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仙台地方裁判所 平成12年(行ウ)10号 判決 2003年1月16日

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  旅費関係

原告が平成12年3月31日にした宮城県情報公開条例に基づく「宮城県警察本部総務課職員の出張に関する一切の資料(平成6,7年度),旅費受領代理人普通預金通帳(平成5,6,7年度)」の開示請求につき,被告が平成12年5月15日にした処分のうち,別紙文書目録②の非開示部分を取り消す。

2  食糧費関係

原告が平成8年10月15日にした情報公開条例に基づく「宮城県警察本部総務室の食糧費支出に関する一切の資料(平成7年度)」の開示請求につき,被告が平成12年5月15日にした処分のうち,別紙文書目録①の非開示部分を取り消す。

第2事案の概要

1  本件は,原告(仙台市民オンブズマン)が,被告(宮城県知事)に対し,「宮城県警察本部総務課職員の出張に関する一切の資料(平成6,7年度),旅費受領代理人普通預金通帳(平成5,6,7年度)」並びに「宮城県警察本部総務室の食糧費支出に関する一切の資料(平成7年度)」について,行政文書の開示請求をしたところ,被告が非開示又は部分開示とする処分をしたため,原告が非開示部分の取消しを求めた事案である。

2  前提となる事実

(証拠を掲げた部分以外は,当事者間に争いのない事実である。)

(1)  当事者

ア 原告は,地方行財政の不正を監視,是正すること等を目的として結成された権利能力なき社団である。

イ 被告は,宮城県情報公開条例(平成11年宮城県条例第10号。平成12年宮城県条例第131号による改正後のもの。以下「県条例」という。)2条1項の実施機関たる知事である。

(2)  県条例のうち,本件に関係する規定は,次のとおりである。

第1条(目的)この条例は,地方自治の本旨にのっとり,県民の知る権利を尊重し,行政文書の開示を請求する権利及び県の保有する情報の公開の総合的な推進に関して必要な事項を定めることにより,県政運営の透明性の一層の向上を図り,もって県の有するその諸活動を説明する責務が全うされるようにするとともに,県民による県政の監視と参加の充実を推進し,及び県政に対する県民の理解と信頼を確保し,公正で開かれた県政の発展に寄与することを目的とする。

第2条(省略)

第3条(責務)

1  実施機関は,この条例に定められた義務を遂行するほか,県の保有する情報を積極的に公開するよう努めなければならない。この場合において,実施機関は,個人に関する情報が十分保護されるよう最大限の配慮をしなければならない。

2  行政文書の開示を請求しようとするものは,この条例により保障された権利を正当に行使し,情報の公開の円滑な推進に努めなればならない。

第4条(開示請求権)

何人も,この条例の定めるところにより,実施機関に対し,行政文書の開示を請求することができる。

第5条ないし第7条(省略)

第8条(行政文書の開示義務)

実施機関は,開示請求があったときは,開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「非開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き,開示請求者に対し,当該行政文書を開示しなければならない。

(1)  (省略)

(2)  個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって,特定の個人が識別され,若しくは識別され得るもの又は特定の個人を識別することはできないが,公開することにより,なお個人の権利利益が害されるおそれのあるもの。ただし,次に掲げる情報を除く。

イ 法令の規定により又は慣行として公開され,又は公開することが予定されている情報

ロ 当該個人が公務員(国家公務員法(昭和22年法律第120号)第2条第1項に規定する国家公務員及び地方公務員法(昭和25年法律第261号)第2条に規定する地方公務員をいう。)である場合において,当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは,当該情報のうち,当該公務員の職,氏名及び当該職務遂行の内容に係る部分

(以下,この規定又は非開示理由を単に「2号」という。)

(3)  (省略)

(4)  公開することにより,犯罪の予防又は捜査,人の生命,身体又は財産の保護その他の公共の安全と秩序の維持に支障が生ずるおそれのある情報

(以下,この規定又は非開示理由を単に「4号」という。)

(5)  県又は国等(国又は地方公共団体その他の公共団体をいう。以下同じ。)の事務事業に係る意思形成過程において行われる県の機関内部若しくは機関相互又は県の機関と国等の機関との間における審議,検討,調査,研究等に関する情報であって,公開することにより,当該事務事業又は将来の同種の事務事業に係る意思形成に支障が生ずると明らかに認められるもの

(以下,この規定又は非開示理由を単に「5号」という。)

(6)  (省略)

第9条以下(省略)

(3) 本件訴訟に至る経緯

ア 旅費関係

(ア) 原告は,被告に対し,平成8年6月24日,情報公開条例(平成2年宮城県条例第18号。以下「旧条例」という。)に基づき,「宮城県警察本部総務課職員の出張に関する一切の資料(平成6,7年度),旅費受領代理人普通預金通帳(平成5,6,7年度)」について,行政文書の開示請求をした。

(イ) 被告は,平成8年7月5日,上記開示請求につき不受理決定をした。

(ウ) 仙台高等裁判所は,平成12年3月17日,上記不受理決定を取り消す旨の判決をし(平成10年(行コ)第12号),同判決は確定した。

(エ) そのため,被告は,平成12年3月31日,原告の上記開示請求を受理し(なお,県条例附則4により,県条例の施行の際現に実施機関に対してされている旧条例の規定による開示請求は,県条例の規定による開示請求とみなされる。),上記開示請求に対応する行政文書として,平成6,7年度宮城県警察本部総務室総務課職員の出張に係る

① 支出負担行為兼支出命令決議書,

② 旅行命令(依頼)票,

③ 旅費計算内訳書(旅行命令(依頼)票(特例計算用)),

④ 出張報告書(復命書),

⑤ 旅費受領代理人普通預金通帳(平成5,6,7年度),

⑥ 返納決議書,

⑦ 赴任旅行命令票(特例計算用)

を特定し(以下「本件旅費関係文書」という。),同年5月15日,県条例に基づき,一部を開示し,その余を非開示とする処分をした(以下「本件処分(旅費関係)」という。)。

(オ) 原告は,平成12年7月28日,被告を相手方として,本件処分(旅費関係)のうち非開示部分の取消しを求める本件訴訟を提起した。

イ 食糧費関係

(ア) 原告は,被告に対し,平成8年10月15日,旧条例に基づき,「宮城県警察本部総務室の食糧費支出に関する一切の資料(平成7年度)」について,行政文書の開示請求をした。

(イ) 被告は,開示請求に対応する公文書として,警察本部総務室の食糧費に係る支出命令決議書及び支出負担行為兼支出命令決議書(平成7年度)を特定し,平成8年10月29日,そのすべてを非開示とする処分をした。

(ウ) 仙台地方裁判所は,平成12年4月25日,①支出命令決議書及び支出負担行為兼支出命令決議書以外の文書も県条例で開示の対象となる公文書に該当する,②受取人情報を開示しなかった部分は適法であるが,その余の情報を一律に開示しなかったのは違法であるとして,上記非開示処分の一部を取り消す旨の判決をした(平成8年(行ウ)第30号)。

(エ) 被告は,上記開示請求に対応する行政文書として,

平成7年度宮城県警察本部総務室の食糧費に係る

① 支出命令決議書,

② 支出負担行為兼支出命令決議書,

③ 請求書,

④ 施行伺,

⑤ 施行確認書

を特定し(以下「本件食糧費関係文書」という。),平成12年5月15日,県条例に基づき,一部を開示し,その余を非開示とする処分(以下「本件処分(食糧費関係)」という。)をした。

(オ) 原告は,平成12年7月28日,被告を相手方として,本件処分(食糧費関係)のうち非開示部分の取消しを求める本件訴訟を提起した。

(4) 本件訴訟提起後の開示状況

ア 旅費関係

(ア) 被告は,原告が平成12年6月27日にした行政不服審査法に基づく異議申立て(ただし,職員の扶養親族の氏名等に関する部分については,原告が,審査会の意見陳述等において争わない旨の意思表示をしたため,審査会の判断がされなかった。)につき,平成14年5月24日,本件旅費関係文書のうち次の①から④を除いた部分を開示し,その余を棄却する旨の異議決定をした(以下「本件処分の変更決定(旅費関係)」という。)。

① 旅行者(本件処分(旅費関係)の時点までに宮城県職員録又は新聞の人事異動記事により氏名が公表された者を除く。)の氏名及び印影,

② 文書集配用務に係る旅行の行先情報及び時期情報のうち,旅行期間,

③ 旅費受領代理人の預金口座情報のうち,預金口座番号及びお客様番号,

④ 旅行者(氏名が開示されない者を除く。)の職務の級

(イ) 原告は,上記①ないし④以外の部分(職員の扶養親族の氏名等に関する部分を含む。)につき,訴えを取り下げた。

イ 食糧費関係

(ア) 仙台高等裁判所は,平成13年6月28日,上記(3)イ(ウ)の控訴審として,受取人情報を非開示とする部分を取り消す旨の判決をし(平成12年(行コ)第7号),同判決は確定した。

(イ) 被告は,原告が平成12年6月27日にした行政不服審査法に基づく異議申立てにつき,平成14年5月24日,本件食糧費関係文書のうち次の①及び②を除いた部分を開示し,その余を棄却する旨の異議決定をした(以下「本件処分の変更決定(食糧費関係)」という。)。

① 部隊給食の金額情報のうち,「所要経費の内訳」及び「給食支給数」,請求書の内訳欄の「種別」,「数量」,「単価」及び「金額」並びに給食調書の表題部を除く部分,

② 警察職員に関する情報のうち,宮城県警察職員にあっては,本件処分(食糧費関係)の時点までに宮城県職員録又は新聞の人事異動記事により氏名が公表されていない者の「氏名」及び「印影」,宮城県警察職員以外の警察職員にあっては,本件処分(食糧費関係)の時点までに所属機関の職員録又は新聞の人事異動記事で氏名が公表されていない者の「氏名」

(ウ) 原告は,上記(ア)及び(イ)により開示された部分につき,訴えを取り下げた。

(5)  本件訴訟の対象となっている情報

ア 旅費関係

本件口頭弁論終結時点で,本件取消請求の対象となっている旅費関係の情報は,別紙文書目録②のとおりである(別紙「総務課の旅費及び旅費受領代理人普通預金通帳に係る非開示情報一覧表」参照)。

イ 食糧費関係

本件口頭弁論終結時点で,本件取消請求の対象となっている食糧費関係の情報は,別紙①のとおりである(別紙「総務室の食糧費に係る非開示情報一覧表」参照)。

ウ 非開示情報と各文書との関係についての必要な説明は,便宜上,後記「第4争点についての当事者の主張」の中で行う。

第3争点

1  争点1(職務の級情報の2号該当性)

本件旅費関係文書に記載された警察職員(ただし,本件処分の変更決定(旅費関係)において,氏名を開示した職員に限る。)の「職務の級」が,2号に該当するか。

2  争点2(職員情報の4号該当性)

本件旅費関係文書及び本件食糧費関係文書に記載された次の職員情報が,4号に該当するか。

①  宮城県警察職員のうち,本件処分(旅費関係)及び本件処分(食糧費関係)までに,宮城県職員録又は新聞の人事異動記事により氏名が公表されていない者(警部補(同相当職を含む。)以下)の氏名及び印影,

②  宮城県警察職員以外の警察職員のうち,本件処分(旅費関係)及び本件処分(食糧費関係)までに,所属機関の職員録又は新聞の人事異動記事で氏名が公表されていない者の氏名

3  争点3(部隊給食の金額情報の4号該当性)

部隊給食の金額情報(①施行伺の所要経費の内訳,②施行確認書の給食支給数,③請求書の内訳欄中,種別,数量,単価及び金額)が4号に該当するか。

4  争点4(部隊編成情報の4号該当性)

部隊給食の部隊編成情報(部隊名,部隊数及び給食支給数)が4号に該当するか。

5  争点5(文書集配業務情報の4号該当性)

文書集配業務情報(「旅行期間」及び「目的地」)が4号に該当するか。

6  争点6(預金口座番号情報の4号該当性)

旅費受領代理人普通預金通帳の預金口座番号及びお客様番号が4号に該当するか。

第4争点についての当事者の主張

1  争点1(職務の級情報の2号該当性)

(1)  文書との関係の説明

職務の級情報の理由で非開示とされた文書は,次のとおりである。

ア 旅行命令(依頼)票(特例計算用)のうち,「旅行者氏名」欄の職務の級(ただし,警部(同相当職)以上の職員のもの),

イ 赴任旅行命令票(特例計算用)のうち,「級」欄の職務の級(ただし,警部(同相当職を含む。)以上の職員のもの)

ウ 旅行命令(依頼)票のうち,「級」欄の職務の級(ただし,警部(同相当職)以上の職員のもの)

(2)  被告の主張

ア 旅行者の職務の級は,2号に該当する。

イ(ア) 職員の職務の級は,おおよそ勤務経歴,勤続年数等によって,個々の職員につき定められたものであるところ,職員の給与等級は「職員の給与に関する条例」で公開されているため,既に氏名を開示した警察職員の職務の級を開示した場合,当該職員の給与額及び所得の状況が推測されることになる。

(イ) 旅行者の職務の級は,非開示の例外とされる「法令の規定により又は慣行として公開され,又は公開することが予定されている情報(2号ただし書イ)」「公務員の職務の遂行に係る情報(2号ただし書ロ)」のいずれにも該当しない。

(3)  原告の主張

ア 旅行者の職務の級は,2号に該当しない。

イ 「職務の級」は,公金から支払われる公務員の給与に関する情報であり,職員個人の収入に関わる情報であるとしても,その妥当性について国民による議論の対象となり得るから,純粋に私事に関わる情報とはいえず,したがって,2号に該当しない。

2  争点2(職員情報の4号該当性)

(1)  文書との関係の説明

職員情報の理由で非開示とされた文書は,次のとおりである。

ア 宮城県警察職員関係

旅費関係では,旅行命令(依頼)票,旅行命令(依頼)票(特例計算用),赴任旅行命令票(特例計算用)及び復命書における旅行者(旅費受領者)のうち,食糧費関係では,施行伺の起案者及び決裁者,請求書の検収者,施行確認書の施行確認者,時間外勤務夜食関係文書の受給者,警察音楽隊演奏会関係文書の出席者,警察施設用地取得関係機関会議に伴う懇談会関係文書の出席者,地域住民との広聴会関係文書の出席者,出納監査事務検討会・事務指導に伴う懇談会関係文書の出席者のうち,本件処分の変更決定(旅費関係)及び本件処分の変更決定(食糧費関係)の時点までに宮城県職員録又は新聞の人事異動記事により氏名が公表されていない者の「氏名」,「印影」及び「サイン」(ただし,予算執行に係る警察職員情報は開示されている。)

イ 宮城県警察職員以外の警察職員関係

出納監査事務検討会・事務指導に伴う懇談会の施行伺の出席者名簿の本件処分の変更決定(食糧費関係)の時点までに所属機関の職員録又は新聞の人事異動記事で氏名が公表されていない者の「氏名」

(2)  被告の主張

ア 当該職員情報は,4号に該当する。

イ(ア) 4号の解釈4号は,公共の安全と秩序の維持に支障が生ずる「おそれ」をもって非開示の理由とするのみで,その顕著性を要件としていないのであるから,直接的あるいは間接的に公共の安全と秩序の維持に支障が生ずるおそれがある情報を非開示としたものと解すべきであり,「おそれ」の内容については,必要な程度に具体的に特定しておれば,概括的な主張で足りると解すべきである。

(イ) 4号のおそれの具体的内容

a. 警察は,犯罪捜査の面では,第一次捜査権を有し,犯罪現場において直接に被疑者らと対峙し,警察規制の面では,警察規制を物理的かつ強制的に実現するものであるから,相手方からの反発,反感を招きやすい。よって,警察組織は,他の国家機関と比べ,攻撃の対象とされるおそれが高いものである。

b.(a) 宮城県警察本部総務室が所掌している各課(総務課,会計課,広報課及び情報管理課)は,警察官及び一般職員(事務吏員・技術吏員)を擁し,捜査活動を直接に又は側面から支援するなど犯罪捜査と直結する警察業務を担当している。また,総務室と捜査部門等との間では,活発な人事交流が行われている。

(b) 警察職員の氏名を開示した場合,当該警察職員の特定が可能となるのはもちろん,公表されている総務室各課の所掌事務や既に開示された起案者の所属課,役職等の情報から,当該警察職員の担当職務等の特定が可能となる。総務室の業務が,上記のとおり,捜査活動に密接に関連していることからすると,直接の捜査部門等ではないからといって,総務室の警察職員が襲撃,工作等の標的にならないとはいえず,当該警察職員の氏名又は印影が公開されることにより,当該警察職員及びその家族が特定され,そのプライバシーが侵害されるとともに,攻撃や懐柔等が行われるおそれがある。

c.(a) 平成7年の警察庁長官狙撃事件等にみられるように,警察官あるいは警察施設が攻撃された事例が全国的に多発しており,宮城県においても,警察職員及び家族に対する嫌がらせが,現に生じており(証人X(乙16を含む。以下,同じ。以下「証人X」という。)),警察に怨みを持つ人物が,新聞に掲載された警視(同相当職を含む。)以上の警察職員の氏名を見て,勤務先に脅迫内容の葉書を送りつけてきたという実例が存在する(乙17)。

(b) このように,警察職員の氏名を非開示としている現状においても,現に嫌がらせ等が発生しているのであるから,職員情報が開示された場合,これまで以上に攻撃や嫌がらせを受けることは必至である。

(3)  原告の主張

ア 職員情報は4号に該当しない。

イ(ア) 4号の解釈4号のおそれを単なる危惧感や極めて抽象的なもので足りると解することは,公共安全情報も情報公開の対象であるとした上で,例外的に非開示事由を規定する県条例の趣旨及び構造に明らかに反することになる。したがって,4号のおそれについては,支障が生ずる蓋然性をその要件と解すべきである。

(イ) そもそも警察業務のみが相手方の反発等を招きやすいわけではない。

公権力に関わる機関,例えば,裁判所,検察庁,国税局であれば,相手方の反発を招きやすいといえるのであり,警察のみが職員の氏名を非開示にしなければならないほど,常に反発や抵抗にさらされているものではない。

(ウ) 被告が主張する警察関係者及び警察施設に対する攻撃と,警察職員の氏名等の開示との間には,因果関係がない。すなわち,

a. 4号のおそれを理由に警部補以下の警察職員の氏名等を非開示にしたところで,警察職員は名札を付けて一般市民と対応し,あるいは所属及び氏名を名乗って職務を遂行しているのであるから,その氏名や所属は容易に判明する。

b.(a) 真に被告が主張する危惧が存在するのであれば,警部(同相当職を含む。)以上かどうかにかかわりなく,警察職員の人事異動に関する情報については一切これを新聞で公表し得ないはずであるのに,実際には公表されているということが,4号のおそれが存在していないことを示している。被告が新聞紙上での公表を警部(同相当職を含む。)以上の職員に限定しているのは,紙面のスペース上の制約が存するためにほかならない。

(b) 通常,警部(同相当職を含む。)以上の警察職員の方が,警部補(同相当職を含む。)以下の職員よりも攻撃,懐柔,嫌がらせ等が受けるおそれが高いと思われるところ,警部(同相当職を含む。)以上の警察職員の氏名を公表することによって,警部(同相当職を含む。)以上が攻撃対象になりがちであるといった状況にはない。

c. 証人Xが証言する警察官等が攻撃された事例は,数の上でも少ないし(年間十数件程度),職員情報の開示非開示とは無関係に,単に警察が襲撃された事件を挙げただけである。しかも,情報公開制度において職員情報等が開示されていない段階における事案であるから,警察職員の氏名等の開示と上記事例の発生との間に因果関係はない。

3  争点3(部隊給食に係る金額情報の4号該当性)

(1)  文書との関係の説明

部隊給食に係る金額情報の理由で非開示とされた文書は,次のとおりである。

ア 施行伺における所要経費の内訳(種別,単価,数量,金額)

イ 請求書におけるアと同様の記載

ウ 施行確認書における給食支給数の記載

(2)  被告の主張

ア 部隊給食に係る金額情報は,4号に該当する。

イ 給食支給数又はそれをうかがわせる計算を開示した場合,食糧費の執行に係る警察活動の人員の概要が割り出され,実際に投入した警察力が明らかとなり,宮城県警察の動員力が推測され得るから,何らかの犯罪を企図する人物等にとって,警察活動に対する対抗措置を執ることが容易となり,今後の警察活動に支障が生ずるおそれがある。

(3)  原告の主張

ア 部隊給食に係る金額情報は,4号に該当しない。

イ 仮に,給食支給数等を開示することにより,警察力が判明したとしても,そのことと,判明した警察力を基に犯罪がされることとの因果関係について,被告は何ら具体的な主張立証をしていないから,そのような情報を公開しても,警察活動に対する対抗措置が容易となるとはいえない。

4  争点4(部隊編成情報の4号該当性)

(1)  文書との関係の説明

部隊編成情報の理由で非開示とされた文書は,施行伺の別添「給食調書」(表題部以外)に記載された部隊名,隊員数及び給食数である。

(2)  被告の主張

ア 部隊編成情報は,4号に該当する。

イ(ア)a. 警察部隊は,犯罪阻止等の目的別特殊任務部隊が編成されており,部隊名から各部隊の担当任務を容易に推察でき(個別部隊名そのものが担当任務を端的に表す場合もある。),その結果,当該部隊の役割分担及び人員数が明らかになり,将来の部隊活動の中身を推測し得ることになる。

b. したがって,同種事案を企図する人物等が,部隊編成に関する情報収集を蓄積することにより,容易に対抗手段を講ずることが可能となり,警察活動の推進に支障が生ずるおそれがある。

(イ) 重要な式典等について警察官の動員数を公表する場合でも,一般的広報及び一般予防の観点から,その概数を公表しているにすぎず,部隊編成の詳細を公表しているものではないから,部隊編成に関する情報が秘密性を有しないことにはならない。

(3)  原告の主張

ア 当該部隊編成情報は,4号に該当しない。

イ(ア) 警察は,重要な国際会議,式典,警備活動に当たって動員された警察官数を報道機関に公表しているのであるから,そもそも投入した警察官数は秘匿すべき情報には当たらない。

(イ) 部隊編成情報を開示した結果警察力が判明したとしても,そのことと警察活動に対する対抗措置が執られることとの因果関係について,被告は具体的な主張立証をしていない。

5  争点5(文書集配業務情報の4号該当性)

(1)  文書との関係の説明

文書集配業務情報の理由で非開示とされた情報は,旅行命令(依頼)票に記載された「旅行期間」欄(旅行の始期及び終期。なお,旅行日数は開示されている。)及び「目的地」欄である。

(2)  被告の主張

ア 当該文書集配業務情報は,4号に該当する。

イ(ア) 4号のおそれの具体的内容

a. 総務課の担当する文書集配業務は,秘密文書及び捜査記録等の警察文書並びに重要装備品等を集配する業務であり,集配日程のパターン及びルートを頻繁に変更することは困難であるから,旅行期間及び目的地を開示した場合,現在の集配日程やルートを推測することが可能となり,警察活動を妨害しようとする人物等によって,集配日程が把握され,襲撃等を受けるなどの支障が生ずるおそれがある。

b. 被告は,本件処分の変更決定(旅費関係)において,文書集配業務に係る交通手段情報を既に開示したところであり,新たに旅行期間及び目的地を開示すれば,文書集配業務全体を把握することが可能となるだけでなく,警察職員の旅行先が特定されることにより,捜査活動や特殊業務の概要が推測されることになる。

(イ) 原告は,一般文書の集配に係る情報についてまで一律に非開示にする必要はない旨主張するが,集配物には,秘密文書,捜査情報に関する資料,重要装備品等の直接的に警察活動に影響を及ぼすものと,一般文書及び一般装備品とが混在しており,一般文書等の集配のみを開示できるというものではない。

(3)  原告の主張

ア 当該文書集配業務情報は,4号に該当しない。

イ(ア) 秘密文書及び重要装備品等の集配についてはともかく,一般文書の集配に係る情報についてまで,一律に非開示にする必要はない。

(イ)a. 目的地の具体的内容は,警察組織内の限られた行先(各警察署)であろうと推測されるところ,それが開示されたからといって,集配日程が把握され,襲撃を受ける等の支障が生ずるおそれが生ずるとは思えない。

b. 目的地情報の開示と,集配日程が把握され襲撃等を受けるなどの支障が生ずることとの因果関係が不明である。

(ウ) 仮に,目的地名を非開示にする場合であっても,旅行期間から集配日程が把握されることはないから,旅行期間までを非開示にする必要はない。

6  争点6(預金口座情報)

(1)  預金口座情報関係で非開示とされた情報は,旅費受領代理人の普通預金口座の口座番号及びお客様番号である。

(2)  被告の主張

ア 口座番号等の情報は,4号に該当する。

イ(ア) 口座番号等が公開すれば,警察業務を妨害しようとする人物等が,預金残高,入出金状況の割出し及び不正引出し等を行う客観的な危険が存在する。

(イ)a. 旅費受領代理人の預金口座は,旅費の出納事務上,1円の誤差も許されない出納が要求されるところ,架空の入金等があればその性質等を調査する必要が生ずるから,架空入金によって出納事務を混乱に陥れることが可能となる。

b. 現実にも,大学名義の銀行口座等に正体不明の会社から振込みが繰り返された実例が存在する(乙14)。

(3)  原告の主張

ア 口座番号等の情報は,4号に該当しない。

イ(ア) 口座番号等の公開により,預金残高,入出金状況の割り出し及び不正引出し等が行われる危険が存在することの具体的理由,根拠は,何ら明らかにされていない。

(イ) 仮に架空入金があったとして,何故にそれが警察活動に対する妨害となるのか疑問であるし,そもそも架空入金を行おうとする者などいるはずもないから,被告が主張するようなおそれは,およそあり得ない。

第5当裁判所の判断

1  争点1(職務の級情報の2号該当性)について

(1)ア  弁論の全趣旨によれば,宮城県職員の職務の級とは,おおよそ勤務経歴,勤続年数等によって,個々の職員につき定められたものであるところ,宮城県職員の給与等級は「職員の給与に関する条例」で公開されているため,既に氏名を開示した警察職員の職務の級を開示した場合,当該職員の給与額がある程度推測される事態となることが認められる(ただし,号俸までは開示されないから,給与額はある程度の幅として推測されるものである。)。したがって,氏名が開示されている警部(同相当職を含む。)以上の職員の職務の級は,2号本文に規定する個人に関する情報であって,特定の個人が識別されるものに該当すると認められる。

イ  そして,上記職務の級が同号ただし書イ(公開が予定されている情報)に該当しないことは明らかである。

ウ  また,同号ただし書ロは,開示すべき情報として,「当該個人が公務員・・・である場合において,当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは,当該情報のうち,当該公務員の職,氏名及び当該職務遂行の内容に係る部分」と規定しているところ,同号ただし書ロの「職」に職務の級が含まれると解することはできないから,職務の級は同号ただし書ロの規定する開示すべき情報にも該当しない。

エ  これに反する原告の主張は採用することができない。

(2)  以上によれば,職務の級に関する部分について2号該当をいう被告の主張はは,理由がある。

2  争点2(職員情報の4号該当性)について

(1)  各項に掲げた証拠等によれば,以下の事実が認められる。

ア 県警総務室の構成及び業務内容

(ア) 宮城県警察本部総務室は,総務課,会計課,広報課及び情報管理課の合計4課の事務を所掌しており,各課に警察官及び一般職員(事務吏員,技術吏員)が配置されている。(乙8,証人X,弁論の全趣旨)

(イ) 総務課の所掌事務は,宮城県警察組織規則上,①機密に関すること,②県議会との連絡に関すること,③警察職員の応援要請及び派遣に関すること及び④公安委員会補佐室の運営に関することとされているが,具体的には,警察本部長及び公安委員会に係る事務であり,公安委員会事務については,他県に対する又は他県による援助要請の窓口となっており,必然的に捜査機密情報が集約される。(乙8,証人X)

(ウ) 会計課の所掌事務は,宮城県警察組織規則上,①予算・決算及び会計に関すること,②財産及び物品の管理及びこれらの処分に関すること,③会計の監査に関すること,④庁舎の営繕に関すること,⑤遺失物に関すること及び⑥会計調査室の運営に関することとされている。

具体的には,犯罪捜査を始めとする警察業務全般にわたる予算的な業務等であり,その中には,装備品機材等の機密品の購入業務も含まれる。(乙8,証人X)

(エ) 広報課の所掌事務は,宮城県警察組織規則上,①広報,広聴に関すること及び②音楽隊の運営に関することとされている。

具体的には,犯罪捜査を始めとした警察情報に対する報道対応業務等であり,広報課には,最新の機密情報が集約されることになる。(乙8,証人X)

(オ) 情報管理課の所掌事務は,宮城県警察組織規則上,①情報の管理に関する企画及び技術的研究並びに電子計算組織の運用に関すること,②犯罪統計を除く警察統計に関すること,③事務能率の増進に関すること及び④照会センター及びハイテク犯罪技術対策室の運営に関することとされている。

具体的には,電子計算機等の構築及び運用業務等であり,その中には,犯罪経歴等の個人情報の管理,現場警察官からの照会に対する回答業務及びコンピュータ犯罪捜査への従事(データ解析)が含まれる。(乙8,証人X)

(カ) 総務室勤務の警察職員は,警察官,一般職員を問わず,頻繁な人事交流により,捜査部門,警備部門等に勤務したことがあり,将来もそれらの部門に勤務することが予定されている。(証人X)

イ 階級別の特色

(ア) 警視以上

宮城県警において,警視(同相当職を含む。)以上の警察職員は,一般職員を含む全警察職員(約3400人)の約3パーセントを占めている。

警視(同相当職を含む。)以上の警察職員は,指導的,管理的な業務を担当している。(証人X)

(イ) 警部

宮城県警において,警部(同相当職を含む。)である警察職員は,一般職員を含む全警察職員(約3400人)の約7パーセントを占めている。

警部(同相当職を含む。)である警察職員は,管理的立場にある警視に近い警部から,警部補に近い警部まで存在する。(証人X)

(ウ) 警部補以下

宮城県警において,警部補(同相当職を含む。)以下の警察職員は,一般職員を含む全警察職員(約3400人)の約90パーセントを占めている。

警部補以下の警察職員は,捜査業務等の実働を担当している。(証人X,弁論の全趣旨)

ウ 警察業務の特殊性

警察業務は,「警察は,個人の生命,身体及び財産の保護に任じ,犯罪の予防,鎮圧及び捜査,被疑者の逮捕,交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもってその責務とする。」(警察法2条)とあるとおり,犯罪捜査及び警察規制を目的としている。そして,「検察官は,必要と認めるときは,自ら犯罪を捜査することができる。」(刑事訴訟法191条1項)と規定されているとおり,犯罪捜査権は,主として警察官によって行使されることが予定されている。

したがって,警察官は,犯行現場や警察規制の現場で,直接被疑者や被規制者と対峙し,逮捕や規制の結果を直接かつ強制的に実現するものであるから,その職務は,その相手方個人や過激派,暴力団等の組織からの反発,反感を招きやすいものである。実際,全国的には,成田関係の警備に当たる機動隊員が過激派学生に襲撃されて殺害されたり,交番が襲撃されたり,警察署が金属弾を打ち込まれたり,警察官の自宅に猫の首が投げ込まれる事件が発生している。宮城県においても,被疑者や交通違反で呼出しを受けた者が担当警察職員に対し,警察職員及びその家族に仕返しをすることを明言したり,ほのめかして脅迫する例等が数多く発生しており,その発生頻度は,裁判官,検察官,税務署員らに対するそれを超えるものである。

また,警察職員の配置を含む警察業務に関する情報は,一般市民にとっては些細な情報であっても,犯罪の実行や仕返しを目論む組織や個人にとっては,貴重な情報となることがあり,犯罪捜査及び警察規制を業務とする警察は,そのような情報が犯罪組織等に入手されることを防止する必要がある。

実際,過激派組織が警察無線を傍受したり,公安担当の警察官について家族構成を含めた情報を収集しデータベース化した例や,出所した者が地方自治体に自己の事件を担当した警察官の転勤先を執ように尋ねる例があった。(乙4,17,証人X,弁論の全趣旨)

(2)ア  以上の認定事実によれば,警察の業務は,相手方からの反発,反感を招きやすく,警察職員が攻撃や懐柔の対象とされるおそれが高いものであるところ,総務室勤務の警察職員は,捜査部門等の警察職員と組織的に一体となって犯罪捜査及び警察規制の業務に従事しているものであるから,外部からは総務室勤務の警察職員も警察組織の一員とみなされ,攻撃や懐柔の対象とされるおそれが高いものと認められる。したがって,氏名等の職員情報は,宮城県警察職員か,宮城県警察職員以外の警察職員かを問わず,4号に該当すると認めるべきである。

イ  原告は,警察業務のみが相手方の反発等を招きやすいわけではない旨主張するが,前記認定の逮捕や規制の結果を直接かつ強制的に実現するという警察の業務の特殊性を考慮すると,原告が指摘する裁判所,検察庁,国税局との比較においても,反発の程度や頻度において差があるものと認めざるを得ず,この点の原告の主張は採用することができない。

ウ  原告は,警察職員や警察施設への攻撃等と警察職員の氏名等の開示との間には因果関係がない旨主張する。

確かに,警察署や交番の所在は隠しようがないから,警察署への金属弾攻撃や交番の襲撃については,警察職員の氏名等の開示との間に因果関係はないと考えられる。

しかし,暴力団事件の内偵や公安関係の捜査及び情報収集は,必ずしも警察官が名札を付けて行うものではないと認められるところ,警察内部における配置をうかがわせる情報が開示されれば,暴力団事件の内偵や公安関係の捜査及び情報収集を行っている警察官の特定が容易になり,暴力団や過激派組織による攻撃及び懐柔のおそれが増すものと認められる。さらに,執念深い犯罪者を念頭におけば,総務室関係の文書開示により,過去に自分の事件を担当した警察官の転勤先を知ることができる場合があるから,このような犯罪者による仕返しに手を貸すことになる。

よって,原告のこの点の主張は採用することができない。

エ  原告は,被告が主張する危惧が存在するのであれば,被告が新聞紙上で警部以上の警察職員の人事異動を公表していることの説明が付かない旨主張する。

この点については,前記認定のとおり,警部補以下の警察職員(一般職員を含む。)は全宮城県警察職員の約90パーセントを占め,捜査業務等の実働を担当しているところ,現場で直接被疑者等と接触する警部補以下の警察職員は,それだけ脅迫や仕返しを受けやすいと考えられる。そして,弁論の全趣旨によれば,警部(同相当職を含む。)以上の者については,指導的,管理的職務を遂行するための氏名開示の必要性と,攻撃や懐柔を受けるおそれがあるため氏名を非開示とする必要性とを衡量した結果,異動の際,新聞紙上で氏名が公表されているものと認められる。

よって,警部補以上の氏名を公表していることから立論する原告の上記主張は採用することができない。

(3)  以上によれば,職員情報に関する部分につき4号該当をいう被告の主張は,理由がある。

3  争点3(部隊給食に係る金額情報の4号該当性)及び争点4(部隊編成情報の4号該当性)について

(1)  部隊給食に係る金額情報を開示すれば,ある警察活動に従事した部隊数,人員数が判明し,いかなる事案にどの程度の警察力が投入されたかが判明することになる。

その結果,過激派等の組織が犯罪行動を起こす場合に,警察の対応を予測して計画を立てることが容易となることが認められるから,部隊給食に係る金額情報は,4号に該当すると認めるべきである。

(2)  部隊編成情報のうち,隊員数及び給食数が4号に該当することについては,上記(1)で述べた理由と同一である。

弁論の全趣旨によれば,部隊名として,担当任務を表す部隊名が採用されていることが多いことが認められ,部隊名が開示されれば,ある事案にどのような部隊が投入されたかが判明することになる。

この部隊名の情報は,投入された人員数と相まって,過激派等の組織が犯罪行動を起こす場合に,警察の対応を予測して計画を立てることを容易にするものと認められるから,部隊名も,4号に該当すると認めるべきである。

(3)ア  原告は,部隊給食に係る金額情報等を開示した結果警察力が判明することと,警察活動に対する対抗措置が執られることとの間の因果関係について,具体的な立証はない旨主張するが,4号の規定する「おそれ」があることは,前記認定の事実から容易に認められるところであり(「宮城県の情報公開事務の手引」(乙1)も,4号の非開示情報の例として,「犯罪の捜査等の手段,方法等に関する情報」及び「警備の状況等に関する情報」を想定している(20頁)。),この点の原告の主張は採用することができない。

イ  原告は,警察は,重要な式典等に当たって動員された警察官数を公表しているから,投入した警察官数は秘匿すべき情報には当たらない旨主張する。

しかしながら,弁論の全趣旨によれば,重要な式典等について警察官の動員数を公表する場合でも,一般的広報及び一般予防の観点から,その概数を公表しているにすぎず,部隊編成の詳細を公表しているものではないことが認められるから,そのような発表がされていることをもって,部隊給食に係る金額情報等が秘密性を有しないことにはならず,この点の原告の主張は採用することができない。

(4)  以上によれば,部隊給食に係る金額情報及び部隊編成情報につき4号該当をいう被告の主張は,理由がある。

4  争点5(文書集配業務情報の4号該当性)について

(1)  弁論の全趣旨によれば,文書集配業務は,一般文書及び一般装備品,並びに秘密文書,捜査記録等の警察文書及び重要装備品等を警察署を始めとする各施設との間で集配する業務であること,集配日程のパターン及びルートを頻繁に変更することは困難であること,目的地を開示すれば,行き先は明らかとなり,旅行期間を開示すれば,おおよその集配日程及びルートを推測することが可能となるものと認められる。

このような文書集配業務情報の性質からすると,これらの情報が開示されれば,過激派等の組織が,文書集配業務を妨害し,装備品等を奪取することが容易となるものであり,文書集配業務情報は4号に該当するものと認めるべきである。

(2)ア  原告は,一般文書の集配に係る情報についてまで一律に非開示にする必要はない旨主張するが,前記認定のとおり,実際の文書集配業務は,一般の文書等と秘密文書等とを一緒に集配するものであるから,この点の原告の主張は,前提を欠き,採用することができない。

イ  原告は,目的地情報の開示と,集配日程が把握され襲撃等を受けるなどの支障が生ずることとの間の因果関係が不明であるなどと主張するが,4号の規定する「おそれ」があることは,前記認定の事実から容易に認められるところであり,この点の原告の主張は採用することができない。

ウ  原告は,目的地名を非開示にする場合であっても,旅行期間から集配日程が把握されることはないから,旅行期間までを非開示にする必要はない旨主張する。

しかしながら,前記認定のとおり,旅行期間には出発日と帰着日が記載されているものであるから,旅行期間から集配日程が把握されるおそれがあると認めざるを得ないものであり,この点の原告の主張は採用することができない。

(3)  以上によれば,文書集配業務情報に関する部分につき4号該当をいう被告の主張は,理由がある。

5  争点6(預金口座情報)について

(1)  証拠(乙14,15)及び弁論の全趣旨によれば,ある者の銀行預金の口座番号及びそれと同一番号であるお客様番号を公開した場合,預金残高及び入出金状況を割り出し,不正引出しを行うことが技術的に可能であり,預金残高の調査等を売り物にしている調査会社,探偵社が数多く存在することが認められる。

前記のとおり,警察の業務は,逮捕や規制の結果を直接かつ強制的に実現するものであり,警察業務に関する情報は,犯罪の実行や仕返しを目論む個人や組織にとって貴重な情報となることがあるから,口座番号等が公開されれば,警察業務を妨害しようとする個人や組織が,預金残高,入出金状況の割り出し及び不正引出し等を行うおそれがあると認められ,したがって,預金口座情報は,4号に該当するものと認めるべきである。

(2)  原告は,預金口座番号等の公開により,預金残高の割り出し,不正引出し等が行われる危険が存在することの具体的理由,根拠は,何ら明らかにされていない旨主張するが,4号の規定する「おそれ」があることは,前記認定の事実から容易に認められるところであり,この点の原告の主張は採用することができない。

(3)  なお,正体不明の振込みが行われる可能性がある点から,4号の非開示事由があると認めることはできない。

(4)  以上によれば,預金口座情報に関する部分につき4号該当をいう被告の主張は理由がある。

6  結論

以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 市川正巳 裁判官 工藤哲郎)

裁判官 千々和博志は,退官のため,署名押印することができない。裁判長裁判官 市川正巳

<以下省略>

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