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仙台地方裁判所 平成13年(行ウ)11号 判決 2002年6月20日

主文

1  被告Bが宮城労委平成11年(不)第7号D不当労働行為救済申立事件について平成13年3月30日付けでした命令のうち,申立ての趣旨(別紙1)第3項の申立て,並びに第4項の申立てのうち「2,C支部長に対し,訓戒処分を行ったこと及び出勤停止処分を行い賃金を減額したこと。」との記載の掲示を棄却した部分を取り消す。

2  訴訟費用は被告Bの負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

主文同旨

2  請求の趣旨に対する答弁

(1)  原告Aの請求を棄却する。

(2)  訴訟費用は原告Aの負担とする。

第2当事者の主張

1  請求原因

(1)  本件命令等

ア 本件申立て

原告Aは,平成11年10月26日,被告Bに対し,D株式会社(以下「本件会社」という。)を被申立人とする不当労働行為救済の申立て(宮城労委平成11年(不)第7号D不当労働行為救済申立事件。以下「本件申立て」又は「原事件」という。)を行った。

変更後の申立ての趣旨は,別紙1のとおりである。

イ 本件命令

被告Bは,平成13年3月30日付けで,主文を別紙2のとおりとする命令(以下「本件命令」という。)をした。

(2)  当事者等

ア(ア) 本件会社は,昭和47年に設立された株式会社であるが,平成11年4月当時の従業員数は21名,代表取締役社長はE(以下「E社長」という。)であり,平成11年5月,F(以下「F」又は「F部長」という。)が取締役業務部長に,G(以下「G」又は「G部長」という。)が取締役営業部長にそれぞれ就任した。

本件会社は,仙台市内に本社を置き,し尿浄化槽の維持・管理,貯水槽の清掃等の業務を行っている。

(イ) 本件会社は,平成10年4月に角田支店を設置し,同支店では主にし尿のくみ取り業務を行っている。

イ 原告Aは,昭和39年9月,宮城県内に所在する中小企業に働く労働者により結成された合同労働組合である。

ウ 平成10年6月3日,本件会社の従業員によって,A組合D支部(以下「原告支部」という。)が結成された。

原告支部の組合員は,設立時から現在まで,支部長C(以下「C支部長」という。)及び副支部長H(以下「H」という。)の2名である。

(3)  本件訓戒処分等

ア 本件会社の就業規則66条(甲10)は,懲戒の種類として,①訓戒(始末書をとり将来を戒めます。),②減給,③出勤停止,④降格降給,⑤諭旨解雇,⑥懲戒解雇を定めていた。

イ 本件訓戒処分

本件会社は,平成11年5月11日,C支部長に対し,口頭で,本件会社がC支部長を角田支店に配置転換させる旨の同年4月1日付け辞令(以下「本件第1辞令」という。)を同月5日に交付しようとした際,C支部長がこれを受け取らず,配転命令に応じなかったこと(以下「本件配転拒否」という。)につき,始末書を提出するように要求した(以下「本件訓戒処分」という。)。

ウ 本件出勤停止処分

本件会社は,同年5月25日,C支部長に対し,始末書を提出しない場合には別途懲戒処分に付する旨を付記した「始末書の提出について」と題する書面(甲3)を交付し,同月31日までに始末書を提出するように要求した上(以下「再度の始末書提出要求」という。),同年6月1日,C支部長に対し,本件配転拒否及び始末書不提出を理由として,同月2日から4日まで3日間の出勤停止処分をした(甲5。以下「本件出勤停止処分」という。)。

(4)  本件訓戒処分及び本件出勤停止処分の不当労働行為性

ア 不当労働行為意思

本件訓戒処分及び本件出勤停止処分は,C支部長の行った賃金カットへの抗議及び未払賃金の請求という正当な組合活動に本件会社が強く反発し,解決済みの本件配転拒否を蒸し返して行われたものであり,労働組合法7条1号で禁止する不当労働行為に当たる。

イ 本件抗議後の本件訓戒処分

(ア) 本件会社は,平成11年4月30日,従業員の4月分賃金の10パーセントをカットして支給した。

(イ) C支部長及びHは,同年5月6日,原告及び原告支部名で,従業員の同意を得ずに賃金カットを実施したことに対し抗議する文書(甲18),及びC支部長ら名で,組合員2名の賃金カット分を未払賃金として請求する文書(甲19,20)をE社長に手渡した(以下「本件抗議等」という。)。

(ウ) 本件訓戒処分は,その5日後に行われたものである。

ウ 配転撤回

(ア) 本件会社は,同年4月27日,C支部長に対し,本社業務部管理係への異動を命じる辞令(甲2。以下「本件第2辞令」という。)を交付し,C支部長はこれに応じた。これにより,本件第1辞令は撤回された。

(イ) これにより,角田支店への配転問題はすべて解決済みであるから,本件訓戒処分を行うことには,合理的理由がない。

エ 本件会社のC支部長に対する認識

(ア) 本件会社は,原事件答弁書(乙8)において,「会社は,妥協を知らないたった二人の強硬な組合員に翻弄されている。」と主張した。

(イ) この主張は,本件会社の原告支部の組合活動及び組合員に対する差別感情及び偏見を端的に示している。

(5)  本件出勤停止処分の不当労働行為性

ア 本件会社が本件出勤停止処分をした理由は,C支部長が原告の意思決定に基づいて,再度の始末書提出要求において提出期限とされた平成11年5月31日までに始末書を提出しなかったことに対する本件会社の反発にあり,本件出勤停止処分は,この点からも,労働組合法7条1号で禁止する不当労働行為に当たる。

イ(ア) すなわち,原告Aは,同年5月12日,本件訓戒処分において要求された始末書の提出につき検討し,それに応じないことを決定した。

(イ) 原告Aは,同月25日,再度の始末書提出要求について検討し,それにも応じないことを決定した。

(ウ) そもそも,「不提出時は別懲戒処分する」などと圧力を加えて人間の行動を強制することは許されないし,始末書提出命令を受けた者がこれに従わない場合,その提出を拒否したことを理由として更なる懲戒処分をすることは,内心の自由を保護する観点から許されない。

また,始末書の不提出を理由に懲戒処分をすることは,同一の事由について二重に懲戒処分をすることになり,違法であることは,確立した法理である。

(エ) さらに,本件会社は,C支部長に対し,本件出勤停止処分の前に弁明の機会を与えるべきであるのに,その機会を与えていない。

(オ) これらの事実は,本件出勤停止処分は,再度の始末書提出要求において提出期限とされた平成11年5月31日までに始末書を提出しなかったことに本件会社が反発し,C支部長が始末書の提出拒否という正当な組合活動をしたことの故をもって本件出勤停止処分をしたことを推認させるものである。

(6)  被告Bの主張(後記)に対する原告Aの反論

ア 被告Bの主張(6)に対し

(ア) C支部長が,角田支店長代理の適任者であったとする根拠はない。

(イ) 平成11年4月5日の本件第1辞令交付以前に,本件会社から,代償措置として交通手段や通勤手当について示されたことはない。

本件第1辞令の交付後である同月7日の団体交渉で,C支部長を主任待遇とするとの案が示されたものの,手当額は月額4000円であり,役職に就けば,役職手当の支給は当然であるのだから,代償措置とはならない。

(ウ) また,同月20日の団体交渉でガソリン代実費2万5000円ないし3万円との案が示されたものの,自家用車でを行えばガソリン代の実費支給は当然であり,長距離ともなれば,車両の維持費も別にかかるのであるから,代償措置として十分ではない。

(エ) E社長は,原事件において,社用車使用の上でガソリン代3万円別途支給との案を提示した旨証言するが,交通費の二重払いになるような手当支給など前代未聞であり,そのような案を示すことはあり得ない。

イ 被告Bの主張(7)に対し

(ア) 角田支店への配転の打診は,同年3月下旬にされたものの,あくまで打診にすぎず,C支部長の被る不利益を理由にこれを保留したとしても配転拒否には当たらない。

(イ) C支部長は,角田支店への配転に伴う労働条件を同年4月5日の第1辞令交付以前に明示されていないから,本件第1辞令を戻したとしても理由があるし,本件会社は,同月5日の本件第1辞令交付を保留扱いとした上で,同月7日及び20日の団体交渉に臨んで配転の必要性を説明し,原告Aの理解を得ようとしていたものである。

(ウ) 同月7日及び20日の団体交渉において原告Aが反対を主張したり,保留したりすることを懲戒処分の理由とすることは,団体交渉権の否認を意味することになるから許されない。

ウ 被告Bの主張(8)に対し

他の従業員からの不平不満は,C支部長が平成11年4月5日に本件第1辞令を受け取らなかったことに起因して生じたのであり,本件第2辞令が出された同月27日以後に不平不満が出たという事実は,存在しない。

エ 被告Bの主張(9)に対し

仮に,同月27日以後に他の従業員から不平不満が出たとしても,本件会社としては,それが出た直後に処置に踏み切るべきであった。14日も経過した同年5月11日には,不平不満は相当程度弱まっていたはずであり,懲戒処分の必要性はなかったと考えられる。

(7)  よって,原告は,本件命令のうち,本件訓戒処分及び本件出勤停止処分について救済命令の申立てを棄却した部分の取消しを求める。

2  請求原因に対する認否及び被告Bの主張

(1)  請求原因(1)(本件命令等)は認める。

(2)  同(2)(当事者等)は認める。

(3)  同(3)(本件訓戒処分等)は認める。

(4)ア  同(4)(本件訓戒処分及び本件出勤停止処分の不当労働行為性)アは否認する。

イ  同(4)イは認める。

ウ  同(4)ウ(ア)は認め,(イ)は否認する。

エ  同(4)エ(ア)は認め,(イ)は否認する。

(5)ア  同(5)(本件出勤停止処分の不当労働行為性)アは否認する。

イ  同(5)イ(ア),(イ)は認め,(ウ)は否認し,(エ)のうち弁明の機会を与えていないことは認め,その余は否認し,(オ)は否認する。

本件訓戒処分は,始末書の提出を内容としており,これが提出されなかった以上は処分として完結していない。したがって,その場合に別の懲戒処分をすることは,二重処分には当たらない。

(6)  本件第1辞令には,次のとおり,十分な必要性と合理性があった。

ア 平成11年3月当時,本件会社は,会社の解散を考えるほどの経営不振に陥り,再建策を立てる必要に迫られていた。同年4月に角田市全域のし尿くみ取り業務が民間に開放されることから,本件会社は,これを角田支店の営業拡大の機会と捉え,それまでアルバイト従業員しかいなかった同支店に責任者を配置することとし,C支部長を適任者として支店長代理に任命しようとした。

イ 反面,C支部長は,本件配転により通勤時間が長くなるなどの不利益を受けることになるため,本件会社は,C支部長に対し,主任待遇として通勤手当を支給するなど一定の代償措置を講じることを示していた。

(7)  ところが,C支部長は,次のとおり,角田支店への配転命令を拒否した。

ア C支部長は,同年3月下旬以降,E社長から何度か配転を打診されたが明確な返事はせず,同年4月5日には本件第1辞令を受け取らなかった。その後,同月7日及び20日,原告Aと本件会社との間で団体交渉が持たれた際も,原告Aは,本件会社に再考を求めた。そのため,本件会社は,同月27日,やむを得ず本件第1辞令を撤回するとともに,C支部長に対し,本件第2辞令を交付した。

イ この間のC支部長の態度は,正当な理由なく配転命令を拒否したと評価されたとしてもやむを得ないものである。

(8)  同年4月27日に本件第1辞令を撤回した後,従業員の間から,会社の命令に従わなくても罰せられないのかという批判や不満が出てきた。そのため,本件会社は,やむなく本件訓戒処分に踏み切った。

(9)  本件訓戒処分及び本件出勤停止処分には,次のとおり,正当な理由がある。

ア 本件会社が,本件第1辞令を撤回したことによって,C支部長が角田支店への配転を拒否したとの事実が消えるものではない。

イ 懲戒処分に付する正当な理由がある場合において,処分をするかどうかやその内容を検討する際に,従業員の志気及び意欲に与える影響並びに従業員間の公平感を考慮に入れることは不当なことではないから,同年5月11日になって本件訓戒処分に踏み切ったことが不自然であるとか,処分の時期が遅れすぎているとはいえない。

ウ 本件訓戒処分において,本件会社が求めた始末書の内容は,専ら配転問題に関する謝罪と誓約であるので,このような内容の書面を徴したところで,賃金カット問題についての本件会社から組合に対する圧力となるものではない。本件会社関係者の意識の上でも,始末書の提出要求と賃金カット問題との関わりはほとんどなかったというべきである。

エ 本件会社による再度の始末書提出要求は,E社長や他の取締役が,できれば始末書の提出という軽い懲戒処分で事態を収めたいと望んでいたことに起因するものであり,不当労働行為意思の存在を推測させる事実ではない。

オ 「会社は,妥協を知らないたった二人の強硬な組合員に翻弄されている。」との原事件における本件会社の主張は,本件申立て後にされたものにすぎない上,E社長らが法律知識の不足もあって労働組合への対応に戸惑っていたことがうかがわせるにとどまるものであり,本件会社が労働組合を嫌悪ないし敵視していた徴表であるとはいえない。

理由

第1本件処分等

請求原因(1)(本件命令等),同(2)(当事者等)及び同(3)(本件訓戒処分等)は,当事者間に争いがない。

第2本件訓戒処分及び本件出勤停止処分の不当労働行為性について

1  請求原因(4)イ(本件抗議後の本件訓戒処分),同(4)ウ(ア)(配転撤回)及び同(4)エ(ア)(妥協を知らない組合員との主張)は,当事者間に争いがない。

2(1)  これらの争いのない事実に,証拠(甲4,6,10,23,37ないし40,44ないし46,乙1の1及び2,2ないし5,6の1及び2,7,14の2,15の2及び3,16の2及び3,17の2,3及び5,101,原告代表者)並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

ア 本件会社の経営状態等

(ア) 本件会社は,仙台市内に本社を置き,し尿浄化槽の維持・管理,貯水槽の清掃等の業務を行っている。本件会社の売上げは,平成8年3月期には3億円を超えていたが,平成11年3月期には2億円を下回り,赤字決算となる可能性が生じた。本件会社の売上構成は,官庁関係が約6割,民間が約4割であったが,赤字決算となると,官庁関係からの受注資格がなくなり,経営が成り立たなくなるおそれがあった。

そのため,本件会社は,平成11年3月1日,従業員に対し,給与の25パーセントカット等の提案を行った。

(イ) 原告支部は,平成10年6月3日,従業員等の多くが社長等の親戚である本件会社において,組合員2名によって結成されたものであるが,上記給与カットの提案後の平成11年3月3日,本件会社に対し,今後の方針の説明を求めて団体交渉を申し入れた。

(ウ) J組合・Kセンター(以下「Kセンター」という。)が角田市の一部地域及び丸森町全域のし尿くみ取り業務を民間に開放したことに伴い,本件会社は,平成10年4月,営業の拡大を図るため,角田支店を開設したが,平成11年4月からは,角田市全域のし尿くみ取り業務を民間に開放されることとなった。

そこで,本件会社は,同年3月,角田支店の売上げを増やし,本社の人員の一部を角田支店に配置転換すれば,本社の売上げに対する労務費の割合を引き下げ,経営を立て直すことができるものと判断した。

イ 本件第1辞令の交付

(ア) E社長は,同年3月下旬,C支部長に対し,角田支店へ支店長代理として配転するよう何度か打診した。また,G部長も同様の打診を一度行った。

(イ) これに対し,C支部長は,本社勤務のままであれば数分の通勤時間で済むが,角田支店に勤務した場合には片道1時間30分もの通勤時間を要することになり,しかも,本件会社において高く評価されているとは到底考えられない自分になぜそのような打診があるのか納得することができず,原告Aと相談したい,私は適任ではない等と述べ,角田支店への転勤を断る方向の返答のみをしていた。

(ウ) C支部長は,同月24日ころ,原告Aとの間で,上記配転の打診に対する対応を協議した。その結果,C支部長は,原告Aから,このまま辞令が交付された場合,辞令を受け取らず団体交渉を行う旨伝えるよう指示を受けた。

(エ) C支部長は,同月下旬,本件会社と主として賃金カット問題を議題として同年4月7日に団体交渉を行うように調整した。その際,C支部長は,本件会社に対し,団体交渉においてC支部長の角田支店への配転問題も議題としたい旨を口頭で伝えた。

(オ) E社長は,同年4月5日,朝礼の場で,C支部長に対し,同月1日付けで角田支店への配転を命じる本件第1辞令を交付しようとしたが,C支部長は,原告Aの指示に従い,これを受け取らなかった。

(カ) 朝礼に参加していた他の従業員は,これを目撃していたが,これまでもC支部長ら原告支部組合員が休日出勤を断り,他の従業員にしわ寄せが来ていたこと等も相まって,C支部長が第1辞令を受け取らなかったことにつき,不平や不満の声を上げる者がいた。

(キ) 原事件におけるE社長及びG部長の供述中には,C支部長を角田支店の支店長代理として配置転換することを考えるに至った理由として,角田支店は年齢の高いパート従業員が多く,C支部長が年齢の点からも適任であったこと,組合交渉の席などで建設的な意見を述べており,会社の幹部となることを期待していたこと等を挙げる(乙7,16の3,17の2及び3,)。

しかしながら,C支部長は,休日出勤を断り,時間が余った場合でも自ら何かする仕事はないかと尋ねたりすることをせず,上司に対する口のきき方も悪いと低い評価を得ていたものであり,平成10年6月の原告支部結成後,活発な組合活動を行い,そのことも相まって,従業員の多くが社長等と親戚関係にある本件会社において,他の従業員から受け入れられていたわけではなかったものである(乙17の3及び5)。したがって,そのような者を,しかも,これまでの現業を主にする仕事から営業,管理的な仕事の割合が多くなる角田支店の支店長代理とする配置転換が単に業務上の必要性だけで行われたものかについては,疑問が残る。

ウ 角田配転問題についての団体交渉及び配転の撤回

(ア) 4月7日の団体交渉

a 平成11年4月7日の団体交渉では,賃金カット問題及びC支部長の角田支店への配転問題について話し合われた。

b その中で,本件会社は,C支部長を主任待遇で支店長代理とするとの条件が提示したが,交渉の時間が短かったこともあって,C支部長の角田支店への配転問題についての結論は,次回以降の団体交渉に持ち越された。

c なお,E社長の原事件における供述等(乙7,16の3,17の2)には,本件会社は,団体交渉において,C支部長を主任待遇とした上,交通費として3万円を支給するとともに,社用車の利用を認めるとの代償措置を示したものとの記載があるが,その内容は,社用車の利用及びガソリン代の本件会社負担をしながら,別途3万円の交通費を支給するという不合理なものであって,採用することができない。

(イ) 4月20日の団体交渉

a 平成11年4月20日の団体交渉では,賃金カット問題及びC支部長の配転問題について話し合われた。

b その際,原告Aは,賃金カットについて,応じられない旨主張したほか,C支部長の角田支店への配転問題について,会社側から提示された通勤手当について不当と主張し,いずれの問題も解決しなかった。

(ウ) 本件第1辞令の撤回

a E社長は,同年4月27日,朝礼の場で,C支部長に対し,新たに本社業務部管理係の勤務を命じる本件第2辞令を交付し,C支部長はこれに従った。

これにより,本件第1辞令は撤回された。

b これに対し,従業員の間からは,本件会社の業務命令に反してもいいのかと疑問の声が上がった。

c 前記のように,C支部長の配転問題は,団体交渉により協議されていたものであるが,本件第1辞令の撤回前に,本件会社から,原告Aに対し,本件第1辞令を撤回する旨や,本件辞令の撤回に当たりC支部長に対し何らかの処分をせざるを得ない旨の話はなかった。

エ 賃金カット及びこれに対する原告支部の対応

(ア) 同年4月30日,本件会社は,従業員に対し,10パーセント減額して4月分給与を支給した。

(イ) C支部長及びHは,同年5月6日,原告及び原告支部名で,従業員の同意を得ずに賃金カットを実施したことに対し抗議する旨の文書(甲18),及びC支部長ら名で,組合員2名の賃金カット分を未払賃金として請求する旨の文書(甲19,20)をE社長に手渡した(本件抗議等)。

オ 本件訓戒処分及び本件出勤停止処分

(ア) 同年5月11日,E社長は,C支部長に対し,口頭で,C支部長が同年4月5日本件第1辞令を受け取らず,配転に応じなかったことが「正当な理由なく,仕事のことで上司の命令に従わないとき」と定める就業規則68条6号に違反するとして,始末書の提出を求めた(本件訓戒処分)。これは,本件会社の定める懲戒のうち,訓戒に当たるものと認められる。

(イ) 原告Aは,同月12日,本件訓戒処分は,既に解決済みの問題について始末書の提出を命令するものであって認められない旨を原告Aの方針として確認し,C支部長は,この方針に従い,始末書を提出しなかった。

(ウ) E社長は,同月25日,C支部長に対し,「社内計画,運営,業務に多大な迷惑(を)かけたこと又今後この様な業務命令違反を起こさないこと今回に限り始末書を提出することで訓戒処分とするので5月31日まで提出のこと。5月11日口頭での提出要(求)の催促文である(注…不提出時は別懲戒処分する)」と記載された「始末書の提出について」と題する文書(甲3)を交付した(再度の始末書提出要求)。

(エ) これに対し,C支部長は,原告Aの決定に従い,同月25日付けで「今年の4月1日に角田支店長への配転を命じる辞令が,私に出されましたが,私は労働組合との交渉の場で説明を受けるのが筋だと考え,受け取れませんでした。その後,4月7日のけやき共同法律事務所で行なわれた団体交渉の場で会社の考えや労働条件の事について,一定の説明を受けましたが,労働条件の詳細な点は提示されませんでした。その後熟慮を重ねましたが,やはり私は適任者ではないと判断し,今回の辞令については再考を求めた次第です。」と記載した文書(甲4)を会社に提出し,同月31日までに始末書を提出しなかった。

(オ) 同年6月1日,本件会社は,「貴殿は平成11年4月1日付けで角田支店勤務を命じられたにもかかわらず,正当な理由なくこれを拒否し,またその後の始末書提出の命令に対してもその提出を拒否した。貴殿の行為は,就業規則第68条6号に反する重大な組織秩序の紊乱に該るが,今回に限り宥恕し,就業規則第68条6号,第66条3号により平成11年6月2日から6月4日まで3日間の出勤停止の処分(この期間は無給)にしますので,告知いたします。」との告知書(甲5)により,C支部長を出勤停止処分に付した(本件出勤停止処分)。

カ 本件会社の原事件における主張

本件会社は,原事件答弁書(乙8)において,「会社は,妥協を知らないたった二人の強硬な組合員に翻弄されている。」と主張した。

(2)ア  以上に認定の事実によれば,C支部長らが本件抗議等をしてから5日後に本件訓戒処分が行われているところ,後記説示のとおり,会社側が本件訓戒処分の理由とする角田支店への配転問題が既に解決済みであると認められることを併せ考慮すれば,本件訓戒処分及びそれに従わなかったことを理由にされた本件出勤停止処分は,角田支店への配転問題についてC支部長らが団体交渉を求めたため不本意ながら本件第1辞令を撤回せざるを得ず,不快に思っていたところ,さらに,本件会社の存続そのものが問題となっている時期に賃金カットに従わず,本件抗議等をしてくる原告A及び原告支部の活動に対する反発として行われたものであり,C支部長の本件抗議等がなければ通常されなかったものと認められるから,労働組合法7条1号の不当労働行為に当たるというべきである。

イ(ア)  確かに,C支部長は本件第1辞令に従わなかったものであり,本件訓戒処分等の理由となり得る事実関係は一応存在したものである。そして,本件第1辞令については,平成11年4月7日以降原告Aとの間で団体交渉が続けられていたところ,同月27日の本件第2辞令の交付により撤回されたものであるが,撤回されたからといってC支部長が本件第1辞令に従わなかったとの事実が消えるものではない。

(イ)  しかしながら,団体交渉の中で,C支部長が従わない以上角田支店への辞令は撤回するが,転勤拒否に対して何らかの処分をせざるを得ない旨を通告するなどしていないことからすると,本件会社は,4月27日に本件第1辞令を撤回した際には,C支部長に対し何らかの処分をする意思は有していなかったものと認められる。

(ウ)a  本件第1辞令の撤回後2週間経過してから本件訓戒処分を行ったことにつき,被告は,4月27日以後に,従業員の間から,組合員であるC支部長を特別扱いすることについて不平,不満が出たため,企業秩序を維持するため懲戒処分に及んだ旨主張し,E社長らもこれに沿う供述をする(乙7,16の3,17の2,3及び5)。

b  しかしながら,E社長らは,どの従業員がどのような不満を述べたかについて具体的に供述しておらず,前記のとおりいったん処分をしないで済まそうとしたにもかかわらず,何らかの処分をせざるを得ない事態となったことを首肯させるほどの不平,不満が出たことをうかがわせる証拠はない。

c  しかも,本件会社が本件第1辞令を撤回した場合に他の従業員から不満の声が上がるであろうことは,4月5日の本件第1辞令交付の際の他の従業員の反応からも当然予測することができた事態であり,他の従業員の納得を得るためにC支部長に対し何らかの処分を行うかどうかは,本件第1辞令の撤回時に当然考慮しておく事柄であるといわなければならない。

(エ)  そうすると,本件会社が過去に懲戒処分をしたことがなく手続に不慣れであったこと及び連休が介在したことを考慮しても,前記アのとおり推認すべきである。

(3)  まとめ

以上によれば,本件命令のうち,申立ての趣旨(別紙1)第3項の申立て,並びに第4項の申立てのうち「2,C支部長に対し,訓戒処分を行ったこと及び出勤停止処分を行い賃金を減額したこと。」との記載の掲示を棄却した部分は,違法なものとして取り消されるべきである。

第3結論

よって,原告の請求は理由があるから認容し,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 市川正巳 裁判官 千々和博志 裁判官 工藤哲郎)

別紙1申立ての趣旨

1 被申立人は,組合と支部が行った支部組合員の労働条件変更に係る団体交渉申し入れに対して,問題解決のため誠実に交渉しなければならない。

2 被申立人は,団体交渉に応じることなく一方的に行った就業規則の変更(1999年10月1日実施)に関して,初めから団体交渉をやり直さねばならない。

3 被申立人は,C支部長に対して行った1999年5月11日付け訓戒処分及び同年6月1日付け出勤停止処分を撤回し,出勤停止分として減額した賃金をさかのぼって支払わねばならない。

4 被申立人は,縦1メートル,横2メートルの白色木板に次の記載内容の通り墨書し,従業員の見やすい場所に14日間掲示しなければならない。

別紙2本件命令主文

1 被申立人は,申立人A組合D支部組合員の労働条件の変更及び就業規則の変更に関し,申立人との団体交渉に応じなければならない。

2 被申立人は,申立人に対し,本命令書写し交付の日から7日以内に,下記の文書を手交しなければならない。

3 申立人のその余の申立てを棄却する。

以上

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