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仙台地方裁判所 平成13年(ワ)214号 判決 2011年1月13日

原告

同訴訟代理人弁護士

齋藤拓生

被告

日本ホーム株式会社

同代表者代表取締役

A<他1名>

上記二名訴訟代理人弁護士

佐藤裕一

中谷聡

被告

株式会社 アーキランド

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

村田知彦

主文

一  被告日本ホーム株式会社及び被告株式会社アーキランドは、原告に対し、連帯して五三五五万三三三六円及びこれに対する平成一二年一二月一〇日から支払済みまで、被告日本ホーム株式会社については年六分の、被告株式会社アーキランドについては年五分の各割合による金員を支払え。

二  原告の被告日本ホーム株式会社及び被告株式会社アーキランドに対するその余の請求並びに被告Y1に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告日本ホーム株式会社及び被告株式会社アーキランドとの間においては、原告に生じた費用の二七分の一〇を被告日本ホーム株式会社及び被告株式会社アーキランドの連帯負担とし、その余は各自の負担とし、原告と被告Y1との間においては、全部原告の負担とする。

四  この判決は、主文第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、連帯して八九九七万六六九七円及びこれに対する平成一二年一二月一〇日から支払済みまで、被告日本ホーム株式会社については年六分の、被告Y1及び被告株式会社アーキランドについてはいずれも年五分の各割合による金員を支払え。

第二事案の概要等

一  事案の概要

本件は、原告が、被告日本ホーム株式会社(以下被告日本ホーム」という。)との間で工事請負契約を締結し、同契約に基づいて建物の引渡しを受けたところ、同建物には設計図書や建築基準法令に違反する瑕疵があるとして、請負人である被告日本ホームに対しては瑕疵担保責任又は不法行為に基づく損害賠償金を、同契約の工事請負契約書に監理者として署名捺印した被告Y1(以下「被告Y1」という。)に対しては債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償金を、同建物の建築確認申請書に工事監理者として記載されたB(以下「訴外B」という。)の使用者である被告株式会社アーキランド(以下「被告アーキランド」という。)に対しては民法七一五条に基づく損害賠償金を、被告日本ホームに対する催告の日の翌日で、不法行為後である平成一二年一二月一〇日を起算日とした遅延損害金とともに、それぞれ連帯して支払うよう求めた事案である。

なお、当初原告であったC(以下「亡C」という。)は、訴え提起後に死亡し、原告が相続人として、本件訴訟における原告の地位を含む法的地位を承継した(顕著な事実)。以下においては、亡C固有の行動を特に明記する必要がある場合に限り「亡C」と表記し、それ以外については亡Cと原告を併せて「原告」と総称することとする。

二  前提事実(争いがない事実、明らかに争わない事実については証拠番号を付さない。)

(1)  当事者等

ア 被告日本ホームは、建築の設計施工などを目的とする株式会社である。

イ 被告アーキランドは、建築物並びに建築設備の企画、設計、監理及び工事斡旋などを目的とする株式会社である。

訴外Bは、同社の代表取締役であり、一級建築士の資格を持ち、原告の自宅兼賃貸用マンション(《住所省略》所在。以下建築された同建物を「本件建物」という。)の新築工事(以下「本件工事」という。)についての建築確認申請書に、工事監理者として記載された者である。

ウ 被告Y1は、本件建物の新築工事請負契約(以下「本件請負契約」という。)が締結された平成一〇年六月当時、被告日本ホームの常務取締役の地位にあり、本件請負契約の工事請負契約書に、監理者として署名捺印をした者である。

(2)  原告及び被告日本ホームは、平成一〇年六月三〇日、原告を注文者、被告日本ホームを請負人として、下記の約定で、本件請負契約を締結した。

ア 工事場所 《住所省略》

イ 着工 平成一〇年八月二〇日

ウ 完成 平成一一年三月一八日

エ 引渡時期 完成の日から一〇日以内

オ 請負代金 一億三五〇〇万円

(内訳)

工事価格 一億二八五七万一四二八円

消費税 六四二万八五七二円

カ 支払方法

着工時 四〇〇〇万円

上棟時 四〇〇〇万円

完成引渡時 五五〇〇万円

(3)  被告日本ホームは、本件請負契約の内容を具体化するものとして、本件工事実施のために必要な図面(現寸図その他これに類するものを除く。)及び仕様書から成る設計図書(以下「本件設計図書」という。)を作成した上、平成一一年三月三〇日までに、本件建物を完成させ、原告は、同日、本件建物の引渡しを受けた。

(4)  原告は、被告日本ホームに対し、下記のとおり、請負代金を支払った。

ア 平成一一年二月二五日 四〇〇〇万円

イ 平成一一年三月二〇日 九〇〇〇万円

ウ 平成一一年八月二四日 五〇〇万円

(5)  原告は、被告日本ホームに対し、本件建物の瑕疵を理由として、建築請負代金相当額で本件建物を買い取るか、瑕疵を修補し、又は瑕疵の修補費用相当額を支払うよう催告し、同催告は、平成一二年一二月九日に被告日本ホームに到達した。

三  争点

(1)  本件建物(本件工事の目的物)の瑕疵の有無

本件建物において、別紙一「瑕疵一覧表」の「項目」欄に記載の各瑕疵(以下「原告主張の各瑕疵」という。)が認められるか(争点一)。

(2)  被告日本ホームの責任原因

ア 被告日本ホームは、本件工事の目的物(本件建物)に原告主張の各瑕疵が存在することについて、請負人の瑕疵担保責任又は不法行為に基づく損害賠償責任を負うか(争点二ア)。

イ 被告日本ホームは、本件建物の設計、施工に関し、工事監理者を定めて工事監理を行うべき注意義務に違反して、原告主張の各瑕疵を発生させたことにつき、不法行為に基づく損害賠償責任を負うか(争点二イ)。

(3)  被告アーキランドの責任原因

一級建築士である訴外Bは、建築確認申請書に自らが工事監理者であるかのように記載した者として、被告日本ホームに工事監理者の変更の届出をさせる等の適切な措置を講じるべき注意義務を負っていたにもかかわらず、これに違反して原告主張の各瑕疵を発生させたことにつき、訴外Bの使用者である被告アーキランドは、民法七一五条に基づく損害賠償責任を負うか(争点三)。

(4)  被告Y1の責任原因

被告Y1は、設計図書ないし建築基準法令に違反した施工が行われないように工事監理を行うべき注意義務に違反して、原告主張の各瑕疵を発生させたことにつき、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償責任を負うか(争点四)。

(5)  損害の有無及び数額(争点五)。

四  争点に対する当事者の主張

(1)  争点一(本件建物の瑕疵の有無)について

争点一に関する当事者の主張は、別紙一「瑕疵一覧表」の「現状(瑕疵)」欄に各記載のとおりである。

(2)  争点二(被告日本ホームの責任原因―瑕疵担保責任、債務不履行又は不法行為の成否)について

ア 原告の主張

(ア) 被告日本ホームは、本件建物に存在する争点一記載の瑕疵につき、請負人としての瑕疵担保責任又は不法行為に基づき、後記(5)の原告主張の損害を賠償すべき責任がある。

(イ) また、原告は、被告日本ホームとの間で本件請負契約を締結することにより、被告日本ホームに対して本件建物の設計、施工、工事監理の全てをゆだねたのであるから、被告日本ホームは、原告に対し、本件建物の工事監理を行う注意義務を負っているところ、後記争点三、四において被告アーキランド及び被告Y1の主張する事実によれば、本件建物の工事監理者は不在であったことになるから、上記注意義務違反を理由とする債務不履行又は不法行為に基づき、後記(5)の原告主張の損害を賠償すべき責任がある。

イ 被告日本ホームの主張

(ア) 本件建物には瑕疵が存在しないから、被告日本ホームは、原告が上記アで主張する各責任を負うことはない。

(イ) また、建築基準法上、工事監理者を定めなければならないとされている主体は建築主たる原告であり、被告日本ホームが、原告に対して本件建物の工事監理を行う義務を負うことはないから、原告が上記ア(イ)で主張する債務不履行又は不法行為に基づく責任を負うことはない。

そもそも、被告日本ホームが工事監理者不在のまま本件建物の建築工事を行ったことによって、本件建物に争点一で記載した瑕疵が発生したとはいえない(因果関係がない)から、原告の上記ア(イ)の主張は失当である。

(3)  争点三(被告アーキランドの責任原因―不法行為の成否)について

ア 原告の主張

訴外Bは、建築確認申請書において、本件建物の建築工事について工事監理を行う旨の実体に沿わない記載をしたのであるから、自己が工事監理を行うことが明確になった段階で、建築基準関係規定に違反した建築工事が行われないようにするため、本件建物の建築工事が着手されるまでの間に、被告日本ホームに工事監理者の変更の届出をさせる等の適切な措置を講じるべき注意義務があったというべきである。

しかるに、訴外Bは、何ら適切な措置を講じることなく放置し、上記(1)の瑕疵を発生させたのであるから、被告アーキランドは、訴外Bの使用者として、民法七一五条に基づく使用者責任に基づき、後記(5)の原告主張の損害を賠償する責任を負う。

イ 被告アーキランドの主張

被告アーキランドは、工事監理について原告ないし被告日本ホームから依頼を受けたことはなく、本件請負契約では、被告日本ホームが設計、施工、工事監理を行うこととされており、契約書上も、工事監理者として被告日本ホームの常務取締役であった被告Y1が記名押印している。

そうであれば、原告は、被告Y1が監理業務を行うことについての認識を有していたのであるから、被告アーキランドないし訴外Bに対して本件建物の建築工事が着手されるまでの間に、被告日本ホームに工事監理者の変更の届出をさせる等の適切な措置を講じるべき注意義務などという形式的な作為義務を観念することは無意味である。

したがって、被告アーキランドは、原告が上記アで主張する民法七一五条に基づく使用者責任を負うことはない。

仮に上記注意義務が認められるとしても、被告アーキランドないし訴外Bが、被告日本ホームに対して工事監理者の変更の届出をさせる等の適切な措置を講じなかったことによって、本件建物に争点一で記載した瑕疵が発生したとはいえない(因果関係がない)から、原告の上記アの主張は失当である。

(4)  争点四(被告Y1の責任原因―債務不履行又は不法行為の成否)について

ア 原告の主張

被告Y1は、原告に対し、設計図書ないし建築基準法令に違反した施工が行われないよう工事監理を行うべき義務に違反して、本件建物に上記(1)の瑕疵を生じさせた。

よって、被告Y1は、債務不履行又は不法行為に基づき、後記(5)の原告主張の損害を賠償する責任を負う。

イ 被告Y1の主張

被告Y1は、確かに工事請負契約書の「監理者」欄に署名捺印しているが、これは監理者としての責任を基礎付けるものではない。

本件請負契約は、被告日本ホームの設計施工によるものであるから、同社の常務取締役であった被告Y1が、被告日本ホームから一定の独立性をもって、監理者としての地位に基づく強大な権限を与えられていたとは考えられない。実際には、被告Y1の業務は、被告日本ホームと原告との窓口的な役割に限定されていた。

また、本件建物は一級建築士でなければ工事監理ができないものであったところ、被告Y1は一級建築士の資格を有していないのであるから、工事監理を引き受ける理由はない。

さらに、原告も、被告Y1が本件工事の工事監理者ではないことを明らかに認識していた。

したがって、被告Y1は、原告が上記アで主張する債務不履行又は不法行為に基づく責任を負うことはない。

(5)  争点五(損害の有無及び数額)について

ア 原告の主張

(ア) 争点一記載の瑕疵の修補費用、設計監理報酬及び消費税等の合計は五六三一万四八五二円であり、各補修費用の詳細については、別紙一「瑕疵一覧表」の「損害」欄に各記載のとおりである。

(イ) 入居者立退費用 四八六万円

(ウ) 逸失利益(賃料) 一一八三万二〇〇〇円

(エ) 調査費用 五九六万九八四五円

(オ) 慰謝料 三〇〇万円

(カ) 弁護士費用 八〇〇万円

イ 被告らの主張

全て事実は否認し、主張は争う。

第三当裁判所の判断

一  争点一(本件建物の瑕疵の有無)について

請負契約における仕事の目的物の瑕疵とは、一般に、完成された仕事が契約で定められた内容を満たさず、目的物について、使用価値若しくは交換価値を減少させるような欠点があるか、又は当事者間で予め定められた性質を欠いているなど、不完全な点があることをいうものと解される。

これを建物の建築工事請負契約に即してみると、建物としての機能や財産的価値の大きさなどに照らし、目的物である建物が最低限度の性能を有すべきことは、請負契約上当然に要求される内容といえるから、そのような最低限度の性能について定めた建築基準法令(国土交通省告示、日本工業規格、日本建築学会の標準工事仕様書(JASS)等を含む。)に違反する場合や、そのような違反がなくても当該建物が客観的にみて通常有すべき最低限度の性能を備えていない場合には、目的物について、契約で定められた内容を満たさず、使用価値若しくは交換価値を減少させるような欠点があるものとして瑕疵があるというべきである。

また、建築物の建築工事実施のために必要な図面(現寸図その他これに類するものを除く。)及び仕様書から成る設計図書(建築士法二条五項、建築基準法二条一二号)は、建築工事請負契約において定められた仕事の内容を具体的に特定する文書であることから、設計図書と合致しない工事が行われた場合には、その不一致がごく軽微であり、目的物の価値、機能及び美観などに影響を与えず、注文者の意思に反することもないといえるような特別の事情のない限り、目的物について、契約で定められた重要な内容を満たさず、当事者間で予め定められた性質を欠くものとして、瑕疵があるというべきである。

以下、上記解釈を踏まえて、原告主張の各瑕疵の有無について検討する。

(1)  屋根工事の設計図書違反(瑕疵一覧表・番号1)

本件設計図書においては、本件建物の屋根につき、一部を除いて逆梁工法は予定されていなかったが、実際には、本件設計図書とは異なり、全ての梁が逆梁工法で施工された事実が認められる(争いがない)。

この点につき、原告は、本件設計図書違反の瑕疵があると主張するのに対し、被告日本ホームは、亡Cからの強い要望で当初は逆梁とすることを予定していなかった梁についても逆梁工法としたのであり、これは亡Cの同意に基づくものであるから、設計図書違反ではないとして、瑕疵に当たることを争い、被告Y1はそれに沿う供述をしている。

そこで被告Y1の供述の信用性について検討するに、逆梁に変更することによって、請負代金を増額しない限り建築費用が割高になることや、構造計算書及び設計図書なども全て書き直す必要があることなどの諸事情に照らせば、被告日本ホームが亡Cの同意を得ないまま独断で逆梁工法への変更を実施することのメリットは容易に想定し難い一方で、原告にとっては、逆梁工法とすることによって、本件建物五階(亡Cの自宅)部分の窓の高さを高く取れるというメリットがあるといえる。また、原告は、本件第三回口頭弁論期日において、本件設計図書と異なり逆梁工法で施工されていること自体を殊更問題にするつもりはないと陳述しているのであって、これは設計図書違反を争わない態度とも取れるものである。

以上の事情を総合すれば、被告Y1の供述のうち、少なくとも、屋根工事の逆梁工法に関する部分は信用できるというべきであるから、逆梁工法の施工は、亡Cの同意に基づくものであると認められる。

したがって、本件設計図書に反していることを理由として、本件建物の屋根を逆梁工法にしたことが瑕疵に当たるとはいえないから、原告の主張には理由がない。

(2)  本件建物の構造的安全性の欠如(瑕疵一覧表・番号2)

原告は、本件建物には構造的安全性を欠く瑕疵がある旨主張しているところ、証拠(鑑定の結果・平成一九年一月一二日付け鑑定書)によれば、本件建物は建築基準法二〇条二項に定める構造計算によって確かめられた安全性を有している事実が認められることに加え、被告日本ホームが実施した本件建物の構造計算の結果によっても、その安全性が確認されていることも併せ考慮すれば、原告主張の瑕疵があるとは認め難い。

これに対し、原告は、上記鑑定の結果における構造計算について、断面算定条件におけるRC部材(鉄筋コンクリート部材)のQD(設計用せん断力)の割増率や、ルーフバルコニー部分、五階花壇、外部階段の荷重につき、現状を踏まえた再計算を実施すべきであるなどと主張してその信用性を争っているが、原告主張の再計算により、上記鑑定の結果が覆る可能性があるかは、本件全証拠によっても明らかではないから、上記鑑定の結果に対する的確な反論とは言い難く、他に原告の主張を認めるに足りる事実、証拠はない。

(3)  屋根の水勾配の欠如(瑕疵一覧表・番号3)

日本建築学会が作成した建築工事標準仕様書・同解説(JASS8)においては、一/一〇〇(一〇〇センチメートルで一センチメートルの高低差が生じることをいう。以下、表記方法につき同じ。)から一/五〇の水勾配が必要であるとされているところ、JASS8は建築業界での通説的基準を示すものであるから(鑑定の結果・平成一五年五月三〇日付け鑑定書四一頁によれば、実務上も上記の水勾配を設けることが確立した基準となっていることが認められる。)、これに反する施工は、基本的に最低限度の性能を備えていないものとして、瑕疵に当たると評価すべきである。

これを本件についてみるに、《証拠省略》によれば、本件建物五階屋根の水勾配は一/一一二ないし一/二〇〇、五階屋根の庇部分は一/二一二ないし一/三一二であることが認められるから、本件建物五階屋根及び五階屋根の庇部分の水勾配の欠如は、法令等に定める最低限度の性能を欠くものとして、瑕疵に該当するというべきである。

なお、原告は、五階ルーフバルコニーについても必要な水勾配が欠如していると主張するが、《証拠省略》によれば、同箇所における水勾配は一/七五ないし一/一〇〇であり、JASS8の基準を満たしているから、この点に関する原告の主張には理由がない。

また、被告らは、原告の指摘するいずれの箇所においても、排水口に向かって一定の勾配が確保されているから現実的な支障は生じていないなどと主張するが、《証拠省略》によれば、五階屋根及び五階屋根の庇部分は随所に水溜りが発生し得る状態であることが明らかであるから、被告らの主張は採用できない。

(4)  屋根防水仕様の設計図書違反(瑕疵一覧表・番号4)

《証拠省略》によれば、本件設計図書には、本件建物の屋根の仕上げ材としてシート防水(非歩行用)を使用するとの記載があることが認められるが、《証拠省略》によれば、五階屋根のうち中央部以外の部分及びエレベーター棟の屋根部分には、塗膜防水が施工されていることが認められる。

そして、防水性能は建物の耐久性に影響するものであって、本件全証拠によっても、それがごく軽微であり、目的物の価値、機能及び美観などに影響を与えず、注文者の意思に反することもないといえるような特別の事情があるとは認められないことから、上記の不一致(設計図書違反)は瑕疵に当たると評価すべきである。

これに対し、被告らは、五階屋根の庇部分は幅が狭いため、施工不良が生じやすいシート防水ではなく塗膜防水を選択したものであり、これらは単価的にも同等であるから補修の必要性はないと主張するが、シート防水と塗膜防水の耐久性や将来的な防水性能の差異は本件全証拠によっても明らかではなく、補修の必要性がないとまではいえないから、被告らの上記主張は採用できない。

また、被告らは、上記各箇所において塗膜防水を施工したことは、原告から得た包括的了解の範囲内であると主張するが、原告がそのような了解をしていたと認めるに足りる証拠はないから、被告らの上記主張は採用できない。

(5)  シート防水層の排水ドレインの欠陥(瑕疵一覧表・番号5)

《証拠省略》によれば、排水ドレインの梁貫通部分の配水管はコンクリート梁の中間部分で中断されており、コンクリート躯体に雨水が浸入するおそれがあることが認められる。

また、被告らも、配水管内部の配管及び出入口廻りの補修の必要性自体は認めている。

そうであれば、上記排水ドレインの配水管の状態は、客観的に見て通常有すべき性能を欠いていると認められることから、瑕疵に当たるというべきである。

(6)  五階屋上のコンクリート梁に対する保護の欠如(瑕疵一覧表・番号6)

《証拠省略》によれば、五階屋上のコンクリート梁に中性化を防止するための塗装工事ないし防水工事がなされていないことが認められる。

そして、《証拠省略》によれば、一般的に、塗装工事ないし防水工事が行われていないコンクリートは中性化の進行が早まることから、金属性笠木やウレタン防水等でコンクリートを保護する施工がなされるべきであると認められ、被告らも梁の劣化防止のためには防水工事をする方が望ましいこと自体は認めている。

そうであれば、五階屋上のコンクリート梁に中性化を防止するための塗装工事ないし防水工事がなされていないことは、客観的に見て通常有すべき性能を欠いているといえるから、瑕疵に当たるというべきである。

これに対し、被告らは、原告からの要望によって本件建物の五階を逆梁にしたのであるから、五階屋上のコンクリート梁について防水工事をするとすれば追加工事とするべきであって、本件契約における瑕疵ではないと主張するが、仮に、五階を逆梁にしたことが原告の要望に基づくものであったとしても、原告の要望(申込み)及びそれに対する被告らの工事の開始(承諾)によって、逆梁工法による施工は新たに請負契約の一内容を構成することになるから、客観的に通常有すべき性能を備えた逆梁を完成させることが、請負人としての義務であるというべきである(なお、五階屋上コンクリート梁部分の防水工事が被告日本ホーム主張の追加工事に当たる場合には、原告において、同追加工事の内容を含む請負契約の内容に反することをもって瑕疵であると主張する意思とみるのが合理的である。)。被告らの主張は失当である。

(7)  外壁等のひび割れ及び白華現象(瑕疵一覧表・番号7)

《証拠省略》によれば、本件建物のうち、別紙二並びに別紙三の三及び四各記載の調査箇所7、8、18において白華現象及びひび割れが発生していることが認められる。

もっとも、乾燥収縮や湿度変化などの自然現象に起因するひび割れが一定程度発生することは、コンクリートの性質に照らして避けられないところ(公知の事実)、ひび割れが、専ら自然現象に起因するものであり、或いは、その程度が補修の必要性が認められないほどに軽微なものであれば、客観的に見て通常有すべき性能を欠いているとは評価できないから、瑕疵には当たらないというべきである。

ア そこで、まず、本件建物におけるひび割れ及び白華現象の原因について検討する。

(ア) コンクリート養生不足

① 建築基準法施行令七六条一項は、構造耐力上主要な部分に係る型わく及び支柱は、コンクリートが自重及び工事の施行中の荷重によって著しい変形又はひび割れその他の損傷を受けない強度になるまでは取りはずしてはならないと規定し、同条二項は、前項の型わく及び支柱の取りはずしに関し必要な技術的基準は国土交通大臣(旧建設大臣)が定めると規定し、これを受けて、昭和四六年建設省告示第一一〇号は、基礎、はり側、柱及び壁の型枠の存置期間は、早強セメント(硬化が速いセメント)を使用しない場合で、かつ、存置期間中の平均気温が五度未満の場合には、八日間もしくは一〇日間と定めている。

ところが、被告日本ホームは、本件建物の基礎及び一階ないし三階の躯体鉛直部についてはコンクリート打設の翌日に、四階及び五階の躯体鉛直部についてはコンクリート打設の二日後に、それぞれ型枠を解体しており(争いがない)、これらは、いずれも建築基準法施行令七六条一項、二項に違反するものといえる。

これに対し、被告らは、基礎コンクリートの型枠は荷重負荷の少ない鉛直部に属するもので、同部分に係る上記型枠解体工事は、業界において一般的な施工であるから瑕疵に当たらないと主張する。

しかしながら、建築基準法は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低限の基準を定めたものであり(建築基準法一条)、同様に、同法施行令に基づく建設省告示も最低限の基準を定めたものであると解されるから、同告示に反する施工は瑕疵に当たるというべきであるから、被告らの主張は失当である。

② また、昭和四六年建設省告示第一一〇号は、版下及びはり下の型枠の存置期間について、早強セメントを使用しない場合で、かつ、存置期間中の平均気温が五度未満の場合には一六日間もしくは一八日間、早強セメントを使用した場合で、かつ、存置期間中の平均気温が五度未満の場合には一〇日間とそれぞれ定めているところ、本件においては、早強セメントを使用していない二階ないし四階躯体水平部の型枠存置期間はいずれも一六日間未満であり、早強セメントを使用した五階躯体水平部の型枠存置期間は七日間であることから、いずれも建築基準法施行令七六条二項に違反するものといえる。

③ さらに、建築基準法施行令七五条は、「コンクリート打込み中及び打込み後五日間は、コンクリートの温度が二度を下らないようにし、かつ、乾燥、震動等によってコンクリートの凝結及び硬化が妨げられないように養生しなければならない。ただし、コンクリートの凝結及び硬化を促進するための特別の措置を講ずる場合においては、この限りでない。」と規定するところ、原告は、本件建物の一階ないし五階の躯体について同条違反の瑕疵があると主張する。

そこで検討するに、《証拠省略》によれば、本件建物の一階ないし五階躯体について、コンクリート打設日から五日間のほとんどの日において、最低気温が二度を下回っていることが認められ、コンクリートの凝結及び硬化を促進するための特別の措置を講じたと認めるに足りる的確な証拠はない。

なお、《証拠省略》によれば、被告日本ホームは、平成一一年一月八日から三月二日まで訴外小野リース株式会社からジェットヒーター三台をリース契約により調達したことが認められ、これはコンクリートの保温養生を目的としたものであると考えるのが自然ではあるものの、本件全証拠によっても、上記ジェットヒーターの性能や本件建物における具体的使用状況等は明らかではなく、前記建築基準法施行令七五条の要求を満たす程度にコンクリートの凝結及び硬化を促進するための特別の措置を講じたと認めるには足りない。

したがって、本件建物における一階ないし五階躯体について、建築基準法施行令七五条に違反する瑕疵があるというべきである。

④ なお、原告は、本件建物の基礎についてコンクリート打設の四日後に埋戻し作業を行ったこと及び本件建物の土間並びに四階及び五階躯体についてはコンクリート打設の二日後に、一階ないし三階躯体についてはコンクリート打設の翌日に、それぞれ鉄筋工作業を行ったこと(いずれも争いがない)をもって、コンクリートの打込み後五日間はこれを養生しなければならないと定める建築基準法施行令七五条に違反する瑕疵に当たると主張するが、本件全証拠によっても、埋戻し作業や鉄筋工作業の具体的内容は明らかではなく、同条の違反するコンクリートの養生不足があったと認めることはできない。

(イ) かぶり厚さ不足

《証拠省略》によれば、本件建物のうち、別紙三の一ないし四各記載の調査箇所1ないし3、5及び6、9ないし16の柱及び梁において、鉄筋のかぶり厚さ不足が認められるところ、これは建築基準法施行令七九条一項に違反するものといえる。

これに対し、被告らは、かぶり厚さの不足が測定されたとしても、調査ないし施工時の誤差の範囲内のものであると主張し、それを裏付ける証拠としてD作成の報告書(以下「D報告書」という。)を提出する。

しかしながら、D報告書は、要旨「調査の誤差や、施工の誤差も考えられることから、数字を満足していないことによって、それが直ちに欠陥であるとはいえない」としているところ、調査や施工の誤差の範囲であるという指摘は具体的根拠を伴わない一般的な推測にとどまるものであるし、建築基準法施行令に定める数値は、調査や施工の誤差を踏まえてもなお遵守しなければならない数値であるから、被告らの主張は失当である。

また、D報告書は、要旨「かぶり厚さが三〇ミリメートル以下とされる部分であっても、ほぼ二〇ないし二九ミリメートルの範囲に収まっていることから、結束線をねじって締めた部分など、探査の機械が鉄筋以外のものに反応したと考えられる」としているところ、《証拠省略》によれば、結束線は鉄筋の交差部分の一部に生じるに過ぎないから、全ての調査箇所において結束線に反応したとは考え難く、《証拠省略》によれば、かぶり厚さが一六ないし一九ミリメートルである箇所も相当数認められるのであるから、上記報告書中の、かぶり厚さがほぼ二〇ないし二九ミリメートルの範囲に収まっているという記載部分は、その前提に疑問がある。

以上の諸事情に照らせば、D報告書によっても、上記認定(建築基準法施行令七九条一項に違反すること)は左右されないというべきである。

(ウ) 配筋不良

① 《証拠省略》によれば、本件建物のうち、別紙三の一記載の調査箇所1及び2において、柱の第一段目の帯筋の欠落が認められるところ、これは柱を曲げようとする力に対して、構造的に強度不足を生じさせるものであると認められる。D報告書においても、要旨「柱の第一帯筋が欠落している場合、それがあった場合と比べると、構造耐力的には落ちると考えられる」旨記載されており、これは上記の認定と整合する。

他方、D報告書は、要旨「柱の第一段目の帯筋が欠落していても、建物全体として見れば十分な構造耐力がある」としているところ、仮にそうであったとしても、同帯筋の欠落によって部分的に柱の強度が弱くなることでコンクリートにひび割れが発生する原因となる可能性は否定されないから、上記D報告書の記載によっても、上記認定は左右されないというべきである。

② また、《証拠省略》によれば、本件建物のうち、別紙三の一ないし四各記載の調査箇所1ないし3、5及び6、9ないし16の柱、梁において、帯筋及び肋筋の配筋の間隔が設計図書に定められた数値を超えていた箇所が二九か所、超えている可能性を否定できない箇所が四七箇所、それぞれ存在した事実が認められるところ、これによって、せん断力に対するコンクリートの強度を低下させるおそれを生じさせる可能性があることが認められる。

これに対し、D報告書は、要旨「配筋の間隔が設計図書より広くなっていたとしても、その程度は大きいものではないし、測定誤差の可能性も否定できないことに加え、全体として見れば適切な本数の帯筋、肋筋が入っているから、構造耐力上特に問題はない」としている。

しかしながら、コンクリートの強度という観点からすれば、配筋の間隔がどのくらい広くなっているかという程度問題ではなく、等間隔に配筋され、応力が均等に働くことが重要であるといえる。

また、上記D報告書は、測定誤差の可能性を指摘するが、これを裏付ける客観的な根拠はない(測定誤差を指摘するのであれば、むしろ設計図書に定められた数値を超えている可能性が否定できないとされている四七箇所が、実際には上記数値を超えていることもあり得ることになる。)。

さらに、建物全体として見れば十分な構造耐力があるとしても、部分的に柱の強度が弱くなり、コンクリートにひび割れが発生する原因となる可能性が否定されないことは、上記①の場合と同様である。

以上の諸事情に照らせば、D報告書によっても、上記認定は左右されないというべきである。

(エ) コンクリート打設不良

《証拠省略》によれば、本件建物のうち、別紙三の一に記載の調査箇所2において、コンクリートのジャンカ(セメントペーストがなく砂利のみの状態)が存在し、鉄筋に錆が生じていることが認められるところ、これは、コンクリートの強度について、コンクリートは、打上りが均質で密実になり、かつ、必要な強度が得られるようにその調合を定めなければならないと定めた建築基準法施行令七四条三項及び日本建築学会編・建築仕様書JASS5・2・3・bに違反するものといえる。

(オ) 総括

以上の検討を基に、本件建物のひび割れ及び白華現象の原因について考察するに、本件建物の竣工後約四年が経過したにとどまるにも拘わらずひび割れや白華現象の発生が認められ、そのひび割れ等の程度も広範囲にわたっていることなどの事情に照らせば、本件建物におけるコンクリートのひび割れは、経年劣化のみが原因となっているとは考え難い。

かえって、《証拠省略》によれば、コンクリートの養生不足等によってコンクリート内の水分の乾燥促進や太陽熱によるコンクリート収縮を誘発した結果、ひび割れが発生した可能性が高く、また、かぶり厚さ不足、配筋不良及びコンクリート打設不良は、一般的にいずれも構造上のひび割れが発生する原因とされていることが認められる。

以上の事情を総合的に勘案すると、本件建物のひび割れは、その原因を明確に特定することは困難であるものの、専ら自然現象に起因するものではなく、上記(ア)ないし(エ)に記載したような被告日本ホームの施工上の問題が複合して作用した結果、発生したものと認めるのが相当である。

イ そして、《証拠省略》によれば、本件建物の屋上スラブにおけるひび割れの深さは、スラブの厚さ一五センチメートルに対して、最大で一四・五センチメートル、最小でも六・八センチメートルであると認められるところ、これはスラブを貫通しているものであり、有害なひび割れである可能性が高い。

また、《証拠省略》によれば、外壁のひび割れは建物の広範囲にわたっており、本件建物のひび割れが、補修が不要なほどに軽微なものであるとは認め難い。

ウ 小括

以上によれば、本件建物におけるひび割れは、発生原因という観点から見ても、補修の必要性という観点から見ても、客観的に見て通常有すべき性能を欠くものであり、また、白華現象は、コンクリートのひび割れに起因するものであるから、いずれも瑕疵に当たるというべきである。

エ 被告らの主張について

(ア) 以上に対し、被告らは、平成一五年時点におけるひび割れ及び白華現象と、平成二一年時点におけるひび割れ及び白華現象を比較すると、六年以上経過しても変化は生じておらず、かえって白華現象の範囲が狭くなったり、ひび割れの長さが外観上短くなったりしていることから、時間の経過、地震、自然収縮などが原因であると考えられ、瑕疵には該当しないと主張し、D報告書には、本件建物のひび割れ及び白華現象は通常よく起こりうるケースであるなどとした部分がある。

しかしながら、上記D報告書の記載部分は、その根拠が判然としないから採用の限りではなく、また、被告らが白華現象の範囲が狭くなったりひび割れの長さが外観上短くなったりしていると指摘する箇所は、本件建物に発生しているひび割れ及び白華現象の一部分に過ぎないのであって、本件全証拠によっても、本件建物に生じているすべてのひび割れや白華現象が六年の間に進行していなかったとは認められない(屋上スラブに発生しているひび割れについては、被告らから、それが瑕疵に当たらないことの主張、立証が何らなされていない。)。

結局、被告らの主張は、写真における比較の結果を指摘するにすぎないのであって、両時点における写真を撮影した正確な位置、カメラからひび割れまでの距離や角度、その他、撮影時の条件などは本件全証拠によっても明らかでなく、ひび割れの正確な幅、長さ、深さについて具体的な数値を根拠として主張するものではない。

そもそも、被告らの上記主張の主たる根拠は「建物の構造上の問題がある場合には、白華現象の範囲が広がり、また、クラックが大きくなる場合がある」こと、「乾燥収縮の場合にはひび割れが三、四年で終結する」ことであると解されるところ、前者は建物の構造上の問題がある場合であっても白華現象の範囲が広がらなかったり、クラックが大きくならなかったりする場合があることを排斥するものではないし、後者もひび割れが三、四年で終結した場合には必ず乾燥収縮が原因であることを意味しないのであるから、いずれも上記主張の根拠としては薄弱であるといわざるを得ない。

(ウ) 以上によれば、被告らの上記主張は採用することができず、その他、被告らが縷々主張、立証するところによっても、上記結論を左右するには足りない。

(8)  五階ルーフバルコニー及び五階バルコニーの庇部分の防水材料の設計図書違反(瑕疵一覧表・番号8)

本件設計図書においては、本件建物の五階ルーフバルコニー及び五階バルコニーの庇部分にアスファルト防水を施工する予定とされていたが、実際には塗膜防水が施工されている事実が認められる(争いがない)。

そして、防水性能は建物の耐久性に影響するものであって、本件全証拠によっても、それがごく軽微であり、目的物の価値、機能及び美観などに影響を与えず、注文者の意思に反することもないといえるような特別の事情があるとは認められないから、上記の不一致(設計図書違反)は瑕疵に当たると評価すべきである。

これに対し、被告らは、五階ルーフバルコニーについて塗膜防水を施工したことは、亡Cの希望で当初ルーフガーデンにする予定であったものをタイル・ウッドデッキブロックに変更したことに伴う施工技術上の小さな変更に過ぎないのであって、亡Cの包括的了解を得た範囲内のものであると主張するが、アスファルト防水と塗膜防水では防水性能(耐用年数)や価格に差異があるし、本件全証拠によっても原告が上記のような了解をしていたとは認められないから、被告らの上記主張は採用できない。

また、被告らは、五階バルコニーの庇部分は幅が狭いため、施工不良が生じやすいアスファルト防水ではなく、塗膜防水を選択したものであり、防水効果は十分であるから現実的な支障はないと主張するが、アスファルト防水と塗膜防水には防水性能(耐用年数)に差異があることは上記のとおりであるから、被告らの上記主張は採用できない。

(9)  屋上ベランダのパラペット部分及び四階東側天井(ルーフバルコニー)部分の笠木の未施工(瑕疵一覧表・番号9)

本件設計図書においては、本件建物のうち、屋上ベランダのパラペット部分と四階東側天井(ルーフバルコニー)部分に笠木を施工する予定とされていたが、実際には笠木が施工されていなかった事実が認められる(争いがない)。

そして、笠木の施工は建物の耐久性に影響する防水性能を高めるものであって、本件全証拠によっても、それがごく軽微であり、目的物の価値、機能及び美観などに影響を与えず、注文者の意思に反することもないといえるような特別の事情があるとは認められないから、上記の不一致(設計図書違反)は瑕疵に当たると評価すべきである。

これに対し、被告らは、亡Cから本件現場への立入りを禁じられたことにより笠木を施工できなかったと主張するが、亡Cが被告らの従業員等の本件現場への立入りを禁じた時期があったとしても、それが笠木の施工を不可能とするほどのものであったと認めるに足りる証拠はないから、被告らの上記主張は採用できない。

(10)  各階開放廊下の床、エレベーター前の床の設計図書違反(瑕疵一覧表・番号10)

本件設計図書においては、本件建物のうち、各階開放廊下の床、エレベーター前の床において、コンクリート防水モルタルを施工する予定とされていたが、実際には、コンクリート躯体自体を金鏝押さえの方式で仕上げていた事実が認められる(争いがない)。

そして、防水性能は建物の耐久性に影響するものであって、本件全証拠によっても、それがごく軽微であり、目的物の価値、機能及び美観などに影響を与えず、注文者の意思に反することもないといえるような特別の事情があるとは認められないから、上記の不一致(設計図書違反)は瑕疵に当たると評価すべきである。

これに対し、被告らは、コンクリート躯体自体を金鏝押さえした上でノンスリップシートを貼って防水性を確保する方式は、外観上の見栄えがよく、防音効果もある上、滑りにくい仕上げとなるから、このような変更は一般的に行われているのであって、原告から得た包括的了解の範囲内のことであるなどと主張するが、本件全証拠によっても原告が上記のような了解をしていたとは認められないから、被告らの上記主張は採用できない。

(11)  一階玄関入口の庇の設計図書違反、出窓の防水工事未了(瑕疵一覧表・番号11)

ア 本件設計図書においては、本件建物のうち、一階玄関入口の庇にシート防水を施工する予定とされていたが、実際には、シート防水は施工されておらず、コンクリート躯体自体を金鏝押さえする方式で仕上げられていたことが認められる(争いがない)。

そして、防水性能は建物の耐久性に影響するものであって、本件全証拠によっても、それがごく軽微であり、目的物の価値、機能及び美観などに影響を与えず、注文者の意思に反することもないといえるような特別の事情があるとは認められないから、上記の不一致(設計図書違反)は瑕疵に当たると評価すべきである。

これに対し、被告らは、コンクリート躯体自体を金鏝押さえする方式で防水効果としては十分であるから、原告から得た包括的了解の範囲内のことであるなどと主張するが、本件全証拠によっても原告が上記のような了解をしていたとは認められないから、被告らの上記主張は採用できない。

イ また、本件建物のうち、一階玄関入口の出窓にはシート防水が施工されておらず(争いがない)、上記の出窓の現状はコンクリート表面素地のままであり、ひび割れが発生していることに照らせば、出窓にシート防水が施工されていないことは、客観的に見て通常有すべき性能を欠いている状態であるといえるから、瑕疵に当たると評価すべきである。

これに対し、被告らは、出窓工事はそれ自体が追加工事であるから、防水工事は追加工事となるべきものであって、それがなされていないからといって瑕疵とはいえないと主張する。

確かに、一階玄関の出窓については本件設計図書には記載がなく、施工中に予定が変更された可能性が高い。

しかしながら、仮に施工中に当初の予定が変更されたとしても、原告の要望(申込み)及びそれに対する被告らの工事の開始(承諾)によって上記出窓工事は新たに請負契約の一内容を構成することになるから、客観的に通常有すべき性能を備えた出窓を完成させることが請負人としての義務であるというべきである(なお、上記出窓工事が被告日本ホーム主張の追加工事に当たる場合には、原告において、同追加工事の内容を含む請負契約の内容に反することを主張する意思とみるのが合理的である。)。被告らの主張は失当である。

(12)  外構工事の設計図書違反(瑕疵一覧表・番号12)

ア 本件設計図書においては、本件建物のうち、外構工事について、アスファルト舗装を施工すると予定されていたが、実際には、コンクリート打ち込み施工となっている事実が認められる(争いがない)。

この点につき、原告は、被告らは、亡Cからの要望で、当初の設計を変更して入口部分をインターロッキングに、それ以外の部分をコンクリート舗装にしたものであり、いずれも亡Cの同意に基づくものであるとして瑕疵に当たることを争い、被告Y1はそれに沿う供述をしている。

そこで被告Y1の供述の信用性について検討するに、上記のような施工の変更は、外観上大きな差異をもたらすものであることに加え、施工費用も高額になるのであるから、被告らが、このような施工の変更を、亡Cの同意を得ないまま実施することのメリットは容易に想定し難い一方で、原告にはコンクリート舗装によって草が生えなくなったり、インターロッキングによって外観が良くなったりするといったメリットがあるといえる。

また、仮に、被告日本ホームが、亡Cの同意を得ないまま、上記のような施工の変更をしたとすれば、外観上、施工の変更がなされたことは明らかなのであるから、本件建物に現実に居住していた亡Cとしては、直ちに被告らに対して何らかの抗議をして然るべきところ、本件建物の引渡しから一年以上が経過した平成一二年の時点においても、亡Cは、外構工事の瑕疵については何ら主張していない。

以上の事情を総合すれば、被告Y1の供述のうち、少なくとも外構工事に関する部分は信用できるというべきであるから、上記施工の変更は、亡Cの同意に基づくものであると認められる。

したがって、本件設計図書に反していることを理由として、外構工事につき入口部分をインターロッキングに、それ以外の部分をコンクリート舗装にしたことが瑕疵に当たるとはいえない。

もっとも、《証拠省略》によれば、外構工事についてインターロッキングブロックの沈下、量水器及び桝回りの土間コンクリート部のクラック及び沈下、埋設配管部分のコンクリートの亀裂が認められることに加え、D報告書にも、外構工事の現状について補修の必要性を認める旨の記載があることからすれば、上記外構工事が客観的に通常有すべき性能を備えているとはいえないことが明らかであるから、瑕疵に当たるというべきである。

これに対し、被告らは、インターロッキングの沈下は、道路を通行する大型車両が乗り上げたり、引越し時の大型トラックが進入したりすることが原因であると主張するが、上記主張は具体的な根拠に基づかない推測の域を出るものではない。

また、被告らは、コンクリート舗装のクラックや沈下等はいずれも時の経過により発生したものであると主張するが、本件建物の引渡しから約一年が経過した平成一二年一二月の時点においても、コンクリート舗装に顕著な亀裂が存在したことが認められ、このような亀裂の程度等に照らすと、コンクリート舗装のクラックや沈下等の原因が専ら時の経過によるものとは考え難い。

したがって、被告らの上記主張は採用できない。

(13)  メーターボックス部分の界壁の設計図書違反(瑕疵一覧表・番号13)

本件設計図書においては、本件建物のうち、各階コンクリート界壁以外の界壁(メーターボックス部分)について、コンクリートブロック積み構造とする予定であったが、実際には、軽量鉄骨下地に厚さ一五ミリメートルの石膏ボードが三枚貼られている事実が認められる(争いがない。なお、石膏ボードの枚数については、《証拠省略》による。)。

そして、上記設計図書の内容にあるコンクリートブロック積み構造は、建物の安全性に関わる耐火性能に影響するものであって、本件全証拠によっても、それがごく軽微であり、目的物の価値、機能及び美観などに影響を与えず、注文者の意思に反することもないといえるような特別の事情があるとは認められないから、上記の不一致(設計図書違反)は瑕疵に当たると評価すべきである。

これに対し、被告らは、各階メーターボックス部分において、石膏ボードが三枚貼られていることによって耐火構造としては十分であり、また、この耐火構造で仙台市の完了検査も通っていることから、瑕疵には当たらないと主張する。

しかしながら、本件全証拠によっても、コンクリートブロック積み構造と石膏ボードの耐火性能の具体的差異は明らかではなく、石膏ボードが三枚貼られていることによって、本件設計図書によって想定されていた耐火性能を満たしているとは認められない。

また、仙台市の完了検査を通ったとしても、それは市の定めた基準を満たしたというにとどまり、そのことにより、本件設計図書により想定されていた耐火性能に満たない可能性が否定されるものではない。

したがって、被告らの上記主張は採用できない。

(14)  各階エレベーター前の排水縦パイプ、二階点検口の不具合(瑕疵一覧表・番号14)

ア 《証拠省略》によれば、各階エレベーター前の水勾配不良対策として設置した排水縦パイプについて、二階から三階までの部分に破断(取付け不良によるねじれ)があることが認められ、このような状態にある排水縦パイプは、客観的に通常有すべき性能を備えているとはいえないことが明らかであるから、瑕疵に当たるというべきである。

これに対し、被告らは、排水縦パイプの破断は経年劣化によって生じたものであるから、瑕疵には当たらないと主張するが、《証拠省略》から、一見してパイプが破断していることが認められ、これは経年劣化が原因でないことが明らかであるから、被告らの上記主張は採用できない。

イ 《証拠省略》によれば、二階エレベーター前の点検口のうち一箇所に開閉不良があることが認められ、このような状態にあるエレベーター前の点検口は、客観的に通常有すべき性能を備えているとはいえないことが明らかであるから、瑕疵に当たるというべきである。

これに対し、被告らは、天井点検口は、配管するために設けたものであって、配管後は開閉する必要がないため、開閉できないようにしたものであり、必要に応じて容易に開閉できるようになるから瑕疵ではないと主張するが、あえて開閉できないように手を加える趣旨は不明といわざるを得ず、また、容易に開閉できないのであれば点検口の意味をなさないとも考えられるから、被告らの上記主張は的確な反論とはいえない。

(15)  スリット設置の設計図書違反(瑕疵一覧表・番号15)

《証拠省略》によれば、本件建物の南ベランダ側及び北側開放廊下側において、本件設計図書には記載されているスリットが部分的に存在しないことが認められる。

そして、スリットは建物の安全性に影響する耐震性能を高めるものであって、本件全証拠によっても、それがごく軽微であり、目的物の価値、機能及び美観などに影響を与えず、注文者の意思に反することもないといえるような特別の事情があるとは認められないから、上記の不一致(設計図書違反)は瑕疵に当たると評価すべきである。

これに対し、被告らは、スリットは建物の外観には影響がなく、もっぱらその構造上の安全性を確保するために設置されるものであるところ、本件では構造上の安全性も確認されているのであるから、仮に、スリットが本件設計図書に反して設置されていなかったとしても瑕疵には当たらないと主張する。

しかしながら、スリットは、大きな地震が発生した際に、鉄筋コンクリート造の建築物の柱や梁、さらには架構全体が破壊しないように、柱と腰壁などの雑壁の間に設けた隙間や目地をいうところ、本件において、本件設計図書に従ってスリットが適切に設置されていれば、本件建物の耐震性能はより向上していたものと考えられる。

そして、被告らが指摘するように、構造上の安全性が確認されていたとしても、それは建築基準法上で定められた最低限の基準を満たしていることが確認されたにとどまり、そのことにより本件設計図書により想定されていた耐震性能を満たしていることが保証されるものではないから、被告らの上記主張は採用できない。

(16)  小括

以上の検討によれば、別紙一「瑕疵一覧表」のうち、番号3ないし15については、瑕疵に当たると認められる(以下、これらの瑕疵を併せて「本件具体的瑕疵」と総称する。)。

二  争点二(被告日本ホームの責任原因)

(1)  瑕疵担保責任の成否

上記一のとおり、本件具体的瑕疵が存在することから、請負人である被告日本ホームは、瑕疵担保責任に基づく損害賠償責任を負う。

(2)  本件具体的瑕疵を理由とする不法行為の成否

建物の建築に携わる設計者、施工者及び工事監理者は、建物の建築に当たり、当該建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないよう配慮すべき不法行為上の注意義務を負っているものと解すべきところ(最高裁判所平成一九年七月六日第二小法廷判決・民集六一巻五号一七六九頁参照)、上記注意義務が課される根拠は、建物の財産的価値の大きさに加え、その設計、施工等が建築主や居住者の生命、身体及び財産に重大な影響を与える可能性があることによるものと解される。

このような趣旨にかんがみれば、建物の設計者、施工者及び工事監理者は、建物の建築主や居住者に対し、広くその生命、身体及び財産に損害を与えないよう配慮すべき注意義務を負うものと解すべきであり、この理は、これらの者と契約関係にある建築主に対する関係でも同様に妥当するものというべきである。

そして、建物の具体的な瑕疵が、明らかに建物の構造的安全性に関わるような基礎ないし構造躯体に関するものでない場合であっても、当該瑕疵により建築主や居住者の財産に損害が生じる場合には、上記注意義務違反を構成するものということができる。

上記解釈を踏まえて検討するに、本件建物には上記一のとおり本件具体的瑕疵が認められるところ、これらの瑕疵により、本件建物についてその交換価値又は使用価値が損なわれ、或いは補修工事を要することとなる結果、建築主である原告に対し、後記六(1)のとおり財産的損害が生じることが認められる。

したがって、被告日本ホームは、本件具体的瑕疵が存在することについて不法行為上の注意義務違反が認められることから、不法行為に基づく損害賠償責任を負うというべきであり、前記(1)の瑕疵担保責任とは、いわゆる請求権競合の関係に立つものと解される。

(3)  なお、原告は、本件請負契約を締結することにより、被告日本ホームに対して本件建物の設計、施工、工事監理の全てを委ねたことから、被告日本ホームは本件建物の施工に関して工事監理を行う義務があり、この義務にも違反した点で不法行為が成立すると主張するので、念のため、この点についても検討しておくこととする。

本件請負契約の契約書において、工事監理者は被告Y1個人とされており、原告が被告Y1に対して本件建物の工事監理を委任したかのような体裁となっているところ、被告Y1が上記契約書に署名捺印した経緯は、亡Cと被告日本ホーム代表者らから工事現場に呼び出され、被告日本ホーム代表者から工事担当者としてサインするように依頼されたことから、亡Cと被告日本ホーム代表者らの面前で上記契約書に署名捺印したというものであり、亡Cは、被告Y1が本件建物の工事監理者ではなく、単なる工事担当者であることを了解していたこと、平成一二年頃から現在まで本件訴訟の担当者であったEは本件建物の工事監理が被告日本ホームの担当であったと明言していること、訴外Bは、平成一〇年六月頃、被告日本ホーム代表者から、本件請負契約においては設計施工のほか、工事監理についても被告日本ホームが担当することになっており、亡Cもそれを了解していることを直接聞いていたことなどの事情を総合すれば、原告と被告日本ホームの間には、遅くとも平成一〇年六月三〇日までに、本件建物の設計施工だけでなく、工事監理も担当する旨の合意が成立していたと解するのが相当であり、本件建物は、建築基準法(ただし、平成一八年六月法律九二号による改正前のもの)五条の四第一項、同二項、建築士法三条一項により、一級建築士でなければ工事監理をすることができない建物であるから(争いがない)、被告日本ホームは、上記の合意の一内容として、原告に対し、一級建築士の資格を持った工事監理者を定めて工事監理を行うべき法的義務を負っていたというべきである(なお、契約上の法的義務は、同時に不法行為上の注意義務を構成しているものと解される。)。

しかるに、本件工事に際し、被告Y1は、一級建築士の資格を持っていなかったのであるから、法令上要求されている工事監理者とはなり得ず、また、後記三のとおり、訴外Bは一級建築士の資格を持つ者ではあるが、本件建物の工事監理者ではなかったのであるから、結局のところ、本件請負契約の施工において法令上要求されている工事監理者は不在であったといわざるを得ないのであって、被告日本ホームは、一級建築士の資格を持った工事監理者を定めて工事監理を行うべき注意義務に違反したことについても、不法行為に基づく責任を負うというべきである。

(4)  小括

以上の検討によれば、被告日本ホームは、原告に対し、本件具体的瑕疵による損害につき、瑕疵担保責任又は不法行為に基づく損害賠償責任を負う。

三  争点三(被告アーキランドの責任原因)

(1)  原告は、訴外Bが、建築確認申請書において、実体に反して工事監理を行う旨の記載をしたことから、同人の使用者である被告アーキランドには、被告日本ホームに工事監理者の変更の届出をさせる等の適切な措置を講じるべき注意義務違反があったと主張する。

そこで検討するに、建築士には、建築士法上、建築物を建築し、又は購入しようとする者に対し、建築基準関係規定に適合し、安全性等が確保された建築物を提供することなどを目的として、建築物の設計及び工事監理等の専門家としての特別の地位が与えられていることにかんがみれば、建築士は、その業務を行うに当たり、建築士法などの法令の規定による規制の潜脱を容易にする行為など、その規制の実効性を失わせるような行為をしてはならない注意義務があるというべきである(最高裁判所平成一五年一一月一四日第二小法廷判決・民集五七巻一〇号一五六一頁参照)。

上記解釈を踏まえて検討するに、訴外Bは、建築確認申請書において、工事監理者としてその氏名を記載しているところ、実際には、原告ないし被告日本ホームから、本件建物の施工に関して工事監理を依頼されたことはなく、また、平成一〇年四月頃の時点で、訴外B及び被告アーキランドは、本件建物の施工に関する工事監理は被告日本ホームが担当するとの認識を有していた。

そうであれば、訴外Bは、実際には自らが工事監理を行わないことを認識しながら、建築確認申請書において、同人が本件建物の施工に関する工事監理を行う旨の記載をしたのであるから、建築基準関係規定に違反した建築工事が行われないようにするため、遅くとも本件建物の建築工事が着手されるまでの間に、被告日本ホームに対し、工事監理者の変更の届出をさせる等の適切な措置を講じるべき注意義務があったというべきである。

しかるに、訴外Bは、上記建築確認申請書の記載について適切な措置を講じないまま放置し、被告日本ホームが、建築基準法(但し、平成一八年六月法律九二号による改正前のもの)五条の四第一項、同二項、建築士法三条一項に違反して、工事監理者を置かないまま本件工事を実施することを容易にし、その結果本件具体的瑕疵の発生を招いたものである。

したがって、訴外Bは、上記注意義務に違反したものとして民法七〇九条の不法行為責任を負い、同人の使用者である被告アーキランドは、原告に対し、民法七一五条に基づく責任を負うというべきである。

(2)  これに対し、被告アーキランドは、原告が、被告Y1において工事監理を行うという認識を有していたことから、訴外Bないし被告アーキランドが上記注意義務を負うことはないと主張するが、上記注意義務は、専門家である建築士の特別の地位に基づくものであり、原告の認識によって左右されるべきものではないから、被告アーキランドの上記主張は採用できない。

なお、被告アーキランドの責任の範囲に関しては、上記注意義務違反と後記六の各損害の間の相当因果関係が限定されるかが問題となるところ、工事監理が適切になされていれば通常は瑕疵の発生を未然に防止することができると考えられることに加え、建築士法上、一定の建築物については一級建築士が独占的に工事監理を行うこととされ、法的にも瑕疵の発生の防止が積極的に期待されていることにかんがみると、およそ想定し得ないほどの著しい違法性のある工事が行われたといえるような特段の事情がない限り、瑕疵に起因する損害について、ことさらその範囲を限定的に解すべき理由はない。

このような見地からみると、本件工事は、およそ想定し得ないほどの著しい違法性のあるものであるとまではいえず、本件具体的瑕疵は、適切に工事監理がなされていればいずれも防止できたと考えられるから、瑕疵に起因する損害について、被告アーキランドの責任を限定的に解する必要はないというべきである。

四  争点四(被告Y1の責任原因)

原告は、被告Y1には本件設計図書ないし建築基準法令に違反した施工がされないように工事監理を行うべき注意義務違反があったと主張する。

確かに、本件請負契約の契約書において、工事監理者は被告Y1個人とされているが、被告Y1が上記契約書に署名捺印した経緯等は上記二(3)で説示のとおりであるから、上記契約書をもって、直ちに被告Y1が工事監理をする義務を負っていたとは認定できない。

翻って検討するに、亡C及び被告日本ホーム代表者と、被告Y1の間においては、上記契約書が作成された平成一〇年六月三〇日までに、被告Y1が、本件建物の施工に関し、現場に常駐する現場管理人とは別に、工程、品質、予算、安全などの管理を統括的に行うことについての合意が成立していたと見るのが相当である。

そして、上記合意のうち工程、品質の管理という点について見ると、工事監理とは、工事と設計図書を照合し、それが設計図書のとおりに実施されているか否かを確認することをいうところ(建築士法二条七項)、本件建物についての工事監理は、一級建築士のみがなし得るものとされている(建築士法三条一項三号)。

そうであれば、一級建築士の資格を持たない被告Y1において、設計図書や建築基準法令に違反しているか否かを確認すべき義務を負わせることは、上記法令に実質的に違反するとともに、現実的に見ても期待し得ないものであるから、これらを確認することについてまで、亡C及び被告日本ホーム代表者と被告Y1の間で合意が成立していたとは認め難い。

したがって、被告Y1が行うべき工程、品質の管理は、工事の進捗状況の確認や、一見して明らかな材料の量的、質的不足の有無の確認など、外形的、事務的な部分に限定されるというべきであり、被告Y1は、原告が主張する設計図書ないし建築基準法令に違反した施工がなされないように工事監理を行うべき注意義務を負うものではないから、原告の主張には理由がない。

五  被告らの責任原因についての総括

以上の検討によれば、後記六の損害について、被告日本ホームは瑕疵担保責任に基づく損害賠償責任を、被告アーキランドは民法七一五条に基づく損害賠償責任を、それぞれ原告に対して負うことになり、これらの責任に基づく損害賠償債務は不真正連帯債務の関係にあると解される。

六  争点五(損害の有無及び数額)

被告日本ホーム及び被告アーキランドが賠償すべき損害についての判断は、以下のとおりである。

(1)  本件具体的瑕疵を補修するために必要な費用 合計四四一七万五二二六円

本件具体的瑕疵を補修するために必要かつ相当な費用として、被告日本ホーム及び被告アーキランドが賠償すべき損害は、以下のアないしケの合計四四一七万五二二六円であると認められる。

ア 瑕疵一覧表・番号3、4、5、6、7の一部(屋上スラブ及び梁のクラック)及び9について 一六七八万一一一三円

《証拠省略》によれば、これらの瑕疵を補修するための方法としては、別紙一「瑕疵一覧表」・番号7「補修方法」欄記載の屋上スラブ撤去新設等是正工事が相当であると認められ、その工事に必要な費用(消費税込み)は、一六七八万一一一三円(一五九八万二〇一二円×一・〇五(小数点以下四捨五入。以下同じ。))をもって相当であると認められる。

イ 瑕疵一覧表・番号7の一部(外壁のクラック)について 一一九五万〇一三九円

(ア) 柱のかぶり厚さ不足、帯筋間隔不良、一階注脚部帯筋不足の補修工事

《証拠省略》によれば、これらの構造的欠陥を補修するための方法としては、別紙一「瑕疵一覧表」・番号7「補修方法」欄記載の柱のかぶり厚さ不足及び帯筋間隔不良是正工事が相当であると認められ、その工事に要する費用(消費税込み)は、四八九万〇三二一円(四六五万七四四九円×一・〇五)をもって相当であると認められる。

なお、これらの瑕疵は独立した瑕疵としては主張されていないが、コンクリートの補修については、構造的な欠陥がある場合には補修後に新たに同様のひび割れが発生する可能性があることから、補修と併せて上記構造的欠陥に対しての補強を行う必要があるというべきである。

(イ) ひび割れ補修工事(外壁タイル貼替工事)

《証拠省略》によれば、上記瑕疵を補修するための方法としては、別紙一「瑕疵一覧表」・番号7「補修方法」欄記載のクラック是正工事が相当であると認められ、その工事に要する費用(消費税を含む)は、一三四四万七二七二円であると認められる。

もっとも、鑑定の結果によれば、外壁タイルを全面的に貼り替えるべきであるとされる根拠は、外壁タイルの部分的な補修では、補修した箇所以外において将来的にひび割れが発生することも考えられるという点にあるところ、上記一(7)で検討したとおり、外壁タイルの全ての部分において将来的にひび割れが発生しうるか否かという点については、ひび割れの原因を明確に特定できない以上、不明といわざるを得ない。その結果、既にひび割れが生じている部分以外の外壁タイルの貼り替えを行う場合には、瑕疵に直接対応した範囲の補修を超える工事部分を相当程度伴うことになる。

このような場合に、外壁タイルの張替工事を行うと、当該工事の対象部分について耐用年数が伸長することとなるが、これに伴う注文者の利益は、一般的には、瑕疵のない建物の引渡しが遅れたことによって生じた結果であるから、損益相殺の対象として考慮すべきではない(最高裁判所平成二二年六月一七日第一小法廷判決・裁判所時報一五一〇号二一九頁参照)。

しかしながら、本件においては、外壁タイルを全面的に貼り替えることによって、現状において瑕疵が存在しない部分についても新たな外壁タイルが設置されることになる上、本件建物の引渡しから現在までに一〇年以上が経過していることなどにかんがみると、耐用年数や外観の面で、原告に少なからぬ利益が生じることとなるから、損益相殺の背後にある当事者間の公平の観点より、上記損害額から五割を減額することが相当である。

その結果、損害賠償の対象となる補修費用(消費税込み)としては、七〇五万九八一八円(一三四四万七二七二×〇・五×一・〇五)をもって相当であると認められる。

なお、原告は、外壁(西面五階打継部)ひび割れの補修工事として四三万一六三八円の補修金額が必要であると主張し、これに沿う《証拠省略》を提出するが、その主張に係る補修工事は上記説示に係る各補修工事と重複するから、改めて損害として考慮することはしない。

ウ 瑕疵一覧表・番号8について 二五九万六六五〇円

《証拠省略》によれば、上記瑕疵を補修するための方法としては、別紙一「瑕疵一覧表」・番号8「補修方法」欄記載の工事が相当であると認められ、その工事に要する費用(消費税込み)は、二五九万六六五〇円(二四七万三〇〇〇円×一・〇五)をもって相当であると認められる。

エ 瑕疵一覧表・番号10について 一三八万二四四一円

《証拠省略》によれば、上記瑕疵を補修するための方法としては、別紙一「瑕疵一覧表」・番号10「補修方法」欄記載の工事が相当であると認められ、その工事に要する費用(消費税込み)としては、一三八万二四四一円(一三一万六六一〇円×一・〇五)をもって相当であると認められる。

オ 瑕疵一覧表・番号11について 四四万一〇〇〇円

《証拠省略》によれば、上記瑕疵を補修するための方法としては、別紙一「瑕疵一覧表」・番号11「補修方法」欄記載の工事が相当であると認められ、その工事に要する費用(消費税込み)としては、四四万一〇〇〇円(四二万〇〇〇〇円×一・〇五)をもって相当であると認められる。

カ 瑕疵一覧表・番号12について 一三万六五〇〇円

《証拠省略》によれば、上記瑕疵を補修するための方法としては、別紙一「瑕疵一覧表」・番号12「補修方法」欄記載の工事が相当であると認められ、その工事に要する費用(消費税込み)としては、一三万六五〇〇円(一三万〇〇〇〇円×一・〇五)をもって相当であると認められる。

キ 瑕疵一覧表・番号13について 六九四万三四七八円

《証拠省略》によれば、上記瑕疵を補修するための方法としては、別紙一「瑕疵一覧表」・番号13「補修方法」欄記載の工事が相当であると認められ、その工事に要する費用(消費税込み)としては、六九四万三四七八円(六六一万二八三六円×一・〇五)をもって相当であると認められる。

ク 瑕疵一覧表・番号14について 六万三〇〇〇円

《証拠省略》によれば、上記瑕疵を補修するための方法としては、別紙一「瑕疵一覧表」・番号14「補修方法」欄記載の工事が相当であると認められ、その工事に要する費用(消費税込み)としては、六万三〇〇〇円(六万円×一・〇五)をもって相当であると認められる。

ケ 瑕疵一覧表・番号15について 三八八万〇九〇五円

《証拠省略》によれば、上記瑕疵を補修するための方法としては、別紙一「瑕疵一覧表」・番号15「補修方法」欄記載の工事が相当であると認められ、その工事に要する費用(消費税込み)としては、三八八万〇九〇五円をもって相当であると認められる。

(2)  入居者立退費用 〇円

原告は、現在満室となっている一階から四階までの入居者が入居したまま補修工事を実施することは不可能であることを理由に、入居者立退費用四八六万円を損害として主張する。

確かに、別紙一「瑕疵一覧表」・番号15(メーターボックス部分の界壁の設計図書違反)についての補修工事見積には、一階から四階部分の居室の給排水、ガス、電気を止める必要があるとの記載が見られる。

しかしながら、上記工事の施工要領によっても、実際に給排水等を止める必要があったか否かは明らかではなく、仮にそのような必要があったとしても、その具体的な期間や程度は証拠上明らかでなく、立退きが不可避なものであるか否かという点については、不明であるといわざるを得ない。

したがって、原告が主張する立退費用は、損害として認められない。

(3)  逸失利益 五八万円

上記(2)のとおり、一階から四階までの入居者を退去させる必要性は認められないから、上記入居者が不在になることによって生じる逸失利益については、損害として認められない。

もっとも、上記(1)ア(屋上スラブ撤去新設等)の工事により、亡Cが死亡した後、同人の妻F(以下「訴外F」という。)が本件建物五階部分に居住していることは本件訴訟記録上明らかであるところ、同部分は、天井スラブの撤去等に伴い、必要とされる工期(四か月間)の間は居住することが不可能になると認められる。

したがって、原告の主張する逸失利益は、上記の居住不可能となる期間につき本件建物の五階部分から得べかりし賃料収入五八万円(一四万五〇〇〇円×四か月)の限度において、損害として認めるのが相当である。

(4)  調査費用 三七九万八一一〇円

本件訴訟の専門性等に照らせば、本件具体的瑕疵の原因や補修方法に関する調査及びこれに関連する費用の支出は、それが過大にわたると認められない限り、損害と認めるのが相当である。

このような見地からみると、《証拠省略》によれば、原告は本件具体的瑕疵に関する原因等の調査目的による調査費用及びその関連費用として、少なくとも五九六万九八四五円を支出している事実が認められるところ、本訴において、原告は、訴外有限会社つかさ設計作成の建物調査報告書に加えて、訴外有限会社藤建築事務所作成の調査報告書等を提出しており、これらはいずれも本件建物の瑕疵に関する調査であるといえるから、その内容、目的において重複があり、その限度で費用の支出は過大というべきである。

したがって、上記証拠上認められる調査費用及びその関連費用のうち、上記各調査報告書等の作成に係る調査費用合計額の五割に当たる二〇六万〇五六五円((二八二万三九六五円+一二九万七一六五円)×〇・五)及びその余の調査費用(一七三万七五四五円)の合計三七九万八一一〇円の限度で損害と認めるのが相当である。

(5)  慰謝料 〇円

原告は、本件建物の瑕疵や被告日本ホームの不誠実な対応により、亡C及び訴外Fが健康を害するほどに甚大な精神的苦痛を被ったと主張する。

しかしながら、財産的損害について慰謝料が認められるためには、財産的損害の賠償を認めることによってもなお回復されない精神的苦痛を被ったと認められることが必要であると解されるところ、本件全証拠によってもそのような事情は認められない(原告は、亡C及び訴外Fが健康を害したと主張するが、それを認めるに足りる証拠は存在しない。)。

したがって、原告が主張する慰謝料は、損害として認められない。

(6)  弁護士費用 五〇〇万円

本件訴訟の内容、性質や手続の経過その他一切の事情を考慮すると、弁護士費用としては五〇〇万円をもって損害と認めるのが相当である。

(7)  小括

ア 損害賠償金元金

以上に検討したところによれば、原告は、被告日本ホームに対しては、瑕疵担保責任又は不法行為に基づき、被告アーキランドに対しては、不法行為(民法七一五条)に基づき、上記(1)ないし(6)の合計五三五五万三三三六円の損害賠償金元金の(連帯)支払を請求することができる。

イ 遅延損害金

(ア) 被告日本ホームに対する損害賠償について

本件請負契約は被告日本ホームにとって商行為に当たるところ(会社法五条)、商行為によって生じた債務(商法五一四条)には、商行為に当たる契約上の債務の不履行に基づく損害賠償債務も含まれ、債務不履行の特則である瑕疵担保責任に基づく損害賠償債務も同様に商行為によって生じた債務に当たると解されることから、原告は、被告日本ホームに対し、瑕疵担保責任に基づく上記アの損害賠償金元金に対する催告の日の翌日である平成一二年一二月一〇日(前提事実(5))から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を請求することができるというべきである。

そして、被告日本ホームの瑕疵担保責任と不法行為責任は、いわゆる請求権競合の関係に立つところ、原告が本訴において年六分の割合による遅延損害金の支払を求めていることにかんがみ、瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求を認容することとする。

(イ) 被告アーキランドに対する損害賠償について

原告は、被告アーキランドに対し、不法行為(民法七一五条)に基づく上記アの損害賠償金元金に対する不法行為後である平成一二年一二月一〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を請求することができる。

第四結論

以上によれば、原告の請求は、主文記載の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六五条一項、六四条本文、六一条を、仮執行宣言につき同法二五九条一項を各適用の上、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 関口剛弘 裁判官 本多哲哉 佐藤雅浩)

別紙一 瑕疵一覧表《省略》

別紙二、三《省略》

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