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仙台地方裁判所 平成13年(行ウ)20号 判決 2004年3月31日

主文

1  原告の別紙物件目録2記載の建物に係る平成12年度固定資産課税台帳の登録価格に関する審査申出について,被告が平成13年7月24日付けでした登録価格を5億0405万4305円に修正すべきであるとの決定のうち,価格1億7828万円を超える部分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

主文同旨

第2事案の概要

本件は,原告が,その所有する別紙物件目録2記載の建物(以下「本件建物」という。)の平成12年度固定資産課税台帳登録価格が適正な時価を超えるものであるとして,被告が平成13年7月24日付けでした登録価格を5億0405万4305円に修正すべきであるとの決定(以下「本件決定」という。)のうち,価格1億7828万円を超える部分の取消しを求めた事案である。

1  争いのない事実等

(1)  原告の本件建物の所有

ア 原告は,平成8年11月7日,前所有者から,本件建物,その敷地である別紙物件目録1記載の土地及び同目録3ないし5記載の建物を,代金3億5500万円で買い,現在,本件建物を所有している。

(争いのない事実,甲5)

イ 本件建物は,昭和49年に建築された鉄筋コンクリート造の店舗である。

(争いのない事実)

(2)  仙台市長による固定資産課税台帳への登録

仙台市長は,地方税法(以下「法」という。)403条,410条,411条の規定により,固定資産評価基準(昭和38年自治省告示第158号。平成12年自治省告示第12号による改正後のもの。以下「評価基準」という。)及び仙台市固定資産(家屋)事務取扱要領に従い,平成12年2月末日,平成12年度の本件建物の価格を5億6795万7407円と決定し,固定資産課税台帳に登録し,法415条1項の規定により当該台帳を縦覧に供したが,平成12年5月12日,当該価格を修正する必要があったため,法417条の規定により,本件建物の価格を5億6096万1206円に修正すべきであると決定し,固定資産課税台帳に登録し,同日付けで原告に通知した。

(争いのない事実)

(3)  家屋の固定資産評価額の算出方法

ア 再建築価格方式

(ア) 評価基準は,家屋の評価について,再建築価格方式を採用している。

再建築価格方式は,評価対象家屋と同一のものを評価の時点で新築する場合に必要な建築費(再建築費)を求めた上,当該家屋の損耗の状況による減価等を考慮して,当該家屋の価格を求める方法である。

(イ) 評価基準上,家屋の評価は,木造家屋及び木造家屋以外の家屋(以下「非木造家屋」という。)の区分に従い,各個の家屋について評点数を付設し,当該評点数に評点1点当たりの価額を乗じて各個の家屋の価額を求める。

(ウ) 各個の家屋の評点数は,当該家屋の再建築費評点数を基礎とし,これに家屋の損耗の状況による減点を行って付設する。

(エ) 家屋の状況に応じ必要があるものについては,更に家屋の需給事情による減点を行う。

イ 非木造家屋の損耗の状況による減点補正

(ア) 非木造家屋の損耗の状況による減点補正率は,「非木造家屋経年減点補正率基準表」によって求める。

(イ) ただし,天災,火災その他の事由により当該非木造家屋の状況からみて非木造家屋経年減点補正率基準表によって損耗の状況による減点補正率表を求めることが適当でないと認められる場合においては,当該非木造家屋の部分別に「非木造家屋部分別損耗減点補正率基準表」によって求める(乙1の51頁)。

ウ 非木造家屋の需給事情による減点補正

建築様式が著しく旧式となっている非木造家屋,所在地域の状況によりその価額が減少すると認められる非木造家屋等について,その減少する価額の範囲において需給事情による減点補正をする(乙1の52頁)。

エ 非木造家屋の評点1点当たりの価額

(ア) 評点1点当たりの価額は,1円に,①物価水準による補正率と,②設計管理費等による補正率とを乗じて得た額を基礎として定める。

(イ) 物価水準による補正率は,家屋の工事原価に相当する費用等の東京都(特別区の地域)における物価水準に対する地域的格差を考慮して定められているが,非木造家屋に係る物価水準による補正率は,全市町村を通じて1.00と定められている。

(ウ) 設計管理費等による補正率は,工事原価に含まれていない設計監理費,一般管理費等の負担額の費用を基礎として定められており,非木造家屋に係る設計管理費等による補正率は,全市町村を通じて1.10と定められている。

オ 再建築費評点数の算出

仙台市長は,在来分の非木造家屋(新増分以外の非木造家屋をいう。)の固定資産評価について,総合比準による再建築費評点数の算出方法を採用していた。

カ 経過措置

平成12年度における在来分の家屋の評価については,当該家屋について改正後の評価基準(平成12基準年度評価基準)により求めた価額と,当該家屋の平成11年度の価額のいずれか低い価額とする経過措置が講じられている(乙1の53頁)。

((3)につき,乙1,弁論の全趣旨)

(4)  仙台市長による本件建物の固定資産評価額の算出過程

ア 再建築評点数

(ア) 仙台市長は,本件建物の再建築費評点数の算出に当たり,在来分非木造家屋に係る再建築費評点数の算出方法(前記(3)オ)により,本件建物に係る前基準年度(平成9基準年度)の評価基準により求めた延べ床面積1㎡当たりの再建築費評点数16万3405点に本件建物が属する区分に係る変動率0.98を乗じて,1㎡当たりの再建築評点数を16万0136点(小数点以下切捨て)と算出した。

16万3405点×0.98=16万0136点

(イ) さらに,これに本件建物の著しい損耗状況を考慮して算出した補正率0.69を乗じて,1㎡当たりの再建築費評点数を11万0493点(小数点以下切捨て)とした。

16万0136点×0.69=11万0493点

(ウ) これに本件建物の延べ床面積(7903.01㎡)を乗じて,再建築費評点数を8億7322万7283点(小数点以下切捨て)と算出した。

11万0493点×7903.01㎡=8億7322万7283点

イ 損耗による減点補正

(ア) 次に,仙台市長は,上記再建築費評点数8億7322万7283点に,非木造家屋経年減点補正率基準表に従い算出した経年減点補正率0.5840(乙1の166頁。26年経過)を乗じ,評点数を5億0996万4733点(小数点以下切捨て)と算出した。

なお,この処理は,結局,損耗の状況による減点補正率(前記(3)イ)を0.40296(0.69×0.5840)としたことを意味する。

8億7322万7283点×0.5840=5億0996万4733点

(イ) これに,評点1点当たりの価額1.10円(1円×物価水準による補正率1.00×設計管理費等による補正率1.10)を乗じて,評価額5億6096万1206円(小数点以下切捨て)を算出した。

5億0996万4733点×1.10=5億6096万1206円

ウ 需給事情による減点補正

仙台市長は,需給事情による減点補正(前記(3)ウ)は行わなかった。

エ 前年度との比較

仙台市長は,上記により算出された評価額(5億6096万1206円)と平成11年度の評価額(5億6795万7407円)とを比較し,より低い方の価格を採用して(前記(3)カ),平成12年度の評価額を5億6096万1206円と決定した。

((4)につき,争いのない事実,弁論の全趣旨)

(5)  審査の申出

原告は,被告に対し,平成12年6月12日,本件建物の平成12年度の登録価格の取消しを求めて,法432条1項に基づく審査の申出をした。

(甲3)

(6)  本件決定

ア 損耗による減点補正率の修正

(ア) 被告は,本件建物につき,別紙本件建物評点数算出経過表のとおり,仙台市長の認定を超える損耗を認め,以下のとおり,補正率0.62を算出した。

a 平成12年度における本件建物の1㎡当たりの再建築評点数(別紙本件建物評点数算出経過表のC。以下,アルファベットの大文字の表示は,同算出経過表におけるものである。)を算定した。

本件建物の前基準年度(平成9年度)における本件建物の1㎡当たりの再建築評点数

(A)×本件建物と同種の非木造家屋に係る平成12年度評価替えにおける変動率(0.98)(B)=C

b これに延べ床面積及び経年減点補正率を乗じて本件建物に係る平成12年度評点数(G)を算定する。

C×延べ床面積(D)×経年減点補正率(0.5840)(F)=7億3908万4942点=G

c 次に,以下のとおり,損耗減点補正を行った場合の本件建物の平成12年度評点数を求めた。

(a) まず,本件建物の部分別に使用された各資材ごとの平成12基準年度の標準評点数に当該資材ごとの施工量を乗じて,本件建物の部分別の平成12年度再建築費評点数(H)を算定した。

(b) 次に,本件建物の部分別に,経年減点補正率を上回る損耗がある部分(損耗部分)と経年減点補正率を上回る損耗がない部分(非損耗部分)の割合(I)を求めた。

(c) また,以下のとおり,本件建物の部分別に,合計損耗減点補正率(M)を求めた。

損耗部分の割合(I)×当該損耗部分に係る損耗減点補正率(J)+非損耗部分の割合

(K)×経年減点補正率(L)=M

(d) 次に,本件建物の部分別の平成12年度再建築費評点数(H)に合計損耗減点補正率(M)を乗じて,各部分別の評点数(N)を求めた。

(e) そして,各部分別に求めた評点数(N)を合計して,本件建物の平成12年度評点数4億5920万4685点(O)を求めた。

d 最後に,損耗補正後の評点数(O)を損耗減点補正前の評点数(G)で除して本件建物に係る補正率(0.62)(P)を求めた。

4億5920万4685点(O)÷7億3908万4942点(G)≒0.6213≒0.62(P)

(イ) 次に,上記再建築費評点数16万0136点(C)に,上記補正率0.62(P)を乗じて1㎡当たりの再建築費評点数9万9284点(小数点以下切捨て)を算出した。

16万0136点×0.62=9万9284点

(ウ) そして,これに本件建物の延べ床面積(7903.01㎡)を乗じて,再建築評点数7億8464万2444点(小数点以下切捨て)を算出した。

9万9284点×7903.01㎡=7億8464万2444点

イ 損耗による減点補正

次に,被告は,経年減点補正率(0.5840)を上記再建築評点数(7億8464万2444点)に乗じて,評点数を4億5823万1187点(小数点以下切捨て)と算出した。

なお,この処理は,結局,損耗の状況による減点補正率を0.36208(0.62×0.5840)としたことを意味する。

7億8464万2444点×0.5840=4億5823万1187点

ウ 需給事情による減点

被告は,本件建物について需給事情による減点を行わなかった。

エ 評価額

(ア) 被告は,物価水準による補正率1.00及び設計管理費等による補正率1.10を乗じて求めた評点1点当たりの価額1.10円を,上記評点数(4億5823万1187点)に乗じて,評価額5億0405万4305円(小数点以下切捨て)を算出した。

4億5823万1187点×1.10=5億0405万4305円

(イ) そして,上記により算出した価額(5億0405万4305円)と平成11年度の評価額(5億6795万7407円)を比較し,平成13年7月24日,より低い方の価格である5億0405万4305円を平成12年度の評価額と修正するべきとの本件決定をした。

(争いのない事実,弁論の全趣旨)

2  争点

本件建物の固定資産評価額は,「適正な時価」(法349条1項,341条5号)といえるか。これを細分化すると,次のとおりである。

(1)  評価基準の法的拘束力の有無

(2)  評価基準の一般的合理性の有無

(3)  評価基準が定める評価の方法によっては再建築費を適切に算定することができない特別の事情の有無

3  争点(1)(評価基準の法的拘束力の有無)に関する当事者の主張

(1)  被告

ア 法403条1項は,市町村長は,自治大臣(現在は総務大臣)が告示する評価基準によって課税標準となる価格を決定しなければならない旨規定している。専門的・技術的性格を有している評価基準は,評価を行う者の主観的な判断に基づく個人差をできるだけ排除し,評価における全国的な統一と市町村間の均衡を維持するため,自治大臣が法律の具体的委任を受けて告示するものであって,一種の委任立法であり,補充立法としての法的性格を有するものである。

イ したがって,評価基準は,固定資産税の課税標準となる適正な時価を算出するため,法により許容された唯一の基準であり,評価基準にのっとって算定された価格は,適正な時価である。

(2)  原告

ア 評価基準は,固定資産の評価の大量性と便宜性を考慮して定められたものであるが,法は,価格を「適正な時価」(341条5号)と規定しており,評価基準に従って適正な時価を超えた価格を算出することまで認めているものではない。

イ 評価基準に従った家屋の評価額は,通常認められる個別の情況を考慮しても,客観的交換価値よりも低めに評価されるという前提でのみ,正当性を有する。

4  争点(2)(評価基準の一般的合理性の有無)に関する当事者の主張

(1)  被告

ア 再建築価格方式の合理性

(ア) 仙台市長が,評価基準にのっとり,本件建物について採用した評価の方法は,イ及びウのとおり,この種の家屋について通常の維持管理がされた場合の減価の手法として一般的な合理性を有している。

(イ) したがって,被告は,本件建物について評価基準に基づいて評価したことについて主張立証すれば足り,原告が,評価基準が定める評価の方法によっては再建築費を適切に算定することができない特別の事情又は評価基準が定める減点補正を超える減価を要する特別の事情の存在の有無について,主張立証するべきである。

イ 標準評点数,物価水準による補正率及び設計管理費等による補正率の一般的合理性

(ア) 標準評点数

評点数の基礎となる再建築費評点数は,建築費のうちの工事原価に相当する。標準評点数は,評点項目(資材の種別及び品等,施工の態様等の区分)に従い,標準量(標準的な家屋の各部分別の単位当たり施工量)に対する工事費を基礎として算出されている。

この標準評点数は,東京都(特別区の区域)における物価水準により算定した工事原価(資材費及びこれを施工するために要する労務費)に相当する費用に基づいて,その費用の1円を1点として表すものである。資材費については,財団法人経済調査会の「積算資料」及び財団法人建設物価調査会の「建設物価」に掲載されている建設業者が現場で受け取る段階での各建築資材ごとの標準的な価格を基に算定された(乙3の4153・32頁)。

(イ) 物価水準による補正率の一般的合理性

木造家屋の物価水準による補正率は,東京都(特別区の区域)を1.00として,各指定市(道府県庁所在市及び東京都特別区をいう。)ごとに,1.00,0.95,0.90と三段階に定められているが,非木造家屋の物価水準による補正率は,全市町村を通じて東京都(特別区の区域)と同一率である1.00とされている。

主要都市以外の指定市に所在する非木造家屋については,事務所,工場等の建物の規模,程度の差が大きく,かつ,各資料の母数が僅少な地域があるため,特定の建物が㎡当たりの単価に強く影響を与えることから,木造家屋と同様の手法によって合理的な地域格差指数を求めることは困難であること,また,非木造家屋の生産技術は,中央の企業が営業活動を全国展開し,仕事を受注する体制をとっており,中央と地方の単価に大きな差はないから,主要都市の理論的な地域差指数を基に物価水準の補正率について判断しても差し支えないものと考えられることなどから,平成15年度の評価替えの際も,すべての指定都市の補正率が1.00とされた。

(ウ) 設計管理費等による補正率の一般的合理性

建設工事費は,建材費,労務費等の直接工事費と,設計管理費等(設計料,現場管理費,一般管理費,利潤等)の間接工事費とに分けられ,間接工事費は,コスト要因の積上げによる算出が困難なため,直接工事費に対する率を乗じて積算されている。

設計管理費等による補正率は,全市町村を通じて,非木造家屋については1.10とされている。

社団法人宮城県建築士事務所協会発行のパンフレット(乙24)によれば,貸事務所の設計監理料の算定例においても10%を超えている。

よって,非木造家屋の設計管理費等による補正率1.10は,合理性を有する。

ウ 非木造家屋の経年減点補正率の一般的合理性

(ア) 経年減点補正率

本件に適用される店舗及び病院用建物の「鉄骨鉄筋コンクリート造,鉄筋コンクリート造」の経年減点補正率(残価率20%,80%を50年の定額法で補正。乙1の166頁)は,次のとおり,合理的なものである。

(イ) 経過年数

a 固定資産税の建物の経過年数(耐用年数)については,国税の考え方を参考として定められてきているが,経年減点補正率における経過年数は,平成5年に改正され,非木造家屋についてはほとんどの用途構造で,概ね大蔵省令と一致することとされた。

b 平成5年の経過年数の改正に当たっては,社団法人日本建築学会に委託して,部位別による算定方法と家屋の滅失状況による算定方法により短縮の是非が検討され,その結果,短縮することが適当であるとされた。

滅失状況調査は,全国都道府県庁所在市46市(那覇市を除く。)に川崎市と北九州市を加えた合計48市の固定資産課税台帳を基に,残存棟数と除却棟数から平均的な建物の残存年数を推計したもので,建築年次別に半数(50%)が滅失する年数を寿命値と考えるものである。状況としては,相当数の年数短縮が認められたが,滅失状況調査による年数短縮は物理的には十分使用可能であるのに,所有者の事情(土地絡み,使用収益,利用効率等)で取り壊され,寿命が短縮されているものがあって,税の立場からは課題が残ることから,これを参考とし,かつて国税で検討されたといわれる部位別による算定方法により理論上の年数を検討することとされたものである(乙20の26頁)。

このように,評価基準においては,物理的耐用年数を基礎としながら,機能的耐用年数,経済的耐用年数についても一定の考慮を行って,一般的な「効用持続年数」を設定し,定額法を基本として時の経過に応じた損耗分の考慮を行うこととしているものである。

(ウ) 残価率

一定経過年数(耐用年数)以後の最終残価率は,0.20にされているが,これは,通常の維持管理を継続して行った場合,家屋の効用を発揮し得る最低限を捉えるとした場合には,経過年数による損耗度合からみて家屋の残価は20%程度が限度という考え方に立っている(乙16)。

税務会計上の減価償却資産(建物)の残価率は10%となっているが,税務会計上の減価償却は,当該資産に係る償却費用を毎期に適切に配分すること(投下資本の適正な費用配分)を目的としているのに対し,評価基準における経年減点補正率は,家屋として維持存続している効用(実体価値)を把握しようとするものであるから,両者は趣旨・目的が異なるものであり,同一に論ずることはできない。

エ A鑑定評価書について

(ア) 後記A鑑定評価書は,次のとおり,評価を行う者の主観的な判断に基づく個人差をできるだけ排除し,評価における全国的な統一と市町村間の均衡を維持することが必要な固定資産の評価には全く適していない。

(イ) 評価の対象を異にしていること

a 評価基準は,固定資産税の課税標準となる適正な時価を算出するための基準である。したがって,土地と建物が民法上別個の不動産とされ,課税上も家屋が独立した財産課税の対象とされ,家屋所有者が租税負担をする法制度の下では,敷地との一体的な評価を行わずに対象家屋そのものを評価する評価基準は,その存在目的に合致した合理的なものであるということができる。

b これに対し,不動産鑑定評価基準によると,「建物は,その敷地と結合して有機的に効用を発揮するものであり,建物とその敷地とは密接に関連しており,両者は一体として鑑定評価の対象とされるのが通例であるが,鑑定評価の依頼目的及び条件により,建物及びその敷地が一体として市場性を有する場合における建物のみの鑑定評価又は建物及びその敷地が一体として市場性を有しない場合における建物のみの鑑定評価がある。」と定められており,敷地との有機的な効用を重視し,建物のみの鑑定評価は例外的なものと位置付けられている。

さらに,不動産鑑定評価基準によると,建物のみの鑑定評価を行う例外的場合にも,「この場合の建物の鑑定評価は,その敷地と一体化している状態を前提として,その全体の鑑定評価額の内訳として建物について部分鑑定評価を行うものである。この場合における建物の鑑定評価額は,積算価格,配分法に基づく比準価格及び建物残余法・・・による収益価格を関連づけて決定するものとする。」と定められている。

さらに,賃貸料等の収益を基準として評価する収益換算法(収益還元法)は,賃貸料等についてはなはだしい格差があるなどの難点があり,また,比準法についても,個々の売買に個別的な事情による偏差があることのほか,家屋の取引が一般的に宅地とともに行われている現状からして,そのうちの家屋の部分を分離することが困難であるなどの難点がある。

(2)  原告

ア 再建築価格方式の問題点

(ア) 再建築価格方式は,個別事情を斟酌せず,また,原価法に重点を置き,市場性(現実の取引価格)や収益性(現実の収益力)を無視している。

(イ) 評価基準の経年減点補正率は,鉄筋コンクリート造の店舗であれば,毎年1.6%ずつ,50年間にわたって直線的に減点している。

しかし,現実の建物では,そのような直線的な減価をすることはあり得ず,双曲線のような減価をたどるのが一般である。それは,設計の良否,コンクリート材の良否,施工の良否,構造や間取りの陳腐化など様々な要因によって建物の問題が顕在化して維持修繕費がかさんだり,競争力が低下したりして,それが建物の価値に直接影響を及ぼすためである。

(ウ) また,店舗用の鉄筋コンクリート造建物の法定耐用年数は,現在では39年であり,50年間にわたって減価するというのは現在の社会経済情勢にそぐわない。

(エ) これらの原因により,多くの建物では評価基準によって算出された価格が客観的な交換価値を上回るという逆転現象が早期に現れることになる。

(オ) この逆転現象を是正するために,各種の減点補正を適切に行うことが期待される。しかしながら,実際は,減点箇所が目視可能な状態になければ,減点補正がされないし,目視可能な場合であっても,減点補正が適切に行われているとはいい難い。

イ 損耗減点補正について

(ア)a 評価基準の別表第14「非木造家屋部分別損耗減点補正率基準表」(乙1の173頁)の「主体構造部」の「損耗状況」と「損耗減点補正率」の定め方では,適切な減点補正を行うことができない。

b 例えば,鉄筋コンクリート造につき,「損耗度2」の「軽微な床の傾斜及びたるみを生じたもの,軽微なき裂を生じたもの又は凍害を受けたもの」の補正率は0.75と定められ,「損耗度3」の「コンクリートの強度の乏しいもの又は被覆コンクリートが二分の一程度脱落したもの」の補正率が0.60とされているが,その間にあるべき「相当のき裂を生じたもの」等が設けられておらず,既存の基準表では,適切に評価できない。

c また,損耗度3の「コンクリートの強度の乏しいもの又は被覆コンクリートが二分の一程度脱落したもの」の程度に至れば,市場価格は暴落し,客観的交換価格は極めて低額になるが,上記基準表によれば,損耗度3,補正率0.60である。

d 損耗度4(被覆コンクリートがほとんど脱落したもの)以下の場合は,論外である。

(イ) 損耗の程度に応ずる減点補正の基本的考え方は,各部分別の損耗の現況を建築当初の状態に修復するものとした場合に要する費用を基礎として定めるというものであるところ,主体構造部については,そもそも建築当初の状態に修復するということがあり得ない。

(ウ) また,基礎部分の損耗は,主体構造部における減点のみで適切に評価することができないから,評価基準に独自の補正率を設けるべきである。

ところが,そのような定めはない。

ウ 損耗減点補正率と経年減点補正率の関係

評価基準の損耗減点補正率は,当該建物の各部分ごとの損耗度を認定した上,当該損耗度に係る損耗減点補正率が経年減点補正率を下回った場合に適用されるため,26年が経過して単に古くなった正常な鉄筋コンクリート造建物と,本件建物のように,昭和53年宮城県沖地震の被害を被り26年が経過した損耗の著しい建物も,損耗減点補正率が0.5840を下回らない以上,同じ評価になることになるが,これは著しく不合理である。

エ 各部分の価値を積算する不合理

評価基準は,各部分別に係る評点数を合計しているが,主体構造部は他の部分を支える構造部であるため,この部分の価値が零であれば,他の部分(各部の仕上げや建具,建築設備等)の損耗の程度が軽度でも,機能的に一体である建物全体の価値としてはほぼ零となる。

よって,少なくとも主体構造部との関係では,各部分別に係る評点数を合計するのではなく,相乗積によって求めるなどの配慮が必要である。

オ A鑑定評価書

(ア) 後記5(1)カのとおり,不動産鑑定評価基準による価額は,本件決定による価格を大きく下回るものである。

(イ)a 被告は,評価基準と不動産鑑定評価基準とは,趣旨・目的,根拠,評価対象及び評価方法が異なる旨指摘するが,そのような見解は,課税目的のための時価評価という点に独自の価値を見出す見解であり,最高裁判所平成10年(行ヒ)第41号同15年6月26日第一小法廷判決・裁判所時報1342号に照らし,失当である。

b 被告は,不動産鑑定評価基準が敷地と建物を一体として鑑定評価の対象とすることを原則としていることを批判し,この手法によったA鑑定評価書を批判する。

しかし,建物の客観的な交換価値を把握する方法として,敷地と一体のものとして評価することは,十分に合理的であり,だからこそ不動産鑑定評価基準において,その手法が原則とされている。社会通念上も,敷地と建物は,一体のものとして有機的な効用を発揮し,一体のものとして市場価値を持つ。これを無理矢理切り離して建物だけを評価しようとしても,客観的な交換価値を算出することは難しい。

5  争点(3)(特別の事情の有無)に関する当事者の主張

(1)  原告

ア 本件建物の価格

(ア) イ以下のとおり,評価基準が定める評価の方法によっては本件建物の価格を適切に算定することができない特別の事情がある。

(イ) 本件建物の適正な時価は,昭和49年当時の推定新築価格である8億9140万円(≒37万3000円×2390坪)に評価基準上の残価率である20%を乗じた1億7828万円を超えることはない。

イ 基礎杭の危険性

(ア) 次の事実によれば,本件建物は,北側の基礎杭が①接合部分で折れ曲がったか,杭全体が傾いた,②座屈破壊されたのいずれかの原因により,北側が不同沈下したと推認することができる(甲12(以下「G意見書」という。)参照)。

(イ) 本件建物は,昭和53年宮城県沖地震を経験した。

(ウ)a 本件建物は,北北西に向かって下がる谷の斜面及び谷底だった場所に建築された。

b 盛土部分の地盤は,軟弱である。

c 本件建物は,長さ18m(9m×2本を連結している。)の杭を基礎としている。

d 長い基礎杭は,地震の横揺れに弱い。

e 本件建物には,最小限の杭本数しか存在しない。

f そのため,杭に損傷を受けやすい。

g また,本件建物の設計当時,水平方向の支持力の計算は,されていなかった。

(エ)a 不同沈下の高低差は,最大で10cm,平均で5.67cmに及んでいる。

b 本件建物の東面の外壁を観察すると,壁面に北側が沈下したことと合致する多数の斜めの亀裂が入っている。

構造亀裂(構造に影響する亀裂)の存在も予測される。

c また,1階土間スラブ中央部には,大きなたわみ部分が認められる。

d 被告は,柱の沈下量以上に床の沈下している箇所が存在するとともに,柱の沈下量よりも少ない沈下(又は隆起)をしている箇所が存在することを指摘する。

しかし,柱と柱の中間地点は,たわみなどの影響を受けやすい箇所であり,床がたわんだためと理解することが可能であるし,地震によって基礎杭が損傷した場合,各杭の損傷の程度は一様ではないから,でこぼこに沈下することも,不自然なことではない。

(オ) 基礎杭は,工事現場でこれ以上めり込まないという支持地盤まで打ち込まれているのが通常であり,フーチングの厚さも十分になるよう設計段階で計算されているため,基礎杭が支持地盤に更にめり込むということはあり得ない。

(カ) 後記被告の主張イ(キ)(隠れた瑕疵の評価不要)は否認する。

本件では,基礎杭の瑕疵は本件決定時に客観的に存在したのであり,ただそれが顕在化していなかったにすぎない。したがって,行政処分の違法性判断の基準時が行政処分時であると解しても,その処分当時客観的に存在していた瑕疵を理由に,処分を取り消すことができる。

ウ その他の減価要因

(ア) 変質・老朽化

a 本件建物の外壁には,多数の変質・老朽化した部分が存在する。

b また,外部梁型などに鉄筋腐食による被りコンクリート剥離が生じている部分があるし,鉄筋被り厚さまでのコンクリート中性化の進行が認められる部分もある。

c 屋上や外壁からの漏水個所が多数認められ,屋上防水,外壁仕上げとも,全体的に老朽化が相当進んでいる。

d これらは,構造体耐久性に影響を与える状態に至っている。

(イ) 内装

本件建物の漏水がひどいため,3階以上は使用不能であり,内装は荒廃している。

(ウ) 使用鉄筋

a 柱フープ筋については,設計図によると「D10@100」(異形鉄筋10mm)となっている。

b しかし,実際に使用されたのは「R9@100」(丸鋼9mm)である。

c 丸鋼は,錆びた場合,コンクリートとの一体性を失いやすい。

(エ) 耐震改修

a 建築物の耐震改修の促進に関する法律は,不特定多数の人が集まる特殊建築物(大規模店舗など)について,耐震診断を行い,必要に応じて耐震改修を行うことを求めており,同規定は,既設建物にも適用される。

b その結果,目視において同じ程度の損耗状態の建物であっても,同法施行後は,耐震改修を要する建物かどうかで客観的な交換価値が異なってくる。

c 本件建物は,同法に定める耐震改修を施していない。

d 目視を中心とする評価基準によっては,この点を評価額に反映することができない。

エ 家屋需給事情の変化

(ア) 仙台市BにあるC団地は,人口の減少と高齢化が仙台市内でも著しい地区である。そのため,本件建物の建設を計画した当初と現在とでは,商環境が大きく変化し,購買力は著しく低下している。

(イ) 本件建物の存在する地区は,「C中央」と呼ばれる団地中央の商業地域であるが,閉店した店が多い。

(ウ) 本件のC団地,Dニュータウン,Eニュータウン等において家屋需給事情の変化による減点補正をしていないのであれば,通達による評価基準の解釈又は評価基準の適用が不当である。

オ 目視による補正の限界

(ア) 評価基準による補正減価は,目視によるものであり,基礎杭のように見えない所にある欠陥原因を考慮した減価を行うことができない。

(イ) また,「非木造家屋部分別損耗減点補正率」では,不同沈下を適切に評価する項目がない。

例えば,同じ欠陥現象(傾斜やたるみ)であっても,欠陥原因が不同沈下であれば,建物の価値は大幅に下落するが,単なる小梁の損傷であれば,修理費も少額で済み価値の下落も小さい。ところが,評価基準は,不同沈下という「欠陥原因」を評価せず,傾斜やたるみという「欠陥現象」により価値を評価するものであって,不合理である。

カ A鑑定評価書

(ア) 原告は,本件建物につき,F建設株式会社(以下「F建設」という。)の現地調査・外装劣化診断を受け(甲11),同社の耐震診断を受けた(甲10)。これを踏まえて,同社から外装改修工事の見積書(甲8)と耐震補強工事の見積書(甲9)を受け取った。

(イ) A不動産鑑定士の鑑定評価書(甲7。以下「A鑑定評価書」という。)は,上記のような本件建物の現状を踏まえた上,最有効使用の判定をし,必要な補修・改修工事をした場合の工事費と工事後の建物の価格を算出している。

その結果,前者が3億2098万円余,後者が2億6637万円余となり,改修工事費が改修後の建物価格を上回るので,現在の本件建物に市場価値はないと判断した。

(ウ) A鑑定評価書は,通常の不動産鑑定評価の手法にのっとったものであり,理論的にも,実務的にも妥当な判断である。

(エ)a 被告は,A鑑定評価書が補修後の収益価格を算出して対比することをしていない点を問題視する。

しかし,本件建物の最有効使用は,3階以上は集会場,軽運動場,会議室であるが(甲7の14頁),周辺同業種との競争事情もあって収益は上げにくいし,現時点では3階以上を使用しておらず,集会場等による収益の予測は不確実とならざるを得ない。そのような事情がある本件では,収益方式での価格算出を省略しても差し支えない。

b 被告は,各種減価に基準がないことを問題視する。

しかしながら,A鑑定評価書が行った各種減価は,F建設の耐震診断報告書等(甲10,11)を参照しつつ考慮しており,その減価率の判断は適切妥当なものである。被告においてこれらの減価が不合理であると主張するのであれば,他の不動産鑑定士による減価率等を示すべきである。

キ 基礎杭部分の修繕費

(ア) 本件建物の基礎杭部分は,不特定多数の顧客が集まる店舗として,安全上放置することができず,修理を要する(甲10の35頁)。

(イ) 本件建物の基礎部分を安全なレベルに修繕するためには,少なくとも6510万円を要する(甲18,19)。

(2)  被告

ア 原告の主張ア(本件建物の価格)は否認する。

イ 同イ(基礎杭の危険性)(ア)は不知。

(ア) 同イ(基礎杭の危険性)(ア)は不知。

(イ) 同イ(イ)は認める。

(ウ) 同イ(ウ)のうち,a,bは不知,cのうち長さ18mの杭を基礎としていることは認め,その余は不知,d~gは不知。

(エ) 同イ(エ)のうち,aは不知,bのうち本件建物の東面の外壁の一部に亀裂が入っていることは認め,その余は不知,cは不知。柱の沈下量以上に床の沈下している箇所が存在するとともに,柱の沈下量よりも少ない沈下(又は隆起)をしている箇所が存在する。

(オ) 同イ(オ)は不知。

(カ)a 本件建物の基礎杭部分の瑕疵の存在は,具体的・客観的に明らかになっていない。

b 被告が行った実地調査においては,床に傾斜が生じているとは認められなかった。

c G意見書において,昭和53年宮城県沖地震で被害を受けた建物の被害調査をする参考として取り上げられた建物は,「1階の数本の柱にせん断破壊に伴う圧壊がみられ」,上部構造が解体されてしまったり(甲12の11,12頁),「傾斜が大きく屋上での水平移動量は31cm(傾斜角約1/100)」に達し(甲12の21頁),基礎部分の大規模な改修を受けているのに対し,本件建物では,基礎杭以外の部分について昭和53年宮城県沖地震直後の被害状況が明らかでないから,これらの建物の基礎杭の被害状況を参照して本件建物の基礎杭の状況を推測することは,不適切である。

また,G意見書における杭の強度に基づく被害状況の想定も,本件建物の基礎杭の現実のデータに基づかない一般的な値を用いたり,被害発生に大きな影響を与えるとしている杭の形状を杭頭・杭脚とも被害が大きくなるピン状と仮定したりするなど,仮定に基づく部分が多い。

このような重大な問題を有するG意見書においても,本件建物に「杭全体にひび割れが入り」,「一部の杭は沈下する程の破壊があったと見なされ」る(甲12の3頁)とするにとどまっているのであって,本件建物の基礎杭に重大な不具合があると断定できないことは明らかである。

(キ) 評価基準は,瑕疵による建物の損耗が目視により確認できる状況にまで達した場合に初めて,家屋の現況に応じて適正な評価額を算出することができるように構成されている。

したがって,仮に本件建物の杭に瑕疵が存在していても,本件決定時において当該瑕疵が隠れたままであり,かつ,当該瑕疵に起因する損耗も生じていなかった以上,評価基準上,当該家屋評価の基礎とすることはできない。

また,そもそも隠れたる瑕疵であったのであるから,それを見つけられずとも何らの注意義務違反もなく,本件決定に違法があるとすることはできない。

(ア) 同ウ(その他の減価要因)(ア)(変質・老朽化)a,bは不知,cのうち,本件建物に漏水が認められ,屋上防水,外壁仕上げの老朽化が見られることは認め,その余は不知,dは不知。

これらの亀裂・変形等が地震によるものとは特定できないが,外壁等の損耗については,本件決定において損耗度を8(損耗減点補正率0.25)と認定し,被告は外観から見た損耗を十分に勘案している。

(イ) 同ウ(イ)(内装)のうち,3階以上の部分の内装の傷みが著しいことは認め,その余は不知。

屋上からの漏水については,本件決定において,屋根仕上げの損耗度を10(損耗減点補正率0)と認定している。これは,評価基準で定められた最大限の損耗度認定であり,これ以上損耗度を高く認定する余地はない。さらに,3階以上の内装の損耗度については,本件決定において内部仕上げと床仕上げの損耗度を8(損耗減点補正率0.25),天井仕上げの損耗度を10(損耗減点補正率0.15)と認定しており,その損耗を十分に勘案している。

(ウ) 同ウ(ウ)(使用鉄筋)は不知。

原告の主張する使用鉄筋の点は,固定資産の評価に影響を与えない。

(エ) 同ウ(エ)(耐震改修)のうち,aは認め,b,cは不知,dは否認する。

(ア) 同エ(家屋需給事情の変化)(ア)のうち,C団地は人口の減少と高齢化が進んでいる地区であることは認め,その余は不知。

(イ) 同エ(イ)のうち,本件建物の存在する地区は「C中央」と呼ばれる商業地域であることは認め,その余は不知。

(ウ)a 通達上,評価基準において「需給事情による減点」が適用される場合は,家屋の建築様式の旧式化,所在地域の良し悪し等家屋評価上減価を考慮すべき要因がある場合であるとされ,具体的には,ア:草葺の木造家屋や旧式のれんが造の非木造家屋等,最近の建築様式等に適応しない家屋,イ:低湿地域や環境不良地域等に所在する家屋,ウ:交通の便否や人口密度等の状況を総合的に勘案して当該地域に所在する家屋の価額が減少すると認められる地域に所在する家屋に適用するものとされている(乙3の4153・18頁。昭和38年12月25日付け依命通達)。

b C団地が上記ア及びイの要件に該当せず,ウの要件についても,同団地の交通事情が仙台市内の他の地域と比べて著しく不便であるとか人口密度が著しく低いといった状況になく,同団地について家屋需給事情による減点補正が適用される状況にない。

c C団地のように,造成後数十年が経過して人口の減少と高齢化の問題を抱える団地は,全国にも相当数存在するが,東京都D市(Dニュータウン),岩手県M市,北海道H市及び大阪府I市(Eニュータウン)においても,需給事情による減点補正は実施されていない。

(ア) 同オ(目視による補正の限界)は否認する。

(イ) 評価基準上,「不同沈下等による軸部の消耗は,主体構造部において減点する。地盤の一様な沈下に対しては,使用上さしつかえない限り一応減点は行わない。杭の損耗も一応考慮しないものとする。」(乙1の174頁)と定め,主体構造部の減価で対処することにしている。

したがって,仮に基礎杭の損傷というの瑕疵が存在するとしても,主体構造部についての損耗減価で評価されている。

(ア) 同カ(A鑑定評価書)のうち,(ア)及び(イ)は不知,(ウ)は否認する。

(イ) 不動産鑑定評価基準においては,原価方式,比較方式及び収益方式を併用することが原則であるから,補修後の収益価格を算出して同価格との対比をすることが論理上必要となる。しかし,A鑑定評価書は,補修後の価格を算出して,同価格との対比をすることを省略しており,その意味で重要な柱を欠落しているものといわざるを得ない。

(ウ) A鑑定評価書の行った設備関係の残価率の評価,経済的減価,不同沈下による市場性減価等は,いずれも客観的な基準に基づくものではなく,根拠がない。

(ア) 同キ(基礎杭部分の修繕費)(ア)は否認する。

本件建物は,昭和53年宮城県沖地震後も現在まで,営業用店舗として使用されており,基礎杭部分の補修が本件建物の安全上不可欠ということはできない。

(イ) 同キ(イ)は不知。

第3当裁判所の判断

1  争点(1)(評価基準の法的拘束力の有無)について

(1)  評価基準の位置付け

ア 法349条1項は,家屋に対して課する基準年度の固定資産税の課税標準を,当該家屋の基準年度に係る賦課期日における価格で家屋課税台帳又は家屋補充課税台帳に登録されたものとすると規定し,同項にいう価格について,法341条5号は,「適正な時価」と規定している。「適正な時価」とは,正常な条件の下で成立する当該家屋の取引価格,すなわち,客観的な交換価値を意味する(前記最高裁平成15年6月26日第一小法廷判決参照)。

イ 他方,法は,固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続を自治大臣(現在は総務大臣)の告示である評価基準にゆだね(388条1項),市町村長は,評価基準によって固定資産の価格を決定しなければならないと規定している(403条1項)。これは,全国一律の統一的な評価基準による評価によって,各市町村の評価の均衡を図り,評価に関与する者の個人差に基づく評価の不均衡を解消することを目的として,適正な時価を算定するための技術的かつ細目的な基準の定めを自治大臣の告示に委任したものであって,賦課期日における適正な時価を上回る価格を算定することまでもゆだねたものではない(前記最高裁平成15年6月26日第一小法廷判決参照)。

(2)  まとめ

したがって,評価基準は法により許容された唯一の基準であり,評価基準にのっとって算定された価格は適正な時価である旨の被告の主張は,理由がない。

2  争点(2)(評価基準の一般的合理性の有無)及び争点(3)(特別の事情の有無)について

(1)  事実認定

各項に掲記の証拠によれば,次の事実が認められる(争いのない事実を含む。)。

ア 標準評点数

評点数の基礎となる再建築費評点数は,建築費のうちの工事原価に相当する。標準評点数は,評点項目(資材の種別及び品等,施工の態様等の区分)に従い,標準量(標準的な家屋の各部分別の単位当たり施工量)に対する工事費を基礎として算出されている。この標準評点数は,東京都(特別区の区域)における物価水準により算定した工事原価(資材費及びこれを施工するために要する労務費)に相当する費用に基づいて,その費用の1円を1点として表すものである。

資材費については,財団法人経済調査会の「積算資料」及び財団法人建設物価調査会の「建設物価」に掲載されている建設業者が現場で受け取る段階での各建築資材ごとの標準的な価格を基に算定されている。

(乙3の4153・32頁,弁論の全趣旨)

イ 物価水準による補正率

木造家屋の物価水準による補正率は,東京都(特別区の区域)を1.00として,各指定市(道府県庁所在市及び東京都特別区をいう。)ごとに,1.00,0.95,0.90と三段階に定められているが,非木造家屋の物価水準による補正率は,全市町村を通じて東京都(特別区の区域)と同一率である1.00とされている。

主要都市以外の指定市に所在する非木造家屋については,事務所,工場等の建物の規模,程度の差が大きく,かつ,各資料の母数が僅少な地域があるため,特定の建物が㎡当たりの単価に強く影響を与えることから,木造家屋と同様の手法によって合理的な地域格差指数を求めることは困難であること,また,非木造家屋の生産技術は,中央の企業が営業活動を全国展開し,仕事を受注する体制を採っており,中央と地方の単価に大きな差はないから,主要都市の理論的な地域差指数を基に物価水準の補正率について判断しても差し支えないものと考えられることなどから,平成15年度の評価替えの際も,すべての指定都市の補正率が1.00とされた。

(乙21)

ウ 設計管理費等による補正率

建設工事費は,建材費,労務費等の直接工事費と,設計管理費等(設計料,現場管理費,一般管理費,利潤等)の間接工事費とに分けられ,間接工事費は,コスト要因の積上げによる算出が困難なため,直接工事費に対する率を乗じて積算されている。

設計管理費等による補正率は,全市町村を通じて,非木造家屋については1.10とされている。

社団法人宮城県建築士事務所協会発行のパンフレットによれば,貸事務所の設計監理料の算定例においても10%を超えている。

よって,非木造家屋の設計管理費等による補正率1.10は,合理性を有する。

(乙21,24,弁論の全趣旨)

エ 経過年数

(ア) 固定資産税の建物の経過年数(耐用年数)については,国税の考え方を参考として定められてきているが,経年減点補正率における経過年数は,平成5年に改正され,非木造家屋についてはほとんどの用途構造で,概ね大蔵省令(乙1の227頁)と一致することとされた。

(イ) 平成5年の経過年数の改正に当たっては,社団法人日本建築学会に委託して,部位別による算定方法と家屋の滅失状況による算定方法により短縮の是非が検討され,その結果,短縮することが適当であるとされた。

滅失状況調査は,全国都道府県庁所在市46市(那覇市を除く。)に川崎市と北九州市を加えた合計48市の固定資産課税台帳を基に,残存棟数と除却棟数から平均的な建物の残存年数を推計したもので,建築年次別に半数(50%)が滅失する年数を寿命値と考えるものである。状況としては,相当数の年数短縮が認められたが,滅失状況調査による年数短縮は物理的には十分使用可能であるのに,所有者の事情(土地絡み,使用収益,利用効率等)で取り壊され,寿命が短縮されているものがあって,税の立場からは課題が残ることから,これを参考とし,かつて国税で検討されたといわれる部位別による算定方法により理論上の年数を検討することとされた。

(ウ) 上記の説明には,分かりにくい点があるが,実際には建物が早期に取り壊されているのに,固定資産税の観点から修正を加えていることを意味するのであれば,そのような取扱いに,評価基準による価格と客観的交換価値とのずれが生じる契機が存在することになる。

(甲14,乙1,20)

オ 残価率

(ア) 一定経過年数以後の最終残価率は,0.20とされているが,これは,通常の維持管理を継続して行った場合,家屋の効用を発揮し得る最低限を捉えるとした場合には,経過年数による損耗度合からみて家屋の残価は20%程度が限度という考え方に立っている。

(イ) 上記説明にも,分かりにくい点がある。上記説明は,通常の維持管理を継続して行い,家屋の効用を発揮している以上,最低20%の残価があることを説明しているというよりは,一定年数が経過した以上,残価として評価し得るのは,最大20%であることを説明していると理解することもできる。

(ウ) 税務会計上の減価償却資産(建物)の残価率は,10%となっている。

(乙1の277頁,乙16,弁論の全趣旨)

カ 需給事情について

(ア) 前記のとおり,評価基準上,建築様式が著しく旧式となっている非木造家屋,所在地域の状況によりその価額が減少すると認められる非木造家屋等について,その減少する価額の範囲において需給事情による減点補正をするとされているが,昭和38年12月25日付け依命通達では,評価基準において「需給事情による減点」が適用される場合は,家屋の建築様式の旧式化,所在地域の良し悪し等家屋評価上減価を考慮すべき要因がある場合であるとされ,具体的には,ア:草葺の木造家屋や旧式のれんが造の非木造家屋等,最近の建築様式等に適応しない家屋,イ:低湿地域や環境不良地域等に所在する家屋,ウ:交通の便否や人口密度等の状況を総合的に勘案して当該地域に所在する家屋の価額が減少すると認められる地域に所在する家屋に適用するものと解されている。

(乙3の4153・18頁)

(イ) 仙台市BにあるC団地は,人口の減少と高齢化が仙台市内でも相当進んだ地区である。そのため,本件建物の建設を計画した当初と現在とでは商環境が大きく変化し,購買力は相当低下している。本件建物の存在する地区は,「C中央」と呼ばれる団地中央の商業地域であるが,閉店した店が相当ある。

(争いのない事実,証人A(甲6,7を含む。以下,同じ。),弁論の全趣旨)

(ウ) 需要と供給の原則からすると,上記(イ)の事情は,土地の価格だけでなく,建物の価格にも影響すると考えられるから,評価基準の適用において,再建築費の価格を低くしている等の理由により需給事情を理由とする減価を行わなくても客観的な交換価値を上回ることがないとの事情が認められない限り,C団地に所在する本件建物について,需給事情を理由とする減価を行うべきであると考えられる。

(エ) 被告は,C団地は通達の要件を満たさず,他の同様の都市においても需給事情による減点補正はされていないから,需給事情を理由とする減価を行う必要がない旨主張するが,上記の理由により採用することができない。

キ 再建築価格方式採用の理由の当否

(ア) 評価基準が家屋について再建築価格方式を採用した理由は,再建築価格は,家屋の価格の構成要素として基本的なものであり,その評価の方式化も比較的容易であり,また建築物価等の個別の事情による偏差や建築の時点の差異等を取り除き,家屋の資産価値を客観的に把握できること,これに対し,①家屋の取得時における取得価格を基準とする評価方法は,取得価格の形成に取引当事者間の個別事情等(取得者と売主又は建築主との関係,建築時期における建築資材の価格の相違等)の影響があること,在来分家屋においては,取得価格の不明なものが多いと思われたことなどから直ちに取得価格を正常価格とみなすことは難しく,適当でないこと,②類似家屋の売買実例価格を基準とする評価方法も,売買実例価格に個別的事情が含まれ,③また,家屋が土地と一体となって売買される場合,家屋部分の価格を適正に把握することが困難であることなどから適当ではないこと,さらに,④賃貸料等の収益を基準とする方法も,家屋の賃貸料等が借主と貸主との間の個別事情等により価格形成がなされることなどから,賃貸料等を基準として求めた価格が正常価格とみなすことは難しいと考えられたためである。

(乙6の40~42頁)。

(イ) しかしながら,これらの理由を不動産鑑定評価基準の観点から検討すると,①家屋の取得時における取得価格を基準とする評価方法及び②類似家屋の売買実例価格を基準とする評価方法における特殊事情は,その特殊事情を考慮して各種の修正を加えることの理由とはなっても,取引事例比較法の採用そのものを否定する理由とはなり得ないと考えられる。

また,④賃貸料等の収益を基準とする方法について,家屋の賃貸料等が借主と貸主との間の個別事情があることも,同様に,その特殊事情を考慮して各種の修正を加えることの理由とはなっても,収益還元法の採用そのものを否定する理由とはなり得ないと考えられる。

③家屋が土地と一体となって売買される点も,土地と建物は法制上別個の不動産とされているが,通常は一体として売買されざるを得ない実態を前提とする限り,一体としての売買が通常の事態なのであって,家屋だけの公開された合理的な市場を想定することの方が実際的ではない。

ク 再建築価格方式による価格と適正な時価

(ア) 不動産鑑定評価基準が正常な条件の下で成立する家屋の取引価格,すなわち,客観的な交換価値を算定するための基準であることは,明らかである。

(イ) 再建築価格方式により算定された価格が不動産鑑定評価基準の観点から見た「適正な時価」を超えていないかについては,疑問が生じる。

すなわち,店舗用建物のうち鉄筋コンクリート造の例で検討すると,残価率が20%とされ,残りの80%を50年にわたり定額法で減価するため(乙1の166頁),10年経過で16%,20年経過で32%の減価にとどまる。

これに対し,不動産鑑定評価基準による価格は,減価率が評価基準よりも大きく,残価率も低いことがうかがわれる(甲13,証人A,弁論の全趣旨)。

(ウ) 評価基準に従い,再建築価格方式により算定する際,再建築費を実際よりも低く把握する方法を採用すれば,再建築価格方式により算定された価格が不動産鑑定評価基準による価格を上回る事態を少なくすることができる。

また,木造家屋,及び非木造家屋のうち住宅,アパート用建物のように,初期減価率を初年度0.80,2年度0.75,3年度0.70とすれば(乙1の76頁,165頁,乙17),同様に,再建築価格方式により算定された価格が不動産鑑定評価基準による価格を上回る事態を少なくすることができる。

ケ 基礎杭の危険性について

(ア) 本件建物は,昭和53年宮城県沖地震を経験した。同地震の地震動は,南北方向に強かった。

(争いのない事実,甲12(1978年宮城県沖地震災害調査報告))

(イ) 本件建物1階の柱脚部付近に,北側が沈み込む形で,最大で89mm,平均して60mmの高低差となる不同沈下が認められる。また,1階土間スラブ中央部には,大きなたわみ部分が認められる。

施工誤差と考えられる高低差は,多くても10mm程度である。

(甲11(45頁),証人G(甲12,15を含む。以下「証人G」という。))

(ウ) 本件建物は,北北西に向かって下がる谷の斜面及び谷底だった場所に建築された。

(甲7,証人A,弁論の全趣旨)

(エ) 盛土部分の地盤は,軟弱であり,また,斜面上の盛土は,地震により移動しやすい。

(証人G)

(オ) 本件建物の基礎杭は,東南では短く,支持基盤が深くなる北や北西部分では18m(9m×2本を連結している。)の杭を基礎として建築されたが,基礎杭が構造計算上最低限の本数しか打たれていない。

また,本件建物の設計当時,水平方向の支持力の計算は法令上義務付けられていなかったが,本件建物についても,水平方向の支持力が計算された形跡はない。

(争いのない事実,甲10,証人G)

(カ) 本件建物の東面の外壁を観察すると,壁面に北側が沈下したことと合致する右上から左下方向の多数の亀裂が入っており,構造亀裂(構造に影響する亀裂)の存在も予測される。

(争いのない事実,甲11,証人G)

(キ) 基礎杭は,通常,工事現場でこれ以上めり込まないという支持地盤まで打ち込まれ,フーチング(コンクリートのベース)の厚さも十分になるよう設計段階で計算されているため,基礎杭が支持地盤に更にめり込むということは考え難い。

(証人G,弁論の全趣旨)

(ク) 本件建物は,6階建てのブロック型構造物であるが,高層の建物ほど建物の上部が大きく振り子のように振動するロッキング運動を起こしやすく,それによって,基礎杭に損傷が発生しやすい。

(証人G)

(ケ) 本件建物では,400mm径及び450mm径のPC杭のA種が使用された。

昭和53年宮城県沖地震の地震動の強さの幅を取り,杭長が大きいほど水平力の分担が大きくなることを考慮し,本件建物が建設された当時の一般的な杭の最大曲げモーメントとの関係を考察した表(甲12の5頁)によれば,杭長が大きいものほどひび割れ曲げモーメントの上部にはみ出し,破壊曲げモーメントに近い数値となる。このことは,本件建物の基礎杭が,全体にひび割れ領域にあり,杭の一部は破壊領域に入った可能性があることを示している。

(証人G)

(コ) 以上の事実を総合すれば,本件建物の不同沈下の原因は,本件建物の北側の基礎杭が接合部分で折れ曲がったか,基礎杭全体が傾いたか,又は杭が座屈破壊されたかのいずれかにあると推認することができる。

そして,不特定多数の顧客が集まる店舗である本件建物の基礎杭をこのまま放置することは,安全上極めて問題であり,当然修理を要する。

(サ)a 被告は,基礎杭よりも床部分においても基礎杭の沈下レベルよりも大きい沈下があること等を主張するが,これは,床がたわんだためであると合理的に説明でき(証人G),上記認定を左右するものではない。

b 被告は,本件建物の基礎杭の現実のデータに基づかない一般的な値を用いたり,杭の形状を杭頭・杭脚ともピン状と仮定した点を問題とするが,一般的な値については裏付けがあるし(甲12の6頁),柱頭部は,設計上ベースに食い込ませる深さが5cmとなっているため,ピン状とならざるを得ないものであり,柱脚部も,打撃だけの杭打込みではピン状とならざるを得ないこと(証人G)を考慮すると,被告の上記指摘は,前提を欠き,上記認定を左右するものではない。

(シ) 杭の補修費

本件建物の基礎部分を安全なレベルに修繕するためには,少なくとも6510万円を要する。

(甲18,19)

コ 評価基準における基礎杭の損傷の評価

(ア) 評価基準上,「不同沈下等による軸部の消耗は,主体構造部において減点する。地盤の一様な沈下に対しては,使用上さしつかえない限り一応減点は行わない。杭の損耗も一応考慮しないものとする。」(乙1の174頁)と定め,主体構造部の減価で対処することにしている。

(乙1)

(イ) 建物の基礎杭自体について損傷が認められれば,当該建物の取引価格に大きな影響を与えることは明らかである。阪神淡路大震災後は,その影響は更に大きくなり,店舗である本件建物については,特に顕著であると考えられる(建築物の耐震改修の促進に関する法律2条参照)。

(ウ) したがって,原則として杭の損耗の点を考慮しないという上記(ア)の評価方法による価格は,客観的な取引価格を超えるおそれがある。

サ 変質・老朽化について

(ア) 本件建物の外壁には,多数の変質・老朽化した部分が存在する。

また,外部梁型などに鉄筋腐食による被りコンクリート剥離が生じている部分があるし,鉄筋被り厚さまでのコンクリート中性化進行が認められる部分もある。

屋上や外壁からの漏水個所が多数認められ,屋上防水,外壁仕上げとも,全体的に老朽化が相当進んでいる。

これらは,構造体耐久性に影響を与える状態に至っている。

(争いのない事実,甲10,11,弁論の全趣旨)

(イ) 前記のとおり,被告は,外壁等の損耗については,外部仕上げの損耗度を8(損耗減点補正率0.25)と認定し,屋上からの漏水やコンクリートの鉄筋位置までの中性化及び仕上げ材の著しい剥落については,屋根仕上げの損耗度を10(損耗減点補正率0)と認定している。

シ 内装について

(ア) 本件建物の漏水がひどいため,3階以上は使用不能であり,内装は荒廃している。

(争いのない事実,甲10,11)

(イ) 前記のとおり,被告は,内装の点については,き裂,そうこんが著しくかつ深いもの又は変質,腐しょくの著しいもの(損耗度8,減点補正率0.25),天井仕上げの点については,き裂が浮き上り,変質,腐しょくのため脱落の大きいもの(損耗度10,減点補正率0.15)と認定している。

ス 使用鉄筋について

(ア) 柱フープ筋については,設計図によると「D10@100」(異形鉄筋10mm)となっているが,実際に使用されているのは「R9@100」(丸鋼9mm)である。

(イ) 丸鋼は,錆びた場合,コンクリートとの一体性を失いやすい。

(甲7,11)

セ A鑑定評価書について

(ア) 原告は,本件建物につき,F建設の現地調査・外装劣化診断を受け(甲11),同社の耐震診断を受けた(甲10)。これを踏まえて,同社から外装改修工事の見積書(甲8)と耐震補強工事の見積書(甲9)を受け取った。

(イ) A鑑定評価書(甲7)は,上記のような本件建物の現状を踏まえた上,最有効使用を1,2階は店舗,3ないし5階を集会場,会議室等と判定し,必要な補修・改修工事をした場合の工事費(ただし,基礎杭部分の修繕費は含まない。)と工事後の建物の価格を算出したところ,前者が3億2098万円余となり,後者が2億6637万円余となった。

改修工事費が改修後の建物価格を上回るため,現在の本件建物に市場価値はないと判断した。

工事後の建物価格の算定に当たっては,再調達原価を17万2100円/㎡とし(再調達原価がもっと高いことを示す証拠はない。),物理的減価については,建築と設備の割合を65.77対34.23とし,建築の残価率を44%(22年/50年),設備のそれを10%とし,経済的減価については,残存耐用年数に対する危惧を理由に17%の減価,不同沈下に対する危惧を理由に20%の減価,集会場等につき付近の公共施設との競合を理由に10%の減価とし,機能的減価として,改修により売場に視界をさえぎる壁が設置されることを理由に,1階で10%,2階で5%とした。

(ウ) A鑑定評価書の鑑定評価額の算出過程は,相当なものであると考えられる。

(エ)a 被告は,A鑑定評価書が補修後の収益価格を算出しなかったことを問題視する。

しかしながら,A鑑定評価書が補修後の収益価格を算出しなかったのは,本件建物の最有効使用は,3階以上は集会場等であるが,付近の公共施設と競争する事情もあって収益は上げにくいし,現時点では3階以上を使用しておらず,集会場等による収益の予測は不確実とならざるを得ないため,本件では,収益方式での価格を算出しても,原価法による価格を上回る結果が出ることはないと考えたためであるが(証人A),この説明は,首肯することができる。

b 被告は,各種減価に基準がないことを問題視する。

確かに,不動産鑑定士の中でもこのような減価についてある程度の幅があることは容易に推測することができるが,A鑑定評価書が行った各種減価率は,その理由と対比すると,妥当なものと考えられるし,A鑑定評価書の減価率が不当なものであることを示す他の不動産鑑定士による鑑定書等の提出はないから,被告の上記主張は,理由がない。

(2)  判断

ア 以上の事実によれば,評価基準により算定された本件建物の価格は,毎年の減価率が低く,経過年数(耐用年数)後の残価率が高いため,客観的な交換価値を上回るおそれがあるといわなければならない。C団地は人口の減少と高齢化が仙台市内でも相当進んだ地区であることを考慮すると,そのおそれは更に強くなる。

前記のとおり,評価基準における再調達原価が実際の再建築費よりも低く認定されれば,評価基準による価格が不動産鑑定評価基準による価格を上回る事態を少なくすることができるが,本件におけるように,経過年数が26年となった場合においても,上回る事態を避けるほどに評価基準における再調達原価が低く把握されているものとまで認めることはできない。

しかも,本件建物の北側基礎杭は,基礎杭が接合部分で折れ曲がった等の理由で基礎杭としての役割を果たしていない状態にあり,それが原因で不同沈下が生じているものであるが,原則として杭の損耗の点を考慮しないという評価基準による評価額は,客観的な取引価格を超えるおそれがある。

イ これらの事実からすると,被告がした平成12年度における本件建物の評価の方法に一般的な合理性があると認めることはできない。

仮に一般的な合理性は認められるとしても,被告が算出した平成12年度における本件建物の価格には,評価基準が定める減点補正を超える減価を要する特別の事情があるといわなければならない。

ウ A鑑定評価書の鑑定評価額の算出過程が相当であることは,前記のとおりであるから,本件建物の価格が原告の自認する1億7828万円を超えることを認めるに足りる証拠はないといわなければならない。

エ 被告は,基礎杭の瑕疵が隠れたままで,それに起因する損耗も生じていなかった以上,評価基準上,当該家屋を評価する際の基礎とすることはできない旨主張する。

しかしながら,前記のとおり,本件建物には基礎杭の瑕疵をうかがわせる不同沈下があったものであるから,瑕疵が隠れたままであったとは必ずしもいえない上,仮に瑕疵が隠れたままであったとしても,平成12年1月1日当時客観的に基礎杭に瑕疵が存在した以上,固定資産の評価において当該瑕疵を考慮すべきであるから,それを考慮しなかった被告の本件決定には違法があるといわざるを得ない。仙台市長等に過失がない点も,客観的に存在した瑕疵を固定資産の評価に当たり考慮すべきかの問題には関係しないと考えられる。したがって,被告の上記主張は理由がない。

3  結論

よって,原告の本訴請求は,理由があるから認容し,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 市川正巳 裁判官 髙木勝己 裁判官 櫻庭広樹)

<以下省略>

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