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仙台地方裁判所 平成13年(わ)459号 判決 2002年2月14日

主文

被告人Bを懲役4年に,同A及び同Cをいずれも懲役3年6月にそれぞれ処する。

被告人3名に対し,未決勾留日数中各100日を,それぞれその刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

第1被告人3名は,共謀の上,被告人Aと顔見知りでカラオケに行くなどと称して誘い出していたD(当時22歳)を強いて姦淫しようと企て,平成13年7月12日午後10時30分ころ,同女を言葉巧みに宮城県玉造郡a町b字c番地のd所在のホテル「e」の1室に連れ込んだ上,同日午後11時ころ,同所において,同女の腕を引っ張ってベッドに押し倒し,同女の身体を押さえつけるなどの暴行を加えてその反抗を抑圧した上,被告人A及び被告人Bの両名が,順次強いて同女を姦淫し,その際,上記暴行により,同女に加療約1週間を要する頚椎・両肩関節捻挫,左肘・左下腿・腰背部打撲傷の傷害を負わせた。

第2被告人Bは,判示第1の犯行中である同日午後11時ころ,同所において,上記Dが,被告人3名の共謀による強姦目的の暴行によって反抗を抑圧され,現にその共犯者である上記Aに強いて姦淫されるなどして抗拒不能な状態にあるのに乗じ,同女所有の手提げバッグ内から現金2000円を抜き取り,もって,他人の財物を強取した。

(判示第2の事実につき強盗罪の成立を認めた理由)

第1争点

検察官は,判示第2の事実とほぼ同旨の公訴事実により,被告人Bを強盗罪の訴因で訴追しているところ,同被告人の弁護人(以下,本理由中の説示においては,単に「弁護人」という。)は,判示第1の事実に係る被告人3名の事前の共謀に基づく被告人Aの被害者に対する強姦行為の実行中に被告人Bが被害者のバッグ内の財布から現金を抜き取ったという事実関係自体は争わないものの,同被告人はもとより,被告人Aも,強姦のための暴行脅迫とは別に財物奪取に向けられた反抗抑圧のための暴行脅迫は一切しておらず,被告人Bは,単に被害者が被告人Aに強姦されている状態にあるため,たまたま目にした被害者の財布から現金の一部を抜き取っても気付かれないであろうと考え,これを抜き取ったに過ぎないから,窃盗罪を構成するに過ぎないと主張しているので,以下この点につき当裁判所の判断を示す。

第2事実関係

前掲各証拠によれば,以下の各事実が認められる。

1  被告人3名は,カラオケに行くなどと称して誘い出した被害者を輪姦することを共謀して,判示ホテル「e」の1室に被害者を連れ込んだ。

2  同室には,ソファーやガラステーブル,テレビ等が設置されている部屋(以下「居間」という。)とベッド等が設置されている部屋(以下「寝室」という。)とが存在し,居間と寝室の両部屋の間には,厚さ約0.12メートルの仕切りが存在するが,その仕切りの中央部には,上部が半円状にくり抜かれた幅1.65メートル,高さ2.1メートルの扉のない開口部が存在するため,両部屋は相互に内部の様子を見通すことができる構造になっている。

3  被害者は,被告人3名と共に上記居間に入った後,寝室寄りの椅子に腰掛け,財布の入った手提げバッグをその左脇の床上に置いた。

4  被害者が居間でカラオケを3曲ほど歌い終えると,被告人Aは,まず自分が被害者を姦淫しようと,その腕を引っ張って寝室まで連れて行き,被害者をベッドの上に押し倒したところ,被害者は,大声で叫んだり,体を動かすなどして抵抗したため,被告人B及び被告人Cは,上記共謀に基づき被害者の身体をベッドに押さえつけるなどの暴行を加えてその反抗抑圧に加功したが,被告人Bは,被告人Cが被害者の両肩を押さえつけているので,自分が居なくても大丈夫であろうと思い,居間に戻ってカラオケを歌いはじめた。

5  その後,被告人Aは,被告人Cに対しても気が散るなどとして居間の方に行くように言い,一人で被害者に対する強姦の実行を継続していた。

6  被告人Bは,上記のとおり居間でカラオケを歌いながら,被告人Aの姦淫が終わるのを待っていたところ,被害者が椅子の脇に置いていた手提げバックを目にし,現金欲しさに手提げバックの中を見ると赤色の財布が入っており,その中に5000円札1枚と1000円札2枚の現金が入っていることが分かったが,全部抜き取ったのでは被害者にばれてしまうと考え,まず,1000円札1枚を抜き取った。

ちょうどその時,被告人Bは,被告人Cにその行為を見られたことから,被害者の財布からもう1枚1000円札を抜き取って被告人Cに1000円札1枚を与え,その後,当該財布を手提げバックの中に戻し,手提げバックを元あった場所に置いた。

7  被告人Aは,被告人Bの上記現金の抜き取り行為には全く気付くことのないまま,被害者に対する姦淫行為を終えたが,その後も,被告人Cが被害者に口淫を強いたり,被告人Bが強いて姦淫するなど,輪姦を継続した。

8  被害者は,被告人Aに姦淫されていたため,上記6の被告人Bによる現金の抜き取り行為があったことを認識しておらず,被告人3名から解放された後,自宅で財布の中身を確認した際,初めて在中していたはずの1000円札がなくなっていることに気付いた。

第3判断

1  財物奪取以外の目的による暴行脅迫により被害者が抗拒不能になった後に財物領得の意思が発生したような場合につき,刑法236条1項の強盗罪が成立するためには,財物領得のための新たな暴行脅迫を必要とすると解するのが相当である(したがって,被害者が気絶したり,死亡した後に財物領得の意思を生じた場合は,もはや財物領得のための新たな反抗抑圧手段を想定し得ず,窃盗罪を構成するに止まる。刑法178条の準強姦罪のように抗拒不能に乗じた行為を処罰する明文規定のない強盗罪については,やむを得ない解釈というべきである。)が,(ア)その暴行脅迫の程度は,既に自己の先行する暴行脅迫によって作出された被害者の反抗抑圧状態を継続させるに足りるものであればよいと解され,また,(イ)本来の犯行目的と財物領得の意思とは必ずしも両立し得ないものではないから,その新たな暴行脅迫がなお主として本来の犯行目的(本件では強姦)に向けられていたものであるとしても,財物領得にも有為なものとして行為者が認識している以上,この場合の強盗の犯意として欠けるところはないというべきである。したがって,例えば,強姦目的の暴行脅迫により被害者を反抗抑圧状態に陥れた後,当該被害者から財物を領得する意思を生じた場合,一方では姦淫のため同状態を継続させながら,他方ではこれを利用しつつ財物領得も遂げたときでも,特段の事情のない限り,財物領得について強盗罪が成立すると解すべきことになる。

2  前記第2に認定の事実関係によれば,被告人Bは,被告人3名により強姦のための反抗抑圧手段としての暴行が開始され,被害者が抗拒不能の状態に陥った後,そのような状況にあることを認識の上,これを利用して被害者の財布から現金を抜き取って領得する意思を生じたものであるが,その後,抜き取り行為中も被告人Aによる姦淫行為が現に継続し,客観的に被害者の反抗を抑圧するに足りる暴行脅迫が持続しており,それがため,被害者から覚知されることすらなく領得を遂げられたものであることは明らかである。

3  ところで,被告人Bが財布から現金を抜き取ることを決意し,現にこれを行った時点における被告人Bの暴行も,これに先行する被告人3名による暴行も,いずれもあくまで強姦の共謀に基づくものであって,それら自体は上記領得に向けられたものでないことは,弁護人の指摘するとおりである。しかし,前記1(イ)に指摘したとおり,強姦の犯意と財物領得の犯意とは併存し得るものであり,およそ反抗抑圧状態を継続させるに足りる新たな暴行脅迫が,財物領得を遂げるためにも有為なものとして認識されている以上,この場合の強盗の犯意として十分なのである。そして,単独犯においては,単一の行為者がその各犯意に基づき反抗抑圧状態を継続するに足りる新たな暴行脅迫と財物領得行為を行うのであるが,本件のような強姦の共謀共同正犯の事案においては,共犯者のある者(以下,便宜甲とする。)が強姦の犯行中に財物領得の意思を生じ,この点について意思の連絡のできた場合はもとより,それがない場合でも,他の共犯者(同じく乙とする。)の強姦のため新たな反抗抑圧継続行為を利用してその領得を遂げたとすれば,少なくとも甲については,上記単独犯の場合と同等に評価されなければならないはずである。なぜならば,強姦と強盗とは,目的・法益の点では違いがあるにしても,暴行脅迫を手段として被害者の意思を制圧し,その意思に処分を委ねられた法益である性的自由又は財産を侵害するという点においては共通しており,暴行,脅迫の点で構成要件的に重なり合いが存するのであるから,強姦につき謀議を遂げた共犯者甲乙間においても,被害者の意思を制圧する目的で暴行脅迫を行う限り,相互に共犯者の行為を自己の犯行のために利用し合う,いわゆる相互利用・相互補完の関係が認められ,当該謀議に基づく反抗抑圧手段としての共犯者乙の暴行脅迫は,甲自身も自己の犯罪行為の一部としてその罪責を負わざるを得ないのであり,これを財物領得のために利用するということは,甲自らが財物領得のために新たに暴行脅迫をしたことと規範的に同視し得るからである。それゆえ,たとえ物理的な意味において甲自身による暴行脅迫がなかったとしても,強盗罪の成立を否定する理由とはならないというべきであるし,共犯者乙が強姦目的のみで暴行を行っていることは,乙につき強盗罪の成立を否定する理由にはなり得ても,甲の強盗罪の成立を否定する理由になるものではないのである。以上によれば,上記弁護人の指摘する点は,被告人Bについて強盗罪の成立を妨げるものとならないことは明らかである。

4  以上の次第で,当裁判所は,前記第2の事実関係の下における被告人Bが被害者の手提げバック内の財布から現金2000円を抜き取り領得した行為は,強盗罪を構成するものと判断し,判示第2のとおり認定した。

(法令の適用)

罰条

被告人3名の判示第1の所為  刑法60条,181条(177条前段)

被告人Bの判示第2の所為  刑法236条1項

刑種の選択(判示第1・被告人3名)  いずれも有期懲役刑を選択

併合罪の処理(被告人B)  刑法45条前段,47条本文,10条

(重い判示第2の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重)

酌量減軽(被告人B)  刑法66条,71条,68条3号

未決勾留日数の算入(被告人3名)  刑法21条

訴訟費用の不負担(被告人A)  刑事訴訟法181条1項ただし書

(量刑の理由)

1  本件は,被告人3名が,被害者を強姦することを共謀の上,カラオケに行くと言って車に同乗させた被害者をホテルに連れ込んで輪姦し,加療約1週間を要する怪我を負わせた強姦致傷の事案(判示第1)と被告人Bが,単独で被告人Aの強姦目的による暴行による反抗抑圧状態を利用して被害者の財布から現金2000円を奪った強盗の事案(判示第2)である。

2  単に自己の性欲を満足したいがため,輪姦される目に遭う被害者の気持を何ら顧みないその自己中心的かつ身勝手な犯行動機に酌量の余地は全くない。また,被告人らは,カラオケに行こうと言って誘い出した被害者を,いわゆるラブホテルにもカラオケがあるからなどと甘言を弄して連れ込み,犯行に及んでいるのであり,狡猾に事を運んでいる点も見逃せない。なお,被告人Aの弁護人は,被害者の同被告人や友人に対するそれまでの言動が,あたかも被害者が性的に奔放であるかのような印象を与え,本件の動機形成を助長したなどとして,被害者にも落ち度がある旨主張する。しかし,被害者は,かつて被告人Aに対して明確に嫌悪の姿勢を示しているなど,本件当時,被告人らとの関係で性交渉を持つことができると期待できるような事情は全く見当たらず,本件直前に同被告人の名前で被害者に対して一緒に遊ばないかとの誘いに結局被害者が応じたのも,要するに,性交渉を持ちたいという下心を隠しながら執拗に携帯電話をかけて,カラオケ代を被告人らが持つなどとして働きかけた末のことであり,これらによれば,被告人らの刑責を軽減する方向で作用するような被害者に落ち度と目すべき事情は,一切見当たらないのであって,同弁護人の指摘は失当である。屈強の男性が3人がかりで,激しく抵抗する被害者の身体を押さえつけるなどして反抗を抑圧し,うち2名が順次姦淫を遂げている上,(中略),被害者の人格と尊厳を無視し,陵辱の限りを尽くしているのであり,その犯行態様は,それ自体悪質というべき輪姦事案の中でも,特に野蛮で醜悪な部類に属するといえる。激しい抵抗の甲斐もなく姦淫され,いわれのない辱めを受けた被害者の精神的・肉体的苦痛は共に大きく,被害結果は重大である。なお,被害者は本件公判係属中に,勾留されている被告人B及び同Cに面会したり,手紙を送るなどしていることが認められ,これらによれば,その被害感情に微妙な変化が生じていると見られなくもない。しかしながら,上記手紙の文面や,被告人らに対してそのような行動をとった理由について検察事務官に説明しているところによれば,被告人らを宥恕しているとは到底いえず,むしろ,本件犯行による精神的打撃が事件後半年以上を経てもなお癒えていないことを示しているというべきであり,これをもって被告人らに有利な事情と評することは困難である。

3  被告人3名の個別の犯情を見ても,被告人Aは,性交ができそうな相手として被害者の名前を挙げて本件犯行のきっかけを作った張本人である上,最初に姦淫行為に出るなど終始本件犯行を積極的に主導しており,その刑事責任は極めて重い。また,被告人Bも,被告人Aの名前で被害者を呼び出し,犯行現場においても被害者を押さえつけ,自らも姦淫を遂げるなど積極的に行動している。さらに,無為徒食の生活の中,金に窮していた折から,輪姦の継続中に被害者の抗拒不能に乗じて現金を奪取するという卑劣極まりない犯行に及んでいるのであり,その刑事責任は共犯者の中でも特に重いというべきである。

さらに,被告人Cも,姦淫は遂げられなかったというものの,被害者が騒ぎ出すと積極的に被害者の身体を押さえつけ,被害者に口淫を強いたのを始め,種々わいせつな行為を重ねており,他の共犯者らに比して格別その責任が軽くなる事情は存在しない。

以上からすれば,被告人3名の刑事責任はいずれも重く,厳罰は免れ難いというべきである。

4  他方,本件強姦致傷による負傷の程度は幸いにも加療約1週間と比較的軽微なものであること,被告人Bの強盗についてはたまたま手提げバックを認めたことから行った偶発的な犯行であり,被害額も現金2000円と少額であること,被告人3名と被害者との間で強姦致傷の点につき総額約180万円,強盗の点につき約10万円を支払う内容の示談が成立していること,被告人Aの前妻並びに被告人B及び被告人Cの母親において被告人らがそれぞれ社会復帰した後の監督を誓約していること,被告人3名ともに,本件事実関係を素直に認め,被害者に謝罪の意思を表すなど悔悟と更生の意欲が認められること,被告人3名には何らの前科前歴もないことなど被告人3名にとって酌むべき事情も認められる。

5  結論

そこで,以上の事情を総合考慮し,被告人3名を主文の刑に処するのが相当であると判断した。

よって,主文のとおり判決する。

(求刑―被告人A及び同Cにつき懲役4年6月,被告人Bにつき懲役6年)

(裁判長裁判官 前田巌 裁判官 伊藤紘基 裁判官 目黒大輔)

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