされたもの。以下「本件抵当権」という。)が設定されていた(甲1)。

(3)  原告は,本件抵当権に基づき,仙台地方裁判所(以下「執行裁判所」という。)に対し,本件係争地(1)について本件競売事件を申し立て,同裁判所は平成5年5月10日競売開始決定をした(甲1)。

(4)  (3)の当時,本件係争地(1)の不動産登記簿上の所有名義人はC不動産であった。

(5)  執行裁判所は,本件係争地(1)について,仙台地方裁判所の執行官に対し,本件係争地(1)の現況について調査を命じた。担当執行官は甲(以下「甲執行官」という。)であった(甲7)。

(6)  執行裁判所は,不動産鑑定士乙(以下「乙評価人」という。)に対し,本件係争地(1)の評価を命じた(甲8)。

(7)  甲執行官は,平成5年7月19日,現況調査報告書(以下「本件現況調査報告書」という。)を執行裁判所に提出した(甲7)。

本件現況調査報告書には,物件目録として,本件係争地(1)の所在,地番,地目,地積,現況が記載され,所在図として住宅地図の写し,形状を示すものとして公図の写し(甲10と同じもの)及び調査対象土地の写真7葉が添付されていた。

また,被告A仙台技術センターの職員からの聴取結果として,本件係争地(1)の上空には27万ボルトの送電線が架設されていること,そのため,建造物の築造,工作物の設置,保守等に支障となる行為等が禁止されていること,これらが法的規制で,地役権の設定の有無は関係ない旨の説明を受けたこと,c町町内会会長丙からの聴取結果として,本件係争地(1)は本件係争地(2)とともに,c町町内会がC不動産から年間1万円で借り受け,ゲートボール場として使用している旨説明を受けたことなどが記載されるとともに,電気事業法(昭和39年7月11日法律第170号)及び電気事業法に基づく電気設備に関する技術基準を定める省令(昭和40年6月15日通商産業省令第61号)の写しが添付されている(甲7)。

(8)  乙評価人は,平成6年2月3日,評価書(甲8。以下「本件評価書」という。)を執行裁判所に提出した。この評価書には,評価対象不動産として本件係争地(1)の地番が表示され,平成5年11月26日から現況調査を行ったこと,対象不動産の特定には隣接地所有者が立ち会ったことが記載されている。

本件評価書には,対象不動産は,仙台市a区役所の東方約2.3キロメートルの地点の低層の一般住宅,共同住宅が建ち並ぶ住宅地域内に所在し,南側で幅員約5メートルの舗装市道にほぼ等高に接し,北側で幅員約5メートルの舗装市道に1ないし2メートルほど低く接していること,周辺の状況として東側は4メートルほど高く共同住宅の敷地,西側は等高にゲートボール場,南側は道路を挟み資材置場,北側は道路を挟み貯水池となっていることが記載されている。また,対象不動産の現況は雑種地で,占有現況としては,対象不動産の西側に隣接する本件係争地(2)と同一の地番の土地と一体としてゲートボール場として利用されており,本件係争地(1)の南側部分には概測床面積約1.7平方メートルのプレハブ物置が設置されていること,占有状況については,c町町内会が昭和60年ころから期限を定めずに,C不動産から年額1万円で借り受けている旨のc町町内会会長丙からの聴取結果が記載されている。さらに備考として,対象不動産の上空には27万5000ボルトの送電線が南北に通過しているところ,電気事業法に基づく電気設備に関する技術基準を定める省令第133条による例外事由に該当しないため,線下地に建物等の建築及び工作物の設置は認められないこと,建築制限等による損失補償については地役権が設定されていないため,地役権設定時に補償額を算定し支払うことになる旨の被告A宮城支店立地用地部からの聴取結果が記載されている。

以上のような対象不動産の位置,道路交通条件・画地条件・利用状況及び諸般の事情(環境条件に関する評点は,送電線下であることからマイナス10とされている。)等を考慮して1平方メートル当たり3万3500円と評価されている。

なお,本件評価書には,位置図として住宅地図,現況図,用途指定図,甲7に添付されたものと同様の公図の写し,本件係争地(1)の地積測量図,対象不動産の写真5葉が添付されている。このうち,公図の写しは甲10であり,平成5年11月16日,仙台法務局本局にて閲覧・調査したものである旨の記載がある(甲8)。

(9)  原告は,本件競売事件による売却を原因として本件係争地(1)の所有権を取得し,平成6年6月8日,所有権移転登記手続を了した。

(10)  原告は,和解を原因として本件係争地(2)の所有権を取得し,平成10年4月1日,所有権移転登記手続を了した(甲2)。

(11)  原告は,本件係争地(1)及び(2)を占有し,貸駐車場として使用している(甲9,丙8)。

2  争点

(第1事件)

(1) 原告所有の本件係争地(1)及び(2)の上空に,被告A所有の送電線が架設されているか。

(原告の主張)

ア 被告Aは,原告の所有する本件係争地(1)及び(2)の上空に,地役権等利用権原を設定することなく送電線を架設しており,本件係争地(1)及び(2)について送電線による利用制限を生じさせている。

イ 本件公図及び現況の写真を対比すると,原告が所有する本件係争地(1),(2)及びその東側の土地の位置関係は本件公図と完全に一致する。また,c76番1及びその隣接地については,仙台法務局に,明治時代に調製された縮尺6000分の1の土地台帳附属地図(乙12。以下「旧附属地図」という。)が備え付けられていたところ,同地図は昭和59年2月22日,ポリエステルフィルムにより再製され,本件公図作成前の公図として備え付けられている(乙1。以下「旧公図」という。別紙図面(2)(別紙図面(2)省略)。)が,旧公図を拡大したもの(乙5の3)及び本件公図(甲10)と,平成9年10月9日に撮影された航測図(乙5の2)から明らかな現況を対比すると,少なくとも本件係争地(1)及び(2)のほぼ東側半分が従前のc76番1の土地の一部であったことは明らかである。

(被告Aの主張)

ア 被告Aは,1(1)のとおり,地役権を設定し,設定登記を了した。c73番9の土地の東側に存した溜池及び沢の上空にも一部送電線が架設されていたが,これらの部分については被告Aは線下補償をしていなかったところ,昭和44年ころ,C不動産が周辺一帯における宅地造成のために溜池及び沢を埋め立てたことに伴い,線下補償を求めてきた。

被告Aが,1号鉄塔から架設されている送電線の線下地の範囲を実測したところ,線下地の範囲は旧附属地図(乙12)と対比してc73番9の面積を上回る範囲に架設されていることが判明した。そのため,被告Aは,地役権設定未了の土地はc73番9の東側隣接地であるc76番7であると考え,当該部分につき,1(1)のとおり,C不動産との間で線下補償契約を締結して補償を行った。

被告Aは,現在に至るまで上記1号鉄塔及び送電線の位置関係を変更していない。

したがって,原告が自己所有地である本件係争地(1)及び(2)の上空に架設されている旨主張する送電線は,1号鉄塔を基点としてc73番9の上空に架設されているものであり,原告が主張する本件係争地(1)及び(2)の上空に送電線は架設されていない。

イ 本件係争地(1)は,昭和62年1月23日,c76番1の土地から残地があるとして分筆されたものであるが,c76番1の西側に,c73番8及び同73番9を挟んで所在するc73番2に関する地積更正登記及び分筆の経緯,従前存在した溜池,蛇行している沢等の地形から考えると,本件係争地(1)の元番であるc76番1の地積が地積更正登記において恣意的に拡張された疑いがある。

本件係争地(1)及び(2)とされている土地はc73番9と重複しており,本件係争地(1)及び(2)は実在しないというべきである。

(2) (1)と損害との因果関係及び損害額

(原告の主張)

被告Aの(1)の行為により,原告は本件係争地(1)及び(2)について利用制限を被り,線下補償料相当額の損害を被った。原告の損害は5000万円を下らない。

(被告Aの主張)

因果関係は否認し,損害額については争う。

(第2事件)

(1) 旧附属地図(乙12)に別図(丙1)を備え付けた登記官及び本件公図(甲10)を備え付けた登記官に実地調査等を怠った過失があるか。

(原告の主張)

ア 原告は本件競売事件により本件係争地(1)を買い受けたが,本件競売事件は,本件係争地(1)が存在しないため原始的不能であり,原告は本件係争地(1)の所有権を取得することができない。

(ア) 本件競売事件において実在しない本件係争地(1)が対象とされたのは,登記官が昭和43年11月7日,旧附属地図に別図(丙1。以下「別図」という。)を備え付けたこと,昭和62年1月23日,別図にc76番413等の地番等を記載した本件公図(甲10)を備え付けたことに原因がある。

(イ) 別図は旧附属地図の一部のみが記載されたものに過ぎず,c76番1の土地と隣接地との関係が全く不明であって,実際に申請通りの分筆が可能か否かは図面上明らかではない上,土地家屋調査士の作成に係る申請書及び各種図面等がすべて現況を反映した正確なものであるとは必ずしも断定できない。

したがって,登記官は,昭和43年11月7日,別図を備え付けるに際して,不動産登記法50条1項の定める実地調査を行う必要があったのに,これを怠った過失がある。

(ウ) c76番1の土地については,昭和43年10月29日,従前の地積から7倍程度の地積更正登記がされているところ,旧附属地図とその別図を対比すれば,別図では,旧附属地図において,c73番8及び同73番9と認められる部分についてまで同76番1から分筆された土地(同76番6及び同76番7)とされており,同76番1の形状が異なっていることが明らかである。したがって,登記官は,仮に実地調査をしなくても,同76番1の土地が別図では範囲を水増しして表示されていることを認識することができたにもかかわらず,別図を備え付けた過失がある。

(エ) 同様に,登記官は,昭和62年1月23日,分筆の結果に基づき別図(丙1)にc76番413等の地番等を記載した本件公図(甲10)を備え付けるに際して,別図からは元番であるc76番1の土地と隣接地との位置関係が不明であったから実地調査をすべきであったのに,これを怠った過失がある。

(被告国の主張)

ア 本件係争地(1)及び(2)の土地とc73番9の位置関係

(ア) 旧公図及び本件公図を対照すると,本件係争地(1)の土地は本件係争地(2)の土地を挟んでc73番9の土地の東側に隣接し,c73番9の土地の西側にはc73番2の公衆用道路が隣接する位置関係にある。

被告国が旧公図及び本件公図と対比して現地調査を実施して作成した実測図(丙6)によれば,本件係争地(1)より東側にある各土地の現在の配列状況は本件公図(甲10)と一致しており,不動産登記簿謄本における各土地の所有者等の状況も占有状況の現状と一致していた。

しかしながら,本件係争地より東側にある土地の配列状況を前提とすると,旧公図及び本件公図上,本件係争地(2)の土地が直接,c73番2の土地に隣接することになり,本件係争地(2)とc73番2の土地に挟まれた位置に表示されているc73番9の土地が現地に存在しないことになる。

(イ) さらに,現在のc73番2の東側の土地(同73番2から分筆された同73番8及び同9の土地)について,昭和42年5月28日付けのc73番2の地積測量図(乙25)に基づいて実測して(乙25において基点とされている仙台市a区b字cと同区e町の字界付近の地点で,ブルーマップ仙台市a区住居表示地番対照住宅地図(丙8)に表示されている字界等を基準として測量した。)作成した実測図(丙6),c73番2の地積測量図(乙25)及び乙25の地積測量図の拡大図(丙7)を対照すると,形状及び方位は必ずしも一致しないものの,本件係争地(1)及び(2)の位置が分筆前のc73番2の土地の位置と重複し,同73番9の土地と一部が重複することが判明した。

(ウ) 以上のことから,本件係争地(1)及び(2)は現況においてc73番9の土地とほぼ重複していること,その原因として,c73番2の地積測量図又は同76番1の地積更正登記に用いられた地積測量図(乙22)のいずれかに誤りがあったため,同73番2又は同76番1のいずれか一方が他方を取り込む形で地積更正登記がされ,その後,同76番1の残地があるものとして本件係争地(1)及び(2)が分筆されたことがと推測される。

(エ) したがって,本件係争地(1)及び(2)が存在しないとの確証はなく,仮に本件係争地(1)及び(2)が存在するとすれば,本件公図(甲10)の地番表示は現況と一致することになるから,原告の主張する登記官及び執行官の過失を問題とする余地はない。

イ 登記官の過失がないこと

(ア) 仮に,本件係争地(1)及び(2)について地番表示の誤りがあるとしても,登記官に本件公図(甲10)及び別図(丙1)の備付けについて地番表示を誤った過失があるというためには,登記官が上記各図面のもととなった地積測量図が添付された登記申請の際に実地調査を行い,土地の現況と公図上の地番表示との整合性を確認すべき義務があった場合でなければならない。

実地調査に関しては,不動産登記法50条1項が,登記官は土地又は建物の表示に関する登記の申請があり,必要あるときは職権で土地又は建物の表示に関する事項を調査することができる旨規定しているところ,具体的な場合における調査の必要性の有無は登記官の合理的裁量に委ねられていると解すべきである。登記官に実地調査の権限が与えられているのは不動産の物理的現況を登記簿に正確に反映するためであるから,表示登記の申請書の添付書類等から当該不動産の現況を把握することができ,当該申請に係る登記事項の正確性が担保されていると認められる場合には実地調査を行う必要はないというべきである。

(イ) c73番2及び同76番1の各土地について地積更正登記がされた当時の不動産登記事務取扱手続準則(丙2。昭和38年4月15日民事甲第931号民事局長通達。以下「旧準則」という。)は79条本文で「不動産の表示に関する登記の申請があった場合には,原則として実地調査を行う」ものとし,同条ただし書3号で「申請書の添付書類又は公知の事実等により申請にかかる事項が相当と認められる場合」には,所要の実地調査を省略しても差し支えない旨規定している。

c76番1の土地から本件係争地(1)が分筆された当時の不動産登記事務取扱手続準則(丙5。昭和52年9月3日法務省民三第4473号通達。以下「準則」という。)も88条において同様の規定を置いている。

仙台法務局管内においては,c76番1の土地の地積更正登記がされた当時,旧準則の内容を具体的に規定した仙台法務局土地建物等実地調査要領(丙3。昭和43年6月29日仙台法務局訓令甲第8号。以下「旧要領」という。)を定め,6条1号で「地積の増加を伴う地積変更・更正の登記において,印鑑証明書のある隣地所有者の承諾書が添付されている場合」,同条6号において「申請書の添付書類等により申請にかかる事項が相当と認められる場合」には実地調査を省略できるとしている(c73番2の土地について地積更正登記が行われた当時には旧要領は存在せず,不動産登記法法50条1項及び旧準則に従った取扱いをしていた。)。

本件係争地(1)の土地について分筆登記がされた当時の仙台法務局不動産表示登記事務取扱要領(丙4。昭和61年7月8日仙台法務局訓令第8号。以下「要領」という。)は29条において,隣接地所有者の立会いがなく,かつ,既設の筆界杭等の境界標のない表示,地積の変更・更正,分筆事件については実地調査を省略しないものとする一方,40条において,土地家屋調査士が表示に関する登記申請等をする場合には,当該不動産の調査測量の結果について所定の様式により作成した調査書を添付するよう協力を求めるものとし,67条4項で分筆登記申請書には隣接地所有者等の筆界確認証明書又は測量した者が作成した関係人の立会証明書の添付を求めることとし,同条5項で前項の証明書は土地家屋調査士が調査測量した場合において,その結果を記載した調査書に筆界が確認されたことが記載されている場合には当該調査書の添付をもって代えることができる旨規定している。旧要領の施行当時,土地家屋調査士を代理人とする地積更正登記の申請にはもれなく隣接地所有者の承諾書が添付されており,要領の施行後も,土地家屋調査士を代理人とする登記申請の場合,すべて筆界が確認された旨の記載のある調査書が添付されている。

土地家屋調査士は不動産の表示登記手続の円滑な実施に資するため,実地調査を行って現況を確認し,現況どおりに必要な書面を作成することを職責とする(土地家屋調査士法1条,2条)から,土地家屋調査士が作成した書面は当該不動産の現況を専門的知識に基づき十分確認して正確に作成したものと推認することができる。したがって,土地家屋調査士の作成に係る書面を添付して表示登記の申請がされた場合,書面の内容の正確性について疑いを抱くべき特段の事情がない限り,登記官は改めて実地調査を行う必要はなく,そのような場合に実地調査を省略しても過失はないというべきである。

(ウ) 本件では,c73番2及び同76番1の地積更正登記がされた当時の登記申請書並びに本件係争地(1)及び(2)が同76番1から分筆された当時の登記申請書は保存期間の経過により現存しないが,登記申請書に添付された地積測量図(乙22・23)が現存しており,その記載から土地家屋調査士を代理人としていたことが明らかである。

(エ) 本件係争地(1)の分筆登記申請は土地家屋調査士の作成に係る書面を提出してされているところ,その申請に当たり提出された地積測量図(丙9)において隣接する土地の地番は,西側がc76番384(昭和62年9月12日,同地番から76番413が分筆された。),東側がc76番305,同302と表示されている。これは本件公図(甲10)の地番表示とも一致しているから,申請どおりに分筆することに疑いを抱くべき特段の事情があったとはいえない。

(オ) したがって,登記官は,当時の準則及び要領に従って調査書等の添付書類から登記事項が相当なものであると判断したのであって,各申請に係る事項の相当性を疑うべき特段の事情が存在するとは窺われないから,登記官が実地調査を行わなかったことに過失があるとはいえない。

ウ 原告は,昭和43年11月7日,c76番1の土地が分筆された際に備え付けられた別図(丙1)について,旧附属地図(乙12)と比較するとc76番1の土地の形状が異なっていることが明らかである旨主張する。

しかしながら,旧附属地図のような土地台帳附属地図は,明治時代に地元住民が当時の稚拙な測量技術に基づいて一筆ごとの筆界図を作成し,それをつないで字限界図としたものである上,山林については地租を軽減するため現況よりも小さく作図されていることが多いのが実情であって,各筆の土地の位置関係,形状,面積の広狭等について現況と一致しないことが多く,現地復元性を有しないものが大半であること,別図(丙1)は,c76番1の土地の分筆登記申請に当たり提出された地積測量図(乙22)に基づき調製された図面を法務局に備え付けられていた旧附属地図(乙12)の別図として備え付けたものであり,旧附属地図とは縮尺及び作成経過が異なる上,別図作成時には,従来山林であったc76番1は既に宅地として整地されており,旧附属地図作成時とは現況に変化が生じていたことからすれば,両図に表示されたc76番1の土地の形状が一致しないことは当然であり,登記官が同土地の分筆登記申請に当たって実地調査をしなかったことに過失はない。

(2) 本件現況調査報告書を作成した執行官に,本件係争地(1)の所在の調査確認を怠った過失があるか。

(原告の主張)

ア 甲執行官は,旧附属地図(乙12)及び別図(丙1)等の関係各土地の公図及び地積測量図と現地の状況を対比して確認することにより,本件係争地(1)が実在しないことを容易に知り得たにもかかわらず,これを怠った。

イ また,被告Aが送電線を設置するに当たっては,地役権を設定するのが通常であるところ,甲執行官は本件係争地(1)に送電線が設置されていると認識していたにもかかわらず,地役権設定登記がされていなかったのであるから,さらに,被告A及びC不動産に対して問い合わせるなどして,本件係争地(1)についての地役権設定の有無や占有状況及び利用権原の有無について調査すべき義務があった。仮に,甲執行官が上記のような調査を進めれば,本件係争地(1)が1号鉄塔を基点とする送電線の線下地ではないことを容易に知り得た。それにもかかわらず,甲執行官は,本件係争地(1)の登記簿謄本の記載のみから,同地上に地役権が設定されていないものと速断し,被告Aの本件係争地(1)についての地役権設定の有無や占有状況,利用権原についての調査を怠り,その結果,本件係争地(1)の所在を誤った。

(被告国の主張)

(ア) 仙台地方裁判所の執行官が現況調査を行う場合,通常,現況調査命令を受けた時点で法務局に申請して公図の写し,競売物件の登記簿謄本及び地積測量図の交付を受け,執行官室備付けのゼンリン住宅地図(甲7の10枚目と同様のもの)等を照合して目的不動産の所在,地番を確認した上,現地に赴いてこれらに表示された競売物件の地番や位置関係,形状,地積等が現況と一致しているかを確認し,競売物件の位置関係や所在,地番に疑問があり,その形状,面積等が現況と食い違う場合には現況調査に評価人を同行したり,当該物件の所有者に面接して事情を聴取したりしている。

民事執行手続には迅速な事務処理の要請による時間的な制約があるほか,現況調査費用が執行費用の一部として配当に先立って対象不動産の売却代金から控除されるため,過大な支出を控えなくてはならないという制約もあることから,一般的に入手可能な上記資料に表示された競売物件の地番や位置関係,形状,地積等が現況と一致している場合には,公図等の表示に誤りがないかといった観点から更に立ち入った調査を行うまでの注意義務はないというべきであり,通常,執行官が行っている程度の調査方法が行われていれば,注意義務を果たしているというべきである。

(イ) また,民事執行規則29条1項4号ロにより現況調査報告書に「占有者の表示及び占有の状況」を記載すべきものとされるのは,土地についての現実の支配関係を明らかにし,同号ハの「占有者が債務者以外の者であるときは,その者の占有の開始時期,権原の有無及び権原の内容の細目についての関係人の陳述又は関係人の提示に係る文書の要旨及び執行官の意見」などとともに,売却に伴う権利変動と買受人が目的物の引渡を求める相手方及びその難易の判断の資料とする趣旨である。これは,占有者が債務者以外の者である場合には,民事執行法59条によって,その占有権原いかんでは売却によって消滅せず,買受人が引き受けなくてはならない場合があるため,民事執行規則29条1項4号ハの事項を関係人から聴取した内容又は関係人から提示を受けた文書の要旨といった客観的な資料を現況調査報告書に記載すべきとしたものであり,上記の趣旨からすれば,執行官は現況調査報告書に通常の調査方法によって入手し得た客観的資料及び意見を記載すれば足りるというべきである。仮に,執行官が通常の調査を尽くしても,客観的資料を収集できなかったり,あるいは客観的資料を入手できたものの,占有権原についての判断が困難な場合にはその旨記載すれば足り,それ以上の調査,解明義務はない。

イ 甲執行官は,本件係争地(1)についての現況調査命令を受け,立入調査に先立って仙台法務局に赴き,本件係争地(1)の登記簿謄本(甲1),本件公図(甲10),地積測量図,隣接地である本件係争地(2)の登記簿謄本(甲7の3枚目)の交付を受け,これらと別に住宅地図(甲7の10枚目)を入手して,本件係争地(1)の位置関係等を確認した。

甲執行官は,平成5年6月14日,本件係争地(1)の立入調査を行い,登記簿謄本の所在,地番,公図,所在図に示された場所,形状等が現況と一致していることを確認し,本件係争地(1)の辺縁を計測して,これと地積測量図記載の辺縁とを照合して,本件係争地(1)の面積を概算して公簿面積と一致することを確認した。甲執行官は,本件現況調査以前にもC不動産の所有する物件の現況調査を行ったことがあり,その中には所在,地番等が公図等と一致しないものもあったが,本件係争地(1)は公図等に示された所在,地番,形状等と現況がほぼ完全に符合していた。

そのため,甲執行官は評価人等の立会いを求めなかった。

また,立入調査の当時,C不動産の代表者は行方不明となっていて事情聴取を行うことは困難であった。

本件係争地(1)は,その全部又は一部がc73番9の土地と重複し,その表示が誤っている可能性があることは既に主張したとおりであるが,甲執行官の行った本件係争地(1)の位置の特定自体に誤りはなく,また,甲執行官において,本件係争地(1)が実在しないのではないかとの疑問を差し挟む余地はなかったというべきであるから,立ち入った調査を行うべき義務があったとはいえない。

さらに,本件係争地(1)とc73番9の土地が重複することを調査することは,登記官ですらその可能性に気づくことができず,本件提訴後の現地調査によっても本件係争地(1)の存否を確定することができない状態にあることからすれば,仮に,甲執行官が本件係争地(1)の特定を誤ったとしても注意義務違反はないというべきである。

(ア) 甲執行官は,立入調査の際,近隣住民から本件係争地(1)をゲートボール場として使用していると聞き,また同土地上にプレハブの建物が存することを確認したため,同年7月5日,本件係争地(1)の現況等に関してc町町内会会長丙から,占有開始時期,占有権原(使用借権)について事情聴取を行い,本件現況調査報告書に占有者及び占有の状況としてその旨記載した。

(イ) さらに,甲執行官は所在図(甲7の10枚目)のとおり,本件係争地(1)の上空に送電線が架設されていること,送電線が本件係争地(1)及び(2)の境界付近に架設されていることを確認した。甲執行官は,本件係争地(1)の上空に送電線が架設されているが,地役権設定登記は存しないことを確認したものの,送電線下にある土地の場合,一般的に建築規制があることを認識していたため,同年7月16日,被告Aの仙台技術センターに対して,所在及び地番を明言せずに送電線の線下地に関する利用規制について電話照会をした。その結果,同センターの丁主査(以下「丁主査」という。)から,線下地は電気事業法48条,電気設備に関する技術基準を定める省令第133条の規制に服し,建造物の築造等が禁止等される旨の回答を得た。

(ウ) 原告は,被告Aが送電線を設置するに当たっては,地役権を設定するのが通常であるところ,本件係争地(1)については地役権設定登記がされていなかったのであるから,甲執行官は被告A等に問い合わせるなどして更に調査すべきであった旨主張するが,仮に被告A仙台技術センターに対し,本件係争地(1)を特定して土地の利用制限について照会をしたとしても,本件係争地(1)の地役権設定の有無やc73番9の土地との関係につき回答を得ることは困難であった。

そして,甲執行官は,被告A仙台技術センターに対し一般的な利用規制の有無について照会を行い,その結果,本件係争地(1)には送電線が架設されているため建造物の築造等が制限されること,この制限は法的規制であり,地役権の設定の有無は関係ないことを現況調査報告書に記載しているのであるが,一般的に線下地に関して法的利用規制があることが明らかになれば,不動産の評価の資料としては十分というべきであるから,その照会方法が不相当であったとはいえない。

なお,C不動産の代表者からの事情聴取が困難であったことは,上記イのとおりであった。

(3) 因果関係

(原告の主張)

原告は,本件係争地(1)の買受けにより線下補償が受けられると誤信して,本件係争地(1)を買い受けた。これは,本件現況調査報告書に本件係争地(1)について被告Aの地役権設定がされている旨の記載がされていなかったことによるものであり,また,本件現況調査報告書の記載の誤りは本件公図の表示の誤りに起因する。

(被告国の主張)

ア 本件現況調査報告書には,原告の本件競売事件申立てに係る本件係争地(1)の位置関係及び現況が記載されているに過ぎず,その記載に誤りはないし,原告が本件係争地(1)の買受けにより被告Aから線下補償を受けられるかどうかは前所有者らと被告Aとの間の線下補償契約締結の有無及びその内容によるから,本件現況調査報告書の記載と原告の主張する損害との間に相当因果関係はない。

また,公図は,各筆土地の位置関係,形状,面積の広狭等において現地の状況と必ずしも符合せず,地図としての正確性及び現地復元性に欠けるから,公図と現況との間に相違があっても,特段の事情がない限り,これを誤認したことによる損害との間には相当因果関係は認められないというべきである。

イ 原告は,C不動産の所有する本件係争地(1)についてD観光から債権譲渡を受けて本件抵当権を有していたところ,自ら,本件競売事件を申し立て,本件係争地(1)を買い受けた。

一方,c73番9の土地について,C不動産の前の所有者であったB商事は,D観光に対する抵当権設定に先立つ昭和42年12月16日,被告Aのために地役権設定契約をしていた。

このような経緯からは,C不動産は,本件係争地(1)がc73番9の土地と重なり合う位置にあることを認識し得たと考えられる。そして,原告が本件係争地(1)の抵当権を取得した経緯に照らせば,本件係争地(1)とc73番9の土地の位置関係について疑問を抱くことはさほど困難であったとは解されない。

したがって,仮に本件公図の地番表示に誤りがあるとしても,原告はこれを知りながら本件係争地(1)及び(2)を取得したもので,被告国が公図の誤りについて責任を負うべき特段の事情はないというべきである。

(4) 損害

(原告の主張)

ア 原告は,本件係争地(1)の買受代金を支払ったにもかかわらず,競売対象の土地が存在しないため,所有権を取得できなかったから,買受価額相当額である3200万円の損害を被った。

本件係争地(1)は,現時点において,他の者から権利主張がなく,原告が駐車場として使用しているが,それは事実上の使用収益に過ぎず,今後,使用収益できなくなる可能性も十分にあるし,原告が今後本件係争地(1)を売却することは困難であるから,買受価額相当額の損害を被っていないとはいえない。

イ 仮に,買受価額相当額の損害を被っていないとしても,原告が,最低売却価額の1614万7000円の約2倍の価額で本件係争地(1)を買い受けたのは,本件現況調査報告書及び本件評価書の記載から線下補償を受けられると考えたために他ならず,仮に線下補償を受けられないのであれば,そのような価額で買い受けることはなかった。

線下補償は,1平方メートル当たりの土地価格(3万3500円)に補償面積を乗じたものに,送電線による線下地利用阻害の割合を乗じた額とされている。本件係争地(1)については送電線の位置関係から全体(482平方メートル)が補償対象となり,本件係争地(1)の利用阻害の割合は,送電線の保安上支障がない限り地表の利用が可能であるものの,建造物の築造が禁止されるから,少なくとも60パーセント程度である。したがって,線下補償相当額は968万8200円を下らない。

(被告国の主張)

ア 原告は,本件係争地(1)であるとして抵当権が設定,実行された土地が実在しない旨主張するが,本件係争地(1)がc73番9の土地の一部とほぼ重複する可能性はあるものの,本件係争地(1)の土地が存在しないと確定することはできない。

また,原告は,本件係争地(1)の前所有者であるC不動産その他の第三者から同土地について権利を主張されているわけでもなく,現にこれを占有して駐車場として使用している。

したがって,本件係争地(1)の権利行使が不可能となっているとはいえず,現に本件係争地(1)の買受価額相当額の損害が生じているとはいえない。

イ 線下補償について

(ア) 送電線の下にある土地については建物の建築等が制限されるため,競売物件の評価に当たっても考慮されるから,買受人も買受けに当たって線下補償が受けられないことを前提に買受価額を検討することが可能なはずである。

本件係争地(1)について,評価人は評価額の算定に当たり線下地であることを減額要素として考慮しており,本件係争地(1)の鑑定評価額は1614万7000円と算定されている。

(イ) 被告Aは,送電線下にある土地の所有者との間で,送電線の架設のため地役権を設定するとともに,一定額の線下補償を一時金で支払う旨の線下補償契約を締結しているが,線下補償の支払後,当該土地について所有権の移転がされた場合でも新所有者に対する新たな補償は行っていないため,前所有者に線下補償が支払われた後で当該土地を買い受ける場合には,その現況や線下補償が既払いであることを考慮して買受価額を決めるべきなのである。

原告は,前所有者であるC不動産に対して線下補償が支払われた後で,本件係争地(1)を買い受けたものであり,そもそも線下補償の支払を受けることを期待し得なかったから,原告の線下補償額相当額の得べかりし利益が侵害されたということはできない。

(ウ) 原告は鑑定評価額のおよそ2倍に当たる3200万円で本件係争地を買い受けているが,線下補償の価額水準と比較すると,線下補償を受けられることを期待したことによるものであるとは考え難い。

(5) 国家賠償法と瑕疵担保責任等の売主の責任との適用関係

(被告国の主張)

原告が本件係争地(1)の所有権を取得できないことになったとしても,競売によって成立した債権者及び債務者間の法律関係は私法上の売買契約と同様と考えられるから,原告は債務者であるC不動産に対して瑕疵担保責任等の売主の責任を問うべきであり,C不動産が無資力であるため,そのような請求をすることができない場合を除いては,直ちに被告国に対し,国家賠償法に基づく損害賠償請求をすることは許されないというべきである。

(原告の主張)

ア 売主の責任を問うか,国家賠償法上の責任を問うかは債権者に自由な選択権があるというべきである。

イ 仮に,被告国の主張どおりであるとしても,債務者であるC不動産について競売申立てがされていることから,C不動産が無資力であることが明らかであり,原告は被告国に対して国家賠償法に基づく損害賠償請求をすることができる。

(6) 登記官の行為に基づく損害賠償請求権に関する除斥期間

(被告国の主張)

c76番1の土地の地積更正登記がされたのは昭和43年10月29日であり,別図(丙1)が備え付けられたのは,昭和43年11月7日であるところ,原告が主張する登記官の過失は上記各日又はそれ以前の時点における登記官の行為を理由とするものと解される。

そうすると,第2事件の訴えは各行為から20年以上経過した後の平成11年6月18日に提起されたものであるから,仮に登記官の行為に基づく損害賠償請求権が発生しているとしても除斥期間の経過により消滅した。

(原告の主張)

被告国の主張は争う。

第3争点に対する判断

1  本件の事実経過

前示争いのない事実等に,証拠(甲1,2,10,乙1ないし4,6,7の1ないし4,9ないし14,15の1ないし3,18ないし20,21の1ないし4,22ないし25,丙1,9,17,18,証人甲)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。

(1)  本件係争地(1)及び(2)に関する分筆の経緯等

ア c76番1の土地は,もとf神社の所有であった。

イ f神社は,昭和43年9月19日,c76番1にc76番2の土地を合筆した。

ウ f神社は,昭和43年10月14日,c76番1の北側及び西側外周部分の土地を同76番4ないし7として分筆した。

エ C不動産は,昭和42年5月31日,f神社からc76番1の土地を買い受け,昭和43年10月23日,所有権移転登記を経由した。

オ C不動産は,昭和43年10月29日,c76番1の土地の地積を1万7186平方メートルから12万6267平方メートルに更正する登記手続をした。

カ C不動産は,昭和44年1月9日,ウで分筆されたc76番4及び76番6の土地について,f神社から昭和43年10月30日付け売買を原因として所有権移転登記を経由した。

キ C不動産は,オの後,c76番1の土地の分合筆を繰り返した。

本件係争地(1)の土地は,C不動産が昭和62年1月23日,76番1の土地の西側を地積482平方メートルとして分筆したものである。

ク 他方,C不動産は,f神社から,ウのとおり分筆されたc76番7の土地を,昭和46年5月11日買い受けて,同月22日所有権移転登記を経由し,昭和55年3月14日,同土地から同76番384ないし同387を分筆し,さらに,昭和62年9月21日,c76番384から本件係争地(2)を地積347平方メートルとして分筆した。

(2)  c73番9の土地に関する分筆等の経緯

ア c73番2の土地は,もとf神社の所有であったところ,B商事は,昭和42年3月28日,f神社から同土地を買い受け,同年4月21日,所有権移転登記を経由した。

B商事は,同年7月11日,c73番2の土地の地積を2313平方メートルから9941平方メートルに更正する登記手続をした。

イ B商事は,昭和42年12月12日,c73番2の土地から同73番8及び同73番9を分筆した。同73番8の地積は919平方メートル,同73番9の地積は4349平方メートルとされた。

仙台法務局備付けの旧附属地図上,c73番9の土地は,同76番7の土地の西側に隣接する位置に表示され,同76番7の土地の東側には同76番1が表示されている。

ウ 被告Aは,昭和42年12月18日,B商事から,c73番8の土地を買い受け,同日,所有権移転登記手続を了した。被告Aは,それ以後,同73番8の土地を1号鉄塔の敷地として使用している。

エ 被告Aは,昭和42年12月16日,B商事との間で,c73番9の土地を1号鉄塔から架設される送電線の線下地として使用するための地役権設定契約を締結し,同月18日地役権設定登記を経由した。

オ C不動産は,昭和46年10月9日,B商事からc73番9の土地を買い受け,同月19日,所有権移転登記を経由した。

カ c73番2の土地は,イの後も,昭和50年にかけて分筆が繰り返され,現在,公衆用道路として使用されている。

(3)  地積測量図の作成及び公図の備付け等について

ア c76番1及びその隣接地については,仙台法務局に,明治時代に調製された縮尺6000分の1の旧附属地図(乙12)が備え付けられていた。なお,同地図は昭和59年2月22日,ポリエステルフィルムにより再製され,本件公図作成前の公図として備え付けられている(乙1。なお,本件記録中の乙1の写しに記載された方位は不正確なものである。)。

イ 昭和43年10月14日,c76番1から同76番4ないし同7の土地が分筆された際,縮尺1000分の1の地積測量図(乙21の1ないし4)が戊土地家屋調査士(以下「戊土地家屋調査士」という。)により作成された。

ウ c76番1の土地につき,(1)オの地積更正登記がされた際,縮尺3000分の1の地積測量図(乙22)が戊土地家屋調査士により作成,提出された。

エ 昭和43年11月7日,c76番1の土地が,同76番1及び同76番8ないし109に分筆された際,旧附属地図に分筆後の図画線(分筆線)及び地番を記入する必要が生じたが,旧附属地図の縮尺は6000分の1と小さかったため,記入は不可能であった。そのため,(1)ウの分筆登記の申請の際に戊土地家屋調査士によって作成,提出された地積測量図(乙22)に基づき,上記分筆に係る土地部分だけについて,和紙で調製した図面(丙1)が旧附属地図の別図として,上記分筆に係る土地部分のみの公図として備え付けられた。

オ その後,c76番1の土地が分筆されるたびに別図に地番が書き加えられてきたが,昭和59年2月22日,地図整備のため,ポリエステルフィルムにより再製され,縮尺500分の1の本件公図(甲10)が備え付けられた。なお,別図は,上記ポリエステルフィルム再製により閉鎖され,現在では利用されていない。

カ 昭和62年1月23日に本件係争地(1)がc76番1の土地から分筆された際の登記申請書には,己土地家屋調査士(以下「己土地家屋調査士」という。)が同月16日付けで作成した縮尺250分の1の地積測量図(丙9)が添付された。

キ c73番8及び同73番9については,(2)イの分筆登記の際,戊土地家屋調査士により地積測量図(乙23,24。ただし,c73番8と同9の地番が逆に表記されている。)が作成された。

ク 上記分筆前のc73番2については,昭和42年7月11日の地積更正登記の際に添付された同年5月28日付けの戊土地家屋調査士作成の縮尺600分の1の地積測量図(乙25)がある。

2  第1事件の争点(1)(本件係争地(1)及び(2)の上空に,被告A所有の送電線が架設されているか)について

(1)  本件係争地(1)及び(2)の所在について

ア 関係土地の現況について

前示争いのない事実等及び証拠(甲7ないし10,乙1,4,5の1・2,8,13,16,17の1・2,丙8)によれば,次の事実が認められる。

(ア) 原告が本件係争地(1)及び(2)であると主張する土地は,本件評価書に対象不動産及びその西側ゲートボール場として記載された土地で,乙5の2の航測図の黄色線で囲まれた範囲の土地であり,その位置関係及び周囲の状況は概ね第2の1(8)のとおりである(この土地を,以下「本件線下地」という。)。

(イ) 本件線下地の西側は,北側とほぼ同じ幅員の道路を挟んで住宅地になっている。この住宅地は,c73番12,16ほかの昭和46年以降(すなわちc73番8,9を分筆した後の)c73番2の土地から分筆された土地とされている。

(ウ) 一方,本件線下地の東側はc76番302,305の昭和46年3月11日にc76番1から分筆された土地,南側の資材置き場はc76番385,411,その南側は道路を挟んでc76番387,409のいずれもc76番1又は同76番7から分筆された土地とされているが,その道路を挟んだ南隣には,昭和42年建設された1号鉄塔が存在するところ,その敷地はc73番8である。

(エ) 本件線下地の北側に位置する貯水槽はc72番370及び371の土地である。

イ c73番側について

証拠(乙4,5の1・2,20,23ないし25,27の1ないし3)によれば,次の事実が認められる。

(ア) 昭和36年4月20日にc73番2の土地周辺の航空写真(乙27の1)を撮影した当時,仙台変電所の構内道路の北側に,北西方向から南東方向に走る道路状の土地があり,その東側に南北2つの溜池とその間を蛇行して流れている沢があった。

(イ) 他方,昭和42年7月11日にc73番2について行われた地積更正登記の登記申請書に添付された,同年5月28日付けの同73番2の地積測量図(乙25)には,北西方向から南東方向に仙台市b字eとの字界に位置する道路が記載されている。c73番2の土地は道路を底辺として見た場合,直角三角形に近い形状をしているところ,最長となる辺に該当する部分は不整形で,3箇所凸部分があった。

(ウ) これらの航空写真(乙27の1。縮尺1000分の1のもの。)とc73番2の地積測量図(乙25)を縮尺1000分の1に縮小したもの(乙27の2)とを対照すると,地積測量図において不整形な部分の形状と,航空写真上,南北2か所に位置する溜池と蛇行している沢の形状とがおおむね一致する。そして,地積測量図において不整形な部分と航空写真上の蛇行する沢とを重ね合わせると,地積測量図における仙台市b字eとの字界の道路も航空写真上の道路状の土地に重なる。

これによれば,分筆前のc73番2の土地は字界である沢に接して,沢のすぐ西側に位置していたことが認められる。

(エ) 同年12月12日にc73番2について行われた分筆登記の登記申請書に添付された同月1日付けの同73番8及び同9の地積測量図を縮尺1000分の1に縮小したもの(乙27の3)を,上記同73番2の地積測量図を同縮尺に縮小したもの(乙27の2)に重ね合わせると,同73番2の土地の東側の不整形な部分が同73番9の土地の東側の境界に重なっており,同73番8及び同9が元の同73番2の土地のうち東側部分にちょうど収まる。そうすると,c73番8及び同9の土地も字界である沢に接して,沢のすぐ西側に位置していたことが認められる。

(オ) 次に,平成9年10月9日に撮影された航空写真(乙5の1)をもとにして作成された航測図(乙5の2。表示では縮尺8000分の1とされているが,これを縮尺1000分の1に引き直したもの。)と,昭和36年4月20日に撮影された航空写真(乙27の1)とを,それぞれに写っている仙台変電所の構内道路の位置を基準として重ね合わせると,1号鉄塔を基点として架設されている送電線の線下地部分(乙5の2の青線で囲まれた部分)は,昭和36年4月20日撮影の航空写真上の蛇行する沢に接して沢のすぐ西側の位置に当たる。特に本件線下地は,北東の角が溜池にかかり,南東の角が沢と接する位置に当たり,c73番2を元番とする土地の範囲に含まれていることが認められる。

ウ c76番側について

(ア) c76番1については,前示1(1)及び(2)のとおり,c73番8及び同9の分筆が行われた後である昭和43年10月14日に当時の所有者であるf神社が,c76番1の土地の外周部分を同76番4ないし同7として分筆した(このように土地の外周部分を分筆することを,以下「額縁分筆」という。)。その後,同年10月23日,同76番1につき,昭和42年5月31日付け売買を原因としてC不動産に対する所有権移転登記がされ,昭和43年10月29日に地積を約7倍に増加させた地積更正登記が行われ,更に昭和44年1月9日には,同76番4及び同6につき,昭和43年10月30日付け売買を原因としてC不動産に対する所有権移転登記がされている。

(イ) c76番1の土地の地積更正登記がされた当時,適用されていた旧要領6条1号は「地積の増加を伴う地積変更・更正の登記において,印鑑証明書のある隣地所有者の承諾書が添付されている場合」には実地調査を省略できる旨定めていたところ,額縁分筆後は,分筆前の隣地所有者ではなく,分筆後の外周部分の所有者が承諾書の作成者となり,分筆前の隣地所有者の承諾や登記官の実地調査を経ないで,地積更正登記をすることが可能であったから,c76番1の地積更正登記は,実体をを反映しないものであった疑いが残る。

したがって,その後,c76番1の土地が分筆を重ねた結果,現況では残地がないにもかかわらず,公簿上は土地が残っているため,これを公簿上だけで分筆して実体のない土地が作出された可能性があり,本件係争地(1)もこのような土地である疑いが否定できない。

(ウ) 他方,本件係争地(2)は,c76番7から昭和55年3月14日分筆された同76番384から昭和62年9月21日更に分筆された土地であるから,その所在はc76番の1から分筆された当時のc76番7の範囲内にあるはずである。

しかるところ,上記当時のc76番7の現況における所在は,本件証拠上判然としないけれども,イで説示したところに旧公図による関係各土地の位置関係を併せ考慮すると,本件線下地部分よりも東側に位置することが窺われる。

エ 前示第2の1(1)の事実に証拠(乙28の1・2)を総合すれば,被告Aが昭和46年10月27日,c76番7の土地の一部が線下地にかかっていると考えて,C不動産に線下補償をした際,被告AとC不動産との間で作成された線下補償契約書に添付された実測平面図には,本件線下地に当たる土地がc73番9として表示されていることが認められる。この事実からは,当時,本件係争地(1)を分筆する前のc76番1及び本件係争地(2)を分筆する前のc76番7の所有者であったC不動産も,本件線下地がc73番9に属するとの認識であったことが窺われる。

オ アの現況にイないしエを併せ考慮すると,本件線下地は,本件係争地(1)及び(2)ではなく,c73番9の一部である疑いが強く残り,ほかに,本件係争地(1)及び(2)が被告Aの送電線の線下地であると認めるに足りる証拠はない。

なお,被告Aが昭和46年10月27日,c76番7の土地の一部が線下地にかかっていると考えて,C不動産に線下補償をしたことは前示第2の1(1)のとおりであるが,この補償対象にした土地に本件線下地が含まれているかどうかは判然としないし,仮に,これが認められるとしても,それは錯誤に基づく疑いが残るから,この事実は,エの判断を左右するものとはいえない。

(2)  したがって,原告の第1事件に係る請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。

3  第2事件の争点(1)(別図を備え付けた登記官及び本件公図を備え付けた登記官に実地調査等を怠った過失があるか)について

(1)  原告は,本件公図は旧附属地図の一部が記載されたものに過ぎず,c76番1の土地と隣接地との関係が全く不明であって,実際に申請通りの分筆が可能か否かは図面上明らかではない上,土地家屋調査士の作成に係る申請書及び各種図面等がすべて現況を反映した正確なものであるとは必ずしも断定できないので,昭和43年11月7日,c76番1の土地の分筆登記申請に当たり提出された地積測量図(乙22)に基づき調製された図面を法務局に備え付けられていた旧附属地図(乙12)の別図(丙1)として備え付けた際,実地調査をすべきであった旨主張しているところ,上記備付けの際に実地調査すべき義務を認めるべき根拠はないから,この主張は,昭和43年10月29日のc76番1の土地の地積更正登記申請又は同年11月7日のc76番1の土地の分筆登記申請の際に実地調査を行うべき義務があったとの趣旨であると解される。

(2)  地積更正登記及び分筆に関する手続について

前示争いのない事実等及び前示1の事実に,証拠(丙1ないし5)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。

ア 登記官は,土地又は建物の表示に関する登記については実質審査権限を有している(不動産登記法49条10号,同法50条1項)ところ,地積更正登記及び分筆登記の申請に際しては,不動産登記法81条2項及び同法81条の2第2項の規定により,地積測量図の添付が義務づけられるものの,実地調査については,登記実務上,登記官による実地調査の省略が認められる場合がある。

c73番2の土地について地積更正登記がされた昭和42年7月11日当時,c76番1の土地について地積更正登記がされた昭和43年10月29日当時及び同76番1について100筆以上に分筆された昭和43年11月7日当時,適用されていた旧準則(丙2)は,79条本文で「不動産の表示に関する登記の申請があった場合には,原則として実地調査を行う」ものとし,同条ただし書3号で「申請書の添付書類又は公知の事実等により申請にかかる事項が相当と認められる場合」には所要の実地調査を省略して差し支えない旨規定している。

c76番1の土地から本件係争地(1)が分筆された昭和62年1月23日当時,適用されていた準則(丙5)も88条において同様の規定を置いている。

イ 仙台法務局管内においては,c76番1の土地の地積更正登記がされた昭和43年10月29日及び同76番1について100筆以上に分筆登記がされた昭和43年11月7日当時,旧準則の内容が旧要領(丙3)において具体的に示されていた。

旧要領6条1号は「地積の増加を伴う地積変更・更正の登記において,印鑑証明書のある隣接地所有者の承諾書が添付されている場合」,同条2号ないし5号は,官公署又はこれに準ずるものの証明書等が添付されている場合,同条6号は「申請書の添付書類等により申請にかかる事項が相当と認められる場合」には実地調査を省略できる旨定めていた。(c73番2の土地について地積更正登記が行われた昭和42年7月11日当時には,旧要領が存在せず,不動産登記法50条1項及び旧準則に従った取扱いがされていた。)

また,本件係争地(1)の土地が分筆された昭和62年1月23日当時には旧要領は改正されており,要領(丙4)が適用されていた。要領は29条において,隣接地所有者の立会いがなく,かつ既設の筆界杭等の境界標のない表示,地積の変更・更正,分筆事件については実地調査を省略しないものとする一方,40条において土地家屋調査士が表示に関する登記申請等をする場合には,当該不動産の調査測量の結果について所定の様式により作成した調査書を添付するよう協力を求めるものと定めている。

要領67条4項は,分筆登記申請書には隣接地所有者等の筆界確認証明書又は測量した者が作成した関係人の立会証明書の添付を求めることとする,同条5項は前項の証明書は土地家屋調査士が調査測量した場合において,その結果を記載した調査書に筆界が確認されたことが記載されている場合には当該調査書の添付をもって代えることができる旨規定している。

ウ 上記各規定に照らすと,これらが想定している「申請にかかる事項が相当と認められる場合」とは,官公署の作成した証明書又はこれに準ずる証明力を有する書類が添付されている場合を指すものと解される。

この点,土地家屋調査士は「不動産の表示に関する登記手続の円滑な実施に資し,もって不動産に関する国民の権利の明確化に寄与すること」(土地家屋調査士法1条)を職責とするものであることにかんがみると,土地家屋調査士が作成した書面は,当該不動産の現況を専門的知識に基づき調査,測量した上で正確に作成するものというべきであるから,官公署の作成した証明書と同等の証明力を有するものと認めるのが相当である。

したがって,土地家屋調査士の作成に係る地積測量図等の書面を添付して表示登記及び地積更正登記の申請がされた場合,登記官が添付書類の内容の正確性について疑いを抱くべき特段の事情がない限り,登記官は改めて実地調査を行う必要はないというべきである。

エ 昭和42年7月11日のc73番2の地積更正登記,昭和43年10月29日のc76番1の地積更正登記をはじめ,本件に関する登記申請書類は保存期間(不動産登記法施行細則37条の3)の経過により現存していない。しかし,登記申請手続において提出された地積測量図は永久に保存されることとなっている(同細則37条の4第1項)ため,前示1(3)のとおりの地積測量図が現存するところ,各登記申請手続に際しては戊土地家屋調査士又は己土地家屋調査士が作成した地積測量図が添付されていたことから,いずれの申請手続についても土地家屋調査士が代理していたと認められる。

(3)  そこで,昭和43年10月29日付けのc76番1の地積更正登記が申請された際,担当登記官において添付書類の内容の正確性について疑いを抱くべき事情があったかどうかを判断する。

ア 上記地積更正登記の申請の15日前である同月14日付けで,c76番1から外周部分の土地が同76番4ないし7として分筆されていたことが不動産登記簿謄本の記載から容易に認識できるところ,上記更正登記の申請は,内側部分に当たるc76番1の地積を約7倍に拡大する内容のものであった。

イ しかしながら,前示のとおり,c76番1の土地の地積更正登記の申請には戊土地家屋調査士の作成した地積測量図(乙22)が添付されていたところ,登記官にその記載が虚偽であることを具体的に疑わせるような資料があったことは証拠上窺われず,証拠(乙13,丙10ないし15)によれば,c76番1は従前山林であった土地であること,地目が山林で急峻な地形の土地については数倍から数十倍に地積が拡張する更正登記が行われることも稀ではないと認められることを併せ考えると,アの点は,戊土地家屋調査士の作成した地積測量図の真実性を疑うべき事情とはいえない。

ウ 原告は,旧附属地図と別図では同76番1の形状が異なっていることが明らかであるから,担当登記官は,仮に実地調査をしなくても,別図では同76番1の土地が水増しして表示されていることを認識することができた旨主張するが,旧附属地図のような土地台帳附属地図は明治時代に調製されたものであるところ,その作成目的が租税徴収にあったことは公知の事実であり,当時の測量技術の水準に照らして,一般に現地復元性が低いとされていることにかんがみると,これとの比較からc76番1の土地の地積更正登記の申請時に添付された地積測量図(乙22)の真実性を疑うべきであったとするのは無理がある。

(4)  (3)アないしウに徴すれば,昭和43年11月7日のc76番1の土地の分筆登記申請時に実地調査を行う義務があったとも認めがたい。

(5)  原告は,担当登記官は,昭和62年1月23日,分筆の結果に基づき別図(丙1)に本件係争地(1)等の地番等を記載した本件公図(甲10)を備え付けるに際して,実地調査をすべきであった旨主張するが,前示(1)と同様の理由から,この主張は,本件公図の基礎となった本件係争地(1)の地積測量図(丙9)が添付された昭和62年1月23日の本件係争地(1)の分筆登記申請手続の際に,実地調査をすべき義務があったとの趣旨と解されるところ,上記分筆登記申請は,己土地家屋調査士の作成に係る地積測量図(丙9)を提出してされたものであること,本件係争地(1)の隣接地番は,その分筆登記申請に当たり提出された地積測量図(丙9)において,西側がc76番384(76番413の土地は,昭和62年9月12日,同地番から分筆された。),東側がc76番305,302と表示され,これは本件公図(甲10)の地番表示とも一致していることを併せ考えると,上記分筆登記申請の際に,担当登記官において,己土地家屋調査士作成に係る地積測量図の真実性に疑問を抱くべき事情があったとはいえないから,原告の主張は採用できない。

(6)  以上によれば,担当登記官が各登記申請の際に,実地調査を怠った過失があると認めることはできない。

4  第2事件の争点(2)(本件現況調査報告書を作成した執行官に,本件係争地(1)の所在の調査確認を怠った過失があるか)について

(1)  甲執行官の現況調査について

前示争いのない事実等に,証拠(甲7,8,乙18,19,丙9,18,証人甲)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。

ア 甲執行官は,本件係争地(1)の現況調査命令を受けた後,仙台法務局に赴いて,対象不動産である本件係争地(1)の登記簿謄本及び地積測量図の写し(本件現況調査報告書に添付されたもの)の交付を受け,当該不動産の地番,所在等を確認した。

イ 甲執行官は,通常,現況調査を行うに先立ち,法務局で交付を受けた対象不動産の登記簿謄本(ただし,登記簿謄本が競売申立書に添付されており,執行裁判所から交付されることもあった。),公図,地積測量図,現場案内図及び市販の住宅地図等を比較して,位置関係や所在地番等に疑義があると思われる場合には,立入調査の際に不動産鑑定士を同行することとしていた。また,立入調査の際には,対象不動産の所有者の所在が明らかな場合には,原則として所有者に立ち会ってもらうこととしていた。

甲執行官は,本件係争地(1)の現況調査以前に5件程度,同土地付近のC不動産の所有に係る競売不動産の現況調査を担当したことがあったが,それらについては現地で所在地番を特定できないものも少なくなかった。それらの場合,甲執行官は,C不動産の代表者に面接して,対象不動産の地番や位置関係について確認するとともに,立入調査の際には不動産鑑定士を同行していた。

しかし,本件係争地については,仙台法務局で交付を受けた本件公図の写し,地積測量図及び現場案内図等を比較して,位置関係や地番配列が符合しており,公簿面積と現況の面積もおおむね一致しているので,不動産鑑定士を同行する必要はないと考えた。

甲執行官は,C不動産の代表者に面会し,立会いを求めようとしたが,平成5年6月当時,同代表者は所在不明であったこと,公図の写しと現場案内図とを比較して,位置関係や所在地番等に疑義があるとは考えられなかったことから,それ以上代表者の所在を探索しなかった。

ウ 甲執行官は,平成5年6月14日午前11時35分から午後0時5分ころにかけて,本件係争地(1)の立入調査を行った。

その際,同執行官は,本件係争地(1)が隣接地である本件係争地(2)とともに,c町町内会のゲートボール場として使用されていること,プレハブ物置が設置されていることを確認するとともに,本件係争地(1)及び同(2)との境界付近の上空に南北の方向に送電線が架設されていると認識した。

そこで,甲執行官は,c町町内会長丙に対して電話照会をし,本件係争地(1)及び(2)の所有者であるC不動産から両土地を年間1万円で借り受けていること,平成5年度分の使用料はC不動産と連絡が取れないため,地代を支払っていない旨の回答を得た。また,甲執行官は,本件係争地(1)の不動産登記簿謄本上,地役権の設定登記がないことを認識していたが,現に送電線の線下地となっていることから利用制限が課されている可能性があり,仮に,利用制限が課されているとすると,買受人の利用が妨げられ,本件係争地の評価に影響すると考えて,被告Aに確認することとした。

甲執行官は,被告A仙台技術センターに,対象不動産の所在及び地番を特定せずに,一般的な送電線の線下地の利用規制について照会したところ,同センター送電技術課の丁主査から,一般的に線下地は27万5000ボルトの送電線路下にあるため,建造物の築造,工作物の設置,立木の植栽,土地の形質変更及び送電線の設置,保守等に支障となる行為,爆発性,引火性を有する危険物の製造,取扱い及び貯蔵が禁止されること,また,これらは電気設備に関する技術基準を定める省令第133条等による法的な規制である旨の回答を得た。

エ 平成5年当時,仙台地方裁判所所属の執行官の定員は5名であり,各執行官が1か月に担当する現況調査の件数は約10件であった。

(2)  民事執行手続における現況調査(民事執行法57条)の目的は,執行官が執行裁判所の命令に基づいて不動産執行又は不動産競売の目的不動産の形状,占有関係その他の現況を調査し,その結果を記載した現況調査報告書を執行裁判所に提出することにより,執行裁判所に売却条件の確定や物件明細書の作成等のための判断資料を提供するとともに,現況調査報告書の写しを執行裁判所に備え置いて一般の閲覧に供することにより不動産の買受けを希望する者に判断資料を提供することにある。このような現況調査制度の目的に照らすと,執行官は,執行裁判所に対してはもとより,不動産の買受希望者に対する関係においても,目的不動産の現況をできる限り正確に調査すべき注意義務を負うものと解される。もっとも,現況調査は,民事執行手続の一環として迅速に行わなければならず,また,目的不動産の位置や形状を正確に記載した地図が必ずしも整備されていなかったり,所有者等の関係人の協力を得ることが困難な場合があるなど調査を実施する上での制約も少なくない。これらの点を考慮すると,現況調査報告書の記載内容が目的不動産の実際の状況と異なっても,そのことから直ちに執行官が前記注意義務に違反したと評価するのは相当でないが,執行官が現況調査を行うに当たり,通常行うべき調査方法を採らず,あるいは,調査結果の十分な評価,検討を怠るなど,その調査及び判断の過程が合理性を欠き,その結果,現況調査報告書の記載内容と目的不動産の実際の状況との間に看過し難い相違が生じた場合には,執行官が前記注意義務に違反したものと認められ,国は,誤った現況調査報告書の記載を信じたために損害を被った者に対し,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償の責任を負うと解するのが相当である(最(三小)判平成9年7月15日民集51巻6号2645頁参照)。

(3)ア  民事執行手続の迅速という要請から,執行裁判所により現況調査報告書の提出期限が定められ(民事執行規則29条1項),所定の期日までに調査を尽くさなくてはならないという時間的制約があること,及び前示のとおり,本件現況調査の当時,仙台地方裁判所所属の執行官が月平均10件の現況調査を担当する状態であったことを総合考慮すると,甲執行官が,通常行っていた現況調査を行うに先立ち,対象不動産の登記簿謄本,公図,地積測量図,現場案内図及び市販の住宅地図等の比較を行い,その結果,位置関係や所在地番等に疑義があると思われる場合には,立入調査の際に不動産鑑定士を同行するという調査方法は,合理的なものと解される。

(ア)  甲執行官が,本件係争地(1)の現況調査以前に同土地付近のC不動産所有に係る競売不動産の現況調査を5件ほど担当した際には,現地で所在地番を特定できないものも少なくなかったのに対して,本件係争地については,仙台法務局で交付を受けた本件公図の写し,地積測量図及び現場案内図等を比較して,周囲の土地との位置関係や地番配列が符合しており,公簿面積と現況の面積もおおむね一致していると考えて,本件係争地(1)の所在を特定していることは前示のとおりである。

(イ)  前示2(1)の事実に,証拠(甲7,8,10,乙5の1・2,丙8)及び弁論の全趣旨を総合すれば,本件公図と現況において,本件係争地(1)及び(2)の所在位置とその東側に位置する各土地の配列状況,現所有者等に齟齬はないこと,本件公図にはc73番1を元番とする各土地についての記載がないが,本件係争地(1)は本件公図上もc73番1を元番とする各土地と直接接するものではないことが認められる。

(ウ)  以上に照らせば,同執行官に前示(1)以上に,本件係争地(1)の旧公図を確認したり,周囲の土地の登記簿謄本及び公図を確認するなどの調査を行うまでの義務はなかったというべきである。

(エ)  また,甲執行官は,立入調査に先立ってC不動産の代表者に面会し,立入調査への立会いを求めようとしたものの,社屋の様子から代表者は所在不明と判断されたため,断念しているが,前示のとおり,本件係争地については,本件公図と住宅地図等によって所在地番等を特定することができ,しかも周囲の土地との位置関係や地番配列に不審な点はなかったことに照らせば,それ以上,C不動産の代表者の所在を探索しなかったことが不相当であるとまではいえない。

ウ  第2事件争点(2)の原告の主張イについて

(ア) 送電線の線下地に関しては,地役権設定登記がなくても送電線が存在すること自体によって,電気事業法に基づく電気設備に関する技術基準を定める省令第133条等により利用制限を課されるところ,そのことが現況調査報告書の記載上明らかになっていれば,買受希望者は土地の評価に影響があることを予測し,これを踏まえて買受価額を判断することが可能である。したがって,現況調査に当たった執行官としては,立入調査の結果,対象不動産が送電線の線下地であると認めた場合,一般的に利用制限が課されるかについて照会し,回答を得ることで現況調査報告書の趣旨にかなった調査を行ったものというべきであり,それ以上,対象不動産の所在及び地番を特定して,当該不動産に送電線の架設に関する地役権設定の有無を照会するまでの注意義務はない。

(イ) 甲執行官が,本件係争地(1)については,不動産登記簿謄本上,地役権設定登記の記載がないものの,立入調査の結果,送電線の線下地であることが明らかになったため,被告A仙台技術センターに対して,本件係争地(1)の所在及び地番を特定せずに,線下地であることによる利用制限があるかについて照会したことは前示のとおりであるから,同執行官は(ア)の必要な調査を遂げたというべきである。

(ウ) 線下地について利用制限が課されるのが法的規制である以上,地役権設定登記の有無に関わらないこと,前示のとおり,現に線下補償契約をしていても,地役権設定登記に及んでいない土地もあることに照らすと,本件係争地の不動産登記簿謄本(甲1)に地役権の設定登記の記載がなかったことをもって,甲執行官に本件係争地(1)の地番の表示の誤りを疑い,周囲の土地の不動産登記簿謄本や公図等についてまでも確認するべき義務があったとはいえない。

(エ) してみれば,第2事件争点(2)の原告の主張イは採用し難い。

エ  以上によれば,甲執行官に,現況調査に当たって過失があったと認めることはできない。

(4)  したがって,原告の第2事件に係る請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。

5  以上の次第であるから,原告の請求はいずれも理由がないので,棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 信濃孝一 裁判官 岡崎克彦 裁判官 杉田薫)

別紙物権目録

(1) 所在  仙台市a区c町

地番  76番413

地目  山林

地積  482平方メートル

(2) 所在  仙台市a区c町

地番  76番418

地目  山林

地積  347平方メートル

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