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仙台地方裁判所 平成13年(行ウ)12号 判決 2008年3月11日

主文

1  被告が原告に対し,平成13年6月1日付けでした,外務省在外公館である在フランス日本国大使館の平成11年度における報償費の支出に関する一切の資料を開示しないとの決定(ただし,平成16年4月20日付け決定により一部変更された後のもの)のうち,別紙1記載の文書(ただし,「請求書」及び支払先又は支払予定先関係者が独自に作成した「領収書」並びに同書面以外の書面の「支払予定先」及び「支払先」の記録部分を除く。)についての不開示決定を取り消す。

2  被告が原告に対し,平成13年6月1日付けでした,外務省在外公館である在イタリア日本国大使館の平成11年度における報償費の支出に関する一切の資料を開示しないとの決定(ただし,平成16年4月20日付け決定により一部変更された後のもの)のうち,別紙2記載の文書(ただし,「請求書」及び支払先又は支払予定先関係者が独自に作成した「領収書」並びに同書面以外の書面の「支払予定先」及び「支払先」の記録部分を除く。)についての不開示決定を取り消す。

3  被告が原告に対し,平成13年6月1日付けでした,外務省在外公館である在ホノルル日本国総領事館の平成11年度における報償費の支出に関する一切の資料を開示しないとの決定(ただし,平成16年4月20日付け決定により一部変更された後のもの)のうち,別紙3記載の文書(ただし,「請求書」及び支払先又は支払予定先関係者が独自に作成した「領収書」並びに同書面以外の書面の「支払予定先」及び「支払先」の記録部分を除く。)についての不開示決定を取り消す。

4  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

5  訴訟費用は,これを10分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求める裁判

1  請求の趣旨

(1)  被告が原告に対し,平成13年6月1日にした,外務省在外公館である在フランス日本国大使館の報償費(機密費)支出に関する一切の資料(平成11年度)を開示しないとの決定(ただし,平成16年4月20日付け決定により一部変更された後のもの)を取り消す。

(2)  被告が原告に対し,平成13年6月1日にした,外務省在外公館である在イタリア日本国大使館の報償費(機密費)支出に関する一切の資料(平成11年度)を開示しないとの決定(ただし,平成16年4月20日付け決定により一部変更された後のもの)を取り消す。

(3)  被告が原告に対し,平成13年6月1日にした,在ホノルル日本国総領事館の報償費(機密費)支出に関する一切の資料(平成11年度)を開示しないとの決定(ただし,平成16年4月20日付け決定により一部変更された後のもの)を取り消す。

(4)  訴訟費用は,被告の負担とする。

2  請求の趣旨に対する答弁

(1)  原告の請求をいずれも棄却する。

(2)  訴訟費用は,原告の負担とする。

第2事案の概要

1  本件は,原告が,被告に対し,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成13年法律第140号による改正前のもの。以下「情報公開法」という。)の規定に基づき,外務省在外公館である在フランス日本国大使館,在イタリア日本国大使館及び在ホノルル日本国総領事館の平成11年度における各報償費の支出に関する文書の開示を請求したところ,平成13年6月1日付けで全部不開示決定を受けたことから,その取消しを求める事案である。

なお,本訴提起後,被告は,上記不開示決定を一部変更する決定をし,上記開示請求対象文書の一部を部分開示したことから,原告は,当該開示部分に対応する訴えを取り下げ,上記一部変更決定による変更後の上記不開示決定の取消しを求めている。

2  前提事実(証拠等を掲げたもののほかは,当事者間に争いがない。)

(1)  当事者等

ア 原告は,行財政の不正を監視・是正することなどを目的として結成された権利能力なき社団である(弁論の全趣旨)。

イ 外務省は,国家行政組織法3条2項の規定に基づいて設置された行政機関であり,被告はその長である。

ウ 在外公館は,国家行政組織法8条の3にいう「特別の機関」として,外務省に設置されたものであり,外国において外務省の所掌事務を行う。

在外公館の種類として,大使館,総領事館等があり,イタリア国ローマに在イタリア日本国大使館(以下「在イタリア大使館」という。)が,アメリカ合衆国ホノルルに在ホノルル日本国総領事館(以下「在ホノルル総領事館」という。)が,フランス国パリに在フランス日本国大使館(以下「在フランス大使館」という。)がある。

(2)  本訴提起に至る経緯

ア 原告は,情報公開法4条1項に基づき,平成13年4月2日,被告に対し,以下の文書の開示を請求した(以下「本件開示請求」という。なお,以下の開示請求番号は,外務省大臣官房総務課情報公開室が付与したものである。)

(ア) 開示請求番号2001-00472

在イタリア大使館の報償費(機密費)支出に関する一切の資料(平成11年度)

(イ) 開示請求番号2001-00475

在イタリア大使館の諸謝金支出に関する一切の資料(平成11年度)

(ウ) 開示請求番号2001-00477

在イタリア大使館の渡切金の支出に関する一切の資料(平成11年度)

(エ) 開示請求番号2001-00478

在ホノルル総領事館の報償費(機密費)支出に関する一切の資料(平成11年度)

(オ) 開示請求番号2001-00480

在ホノルル総領事館の諸謝金支出に関する一切の資料(平成11年度)

(カ) 開示請求番号2001-00481

在ホノルル総領事館の渡切金の支出に関する一切の資料(平成11年度)

(キ) 開示請求番号2001-00484

在フランス大使館の報償費(機密費)支出に関する一切の資料(平成11年度)

(ク) 開示請求番号2001-00486

在フランス大使館の諸謝金支出に関する一切の資料(平成11年度)

(ケ) 開示請求番号2001-00487

在フランス大使館の渡切金の支出に関する一切の資料(平成11年度)

イ 被告は,同年6月1日,本件開示請求があった文書のうち前記(ア),(エ),(キ)の文書(別表1記載の各文書。なお,通番は,被告第4準備書面別表で示された番号である。弁論の全趣旨)ついて,次の理由により,全部不開示決定(以下「本件不開示決定」といい,本件不開示決定の対象文書(別表1記載の各文書)を「本件各行政文書」という。)を行い,同決定は,同月12日,原告に到達した。なお,被告は,本件開示請求があった文書のうち,前記(イ)の文書については全部開示決定を行い,前記(ウ),(オ),(カ),(ク),(ケ)の文書については部分開示決定を行った(甲1ないし3)。

「1 報償費は,国が,国の事務又は事業を円滑かつ効果的に遂行するため,当面の任務と状況に応じその都度の判断で最も適当と認められる方法により機動的に使用する経費であり,外務省においては,情報収集及び諸外国との外交交渉ないしは外交関係を有利に展開するため使用する経費がこれに当たります。

このような報償費の在外公館における支出に関する書類が開示されることにより,報償費の具体的支出に関する内容が明らかになることで,情報収集や外交交渉における相手の権利や立場に影響し,あるいは他国もしくは国際機関との間で外交上問題が生ずるおそれがあります。この結果,国の安全が害されるおそれがあり,在外公館の存在する相手国を含めた他国もしくは国際機関との信頼関係を損ね,またはこれらとの国際交渉上の不利益を被るおそれがあると認められます。

また,これらの内容が明らかになることで,相手の権利や立場に影響を与え,これらとの信頼関係を損ねる結果,その後の情報入手や外交工作が困難になると考えられます。これにより,外交に係る事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあります。

したがって,本件請求に係る報償費の在外公館における支出に関する文書は,情報公開法第5条第3号及び同条第6号の情報に該当します。

2 よって,本件請求に係る文書はすべて不開示とします。」

ウ 原告は,同年7月16日,本訴を提起した(顕著な事実)。

(3)  会計検査院による処置要求(甲4)

会計検査院は,平成12年度における報償費の執行に関し,平成13年9月27日付けで,外務大臣にあてて,会計検査院法34条及び36条の規定に基づき,概要,以下の内容の是正改善の処置を要求した。

ア 外務省の報償費

報償費は,国が,国の事務又は事業を円滑かつ効果的に遂行するため,当面の任務と状況に応じその都度の判断で最も適当と認められる方法により機動的に使用する経費とされており,外務省では,これを「情報収集及び諸外国との外交交渉ないし外交関係を有利に展開するため」に使用することとしている。

イ 検査の結果

(ア) 経理処理について

①支払が翌年度の予算から行われているもの,②支払残額の精算手続が遅れているもの,③支出に関する決裁が事前になされていないもの,④請求書払ができるものを立替払しているものといった事態が見受けられた。

(イ) 確認,監査について

①書類の不備等により確認が十分できないもの,②監査が十分に行われていないものといった事態が見受けられた。

(ウ) 報償費の使途について

報償費は,想定しがたい突発的な事態が生じうる外交においては,特に柔軟な対応が求められることから,機動的な執行が可能な経費として配賦されている。

しかし,平成12年度に報償費で支出されたものの中には,定型化,定例化するなどしてきており,当面の任務と状況に応じ機動的に使用するとの報償費の趣旨からすると,報償費ではなく庁費等の他の費目で支出するよう改善する必要がある経費(国内又は海外で開催される大規模レセプション経費6131万余円,酒類購入経費1536万余円,本邦関係者が外国訪問した際の車借上げ等の事務経費1083万余円,在外公館長赴任の際などの贈呈品購入経費4720万余円,文化啓発用の日本画等購入経費7238万余円)が含まれていた。

なお,役務提供者等に支払ったことを説明する書類として十分でなく,書類上その使途を把握するには至らないものが見受けられた。

ウ 本院が要求する是正改善の処置

(ア) 報償費の使用に当たり,事前決裁を必ず受けること,やむを得ない場合を除いて立替払を行わないなどの報償費に関する会計手続等を,職員に対して周知徹底し,これを遵守させること

(イ) 報償費の使用後に会合等を行った者から報告を求めたり,必要な書類を十分に整備させたり,在外公館の証拠書類を本省に提出させたりするなどして,内部の確認が十分に行えるようにするとともに,実効ある内部監査を実現するための具体的方策を早急に検討・確立すること

(ウ) 報償費の使途について見直しを行い,庁費等の他の費目から支出するよう改善する必要がある経費については他の費目での予算措置を講ずるなどし,今後は報償費として真に支出する必要があるものに使用していくこと

(4)  別件開示請求における情報公開審査会の答申(乙18の1ないし4)

ア 外務省の報償費関連文書については,以下のとおり,本件開示請求以外にも情報公開法に基づく開示請求が複数なされたが,被告は,これらの開示請求について,いずれも不開示決定を行った。

① 外務省本省の報償費の平成12年3月分及び同13年1月分の全支出に関する文書を対象とする2件の開示請求について,同年6月1日付けでなされた不開示決定

② 平成12年3月分及び同13年1月分の外務省在外公館の報償費の全支出の分かる文書について,同年6月1日付けでなされた不開示決定

③ 平成8年4月から同13年3月までの外務省本省及び在外公館の報償費の支出決定及び支払手続のために作成された文書等を対象とする20件の開示請求について,同年6月1日付けでなされた不開示決定

④ 在フランス大使館,在イタリア大使館及び在ホノルル総領事館の報償費(機密費)の平成12年度の支出に関する一切の資料を対象とする3件の開示請求について,平成14年7月22日付けでなされた不開示決定

イ 上記各不開示決定に対しては,いずれも行政不服審査法に基づく異議申立てがなされたため,被告は,情報公開法18条に基づき,情報公開審査会に諮問した。

ウ 情報公開審査会は,前記諮問を受けて,前記ア①,③及び④の不開示決定については,平成16年2月10日付けで各答申を行い,前記ア②の不開示決定については,同年3月9日付けで答申を行った(以下,上記各答申を総称して「本件各答申」という。)。本件各答申の内容は,基本的に同一であり,概ね以下のとおりである。

なお,本件各答申のうち,前記ア③の不開示決定に係る答申は,本件各行政文書と同一の文書を含む文書についての判断を示したものであり,前記ア②の不開示決定に係る答申は,本件各行政文書の一部と同一の文書を含む文書についての判断を示したものである。また,前記ア④の不開示決定に係る答申は,本件各行政文書とは対象年度のみが異なる,同様の文書についての判断を示したものである。

(ア) 対象文書は,案件ごとに個々具体的に作成されるもの及びそれに基づき個別具体的な件名を列記して取りまとめられるものから成っていると認められ,そのため,対象文書には,外務省報償費の使途に関し個別具体的かつ詳細な記載がなされており,これらが容易に区分し難い状態で随所に記載されていることが認められる。これらの記載は,外務省報償費を,秘密を保持して機動的に運用することによって行われる情報収集活動等の個別具体的な内容を示す情報である。このような情報については,これらを公にすることにより,外務省報償費の秘密を保持した機動的な運用に支障を及ぼすことによって,情報収集活動等が困難となり,外交事務の円滑かつ効果的な遂行に支障を来すおそれがあり,ひいては,国の安全が害されるおそれ,他国等との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国等との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由があるものであると認められることから,情報公開法5条6号柱書き及び3号に該当する。

(イ) しかしながら,支出計算書の証拠書類については,会計検査院の平成12年度決算検査報告における指摘を踏まえて,精査すると,外務省報償費を的確に運用するために求められる機動性及び秘密保持という観点からみても,情報公開法5条3号及び6号に該当すると認め難いと考えられるものがあるので,以下,検討する。

a 大規模レセプション経費

大規模レセプションとしては,天皇誕生日祝賀レセプション,自衛隊記念日レセプション及び我が国公館長の離着任レセプションが考えられるところ,諮問庁の説明によれば,これらは,定期的に又は慣例として開催されるとも言えるものであり,政官界,財界,文化人等関係国の各界の著名人等が招待され,マスコミの取材も行われるとする。

こうした点を考慮すると,現時点においては,これらのレセプションを開催することについては,既に定例化・定型化し,その日程なども公にされ,又は公にすることが予定されているものと認められることから,その開催に当たって,機動性などが必要とされなくなっているものと認められるので,これらのレセプションの開催に要する経費に係る情報すべてを情報公開法5条3号及び6号に該当すると認めることは困難と考えられる。

こうしたことから,対象文書のうち,当該レセプションの件名,開催の日付,主催者,場所,経費の総額に係る情報については,これを公にしたとしても,外交事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとは認められず,国の安全が害されるおそれ,他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報であるとは認められないことから,情報公開法5条6号及び3号に該当するとは認められず,開示すべきである。

しかしながら,調達先,調達の具体的内容及び招待者氏名・肩書きに係る情報については,当該レセプションを安全かつ効果的に開催する上で,秘密を保持することが必要と認められ,これを公にすると,当該レセプションの開催に関連して,安全上及び外交儀礼上の支障や問題を引き起こす可能性があると認められるので,情報収集活動等を困難にし,外交事務の適正かつ効果的な遂行に支障を及ぼすおそれがあり,ひいては,他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報であると認められ,情報公開法5条6号柱書き及び3号に該当する。

b 酒類購入経費

外務省において,酒類を備えておく趣旨は,外交活動の一環である設宴や会食において,相手方を随時,然るべく接遇し,もって親交を深め,情報収集活動等を効果的かつ円滑に行うことにある。その際,外交儀礼にもとらないようにすることは,当該設宴等ひいては情報収集活動等の成否を左右する要素であると認められる。また,ワイン等の酒類については,銘柄により優劣についての評価が明確であることなどを考慮すると,外務省が保有する酒類の詳細をつまびらかにすることは,外交儀礼上の支障などを引き起こす可能性があると認められる。

こうした点を考慮すると,酒類の調達先,購入本数,購入銘柄及び銘柄別金額については,外務省が保有する酒類の詳細についてつまびらかになる情報であるので,これを公にすることにより,情報収集活動等を困難にし,外交事務の適正かつ効果的な遂行に支障を及ぼすおそれがあり,ひいては,他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報であると認められ,情報公開法5条6号柱書き及び3号に該当する。

しかしながら,これらを除いた件名,日付,経費の総額については,これを公にしたとしても,外交事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとは認められず,国の安全が害されるおそれ,他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報であるとは認められないことから,情報公開法5条6号及び3号に該当するとは認められず,開示すべきである。

c 在外公館長赴任の際などの贈呈品購入経費

在外公館長が赴任する際や我が国政府要人が外国を訪問する際に,本邦において購入する贈呈品に係るものについては,贈呈対象者,購入贈呈品の具体的内訳,贈呈品ごとの金額・数量,調達先に係る情報及び対象国名を推測させ得る情報を公にした場合,当該国に対する我が国の評価や位置付けなどが容易に推定され,外交儀礼上の支障を生じ,我が国と当該国との関係に悪影響を及ぼすおそれがあると認められるので,情報収集活動等を困難にし,外交事務の適正かつ効果的な遂行に支障を及ぼすおそれがあり,ひいては,他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報であると認められ,情報公開法5条6号柱書き及び3号に該当する。

しかしながら,件名,日付,支出要旨・説明,経費の総額については,その記載内容から対象国名,贈呈対象者及び贈呈品の具体的品目などに係る情報を除けば,これを公にしたとしても,外交事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとは認められず,国の安全が害されるおそれ,他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報であるとは認められないことから,その記載内容から対象国名,贈呈品対象者及び贈呈品の具体的品目などに係る情報を除いた当該情報については,情報公開法5条6号及び3号に該当するとは認められず,開示すべきである。

d 文化啓発用の日本画等購入経費

在外公館において,我が国の文化を啓発する等の目的で使用される日本画等の絵画を本邦において購入する経費に係るものについては,百貨店などの店舗から購入した場合とそれ以外の場合とがあると認められるので,個別に検討する。

百貨店などの店舗から購入した場合には,当該日本画等の販売価格は既に公になっているものと認められるので,件名,支出要旨・説明,経費の総額,調達先,購入した品目ごとの金額などすべての情報を公にしたとしても,外交事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとは認められず,国の安全が害されるおそれ,他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当な理由がある情報であるとは認められないことから,情報公開法5条6号及び3号に該当するとは認められず,開示すべきである。

上記以外の場合として,芸術家など特定の個人の紹介などを通して画家等制作者から直接購入する場合などにおいては,購入した品目ごとの金額,調達先,購入に至った経緯など当該制作者及び紹介者に係る情報及びそれらが類推される情報については,これを公にすることにより,画家等制作者に対する評価に影響を及ぼすばかりでなく,紹介者と諮問庁との関係についても影響を及ぼすおそれがあると認められ,将来的に同様の方法での調達が困難になり,我が国の文化啓発のための資料の調達の方途が画一化されることになり,外交事務の適正な遂行に支障を及ぼすことになるので,情報公開法5条6号に該当すると認められる。

しかしながら,件名,日付,支出要旨・説明,経費の総額,調達の数量については,その記載内容から品目ごとの金額,調達先及び購入に至った経緯などに係る情報を除けば,これを公にしたとしても,外交事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとは認められず,国の安全が害されるおそれ,他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めるにつき相当の理由がある情報であるとは認められないことから,その記載内容から品目ごとの金額,調達先及び購入に至った経緯などに係る情報を除いた当該情報については,情報公開法5条6号及び3号に該当するとは認められず,開示すべきである。

e 本邦関係者が外国訪問した際の車両の借上げ等の事務経費

諮問庁の説明によれば,我が国の政財界の要人など本邦関係者が諸外国を訪問する際に,その接遇に遺漏なきを期するため,当該国等にある我が国在外公館が同国の業者から車両を借り上げ,また,当該本邦関係者の宿泊するホテルなどに事務連絡室などを設けることがあるとする。

このような場合の件名(情報公開法5条1号に該当する個人に関する情報は除く。),日付,経費の総額に係るものは,これを公にしたとしても,外交事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとは認められず,国の安全が害されるおそれ,他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めるにつき相当の理由がある情報であるとは認められないことから,情報公開法5条6号及び3号に該当するとは認められず,開示すべきである。

しかしながら,車両の調達先や車種など及び事務連絡室の所在などの具体的内容に係る情報については,これらを公にした場合,今後,本邦関係者が当該国を訪問する際に,突発的な事態を未然に防止し,その安全を確保することが困難になり,仮に,そのような事態が起きた場合には,我が国と当該国との関係に悪影響を及ぼすおそれがあると認められるので,これを公にすることにより,情報収集活動等を困難にし,外交事務の適正かつ効果的な遂行に支障を及ぼすおそれがあり,ひいては,他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めるにつき相当の理由がある情報であると認められ,情報公開法5条6号柱書き及び3号に該当する。

f 上記aないしe以外の支出計算書の証拠書類については,秘密を保持して機動的に運用されている外務省報償費の使途に関し個別具体的かつ詳細な記載が随所に認められ,個別具体的な使途が明らかになるものであるので,情報収集活動等を困難にし,外交事務の適正かつ効果的な遂行に支障を及ぼすおそれがあり,ひいては,他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めるにつき相当の理由がある情報であると認められ,情報公開法5条6号柱書き及び3号に該当するものと認められる。

(5)  本件不開示決定の変更決定(乙19の1ないし3)

ア 被告は,本件各答申を受けて,原告に対し,平成16年4月20日付けで,本件各行政文書のうち,別表2「部分開示目録」の「対象となる行政文書」欄に記載された文書(文書の番号は,別表1の通番に対応する。)について,「開示する部分」欄記載の部分を開示する旨の本件不開示決定を一部変更する決定(以下「本件変更決定」という。)を行った。

本件各行政文書は合計1401通(なお,この通数は,個々の支出ごとに作成された文書をまとめて1通として表現したものであり,1通の行政文書は複数の文書から構成されている。)であるところ(弁論の全趣旨),このうち,被告が本件変更決定によって部分開示を行った文書(甲8ないし118)は,合計68通(内訳は,在フランス大使館分が34通,在イタリア大使館分が16通,在ホノルル総領事館分が18通である。)である。

なお,本件変更決定によって開示された部分については,別表1の「外形的事実等」において,開示した部分にはだ円を,開示部分と不開示部分とが混在している部分には三角を付し,不開示が維持された部分には何も付さない方法によって特定している。

イ 被告は,本件変更決定の通知書において,本件各行政文書のうち本件変更決定においても不開示を維持した部分に記載された情報及びこれを不開示とした理由について,以下のとおり説明した。

(ア) 公にする法令又は慣行のない個人の氏名,住所,電話番号等,個人を識別できる情報及び公にすることにより個人の権利利益を侵害するおそれがある情報。(情報公開法5条1号)

(イ) 大規模レセプション経費に係る対象文書中,公にすることにより,当該レセプションの開催に関連して安全上及び外交儀礼上の支障や問題を引き起こすことで,情報収集活動等を困難にし,外交事務の適正かつ効果的な遂行に支障を及ぼし,ひいては,他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがある情報。(情報公開法5条6号及び3号)

(ウ) 酒類購入経費にかかる対象文書中,公にすることにより,外交儀礼上の問題を生じ,情報収集活動等を困難にし,外交事務の適正かつ効果的な遂行に支障を及ぼし,ひいては,他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがある情報。(情報公開法5条6号及び3号)

(エ) 本邦関係者が外国訪問した際の車両の借上げ等の事務経費に係る対象文書中,公にすることにより,今後,本邦関係者が当該国を訪問する際に,突発的な事態を未然に防止し,その安全を確保することが困難となり,仮に,そのような事態が起きた場合には,我が国と当該国との関係に悪影響を及ぼし,情報収集活動等を困難にし,外交事務の適正かつ効果的な遂行に支障を及ぼすおそれがあり,ひいては,他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがある情報。(情報公開法5条6号及び3号)

(6)  原告は,本件変更決定を受けて,本訴のうち,本件変更決定によって開示された本件各行政文書の該当部分(前記(5)ア)に対応する部分の不開示処分の取消しを求める部分を取り下げた(顕著な事実)。

3  争点

本件各行政文書の情報公開法5条3号,6号該当性

4  争点に対する当事者の主張

(被告の主張)

(1) 本件各行政文書の記載内容について

ア 報償費の意義等

報償費は,我が国の歳出予算の使用目的を定めた「目」の区分の一つであり,国が,国の事務又は事業を円滑かつ効果的に遂行するため,当面の任務と状況に応じその都度の判断で最も適当と認められる方法により機動的に使用する経費と定義されており,外務省においては,これを,情報収集及び外交交渉ないしは外交関係を有利に展開するため使用する経費に充てている。

報償費は,その使用に係る情報収集・外交工作の秘密保全の必要性に十分に備えるため,支出負担行為をするに当たり,特に精算の基礎等を表す書類を整えなくてもよいとされている。また,決算についても,報償費の具体的な使途を公表すると,それにより行政の円滑な遂行に重大な支障を生ずることとなることから,計算証明規則11条により,いわゆる簡易証明によることが認められている。さらに,運用としても,報償費の書類は「極秘」ないし「秘」指定として取り扱われ,取扱いが可能な職員を制限する等の措置を採っている。

イ 報償費の使途

(ア) 外務省の所掌事務

外務省は,国家行政組織法3条2項の規定に基づいて設置された行政機関であり(外務省設置法2条),平和で安全な国際社会の維持に寄与するとともに主体的かつ積極的な取組を通じて良好な国際環境の整備を図ること並びに調和ある対外関係を維持し発展させつつ,国際社会における日本国及び日本国民の利益の増進を図ることを任務とする(同法3条)。同法4条所定の外務省の所掌事務のうち,主なものを挙げると,①日本国の安全保障,対外経済関係,経済協力,文化その他の分野における国際交流,その他の事項に係る外交政策に関すること(1号),②日本国政府を代表して行う外国政府との交渉及び協力その他外国に関する政務の処理に関すること(2号),③日本国政府を代表して行う国際連合その他の国際機関及び国際会議その他国際協調の枠組みへの参加並びに国際機関等との協力に関すること(3号),④国際情勢に関する情報の収集及び分析並びに外国及び国際機関等に関する調査に関すること(7号)などがある。

このうち,以下のような外交事務は,「公にしないことを前提とした外交活動」であり,その経費は報償費から支出するしかない。

なお,外務省の上記所掌事務には「公にすることを前提にする外交活動」も当然に存在するが,そのための費用を報償費から支出することは認められておらず,他の目から支出される。

(イ) 情報収集のための活動の費用

外務省設置法4条7号にいう「国際情勢に関する情報の収集」には,情報提供者に対価を支払い,あるいはそのための会合の費用を支払って情報を得る活動があり,これは正に「公にしないことを前提とした外交活動」であるが,以下に述べるとおり,事前に計画を策定し,個別の使途を明らかにした上で積算することができない性格を有するから,報償費から支出するほかない。また,報償費に係る経費は,一般に,その性質から支出負担行為をするに当たって特に積算の基礎等を表す書類を整えなくてもよいとされている。外務省報償費は,事前に計画を策定し,個別の使途を明らかにした上で積算することが困難な使用目的に使用することができ,当該経費支出の原因となった公にしないことを前提とした外交活動の保秘性を維持できるとの意義を有することとなる。

a 外交を的確に実施していくためには,相手方の真の利害関心,意図,状況,境遇,弱点等について,より正確な情報を幅広く収集し,調査し,分析しなければならない。これには,各国の外交官,国際機関の職員等だけでなく,政・財・官の関係者,マスコミ関係者,情報提供者等と幅広い人脈を築き広範な情報を得ることが重要である。有益な情報収集は,こうした協力者らとの信頼関係に基づき,継続的・持続的な活動の結果,初めて実現されるものである。

b また,そうした有益な情報収集等の活動は,やり取りする情報の内容やその情報を提供した事実が公にされないことを大前提としてされるものである。なぜなら,我が国の国益に資する,あるいは政策立案に必要な重要な情報は,だれにでも入手可能な情報などではなく,ごく一部の者しか把握していないような極めて機密性の高いもので,公にされないことを前提にして初めて情報提供者の協力が得られるものだからである。

c そして,上記のような情報を得るためには,情報そのものに対価を支払ったり,あるいは情報を得るための会合に経費が必要となる場合がある。このような経費を報償費以外の目から支出することはできない。例えば,上記会合の経費を報償費以外の目である「庁費」のうちの「会議費」で支払おうとするならば,あらかじめ計画を策定し,個別の使途内容を明らかにした上で積算する必要があるが,そのようなことをしていては,上記の目的を達することができないことは明らかである。また,「庁費」のうちの「会議費」で支払う場合,支出負担行為をするに当たって積算の基礎等を表す書類を整える必要があり,支出の原因となった外交活動の保秘性を維持できない可能性がある。

d 結局,このような公にしないことを前提とする情報収集等の活動のための経費を支出するためには,「当面の任務と状況に応じその都度の判断で最も適当と認められる方法により機動的に使用する経費」として,上記のような会議の内容や入手した情報の内容を明らかにしないまま支出することのできる報償費によるしかない。

(ウ) 非公式の二国間交渉・工作の費用

外務省設置法4条2号にいう「日本国政府を代表して行う外国政府との交渉」が非公式に行われることがあり,それらの中には「公にしないことを前提にする外交活動」に該当するものがあるが,以下に述べるとおり,その費用を支出する場合にも,報償費によるほかない。また,報償費に係る経費の支出負担行為については,特に積算基礎等の書類を整える必要がない。

a 二国間の外交交渉等の事務では,公式の交渉,会談だけではなく,非公式の接触,打合せ,意見交換,働きかけ等が重要である。このような非公式な活動の中には,情報収集等と同じく,不断の努力によって作られた信頼関係に裏打ちされた人脈等を基礎として,公にされないことを前提にして行われるものがある。

b このような二国間の交渉・工作等についても,相手方の協力の「対価」として,あるいは接触に適当な機会,場所等を提供するための「会合の経費」が必要となる。

このような経費についても,その経費を支出する活動が公にされないことを前提としているのであるから,情報収集活動のための費用と同じく,事前に計画を策定し,個別の使途内容を明らかにした上で積算することはできない。したがって,「庁費」や「諸謝金」の目から支出することはできず,報償費から支出するほかないのである。また,「庁費」や「諸謝金」で支払う場合,支出負担行為をするに当たって積算の基礎等を表す書類等を整える必要があり,支出の原因となった二国間の交渉・工作に係る活動の保秘性を維持できない可能性がある。

なお,この類型の「会合の経費」の中には,相手国との交渉の準備として,あるいは相手国との交渉結果を踏まえた対応の検討のために会合のための費用を支出する場合もあるが,このような会合も,それが公にされた場合には,交渉の準備の内容や交渉結果を踏まえた対応の検討内容が明らかになる手掛かりを与えることとなり,その結果,相手国との信頼関係を損ない,又は我が国の利益を害するおそれがある。

(エ) 国際会議等における非公式の多国間交渉・工作の費用

外務省設置法4条3号にいう「国際会議その他国際協調の枠組みへの参加」等の所掌事務の一環として,議場外で非公式の活動を行うことがある。これらの中には,「公にしないことを前提にする外交活動」があるが,以下に述べるとおり,その費用を支出する場合にも,報償費によるほかない。

a 我が国が国益を実現,増進させようとすれば,国際会議への参加,協力を通じ,我が国の議論を正しく理解させる等の目的で行う外交事務も必要である。そのために,我が国は,国際連合その他の国際機関及び国際会議等へ参加し,国際機関等との協力を行っているところである。

こうした国際会議等では,多数の国・国際機関等が参加しているが,利害関係等が複雑であるため,議場内で公開で行う我が国の政策の主張,説得等だけでは不十分である。このため,議場外でも,あるいは非公式に他の参加国や国際機関の関係者等と接触,打合せ,意見交換,調整,働き掛け等を行うことが重要である。

このような非公式な活動の中には,不断の努力によって作られた信頼関係に裏打ちされた人脈等を基礎として行われるものがあり,その交渉・工作活動を支える協力は,公にされないことを前提にして初めて得られるものである。

b かかる多国間の交渉・工作についても,相手方の協力の「対価」として,あるいは接触に適当な機会,場所等を提供するための「会合の経費」が必要となる。

このような経費についても,その経費を支出する活動が公にならないことを前提としているのであるから,情報収集活動のための費用と同じく,事前に計画を策定し,個別の使途内容を明らかにした上で積算することはできず,したがって,「庁費」や「諸謝金」の目から支出することはできず,報償費から支出するほかないのである。また,「庁費」や「諸謝金」で支払う場合,支出負担行為をするに当たって積算の基礎等を表す書類を整える必要があり,支出の原因となった非公式の多国間交渉・工作に係る活動の保秘性を維持できない可能性がある。

(オ) 報償費の使途分類

報償費が使用される事務は,事務別分類として,A「有償の情報収集等の事務」,B「非公式の二国間の外交交渉等の事務」,C「国際会議等における非公式の多国間交渉の事務」に分けられ,これらは,更に使用目的分類として,1「対価として使用されたもの」,2「会合の経費として使用されたもの」に分けられる。以下,本件各行政文書に記載された情報を上記の事務別分類及び使用目的分類によって分類する場合には,上記アルファベットと数字を組み合わせ,例えば「有償の情報収集等の事務」について,その情報収集の「対価として使用された」報償費の支出に係る文書はA1などと表示する(別表1の「使用目的」欄の表示は,上記の分類を示すものである。)。

また,使用目的分類2の会合の経費として使用されたものに係る文書は,情報収集等,又は二国間,多国間の交渉の相手方と直接接触した会合の経費に係る文書(以下「直接接触に係る文書」という。)と,情報収集等,又は二国間,多国間の交渉そのものではなく,その交渉の準備として,あるいはその交渉結果を踏まえた対応の検討のための会合の経費に係る文書(以下「間接接触に係る文書」という。)とに分けられる。

なお,本件各行政文書に係る経費には,上記6分類のほか,「定例的に必要とされた物品の購入や役務の経費として使用されたもの」,すなわち①大規模レセプション経費,②酒類購入に係る経費,③本邦関係者が外国訪問した際の車両借上げ等の事務経費,④在外公館長赴任の際等の贈呈品購入経費,⑤文化啓発用の日本画等購入経費(以下,上記5つの経費の類型を「五類型」という。)があるが,これらは,本来,報償費以外の「目」から支出されるべきものである。被告は,本件各行政文書のうち,この五類型に係る文書については,情報公開審査会の答申を受けて,平成16年4月20日,本件不開示決定を一部変更し,部分開示した。

ウ 報償費の支出負担行為の際に作成される文書(決裁書)

在外公館における報償費の使用に当たっては,事案ごとに取扱責任者たる在外公館長の決裁を経ることとなっており,その際の書式は定められていないが,外務本省における「決裁書」の定めに準じ,おおむね,文書作成者,決裁者,起案・決裁日,支払予定先・支払先(当該報償費を支払う役務提供者等の氏名),使用予定額,報償費に係る事務の目的(使用目的),報償費を使用する内容,支出年度,予算科目,支払手続日,取扱者名,支払額などを記載することになっており,以下の書面からなる「決裁書」に従って事務を遂行し,役務提供者等に報償費の支払を行った場合は,可能な限り領収書を徴収し,当該領収書を上記のような事項を記載した書面に貼付することとなっている。

(ア) 決裁書

報償費の支出を求める場合,現場の担当者は,情報収集や外交工作の必要性,方法等について取扱責任者たる在外公館長の決裁を経ることとなっており,その決裁に従って役務提供者等に対する報償費の支払が行われる。

なお,この決裁書の様式については,特に定まったものはなく,在外公館での情報収集や交渉のために会合を設ける場合の決裁等は,例えば,既に部分開示した文書のうち,大規模レセプションに係る決裁書の形式に近いということができる。

(イ) 見積書

決裁書の起案に際して,支出予定額を決定するために情報提供者や役務提供者等から見積書を入手することがある。見積書には,書面によって異同があるものの,日付(起案・決裁日),情報提供者や役務提供者等の名前(支払予定先。個人を特定できる情報を含む。),取扱者名,経費の総額(支払予定額),単価や数量などの経費内訳などが記載されている。

見積書は,情報提供者等によっては作成して提出される場合もあるが,支出の性質上,そもそも作成されない場合もあるもので,作成された場合,その書式等は各々の情報提供者等によって異なり,その紙片の大きさや書式,タイプ文字の特徴から,情報提供者や役務提供者が推測され得る性質のものである。

(ウ) 請求書

請求書は,A1やB1の場合には,情報提供者等から提出され,A2やB2の場合には,例えばレストランなどの会合場所から提出されるもので,書面によって異同があるものの,日付(支払手続日),あて先(当該案件の取扱者名),支払先(情報提供者等の氏名や会合場所の名称)などが記載されている。

請求書は,情報提供者によっては作成する場合もあるし,支出の性質上,そもそも作成されない場合もあるもので,提出された場合,様式等から情報提供者や役務提供者が推測され得る性質のものである。

(エ) 領収書

領収書は,A1やB1の場合には,情報提供者等から提出され,A2やB2の場合には,例えばレストランなどの会合場所から提出されるもので,書面によって異同があるものの,日付(支払手続日),あて先(当該案件の取扱者名),支払先(情報提供者等の氏名や会合場所の名称)などが記載されている。

なお,案件の実施に際して,担当部局の職員が立替払を行った場合には,主に案件の終了後,立替金請求・領収書なる書面をもって精算手続を行うこととしているが,同書面は,取扱者からの資金の受領を示す書面であるとの性格に着目して,便宜上領収書として整理している。この書面には,日付(支払手続日),取扱者名,金額(支払額)などが記載されている。

領収書についても,情報提供者によっては作成する場合もあるし,支出の性質上,そもそも作成されない場合もあること,提出された場合,様式等から情報提供者や役務提供者が推測され得る性質を持つことは,請求書と同様である。

(オ) 支払証拠台紙

支払証拠台紙は,通常,在外公館において,報償費による支払が案件ごとに実際に行われたことを示すため,請求書や領収書等を貼付する書面である。

支払証拠台紙には,書面によって異同があるものの,添付された請求書や領収書とは別に,報償費の使用日(支払手続日),報償費使用の目的や内容,取扱者名,支払手続日,支払額などの決裁書の本文に相当する事項が記載されている。

(2) 情報公開法の解釈の在り方

情報公開法1条にいう「政府の有するその諸活動を国民に説明する責務」とは,憲法の定める民主主義の制度に由来するものではあるが,それ自体は政治的な責任にすぎず,実体的な法的責任ではない。説明責務,又は民主主義ないし国民主権という理念によって,直接に法的な基準が導き出せるものではない。

また,いわゆる「知る権利」については,憲法上の明文はなく,同法21条の規定する表現の自由は,国民が直接に行政機関の保有する情報の開示を請求し得る権利としての「知る権利」の保障を含むものではない。

したがって,国民に行政運営に関する情報に対する開示請求権を付与するか否か,いかなる限度で,どのような要件の下で付与するかは,あげて立法政策の問題であり,具体的な開示請求権の内容,範囲等は,専ら情報公開法の定めるところによることになる。

(3) 不開示情報の判断の在り方

ア 不開示情報の判断構造

(ア) 情報公開法5条各号該当性の判断構造

a 情報公開法は,同法5条で行政文書の開示義務を定め,同条各号において,それに対する除外事由(開示義務不発生及び開示禁止の事由)としての不開示情報を列記している。ここで,同条の規定の構造を検討すると,不開示情報としては,同条1,2,5,6号においては,ある事項「に関する情報」(事項的な要素)であって,情報を「公にすることにより」,ある支障が生じる「おそれがあるもの(ただし,1号前段に関しては『特定の個人を識別することができるもの』とする。)」(定性的な要素)を不開示情報と定めているほか,同条3,4号においては,ある支障が生じる「おそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」という規定とし,定性的な要素のみを掲げている。

b このような規定の構造からみると,不開示事由の存否の判断に関しては,事項的な要素の判断と定性的な要素の判断という2種類の判断があるが(同条3号,4号に関しては定性的な要素の判断のみであるが,他の号に関しては事項的な要素と定性的な要素の2段階の判断となる。),そのいずれの判断も,情報の属性の判定という性格を有することはいうまでもない。

これを定性的な要素の判断に即していうと,その判断は,情報を公にすることによる各号所定の支障のおそれの有無の判断(ただし,1号前段に関しては,特定の個人を識別できるか否かの判断となる。)であるから,そこにいう「公にされる」情報とは,上記支障のおそれの有無に関する評価を行う対象であって,評価以前の事実としての情報にほかならない。

また,このような条文の構造を離れても,そもそも法律上の判断は,その対象となる事実を特定した上でその事実に対する法律的評価を行うという過程によって初めて行うことが可能となるものであって,不開示情報該当性を判断するに当たっても,その判断対象を確定しないうちからその判断そのものを進めるなどということは,背理であり,論理的にも不可能なことというべきである。

(イ) 不開示事由を離れた「情報」の用語法

情報公開法は,以下に見るとおり,13条(「第三者に関する情報」),6条などにおいては,不開示事由を離れて,「情報」を規定の要素としている。このことからは,情報公開法が,情報の概念を不開示事由の規定から独立したものと位置づける立法政策を採用していることが看取される。このような立法においては,情報の単位は,不開示事由の存否とは独立に,これに先だって判定されるべきことであることが明らかであるといえよう。

イ 情報の単位の判定の在り方

(ア) 情報とは,「ある事柄についての知らせ」であるから,それが完成された段階では,その内容を成す事象,事柄を知らせる機能(伝達機能)を果たし得べきものでなければならない。通常,情報とは,多数の文字,符号その他の構成要素によって成立しているが,それぞれの構成要素は,それだけを孤立させて取り出せば通常多義的であり,少なくとも社会生活上の特定の意味を持たないが,事象,事柄についての一まとまりの知らせ,伝達として統合されることにより,その事象,事柄についての知らせ,すなわち,情報としての意味を獲得するに至るのである。

(イ) 情報公開法5条各号は,「情報」に着目し,「情報」の属性として不開示事由を規定している。したがって,「情報」は,それが情報公開法5条各号の定める不開示情報に当たるかどうかを決定することが可能な程度の内容ないし実質を備えたものであることを,情報公開法は予定している。

また,情報公開法の目的を定める同法1条の規定等に照らして考えると,同法における「情報」は,これを公開することにより,社会生活上の特定の意味のまとまりのある内容が伝達され,政府の有するその諸活動を国民に説明する責務を全うすることに客観的に資するといえるような,それ相応のまとまりをもったものであることが想定されているといえる。

(ウ) 以上のような観点を考慮して,各個の行政文書につきそこに記録された一つの「情報」を把握するためには,情報の伝達機能を基本に据えた上,情報内容の観点を中心に,文書の体裁等の外形的な事情をも併せ考慮し,社会通念によって判断するほかはない。

したがって,文書の様式上記載欄が異なるとか,記載されている紙面が別葉にわたるなどという形式的理由のみによって各欄の記述を別個の情報とすることはできない。当該記述等を,ほかの記述等から切り離して眺めても,依然それが事象,事柄の知らせとして社会通念上,切り離す以前と同様の意味を持つのであれば,情報として別個独立したものと考え得るが,そうではなく,その知らせとしての意味が異なってくるか,あるいは知らせとしての意味が消え失せるような場合は,それは,一体的な情報の構成要素にすぎず,それ自体が一個の情報を構成するものということはできないのである。

以上述べたところに従って,情報の範囲(一個の情報を構成するといえるものは何か)を一般的に述べるとすれば,情報とは,個々の構成要素(語,文字,記号等)が,ある事象,事柄の伝達のために,人為によって統合され,構成され,一体的で,他と独立した知らせとなっていると社会通念上いえるものをいうと解される。

(エ) 一つの公文書に記載されている情報の単位は,見る人の関心によって異なり,いわば重層的なものであって,その重層の各層ごとに不開示事由の存否を判断し,その結果,最終的に,不開示事由が認められる「層」の情報の範囲が,情報の単位として把握されることになる。

これを本件各行政文書についてみると,同文書には特定の情報収集又は外交交渉の存在についての情報が記載され,このような情報には,情報公開法5条3号及び6号の不開示情報に当たるというべきものである。本件各行政文書は,報償費支出に係る「決裁書」であり,いつ,だれが,何の目的で,あるいはどのような事務に関し,幾ら,誰に対して支払ったかが明らかとなる内容となっている。これは,情報収集や外交交渉の事務に関して,公にしないことを前提とする会合の開催や対価の支払がされたことを明らかにするものであるから,その全体が独立的な一個の情報として情報公開法5条3号及び6号の不開示情報に当たるというべきものであり,これを更に細分化してそのうちの一部の情報を開示するように求めることはできない。

(4) 情報公開法の審理の在り方

ア 開示することの利益と開示しないことの利益との双方を考慮する必要性情報公開法5条は,行政庁の行政文書開示義務を定めるとともに,同条各号に定める不開示情報が記載されている行政文書を開示すべき対象から除外している。

これは,国民主権の理念にのっとり,政府の諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにすること(情報公開法1条参照)による利益とともに,個人,法人等の権利関係や,国の安全,公共の利益等も適切に保護する必要があることから,開示することの利益と開示しないことの利益との権衡が図られるよう開示の要件を定める必要があることによるものである。

イ 情報公開法5条3号について

(ア) 不開示情報とすることによって保護される利益

情報公開法5条3号は,「公にすることにより,国の安全が害されるおそれ,他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」を不開示情報として規定している。

これは,我が国の安全,他国等との信頼関係及び我が国の国際交渉上の利益を確保することは,国民全体の基本的利益を擁護するために政府に課された重要な責務であり,これらの利益は十分に保護する必要があることから定められたものである。

(イ) 行政庁の裁量権

情報公開法5条3号は,「行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」という規定の仕方を採っている。

このような規定の仕方が採られたのは,このような情報については,その性質上,開示・不開示の判断に高度の政策的判断を伴うこと,対外関係上の将来予測としての専門的・技術的判断を要することなどの特殊性があることを前提とし,諸外国においても他の情報と異なる特別の考慮が払われている場合が少なくないことなどから,司法審査においては,裁判所は,情報公開法5条3号に該当するこれらの情報が記録記載されているかどうかについての行政機関の長の第一次的な判断を尊重し,その判断が合理性を持つものとして許容される限度内のものであるかどうかを審査判断することとするのが適当であるという考え方を表したものであると説明されている。

したがって,情報公開法5条3号に定める国の安全等に関する情報の該当性の判断については,行政庁に比較的広範な裁量権が付与されていると解すべきである。したがって,この判断については行政事件訴訟法30条が適用され,これに対する司法審査は,処分の存在を前提として,当該処分に社会通念上著しく妥当性を欠くなど裁量権を逸脱,濫用したと認められる点があるかどうかを審査する方法によるべきであり,裁判所が行政庁と同一の立場から当該処分に係る判断をし,その結果と行政庁の処分とを比較して,処分の適否を審査する実体的判断代置方式を採ることは許されないというべきである。

ウ 情報公開法5条6号について

同法5条6号は,「国の機関又は地方公共団体が行う事務又は事業に関する情報であって,公にすることにより,次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」を不開示情報として規定している。これは,国の機関又は地方公共団体が行う事務又は事業は公共の利益のために行われるものであるから,公にすることによりその適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある情報については,不開示とする合理的な理由があることによる。

同号は,公にすることにより国の機関又は地方公共団体が行う事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある情報を含むことが容易に想定されるものを,同号イないしホとして例示列挙し,「その他当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」情報を,包括的に不開示情報としたものである。

ところで,情報公開法5条6号該当性の判断は,同号所定の「おそれがある」か否かという将来の予測に関わる判断であって,機械的に決まるものではなく,判断的・評価的な要素を含むことは否定できない。しかも,同号所定の「おそれがある」か否かという判断は,当該情報を公開することにより,国の事務等の適正な遂行という法益に,いかなる影響がどの程度及ぶかという判断であるから,それまでに蓄積された行政運営上の経験に依拠して初めて可能となるものであり,また,当該事務の全容,当該事務をめぐる周囲の状況等に関して,現在のみならず過去の経緯等の幅広い把握なくして,的確にその判断をすることは不可能であるといわざるを得ない。そうすると,情報公開法5条6号該当性についての「適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」の存否に関する司法審査においては,少なくとも,当該「おそれがある」とした行政庁の判断が,一定の許容され得る幅ないし範囲内にとどまっている場合には行政庁の判断を正当とするという審理判断が行われるべきものと解される。

エ 不開示情報該当性に関する事実の主張・立証責任

情報公開法の規定によれば,「何人も,この法律の定めるところにより,行政機関の長…に対し,当該行政機関の保有する行政文書の開示を請求することができる。」(3条)とされ,「行政機関の長は,開示請求があったときは,開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報…のいずれかが記録されている場合を除き,開示請求者に対し,当該行政文書を開示しなければならない。」(5条本文)とされていることからすれば,原告は,開示請求に係る行政機関が開示請求対象行政文書を保有していることを主張立証すれば,情報公開法の規定の範囲で開示請求することができることとなると解され,被告において,当該行政文書に係る不開示決定の適法性を根拠づける事実を主張立証すべきこととなると解される。

したがって,不開示決定取消訴訟において,同法5条各号の不開示情報該当性の根拠事実に関しては,原則として被告が主張立証責任を負い,①当該行政文書に「情報」が記録されていること(ある事柄についての情報が記録されていること),②当該「情報」が同法5条各号に該当することを主張立証することとなる。

以上が,不開示情報に該当する事実の主張・立証責任の基本的な考え方である。

しかしながら,前述のとおり,情報公開法5条3号の要件判断については,行政機関の長に裁量権が付与されており,その適否に関する裁判所の審査は,行政庁の第一次的判断権を尊重し,それが合理性を持つものとして許容される限度内のものであるかどうかという観点からされるべきである。このような場合には,行政事件訴訟法30条が適用されるものであるから,上記の原則的な考え方と異なり,裁量権の範囲を超え,又はその濫用があったことを基礎づける事実については原告が主張立証責任を負担するというべきである。したがって,不開示決定が情報公開法5条3号に該当するとの理由によるものであることが明らかになった場合においては,原告が,被告の判断が裁量権の範囲を超え,又はその濫用があったことを基礎づける事実を主張立証しなければならないというべきであり,被告が,抗弁として,当該行政文書に「情報」が記録されていること,及び,当該「情報」が同法5条3号に該当するという点に関する判断について裁量権を行使し,その充足を認めたことを主張立証した場合,原告において,再抗弁として,被告の判断が裁量権の範囲を超え,又はその濫用があったことを基礎づける事実を主張立証しなければならない。

オ 審理,司法審査の在り方

情報公開法に基づく不開示処分取消訴訟においては,法制度上及び事柄の性質上,その審理において,以下のとおり,通常の取消訴訟とは異なる特質があるので,それに十分に配慮した審理,司法審査が必要となる。

(ア) 第一に,情報公開法5条は不開示情報の開示を禁止していること,裁判所が不開示決定に係る行政文書を見分するインカメラ審理の制度は採用されていないから,情報公開訴訟においては,請求の趣旨に係る行政文書に情報公開法5条各号に該当する情報が記録されているかという点について,当該行政文書に記載された個別具体的な文言を明らかにすることなく,そこにいかなる性質,種類の情報が記録されているかという一般的抽象的な観点による審理,判断とならざるを得ない。

(イ) 第二に,情報公開法における不開示情報の判断においては,開示請求者ないし原告の個別的事情,動機などにかかわらず,広く,不特定多数の者に対して公開されるという前提に立って,経験則上,情報公開法5条各号所定の「おそれ」が生ずるか否かという判断を行わなければならないという特質がある。また,情報公開法の定めた開示請求の制度は,個人的具体的利益にかかわらず,何人も開示請求をすることができるというものであって,情報公開訴訟も,開示請求者の個人的具体的の保護が求められているものではないという性質を有する。

(5) 本件各行政文書の情報公開法5条3号,6号該当性

ア 五類型に係る文書以外の文書の不開示事由該当性

(ア) 本件各行政文書1401通(部署別の数は,在フランス大使館1006通,在イタリア大使館191通,在ホノルル総領事館204通)のうち,会計検査院の平成12年度決算報告を踏まえて情報公開審査会において精査された五類型,すなわち①大規模レセプション経費,②酒類購入経費,③在外公館長赴任の際などの贈呈品購入経費,④文化啓発用の日本画等購入経費,⑤本邦関係者が外国訪問した際の車両の借上げ等の事務経費に係る文書以外の1333通の文書には,すべて報償費の支出に関する情報が記載されている。

本件各行政文書の具体的な記載事項は,別表1で特定したとおりである。その記載内容を前記分類に従って類型的に整理すると,別表3「類型通番対照表」のとおり,A1,A2,B1,B2,C2のいずれかに該当する。これらのうち,原告が特に開示を求めている会合の経費として使用されたA2類型,B2類型及びC2類型に係る文書は,合計1286通あるが,そのうち,別表4のとおり,間接接触に係る文書は175通,直接接触に係る文書は1111通ある。

(イ) 報償費使用に係る「決裁書」を開示した場合の不都合

a 文書作成者名,決裁者名,取扱者名に係る記載

(a) 文書作成者名

ここでいう文書作成者とは,別表1の「外形的事実等」欄に記載している文書作成者,すなわち,「決裁書」を構成する各書面の作成者を意味する(なお,同別表1の「文書作成者」欄の作成者は,「決裁書」を作成する者の一般的な表記である。)。

文書作成者は,情報収集ないしは工作活動の対象分野の担当者であるから,個々の氏名を特定すれば,報償費を使用して行う情報収集や外交工作活動に係る事務の遂行者又は企画者個人の特定が可能となる。そして,当該文書作成者が特定されれば,公開情報,電話照会や在外公館に勤務する現地職員などを通じた情報収集から,容易に当該個人の担当職務・部署が明らかになる。そうすると,文書作成者名からその担当部署を把握することによって,担当部署(在外公館を含む。)別の情報収集の活動の件数を知り,その多寡,推移,頻度を分析することが可能となる。このようにして,他国等により,我が国が行っている情報収集活動,工作活動の方針,意図,動向,その前提とする外交方針等が察知されることになり,また,日時等の他の情報と組み合わせれば,その時々の外交行事等との比較分析をすることによって,更に詳しくいかなる案件について情報収集,工作活動を行っているかが明らかとなり,我が国が行っている情報収集活動,工作活動の方針,意図,動向,その前提とする外交方針が察知されることとなる。そうなれば,外国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ,情報収集その他外交工作活動が阻害されるおそれ,外交儀礼上の問題が生じるおそれ,交渉上の不利益を被るおそれは極めて高く,外交事務の適正な遂行に支障を及ぼすのは明らかである。

また,氏名は明かさずに職名を明らかにしたとしても,職名からその担当事務を推知し得るので,氏名を明らかにした場合と同様の理由で,外務事務の適正な遂行に支障を及ぼす。

(b) 決裁者名

決裁者名の記載は,在フランス大使等の公館長の役職に係る記載に限らず,担当分野別の班長(防衛班長等)の役職名及び当該決裁者の署名の記載の形で行われるため,決裁者名を更に特定しようとすれば,具体的な担当分野別の決裁者の役職名又は署名が明らかとなる。そうなれば,文書作成者名を開示する場合と同様の理由で,外交事務の適正な遂行に支障を及ぼすのは明らかである。

(c) 取扱者名

報償費の支払手続の取扱者は,報償費を使用する担当者,又はその担当部署職員であるから,これを開示すれば,文書作成者,決裁者名を開示する場合と同様に外交事務の適正な遂行に支障を及ぼすのは明らかである。また,氏名は明かさずに職名を明らかにしたとしても,職名からその担当事務を推知し得るので,氏名を明らかにした場合と同様の理由で外務事務の適正な遂行に支障を及ぼすこととなる。

b 起案・決裁日,支払手続日に係る記載

(a) 起案・決裁日

起案日ないし決裁日の記載自体を開示することは,情報収集活動その他外交工作活動を行うための意思決定の時期を個別具体的に明らかにすることになる。この意思決定の時期に,当該時期における国際情勢を踏まえた分析を加えることによって,我が国がその当時,いかなる外交事案に関して情報収集その他外交工作活動等を行ったかが推知され,これを分析することが可能となり,その結果,我が国の情報収集活動その他外交工作活動の方針,意図,動向等,その前提となる外交方針等が察知される危険は極めて高い。報償費使用の意思決定の時期に,報償費使用の件数(各報償費使用に係る「決裁書」を1行政文書として特定しているから,「決裁書」の数を見れば,報償費使用の件数は容易に判明する。)を見ても上記分析は可能だが,さらに報償費の使用額,使用部署(文書作成者等から判明することは既に述べたとおりである。)等を併せて分析すると,我が国の外交活動の方針等の分析は一層容易になる。そして,我が国の外交活動の方針等が他国等に推知される状況に陥れば,我が国と他国等との信頼関係が損なわれるおそれ,情報収集その他外交工作活動が阻害されるおそれ,外交儀礼上の問題が生じるおそれ,交渉上の不利益を被るおそれがあることは火を見るより明らかで,外交事務の適正な遂行に支障を及ぼすことは改めて指摘するまでもない。

(b) 支払手続日

支払手続日は,起案・決裁日と同様の理由で,開示になじまない。

c 支払予定先,支払先に係る記載

(a) 支払予定先

「支払予定先」には,報償費の支払を予定している相手方たる情報提供者や役務提供者等,会合の場合はその場所が記載されるほか,情報提供者等の氏名,その住所,口座番号等が記載されることもある。

情報提供者等の氏名等を明らかにすると,情報提供者,交渉の相手方や協力者の具体的氏名や,それを特定し得る当該者のサイン,印影,住所や口座番号等が明らかとなり,特定の人物に対する報償費支出の事実とこれらの人物が我が国政府に対して情報提供や何らかの協力を行っていたことが明らかとなる。前記のとおり,当該情報提供者等の協力は,自己の活動が公にされないことを明示ないしは黙示の前提として行ったものであるから,公開されたことを情報提供者等が知ることとなれば,我が国政府に対する信頼は失われ,以後,内々の情報の提供,率直な意見交換等の協力に積極的に応じなくなるおそれがある。また,当該情報提供者等が我が国政府に対して情報の提供など何らかの協力を行ったことが明らかになると,政治的ないし社会的に,当該情報提供者の立場が損なわれたり,さらには,当該情報提供者に何らかの制裁が科される事態も生じ得る。特に情報提供者等から提出された領収書が公開されれば,それが情報提供の動かぬ証拠となるのであって,情報提供等の事実が発覚した後,当該情報提供者等がどのような事態に遭遇するかは全く予断を許さず,我が国が行っている情報収集活動にも重大な影響を及ぼす可能性がある。また,当該情報提供者等の氏名等が明らかとなると,その職業,社会的地位,専門分野等の個人的属性,活動の方法や舞台等を分析することが可能となって,我が国が行っている情報収集活動等に関する方針,意図,内容等が他国に察知され,我が国が外交交渉上の不利益を被ったり,我が国と他国等との信頼関係が損なわれるおそれがある。今日,個々の外交案件に相手国の国内の諸情勢が密接に関連しており,任地にある外交官は,任国の外務省のカウンターパートを相手方とするのみならず,関係分野の省庁の役人,民間企業,与党・野党の政治家,ジャーナリスト等と様々な形で接触している。これらの接触の事実が,事後,相手方の氏名を含め情報公開により明らかとなれば,接触した相手方の立場を損ね,これらの者との信頼関係を損なう危険があり,さらに,正規の外交ルートに悪影響を及ぼすことも懸念される。

また,会合の行われる場所等が明らかになると,その場所が,例えば,カジュアルな場所かフォーマルな場所かといったことやそこで供されるサービスの内容,価格等から,我が国の相手方に対する格付けや他の情報提供者との比較が明らかとなり,先方がそれを不満に思うなどして先方との信頼関係に悪影響を与えることになるし,また,我が国職員のよく利用するレストランなどを第三者が知ることにより,我が国の「手の内」が知られ,今後我が国が情報収集等の外交工作活動を行うに当たって,当該場所に対する監視の強化,盗聴工作等を含む妨害工作などが図られる可能性がある。さらに,レストランの名前から情報提供者や協力の相手方の所属先などの個人を特定できる情報が明らかになる場合がある。

(b) 支払先

「支払先」は「支払予定先」と同じ性質のものであり,したがって,これを開示することとなれば,「支払予定先」について述べたところと同様の不都合が生じる。

d 支払予定額,支払額に係る記載

(a) 支払予定額

報償費の支払予定額の開示は,報償費を使用する案件ごとの支出予定金額及びその通貨単位を明らかにすることになり,個別の支出予定金額が明らかになれば,その額の多寡,推移等を通じて,報償費を使用して行った情報収集その他外交工作活動事務について,その方法,意図,方針等を推知することが可能となる。例えば,同一額の支出額が複数存在する場合,そこから定期的な情報提供者の存在やその人数の推測が可能となったり,これらの金額の分布から,情報提供者の質やレベルが推測されたり,また,特別の外交課題に対応して特に重点的に工作活動を行う場合や,特殊な外交工作については,経費も増加することが想定されるが,そのような案件の有無や数が明らかになることによって,我が国の情報収集その他工作活動の事務の方法,意図,方針等が推知されることになる。また,仮に,金額自体は明らかにせず,通貨単位のみを明らかにするとしても,これを通じて,報償費を使用して行う情報収集その他外交工作活動の対象とする外国,国際機関,あるいはこれらの事務が行われる国,地域が明らかとなって情報分析が可能となるほか,報償費使用の目的や内容の推察も可能となることから,現地通貨と異なる通貨を使用した特別な情報収集,工作活動が行われた件数もまた明らかにすることとなる。その結果,我が国の情報収集活動その他外交工作活動の方針,意図,動向等,その前提となる外交方針等が察知されることになり,そうなれば,外国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ,情報収集その他外交工作活動が阻害されるおそれ,交渉上の不利益を被るおそれがあり,また,外交事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれはこれもまた明白である。

(b) 支払額

報償費の支払額を開示することは,支払予定額の開示と同様の危険性をはらみ,開示になじまない。

e 目的・内容に係る記載

目的・内容は,当該報償費使用が前記類型のいずれに該当するかを示すものである。「目的」は,報償費の目的に沿った当該報償費の使用の目的,事務の必要性に関する記載で,本件各行政文書にはこれが具体的に記述されており,また,「内容」は,報償費を使用して行う「情報収集の事務」などの具体的な内容,方法,態様に関する記載であって,当該内容の適正さを示す積算等の根拠や事情(役務提供者等との交渉,従来の成果等を含む。),事務を行う職員等の氏名,会合の場合は同席者の氏名等を含むものである。これらの目的・内容に係る記載は,その性格上明確に区別して記述されるものではなく,渾然一体となっている。

情報収集等の目的が明らかになると,我が国の外交上の意図,関心を他国政府に知られることとなる。そして,それらを分析されると,我が国の情報収集等の目的,外交政策の意図,関心,懸念の程度,情報収集や外交交渉の方法等(例えば,我が国が外交問題の顕在化を避けたいとする案件の内容とそのための活動の概要,我が国が実施の可否を検討している政策の内容やそのための活動の概要,他国の政策に対する我が国の真の懸念の程度とそのための対策の活動概要等)を知り得ることになる。その結果,当該分野が他国にとって触れられたくない分野であったり,あるいは,自国に関する事柄について種々調べられること自体を是としなければ,我が国と当該国との関係を悪化させることにもつながりかねないし,他国が,我が国のこのような事実を踏まえて新たな外交的立場を明らかにしたり,我が国が過去に働きかけを行った国や人物等に対して対策を講じることによって,我が国から他国への外交的な働きかけが不調となったり,又は,他国が我が国に対してより強硬な立場をとる等の事態が生じるおそれがあり,その結果,外交交渉ないし国際関係において不利な立場に立つこととなるおそれがある。

また,上記のような報償費支出の内容が明らかとなると,例えば,会合の同席者などが明らかとなった場合,その職務やランクが明らかとなれば,相手方たる情報提供者等のランク等が推測され,場合によっては,個人名の特定につながることもある。情報提供者等が特定されることによる支障は支払予定先等について述べたとおりである。さらに,取扱者名や会合の同席者名から,その担当部署別の情報収集活動の件数,金額,実態を分析することを通じて,我が国の情報収集等の活動の方針等を察知することも可能となる。また,情報収集等の活動の際の態様,その際に相手方に提供したサービスの内容(例えば,会食の場合は食事の内容やその金額等)が明らかとなった場合,他の情報提供者等に提供した内容等を比較することによって,相手方の格付けが明らかとなり,それを不満とした相手方との信頼関係に悪影響を与えるおそれもある。

したがって,「目的・内容」を明らかにすることは,報償費を使用して行う外交工作活動そのもの,そして,その活動を行う我が国の意図,方針を明らかにすることとなり,本来的に開示にはなじまない性質のものである。

(ウ) 情報公開法5条3号,6号に該当するとの判断の具体的理由

a 情報提供者や協力者の立場への悪影響

報償費の支出に関する書類,すなわち「決裁書」が公開されれば,特定の人物に対する報償費支出の事実,ひいてはこれらの人物が我が国政府に対して情報提供や外交工作等への協力を行っていた事実が明らかになる。当該情報提供者等の協力は,自己の活動が公にされないことを当然の前提として行ったものであるから,公開されたことを情報提供者等が知ることとなれば,我が国政府に対する信頼は失われ,以後,内々の情報の提供,率直な意見交換,他国政府等に対する働きかけ等の協力に積極的に応じなくなるおそれがある。

また,当該情報提供者又は協力者が我が国政府に対して情報の提供等何らかの協力を行ったことが明らかになると,政治的ないし社会的に当該情報提供者等の立場が損なわれ,当該関係者の事務の遂行に支障が生じたり,さらには,何らかの制裁を課されたり,場合によっては人命にかかわるおそれがあることもある。

情報提供者が,正規の外交ルートとは別の政府に近い筋であった場合などには,例えば,我が国が,他国を対象に公式の外交ルートを経ずに会合を行ったり,一部の関係者のみを集めて情報収集,働きかけを行っていたり,政府組織とは別の有力者と人脈を構築し,そこを通じて政府組織に働きかけを行おうとしていた等の事実が明らかになれば,関係する外国政府関係者の立場を損ね,これらの者との信頼関係を損なうこととなり,これに対する対応措置として,以後,当該外国等が我が国との接触・交渉に応じなかったり,協力的な対応を行わないなどの事態も想定される。

このような情報提供者や協力者の立場への悪影響等の判断を行うに当たっては,外交には通常の事務にいう「既済」という概念がなく,ある案件が一度解決しても,当該案件が再び問題となることが多く,また,政治体制のいかんにかかわらず,外国の政府関係者,政党関係者等とは,様々な分野で極めて長期にわたり,様々な形態の関係を有することとなるから,一層慎重かつ十二分な配慮が必要となる。

b 他の情報提供者,協力者一般への悪影響

情報源又は協力者の喪失の問題は,開示の対象となった案件にかかわる特定の情報提供者等に限らない。報償費の「決裁書」が公開されることとなれば,我が国の行っている情報収集活動や外交工作活動の一端が露出・公開されたと受け止められ,そのことが,我が国はもとより国際社会に知れ渡ること(アナウンスメント効果)になる。そのようなことになれば,本来絶対的に秘密保持が求められている,公にしないことを前提とした外交活動に支出される報償費に関する情報が,我が国においては情報公開の名の下に公にされ得るものとして広く外国関係者に受け止められることとなり,そうなると,我が国の秘密の保持に対する信頼性は著しく低下する。

つまり,これまで我が国に公にされない形で情報提供してきた協力者又はこれから協力者になろうとしていた関係者等は,我が国に対し内々の情報提供その他の協力をしたとしても,結局は,そのことが情報公開という制度の下に外部に明らかにされ得る,あるいは秘密が守られないと一般に受け止めることになる。そうなれば,開示の対象となった案件でなくとも,他の情報提供者が以後の協力にちゅうちょしたり,新たな情報提供者等の協力者を見つけることが困難となり,つまるところ,前記のような,公にしないことを前提にした自由な意見交換等を行う機会を設けること自体に著しい支障を来す。

また,情報提供者等の協力者の中には,一般に自己が協力している事実が明らかになることを強く嫌忌している者もいれば,そこまで至らないとしても公にならない会合ゆえに率直な意見交換等に応ずる者もいるから,対象者の多様性を前提として,我が国政府関係者との意見交換等に制約を感じず,安心して協力してもらえる環境を作りだすことが重要であるということを十分に考慮しなければならない。こうした事情は,先進国であるか発展途上国であるかを問わずいえることであるが,自由主義,民主主義に基づく諸権利が制限されている国家においては,一般に流通する情報量が制限されているため,情報提供者からの情報など非公開の情報分析が特に貴重となる。しかし,そのような国においては,我が国への情報提供や我が国との意見交換に政治的・社会的なリスクがあり得る(場合によっては当局からの摘発等)ため,我が国政府関係者との会合等についての情報管理の信頼性が失われれば,情報提供者等が我が国への協力に極めて慎重となるおそれが大きい。

c 情報収集及び外交工作事務一般への萎縮効果

以上のような情報収集等の活動の相手方に対する影響のほか,我が国においても,仮に報償費の「決裁書」が公開され,個々の報償費の支出の事実が明らかになる可能性があるということになれば,外務本省や在外公館の担当者は,情報提供者との関係や外交関係への不利益の波及等を懸念して,報償費を用いた情報収集等の活動の実施そのものについて慎重になり,実施するとしても最も効果的な手段の使用をちゅうちょするといった事態が生じ得る。このことは,現場担当者が個別の必要性を勘案して情報収集等の事務を機動的に行うための「報償費」の制度の意義を損ない,制度本来の目的を達成すること自体を困難にさせ,我が国の情報収集等の事務の遂行に著しい支障を生じることになる。そして,その結果,外務省が行う外交活動全般において,国際舞台の表層だけにとらわれず,あらゆる事態を想定した上での外交活動を行うために必要な情報収集等を行う規模が縮減されることとなり,適切な外交問題の処理が十全に行い得ないおそれが生じ得るのである。

d 我が国の意図,関心を他国政府により分析されることにより他国が外交政策上の対策を講じるおそれ又は我が国の情報収集活動に対する他国による妨害ないし対抗措置が講じられるおそれ

情報収集や外交工作は,我が国の公式の立場にとらわれることなく,将来における様々な可能性を視野に入れて様々な形で政策を打診し,理解を求めるなど,より幅広い形で行うものである。情報収集等の事務に係る報償費の「決裁書」が公開され,個々の報償費支出の事実が明らかになると,他国等がその分析を通じて,我が国の情報収集等の目的,外交政策の意図,関心,懸念の程度,情報収集や外交工作の方法等(例えば,我が国が外交問題の顕在化を避けたいとする案件の内容とそのための活動の概要,我が国が実施の可否を検討している政策の内容やそのための活動の概要,他国の政策に対する我が国の真の懸念の程度とそのための対策の活動概要等)を知り得ることになる。そして,その結果,他国が我が国のこのような事実を踏まえて新たな外交的立場を明らかにしたり,我が国が過去に働きかけを行った国や人物等に対して対策を講じることによって,我が国から他国への外交的な働きかけが不調となったり,又は,他国が我が国に対してより強硬な立場を採るなどの事態が生じるおそれがある。

また,上記のように情報収集等の事務に係る報償費の「決裁書」が公にされたことにより,我が国の情報収集活動や種々の働きかけの手の内が明らかにされると,場合によっては,他国の情報治安当局等が,我が国在外公館や会合場所において監視を強化したり,在外公館職員の行動を制限する等の措置を講じたり,当該他国政府関係者と我が国在外公館職員との接触,情報提供を制限する等の措置を講ずるなどの事態も生じ得る。特に,情報収集活動の担当者が明確になれば,当該他国関係者として態度を硬化させ,場合によっては,「ペルソナ・ノン・グラータ」(好ましからぬ人物)として国外退去を求められたり,公式の会合への受入れを拒否するなどの措置が執られるおそれすらあるといえる。

(エ) 会合経費(2類型)についても秘匿性が認められること

a 直接接触に係る文書の秘匿性が高いこと

(a) 情報提供者等が特定され,その信頼を失い協力が得られなくなること

我が国は,公式の外交ルートとは別の非公式の外交ルートとして,他国政府等に近い筋の情報提供者並びに二国間及び多国間の外交交渉等の相手方の関係者(以下「情報提供者等」という。)の協力を得るため,会合を持って,情報収集や働きかけを行うことがある。これが前記の直接接触であるが,この直接接触に係る文書が開示された場合,当該情報提供者等の特定につながる情報が明らかになり,情報提供者等の立場を損ね,これらの者との信頼関係を失うこととなる。

外交において,情報提供者等の協力は,その情報が入手困難な機密性の高い性質のものであればあるほど,通常は自己の活動が公にされないことを明示ないしは黙示の前提として行われるものである。そのため,情報提供者等において,自己が特定される情報が公開されたことを知ることになれば,我が国政府に対する信頼は失われ,しかもいったんこの信頼が失われたときは,その修復をすることは著しく困難である。

また,情報提供者等において,我が国政府に対して情報の提供等何らかの協力を行ったことが,動かぬ証拠である対象文書の開示とともに明らかになると,その職務上の地位・立場が損なわれ,その事務の遂行に支障が生じるおそれがあるばかりか,当該情報提供者等の置かれた政治的,社会的環境いかんでは,刑事罰その他の制裁を課されたり,その人命に関わるおそれがある場合すらある。

このような情報提供者等の立場への悪影響は,以後,我が国において,これら情報提供者等から,内々の情報提供,率直な意見交換,他国政府等に対する働きかけなどで積極的な協力を得ることができなくなるおそれを生じさせることが明らかである。

(b) 国際社会における信頼の喪失につながること

上記のとおり本来絶対的に秘密保持が求められている情報提供者等の特定につながる情報が,我が国においては,情報公開の名の下に公にされ得ることが国際社会に明らかになれば,我が国の秘密の保持に対する信頼性が著しく低下することは明らかである。

このような国際社会における信頼関係の損失は,以後,我が国において,外国等から,我が国への協力的な対応はもとより,我が国との接触・交渉すら得ることができない事態につながることが想定される。

仮に,我が国において,本来絶対的に秘密保持が求められている情報提供者等の特定につながる情報が,情報公開の名の下に公にされ,政府から正式に出た情報となり得ることが,国際社会に明らかになれば,我が国の秘密の保持に対する信頼性が著しく低下することは明らかである。

そして,他の情報提供者,協力者一般にも影響し,これらの者の協力も得られなくなるおそれが生じることは明らかである。

(c) 他国が,外交政策上の対策を講じ,妨害ないし対抗措置を講じるおそれがあること

情報提供者等の特定につながる情報が明らかとなった場合,他国等が,その情報の分析を通じて,我が国の情報収集等の目的,外交政策の意図,関心,懸念の程度,情報収集や外交工作の方法等も知り得ることになる。そして,その結果,他国等が,我が国のこのような事実を踏まえ,外交政策上の対抗措置を講じるおそれもある。例えば,その措置として,他国の情報治安当局等が,その情報提供者等に対し,我が国在外公館職員との接触,情報提供を制限したり,意図的に虚偽の情報を提供したり,情報提供者等が外交官であるような場合には,「ペルソナ・ノン・グラータ」(好ましからぬ人物)として国外退去を求めるなどの措置を執るおそれすらある。このような対策が講じられれば,我が国が適切な外交上の政策決定をする基礎となる正確で十分な情報が収集できなくなり,他国への外交的な働きかけが不調となったり,又は,他国が我が国に対してより強硬な立場をとる等の事態が生じるおそれがある。

(d) 情報収集及び外交工作事務一般への萎縮効果が生じること

我が国においては,情報公開の名の下に情報提供者等の特定につながる情報が明らかになる可能性があるということになれば,外務省本省や在外公館の担当者は,上記の情報提供者等との関係や外交関係への不利益の波及等を懸念して,外務省報償費を用いた情報収集等の活動の実施そのものについて慎重になり,あるいは実施するとしても最も効果的な手段の使用をちゅうちょするといった萎縮効果が生じる。このことは,現場担当者が個別の必要性を勘案して情報収集等の事務を機動的に行うための「外務省報償費」の制度の意義を損ない,制度本来の目的を達成すること自体が困難となり,我が国の情報収集等の事務の遂行に著しい支障を生じることになる。

b 間接接触に係る文書に秘匿性があること

(a) 国会議員との会合の秘匿性

我が国在外公館は,外国において利用可能なあらゆる手段,機会を活用して,情報収集及び諸外国との外交交渉ないしは外交関係を有利に展開するための活動を行っている。

このような活動の一つとして,国会議員等の我が国関係者が外国を訪問して当該相手国関係者と接触する場合に,その準備として,在外公館職員との間において公にしないことを前提とする会合の場を設け,当該我が国関係者に対して,相手国側への働きかけ等につき協力方を内々に依頼したり,当該我が国関係者が相手国関係者と接触した結果を踏まえた対応の検討のために,在外公館職員と会合の場を持つ場合がある。このようなことは,在外公館が,利用可能な機会・手段として,当該我が国関係者の訪問を活用しつつ,我が国として一貫した方針の下に外交事務を遂行していく上で欠かせないものである。

特に,国会議員の場合には,相手国関係者からは,日本政府とは一線を画した見地から行動することができるとの見方をされる場合があるため,相手国側への働きかけが功を奏することが多い。

そこで,このような場合に,国会議員を含む我が国関係者と相手国関係者等との接触や働きかけの前後において,当該我が国関係者と外務当局との間で,公にしないことを前提として,秘密裏に長時間にわたって綿密に打合せを行って,上記の働きかけの効果を最大限のものにし,その後の外交交渉を有利に展開しようとすることがしばしば行われる。

ところが,上記相手国関係者が,このような打合せの事実を知ることになれば,当該我が国国会議員の言動が自らの立場に基づく見解ではなく,所詮我が国外務当局のいわば差し金で述べたにすぎないとの心証を有することとなり,その結果,当該我が国国会議員を通じた働きかけの効果が減殺されてしまうことになる。

特定の会合の存否が公になれば,当該訪問に関する公の情報に加えて,既に公となった情報,各国がそれぞれ収集した情報等とを重ね合わせて照合・分析することにより,相手国関係者等との接触の準備の内容や接触の結果を踏まえた対応の検討内容が明らかになる手掛かりを与え,我が国が,どのような関係者の訪問を契機として,だれとどのような準備をし,どのような外交工作活動を行っているかを知る手掛かりを与えることになる。このような照合・分析により,我が国が,いかなる事柄について,情報収集その他外交工作等の活動の対象としているか,我が国が行おうとする外交上の意図,動向,方針も相当程度明らかになる結果,他国が外交政策上の対策を講じるおそれ及び我が国の情報収集活動に対する他国による妨害又は対抗措置が講じられるおそれもある。

外交交渉,外交工作は,細心の注意をもって行わなければならないのであり,このような事例では,いつ,いかなる準備をしているかを察知されるような情報を明らかにすることはできない。

また,外交活動は,継続性のあるものであり,一つの交渉ごとが終わった後であっても,上記のような事情が明らかになれば,当該相手国関係者が当該我が国国会議員に対する関心を改め,さらには,信頼を損なうおそれがあり,その結果,今後,同様の案件を処理する際に,同様の働きかけが功を奏しなくなるという外交交渉上深刻な事態に陥るおそれがある。

(b) 政府関係者との会合の秘匿性

事案によっては,外交当局とそれ以外の政府部門の関係部局とが連携しながら外交交渉を行う場合もあるが,そのような場合,外交当局と当該関係部局の思惑が完全には一致しないこともあり得る。相手国政府等がそうした認識の不一致を察知した場合には,我が国の外交当局と関係部局間の分断を図られ,我が方にとって不利益な結果をもたらすような働きかけが行われるおそれもある。そこで,当該相手国政府等にしてみれば,我が国との交渉等において,我が国外交当局と関係部局間を分断させ,又は関係者に対して我が方にとって不利益な結果をもたらすような働きかけを行う余地,いわば付け入る隙を探すことがあったとしても何ら不思議ではない。

そこで,相手国政府等との協議前に,対処方針の背景となる考え方について十分に認識を一致させ,そうした認識を踏まえて,協議の相手方に対していかなる主張を展開するかを整理し,我が国関係者相互における利害・関心の不一致などの我が国側の手の内を推察されないようにすることを目的として,率直に意見を交換し合い,問題の所在を明確化させるために,長時間,人目に触れない形で議論を行ってすり合わせを図ることが行われる。

ところが,相手国政府等が,上記のようなすり合わせを知るところとなれば,その後の当該外交交渉に支障を来すことはいうに及ばず,事後的にであっても,上記のようなすり合わせが明らかになれば,我が国政府部門間の内情や協議の際の準備のパターンを外国政府に読まれることになり,今後,関連分野や同態様の案件を処理する場合に,手の内を明かしたまま協議に臨むのと同様の結果をもたらすおそれが生ずる。

したがって,このような事例でも,いつ,いかなる準備をしているかを察知されるような情報を明らかにすることはできない。

(c) 外務大臣等との会合の秘匿性

間接接触の中には,外務大臣や外務省職員が行う外交交渉の準備等のため,在外公館職員と会合を行う場合もあるが,こうした会合も,その後の相手国関係者と接触するための準備を目的として行われた,いわば我が国政府内部の情報である。このような場合に常に会合の場所等が明示された情報が開示されることになれば,協議を行うために相手国を訪問した外務大臣,外務省職員が,在外公館職員のだれとどこで準備又は検討を行っているかが明らかになり,そうした個々の準備等の傾向を分析することにより,こうした形での我が国の外交活動に関する情報を収集することが可能となり,じ後,この種の活動を円滑に遂行することが困難になる事態も懸念される。

また,その傾向が分析され,盗聴等のおそれが生ずることも十分に考えられるほか,外務大臣等が借り上げた車両の調達先や料理等の調達先が明らかにされれば,安全確保上重大な支障を及ぼすおそれもある。

(d) 自動車借料経費の秘匿性

原告は,間接接触における自動車借料経費の支出と,五類型の車両借上げ経費の支出の差異がわからないなどと主張する。

しかしながら,五類型とは,前記のとおり,「定例的に必要とされた物品の購入や役務の経費として使用されたもの」であり,五類型の車両借上げ(本邦関係者が外国訪問した際の車借上げ等の事務経費)も,定例的に必要とされる限度内のものである。一方,使用目的分類2の「会合の経費として使用されたもの」に分類した「自動車借料経費」に係るものは,情報収集及び外交工作の準備等としての車両借上げであり,定例的に必要とされる内容とは性質が異なるものであって,両者の区別は明らかである。

しかし,いずれにしても,自動車の調達は,保安上の問題から,我が方関係者の安全を確保できる信頼できる専門業者へ発注しているのであり,このような「自動車借料経費」に係る文書が仮に開示され,このような専門業者に関する情報が公になると,関係国や,本邦関係者に危害を加えようとする者,あるいは我が国政府の内部情報を不正に入手しようとする者などが,当該調達先に接触し,我が国の内部情報を入手してそれらを悪用し,あるいは当該調達先に働きかけて我が国の外交事務を妨害するなどして,我が国の利益を損ない,あるいは我が国の在外関係者の安全確保を困難にするなどの事態が生じるおそれがある。

(オ) 部分開示がなし得ないこと

報償費支出に係る「決裁書」には,個々の報償費支出に係る,文書作成者名,決裁者名,起案・決裁日,支払予定先,支払予定額,目的・内容,支払手続日,取扱者名,支払先,支払額,支払方法が記載され,請求書や領収書等が一体となって綴られている。このため,いつ,だれが,何の目的で,あるいはどのような事務に関し,幾ら,だれに対して支払ったかが明らかとなる内容となっており,上記記載が相互に関連して,報償費支出の態様,目的やこれに係る我が国の方針や対応等を推知させるものとなっている。

このように,これらの記載は,一体となって一つの意味内容を構成するものであって,その個別具体的かつ詳細な内容が容易に区分し得ない状態で一体となって随所に記載されているから,個々の支払ごと,すなわち各「決裁書」ごとにまとまって一体となっている独立的な一個の情報が記録されているといえる。そして,情報公開法は,不開示情報に該当する独立した一体的な情報を更に細分化し,その一部を非公開とし,その余の部分にはもはや不開示情報に該当する情報は記録されていないものとみなして,これを公開することまでも行政機関の長に義務付けているものではない。

以上のとおりであるから,不開示情報該当性は,この一個の情報について判断すべきものであり,独立した一体的な情報を更に細分化して「決裁書」のある部分を不開示としてその余の部分を部分的に開示する余地はない。

(カ) 五類型に係る文書以外の文書が「公にしないことを前提とする外交活動」以外の経費の支出に関するものであると推認することは,以下の理由からできない。

a 五類型のうち,①の大規模レセプションに係る経費,②酒類購入に係る経費は,「会議用,式日用の茶菓弁当,非常炊出賄等の食料の代価」に該当するから,「庁費」のうちの「会議費」が充てられるべきものである。そして,③本邦関係者が外国訪問した際の車両の借上げ等の事務経費は,「車輌等の借上げ」であるから,「庁費」のうちの「借料及び損料」が充てられるべきものであり,④在外公館長赴任の際等の贈呈品購入経費は,「儀礼的,社交的な意味で部外者に対し支出する一方的,贈与的な性質を有する経費」であるから,「交際費」が充てられるべきものである。また,⑤文化啓発用の日本画等の購入は,「その他の設備品」であるから,「庁費」のうちの「備品費」が充てられるべきものである。

このように,五類型は,「公にしないことを前提にする外交活動」の経費ではなく,「公にすることを前提にした外交活動」というべきであるから,本来報償費として支出すべきものではなかったものである。

これに対し,五類型以外の経費,すなわち前記6分類の経費の支出の対象は,いずれも報償費が支出される外交事務であり,報償費の適正な支出に対応する外交活動は,いずれも公にしないことを前提とした外交活動であるから,五類型に係る文書以外の文書には,そのような活動に関する事項が記録されているということができる。このように,五類型に係る文書と,五類型に係る文書以外の文書とは,一般的類型的な性質を異にするものである。

原告は,被告が五類型に係る文書についての主張を撤回したことに対して,るる論難するが,これには合理的な理由があり,被告の主張の合理性を損なうものではない。

すなわち,五類型の支出に関連する外交活動が行われるようになった当初には,機動性,個別性及び秘匿性が要請され,その経費の支出は,報償費から支出するほかなかったが,その後,継続して繰り返され,又は,諸外国と我が国との関係,社会・経済及び世界情勢の変化等によって,定例化・定型化するなどし,機動性,個別性又は秘匿性の要請が低下してきたものである。そのような機動性,個別性及び秘匿性は,国内外において行われていた五類型の支出に関連する外交活動のすべての類型について,世界中すべての地域において,ある時点の前後で,一斉に一定程度低下したというものではなく,その時々,地域に応じて,徐々に変化したものである。そのため,必ずしも機動性,個別性又は秘匿性の低下に応じて,五類型の支出に関連する外交活動の特質のとらえ方を変更し,これに応じて支出の「目」をも変更することを期待するのは容易ではなかったし,それを,公にすることを前提とするものへ変更して処理することとしたのは,会計検査院の指摘や情報公開審査会の本件各答申の結果を踏まえて慎重に検討した結果であった。

したがって,会計検査院の指摘等の結果を踏まえた検討以前には,五類型に関連する外交活動の特質について,公にすることを前提とする外交活動であったと主張することはあり得なかったのである。

そして,被告は,情報公開審査会の本件各答申後,速やかに本件変更決定を行い,その後の検討の結果,直ちに本件各行政文書のうち五類型に係るものが公にしないことを前提とする外交活動に係る支出に関するものであるという主張を撤回したのである。本件各行政文書のうち五類型に係るものに関する一連の主張には,上記のような事情があり,被告は,これに従って,その時々に応じ,真摯に適切な対応を行ってきたものである。被告の五類型に係る文書に関する主張には合理性があり,その信用性を損なう事情は存在しないし,また,五類型に係る文書以外の文書に関する主張の信用性を損なうものではない。

b 外務省は,会計検査院に,平成12年度の報償費の支出に関する検査において,報償費の執行状況につき,支払に関する決裁書,領収書等の現存している証明資料を実際に提示し,担当者から支払に至った経緯等の説明を実施したところ,会計検査院は,検査の結果,「定型化,定例化するなどしてきており,当面の任務と状況に応じ機動的に使用するとの報償費の趣旨からすると,報償費ではなく庁費等の他の費目で支出するよう改善する必要がある経費」として,五類型を指摘し,報償費ではなく庁費等他の費目で支出するよう改善する必要があると認められるとした。外務省は,これを受けて報償費の支出の見直しを行い,これらの五類型に該当する経費については,平成14年度以降,報償費ではなく,上記の各目から支出することとした。

これに対し,五類型以外の経費の使途に関しては会計検査院の上記検査において報償費以外の費目から支出するべきとの指摘は受けていない。

上記の会計検査院による指摘は,平成12年度の報償費の支出に関するものであり,本件各行政文書そのものではないが,平成11年度と平成12年度とで報償費の支出の性質や態様が異なることはない。したがって,五類型に係る文書以外の本件各行政文書による支出についても,同様に,報償費の費目からの支出として問題がないことを裏付けるものというべきである。

c 本件各行政文書である在フランス及び在イタリア大使館並びに在ホノルル総領事館で平成11年度に支出された報償費に関する支出証拠書,計算証明に関する計算書一切は,情報公開審査会の平成16年2月10日付け答申(乙18の2)の対象文書に含まれているところ,審査会は,これらの開示請求に対する不開示決定について,平成16年2月10日,五類型に係る文書について一部開示すべきである旨答申したが,五類型に係る文書以外については「秘密を保持して機動的に運用することによって行われる情報収集活動等」の情報が記録されていることを認めている。その諮問が,審査会において,五類型に係る文書以外の本件各行政文書の具体的記録内容をインカメラ手続を実施して実際に確認した上で行われたことは,諮問経過及び答申書の記載から明らかである。このように,上記答申において,五類型に係る文書以外の文書については不開示が相当であるとの判断が下されたのであるから,その判断は十分に尊重されなければならない。

イ 五類型に係る文書の不開示事由該当性

(ア) 大規模レセプションに係る経費の文書について

a 記載内容

大規模レセプションに係る経費の文書のうち,目的・内容の欄には,レセプションに要する料理等の調達先や調達の具体的内容,招待者氏名・肩書等が記載されている。

b 他国との信頼関係が損なわれるおそれのあること

大規模レセプションに要する料理等の調達先や調達の具体的内容,招待者氏名・肩書等が公になった場合,他の同種のレセプションとの比較等を通じて,我が国が,当該国・招待者等に対し,どのような評価をもって,どのような基準で招待者を選定し,どの程度のもてなしを行ったかを判断することが可能となる。

しかしながら,本来,どのような評価をもって,どのように招待者を選定するかは,外交儀礼上,公にしないものであるから,仮に招待者の基準が明らかになるようなことがあれば,外交儀礼に反することになる。また,大規模レセプションに関する上記情報が公にされ,我が国の当該相手方に対する評価・見方が,相手方の予想よりも低い評価と受け止められた場合には,相手方が,我が国に対し,不満・不快感を抱き,あるいは信頼や好意を損なうおそれがあり,ひいては相手方の所属する他国との信頼関係を損なうおそれがある。

c 国の安全が害されるおそれのあること

大規模レセプションに係る調達先の専門業者は,保安上の問題から厳重に警備をしている在外公館への出入りが認められる。このため,在外公館は,そのような取扱いを認めても在外公館の安全を確保できる,信頼できる業者から調達を行っている。

ところが,このような業者に関する情報が開示されると,本邦関係者に危害を加えようとする者,あるいは我が国に関する在外公館内の情報を不正に入手しようとする者などが,当該専門業者を悪用し,不法に在外公館へ侵入するなどして,在外公館の安全確保を困難にするなどの事態が生じるおそれがある。

(イ) 本邦関係者が外国訪問した際の車両の借上げ等の事務経費の文書について

a 記載内容

本邦関係者が外国訪問した際の車両の借上げ等の事務経費は,我が国の政財界の要人等,本邦関係者が諸外国を訪問する際に,当該国等にある我が国在外公館が同国の業者から車両を借り上げ,当該本邦関係者の宿泊するホテルなどに事務連絡室などを設ける際に支出されるものである。この事務経費の文書のうち,目的・内容の欄には,車輌の調達先及び車種並びに事務連絡室の所在等が記載されている。

b 国の安全が害されるおそれのあること

こうした車両の借上げ等の調達先の専門業者は,保安上の問題から厳重に警備をしている在外公館や本邦関係者が宿泊するホテルなどに設置する事務連絡室等への出入りが認められたりする。このため,在外公館は,そのような取扱いを認めても在外公館や事務連絡室等の安全を確保できる,信頼できる業者から調達を行っている。

ところが,このような業者に関する情報が開示されると,本邦関係者に危害を加えようとする者,あるいは我が国に関する在外公館内の情報を不正に入手しようとする者などが,当該専門業者を悪用し,不法に在外公館や事務連絡室等へ侵入するなどして,在外公館や本邦関係者の安全確保を困難にするなどの事態が生じるおそれがある。

(ウ) 酒類購入に係る経費の文書について

a 記載内容

酒類購入に係る経費の文書のうち,目的・内容の欄には,ワイン等の酒類の調達先,購入銘柄,単価,購入本数等が記載され,支払予定先の欄と合わせて,ワイン等の調達先の専門業者名,その担当者名及び住所等が明記されている。

b 他国との信頼関係が損なわれるおそれのあること

ワイン等の酒類は,銘柄によってその価値が大きく異なることが広く知られているのであるから,在外公館への来訪者等へ酒類を提供する際には,その銘柄によって相手方が不満・不快感を抱くことがないよう,いかに相手方に対し最高のもてなしをしているかという印象を与えられるよう,細心の配慮の下に提供するワイン等の酒類の銘柄を決めている。

ところが,仮に当該在外公館が保有するワイン等の酒類の銘柄や単価が公にされ,来訪者らがその内容を把握していた場合,提供したワイン等の酒類の銘柄を見て,それが当該在外公館で保有するワイン等の酒類の中でどの程度のランクにあるものかが容易に判別できることになる。そうなると,相手方は,そのワイン等の酒類のランクから,我が国の当該相手方に対する評価・見方を推測し,それが相手方の予想よりも低い評価と受け止めた場合には,我が国に対し,不満・不快感を抱き,あるいは信頼や好意を損なうおそれがあり,ひいては相手方の所属する他国との信頼関係を損なうおそれがある。

c 国の安全が害されるおそれのあること

また,ワイン等の酒類の調達先の専門業者は,保安上の問題から厳重に警備をしている在外公館への出入りが認められる。このため,在外公館は,そのような取扱いを認めても在外公館の安全を確保できる,信頼できる専門業者へ酒類の発注をしている。

(エ) また,「支払予定先」及び「支払予定額」はいずれも決裁書又は添付書類等に記載されているものであり,「支払先」は,支出依頼書その他の添付書類等にその記載があるが,前記(ア)ないし(ウ)と同様の理由により,情報公開法5条3号及び6号に該当すると認められる。

(オ) 上記のほか,役務提供者等が独自に作成した見積書,請求書及び領収書は,その紙片の大きさや書式,タイプ文字の特徴といった様式からだけでも,情報提供者や役務提供者等が推測され得ることから,情報公開法5条3号及び6号に該当するものとして,不開示とした。

(カ) なお,「文書作成者名」,「取扱者名」の記載のうち,特定の個人を識別できる記述のうち公表慣行のない記述については,情報公開法5条1号に該当する。

(原告の主張)

(1) 主張立証責任

被告は,個々の本件各行政文書ごとに,記載内容(概要・趣旨,外形的事実)とそれを踏まえた不開示条項該当事由が記載されていること,行政手続法5条所定の審査基準の内容と外務大臣がそれをどのように審査したかを個別具体的に主張立証しなければならない。

しかし,本件における被告の主張立証は,全体としての本件各行政文書が,「公にしないことを前提とする外交活動」の文書であること,すなわち,報償費が用いられた外交活動の文書であることに注力されてきた。被告は,当初,個別の行政文書に関する主張立証の必要性を全く考えておらず,その後,徐々に類型化による主張立証を行ったものの,個別文書ごとにその記載内容をできる限り具体的かつ詳細に明らかにするというところからは程遠い。

被告は,あたかもその主張立証すべき事項は,外務大臣が裁量権を行使し,行政文書の不開示処分を行ったという事実であるかのごとく主張し,被告が不開示相当とした判断が合理性を持つ判断として許容される限度を逸脱することを基礎づける事実を原告が主張立証すべきであると主張するが,被告が本件各行政文書の記載内容を主張立証することなしに,上記基礎事実の主張立証を原告に要求することは,本件各行政文書の記載内容の具体的な主張立証を原告に要求するものに等しく,主張立証責任の所在を誤るものである。

開示請求の対象とされた複数の文書中に不開示情報を含んでいるものとそうでないものとが混在しているときに,両者を特定して区分する責任は処分庁である被告にある。裁量権の逸脱濫用の議論は,上記混在の問題を被告が解消した後のものである。

(2) 情報の単位論

被告は,行政文書に記載された一個の情報に非開示条項所定の情報が含まれる場合には,当該行政文書の開示は禁止され,部分開示はできないとの「情報の単位」論を主張する。

しかし,条文の解釈は,法文の文言の日本語の語義として可能なものの中から,全法体系との整合性を踏まえて,合理的・目的論的に選択されるものであるが,情報公開法制定当時も,その後の立法との関係でも,新たに情報の単位や一個の情報の一部開示禁止等が採用されたと考えなければならない論拠はない。一個の情報論などが,情報公開法6条1項・2項の文言の理解として,日本語の語義という観点で可能な解釈のひとつであるにしても,立法過程を無視して,立法者が志向した原則公開を確保する為の部分開示規定を,一個の情報の一部非開示(原則非開示)規定と解釈することは,立法者意思を全く無視するものであって,正当ではない。

文書作成者,支払予定日・支払日,決裁者,取扱者,目的・内容,支払予定額・支払額などの各項目は,単体でも「ある事象,ある事柄の一まとまりの知らせ,伝達という現実的な機能」を有し,「社会生活上の特定の意味のまとまりのある内容が伝達され」るものであることは明らかであるから,各項目は,それぞれ単体で一個の情報である。

最高裁判所平成19年4月17日第三小法廷判決は,重層的な情報を不開示事由との関連で切り取って考えることによって,結果的に,文書の中の一部分のみを開示したり,不開示としたりしようとする手法を採用しており,被告が主張する「独立した一体的情報論」から決別したものである。

(3) 報償費の定義とその使途

ア 報償費の定義

被告は,報償費が,公にしないことを前提とした外交活動において,情報収集及び諸外国との外交交渉ないしは外交関係を有利に展開するための活動に使用されていると主張する。

しかし,被告の上記報償費の定義によれば,報償費からの支出を会計的に適法とする要件は,①支出目的が外交事務であること,②機動性があることの2要件であり,保秘性の要件は見出せない。つまり,保秘性が高い事務であるからと言って,必ず報償費で支弁されるものではなく,逆に報償費で支弁された事務であっても,保秘性が高いとは限らない。

また,「公にしないことを前提とした外交活動」における情報収集・外交工作活動の経費が,報償費から支弁されることも,上記2要件からは認められない上,「公にしないことを前提とする外交活動」の経費を賄うための制度や仕組み,予算措置は存在せず,報償費の使途を「公にしないことを前提とする外交活動」に限定する法令・通達上の根拠も存在しない。報償費で賄われたからといって,「公にしないことを前提とした外交活動」における情報収集・外交工作活動とは限らない。「報償費」と「公にしないことを前提とした外交活動」概念は,切り離して考えるべきである。

このような被告の主張は,報償費の保秘性が高い理由は「公にしないことを前提とした外交活動」に使われるからであり,「公にしないことを前提とした外交活動」の保秘性が高い理由は報償費が使われているからと言っているに過ぎないのであって,「公にしないことを前提とした外交活動」と「保秘性」は同義反復である。

また,「公にしないことを前提とした外交活動」とは「公に行う外交活動」以外の外交活動という以上の意味を持たず,そうすると,報償費は「公にしないことを前提とした外交活動」に使われるという説明にも特段の積極的な意味は認められない。

イ 報償費の使途

(ア) 被告は,報償費の使途をA・B・C分類及び1・2・3型分類に類型化するが,不開示文書と開示文書を判別できない類型化は無意味である。直接接触・間接接触の分類も,その定義が明晰さを欠いており,また,直接接触文書と間接接触文書とで記載内容に差異はなく,類型化の道具としては意義を見い出し得ない。

在外公館における外務省報償費は,①情報収集費,②情報物品費,③政治経済関係工作費,④外交活動支援費,⑤国際会議関係工作費,⑥要人外交推進工作費,⑦啓蒙宣伝工作費に分類されるべきであるが,以下のとおり,報償費の相当部分は,非公然情報収集その他の外交工作活動以外に使われている。情報収集に充てられる経費も,直ちに公としない情報収集用と言えるものではなく,行政文書の全部又は部分の開示によって,外交上支障が当然に出るというものではない。

a 情報収集費・情報物品費

被告がいう情報提供者に対する支払等に当たり得る費目である。

しかし,情報収集費,情報物品費が記載された行政文書の全部又は部分の開示によって,わが国の関心の所在や外交交渉の手の内が露呈し,貴重な情報源が失われると言えるのかどうか疑問である。

情報提供者に対する対価の提供について,「在外公館経理と公館長,出納官吏の心得」は,「ともすれば定期的に先方に定額を交付する緊張感のない関係になりかねない」ことを指摘し,信頼性の低い情報源,公開情報に近いような提供者とのマンネリ化した関係の清算を求めている。

また,被告は,情報提供者は,自己又は他の情報提供者に関する情報が漏れることを懸念し,嫌悪し,保秘に関する信頼が失われると,情報提供や接触を拒み,わが国が貴重な情報源を喪失するとも主張する。しかし,外交や政治の分野では,常に信義や誠実が支配しているわけではない。例えば,田中真紀子外務大臣が更迭される過程で,外務省が外務大臣と他国要人との会話内容を漏洩したこと,鈴木宗男衆議院議員失脚の過程では,外部に漏れる事態を予想していなかったであろう同議員の言動・行状が,外務省が秘密指定を解除して公開した行政文書で明らかになったことなどを思い起こせば,情報提供者が,他国の誠意とその外交当局の信義を信じて行動しているのでは,あまりにも危険であることは多言を要しないであろう。情報提供者は,その地位にあること,提供の損得・利害を常に計算し,冷静に行動するのが通常である。情報公開法に基づく行政文書の公開の可能性を懸念し,憂慮するくらいなら,それ以前に注意を払うべき事項は幾らでもあろう。

b 要人外交推進費

主に国会議員らが任国を,観光(視察名目を含む)や視察で訪問した際に,これらを接待して,懇談することに用いる経費である。

設宴回数は,原則1日1回ではあるが,国会議員らから要望があれば,回数に制限はない。

公式派遣議員団として多数の国会議員が任国を訪問した場合には,連絡室借上げ,通訳・案内人雇上げ等の経費にも用いられる。

皇族や首相など,他省庁にわたる場合もあり得る。

政府によれば,こうした国会議員らを接待して,懇談することは,在外公館・館員の適切な公務である。

c 便宜供与

観光(視察名目を含む)や視察の為,例年,極めて多数の国会議員が任国を訪問する。また,各省庁職員や都道府県知事らが任国を訪れることもある。

外務省は,これらに対する便宜供与の基準として,「便宜供与事務処理要領」を作成しており,例えば,皇族・首相・閣僚・衆参両院議長・最高裁判所長官らはAAランクとか,国会議員らはBBランクと,分類し,ランクに応じた便宜供与を行っている。

便宜供与は,視察先・訪問先・観光先の手配,視察や観光への公館長・館員の同行・案内,ホテル予約や空港送迎,通訳,通訳斡旋,設宴,会食など多岐にわたる。

d 公務員らとの会食等

報償費は,出張してきた公務員や他の在外公館員との会食・設宴にも,それが業務上必要なものであれば,支出できる。

任国在留邦人・任国来訪民間人との会食・設宴は,現地経済,治安情勢等に関する情報提供,協力依頼,啓発を行う場合にも報償費から経費の支出ができる。

在外公館幹部夫人が行う会食・設宴も,外交に貢献している面もあるとされ,報償費から支出ができる。

e 天皇誕生日レセプション

例年12月,各国日本大使館などで開催される天皇誕生日祝賀レセプションは,在外公館の重要な定例行事と位置付けられており,在外公館の交際費から支弁されるほか,報償費も充てられている。

f 啓蒙宣伝関係工作費

在外公館が主催したり,後援して,日本文化の紹介などの演劇や公演,展示などが行われる。

外務省では,文化科学の専門職の養成は行われておらず,人事上も特段の配慮はなく,予算的制約もあって,担当職員の努力にもかかわらず,啓蒙宣伝の成果は上がっていないとも言われている。

g 在外公館における情報収集活動

被告の主張は,在外公館に多数の外交官が配属され,任国において非公然情報収集その他の外交工作活動を行っており,外交官の主要任務が,当該工作活動であるようにも聞こえ,その論調からすると,その活動は,あたかも諜報活動又はそれに類したもののようにも読める。

しかし,外務省の行う情報収集活動は,あくまでも情報収集活動で,諜報活動ではない。それは,基本的には,在外公館に配属された防衛駐在官(諸外国の駐在武官に相当)も同様である。主要な情報源は,公開情報で,任国のマスコミ情報は貴重な情報源と考えられている。人的に見ても,在外公館に多人数の外交官が配属されているとは限らず,外交官の養成の仕方や人事を見ても,スパイ映画もどきの情報収集は想定されていない。

(イ) 報償費には,以下の理由から,目的外使用等の疑いがある。

a 会計検査院は,平成12年度の外務省の報償費の執行について調査を行い,12年度に報償費で支出されたものの中には,定型化,定例化するなどしてきており,当面の任務と状況に応じ機動的に使用するとの報償費の趣旨からすると,報償費ではなく庁費等の他の費目で支出するよう改善する必要がある経費が含まれていたこと,役務提供者等に支払ったことを説明する書類として十分でなく,書類上その使途を把握するには至らないものが見受けられたこと,経理処理について適切を欠いている事態が生じていたり,内部での確認,監査が十分でなかったり,他の費目で支出するよう改善する必要がある経費に対して報償費から支出したりする事態は適切とは認められず,是正改善及び改善の必要があると認められることを指摘した。すなわち,会計検査院の指摘は,五類型以外は報償費が適切に使用されたというものではなく,五類型以外にも報償費の執行に問題点があるというものであった。事務の保秘性との関係で報償費の執行の適否を論じているものでもない。

b 外務省の平成14年度の報償費は,平成13年度の約40パーセント削減となった。

c 会計検査院の指摘するプール金問題,P1室長による内閣機密費の詐取,その他の在外公館における不祥事の例などによると,在外公館が予算を適正に執行していたということはできない。

d 被告の主張は,報償費が前記の定義のとおりに適正に使用されているから保秘性が高いというものであるから,定義どおりの適正執行がされていないということになると,報償費だからその使途の保秘性が高いとは言えなくなる。

(ウ) 実際に開示された報償費支出関連文書を見ても,以下のとおり,保秘性の要請が高いものから低いものが存在することが明らかである。これらをひとまとめにして,報償費から支出されている以上保秘性の要請が高いと述べることはできない。特に,報償費は,公にしないことを前提とする情報収集その他の外交工作活動に用いられるが故に,その支出関連文書の保秘性が高いとしても,五類型文書が,公にしないことを前提とする外交工作活動に分類されていたことは不適切である。報償費が,およそ一般的に(例外なく)公にしないことを前提とする外交に用いられていることを根拠として,報償費支出関連文書記載の情報は保秘性が顕著であるとはいえない。

そうである以上,被告は,個別の文書について,情報公開法5条3号,6号に該当するかどうかを具体的に合理的に説明しなければならないと言うべきである。被告の説明は個々の文書についての具体的説明を欠いており,情報公開法5条3号,6号の該当事由を説明するレベルに達していないと言わざるを得ない。

a 大規模レセプション費用

甲82及び甲83は天皇誕生日のレセプションに関する文書である(他に,甲66,甲67など)。これは,情報収集等の事務(A型)で,定例的に必要とされる物品購入・役務の対価(3型)とされている。これらの文書は,途中で秘密指定が解除されているが,解除後の部分開示情報を見ると,なぜ不開示とされたのか,理解に苦しむ記載ばかりである。P2大使夫妻が主催して,平成11年12月16日19時より,新公邸にて平成11年度天皇誕生日祝賀レセプションを開催したこと,在イタリア大使館館員及び夫人全員が同席したことなどが分かるが,開示されても何ら支障ない情報である。

また,大使の着任レセプションについても不開示とされた後,一部開示されたが,これについても同様の疑問がある。

さらに,自衛隊記念日レセプションについても同様の疑問がある。

このように,本来開示されてしかるべき情報までもが「報償費から支出されている」といった理由のみから不開示とされてきたことが明らかである。このような大規模レセプションだけでなく,中規模,小規模なレセプションも多数存在するはずであり,その費用が「報償費」から支出されていることは確実である。なぜなら,原告が分析したとおり,報償費の大部分は,会合等の経費(2型)に支出されているからである。そうだとすると,その会合の趣旨目的を分析して初めて情報公開法5条3号,6号の該当性が明らかになるものである。個々の会合の趣旨目的を個別の文書毎に説明せずして,不開示を正当化することはできないのである。

しかも,報償費が公にしないことを前提とする外交工作に用いられるという被告の主張との関係で見れば,天皇誕生日レセプション,大使着任レセプション,自衛隊記念日レセプションが,何故に,公にしないことを前提とする外交工作活動に当たるのか,これらのレセプションに関する如何なる事項が,公にしないことを前提とする外交工作活動なのか,理解し難い。情報公開審査会答申でも,これらは「定期的に又は慣例として開催されるとも言えるものであり,政官界,財界,文化人等関係国の各界の著名人等が招待され,マスコミの取材も行われる」と指摘されている。定期的・慣例的なレセプションを秘密裏に開催したとか,取材に来たマスコミを含む参集者に対し,レセプションの存否・内容等について,厳重な箝口令を引いたというのであればともかく,レセプション関連の報償費支出文書記載内容が,公にしないことを前提とする外交工作に関するものである理由は想像し難い。

b 酒類購入

甲9及び甲10は「公邸設宴日本酒」購入に関する文書である。甲77及び甲78は「設宴用ワイン購入」に関する文書である。その他,酒類購入に関するこれらの文書は,本件訴訟の途中で秘密指定が解除されているが,解除後の部分開示情報を見ると,なぜ不開示とされたのか,理解に苦しむ記載ばかりである。

例えば,甲78によれば,平成11年10月27日に担当者P3が起案し,同月28日公使,大使が決裁している。件名は「外交工作用ワイン購入」であり,「公邸における外交工作関係の設宴用として別紙見積り書の通りワインを購入致したい。報償費支弁」と記載されている。これらは当初から開示されても何ら支障ない情報である。うがった見方をするならば,「設宴用として酒類を多数購入していることを知られたくない」との考えから全面不開示としたと見ることもできる。

そして,酒類購入の事実から,外交工作用の支出(報償費からの支出)だからといって保秘性の要請が強いとは言えないことがはっきりする。外交工作用であろうとそうでなかろうと,酒類をいつ購入したかは,(誰を接待したかを別にすれば)秘密にする必要がないのである。開示不開示の判断をする為には,「報償費から支出されたかどうか」ではなく,個々の文書が情報公開法5条3号,6号に該当するかどうかを個別具体的に説明しなければならないのである。

さらに,ワインその他の酒類が報償費で購入された場合,公にしないことを前提とする外交活動における情報収集その他の外交工作に該当するのは,購入の事実なのか,それとも,その酒類が用いられる設宴や接待なのか,それとも,酒類購入等は公にしないことを前提とする外交活動とは関係がないのか,理解し難い。

しかも,酒類の売主・銘柄・価格・本数と,顕著な保秘性がどのように結びつくのかも,理解が困難である。

c 車両の借上げ等費用

車両借上げ等費用についても前記のことが妥当する。これらの文書も,本件訴訟の途中で秘密指定が解除されているが,解除後の部分開示情報を見ると,なぜ不開示とされたのか,理解に苦しむ記載ばかりである。例えば,甲8によれば,平成12年3月21日に高村衆議院議員一行自動車借上代が支出されたことが分かるが,これらは当初から開示されても何ら支障ない情報である。

また,これらの車両の借上げ等は,国会議員や閣僚の一行が大使館等を訪問した際のものである。どうしてわざわざ国会議員や閣僚が外国まで出かけて外交官と会う必要があるのか,仮に国会議員や閣僚が外交ルートから情報を収集する必要があるならそれがどうして報償費から支出されるのか,大きな疑問がある。国会議員や閣僚が日本国内で外交官僚と会ったとしても,それには報償費からの支出は許されないであろう。

また,このような車両借上げ等費用まで報償費から出しているとすれば,国会議員や閣僚への接待費も報償費から出ていると推測するのが合理的である。つまり,被告が不開示とした文書の中には,これらの接待費に関する文書も含まれていると考えられる。

このような推測は,「検証『病める外務省 不正と隠蔽の構造』」(甲120)で被告が不開示にした部分が判明する「在外公館経理と公館長,出納官吏の心得」及び甲120に記載された上記心得の具体的な執行基準である「南東・南西アジア会計担当間会議議事録」,「便宜供与事務処理要領」によっても,「要人外交推進工作費」として国会議員等の接待費に使っていることは明らかである。

このように,当該文書に国会議員や閣僚への接待費に関するものが含まれている可能性が高いこと,その支出の必要性に疑問があることからすれば,当該文書の開示不開示の判断をするためには,「報償費から支出されたかどうか」ではなく,当該文書が情報公開法5条3号,6号に該当するかどうかが個別具体的に説明されなければならない。

さらに,「衆議院議員一行自動車借上代」「外務大臣訪伊借上げ車」「内親王殿下ご一行自動車借料」では,何が,公にしないことを前提とする外交工作に該当するのか定かではない。内親王殿下が公にしないことを前提とする外交工作に従事されているということは考え難く,衆議院議員一行も同様である。外務大臣(公人)の場合,イタリアを訪問するとなれば,お忍びであろうはずはなく,少なくとも,車の借上げに関する報償費支出文書記載の範囲では,公にしないことを前提とする情報収集その他の外交工作活動との関連性は想定し難い。

(エ) 被告は,従来,五類型文書も本来的な報償費使用に関する保秘性が顕著な文書であると主張していたが,第12準備書面において,五類型は「公にすることを前提とした外交活動」で,報償費の支出が許されない場合であったと主張を変更した。この主張によって,原告が一貫して主張していたとおり,本件各行政文書作成当時,すなわち当該報償費支出の時点では,報償費が「公にしないことを前提とする外交活動」に限って支出されていたという事実が存在しなかったことに疑問の余地はなくなった。被告が五類型を切り離せば済むという問題ではない。被告が主張を撤回したのはそれ自体適切なことであるが,上記主張の変更に至るまでは,五類型に係る文書以外の文書とは一般的類型的な性質を異にする五類型の場合まで,本来的な報償費使用の場面と判断していた以上,五類型に係る文書以外の文書の場合に限っては裁量権が正しく行使されていたということはできない。

そもそも,「公にしないことを前提とした外交活動」なる用語は,被告第5準備書面に至って初めて登場したものである。この主張は,報償費の定義と総論的な使途の説明を変更することなく,新たに使用場面の限定を加えたもので,報償費は保秘性の高い外交事務に限って使用していると主張したに等しいものである。

また,報償費が3型(定例的物品購入・役務費)に使用されることは被告第10準備書面に至って初めて明らかにされたことである。

このように報償費の使途に関する被告の主張は,重要な部分で変遷しており不合理であって,信用できるものではない。

(4) 本件各行政文書の類型別の特徴

本件各行政文書は,A・B・Cの各分類を通じ,そのほとんど(92パーセント)が会食費等の会合の経費(2型)であり,情報提供・協力対価はごく少ない(1型)。

被告の主張によれば,情報提供者たる外務省関係者などと外交官との信頼関係の日常的形成のために報償費が使われるということである。

しかし,このような日常的な信頼関係形成活動に関する報償費の使途について,例えば相手方の氏名まで開示できるかどうかは議論があるにしても,支払日(支払手続日),取扱者名,支払額,支払先の開示に支障があるとは考えられない。また,目的・内容も,そこに相手方特定情報があれば当該部分はともかくとして,その他の事項も,抽象的,形式的,一般的なもの(信頼関係を形成するための日常活動を具体的に表現して記載するとは考え難い。)についても,開示に支障があるとは想定し難い。

また,このような文書を,情報公開請求を通じて入手し,分析したところで,信頼関係構築のための日常活動の存在は窺えても,その会合にはそれ以上の目的が具備されていないのであるから,それ以上の外交の手の内とか,外交方針などを推知されることはないと考えられる。

(5) 書面名で表現された本件各行政文書について

被告による文書の特定や説明は,以下に述べるように,不十分であり,本件には該当しない部分もある。また,不開示事由があるとは認め難い。

被告がいう「決裁書」とは,原則として,広義の決裁書であり,狭義の決裁書,請求書,領収書,支払証拠台紙,見積書から構成されるものであり,本件各行政文書の言い換えである。「決裁書」という用語は本件各行政文書の記載内容に関する議論を分かりにくくしている。

ア 領収書

(ア) 被告は,領収書についても支払の性質上,そもそも作成されない場合もあると説明するが,本件各行政文書では,むしろ,情報提供・協力にかかる場合(1型)こそ,例外なく「領収書」が存在する。

(イ) 際どい情報の提供者が定型の領収書を用意したり,定型の領収書から情報提供者が判明したりすることがあり得るのかすら疑問ではあるが,大使館が作成した様式を用いた領収書や立替金請求・領収書の場合には,情報提供者の氏名そのものはともかく,その他の事項の大半は開示に支障はないと考えられる。

(ウ) 大使館員が作成する立替金請求・領収書の場合はともかく,情報提供者や飲食店などが作成した領収書に,被告が定義した「目的・内容」が記載されているとは到底考えられない。

復命書や支出伺いではない金員の授受の証拠書類(立替金請求・領収書を含む)に詳細な「目的・内容」が記載がされることが考え難いというだけではない。情報提供者の場合,生命・身体・自由・地位・立場等の保全を考えれば,詳細な記載を避け,せいぜい,記載があっても抽象的なものか(「情報代」,「飲食代」等),隠語的表現に留まると考えるのが自然である。しかも,飲食店などは,上記の如き「目的・内容」は知らない。しかるに,被告は,「通番26(A1 在仏)の領収書には,取扱者名と支払先が記載されている。「支払先」は「報償費の実際の支払先名」=金員の受領者であり,この場合,「フランスに所在する特定の組織・機関に所属する幹部」(情報提供者)である。その領収書に,「目的・内容」として「フランス所在の特定の組織・機関の内部情報に関する情報収集」について,当該幹部が「情報提供の対価」を受け取ったと明記されている。」と説明するが,特段の事情でもない限り,不自然である。

また,2型文書の場合,広義の領収書には大量の領収書が添付されている事案もあるが,多数枚の領収書が存在する理由は理解し難い。

このように,被告の主張を検証すると,文書の記載内容として,会合の目的や場所等に関する記載があるとの被告の説明には疑問が生じ,ひいては会談の実施・場所等の秘匿の必要性などに関する被告の主張にも疑念が生じる。

(エ) 「取扱者」たる担当者名から,関心の所在が推知されるとも主張するが,担当者の守備範囲が極めて限定されている場合でない限り,このような単純な対応関係はなく,在外公館長が取扱者の場合には,かかる懸念は生じない。取扱者の開示に支障が生じる場合は,あるとしても,稀有な場合と考えられる。

イ 支払証拠台紙

部分開示文書(3型の定例的物品購入・役務対価)から窺えるとおり,目的・内容を記載する使用目的欄のスペースは限られており,記載文言も比較的定型化している。情報収集・協力対価(1型)の場合も同様と推認され,「使用目的」欄に具体的・詳細な記載(書くとすれば,相当細かな字となるほかない)はないものと思われる。

ウ 決裁書

A2型・A3型文書のほとんどは甲42の設宴決裁書又はこれに類した形式と窺われるが,3型文書(全て部分開示対象文書である)程度の開示で支障が生じる理由は思い当たらない。

エ 見積書

被告は,支出予定額を決定するために情報提供者や役務提供者から見積を入手することがあり,見積書に情報提供者や役務提供者の名前(支払予定先。個人を特定できる情報を含む。)が記載されていると主張する。

しかし,本件各行政文書中,見積書が含まれるものは,A3型(定例的物品購入・役務提供対価)で,類型「②酒」である。酒類購入代金に関する部分開示対象案件中の,不開示部分であって,情報提供者作成のものではない。

オ 請求書

被告はA1型,B1型(情報提供・協力対価)では,情報提供者等から請求書が提出されると説明するが,本件では当該類型(型)で請求書があるものはない。

なお,1286番は「請求書①,請求書②,支払証拠台紙」ではなく「請求書,領収書,支払証拠台紙」と思われる。

カ 支払依頼書

被告は「支出依頼書」に言及するが,被告が整理する書面名の決裁書(狭義),請求書,領収書,見積書,支払証拠台紙の5種類(タイプ)のいずれに該当するのか,本件各行政文書の中に当該名称の書面が存在するのかどうかは定かではない。

(6) 文書の記載項目で見た本件各行政文書

ア 本件各行政文書の記載項目を,被告の説明を踏まえて検討しても,不開示が許容される範囲はかなり限定される。特に,本件各行政文書の大半は,2型(会食費等の会合経費)文書であり,情報収集・協力対価にかかる文書(1型)はわずかである。

また,被告のいう「情報提供者」,「情報収集」等はかなり緩やかで広範な概念であるから,1型文書であるからといって,その全てに,被告がいうところの情報提供者に関する議論が当てはまるものではなく,したがって,不開示が当然視されるものではないが,不開示の許容範囲は,主として情報収集・協力対価の支払に限られよう。そして,1型文書は,領収書・支払証拠台紙から構成されているので,不開示許容性の検討の主な対象は,実際のところ,領収書に限られる。

以下,記載項目に関する被告の説明を踏まえ,その説明が必ずしも十分あるいは適切ではないことを指摘するとともに,不開示が許されないことを述べる。

イ 文書作成者名

(ア) 被告は「文書作成者」とは,「『決裁書』を構成する各書面の作成者を意味する」と説明する。しかし,この説明は誤っているか,不正確である。「決裁書」(広義)は,決裁書・請求書・領収書・支払証拠台紙などで構成されているが,請求書や領収書は外務省職員以外が作成するのが通常であるのが常識的であろう。「文書作成者」の全て「外務省職員」ではあり得ない。

(イ) 「文書作成者は,情報収集ないしは工作活動の対象分野の担当者である」という説明も誤っているか,不正確である。常識的に費消されていれば,通常は,請求書・領収書は,外部の債権者が作成する。

また,文書の作成者が,情報収集や外交工作活動にかかる事務の遂行者又は企画者本人であるとは限らない。

文書作成者が「担当者」である場合でも,文書の件数あるいは枚数から,「担当部署(在外公館を含む)別の情報収集活動の件数を知り,その多寡,推移,頻度を分析することが可能となる」ということはない。被告の主張によれば,情報収集等の為には普段からの個人的な信頼関係の構築がきわめて重要で,外交官には,常日ごろから将来の情勢を見越して,先見的な人脈形成,個人的信頼関係の構築に努めることが求められ,幅広く,日ごろから接触を継続しなければならない。そうなると,情報収集活動の件数を知り,その多寡,推移,頻度を分析したところで,それが,決定的に重要な情報収集や外交交渉のための接触なのか人脈形成を目的とした一見すると秘匿の度合いが低いと思われがちな接触なのか,区分を設けて判別することはできない。しかも,接触対象は,任国あるいは第三国の首脳や高官,外交官,任国の外務省のカウンターパートを相手方とするのみならず,関係分野の省庁の役人,民間企業,与党・野党の政治家,ジャーナリスト等と様々な形で接触し,さらには,任国を訪問してきた国会議員や皇族,民間人,任国在住邦人など,幅広く存在することをも考慮すると,上記分析から,わが国の外交方針などを推知することは不可能であるか,よほど,想像をたくましくしなければならない。

ウ 決裁者名

具体的な担当分野別の役職名又は署名が明らかになっても,支障が生じるとは考え難いが,決裁者名の記載が「具体的な担当分野別の役職名」あるいは「署名」なのか,「在フランス大使等の公館長の役職名に係る記載」なのかを,被告が明らかにしなければ,各文書毎の開示にかかる支障の存否の主張としては不完全である。

また,決裁者名の記載は,在フランス大使等の公館長の役職名に係る記載である場合もあると窺えるが,この場合は,開示に支障があるとは認め難い。

エ 取扱者名

取扱者は,報償費を使用する担当者,又はその担当職員であるとの被告の主張は不知。

被告は,一般論としては,抽象的な支払手続は説明しているが,各在外公館にある「担当分野」と指揮命令系統を踏まえた,支払手続を主張しなければ,「文書作成者」でない「支払手続の取扱者」の開示による支障を主張したことにはならない。

オ 起案・決裁日及び支払手続日

日常的な人脈形成等を含む諸活動に係る文書を分析し,「起案・決裁日」の他に,報償費使用の件数が判明したところで,外交方針等が推知される危険はきわめて高くなるということは想定できない。

また,被告は,特定の部署における報償費の支出額が時々の国際情勢と,有意な比例関係にあり,情報公開審査会の理解を得たと主張するが,情報公開審査会が,被告主張の有意な比例関係の存在を認めた証拠は存在しない。

仮に,被告のいう明確な起伏が,仮に統計的に有意なものであるとしても,それがある特定の部署に限られている可能性は否定し難い。被告は,開示に支障がある文書が,本件各行政文書の中に含まれている場合があると主張するだけでなく,本件各行政文書のうちの開示を拒む全文書に具体的に支障があることを主張しなければならない。

カ 支払予定先及び支払先

本件各行政文書の大半は,2型(会食費等の会合経費)文書(92パーセント)であって,1型(情報提供・協力対価費)文書(3パーセント)ではない。

被告は,特に情報提供者等から提出された領収書が公開されれば,それが情報提供の動かぬ証拠となるのであって,情報提供等の事実が判明した後,当該情報提供者等がどのような事態に遭遇するかは全く予断を許さないとも主張する。しかし,この主張を含む「支払予定先」に関する被告の主張は,狭義の「情報提供者」には当てはまっても,広義の「情報提供者」一般にも,その余の支払いにも妥当しない。それは,部分開示文書である3型(定例的な物品購入・役務提供対価)文書(5パーセント)の記載などからも明らかである。

一般に,全く予断を許さず,何らかの制裁を課されたり,場合によっては人命にかかわるおそれがある情報提供活動を行なう者が,自筆あるいは書式から作成者が判明する領収書を書くことすら,疑問ではあるが,使途分類1型(情報提供・協力対価費)文書には「領収書」が添付されており,その全てが支払先発行とは限らないにしても,「領収書」の発行がはばかられない程度の情報提供・協力と考える方が自然であろう。

キ 会合場所

会合の行われる場所等が明らかになると支障が生じる場合もあり得ようが,本件各行政文書の全てがへんぴな場所に位置し,そこに所属する人と接触できるレストランが極めて限られるようなケースであろうはずはない。もっとも,機微な情報収集の為の接触場所がレストランなどに限られるわけではないだろうし,へき地で1軒しかないようなレストランで,その動静に任国政府が関心を寄せている日本外交官が何人か面談していれば,それだけで目立っているのではないかとも思われる。

ク 支払予定額・支払額

支払予定額ないし支払額と,情報収集その他の外交工作事務との間に,優位な連関があるかどうかすら,疑問である。

被告の主張は,情報提供者に対する情報提供・協力対価(A1型)を念頭において展開されているが,これは本件各行政文書全体の2パーセント余りに過ぎない。本件各行政文書の大半(92パーセント)は,2型(会合の経費)で,部分開示文書である3型(定例的に必要とされた物品の購入や役務の経費。全体の5パーセント)にも及ばない。本来,議論は,全体の大半を占める会食費等(2型)を前提に行うべきで,稀有なケースを全部に及ぼすかの如き議論は失当である。

情報提供・協力対価という稀なケースに限ってみても,同一額の支出額が複数存在する場合とは,まさに「在外公館経理と公館長,出納官吏の心得」が指摘するマンネリ化の場合等で,支障があるにしても,不開示を妥当ならしめる程度なのかは疑問無しとはしない。同様に,金銭の分布から,情報提供者の質やレベルが推測されるような使われ方はしていない。通貨単位から情報収集その他外交工作活動の対象に関する情報分析が可能となる場合とは,どの国でどのような通貨単位を用いた場合なのか,通貨単位からどのような推測が可能となるのか,理解し難い。仮に分析可能となる場合があるとして,そのような懸念がある場合でありながら,何故,通貨単位を現地通貨とせず,現地通貨と異なる通貨を使用した特別な情報収集,工作活動という形にするのか,想像の域を超える。

なお,本件各行政文書のうちの部分開示文書でも「丸い数字」はあり,丸い数字だから,情報提供者に対する対価支払いとは限らないことが窺える。

ケ 目的・内容

1型文書(情報収集・協力対価費)の文書構成は領収書及び証拠台紙からなり,目的や内容を具体的・詳細に記載する体裁とはなっていない。部分開示文書を見ると,支払証拠台紙の「目的・内容」に該当する「使用目的」は狭く,目的・内容を具体的に,あるいは詳細に記載することは予定されていない。実際の記載内容も,例えば,「高村衆議院議員一行自動車借上代(プロラタ)」(甲8),「情報収集用公邸設宴ワイン代(プロラタ)」(甲19)などというものに過ぎない。

決裁書がある場合でも,「決裁書」(甲78)は「外交工作用ワイン購入」などという程度で,詳しい部類の「設宴決裁書」(甲83)の「設宴目的(具体的に記述)」も,3行分の罫線があって,せいぜい100字程度の欄がある書式に「平成11年度天皇誕生日レセプションを新大使公邸において××××(招待者につき,20字程度墨塗り)××××招待の上,開催したい。」という60字程度の記載に留まる。

支払証拠台紙にしても,狭義の決済書にしても,「情報収集の事務」等の具体的な内容,方法,態様に関する記載があるとの被告の主張からは,想像し難い簡潔な内容である。復命書等であればともかく,当面の任務と状況に応じその都度の判断で最も適当と認められる方法により機動的に使用する経費とされる報償費の支出に際して,詳細な記載があると考えるのは,むしろ,不自然であろう。領収書などにしても,「目的・内容」として,摘要欄に「某国における何某に関するテロ問題に関する情報代」等と記載があるなどとは通常考えられず,せいぜい,「情報提供協力費」などという抽象的な記載でもあれば,具体的な部類であろう。そして,大概の領収書は,2・3型文書に関するものであり,情報提供・協力対価に関する記載はないと考えられる。

さらに,相互の信頼関係形成目的の日常活動になれば,その記載は,抽象的・一般的・形式的となるほかなく,例えば,「某国某省某職の何某氏との信頼関係構築の為の会合の会食・場所代」などという記載すら実際的ではないと考えられる。

(7) 間接接触文書に不開示事由はないこと

ア 間接接触に係る報償費の支出は,国会議員関連が54パーセント,政務関係者関連が26パーセント,要人関連が4パーセントであり,その他,政府系機関関係者,公的機関関係者に関連するものがある。このように,間接接触に係る報償費の支出に関係する者は,いわば身内である。

イ 文書の記載内容は,概ね定型的で,①出席者個人名・肩書,②館員個人名・肩書,③会合日時・店名・住所・電話番号等,④客単価・参加人数・支払予定額等が記載されている。③については,飲食店とは限られないので,会合場所や飲食物・食材等会合用材料の調達先である場合もある。一部には車両借上げ費用等もある。

大概の文書の目的・内容欄には,大使館員と日本側関係者(国会議員等,政府関係者等)が意見交換(関係者との接触準備の為,関係者との会談準備の為,協議準備の為等)を目的に会合を行うことが記載されているとされている。しかし,日本側関係者が接触・会談する相手方の人物を特定する情報の記載はなく,日本側関係者が相手方と接触・会談する目的や協議の内容に関する情報も記載されていない。

ウ 被告は,文書を開示すると,「我が国が,(略 日本側関係者の)訪問を(あるいは訪問対象の会議等を)契機として,だれとどのような準備をし,どのような外交工作活動を行っているかを明らかにする手掛かりを与える」と主張する。

しかし,上記表現は,「だれと」の「だれ」が,訪問した日本側関係者なのか,大使館員なのか,あるいは全く別の第三者なのかも,必ずしも定かではなく,「どのような準備」,「どのような外交工作活動」についても,当該飲食を行ったことを「準備」「外交工作活動」と言っているのか,あるいはその他の準備や工作活動を意味するのか(但し,文書には,日本側関係者が接触・会談する相手方を特定する情報も,相手方と接触・会談する目的や協議内容に関する記載もない)も不明である。

被告が支障と主張するところは,結局,表現も不明瞭で,趣旨も定かではないが,要するに,訪問して来た日本側関係者が,訪問国の日本大使館員と飲食をともにしたことが分かることが不都合だと主張しているに過ぎない。しかし,どうして不都合なのかは,被告の主張からも理解できない。

エ 被告は「日本大使館のだれとどこで準備又は検討を行っていることが明らかにな」ること,「意見交換をだれとどのような形で開催しているかが明らかにな」ること,「(日本側関係者の)訪問に当たり,どのような準備をしているかは,いわば我が国政府の内部の情報」であることなどを,開示の支障として主張する。

しかし,「どこで」,「どのような形で」,「どのような準備」したとは,突き詰めれば,飲食形態と提供した酒食の内容のことであり,結局,上記支障とは,前記ウと同様,訪問者が大使館員と,飲食店や公邸などで飲食したことが分かることが不都合だと主張しているに過ぎない。

オ 被告は「日本大使館のだれとどこで準備又は検討を行っていることが明らかにな」ったり,「意見交換をだれとどのような形で開催しているかが明らかにな」ると,「個々の準備(あるいは会合等)等の傾向を分析することにより,こうした形での我が国の外交活動に関する情報を収集することが可能とな」るとも主張する。

しかし,その趣旨は不明瞭である。「こうした形」とは,意見交換を飲食店・公邸等で飲食しながら行うことだが,日本大使館員が,飲食店・公邸等で行った飲食の内容を分析すると,如何なる「我が国外交活動に関する情報を収集することが可能」となるのか,理解し難い。

カ 被告は,国会議員が訪問国の日本大使館員と接触したことが判明すると,当該国会議員が,接触・会談した関係者に対して行った発言が,日本政府の「さしがね」だったと誤解し,接触・会談の相手方である関係者が不快に感じる懸念があると主張する。

しかし,日本の国会議員が日本の大使館員と飲食を共にすること自体は,何ら不自然でも,不思議なことでもなく,しかも,多くの国会議員が在外公館から便宜供与を受けていることは公知の事実である。日本大使館員と飲食をともにしたことを知って「さしがね」と誤解するような者は,当該訪問や接触・面談それ自体が(大使館員との接触の有無にかかわらず),日本政府の「さしがね」で派遣されてきたと思うであろう。真剣に取り上げる懸念ではない。

キ 政府関係者の場合も,訪問は公務であるから,日本大使館員と接触・会談の準備等の為に,意見交換をするのはごく自然である。訪問国政府にとってはもちろん,接触・会談・会議の相手方や参加者にしても,訪問して来た日本政府関係者が,日本国大使館員と事前・事後に協議,報告等を行うことは,当然に想定の範囲内のことである。

さらに,報償費文書の開示で分かることは,日本大使館員との会合の際の飲食内容に留まる(報償費文書には,日本側関係者が接触・会談する相手方の人物を特定する情報の記載はなく,日本側関係者が相手方と接触・会談する目的や協議の内容に関する情報も記載されていない。)。仮に,「『○○に関する意見交換の為に』飲食を伴った会合を行う」と記載してあっても,せいぜい,飲食の口実が分かるだけである。しかも,飲食の口実が,真実という保証があるわけでもない。

結局,報償費文書の開示で,訪問者と日本大使館員との一部の会合の存在を知り得たとしても,日本外交の手の内を知ったり,対抗・妨害工作を行う為の情報を得ることはできない。何かデータを集めてみれば,有意義な「分析」ができるというほど,「分析」の仕事は単純ではない。

ク 通番96(伊 B2 領収書2枚と支払証拠書台紙)は,国会調査団の自動車借上げ費用である。被告は,「本邦関係者が外国訪問した際の車両借上げ等の五類型にかかる事務経費とは異なる」と主張する。

しかし,通番96も「本邦関係者が外国訪問した際の車両借上げ」の事務経費である。通番96は「特定事項について調査するため」のもので,五類型は違うというなら,五類型の「車両借上げ」(甲8,84ないし88,103ないし113,115ないし118等)はいったい何だったのか。通番96に関する国会調査団の「訪問は,当初から公にすることを前提として行われたもので」,しかも,報償費文書には,国会調査団が会合を持つ「イタリア関係者の人物の特定に関する情報が記載されているわけではない」。通番96に関する「不開示事由の説明」も,五類型の車両借上げ文書の開示の支障について,従前被告が主張していたところと特段の違いがあるようには理解できない。

ケ 間接接触文書の過半数は国会議員(国会議員・国会関係者・国会調査団)関連が占めるが,情報公開審査会の答申を踏まえれば,開示に何らの支障はない。

すなわち,被告は,公費が支出されている臨時代理大使等主催の夕食懇談会への国会議員の出席について,「国会議員の公務に当たる部分は,便宜供与に係る当該議員の渡航目的に該当する会談等の行事に限られ(略)したがって,本件国会議員と大使館員との(上記)懇談等については,当該渡航目的に該当するものではなく(略),同議員の側からみたとき職務遂行に当たるものとは言い難い」と考えてはいるが,在外公館では「滞在期間の限られている国会議員に対して,大使館側の都合によって同議員に時間を割いてもらい,ブリーフィングあるいは意見交換等を行って」いると主張する。

これに対し,審査会は「臨時代理大使等主催の夕食懇談会においては,渡航目的に関する行動を含む様々な日程等に関する当該国会議員へのブリーフィング等が行われているものと認められる。」と認定し,これを踏まえ「上記の臨時代理大使等主催の夕食懇談会について,当該議員の渡航目的との関連性は否定できず,同議員の公務の一部とも言えるものであり,また,公費が支出されていることからみても,同議員の私的なものと解することはできず,当該懇談会に係る情報は,法5条1号ただし書イの法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されているものと認められる。また,国会議員の外国訪問に当たって上記のブリーフィング等は必要性が高い状況であることにかんがみれば,上記の臨時代理大使等主催の夕食懇談会の日程,場所について,これを公にしても,国会議員の訪問国での活動に一定の制約が生じ,ひいては,訪問国との関係増進を図るという外務省の外交目的の達成に資するべく同議員の外国訪問の機会を充分に活用する手段が奪われることになるとは認められず,よって,在外公館の事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとは認められない。したがって,上記の臨時代理大使又は公使主催の夕食懇談会の日程,場所については,法5条6号には該当せず,同条1号ただし書イに該当するものとして,開示すべきである。また,臨時代理大使主催の夕食懇談会の出席者については,出席者としての本件国会議員及びその氏名に公表慣行のある大使館職員の氏名については,これを公にしても,在外公館の事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとは認められず,法5条1号ただし書イの法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されているものと認められることから,法5条6号には該当せず,同条1号ただし書イに該当するものとして,開示すべきである。」との判断を示した。

(8) 直接接触文書に不開示事由はないこと

ア 被告が,報償費の使途について,A・B・C型,1・2・3型の分類が可能であることを認識したのは,本件訴訟になってからであり,本件報償費支出のときには,かかる分類概念は存在していなかった。直接接触・間接接触という分類は,最近になって使われだした道具であり,本件報償費支出のときには,かかる分類概念は存在していなかった。したがって,本件各報償費支出の際,支出に関与した者が,A・B・C型,1・2・3型,直接・間接の区別を意識して,本件各行政文書を作成したことはない。実際にも,報償費支出に関する文書には,支払証拠書台紙以外,特に定まった書式はなく,請求書・領収書についても,所定の様式で請求させたり,作成させたりすることはない。

被告から抽象的・定型的に示された記載項目を見ても,直接接触関連文書であろうと,間接接触関連文書であろうと,五類型文書であろうと,記載項目に違いがあるわけではない。

被告は,直接接触関連文書は,保秘性の顕著さを理由に,文書のサンプルすら提示しないが,間接接触文書と同様の体裁で作成されていることは明らかである。被告の示すサンプルは,抽象的であって,それを見たからと言って,原本の記載内容や筆跡,文体,書式(年月日,金額,住所等の表示の仕方)が推測できるものではなく,文書の大きさすら,同一性は保持されていない。サンプルを示すことが許されない理由を保秘性に求めることはできない。

イ(ア) 文書の記載内容は,概ね定型的で,①出席者個人名・肩書,②館員個人名・肩書,③会合日時・店名・住所・電話番号等,④客単価・参加人数・支払予定額等が記載されている。

被告は,決裁書(狭義),支払証書台紙,大半の領収書・請求書には,「目的・内容欄」があり,文書の相違や作成者の違いに配慮することなく,大概の文書の目的・内容欄には,「当該国との特定分野における関係促進に関し,同分野に係る情報を有する関係者のその時点における見方を聴取する」為の会合,「国際機関とその内部事情を明示し,当該事項について外交交渉・働きかけ・情報収集を行う」為の会合,一定事項について「関係者の評価・分析に関する情報等を聴取するため」の会合などの記載が明記されていると主張する。また,相手方特定事項についても,被告は,文書の相違や作成者の違いを区別せず,関係者の個人名及び肩書が明記されていると主張する。

(イ) しかし,例えば,飲食店が作成した請求書や領収書に「関係者の個人名や肩書」(被告が,その者の氏名が,秘密事項であり,機微な事項で公表できないと考えられる者の名前・地位)が,明記されることはない。通常,飲食店ですら,関係者の個人名や肩書を知らないであろうし,請求したり,領収を証するのに,「関係者の個人名や肩書」を記載する必要や理由はない。

また,後記のとおり,支払証拠書台紙の狭い「使用目的」欄には,具体的な「目的・内容」とともに,「関係者の個人名や肩書」を記載する余裕はない。

(ウ) 本件各行政文書は,復命書・報告書の類のものではなく,報償費の支出に関連する文書である。決裁書(狭義)・支払証拠書台紙その他日本政府職員が作成する報償費支出関連文書に,わざわざ,極めて高度な秘密事項であって,機微な事柄を「明記」する必要も,理由もない。

同様に,極めて高度な機密事項や機微な事柄に関する情報収集に関する情報料や懇談費用である場合に,請求書や領収書の「目的・内容」欄(「摘要」欄など)に,その具体的な内容を記載する不用意な者が存在するとは到底考え難く,むしろ,これらの「目的・内容」欄の記載も,抽象的なものに留まっていると考えるのが,ごく自然である。これらの作成者が,大使館員その他外務省職員である場合も同様である。

「目的・内容」欄は,文書や作成者が異なれば,記載内容・程度も自ずと異なるのが普通である。全ての文書に同一・類似の内容が,同程度に記載されているかの如き被告の主張は到底信用し難い。被告は,文書毎に,記載内容の概要を説明すべきであり,「目的・内容」欄についても同様である。

通番27,36は,領収書と支払証拠書台紙で構成される。被告は「我が国要人のホノルル訪問に係る内容が示された上で,その現状について外交工作・情報収集を行う為に,(ホノルルに所在する米国政府)関係者と会合を行うこと」が「明記されている」(通番27 B2 領収書7枚,支払証拠書台紙1枚),「我が国とフランスの特定分野における協力についての見方を聴取するために,(フランスに所在する)関係者と会合を行うこと」が「明記されている」(通番36 A2 領収書1枚,支払証拠書台紙1枚)と主張する。通番27で,何故,領収書が7枚にもなるのかも疑問ではあるが,それはともかくとしても,支払証拠書台紙の使用目的(目的・内容)欄は狭く,せいぜい15字×3行=45文字(印字の都合で15字で折り返しているようだ)である。ちなみに,上記の「我が国要人の…を行うこと」は74文字,「我が国とフランス…と会合を行うこと」は57文字である。とても書き切れないし,そもそも,無理して書くまでもない。到底「明記されている」という主張は信用できない。

(エ) 被告が説明した無作為抽出の50件の直接接触に係る文書には,人脈形成・信頼関係構築目的会合は見当たらないが,被告が明らかにする普段の人脈形成・信頼関係構築活動の必要性・重要性に鑑みると,直接接触文書の相当数は,かかる活動に関する文書であり,説明がなされた直接接触に係る文書の相当部分も,それが無作為抽出である以上,人脈形成・信頼関係構築文書であって,目的・内容欄には,率直に胸襟を開いて話をするための会食を行う際の名目が記載されていると理解するのが相当である。そうすると,目的・内容欄に機微な事柄が記載されていることを理由に当該文書の全部を不開示としなければならない理由はない。

ウ 間接接触文書では,日本側関係者が相手方と接触・会談する目的や協議の内容に関する情報も記載されていない。しかるに,被告は,上記のように,目的や内容が明記されているかの如く主張する。

しかし,既に述べたとおり,保秘性の有無・程度・性格,報償費支出の可否は,直接接触・間接接触の概念に従って,あるいはこの概念を考慮しながら,判断され,決定されてきたものではない。また,目的・内容が明記されているかどうかで,直間分類がされているものでもない。そうであれば,間接接触に分類できるとされた支出の場合に目的・内容が明記されていないなら,直接接触に分類できるとされた支出の場合には目的・内容が明記されているとは到底考えられない。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所は,本件各行政文書のうち,間接接触に係る文書については,「請求書」及び支払先又は支払予定先関係者が独自に作成した「領収書」並びに同書面以外の書面の「支払予定先」及び「支払先」の記録部分を除く部分には情報公開法5条3号及び6号該当性が認められず,その余の文書ないし記録部分については,情報公開法5条3号及び6号該当性が認められるものと判断する。その理由は以下のとおりである。

2  情報公開法は,3条において,「何人も…行政機関の長…に対し,当該行政機関の保有する行政文書の開示を請求することができる。」と定め,また,5条本文において,「行政機関の長は,開示請求があったときは,開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報…のいずれかが記録されている場合を除き,開示請求者に対し,当該行政文書を開示しなければならない。」と定めていること,不開示事由の有無が問題となる対象文書については,請求者及び裁判所がその具体的内容を知り得る地位にはないことからすると,行政文書不開示決定の取消しを求める原告において,被告が開示請求の対象となった行政文書を保有しているとの事実の主張立証を負い,被告において,同法5条各号が定める不開示事由該当性を基礎づける一般的・外形的事実の主張立証責任を負うものと解すべきである。

もっとも,同法5条3号は,「公にすることにより,国の安全が害されるおそれ,他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」を不開示事由として規定している。このように,同号が,「支障を及ぼすおそれがある情報」という規定の仕方ではなく,「行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」という規定の仕方をしているのは,同号が定める情報の開示・不開示の判断には,その性質上,専門的・技術的な情報と経験に基づく判断を必要とし,高度な政策的判断を伴うものであるから,このような観点から,行政機関の長に,広範な裁量権を付与したためであると解される。したがって,裁判所としては,行政文書不開示決定取消訴訟における同号該当性の有無の判断に際しては,同号に該当する情報が記録されているかどうかについての行政機関の長の第一次的判断が合理性を持つものとして許容される限度のものであるかどうか,すなわち,当該行政庁の判断に社会通念上著しく妥当性を欠くなどの裁量権の逸脱ないし濫用があると認められるかどうかを判断するという審査方法によるべきである。具体的には,被告が,開示請求対象となっている行政文書に記録されている「情報」を公にすることにより,国の安全が害されるおそれ,他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると相当な理由をもって認めたことを主張立証した場合には,原告において,被告の上記判断に裁量権の逸脱又は濫用があったことを基礎づける事実を主張立証する責任を負うと解するのが相当である。

3  前記前提事実に証拠(甲4,8ないし118,乙1の1・2,2ないし4,18の2ないし4,21,41,50,54)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。

(1)  外務省の所掌事務

外務省の所掌事務は,外務省設置法4条において定められており,具体的には,日本国の安全保障,対外経済関係,経済協力,文化その他の分野における国際交流,その他の事項に関する外交政策に関すること(1号),日本国政府を代表して行う外国政府との交渉及び協力その他外国に関する政務の処理に関すること(2号),日本国政府を代表して行う国際連合その他の国際機関及び国際会議その他国際協調の枠組みへの参加並びに国際機関等との協力に関すること(3号),国際情勢に関する情報の収集及び分析並びに外国及び国際機関等に関する調査に関すること(7号)などがある。これらの所掌事務を総称して外交事務という。

在外公館は,外国において,外務省の上記所掌事務を行う。

(2)  報償費

ア 意義

報償費とは,国が,国の事務又は事業を円滑かつ効果的に遂行するため,当面の任務と状況に応じその都度の判断で最も適当と認められる方法により機動的に使用する経費であるとされ,外務省においては,情報収集及び諸外国との外交交渉ないし外交関係を有利に展開するために使用する経費に充てるものとされている。

イ 使途

(ア) 報償費の具体的な使途は,以下のとおりに分類される。

A 情報収集等の事務

A1 情報提供に対する対価として使用されたもの(A1)

A2 情報収集のための会合の経費(会食,場所代,会議への参加)として使用されたもの

B 外交交渉(二国間交渉)等の事務

B1 二国間の外交交渉等を進めるに当たり,協力の対価として使用されたもの

B2 二国間の外交交渉等を進めるに当たり,相手方との会合の経費(会食,場所代,会議への参加)として使用されたもの

C 国際会議等への参加の事務(多国間交渉)

C1 国際会議等において多国間交渉を進めるに当たり,協力の対価として使用されたもの

C2 国際会議等において多国間交渉を進めるに当たり,相手方との会合の経費(会食,場所代,会議への参加)として使用されたもの

また,上記A2,B2及びC2の類型(以下,これらの類型を総称して「2類型」といい,A1,B1及びC1の類型を総称して「1類型」という。),すなわち,会合に係る経費については,さらに,情報収集等又は二国間・多国間の交渉の相手方と直接接触した会合の経費(直接接触に係る文書)と,情報収集等又は二国間・多国間の交渉そのものではなく,その交渉の準備として,あるいはその交渉結果を踏まえた対応の検討のための会合の経費(間接接触に係る文書)とに分けられる。

(イ) なお,被告は,報償費の使途分類について,平成15年9月2日付け第5準備書面以降,上記の6分類に加えて,A3,B3及びC3の類型(以下,これらの類型を総称して「3類型」という。)として「定例的に必要とされた物品の購入や役務の経費として使用されたもの」との類型を設け,五類型に係る経費,すなわち,①大規模レセプション経費,②酒類購入に係る経費,③本邦関係者が外国訪問した際の車両借上げ等の事務経費,④在外公館長赴任の際等の贈呈品購入経費,⑤文化啓発用の日本画等購入経費をも報償費から支出されるべき経費であると説明していた。しかるに,平成18年7月12日付け第12準備書面において,上記3類型に係る経費は,本来報償費以外の「目」から支出されるべきものであるとして,上記3類型が報償費から支出されるべきであるとの主張を撤回した。

また,被告は,当初,外務省の報償費の意義について,前記アと同様の説明を行っていたが,平成15年9月2日付け第5準備書面において,初めて,報償費が「公にしないことを前提とする外交活動」に用いられるものであると説明を追加するに至った。

ウ 在外公館における報償費の使用に関する手続

(ア) 在外公館における報償費は,外務大臣による委任を受けた大臣官房会計課長(以下「会計課長」という。)が,支出負担行為担当官兼支出官として,支出負担行為及び支出に関する事務を行い,現金等を取扱責任者である在外公館長に交付する。この交付をもって,会計法令上の支出事務は終了する。

なお,報償費に関しては,支出負担行為をするに当たって特に精算の基礎等を表す書類を整えなくてもよいことから,上記交付決定のときをもって支出負担行為として整理する時期とされ,交付を決定しようとするときをもって支出負担行為の確認又は認証を受ける時期とされている。

また,内閣は,歳入歳出決算等を会計検査院に送付し,同院による検査を経るところ,報償費については,その具体的な使途の公表により行政の円滑な遂行に重大な支障を生ずることとなるとの政府の判断により,上記検査を受けるものの計算証明に関して定めた計算証明規則11条に基づき,いわゆる簡易証明によることが認められている。さらに,運用としても,報償費に関する書類は「極秘」ないし「秘」指定として取り扱われ,取扱いが可能な職員を制限する等の措置が採られている。

以上のような報償費の使用に関する取扱いからすると,報償費は,一般的に,公にすることが相当でない,すなわち秘匿性の高い案件に対して充てられる経費であるということができる。

(イ) 在外公館に送金された報償費を実際に使用するに当たっては,報償費を必要とする事案ごとに,事前に,当該報償費の使用を要する事務を担当する担当者,担当部署が決裁文書(広義の決裁書)を作成し,会計担当者を経由して,在外公館長の決裁を経ることになっており,その決裁に従って役務提供者等に対する報償費の支払が行われる。決裁書については,特に書式が定められているものではなく,適宜の形式によればよいとされている。

そして,担当者は,上記決裁書による決裁の内容に従って当該事務を遂行し,支出の必要が現実化した時点で役務提供者等に報償費の支払を行う。役務提供者からは,可能な限り領収書を徴収し,決定書による決裁に基づいて報償費の支払が行われたことを簡潔に示すため,当該領収書を報償費の使用日,報償費の使用目的,取扱者,報償費の使用内容等を記載した書面に貼付する。

(3)  本件各行政文書に記載された情報

ア 本件各行政文書は,報償費の使用に係る意思決定過程において作成された決裁書(広義の決裁書)であり(前記(2)イのとおり,3類型は,報償費の使途に適ったものであるとは認め難いが,本件各行政文書の作成当時においては報償費の使途に適ったものとの判断の下に作成されたものと認められる。),各文書を構成する書面の種類は,案件によって異なっているものの,概ね,以下の種類の書面から構成されている。

(ア) 決裁書(狭義の決裁書)

決裁書は,前記(2)ウ(イ)のとおり,各事案ごとに,各在外公館の当該事案を担当する各部署において起案され,当該在外公館長により決裁されるものである。決裁書の書式については,特に定まったものはなく,また,書面によって記載内容に異同があるものの,文書作成者名,決裁者名,日付(起案・決裁日),情報提供者等(我が国が,公式の外交ルートとは別の非公式の外交ルートとして,他国政府等に近い筋の情報提供者並びに二国間及び多国間の外交交渉等の相手方の関係者の協力を得るため,会合を持って,情報収集や働きかけを行うことがあり,その際の上記情報提供者及び関係者を総称して,以下「情報提供者等」という。)や役務提供者の名前(支払予定先。個人を特定できる情報を含む。),経費の総額(支払予定額),報償費使用の目的・内容,取扱者名などが記載されている。

(イ) 見積書

決裁書の起案に際して,支出予定額を決定するために情報提供者等や役務提供者から見積書を入手することがある。見積書には,書面によって異同があるものの,日付(起案・決裁日),情報提供者等や役務提供者の名前(支払予定先。個人を特定できる情報を含む。),取扱者名,経費の総額(支払予定額),報償費使用の目的・内容,単価や数量などの経費内訳などが記載されている。

(ウ) 請求書

請求書は,A1やB1の場合には,情報提供者等から提出され,A2やB2の場合には,例えばレストランなどの会合場所から提出されるもので,書面によって異同があるものの,日付(支払手続日),あて先(当該案件の取扱者名),情報提供者等の氏名や会合場所の名称(支払先),金額(支払額),報償費使用の目的・内容などが記載されている。

請求書は,情報提供者等や役務提供者によっては作成する場合もあるし,支出の性質上,そもそも作成されない場合もあるが,提出された場合,様式等から情報提供者等や役務提供者が推測され得る性質を持つ。

(エ) 領収書

領収書は,A1やB1の場合には,情報提供者等から提出され,A2やB2の場合には,例えばレストランなどの会合場所から提出されるもので,書面によって異同があるものの,日付(支払手続日),あて先(当該案件の取扱者名),情報提供者等の氏名や会合場所の名称(支払先),報償費使用の目的・内容などが記載されている。

なお,案件の実施に際して,担当部局の職員が立替払を行った場合には,主に案件の終了後,立替金請求・領収書なる書面をもって精算手続を行うこととしているが,同書面は,取扱者からの資金の受領を示す書面であるとの性格に着目して,便宜上領収書として整理している。この書面には,日付(支払手続日),取扱者名,金額(支払額)などが記載されている。

領収書についても,情報提供者等や役務提供者によっては作成する場合もあるし,支出の性質上,そもそも作成されない場合もあること,提出された場合,様式等から情報提供者等や役務提供者が推測され得る性質を持つことは,請求書と同様である。

(オ) 支払証拠台紙

支払証拠台紙は,通常,在外公館において,報償費による支払が案件ごとに実際に行われたことを示すため,請求書や領収書等を貼付する書面である。

支払証拠台紙には,書面によって異同があるものの,添付された請求書や領収書とは別に,報償費の使用日(支払手続日),報償費使用の目的・内容,取扱者名,支払手続日,支払額などの決裁書の本文に相当する事項が記載されている。

(カ) なお,上記各文書に記録されている情報の一部は,他の部分と容易に区分し難い状態で記載されている。

イ 本件各行政文書を構成する文書の種類及びこれに記載された情報の外形的事実等は,別表1記載のとおりであると認められ,これを覆すに足りる証拠はない。

これによれば,本件各行政文書は全部で1401通あり,部署別の数は,在フランス大使館1006通,在イタリア大使館191通,在ホノルル総領事館204通であり,使用目的ごとの内訳は,五類型に係る文書以外の文書は1333通,A1類型に係る文書は32通,A2類型に係る文書は389通,B1類型に係る文書は15通,B2類型に係る文書は498通,C2類型に係る文書は399通,五類型に係る文書が68通と認められる。

また,2類型に係る文書のうち,直接接触に係る文書,すなわち情報収集等又は二国間・多国間の交渉の相手方と直接接触した会合の経費に係る文書は1111通,間接接触に係る文書,すなわち情報収集等又は二国間・多国間の交渉そのものではなく,その交渉の準備として,あるいはその交渉結果を踏まえた対応の検討のための会合の経費に係る文書は175通と認められる。

4  本件各行政文書の不開示事由該当性

(1)  本件各行政文書は,前記類型に分類されるところ,各類型ごとに不開示事由該当性の有無を基礎づける事実は異なるものと考えられることから,以下,各類型ごとに不開示事由該当性の有無を検討する。

(2)  五類型に係る文書以外の文書の不開示事由該当性

ア 1類型に係る文書(別表3「類型通番対照表」参照)の不開示事由該当性

(ア) 前記3の事実によれば,本件各行政文書のうち,1類型に係る文書は,情報収集に対する対価として使用された報償費(A1)及び二国間の外交交渉等を進めるに当たり,協力の対価として使用された報償費(B1)に係る広義の決裁書である(なお,本件各行政文書中,C1の類型に係る文書は存在しない。)。

上記決裁書には,在外公館における,情報提供者又は協力者に対する,情報収集の対価又は二国間の外交交渉等を進めるに当たっての協力の対価の支払に関する情報が記載されており,この情報は,概ね,「目的・内容」の記載すなわち当該報償費の使用の目的や情報収集等の事務の必要性及び当該の事務の具体的内容・方法・態様に関する記載,「支払手続日」の記載,「取扱者名」の記載すなわち報償費を使用する担当者又はその担当部署職員の記載,「支払先」の記載すなわち報償費の支払の相手方である情報提供者等や役務提供者の氏名,住所,口座番号等の記載,「支払額」の記載すなわち報償費の支出金額の記載から成るものと認められる。

(イ) 外交を的確に実施する上では,相手国の利害関心,意図,状況,境遇,弱点等について,幅広く情報を収集した上で分析することが必要であり,このような目的を実現するために,情報提供者等に対して対価を支払うことが行われているものと考えられる。また,外交目的を達成する上では,公式の外交交渉以外に,相手国関係者等との非公式の接触,意見交換,働きかけ等の活動を行うことが重要であり,そのために,外交工作等の協力者に対して,協力に対する対価を支払うことが行われているものと考えられる。

このような情報提供や外交工作等への協力は,外交の相手方から見れば,国家機密の漏洩や外交目的の達成を実現できなくなることなどの事態を招き,国益を害するおそれがあるものということができ,一般に,このような情報提供等の活動が国家による監視や法的規制の対象とされていることは公知の事実である。したがって,情報提供者又は協力者は,自らが情報提供又は外交工作等への協力を行った事実そのものが公にされないことを前提として,このような情報提供又は協力を行うものと考えられる。

したがって,仮に,上記文書に記載された情報が一部でも公開された場合には,情報提供者や協力者の我が国政府に対する信頼は失われ,以後,同様の情報提供や外交工作等への協力に積極的に応じなくなるおそれが生じることが容易に想像し得る。

また,他の情報提供者や協力者との関係でも,過去に情報提供等の事実が公にされたことが知れ渡ることにより,自らが情報提供等を行ったことが公にされることを危惧し,情報提供等を行うことをちゅうちょすることが考えられる。

さらに,情報提供等の事実が公にされれば,外交の相手国において,我が国の外交活動に対する不信感を抱き,我が国に対して情報提供等を行った人物や当該相手国関係者と我が国在外公館職員との接触や情報提供を制限するなどの措置を講じたりすることによって,我が国の将来における外交的な働きかけが困難となるなど外交活動の適正かつ効果的な遂行に支障を及ぼすおそれが生じるものと考えられる。

このように,1類型に係る文書に記載された情報は,その全体が,これを公にすると,我が国の外交事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあり,ひいては,他国との信頼関係が損なわれるおそれ及び他国との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報が記載されているというべきであるから,情報公開法5条3号及び6号に該当する情報であると認められる。

イ 2類型に係る文書(別表3「類型通番対照表」参照)の不開示事由該当性

(ア) 前記3の事実によれば,本件各行政文書のうち,2類型に係る文書は,情報収集のための会合の経費(会食,場所代,会議への参加)として使用された報償費(A2),二国間の外交交渉等を進めるに当たり,相手方との会合の経費(会食,場所代,会議への参加)として使用された報償費(B2)及び国際会議等において多国間交渉を進めるに当たり,相手方との会合の経費(会食,場所代,会議への参加)として使用された報償費(C2)に係る広義の決裁書である。

上記決裁書には,在外公館における,情報収集又は二国間・多国間との外交交渉等を進めるに当たっての,情報提供者又は協力者との間における会合の経費の支出に関する情報が記載されており,この情報は,概ね,「文書作成者名」の記載すなわち情報収集ないしは工作活動の担当者である当該文書作成者,「決裁者名」の記載すなわち在外公館長や担当分野別の班長の役職名及び署名,「起案・決裁日」の記載,「目的・内容」の記載すなわち当該報償費の使用の目的や情報収集等の事務の必要性及び当該の事務の具体的内容・方法・態様に関する記載,「支払手続日」の記載,「取扱者名」の記載すなわち報償費を使用する担当者又はその担当部署職員の記載,「支払先」又は「支払予定先」の記載すなわち報償費の支払又は支払の予定の相手方である情報提供者等や役務提供者の氏名,住所,口座番号等の記載,「支払額」又は「支払予定額」の記載すなわち報償費の支出又は支出予定金額の記載から成るものと認められる。

(イ) 直接接触に係る文書(別表4参照)の不開示事由該当性

直接接触に係る文書は,2の類型に係る決裁書のうち,情報収集等又は二国間・多国間の交渉の相手方と直接接触した会合の経費に係る決裁書である。

外交目的を的確に実現するためには,必要な情報収集や外交工作等を行うことが重要であるところ,このような情報収集等を目的として,情報提供者又は外交工作の協力者との間における会合が行われているものと考えられる。

この場合に,情報提供者又は外交工作等の協力者は,自らが情報提供又は外交工作等への協力を行っていることのみならず,情報提供又は外交工作等への協力の相手方と接触(会合)したこと自体が公にされないことを前提として,このような情報提供又は協力を行うものと考えられる。

したがって,仮に,上記文書に記載された情報が一部でも公開された場合には,情報提供者や協力者の我が国政府に対する信頼は失われ,以後,情報提供や外交工作等への協力に積極的に応じなくなるおそれが生じることが容易に想像し得る。

また,他の情報提供者や協力者との関係でも,過去に情報提供等の相手方との接触を行った事実が公にされたことが知れ渡ることにより,自らが情報提供等のための会合を行った場合にもそのことが公にされることを危惧し,情報提供や外交工作の協力の相手方との接触を行うことをちゅうちょすることが考えられる。

さらに,情報提供又は外交工作等の協力の相手方との接触の事実が公にされれば,外交の相手国において,我が国の外交活動に対する不信感を抱き,我が国在外公館職員と接触した人物又は当該相手国関係者との間の接触を制限するなどの措置を講じたりすることによって,我が国の将来における外交的な働きかけが困難となるなど外交活動の適正かつ効果的な遂行に支障を及ぼすおそれが生じるものと考えられる。

このように,2類型に係る文書のうち,直接接触に係る文書に記載された情報は,その全体が,これを公にすると,我が国の外交事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあり,他国との信頼関係が損なわれるおそれ及び他国との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報が記載されているというべきであるから,情報公開法5条3号及び6号に該当する情報であると認められる。

(ウ) 間接接触に係る文書(別表4参照)の不開示事由該当性

間接接触に係る文書は,2の類型に係る決裁書のうち,情報収集等又は二国間・多国間の交渉そのものではなく,その交渉の準備として,あるいはその交渉結果を踏まえた対応の検討のための会合の経費に係る決裁書である。

間接接触に係る文書は,さらに,国会議員,政府関係者等の我が国関係者ないしこれに準じる者が,外交交渉の事前又は事後に,我が国の大使館員ないし総領事館員と行う会合に係る経費(以下「会合経費」という。)の支出に係る文書と上記会合等の準備のための事務経費(自動車借料ほか移動に係る経費,物品等の購入に係る経費,場所代,荷物運搬に係る経費及び装飾経費から成る。以下「事務経費」という。)とに大別できる(弁論の全趣旨(例えば,会合経費に係る文書については,通番8に係るサンプル文書及び同文書の説明,事務経費に係る文書については,通番96に係るサンプル文書及び同文書の説明参照))。

a 会合経費に係る文書(別表4参照)の不開示事由該当性

被告は,会合は公にしないことを前提にしているため,会合に係る文書が公にされると,我が国が誰とどのような情報収集又は外交工作の準備等を行っているかを明らかにする手掛かりを与えることとなって,じ後,同様の外交工作等の活動を円滑に遂行することが困難となり,また,会合に参加した者が国会議員である場合には,同議員が相手国関係者に対して行った発言が我が国政府の差し金で行ったものと誤解され,その結果,我が国の利益を害し,あるいは相手国との信頼関係を損なうおそれがあると主張する。

しかしながら,在外公館の職員として実際に報償費の支出を伴う活動に関わった経験があり,現在は外務省大臣官房会計課長として,報償費の運用を含む予算・会計事務の責任を負う立場にあるP4は,報償費の支出対象となる間接接触としての国会議員及び政府職員と在外公館職員との会合は,公費支出についての一層の厳格化,適正化の観点から,現在では行っていない旨証言する(乙50,54)。この証言は,上記のような形態の会合自体を現在では行っていないという趣旨であるのか,あるいは,同様の会合は現在でも行われているものの,報償費が支出されていない(経費が全く支出されていないか,あるいは,他の費目の経費が支出されている)という趣旨であるのかは必ずしも明らかではないが,少なくとも,公にしないことを前提とする,すなわち秘匿性の高い外交活動のために支出される報償費が,上記会合の経費として充てられていないことは明らかである。このことからすると,そもそも,上記のような間接接触としての会合が,公にしないことを前提とするとの被告の説明には,疑問を差し挟まざるを得ない。

また,確かに,我が国が外交交渉を行うに際して,誰が,いかなる分野に関し,どのような立場で,いかなる準備を行っているかといった事項が明らかになると,じ後,相手国関係者が,当該我が国関係者の立場や外交パターンを認識することになり,その結果,当該関係者に対する働きかけを行うなどして,我が国の情報収集ないし外交工作等の活動が阻害されるおそれを抽象的には想定し得ないわけではない。しかしながら,被告は,本件訴訟において,会合経費に係る文書の存在とそれに記載された情報の抽象的内容及び文書の通数を明らかにしていることに照らすと,我が国において,国会議員,政府関係者等の内国関係者が外交交渉の事前又は事後に在外公館の職員と会合を行うとの外交パターンが一般的に存在することの秘匿性は乏しいものということができる。また,我が国内部において,誰が,いかなる分野に関し,どのような立場で,いかなる内容の準備を行っているかといった事項の秘匿性は,時の経過とともに低下する性質のものであるということができるし,上記のように,間接接触としての会合は現在行われていないことからすると,過去におけるこの種の情報が公になることによって生じる弊害は,極めて漠然としたものに過ぎないと言わざるを得ない。

上記事情に加えて,会合経費に係る文書には,会合の内容に関しては抽象的な目的程度の情報しか記載されていないと考えられることをも考え併せると,会合経費に係る文書(ただし,後記のとおり,「請求書」及び支払先又は支払予定先関係者が独自に作成した「領収書」を除く文書。)に記載された情報のうち,「文書作成者名」,「決裁者名」,「起案・決済日」,「支払手続日」,「取扱者名」,「支払額」,「支払予定額」及び「目的・内容」の部分については,情報公開法5条6号又は3号に該当する情報であるとまでは認め難い。

他方,会合経費に係る文書に記載された情報のうち,「支払先」及び「支払予定先」の情報については,これが明らかになった場合には,我が国関係者が好んで利用している場所が,相手国関係者の知るところとなる。上記場所は,間接接触目的での会合のためのみに用いられているとは考え難く,むしろ,情報収集等のために相手方関係者と接触する場所とも共通していることが考えられるから,これが明らかになると,今後,我が国関係者の安全確保が困難になったり,我が国が情報収集等を行うに際し,当該場所に対する監視,盗聴等の妨害工作が行われることにより,外交事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるということができるから,上記情報は,情報公開法5条3号及び6号に該当する情報であると認められる。

また,「請求書」及び「領収書」のうち,担当部局の職員が立替払を行った場合に内部的に作成される立替金請求・領収書なる書面を除く書面については,支払先又は支払予定先関係者が独自に作成したものであり,その紙片の大きさ,書式,文字の特徴などの様式から,支払先又は支払予定先が推測されるおそれがあるから,上記と同様の理由により,その文書に記録された情報全体が,情報公開法5条3号及び6号に該当する情報であると認められる。

b 事務経費に係る文書(別表4参照)の不開示事由該当性

事務経費にかかる文書に記録された情報のうち,「支払先」及び「支払予定先」の部分には,当該経費の支出に係る調達先の名称,当該経費の支出に係る物品等の調達先である専門業者を特定しうる情報が記載されているものと認められるところ,仮にこれが公になった場合には,我が国の内部情報を入手しようとする者や情報収集及び外交工作を行うための会合への出席関係者に対して危害を加えようとする者が,当該専門業者に働きかけてこれを利用し,在外公館に侵入するなどの行動に出ることが予想され,その場合には,在外公館の安全確保が困難となり,また,我が国の国益を著しく害するおそれが生じるものということができる。さらに,上記のような事態の発生を危惧して,事務経費の支出を差し控えることにより,情報収集及び外交工作等の活動の遂行に支障を及ぼすおそれが生じることも考えられる。

したがって,事務経費に係る文書に記載された情報のうち,「支払先」及び「支払予定先」の情報は,これを公にすると,我が国の外交事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあり,国の安全が害されるおそれ及び他国との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報が記載されているというべきであるから,情報公開法5条3号及び6号に該当する情報であると認められる。

また,「請求書」及び支払先又は支払予定先関係者が独自に作成した「領収書」についても,その様式から支払先又は支払予定先が推測されるおそれがあるから,上記と同様の理由により,その文書に記載された情報全体が,情報公開法5条3号及び6号に該当する情報であると認められる。

他方,「請求書」及び支払先又は支払予定先関係者が独自に作成した「領収書」を除く事務経費に係る文書に記録された情報のうち,「支払先」及び「支払予定先」を除く情報については,これが明らかになったとしても上記のような弊害が生じるとはいえないから,情報公開法5条3号又は6号に該当する情報であるとは認められない。

ウ 原告は,会計検査院が五類型以外にも報償費の執行の問題点があることを指摘していること,外務省が平成14年度に報償費の約40パーセントを削減したこと,外務省における不祥事の事例などを挙げて,報償費の目的外使用等の疑いがあり,そうである以上,報償費の支出であるからといって保秘性が高いとは言えないと主張する。また,原告は,上記主張に関連して,被告が,五類型に係る文書以外の文書とは一般的類型的な性質を異にする五類型文書についても,その経費の支出当時には,本来的な報償費の使用の場面であると判断していたことからすると,五類型に係る文書以外の文書に限っては使途適合性の判断が正しいということはできないと主張する。

確かに,被告の五類型以外の経費についての主張及び前記ア・イの判断は,当該経費が,全て報償費の使途に適った支出としてなされたものであることを前提とするものであるから,仮に,上記経費の中に報償費の使途に適合しない支出や架空の支出が存在するのであれば,架空の支出に係る文書については不開示事由を認め難いというべきであるし,目的外使用については報償費以外の費目から支出されるべきことを前提として,不開示事由の有無を検討すべきことになる。

もっとも,前記アのとおり,報償費とは,国が,国の事務又は事業を円滑かつ効果的に遂行するため,当面の任務と状況に応じその都度の判断で適当と認められる方法により機動的に使用する経費であると定義されているところ,このような使用方法の機動性がその使用内容の保秘性に直結するということはできない。しかしながら,報償費は,会計検査院の検査の際においても簡易証明によることが認められているなど,その予算執行に関し保秘性が高い費目に適した取扱が認められていること,情報公開法5条3号が規定するように,外務省の所掌事務にはその性質上保秘性の高い事務が存在することから,上記保秘性の高い事務処理に必要な経費については必然的に報償費から支出されることが多くなるであろうことは見やすい道理である。したがって,報償費の使途に適った経費の支出であれば,一般的に,保秘性が高い支出であると推認することには合理性があるというべきである。

したがって,報償費の使途に適ったものであるか否かは,保秘性の有無,本件との関係で言えば,情報公開法5条3号・6号の不開示事由の有無の判断を行う上での重要な間接事実として位置づけられるものというべきである。

そこで検討するに,前記前提事実によれば,会計検査院が,平成12年度の在外公館における報償費として支出された経費のうち,報償費の使途に適合しない経費の存在を指摘したのは五類型に関してであり,五類型以外の経費については,報償費の使途に適合していないことを積極的に指摘してはいない。また,原告が報償費の目的外使用等の根拠として主張する他の事由は,本件各行政文書に係る報償費の支出とは直接関連性を有しないものであって,本件各行政文書に係る経費の支出が,報償費の使途に反してなされたことを具体的に推認させるに足りるものとは言えない。

なお,証拠(乙18の1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば,情報公開審査会は,本件各答申を行うに当たっては,インカメラ審理を実施し,本件各行政文書を含む開示請求対象文書の内容を実際に見聞しているものと認められる。その上で,五類型に係る文書以外の文書については不開示とするのが相当であり,五類型に係る文書については部分開示を行うのが相当であると判断していることからすると,情報公開審査会は,五類型と五類型以外の経費とでは,保秘性の観点から見て,その性質が異なるものと判断したものということができ,このことは,五類型に係る文書以外の文書に記載された経費が,五類型とは異なる性質を有していることを合理的に推認させるものというべきである。

以上に述べた理由から,原告の上記主張は採用できない。

エ 被告は,報償費の支出に係る広義の決裁書に記載された,いつ,誰が,何の目的で,どのような事務に関し,いくら,誰に対して支払ったかという情報は,その全体が独立的な一個の情報であり,これを更に細分化してそのうちの一部を開示するように求めることはできない旨主張するので検討する。

情報公開法は,6条1項において,「行政機関の長は,開示請求に係る行政文書の一部に不開示情報が記録されている場合において,不開示情報が記録されている部分を容易に区分して除くことができるときは,開示請求者に対し,当該部分を除いた部分につき開示しなければならない。ただし,当該部分を除いた部分に有意の情報が記録されていないと認められるときは,この限りでない。」と規定し,同条2項において,「開示請求に係る行政文書に前条第一号の情報(特定の個人を識別することができるものに限る。)が記録されている場合において,当該情報のうち,氏名,生年月日その他の特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分を除くことにより,公にしても,個人の権利利益が害されるおそれがないと認められるときは,当該部分を除いた部分は,同号の情報に含まれないものとみなして,前項の規定を適用する。」と規定しているところ,同条1項にいう「部分」とは一個の行政文書に複数の情報が記録されている場合における一部分を意味し,同条2項にいう「部分」とは,行政文書に記録された一個の情報のうちの一部分を意味することはその文理から明らかである。その文理に照らすと,同条は,一個の公文書に複数の情報が記録されている場合において,それらの情報のうちに非公開事由に該当するものがあるときは,いわゆる個人識別情報が記録されている場合を除き,当該部分を除いたその余の部分についてのみ,これを公開することを実施機関に義務づけているにすぎない。すなわち,同条は,非公開事由に該当する独立した情報を更に細分化し,その一部を非公開とし,その余の部分にはもはや非公開事由に該当する情報は記録されていないものとみなして,これを公開することまでをも実施機関に義務づけているということはできない(最高裁判所平成13年3月27日第三小法廷判決・民集55巻2号530頁,最高裁判所平成14年2月28日第一小法廷判決・民集56巻2号467頁参照)。そして,問題とされている公文書に記録された独立した一体的な情報の範囲については,社会通念に照らし合理的に解釈すべきであり,具体的には,当該文書の作成の名義,趣旨・目的,作成時期,取得原因,当該記述等の形状,内容等を総合考慮の上,情報公開法の不開示事由の規定の趣旨に照らして判断すべきである。

これを本件についてみると,前記3の事実によれば,本件各行政文書は,報償費の支出に際し,当該報償費の使用を要する事務を行う担当者ないし担当部署によって作成される広義の決裁書であり,個々の支出ごとに差異はあるものの,狭義の決裁書,見積書,請求書,領収書及び支払証拠台紙の全部又は一部から構成されていること,上記文書には,文書作成者名,決裁者名,取扱者名,起案・決裁日,支払手続日,報償費使用の目的・内容,支払予定先又は支払先,支払予定額又は支払額などの情報が記録されていることが認められる。そして,情報公開法5条3号及び6号は,ある支障が生じるおそれという定性的な要素を不開示情報として定めているところ,本件各行政文書には,①誰が報償費を支出したかという情報,②いつ報償費を支出したかという情報,③誰に対して,あるいは,どこで報償費を支出したかという情報及び④報償費をいくら支出したかという複数の情報が,それぞれ上記不開示事由との関係で有意な一体の情報として記載されているというべきである(上記複数の情報は,報償費の支出であることを意味づける「目的・内容」の部分を共通部分として,重畳的に記載されているものと見ることができる。)。

したがって,本件各行政文書に記載された情報の情報公開法5条3号又は6号該当性については,上記各情報ごとに不開示事由の有無を判断することができるというべきであって,これに反する被告の上記主張は採用できない。

そして,本件各行政文書のうち,2類型の間接接触に係る文書(別表4参照)については,上記イ(ウ)のとおり,「二国間・多国間の交渉の準備として,あるいはその交渉結果を踏まえた対応の検討のための会合が開催された」という層の情報については,情報公開法5条3号又は6号の定める不開示事由は認め難いのであるから,その次の層に位置する「誰に対して,あるいは,どこで報償費を支出したか」という情報について,上記不開示事由の有無を検討すべきことになるのである。

(3)  五類型に係る文書(本件変更決定後の不開示部分)の不開示事由該当性

ア 大規模レセプションに係る経費の文書(別表5参照)の不開示事由該当性

(ア) 前記3の事実及び弁論の全趣旨によれば,大規模レセプションに係る経費の文書のうち,被告が本件変更決定によっても不開示決定を維持したのは,料理等の調達先の関係者が独自に作成した請求書及び領収書については文書全体,その他の文書については,「目的・内容」の一部,「支払予定額」の全部,「支払先」の全部及び「支払予定先」の全部の記載部分,一部の決裁書については,「文書作成者」及び「取扱者名」の記載部分であると認められる。そして,このうち「目的・内容」の欄には,レセプションに要する料理の調達先,調達の具体的内容,招待者の氏名・肩書などの記載があり,「支払先」及び「支払予定先」には,料理の調達先に関する記載があり,「支払予定額」には,調達経費の総額に関する記載があるものと認められる。

(イ) 仮に,上記文書が公開されることにより,料理等の調達先が明らかになると,我が国の内部情報を入手しようとする者や情報収集及び外交工作を行うための会合への出席関係者に対して危害を加えようとする者が,当該専門業者に働きかけてこれを利用し,在外公館に侵入するなどの行動に出ることが予想され,その結果,在外公館の安全確保が困難となり,また,我が国の国益を著しく害するおそれが生じるものと認められる。

また,調達先の関係者が独自に作成した請求書及び領収書については,その紙片の大きさ,書式,文字の特徴などの様式から調達先が推測されるおそれがあることから,上記と同様の弊害の発生を回避するためには,文書全体を不開示にする必要があるというべきである。

さらに,担当者が,上記のような不測の事態の発生を危惧して,大規模レセプションに係る経費の支出を差し控えることにより,外交事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれが生じることも考えられる。

加えて,上記文書が開示されることにより,これまで明らかとされていなかった料理等の調達先や調達の金額等の具体的内容が公になると,相手国ないしその関係者が,他国関係者が出席した同種のレセプションとの比較等を通じて,我が国が相手国ないしその関係者に対してどのようなもてなしを行い,どのように評価しているかを推知することが可能となり,その結果,我が国から相対的に低い評価を受けていると判断した相手国ないしその関係者が,我が国に対して不快感を抱き,ひいては我が国との信頼関係を損なうおそれがあるというべきである(仮に,我が国の客観的評価と相手方が受け止めた評価が異なっていたとしても,相手国ないしその関係者の信頼関係を損なうおそれがあることに留意すべきである。)。

以上によれば,大規模レセプションに係る経費の文書のうち本件変更決定後の不開示部分の記載は,その全体が,これを公にすると,我が国の外交事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあり,また,我が国の安全が害されるおそれ,他国との信頼関係が損なわれるおそれ及び他国との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報が記載されているというべきであるから,情報公開法5条3号及び6号に該当する情報であると認められる。

イ 酒類購入経費に係る文書の不開示事由該当性

前記3の事実及び弁論の全趣旨によれば,酒類購入経費に係る文書のうち,被告が本件変更決定によっても不開示決定を維持したのは,酒類の調達先の関係者が独自に作成した見積書,請求書及び領収書については文書全体,その他の文書については,「目的・内容」の一部,「支払先」の全部,「支払予定額」全部の記載部分であると認められる。そして,このうち「目的・内容」の欄には,ワイン等の酒類の調達先,購入銘柄,単価,購入本数,調達先である専門業者名,その担当者名及びその住所等が記載されており,「支払先」には,上記のような調達先に関する記載があり,「支払予定額」には,調達経費の総額に関する記載があるものと認められる。

仮に,酒類購入経費に係る文書が公にされると,前記アで述べたのと同様の弊害が生じるおそれがあることから,上記文書のうち本件変更決定後の不開示部分の記載は,その全体が,これを公にすると,我が国の外交事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあり,また,我が国の安全が害されるおそれ,他国との信頼関係が損なわれるおそれ及び他国との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報が記載されているというべきであるから,情報公開法5条3号及び6号に該当する情報であると認められる。

ウ 本邦関係者が外国訪問した際の車両の借上げ等の事務経費の文書の不開示事由該当性

前記3の事実及び弁論の全趣旨によれば,本邦関係者が外国訪問した際の車両の借上げ等の事務経費の文書のうち,被告が本件変更決定によっても不開示決定を維持した部分は,車両等の調達先の関係者が独自に作成した請求書及び領収書については文書全体,その他の文書については「目的・内容」の記載の一部,「支払先」の記載の全部であると認められる。そして,このうち「目的・内容」の欄には,車両の借上げ等の調達先,車種並びに事務連絡室の所在等の記載があり,「支払先」には,車両の借上げ等の調達先に関する記載があるものと認められる。

仮に,上記文書が公開されると,前記アで述べたのと同様に,車両の借上げ等の調達先又はこれを推知しうる情報が明らかになり,その結果,在外公館の安全確保が困難となり,また,我が国の国益を著しく害するおそれが生じるものと認められる。

したがって,本邦関係者が外国訪問した際の車両の借上げ等の事務経費の文書のうち本件変更決定後の不開示部分の記載は,その全体が,これを公にすると,我が国の外交事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあり,また,我が国の安全が害されるおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報が記載されているというべきであるから,情報公開法5条3号及び6号に該当する情報であると認められる。

エ なお,被告は,本件変更決定後も不開示を維持した五類型に係る文書に記載された情報のうち,一部の決裁書の「文書作成者」及び「取扱者名」については,公表慣行がないために情報公開法5条1号に該当すると主張するが,原告はこれを明らかに争わないことから,上記不開示事由該当性が認められるものというべきである。

5  以上によれば,原告の本訴請求は,主文の限度で理由があるからこれを認容し,その余の部分については理由がないのでいずれもこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 潮見直之 裁判官 近藤幸康 裁判官 千葉直人)

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