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仙台地方裁判所 平成12年(行ウ)4号 判決 2002年3月28日

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用(参加によって生じた費用を含む。)は原告の負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

(1)  被告らは,築館町に対し,連帯して金4620万9000円及びこれに対する平成12年4月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  訴訟費用は被告らの負担とする。

(3)  (1)につき仮執行宣言

2  請求の趣旨に対する被告ら及び参加人の答弁

(1)  主文第1,2項と同旨

(2)  仮執行免脱宣言

第2当事者の主張

1  請求原因

(1)  当事者等

ア 原告は,築館町の住民である。

イ 被告Bは,築館町長である。

ウ 被告C,被告D,被告E及び被告F(以下「被告元理事ら」という。)は,いずれも財団法人G(以下「本件財団法人」という。)の元理事であり,本件財団法人が解散した後は,その清算人であった。

(2)  本件協議等

ア 第1契約

(ア) 築館町は,本件財団法人に対し,昭和42年12月1日,本件財団法人が解散する場合は築館町に寄付するとの条件(町有財産譲与契約書(甲1)4条。以下「第1契約4条」という。)で,別紙(添付省略)物件目録1記載の各土地(以下「第1契約地」という。)を譲与し(以下「第1契約」という。),所有権移転登記を経由した。

(イ) 第1契約は,贈与契約である。

イ 第2契約

(ア) 築館町は,本件財団法人に対し,昭和48年2月1日,本件財団法人が解散する場合は築館町に寄付するとの条件(町有財産譲与契約書(甲2)4条。以下「第2契約4条」という。)で,別紙(添付省略)物件目録2記載の土地(以下「第2契約地」といい,第1契約地と合わせて「本件土地」という。)を譲与し(以下「第2契約」という。),所有権移転登記を経由した。

(イ) 第2契約は,贈与契約である。

ウ 本件財団法人の解散

平成11年5月20日,本件財団法人は解散した(以下「本件解散」という。)。

エ 本件土地の売却

本件財団法人は,株式会社H(以下「本件株式会社」という。)に対し,平成11年4月20日,本件土地を代金4620万9000円で売却し(甲6,7),所有権移転登記を経由した(甲9)。

オ 本件協議

築館町長である被告Bは,平成12年4月3日,本件財団法人との間で,次の内容の合意をした(以下「本件協議」といい,その協議書(甲18)を「本件協議書」という。)。

(ア) 第1契約地について(本件協議書2項)

本件財団法人が,築館町に対し,第1契約地の対価を含めた報恩として1590万円を寄付することを条件として,第1契約4条を削除する。

(イ) 第2契約地について(本件協議書1項)

本件財団法人が,築館町に対し,昭和46年から昭和48年にかけて交付した寄付金500万円は第2契約地の見返りとしてされたことを確認した上,第2契約4条を削除する。

(3)  適正な対価の不存在

ア 第1契約地について

(ア) 本件協議書2項の合意は,第1契約とは異なる新たな契約の締結であり,適正な対価により行われなければならない。

(イ) 第1契約地の本件協議時における時価は,3649万2000円である(甲22)。

(ウ) よって,1590万円の支払しか受けていない本件協議書2項の合意は,適正な対価により行われたものではない。

イ 第2契約地について

(ア) 本件協議書1項の合意は,第2契約とは異なる新たな契約の締結であり,適正な対価により行われなければならない。

(イ) 第2契約地の本件協議時における時価は,8279万3000円である(甲22)。

(ウ) よって,何らの支払を受けずにされた本件協議書1項の合意は,適正な対価により行われたものではない。

(エ) なお,昭和46年から昭和48年にかけてされた500万円の寄付は,本件財団法人が,本件土地を無償利用したことに対するお礼としてされたものであり,第2契約地の対価ではない。

(オ) 仮に上記500万円の寄付が第2契約地の対価の趣旨を含むとしても,第2契約地の第2契約締結時における時価は1855万7000円であり(甲22),500万円は適正な対価とはいえない。

(4)  損害賠償義務

ア 被告B

(ア) 被告Bは,築館町長として,築館町との間で委任関係にあり,築館町に損害を被らせないように職務を遂行すべき善管注意義務を負っていた。

(イ) 被告Bは,第1契約4条及び第2契約4条の存在を知りながら,本件協議を締結し,本件土地の返還請求権を放棄した。

(ウ) 被告Bの上記行為は,築館町に対する債務不履行に当たるとともに,故意による不法行為に当たる。

イ 被告元理事ら

(ア) 被告元理事らは,第1契約4条及び第2契約4条に基づいて本件土地を返還すべきことを知り又は知るべきであり,それに反するような意思決定を行うべきではなかった。

(イ) それにもかかわらず,被告元理事らは,前記のとおり,本件土地を本件株式会社に売却する旨の意思決定を行った。

(ウ) 被告元理事らの上記行為は,被告Bをして本件協議を締結することを余儀なくさせ,築館町が確定的に本件土地の所有権を失う原因となった。

(5)  損害

ア 築館町は,被告らによる前記行為により,本件土地の時価相当額の損害を被った。

イ 本件土地の時価相当額は,4620万9000円である。

(6)  監査請求

原告は,平成12年1月5日,築館町監査委員に対し,地方自治法242条1項の規定に基づき,本件土地の返還問題について監査を求め,本件株式会社から本件土地の返還を受けるなどの措置を講ずべきことを請求した(甲13。以下「本件監査請求」という。)。これに対し,同町監査委員は,平成12年3月3日,本件監査請求を棄却し(甲14),同月6日ころ,原告にその旨通知した。

(7)  まとめ

よって,原告は,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,築館町に代位して,被告B及び被告元理事らに対し,不法行為(被告Bについては,債務不履行又は不法行為)に基づく損害金4620万9000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成12年4月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を連帯して築館町に支払うことを求める。

2  請求原因に対する被告ら及び参加人の認否

(1)  請求原因(1)(当事者等)は認める。

(2)ア  同(2)(本件協議等)ア(第1契約)は認める。

イ  同(2)イ(第2契約)のうち,(ア)は認め,(イ)は否認する。合計500万円の寄付を対価とする有償譲渡である。

ウ  同(2)ウ(本件財団法人の解散)は認める。

ただし,本件解散は,「公益法人等の指導監督に関する関係閣僚会議幹事会申合せ」に基づく宮城県警察本部交通部運転免許課の行政指導に従い,公益法人から営利法人へ組織変更するためにやむを得ずに採られた措置であり,第1契約4条及び第2契約4条が予定していた「解散」には当たらない。

エ  同(2)エ(本件土地の売却)は認める。

オ  同(2)オ(本件協議)は認める。

(3)ア  同(3)(適正な対価の不存在)ア(第1契約地について)のうち,(ア)は認め,(イ)は否認し,(ウ)は争う。第1契約地の本件協議時の正常価格は1432万円である(乙3)。

イ  同(3)イ(第2契約地について)のうち,(ア),(ウ)は争い,(イ),(エ),(オ)は否認する。第2契約地の昭和48年度における時価は,281万円程度である。

(4)ア  同(4)(損害賠償義務)ア(被告B)のうち,(ア),(イ)は認め,(ウ)は争う。

イ  同(4)イ(被告元理事ら)のうち,(ア),(ウ)は否認し,(イ)は認める。

(5)  同(5)(損害)は否認する。築館町が第2契約時に500万円の寄付を受けている点が考慮されるべきである。

(6)  同(6)(監査請求)は認める。

3  被告ら及び参加人の主張

(1)  昭和47年議決(第2契約地について)

ア 築館町議会は,昭和47年6月23日に召集された第134回定例会において,500万円の対価性についても議論した上,第2契約地を本件財団法人に譲与する件を可決した。

イ なお,第2契約4条は,削除されるべきものであったが,第2契約地の譲与が当初は無償譲渡から出発していたため,有償譲渡に変更された後も誤って契約書(甲2)に残ってしまったものである。第2契約4条が有効であると解することは,築館町は適正な価格で第2契約地を譲渡しながら,解散の場合にそれを無条件で寄付させるという極めて不合理な結果をもたらすことになる。

(2)  本件議決

ア 参加人(築館町長)は,平成13年12月19日,築館町議会に対し,本件協議につき地方自治法96条1項6号による議決を求める旨の議案を提出したところ,築館町議会は,同月20日,それを可決した(以下「本件議決」という。)。

イ よって,地方自治法237条2項の承認が得られた以上,原告の請求は,根拠がなくなった。

ウ 原告は,築館町議会への説明等が不十分である旨主張するが,参加人は,平成13年12月の定例会に「協議書の承認」を議案として提案することとし,同月4日に開催された築館町議会の全員協議会において,その議案の内容を説明した上,同月20日に同町議会の議決を得たものである。

(3)  寄付(第2契約地について)

本件協議による第2契約4条の削除は,次のとおり,公益上の必要があってされたものであるから,地方自治法232条の2の寄付に準じた行為に当たる。

a 本件協議による第2契約4条の削除は,本件財団法人が行政指導によって組織転換を行わざるを得なかったことを発端とするものであり,本件財団法人に特別の利益を与えるためのものではなかった。

b 昭和48年にされた第2契約地の本件財団法人への所有権移転は,築館町議会の議決を経た有償譲渡契約により,適正な対価を得てされていた。

c 第2契約地は,第1契約地とともに,引き続いて本件株式会社の事業用地として利用されるところ,自動車学校の事業用地としての継続利用は,築館町民の利益にかなう。

d そのような状況の中で,築館町が,本件財団法人から本件土地を無条件で寄付させることは期待できなかった。

4  被告ら及び参加人の主張に対する認否

(1)ア  被告らの主張(1)(昭和47年議決)アのうち,築館町議会は,昭和47年6月23日に召集された第134回定例会において,第2契約地を本件財団法人に譲与する件を可決したことは認め,その余は否認する。

イ  同(1)イは否認する。昭和47年議決は,第2契約4条の返還条項を前提としたものである。

(2)ア  同(2)(本件議決)は否認する。

イ  本件協議書は,第1契約につき,土地代相当分の対価を含めた報恩として1590万円を寄付する旨,第2契約につき,合計500万円の寄付が土地の見返りだとの認識で一致したとの事実確認をしただけである。よって,廉価処分が良いか悪いかの判断を一切記載していない本件協議書は,地方自治法96条1項6号の議決の対象とならない。

ウ  地方自治法96条1項6号の議決であるならば,(a)議会に対し,財産を適正な対価なく譲渡しようとしていることを説明し,(b)その譲渡行為の当否そのものを議会に提案・上程しなければならない。

しかし,本件議決に際しては,そのような築館町議会への説明や承認要請は全くされていないから,本件議決は,地方自治法96条1項6号の議決とは認められない。

エ  住民訴訟が係属しているにもかかわらず,原告住民が代位請求している債権を放棄することになる議決をすることは許されないから,本件議決は無効である。

(3)  同(3)(寄付)は否認する。

理由

第1本件協議等

1  請求原因(1)(当事者等)は当事者間に争いがない。

2(1)  請求原因(2)のうち,ア(第1契約),イ(ア)(第2契約),ウ(本件財団法人の解散),エ(本件土地の売却)及びオ(本件協議)は,当事者間に争いがない。

(2)  以上の事実によれば,参加人は,本件財団法人との間で,本件協議により,第1契約地を代金1590万円で売り渡し,第2契約地を無償で譲渡することと同旨の契約を締結したものと認めるべきである。

3  請求原因(6)(監査請求)は当事者間に争いがない。

第2本件議決について

1  証拠(甲23,丙1,丁5,6)及び弁論の全趣旨によれば,参加人(築館町長)は,平成13年12月19日,築館町議会に対し,本件協議につき,地方自治法96条1項6号による議決を求める旨の議案を提出したところ,築館町議会は,同月20日,本件議決をしたことが認められる。

2  本件協議による財産処分行為が適正な対価なくしてされたものだとしても,築館町議会が本件議決をもって本件協議による財産処分行為を追認的に議決したことにより,本件協議の瑕疵は治癒されたものと認められる。

3(1)  原告は,廉価処分が良いか悪いかの判断を一切記載していない本件協議書は,地方自治法96条1項6号の議決の対象とならない旨主張する。しかしながら,前記1に認定のとおり,本件協議につき地方自治法96条1項6号による議決を求める旨の議案が提出されているものであるから,廉価処分が良いか悪いかの判断が記載されていないからといって,本件協議書は地方自治法96条1項6号の議決の対象とならないものと認めることはできないから,原告の上記主張は理由がない。

(2)  原告は,地方自治法96条1項6号の議決であるならば,(a)議会に対し,財産を適正な対価なく譲渡しようとしていることを説明し,(b)その譲渡行為の当否そのものを議会に提案・上程しなければならないところ,本件議決に際しては,そのような築館町議会への説明や承認要請は全くされていないから,本件議決は,地方自治法96条1項6号の議決とは認められない旨主張する。しかしながら,前記1に認定のとおり,本件協議につき地方自治法96条1項6号による議決がされているものであるところ,原告主張のような要件を付加しなければ本件議決が地方自治法96条1項6号の議決とは認められないと解すべき根拠はないから,原告の上記主張は理由がない。

(3)  原告は,住民訴訟が係属しているにもかかわらず,原告住民が代位請求している債権を放棄することになる議決をすることは許されないから,本件議決は無効である旨主張する。しかしながら,住民訴訟が係属した後は被代位債権を放棄する効果をもたらす議決をすることはできないと解すべき根拠はないから,原告の上記主張は理由がない。

4  そうすると,原告の被告らに対する請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。

第3結論

よって,原告の請求を棄却することとし,訴訟費用(参加によって生じた費用を含む。)の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,66条後段を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 市川正巳 裁判官 千々和博志 裁判官 工藤哲郎)

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