仙台地方裁判所 平成13年(行ウ)23号 判決 2003年7月24日
主文
1 本件訴え中,被告に対し,次の支払に関する損害賠償及びこれらに対する平成13年12月22日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金をA町に支払うことを求める部分を却下する。
・※ 平成12年6月30日,社会教育指導員に対し,特別謝礼金として支払われた13万7375円,
・※ 平成12年6月30日,B公民館長に対し,特別謝礼金として支払われた17万2250円,
・※ 平成12年6月30日,体育施設運営指導員に対し,特別謝礼金として支払われた9万7750円,
・※ 平成12年4月から同年9月まで,体育施設運営指導員に対し,謝礼金として支払われた69万円,
・※ 平成12年4月から同年9月まで,C展示解説員2名に対し,謝礼金として支払われた132万円,
・※ 平成12年4月から同年9月まで,国体推進員2名に対し,謝礼金として支払われた102万円
2 被告は,A町に対し,金75万5035円及びこれに対する平成13年12月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は,これを4分し,その3を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
事実
第1当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
・※ 被告は,A町に対し,金722万2410円及びこれに対する平成13年12月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
・※ 訴訟費用は被告の負担とする。
2 本案前の答弁
本件訴え中,被告に対し,次の支払に関する損害賠償及びこれらに対する平成13年12月22日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金をA町に支払うことを求める部分を却下する。
・※ 主文第1項・※と同旨,
・※ 主文第1項・※と同旨,
・※ 主文第1項・※と同旨,
・※ 平成12年4月から同年8月まで,体育施設運営指導員に対し,謝礼金として支払われた57万5000円,
・※ 平成12年4月から同年8月まで,C展示解説員2名に対し,謝礼金として支払われた110万円,
・※ 平成12年4月から同年8月まで,国体推進員2名に対し,謝礼金として支払われた85万円
3 請求の趣旨に対する答弁
・※ 原告の請求をいずれも棄却する。
・※ 訴訟費用は原告の負担とする。
第2当事者の主張
1 請求原因
・※ 当事者
ア 原告は,A町の住民であり,平成12年1月1日から現在まで,A町議会議員の地位にある。
イ 被告は,平成7年5月30日から現在まで,A町長の地位にある。
・※ 本件各支出
ア 特別謝礼金の支出
A町は,特別謝礼金として,次の者に対し,aの金員を,bの予算科目(地方自治法施行令150条,地方自治法施行規則15条及びA町財務規則(平成12年規則第1号。証拠略)14条)から支出した(以下「本件特別謝礼金支出」という。)。各支出についてされた支出負担行為及び支出命令の日は,かっこ内記載のとおりである。
・※ 社会教育指導員
a 平成12年 6月30日(同月22日) 13万7375円,
同 年12月 8日(同月 1日) 19万2325円,
平成13年 3月15日(同月 7日) 3万2970円,
合計 36万2670円
b 款・※教育費,項・※社会教育費,目・※社会教育総務費,節・※報償費
・※ B公民館長
a 平成12年 6月30日(同月22日) 17万2250円,
同 年12月 8日(同月 1日) 24万1150円,
平成13年 3月15日(同月 7日) 4万1340円,
合計 45万4740円
b 款・※教育費,項・※社会教育費,目・※公民館費,節・※報償費
・※ 体育施設運営指導員
a 平成12年 6月30日(同月22日) 9万7750円,
同 年12月 8日(同月 1日) 21万2750円,
平成13年 3月15日(同月 7日) 3万4500円,
合計 34万5000円
b 款・※教育費,項・※保健体育費,目・※体育施設費,節・※報償費
イ 謝礼金の支出
A町は,謝礼金として,次の者に対し,aの金員を,bの予算科目から支出した(以下「本件謝礼金支出」といい,本件特別謝礼金支出と合わせて,「本件各支出」という。)。各支出についてされた支出負担行為及び支出命令の日は,かっこ内記載のとおりである。
・※ 体育施設運営指導員
a 平成12年4月から平成13年3月まで,毎月21日までに(各月の12日までに),各11万5000円,合計138万円
b 款・※教育費,項・※保健体育費,目・※体育施設費,節・※報償費
・※ C展示解説員2名
a 平成12年4月から平成13年3月まで,毎月21日までに(各月の12日までに),各11万円,合計264万円
b 款・※教育費,項・※社会教育費,目・※C管理費,節・※報償費
・※ 国体推進員2名
a 平成12年4月から平成13年3月まで,毎月21日までに(各月の12日までに),各8万5000円,合計204万円
b 款・※教育費,項・※保健体育費,目・※国体推進費,節・※報償費
・※ 支出負担行為等
被告は,A町長として,本件各支出につき,支出負担行為及び支出命令をした。
・※ 支出負担行為等の違法
ア 報償費としての支出負担行為等
・※ 社会教育指導員,B公民館長,体育施設運営指導員,C展示解説員及び国体推進員(以下「本件各職員」という。)は,A町の非常勤特別職職員である(地方公務員法3条3項3号「嘱託員」)。
・※ したがって,本件各職員の勤務の代償として,報償費を支出することは許されない。
・※a しかも,本件各職員には,時間外手当を支給するに足りる勤務実態もない。
b 仮に残業等があったとしても,賃金請求権は,労働者が使用者の明示又は黙示の指揮命令に従って労働の提供をしたことにより発生するものであるから,本件のように指揮命令が確認できない状態では,本件各職員の賃金請求権は認められない。
イ 報酬としての支出負担行為等
・※ 本件条例の定め
a 仮に報酬としての支出負担行為等の適否について検討しても,報酬の支払は条例の根拠を要するところ(地方自治法203条1項,2項及び5項),「特別職の職員で非常勤のものの報酬及び費用弁償に関する条例」(昭和31年条例第13号。証拠略。以下「本件条例」という。)1条,別表第二は,社会教育指導員,B公民館長及び体育施設運営指導員に対する特別謝礼金についての定めを有しない。
b また,本件条例1条,別表第二は,体育施設運営指導員,C展示解説員及び国体推進員に対する謝礼金についての定めを有しない。
c したがって,本件各支出は,報酬支給の根拠を欠き,違法である。
d 被告は,本件条例1条1項ただし書の適用を主張するが,単に報酬の支給根拠のみを定め,具体的な額,支給要件等の基本的事項を任命権者らに委任することは,給与条例主義に反し違法であるから,支出上の根拠とはなり得ない。
しかも,任命権者がA町長と協議して定めたものは,報償費としての額であり,報酬額についての協議はされていない。
・※ 予算科目の流用
体育施設運営指導員,C展示解説員及び国体推進員に対する報酬を報償費(第8節)から支出することは,違法である。
・※ 被告の任用関係の主張(後記2・※イ・※)は否認する。本件条例に体育施設運営指導員らに対する支出の根拠となる定めがない以上,直ちに任命行為の無効措置を採り,支出を中止すべきであった。
・※ 被告の故意・※過失
ア 自ら支出負担行為等をした場合
被告は,本件各支出をしてはならないことを知りながら,又は過失によりこれを知らないで,本件各支出につき,支出負担行為及び支出命令をした。
殊に,特別謝礼金については,被告は,期末手当として支給する場合は条例の根拠が必要であることを知っていたため,条例によらずに支出可能な報償費に予算計上したものと考えられる。
イ 専決の場合
・※ 仮に本件各支出につき専決がされたとしても,専決は,内部的に委任をするのみで,権限自体は委譲しないものであるから,被告は,専決者の行った行為すべてにつき責任を負う。
・※a 被告が負う責任が監督責任であるとしても,被告には,専決者の違法な本件各支出を阻止すべき監督義務に反したことについて,故意・過失がある。
b すなわち,原告は,平成12年9月の平成11年度A町議会の決算審査特別委員会文教民生分科会で,本件各職員への支出が報償費から支出されていることに問題がある旨を指摘した。この指摘については,執行部に伝えるとのまとめがされ,被告に伝えられた。
c また,平成13年3月の平成13年度A町議会の予算審査特別委員会文教民生分科会においても,原告は,本件各支出と同様の支出が報償費として予算計上されていることにつき疑義を述べた。
d 被告は,A町の財政係長や課長職を歴任し,財務会計に精通していた。
・※ 損害
ア 本件条例上の根拠なくしてされた本件各支出は,そのままA町の損害に当たる。
イ・※ 被告は,本件特別謝礼金支出につき,社会教育指導員らが労働を提供したことを主張するが,社会教育指導員らに対し時間外勤務等を命じたことはなかったから,それらの労働の提供に対し,本件特別謝礼金支出を行う必要はなかった。
・※ 本件謝礼金支出につき,仮にそれに対応する労働の提供があったとしても,本件条例に本件謝礼金支出の根拠となる定めがない以上,被告としては,直ちに任命行為の無効措置を採らせ,本件謝礼金支出を中止させるべきであった。
・※ 監査請求前置
ア 本件監査請求
原告は,A町監査委員に対し,平成13年9月18日,本件各支出について,住民監査請求をした(以下「本件監査請求」という。)。
イ 監査結果
A町監査委員は,原告に対し,同年11月15日,次の内容の監査結果を通知した。
・※ 本件各支出のうち,平成12年9月17日以前のものについては,監査請求期間の経過を理由に却下する。
・※ 同月18日以降のものにつき,本件監査請求は理由がある。被告に対し,報酬としての意味合いの強い謝礼金及び特別謝礼金の支給方法について,30日以内に,適正で明確な関係規定を整備することを勧告するが,損害賠償の支払等は命じない。
ウ 監査請求期間の起算日
・※ 本件のように,支出が相当期間継続する場合,任命期間の終了日をもって,監査請求期間の起算日と解するのが相当である。
・※ 本件各職員の任命期間の終了日は,平成13年3月31日以降であった。
・※ よって,同年9月18日にした本件監査請求は,監査請求期間を徒過していない。
エ 正当な理由
・※a 原告は,平成12年9月,平成11年度決算審査特別委員会の文教民生分科会において,本件各支出と同じ内容の支出が報償費の内容に合致するかを質問したが,A町の担当者は,それらの支出が謝礼であるので,報償費から支出することに問題はないと説明した。
b 原告は,本件に関わる当該職員の身分を示すよう求めたが,明確な説明がなかった。
c A町の担当者は,その後も,本件各支出が報酬(第1節)から支出すべき性質のものであるのに,報償費(第8節)として支出すべき性質であるかのように説明し,また,それが長い間の慣行であり,他町でも同様に行われている旨説明した。
d そのため,原告は,地方公共団体の歳入歳出科目解説書,地方自治法,地方自治法施行令,地方自治法施行規則,A町の条例・規則を精査しなければならなかった。
・※a 原告は,平成13年9月5日の定例議会において,平成12年度一般会計決算の認定が提案されたため,本件各支出がされたことを初めて知った。
b 当時のA町には,情報公開条例が制定されていなかったので,平成12年度中に,本件各支出がされたことを知る手段がなかった。
・※ そして,原告は,本件各支出が行われたことを知った後,2週間以内に本件監査請求をした。
・※ よって,本件各支出の行われた日から1年以内に監査請求を行わなかったことにつき,地方自治法242条2項ただし書の正当な理由がある。
・※ 結論
よって,原告は,被告に対し,地方自治法242条の2第1項4号前段に基づき,A町に代位し,損害賠償として合計722万2410円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成13年12月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金をA町に支払うことを求める。
2 請求原因に対する認否及び被告の主張
・※ 請求原因・※(当事者)は認める。
・※ 同・※(本件各支出)は認める。
・※ 同・※(支出負担行為等)は否認する。
本件各支出の支出負担行為及び支出命令は,教育委員会等への事務の委任及び補助執行に関する規則(昭和58年規則第17号。証拠略)5条,A町役場決裁規程(平成3年訓令(甲)第1号。証拠略)3条3項,別表一により,教育長の専決事項であり,いずれも教育長が専決した。
・※ 同・※(支出負担行為等の違法)
ア・※ ア(報償費としての支出負担行為等)のうち,・※は認める。・※及び・※は否認する。
・※a 社会教育指導員の勤務時間は,1週間当たり30時間以内となり,しかも,時間外勤務手当,休日勤務手当の制度は存在しない(A町社会教育指導員設置規則(昭和59年教育委員会規則第2号。証拠略)5条,職員の勤務時間,休暇等に関する条例(平成7年条例第5号。証拠略。以下「勤務時間等条例」という。)2条)。
b しかし,社会教育指導員は,職務上の必要により,前記の勤務時間を超えた勤務や休日の勤務を行わざるを得ない場合が少なからずあり,現実に,時間外勤務や休日勤務を行った。
c そこで,教育委員会は,これまで,社会教育指導員につき,制度としては存在しないが現実にはしてもらわざるを得ない時間外あるいは休日における役務の提供に対する補償を行うことが必要であると判断し,そのような役務の提供に対する謝礼又は報償の趣旨で,報償費から特別謝礼金を支出した。
d よって,社会教育指導員に対し,報償費から特別謝礼金を支出したことに違法はない。
・※a B公民館長については,職員の勤務時間,休暇等に関する規則(平成11年規則第9号。証拠略。以下「勤務時間等規則」という。)23条が類推適用され,その勤務時間は,1週間当たり30時間以内となる。
b 平成12年度当時のB公民館長の勤務実態は,勤務時間外の勤務がはっきりしているものだけでも367時間あり,この部分については,本件条例で定める報酬額では評価しきれない稼働部分が生じる。
c そこで,教育委員会は,上記報酬額では評価しきれない稼働部分について報償するため,報償費から特別謝礼金を支出した。
d よって,B公民館長に対し,報償費から特別謝礼金を支出したことに違法はない。
イ・※a イ(報酬としての支出負担行為等)・※aのうち,本件条例が体育施設運営指導員に対する特別謝礼金についての定めを有しないことは否認し,その余は認める。bは否認する。cは争う。
b 本件条例1条1項ただし書は,地方公務員法3条3項3号の特別職職員(嘱託員)については,予算の範囲内において任命権者が町長と協議して定める額の報酬を支給する旨定めている。これは,本件条例別表の対象外の職員であっても勤務に応じた報酬を支給する必要があるところ,あらゆる嘱託員につき報酬額を個別に規定することはできないことから,「予算の範囲内において」「任命権者が町長と協議して」との要件で,合理的範囲内で報酬を支給する旨定めたものである。
そして,任命権者である教育委員会又は教育長は,町長と協議して,体育施設運営指導員,C展示解説員及び国体推進員に対する報酬(体育施設運営指導員については,謝礼金及び特別謝礼金として)を定めたものである。
なお,名目は,謝礼金及び特別謝礼金であっても,実質は報酬について協議したものである。
c 殊に,体育施設運営指導員は,勤務時間等規則23条が類推適用され,その勤務時間は,1週間当たり30時間以内となる。
ところで,体育施設運営指導員の任命権者である教育委員会は,設置初年度である平成8年度の体育施設運営指導員について,勤務時間につき,1週当たり40時間,勤務日につき,1週5日,土日祝日等変則勤務,報酬につき,月額10万4000円,「特別賞与」年3回との条件で募集し,甲を採用した。教育委員会が町長部局に対してした平成8年度の予算要求では,月額の報酬部分につき報償費に「謝礼金」として,上記の特別賞与分につき同じ節に「特別謝礼金」としてそれぞれ計上して要求し,これが容れられて予算に計上された。その後,教育委員会は,平成12年度まで,毎年4月,甲の任用を更新したが,その更新の際の任用条件は,若干の報酬額の変動はあったものの,その他は全く同じであった。また,予算への計上も,平成8年度と同様の経過で,平成8年度と同じ款項目節に同じ方法でされた。
上記事実からすると,体育施設運営指導員の報酬については,月額による部分,年3回の特別賞与の部分のいずれについても,本件条例1条1項ただし書に従って定められたものである。
・※a イ・※(予算科目の流用)は否認する。
b 体育施設運営指導員,C展示解説員及び国体推進員に係る謝礼金(体育施設運営指導員については,特別謝礼金も)は,本来,報酬(第1節)から支出すべきものを同一款項目の報償費(第8節)から支出されたものであり,単に予算科目の誤りにすぎず,地方自治法220条(歳出予算の違法な流用)には該当しないし,同法203条,204条の2(給与条例主義)に違反するものでもない。
・※ 任用関係の成立
a また,体育施設運営指導員,C展示解説員及び国体推進員に任命された職員とA町との間には,適法かつ有効に任用関係が成立しており,かつA町は,それらの職員から任用条件に従った勤務の提供を受けていたのであるから,A町はそれに対する対価を支払うべき義務を負っていた。
b したがって,教育長が適法かつ有効に成立した任用関係に従った支出負担行為及び支出命令をしたことに違法はない。
・※ 同・※(被告の故意・過失)
ア ア(自ら支出負担行為等をした場合)は否認する。
イ イ(専決の場合)・※は争う。イ・※aは否認する。bのうち,原告の指摘が被告に伝えられたことは否認し,その余は認める。cは認める。dのうち,被告は,A町の財政係長や課長職を歴任したことは認め,その余は否認する。
ウ・※a 特別謝礼金は,社会教育指導員に対しては昭和56年度以降,B公民館長に対しては昭和46年から昭和55年まで及び昭和59年度以降,体育施設運営指導員に対しては平成8年度以降,報償費から支払われていた。
b 謝礼金は,体育施設運営指導員に対しては平成8年度以降,C展示解説員に対しては平成5年度以降,国体推進員に対しては平成11年度以降,報償費から支払われてきた。
・※a しかしながら,報償費からの支出が違法であることに気付いた関係者はいなかった。
b A町は,毎年,前年度の決算統計書類について宮城県の審査を受けていたが,特別謝礼金の支出について問題があるとの指摘を受けたことはなかった。
・※a A町長である被告は,歳出予算案について,助役及び総務課長合同の査定会議による査定結果を受けた後,重点的な施策について,助役,総務課長及び事業主管課長等の説明を受け,政策的事業や,新規の多額に上る事務費等について,財源を考慮して査定を行い,予算案を決定して,議会に提出する。
b しかしながら,本件各支出のように前例踏襲的なものについては,特別に説明されることはなかった。
c 決算認定の際も,同様であった。
・※a 平成12年9月の原告の疑義は,平成11年度決算審査特別委員会の文教民生分科会から決算審査特別委員会へは報告されず,被告にも報告されなかった。
b 平成11年度決算は,全会一致で可決された。
・※a 平成13年度予算審査特別委員会の文教民生分科会は,予算審査特別委員長に対し,予算は適正である旨の報告をし,原告から提出された疑義は,口頭で意見を付することにとどまった。
b そして,平成13年度予算は,原案のとおり可決された。
・※a 平成13年9月定例議会において,平成12年度決算が審査された際,文教民生分科会において,原告から同様の意見が出され,決算審査特別委員会の意見が付された。
b 平成12年度決算は,本会議において,原告を除く全議員の賛成で,可決された。
・※ 被告は,原告主張のとおりA町総務課長補佐及び財政係長の地位にあったことがあるが,当時の仕事は,専ら人事等であり,予算決算には余り携わっていなかった。
・※ 以上によれば,被告は,平成13年3月の定例町議会まで,本件各支出が違法であるとの認識はなく,認識することもできなかった。
・※ 同・※(損害)
ア アは否認する。
イ・※ 社会教育指導員への特別謝礼金
a 平成12年度当時,社会教育指導員は1名であり,その職務内容及び職務量は,常勤職員をもって行わせるか,非常勤職員1名では到底まかなえない程度のものとなっていたため,A町は,社会教育指導員の時間外勤務及び休日勤務に係る労務の提供により,社会教育指導員に対し支払った平成12年度の特別謝礼金合計36万2670円相当額の利得を得ている。
b また,仮に複数の非常勤職員又は常勤職員が上記職務を行った場合,上記額を超える支出が必要である。
c よって,社会教育指導員分の支出につき,損害はない。
・※ B公民館長への特別謝礼金
a 平成12年度当時,B公民館長の時間外勤務は,明確なものだけでも367時間あったため,A町は,B公民館長の時間外勤務及び休日勤務に係る労務の提供により,B公民館長に支払った平成12年度の特別謝礼金合計45万4740円相当額の利得を得ている。
b また,仮に常勤職員が上記職務を行った場合,上記額を超える支出が必要である。
c よって,B公民館長分の支出につき,損害はない。
・※ 体育施設運営指導員への特別謝礼金
a 前記のとおり,体育施設運営指導員の勤務条件は,常勤の職員と同じか,土日祝日等変則勤務であることも考慮すると,常勤職員よりも過酷な勤務条件であり,実際の勤務の実情も常勤職員とまったく変わらないものであった。
b 任用条件に従って平成12年度に年3回にわたって支払われた合計34万5000円の特別謝礼金は,体育施設運営指導員の勤務に対する対価として決して多すぎることはない。
c よって,体育施設運営指導員への特別謝礼金分の支出につき,損害はない。
・※ 体育施設運営指導員,C展示解説員及び国体推進員への謝礼金
a 体育施設運営指導員,C展示解説員又は国体推進員に任命された職員とA町との間には,適法かつ有効に任用関係が成立しており,かつ,A町はそれらの職員から任用条件に従った勤務の提供を受けた。
b よって,体育施設運営指導員,C展示解説員及び国体推進員への謝礼金分の支出につき,損害はない。
・※ 同・※(監査請求前置)
ア ア(本件監査請求)は認める。
イ イ(監査結果)は認める。
ウ・※ ウ(監査請求期間の起算日)のうち,・※は認め,・※及び・※は争う。
・※ 公金の支出を構成する支出負担行為,支出命令及び支出については,地方自治法242条2項本文所定の監査請求期間は,それぞれの行為があった日から各別に計算すべきである。したがって,本件各支出のうち本件監査請求の1年前である平成12年9月17日以前にされた支出については,適法な監査請求前置の要件を満たしていないものとして却下されるべきである。
エ・※ エ(正当な理由)のうち,・※a及びcは認め,b及びdは否認する。・※aは否認し,bのうち,当時のA町には情報公開条例が制定されていなかったことは認め,その余は否認する。・※及び・※は否認する。
・※ 本件各支出と同様の支出は,平成11年度においても行われ,その支出は平成11年度A町一般会計・※特別会計歳入歳出決算書(証拠略)に,いずれも関係款項目の第8節報償費として計上されていた。
・※ 原告は,A町議会議員として,平成12年9月14日,A町議会の決算審査特別委員会文教民生分科会において,平成11年度の歳出決算上,報酬の性格を有する支出が報償費からされていることを指摘し,その理由を追及した。
・※ 謝礼金は職員の給料支給日に,特別謝礼金は6月,12月,3月の職員への賞与支給日と同じ日に支出された。
・ 以上の事実によれば,原告は,遅くとも平成12年9月には,平成12年度においても,平成11年度と同様に,本件各支出がされたことを知っていたか,支出されたことを推測することができたものである。
・ よって,平成12年9月17日以前の支出分については,監査請求期間である1年を経過したことについて,正当な理由は認められない。
理由
1 本件各支出等について
・※ 請求原因・※(当事者)は,当事者間に争いがない。
・※ 同・※(本件各支出)は,当事者間に争いがない。
2 監査請求前置について
・※ 本件監査請求等
請求原因・※ア(本件監査請求)及びイ(監査結果)は,当事者間に争いがない。
・※ 監査請求期間の起算日について
ア・※ 本件のように,各月に謝礼金等の支払が行われている場合,地方自治法242条2項本文所定の監査請求期間は,各月の支払につき各別に計算すべきである。また,1個の支出についてされた支出負担行為,支出命令及び支出は,それぞれ監査請求の対象となる事項であるから,各行為についての監査請求期間は,それぞれの行為があった日から各別に計算すべきものである(最高裁平成14年7月16日第三小法廷判決・民集56巻6号1339頁)。
・※ 原告は,本件のように支出が相当期間継続する場合,任命期間の終了日をもって監査請求期間の起算日と解すべきである旨主張するが,採用することができない。
イ そうすると,本件監査請求は,被告が指摘する平成12年8月分までの謝礼金及び特別謝礼金のみならず,同年9月分の謝礼金についても,支出負担行為及び支出命令から1年を経過してされたものである(地方自治法242条2項)。
・※ 正当な理由の有無
ア・※ 証拠(証拠略)によれば,平成12年度のA町一般会計特別会計予算書(証拠略)には,本件各支出がいずれも報償費から支出される旨記載されていることが認められる。
・※ 原告は,A町議会議員として,平成12年9月,平成11年度決算審査特別委員会の文教民生分科会において,本件各支出と同じ内容の支出が報償費の内容に合致するかを質問したことは,当事者間に争いがない。
・ 上記・及び・の事実によれば,原告は,遅くとも平成12年9月に,平成12年度においても,平成11年度と同様に,本件各支出がされたこと及び今後もされることを知ることができたものと認められる。
イ 原告は,A町の担当者は,平成12年9月の平成11年度決算審査特別委員会の文教民生分科会において,原告の質問に対し,それらの支出が謝礼であるので,報償費から支出することに問題はないと説明し,その後も同旨の説明をしたこと等を理由に,地方自治法242条2項ただし書の正当な理由の存在を主張する。
しかしながら,原告の主張によっても,A町の担当者の説明は,平成11年度にされた本件各支出と同じ内容の支出につき,その実態を仮装せず,ただ,予算科目につき,報酬(第1節)からではなく,報償費(第8節)から支出することにつき問題はないという内容であったものである(原告は,例えば,A町の担当者が,本件特別謝礼金支出は勤務時間外の公民館における講師として役務を提供したこと(証拠略)に対する謝礼であると事実を仮装して説明したと主張しているものではない。)。
したがって,仮に原告主張の事実が認められるとしても,本件監査請求が行為の日から1年を経過してされたことにつき,正当な理由があるものと認めることはできない。
ウ よって,本件訴えのうち,主文第1項掲記の部分(平成12年9月までの支出分)については,適法な監査請求を経ていない不適法な訴えとして,却下すべきである。
3 支出負担行為等について
・※ 請求原因・※(被告の支出負担行為等)を認めるに足りる証拠はない。
・※ かえって,証拠(証拠略)によれば,本件各支出の前提となる支出負担行為及び支出命令は,教育委員会等への事務の委任及び補助執行に関する規則(昭和58年規則第17号)5条,A町役場決裁規程(平成3年訓令(甲)第1号)3条3項,別表一により,教育長の専決事項であり,教育長が専決したことが認められる。
4 支出負担行為等の違法について
・※ 社会教育指導員及びB公民館長について
ア 社会教育指導員及びB公民館長が非常勤特別職職員であることは,当事者間に争いがない。
イ 被告は,社会教育指導員及びB公民館長の本件条例で定める報酬額では評価しきれない勤務時間外の勤務について報償するため,報償費から特別謝礼金を支出することは違法ではない旨主張する。
しかしながら,非常勤特別職職員としての勤務に対して報償するために,報償費から支出することは,報償費の支出の要件を満たさないものと認められる。そのような支出を認めることは,非常勤特別職職員に対する報酬額等を条例で定めなければならず,いかなる給付も法律又はそれに基づく条例に基づかないで支給することを禁じている地方自治法203条5項,204条の2を潜脱することを許容するおそれがあるからである。
ウ したがって,社会教育指導員及びB公民館長に対する教育長による特別謝礼金の支出負担行為及び支出命令は違法である。
・※ C展示解説員,国体推進員及び体育施設運営指導員に対する謝礼金の支出について
ア C展示解説員,国体推進員及び体育施設運営指導員が非常勤特別職職員であることは,当事者間に争いがない。
イ 本件条例1条1項ただし書は,地方公務員法3条3項3号の特別職職員(嘱託員)については,予算の範囲内において,任命権者が町長と協議して定める額の報酬を支給することを認めている。
本件条例1条1項ただし書は,あらゆる非常勤特別職員の報酬額を個別に規定することはできないため,任命権者が町長と協議して報酬額を定めることを許容しているところ,報酬額を定めるに当たっては,当該職員の仕事の内容,別表に規定されている非常勤特別職職員の報酬額との均衡,同種の仕事を行う常勤の職員の給与との均衡等を考慮することを当然の前提としているものと考えられるから,本件条例1条1項ただし書をもって,委任立法として許されないものと解することはできない。
これに反する原告の主張は,採用することができない。
ウ 証拠(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば,平成12年度予算案が提出された平成12年3月までに,任命権者であるA町教育委員会又は教育長は,A町長と協議して,C展示解説員への謝礼金額を月額11万円,国体推進員への謝礼金額を月額8万5000円,体育施設運営指導員への謝礼金額を月額11万5000円と定め,実質的に本件条例1条1項ただし書の規定する協議による報酬額の決定を行ったことが認められる。
原告は,教育長らがA町長と協議して定めたものは,報償費としての額であり,報酬額についての協議はされていない旨主張する。確かに,教育長らがA町長と協議して定めたのは,報償費として予算計上された謝礼金の額であるが,前記証拠及び弁論の全趣旨によれば,教育長らとA町長は,それが勤務時間外の講演に対する謝礼のようなものとして支給されるものではなく,C展示解説員,国体推進員又は体育施設運営指導員として勤務することに対する対価について協議をしたことが認められる。よって,この協議を実質的に本件条例1条1項ただし書の規定する報酬額についての協議であると認めるべきであり,原告の上記主張は採用することができない。
エ・※ また,被告は,C展示解説員,国体推進員及び体育施設運営指導員への報酬につき,本来報酬(第1節)として予算計上すべきものを報償費(第8節)に予算計上し,報償費として支出負担行為及び支出命令を行ったため,結果として報償費(第8節)の金額を報酬(第1節)の金額に流用したものである。
・※ 原告は,この流用が違法である旨主張する。
確かに,A町財務規則(平成12年規則第1号。証拠略)24条は,報酬と報償費との流用を禁止している。しかしながら,地方自治法上,各款の間の流用は禁止され,各項の間の流用は原則として禁止されているが(220条2項),予算中の目,節という更に細分化した区分は,議会の議決の対象とならず,その間の流用は禁止されていない。さらに,A町の平成12年度予算案は,C展示解説員への謝礼金として年額264万円,国体推進員への謝礼金として204万円,体育施設運営指導員への謝礼金として年額138万円を支出する旨を明示し,A町議会も,それを知った上で上記予算案を可決しているものである(証拠略,弁論の全趣旨)。
したがって,上記報償費からの支出は,実質的に見て,A町財務規則の禁止する節相互間の予算の流用には当たらず,違法であると認めることはできない。
オ したがって,C展示解説員,国体推進員及び体育施設運営指導員に対する謝礼金についての教育長の支出負担行為及び支出命令に違法はない。
・※ 体育施設運営指導員への特別謝礼金の支出について
ア 体育施設運営指導員が非常勤特別職職員であることは,前記のとおりである。
イ・※ 証拠(証拠略)によれば,体育施設運営指導員の募集要項には,月額報酬(平成8年度においては,10万4000円)に加えて,年3回の特別賞与が支給される旨が記載され,実際にも,一般職職員に対する期末手当支給日に上記特別賞与が支給されていることが認められるから,体育施設運営指導員への特別謝礼金は,報酬としてではなく,一般職職員の期末手当に相当するものとして支出されたものと認められる。
そして,議会の議員を除く普通地方公共団体の非常勤職員に対して期末手当を支出することは,認められていない(地方自治法203条4項,5項,204条の2)。
さらに,本件条例1条1項,別表第一及び別表第二は,特別職の職員で非常勤のもの(議会の議員を除く。)の報酬を具体的に定めているが,その定め方は日額,月額又は年額であり,月額及び年3回の期末手当の形で定めたものはない。
・※ よって,仮に,体育施設運営指導員への特別謝礼金の支給について,教育長と町長との協議がされていたとしても,協議のうち,体育施設運営指導員への特別謝礼金の部分は,本件条例1条1項ただし書の委任の範囲を超えており,無効であるといわざるを得ない。
これに反する被告の主張は採用することができない。
ウ・※ 被告は,体育施設運営指導員に任命された職員とA町との間には,適法かつ有効に任用関係が成立しており,A町はそれに対する対価を支払うべき義務を負っていたため,適法かつ有効に成立した任用関係に従った支出負担行為及び支出命令に違法はないと主張する。
・※ しかしながら,体育施設運営指導員の任用の更新に当たり,特別賞与年3回との勤務条件が提示されていたとしても,本件条例にその支給の根拠となる定めがない以上,特別賞与の支給が適法な勤務条件の一部となっており,その支給をせざるを得ないものと解することはできないから(地方自治法203条5項,204条の2参照),被告の上記主張は採用することができない。
エ 以上によれば,体育施設運営指導員に対する特別謝礼金についての教育長の支出負担行為及び支出命令は違法である。
5 被告の故意・過失について
・※ 普通地方公共団体の長の権限に属する財務会計上の行為について専決権限を有する補助職員が専決により処理した場合において,長は,同補助職員が,財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し,故意又は過失により,同補助職員が,財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったときに限り,普通地方公共団体に対し,同補助職員がした財務会計上の違法行為により当該普通地方公共団体が被った損害につき賠償責任を負うものである(最高裁判所平成3年12月20日第二小法廷判決・民集45巻9号1455頁)。
・※ 各項に掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる(争いのない事実を含む。)。
ア (B)公民館長に対する特別謝礼金は昭和46年度から昭和55年度まで及び昭和59年度以降(昭和56年度から昭和58年度までは,常勤の一般職職員がB公民館長を務めたため,特別謝礼金の支払の問題は生じなかった。),社会教育指導員に対する特別謝礼金は昭和56年度以降,体育施設運営指導員に対する特別謝礼金は平成8年度以降,報償費から支払われていた。
(証拠略)
イ (B)公民館長につき昭和46年度から開始された特別謝礼金の支給は,給与条例主義(地方自治法203条5項,204条の2)を潜脱するものであることに薄々気付きながら開始された疑いがある。しかしながら,(B)公民館長への特別謝礼金の支給を前例として,社会教育指導員らの非常勤特別職職員にも特別謝礼金の支給が開始される過程で(展示解説員についても,特別謝礼金が支給された時期があった。),段々と支給の根拠を確認することがされなくなり,報償費から特別謝礼金を支出することの問題に気付く職員や町議会議員はいなくなってきた。
(証拠略,弁論の全趣旨)
ウ・※ 平成11年度決算は,全会一致で可決されたが,原告は,その審査をした平成12年9月の平成11年度決算審査特別委員会の文教民生分科会で,教育委員会の職員に対し,非常勤職員,臨時職員など雇用形態によって,予算科目が報酬,賃金,報償費などと異なっているのはどういうことかと質問した。説明に当たった教育委員会の職員は,予算科目とその根拠について説明したが,上記文教民生分科会では,原告の上記指摘については,執行部に伝えるとのまとめがされた。なお,「執行部」には,町長が含まれると理解されていた。
(争いのない事実,証拠略)
・※ 原告の上記指摘は,そのころ,A町長である被告に伝えられたものと推認すべきである。
・※ 被告は,原告の上記指摘が被告に伝えられたことを否認し,本人尋問においてそれに沿う供述をする。
しかしながら,A町議会の委員会における審議において執行部に伝えるとまとめられた事項が,町役場の組織がさほど大きなものではないものと認められるA町において,A町長であった被告に伝えられなかったとは考え難い。
しかも,証拠(証拠略)によれば,B公民館長であった乙は,平成14年3月,A町議会においてした離任のあいさつにおいて,A町議会から提起されたB公民館長の報酬の件(前後の文脈から,原告が平成12年9月にした文教民生分科会における指摘を意味すると解される。)につき,自分で調べ,早急に是正措置を執るべきだと考え,町当局にその旨具申したが,検討してもらえず,平成13年3月,やむなく辞表を提出したところ,早めに何らかの是正措置を執るので,任期満了まで勤務するよう勧められた旨述べていることが認められる。このあいさつ内容からすると,原告の上記指摘は,当時,A町において大きな問題提起と受け止められ,特別謝礼金の受領者であった乙は,平成12年9月にされた原告の指摘後間もなく,A町の担当者に対し,是正措置を執るよう申し入れているものである。この事実からしても,原告の指摘がA町長であった被告に伝えられなかったとは,考え難いところである。
・※ よって,被告の上記主張は採用することができず,被告本人尋問の結果の一部も,採用することができない。
エ・※ 平成13年3月13日から同月16日にかけて開催された平成13年度予算審査特別委員会の文教民生分科会において,原告は,再度,本件各支出と同様の支出が報償費として予算計上されていることにつき疑義を述べた。
(争いのない事実,証拠略)
・※ 予算審査特別委員会の文教民生分科会は,同月21日,予算審査特別委員長に対し,予算は適正である旨の報告をしたが,原告から提出された疑義については,丙文教民生分科会長が予算審査特別委員長に対し,口頭で,条例・規則を整備して,法規に則った対応を採るべきであるとの意見を述べた。なお,予算審査特別委員会には,被告も出席していた。
(証拠略)
・※ 同日午後開会の本会議において,予算審査特別委員長から議長に対し,上記・※のような意見が出されたことが報告された。
(証拠略)
・※ そして,平成13年度予算は,同日,原案のとおり可決された。
(争いのない事実)
オ A町は,毎年,前年度の決算統計書類について宮城県の審査を受けていたが,宮城県から,特別謝礼金の支出について問題があるとの指摘を受けたことはなかった。
(証拠略,弁論の全趣旨)
カ 被告は,昭和32年4月1日から平成7年1月15日まで,A町職員として勤務し,その間,昭和56年4月1日から昭和58年6月30日まで,A町総務課長補佐兼財政係長を経験した。しかし,総務課長補佐兼財政係長当時の仕事内容は,専ら人事等であり,予算決算には余り携わっていなかった。
(争いのない事実,証拠略)
キ 平成12年9月の原告の上記指摘は,本件特別謝礼金支出が違法であると明確に指摘するものではなかったが,A町の職員に対する報償費からの支出に関する指摘を含むものであった以上,給与条例主義を念頭に,支出の根拠を確認すべきだったものであり,そのような確認が行われていれば,本件条例の別表第二で個別に報酬月額が定められている社会教育指導員及びB公民館長に対し,報酬に加えて特別謝礼金を支出することに問題があること,並びに体育施設運営指導員に対し,期末手当として特別謝礼金を支出することに問題があることを容易に知ることができたものと認められる。
(弁論の全趣旨)
・※ 上記に認定の事実によれば,被告は,過失により,社会教育指導員,B公民館長及び体育施設運営指導員に対する平成12年12月及び平成13年3月の各特別謝礼金の支出につき,専決権限を有する教育長に対し,支出負担行為及び支出命令をしないよう指揮監督すべき義務に違反したものといわなければならない。
6 損害について
・※ 社会教育指導員
ア 前記のとおり,A町から社会教育指導員に対し,特別謝礼金として,平成12年12月8日に19万2325円,平成13年3月15日に3万2970円が支払われているから,これらの金額が損害となる。
イ 被告は,平成12年度当時,社会教育指導員は1名であり,その職務内容及び職務量は,常勤職員をもって行わせるか,非常勤職員1名では到底まかなえない程度のものとなっており,A町は,社会教育指導員の時間外勤務及び休日勤務に係る労務の提供について,社会教育指導員に対し支払った平成12年度の特別謝礼金合計36万2670円相当額の利得を得ている旨主張する。
しかしながら,社会教育指導員に対し,時間外勤務等の命令されたことは,被告の主張するところではなく(社会教育指導員であった丁も,残業等がボランティア精神でされたことを認めている。証拠略),社会教育指導員のそのような勤務によって,A町が不当利得をしたものと認めることはできない。
ウ さらに,被告は,仮に複数の非常勤職員又は常勤職員が上記職務を行った場合,上記額を超える支出が必要であるから,社会教育指導員分の支出につき損害はない旨主張する。
しかしながら,時間外勤務等の命令がされていない以上,被告が主張する上記事実が認められるとしても,損害がないものと認めることはできない。
・※ B公民館長
ア 前記のとおり,A町からB公民館長に対し,特別謝礼金として,平成12年12月8日に24万1150円,平成13年3月15日に4万1340円が支払われているから,これらの金額が損害となる。
イ 被告は,平成12年度当時,B公民館長の時間外勤務は,明確なものだけでも367時間あり,A町は,B公民館長の時間外勤務及び休日勤務に係る労務の提供について,B公民館長に支払った平成12年度の特別謝礼金合計45万4740円相当額の利得を得ている旨主張する。
しかしながら,B公民館長に対し,時間外勤務等の命令されたことは,被告の主張するところではなく,B公民館長のそのような勤務によって,A町が不当利得をしたものと解することはできない。
ウ さらに,被告は,仮に常勤職員が上記職務を行った場合,上記額を超える支出が必要であるから,B公民館長分の支出につき損害はない旨主張する。
しかしながら,時間外勤務等の命令がされていない以上,被告が主張する上記事実が認められるとしても,損害がないものと認めることはできない。
・※ 体育施設運営指導員
ア 前記のとおり,A町から体育施設運営指導員に対し,特別謝礼金として,平成12年12月8日に21万2750円,平成13年3月15日に3万4500円が支払われているから,これらの金額が損害となる。
イ 被告は,体育施設運営指導員の勤務時間が週40時間であり,土日祝日等にも勤務がある変則勤務であることを考慮すると,体育施設運営指導員に支払った平成12年度の特別謝礼金34万5000円はその勤務に対する対価として多すぎることはないから,A町には損害がない旨主張する。
しかしながら,体育施設運営指導員の勤務時間が週40時間であり,土日祝日等にも勤務がある変則勤務であること(証拠略)などを考慮しても,体育施設運営指導員に対する対価としては,報酬の性格を有する謝礼金の支出により既に評価されているものといわざるを得ないものであり,期末手当である特別謝礼金の支出分相当額の損害がないものと認めることはできない。
7 結論
以上によれば,原告の本件訴えのうち,主文第1項掲記の部分は,適法な監査請求を経ていない不適法なものであるから却下し,社会教育指導員に対し平成12年12月8日及び平成13年3月15日に支払われた特別謝礼金相当分の損害金22万5295円,B公民館長に対し各同日に支払われた特別謝礼金相当分の損害金28万2490円及び体育施設運営指導員に対し各同日に支払われた特別謝礼金相当分の損害金24万7250円並びにこれらに対する訴状送達の日の翌日である平成13年12月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金をA町に対し支払うことを求める部分は,理由があるから認容し,その余は,理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,64条本文を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 市川正巳 裁判官 髙木勝己 裁判官 櫻庭広樹)
<編注:『※』部分は原文のとおり。>