仙台地方裁判所 平成13年(行ウ)3号 判決 2003年1月16日
原告
仙台市民オンブズマン
同代表者
小野寺信一
同訴訟代理人弁護士
藤田紀子
佐川房子
高橋輝雄
山田忠行
小野寺信一
増田隆男
松澤陽明
吉岡和弘
半澤力
齋藤拓生
坂野智憲
松下明夫
土井浩之
十河弘
鈴木覚
野呂圭
被告
宮城県知事
浅野史郎
同訴訟代理人弁護士
三輪佳久
同
松坂英明
同
氏家和男
同
村田知彦
被告指定代理人
伊藤浩安
外5名
主文
1 原告が平成13年1月30日にした宮城県情報公開条例5条1項に基づく「宮城県警刑事部、交通部、警備部の報償費支出に関する一切の資料(平成11年度)」の行政文書の開示請求につき、被告が平成13年2月13日にした処分中、別紙文書目録1記載の文書について同1記載①ないし⑤を非開示とした部分及び同目録2記載の文書について開示しないとした部分(ただし、被告が平成14年6月27日に部分開示した部分を除く。)のうち、次の部分を取り消す。
(1)ア 別紙1の8番及び9番のうち、被贈呈団体である通訳人を派遣した団体名及び代表者名、
イ 別紙1の8番、9番及び11番のうち、被贈呈者個人(ただし、交通指導取締りに対する協力による個人を除く。)の氏名、役職及び屋号、
ウ 別紙1の8番及び9番のうち、被贈呈者である死体解剖医の所属及び氏名、
エ 別紙1の8番ないし13番及び92番のうち、副賞の予定価格の算定基礎(計算式)、
(2)ア 別紙1の46番ないし52番のうち、報償金額及び報償の等級、精算内訳欄の今回受領額・計・支払額、並びに資金前渡額、今回執行額(交付額)及び残額、
イ 別紙1の70番、72番、75番、83番、88番、90番及び91番のうち、警察犬出動に伴う施行理由中の出動月日、
ウ 別紙1の93番のうち、警察犬審査会審査員の氏名及び印影、
(3) 別紙1の94番ないし99番のうち、
ア 支出負担行為兼支出命令決議書中の金額(所属別月額)、
イ 年度・会計・科目訂正決議書中の金額、
ウ 精算通知票中の精算内訳(繰越額、今回受領額、計、支払額、残額、領収書枚数)、
エ 施行伺中の資金前渡額、
オ 犯罪捜査協力報償費支払明細兼残高証明書中の月別の受入金額、支払額及び残額、
カ 現金出納簿中の月分の受入金額、月ごと又は会計年度の締めとしての各金額の累計、
キ 普通預金通帳中のお支払金額、お預り金額及び差引残高、
ク 月分捜査費総括表(取扱者を含む。)、
ケ 捜査費支出伺の勤務課署名及び印影(課・署長、次長等、出納簿登記)、
コ 支払精算書・支払額内訳の宛名、勤務課署名及び印影(課・署長、次長等、出納簿登記)
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを3分し、その2を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
原告が平成13年1月30日にした宮城県情報公開条例5条1項に基づく「宮城県警刑事部、交通部、警備部の報償費支出に関する一切の資料(平成11年度)」の行政文書の開示請求につき、被告が平成13年2月13日にした処分中、別紙文書目録1記載の文書について同1記載①ないし⑤を非開示とした部分及び同目録2記載の文書について開示しないとした部分(ただし、被告が平成14年6月27日に部分開示した部分を除く。)を取り消す。
第2 事案の概要
1 本件は、原告(仙台市民オンブズマン)が、被告(宮城県知事)に対し、宮城県情報公開条例に基づき、宮城県警刑事部、交通部、警備部の報償費支出に関する一切の資料(平成11年度)について、行政文書の開示請求をしたところ、被告が部分開示又は非開示とする処分をしたため、原告が非開示部分の取消しを求めた事案である。
2 前提となる事実(証拠の掲記のない事実は、争いのない事実である。)
(1) 当事者
ア 原告は、地方行財政の不正を監視、是正すること等を目的として結成された権利能力なき社団である。
イ 被告は、宮城県情報公開条例(平成11年宮城県条例第10号。平成12年宮城県条例第131号による改正後のもの。以下「県条例」という。)2条1項の実施機関たる知事である。
(2) 県条例のうち、本件に関係する規定は、次のとおりである。
第1条(目的)
この条例は、地方自治の本旨にのっとり、県民の知る権利を尊重し、行政文書の開示を請求する権利及び県の保有する情報の公開の総合的な推進に関して必要な事項を定めることにより、県政運営の透明性の一層の向上を図り、もって県の有するその諸活動を説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による県政の監視と参加の充実を推進し、及び県政に対する県民の理解と信頼を確保し、公正で開かれた県政の発展に寄与することを目的とする。
第2条(省略)
第3条(責務)
1 実施機関は、この条例に定められた義務を遂行するほか、県の保有する情報を積極的に公開するよう努めなければならない。この場合において、実施機関は、個人に関する情報が十分保護されるよう最大限の配慮をしなければならない。
2 行政文書の開示を請求しようとするものは、この条例により保障された権利を正当に行使し、情報の公開の円滑な推進に努めなければならない。
第4条(開示請求権)
何人も、この条例の定めるところにより、実施機関に対し、行政文書の開示を請求することができる。
第5条ないし第7条(省略)
第8条(行政文書の開示義務)
実施機関は、開示請求があったときは、開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「非開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該行政文書を開示しなければならない。
(1) (省略)
(2) 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され、若しくは識別され得るもの又は特定の個人を識別することはできないが、公開することにより、なお個人の権利利益が害されるおそれのあるもの。ただし、次に掲げる情報を除く。
イ 法令の規定により又は慣行として公開され、又は公開することが予定されている情報
ロ 当該個人が公務員(国家公務員法(昭和22年法律第120号)第2条第1項に規定する国家公務員及び地方公務員法(昭和25年法律第261号)第2条に規定する地方公務員をいう。)である場合において、当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員の職、氏名及び当該職務遂行の内容に係る部分
(以下、この規定又は非開示理由を単に「2号」という。)
(3) 法人その他の団体(国及び地方公共団体を除く。以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公開することにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益が損なわれると認められるもの。ただし、事業活動によって生じ、又は生ずるおそれのある危害から人の生命、身体、健康、生活又は財産を保護するため、公開することが必要であると認められる情報を除く。
(以下、この規定又は非開示理由を単に「3号」という。)
(4) 公開することにより、犯罪の予防又は捜査、人の生命、身体又は財産の保護その他の公共の安全と秩序の維持に支障が生ずるおそれのある情報
(以下、この規定又は非開示理由を単に「4号」という。)
(5) 県又は国等(国又は地方公共団体その他の公共団体をいう。以下同じ。)の事務事業に係る意思形成過程において行われる県の機関内部若しくは機関相互又は県の機関と国等の機関との間における審議、検討、調査、研究等に関する情報であって、公開することにより、当該事務事業又は将来の同種の事務事業に係る意思形成に支障が生ずると明らかに認められるもの
(以下、この規定又は非開示理由を単に「5号」という。)
(6) 県の機関又は国等の機関が行う検査、監査、取締り、争訟、交渉、渉外、入札、試験その他の事務事業に関する情報であって、当該事務事業の性質上、公開することにより、当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務事業の公正若しくは円滑な執行に支障が生ずると認められるもの
(以下、この規定又は非開示理由を単に「6号」という。)
第9条以下(省略)
(3) 本件訴訟に至る経緯
ア 原告は、平成13年1月30日、被告に対し、県条例5条1項に基づき、「平成11年度における宮城県警刑事部、交通部、警備部の報償費支出に関する一切の資料」につき、行政文書の開示請求をした。
イ 被告は、県条例6条1項の規定に基づき、平成13年2月13日、別紙文書目録1記載の文書については同1記載①ないし⑤を非開示とし、その余の部分を開示する旨の決定をし、同目録2記載の文書については開示しない旨の決定をした(以下「本件処分」という。)。
ウ 原告は、平成13年4月4日、被告を相手方として、本件処分のうち非開示部分の取消しを求める本件訴訟を提起した。
(4) 本件訴訟提訴後の経緯
ア 被告は、平成14年6月27日、変更処分(以下「本件変更処分」という。)を行い、本件処分の一部を変更し、新たに下記の情報を開示した。
(ア) 警察職員に関する情報のうち、本件処分時点までに宮城県職員録及び新聞の人事異動記事により氏名が公表されていた者の「氏名」及び「印影」(犯罪捜査等を行う職員に係るものを除く。)
(イ) 資金前渡職員の預金口座情報のうち、「預金口座番号」及び「お客様番号」を除く部分
イ これを受けて、原告は、上記アの開示部分につき本件訴えを取り下げた。
(5) 本件訴訟の対象となっている文書
ア 本件口頭弁論終結時点で、取消請求の対象となってる文書は、別紙1「報償費支出事由別一覧表」のとおりであり、各文書のうち非開示情報とされた部分は、別紙2の1ないし3の各「非開示情報と該当条項一覧表」及び別紙3のとおりである。
イ 各文書ごとの非開示情報は、争点に対する当事者の主張の項で摘示する。
第3 争点
1 争点1(2号該当性)
警察犬指導士の住所、氏名、口座番号等を始めとする情報が、2号に該当するか。
2 争点2(4号該当性)
警察職員の氏名等を始めとする情報が、4号に該当するか。
3 争点3(6号該当性)
随意契約に係る業者選定伺に記載された契約金額の基礎となる予定価格を定める計算式(単価×掛率×数量=金額)が、6号に該当するか。
第4 争点に対する当事者の主張
1 争点1(2号該当性)
(1) 2号の解釈基準
ア 被告の主張
(ア) 趣旨
a.憲法21条1項の「知る権利」に基づく情報公開請求権は、明定する立法がなければ具体的請求権が発生しないという意味で抽象的権利にとどまるから、県条例に基づく公文書開示請求権は、県条例の制定によって創設された権利である。したがって、宮城県民に公文書の開示請求権をいかなる限度、要件で付与するかは宮城県における立法政策に委ねられた問題である。
b.2号本文前段は、個人のプライバシーを最大限に保護するため、個人に関する情報を包括的に開示しないものとし、特定の個人が識別され、又は識別され得る情報が記録された行政文書を開示しない旨を定めたものである。このように、県条例は、「個人識別型条例」であるから、「プライバシー保護型条例」と同一の解釈をすることは妥当でない。
(イ) 非開示理由の解釈
a.「個人に関する情報」とは、思想、信条、心身の状況、病歴、学歴、成績、職歴、住所、電話番号、家族状況、親族関係、所得及び財産等個人に関するすべての情報をいう。
b.「特定の個人が識別され、若しくは識別され得るもの」とは、当該情報から特定の個人が識別でき、又は識別できる可能性のあるものをいい、①氏名、住所等その情報から直接的に特定の個人が識別されるもの、②他の情報と組み合わせることにより間接的に特定の個人が識別され得るものをいう。
イ 原告の主張
(ア) 趣旨
2号は、憲法13条が保障する個人のプライバシーの権利、すなわち私生活をみだりに公開されない権利(あるいは自己に関する情報をコントロールすることができる権利)を保護するため、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され、又は識別され得るもの等について、行政文書を開示しないこととしたものである。
(イ) 非開示理由の解釈
上記の趣旨にかんがみて、同号の適用に当たっては、特定の個人が識別され、又は識別され得るものであっても、その公開によって、個人のプライバシーの権利の侵害が生じない場合は、開示義務は免除されないと解すべきである。
(2) 警察犬関係
ア 非開示情報
警察犬関係(別紙1の58番ないし93番)の非開示情報は、別紙3の6番の「記載されている情報(非開示情報)」欄に記載のとおり、
警察犬指導士の住所、氏名、口座番号等、
警察犬所有者の住所、氏名、口座番号等、
警察犬の出動現場名等及び出動月日の一部(別紙1の70番、72番、75番、83番、88番、90番及び91番)、
警察犬審査会審査員の氏名等
である。
イ 被告の主張
(ア) 警察犬指導士
嘱託警察犬指導士(以下「警察犬指導士」という。)は、警察の嘱託を受け、嘱託警察犬(以下「警察犬」という。)の訓練を担当する民間人であるところ、飽くまで社会協力活動の一環として警察の捜査活動の一部に協力しているにすぎず、公務員でもなければ、公務員に準ずる性格を有するものでもない。
(イ) 警察犬所有者
警察犬の所有者(飼育者)は、警察の嘱託を受け、自己が所有する犬につき警察犬の嘱託を受けている民間人であり、警察犬の飼育を生業にする者は皆無であるところ、飽くまで社会協力活動の一環として警察の捜査活動の一部に協力しているにすぎず、公務員でもなければ、公務員に準ずる性格を有するものでもない。
(ウ) 警察犬の出動現場名等
a.別紙1の70番、72番、75番、83番、88番、90番及び91番につき、警察犬出動に伴う施行理由に係る事件現場等及び出動月日を開示すれば、逮捕監禁事件(70番)、強姦致傷事件(72番、75番)、強姦事件(83番)、住居侵入及び強制わいせつ事件等(88番)、窃盗(色情盗)事件(90番、91番)の具体的事件現場名(住所、アパート名及び宅名)及び特定の企業名(70番)を公にすることになり、これらの情報から容易に被害者個人が識別特定され得る。
b.別紙1の70番(逮捕監禁事件)については、施行理由欄に「○○○運転手に対する逮捕監禁容疑事件」と記載され、○○○部分に特定の企業名が記載されている。このため、当該企業の運転手であるという情報から、特定の個人が識別される高度の蓋然性がある。
(エ) 警察犬審査会審査員
a.警察犬審査会審査員は、宮城県警から社団法人日本警察犬協会への派遣要請に基づき宮城県警の主催する警察犬審査会に審査員として出席した個人である。
b.警察犬審査会審査員は、宮城県警において実施する警察犬指導士及び警察犬の審査会において、審査員の一員として専門的知識や技能等に基づき審査を行う限度で公的な役割を担っているものであるが、公務員(非常勤を含む。)の身分を有しているものではない。
(オ) まとめ
以上によれば、上記の情報は、いずれも2号に該当する。
ウ 原告の主張
(ア) 警察犬指導士及び警察犬所有者
a.個人の行動であっても、それが公務としてされた場合はもちろん、社会的活動を行う団体において職務上の行為としてされた場合にも、もはや私事に関するものとはいえない。
b.したがって、そのような地位にある警察犬指導士及び警察犬所有者に係る情報は、個人に関する事項のうち、専ら私事に関するものと通常理解される情報には当たらない。
(イ) 警察犬の出動現場名等
出動の月日やアパート名等を開示したため、被害者が特定されることなどは考え難いから、そもそもプライバシーが問題となる余地はない。
(ウ) 警察犬審査会審査員
被告の主張によっても、警察犬審査会審査員に係る情報は、個人に関する事項のうち、専ら私事に関するものと通常理解される情報には当たらない。
(3) 精神鑑定嘱託謝金関係
ア 精神鑑定嘱託謝金関係(別紙1の45番)の非開示情報は、別紙3の3番の「記載されている情報(非開示情報)」欄に記載のとおり、精神鑑定嘱託医の病院名、住所、氏名、口座番号等である。
イ 被告の主張
(ア) 精神鑑定医は、公務員(非常勤を含む。)の身分を有するものではなく、運転免許に係る許可事務に伴って生ずる個別的又は臨時的な必要性から鑑定を依頼するものである。このような個別的、臨時的な必要性によって生じた当該医師個人の受動的な事柄まで、公務に準ずるものとすることはできない。
(イ) したがって、この情報は、2号に該当する。
ウ 原告の主張
(ア) 被告の主張によれば、精神鑑定は運転免許に係る許可事務に伴って必要とされるものであるから、当該精神科医の私的な業務ではなく、公務であるか、少なくとも公務に準ずる場面である。
(イ) したがって、そのような公的な業務に対する謝礼として支出される場面における精神鑑定医に関する情報である以上、個人に関する事項のうち、専ら私事に関するものと通常理解される情報には当たらない。
(4) 部外講師謝金関係
ア 部外講師謝金関係(別紙1の1番ないし7番)の非開示情報は、別紙3の1番の「記載されている情報(非開示情報)」欄に記載のとおり、部外講師の住所、口座番号等である。
イ 被告の主張
(ア) 部外講師は、犯罪被害者対策講演会あるいは指定自動車教習所職員講習会等において、会の趣旨に則して講話をする限度で公的な役割を担っているといえるが、公務員(非常勤を含む。)の身分を有するものではなく、純粋な謝礼を受け取っているにすぎないから、公務に準ずるものとすることはできない。
(イ) したがって、この情報は、2号に該当する。
ウ 原告の主張
(ア) 被告の主張によれば、部外講師は犯罪被害者対策講演会等において会の趣旨に則して講話をするというのであるから、当該部外講師の私的な業務ではなく、公務であるか、少なくとも公務に準ずる場面である。
(イ) しかも、被告は、部外講師の職名と氏名については、部外講師のプライバシーを侵害するおそれがないと判断し、これを公表しているものである。
(ウ) したがって、そのような公的業務に対する謝礼として支出される場面における部外講師に関する情報である以上、住所等も、個人に関する事項のうち、専ら私事に関するものと通常理解される情報には当たらない。
(5) 表彰に伴う報償費
ア 表彰に伴う報償費関係(別紙1の8番ないし13番)の非開示情報は、別紙3の2番の「記載されている情報(非開示情報)」欄に記載のとおり、
被贈呈団体の代表者氏名(ただし、交通安全運動等の啓蒙啓発活動の推進に功労があった団体の代表者名は開示されている。)、
被贈呈者個人の住所、職名(役職、屋号。以下、同じ。)及び氏名(ただし、交通安全運動等の啓蒙啓発活動の推進に功労があった個人名は開示されている。)
である。
イ 被告の主張
(ア) 被贈呈団体の代表者氏名
この感謝状は、いずれも団体として犯罪捜査に協力したことに対して贈呈されたものであり、代表者個人に贈呈されたものではないから、代表者個人名を公表することは予定されていない。
(イ) 暴力団排除運動、犯罪捜査協力(犯罪捜査通訳、検視業務を含む。)の功労により感謝状を授与された個人の住所、職名及び氏名
この感謝状は、いずれも個人として犯罪捜査に協力したことに対して贈呈されたものであって、公表を予定した情報ではない。
(ウ) 交通安全運動等の功労として表彰を受けた個人あるいは団体等の代表者の住所
この表彰は、交通安全運動等の啓蒙啓発活動の推進に功労があった団体や個人を公表して、その功労を称える趣旨であることにかんがみ、団体名(代表者名を含む。)及び個人の氏名については公表しているところであるが、当該個人の住所についてまで公表を予定したものではない。
(エ) 交通指導取締りに対する協力者の住所、氏名及び屋号
この表彰は、交通機動隊員が行う交通指導取締りに際して、白バイ又はパトカーの待機場所を積極的に提供する等の功労があった特定個人を称える趣旨のものであり、その住所、氏名等の公表を前提として感謝状を贈呈するものではない。
(オ) まとめ
以上によれば、上記の情報は、2号に該当する。
ウ 原告の主張
(ア) 感謝状は、公的機関たる宮城県警が、受贈者の功労を称える趣旨で表彰するものであるから、感謝状の授与に関する情報は、その公表を予定するものである。しかも、個人に関する事項のうち、専ら私事に関するものと通常理解される情報には当たらない。よって、2号には該当しない。
(イ) 現に、被告は、交通安全運動等の功労として表彰を受けた個人の氏名あるいは団体の名称を開示しているところである。
(6) 質屋、古物商報償金
ア 質屋、古物商報償金関係(別紙1の46番ないし52番)の非開示情報は、別紙3の4番の「記載されている情報(非開示情報)」欄に記載のとおり、
質屋、古物商(以下「質屋等」という。)の住所、氏名等
被疑者の住居、氏名等
被害者の住所、氏名等
である。
イ 被告の主張
(ア) 質屋等は、すべて私人である。しかも、その捜査協力に係る事実は、被疑者や関係者等に秘匿することを前提として協力を得ているものである。
(イ) また、質屋、古物商報償金に係る被疑者及び被害者の情報が個人情報に該当することは、明らかである。
(ウ) したがって、上記各情報は、2号に該当する。
ウ 原告の主張
(ア) 質屋等は、法律上の義務に基づいて届出をしているものであり、情報提供の事実を秘匿することを前提として警察に協力しているものではない。
(イ) また、被疑者及び被害者の情報も、専ら個人の私事に関するものと通常理解される情報には当たらない。
(ウ) したがって、上記各情報は、2号には該当しない。
(7) 死体解剖謝金
ア 死体解剖謝金関係(別紙1の53番ないし57番)の非開示情報は、別紙3の5番の「記載されている情報(非開示情報)」欄に記載のとおり、死者の氏名、年齢である。
イ 被告の主張
解剖対象者の氏名及び年齢が2号の個人情報に該当することは、明らかである。
ウ 原告の主張
解剖対象者の氏名及び年齢は、個人に関する事項のうち、専ら私事に関するものと通常理解される情報には当たらないから、2号には該当しない。
(8) 犯罪捜査協力報償費
ア 犯罪捜査協力報償費関係(別紙1の94番ないし99番)の非開示情報は、別紙3の7番の「記載されている情報(非開示情報)」欄に記載のとおり、犯罪捜査協力者の住所、氏名等である。
イ 被告の主張
(ア) 犯罪捜査協力報償費の受取人である犯罪捜査協力者の性格等については、後記2(9)アのとおりである。
(イ) 犯罪捜査協力者の住所、氏名及び印影の情報が2号の個人情報に該当することは、明らかである。
(ウ) 原告は、犯罪捜査協力報償費の支出は架空であるか、裏金捻出等違法な経理が行われている疑いが強い旨主張するが、本件訴訟の争点は、領収書等の偽造の有無ではなく、文書に記載された情報が2号に該当するか否かであって、犯罪捜査協力報償費の架空支出をいう原告の主張は失当である。
ウ 原告の主張
(ア) 犯罪捜査協力報償費の受取人たる犯罪捜査協力者に係る情報は、個人に関する事項のうち、専ら私事に関するものと通常理解される情報には当たらないから、2号には該当しない。
(イ) 犯罪捜査協力報償費の支出は架空であるか、裏金捻出等違法な経理が行われている疑いが強いことは、後記2(9)イのとおりである。
2 争点2(4号該当性)
(1) 4号の解釈基準
ア 被告の主張
4号は、公共の安全と秩序の維持に支障が生ずる「おそれ」をもって非開示の理由とするのみで、その顕著性を要件としていないのであるから、直接的あるいは間接的に公共の安全と秩序の維持に支障が生ずるおそれがある情報を非開示としたものと解すべきであり、「おそれ」の内容については、必要な程度に具体的に特定しておれば、概括的な主張で足りると解すべきである。
イ 原告の主張
4号のおそれを単なる危惧感や極めて抽象的なもので足りると解することは、公共安全情報も情報公開の対象であるとした上で、例外的に非開示事由を規定する県条例の趣旨及び構造に明らかに反することになる。したがって、4号のおそれについては、支障が生ずる蓋然性をその要件と解すべきである。
(2) 警察職員の氏名等関係
ア 警察職員の氏名等関係の非開示情報は、次のとおり、警察職員の氏名、印影等である。
別紙2―1の1番②中段、2番①第1段、②、③第4段、④、3番②、
別紙2―2の1番⑦下段、3番①中段、②、③第2段、④、⑤、⑥下段、⑦下段、
別紙2―3の1番④下段、2番②下段、③下段
イ 被告の主張
(ア) 警察業務は、警察規制を物理的かつ強制的に実現することを中核とするものであり、相手方となる者の反発や反感を招きやすい性質を有することから、警察組織や職員を敵視する人物、団体等によって、警察職員や警察施設が襲撃を受けた事例が、全国及び宮城県で多数存在する。
(イ) このような極左暴力集団、暴力団、暴走族等の違法集団等は現に存在しており、これらの人物、団体等は、警察活動の動静を含めた警察に関する情報に異常なまでの関心を持っており、警察職員を対象にその配置状況や家族等を把握しようとしたり、警察施設、警察装備等の実態を把握しようとするなど、あらゆる手段、方法によって情報収集や調査活動を行っている。
(ウ) 以上のような警察組織、警察職員の特質から判断すると、特定の警察職員の氏名等を公開することによって、当該職員やその家族のプライバシーが侵害されたり、襲撃、工作等の被害を受けるおそれがあり、公共の安全と秩序の維持に支障が生じるおそれがある。
(エ) なお、本件処分時点までに宮城県職員録及び新聞の人事異動記事により氏名が公表されていた警部(同相当職を含む。)以上の者の「氏名」及び「印影」(犯罪捜査等を行う職員に係るものを除く。)については、既に警察職員である事実を明らかにしていることから、公開することによる支障が生じるおそれはないものと認められたため、これを開示したものである。
ウ 原告の主張
(ア) 警察職員の氏名及び印影が開示された場合、配置所属や担当職務が判明することはあっても、警察職員の私的な情報まで知り得るものではないから、当該職員及び家族のプライバシーが侵害され、そのことによって当該職員が職務に専念できないといった支障は、生じ得ない。
(イ) 職員録に掲載された警視(同相当職を含む。)以上の警察職員、毎年辞令が新聞紙上公表されている警部(同相当職を含む。)以上の警察職員について、被告は、宮城県情報公開審査会の答申を受け、その氏名等を開示したが、警部(同相当職を含む。)以上の警察職員の方が、氏名等を開示していない警部補以下の職員よりも攻撃、懐柔、嫌がらせ等が生じるおそれが高いと思われるのに、実際にはそのようなおそれは発生していない。
警部補以下の警察職員についても、名札を付けて一般市民と対応し、あるいは所属及び氏名を名乗って職務を遂行しており、その氏名や所属は容易に判明するのであるから、これらの職員の氏名等を非開示とする必要はない。
(ウ) およそ公権力に関わる機関(裁判所、検察庁、国税局等)であれば、相手方の反発を招きやすいといえるのであり、警察のみが、職員の氏名を非開示にしなければならないほどに常に反発や抵抗にさらされているものではないから、警察職員の氏名等について、他の国家機関と異なる取扱いをする必要はない。
(エ) 証人丹野が証言する警察官等が攻撃された事例は、数の上でも少ないし(年間十数件程度)、職員情報の開示非開示とは無関係に、単に警察が襲撃された事件を挙げただけである。しかも、情報公開制度において職員情報等が開示されていない段階における事案であるから、警察職員の氏名等の開示と上記事例の発生との間に因果関係はない。
(3) 資金前渡職員の普通預金通帳関係
ア 資金前渡職員の普通預金通帳関係(別紙1の93―2番)の非開示情報は、次のとおり、資金前渡職員の普通預金通帳の口座番号等である。
別紙2―1の1番①上段、②上段、
別紙2―2の1番⑦上段、3番①下段、③第4段、
別紙2―3の1番①下段、④中段、⑦下段
イ 被告の主張
警察業務が、警察規制を物理的かつ強制的に実現することを中核とするものであり、相手方の反発や反感を招きやすい性質を有していることに照らし、資金前渡職員の預金口座番号及びこれと同一の番号により記録されているお客様番号を公開すれば、警察組織や職員を敵視し、警察活動を妨害することを企てる人物又は団体等によって、預金口座情報を悪用した犯罪が敢行されるなど、公共の安全と秩序の維持に支障が生じるおそれがある。
ウ 原告の主張
仮に架空入金があったとして、何故にそれが警察活動に対する妨害となるのか疑問であるし、そもそも架空入金を行おうとする者などいないのであって、被告が主張するようなおそれは、およそあり得ない。
(4) 質屋、古物商報償費関係
ア 被告の主張
(ア) 質屋、古物商報償金は、質屋等が受け取った物品が盗品であることが判明した場合、その旨の届出(質屋営業法21条3項、古物営業法19条4項)に対し、捜査協力の内容及び経済的損失(盗難又は遺失時から1年以内の場合には被害者又は遺失主に無償で返還しなければならないとされる。質屋営業法22条、古物営業法20条)等を加味し、所定の等級を適用して交付する金員である。
(イ) 報償金額、等級及び精算内訳欄(別紙1の46番ないし52番のうち、別紙2―2の1番①、②、③上段、④上段、⑤第1段、⑥上段)
報償金額等は、事案の性質に応じて適切に決定されているが、受領する側は、事案の個別的相違を無視して報償金額の多寡のみに目を奪われがちであることや、被害品の無償返還による経済的損失を嫌って届出をしないなどの業者が現実に存在することから、この情報を開示した場合、本来捜査協力として成り立っている関係が金銭として比較判断され、積極的な捜査協力を控える事態を招くなど、犯罪捜査に直接影響を与え、ひいては公共の安全と秩序の維持に支障が生ずるおそれがある。
(ウ) 報償金受償者の住所、氏名等(別紙1の46番ないし52番のうち、別紙2―2の1番③下段、④下段、⑤第2段、⑥下段)
a.質屋等による捜査協力の内容は、事件関係者に秘匿することを前提としており、仮に報償金受償者の住所、氏名等の情報を開示した場合、特定の事件について犯罪捜査に協力した質屋等を識別することが可能となるから、被疑者や犯罪集団等から逆恨みや報復を目的とする攻撃、嫌がらせを受けるおそれがある。
b.また、盗品等の処分を企図する者は、これらの情報から、警察に非協力的な質屋等を探知するなどの対抗措置を講じることで、盗品等の処分を容易にし、罪証隠滅を図るおそれがある。
(エ) 事案の概要等(別紙1の46番ないし52番のうち、別紙2―2の1番⑤第5段)
a.「事案の概要」欄には、具体的犯行日、被害者の住所及び氏名、犯行の手段方法、被害品の数量及び犯罪行為の概要が記載されている。
b.「協力の状況」及び「受賞行為に対する意見」欄には、これまでの捜査協力状況、捜査の具体的協力内容、協力に対する評価及び被害品名等が記載されている。
c.これらの情報を開示した場合、報償金受償者の氏名等を非開示としても、捜査協力に係る犯罪事実が具体的に判明し、当該事実の捜査に協力した質屋等が特定されるとともに、被疑者等が当該事件の捜査状況を知り得ることとなり、質屋等に対する攻撃等のおそれや、被疑者等が逃走又は証拠隠滅を図るなどして犯罪捜査を困難にするおそれがある。
(オ) 情報の一体性
この文書中に記載されている情報は、すべて一体のものとしての性質を有し、仮に、質屋等を特定する部分のみを非開示としても、上記の支障が生ずるおそれがあるから、その全部を非開示とすべきである。
イ 原告の主張
(ア) 報償費支出金額等
a.質屋等は、盗品を受け取った場合、法律上の義務として警察へ届け出るのであって、報償金をもらえることを期待して捜査に協力しているものではない。
b.また、被告の主張によれば、質屋等に対する報償費は、物品の価額等から機械的に決定するものではなく、捜査協力の度合い等を総合考慮して決定するのであるから、各事案を単純に金銭として比較判断することはできないはずである。
c.したがって、本来捜査協力として成り立っている関係が、金銭として比較判断され、積極的な捜査協力を控える事態を招くといったおそれはあり得ない。
(イ) 報償金受償者の住所、氏名等
a.そもそも、被疑者等は、自ら持ち込んだ質屋等を知っており、当該質屋が通報したであろうことは容易に推測し得るはずである。さらに、被害品の入手先や発見の端緒等は、捜査記録に記載され、被告人及び弁護人において、刑事手続に従って閲覧し得るのであるから、秘匿を前提とした情報とは必ずしもいえない。
b.質屋等は、法律上警察への届出が義務付けられており、かつ当該事件について第三者の立場にあるから、事件関係者が質屋等を逆恨みすることは考え難い。
c.盗品等の処分を企図する者が警察に非協力的な質屋等で処分するなどの対抗措置を講じるおそれがあるなどというのは、杞憂にすぎない。
(ウ) 事案の概要等
a.質屋等は、法律上警察への届出が義務付けられており、かつ当該事件について第三者の立場にあるのであるから、事件関係者が、質屋等を逆恨みすることは考え難い。
b.「事案の概要」等の各記載欄は、被告が主張するような事実(特定の事件の具体的な捜査状況や捜査機関としての協力に対する評価等)すべてを記載できるだけのスペースがないことからすると、被告の主張には疑問がある。
c.被疑者等は、被害者から警察に被害申告がされていると考えるのが通常であって、公開された行政文書から質屋等が警察に盗品の届出をしたことを知って、初めて捜査が開始されたことを知るものではない。また、同種の報償費支出が多数行われている中で、未検挙事件の被疑者が、多くの報償費支出に関する文書の中から、自己に関する報償費支出事項を発見すること自体、極めて困難である。
(5) 死体解剖謝金関係
ア 死体解剖謝金関係(別紙1の53番ないし57番)の非開示情報は、別紙2―2の2番①、②、③上段、④に記載のとおり、死体解剖医の所属、氏名、口座番号等である。
イ 被告の主張
(ア) 承諾解剖制度(死体解剖保存法7条)は、裁判官の令状を要せず、遺族の承諾のみで行う行政目的達成のための解剖であるところ、解剖の結果により犯罪の疑いが生じた場合には、刑事訴訟法上の司法解剖に移行するから、当該解剖医の所見が犯罪事実を立証する上で極めて重要な証拠となるとともに、当該解剖医には、解剖結果について守秘義務がある。
(イ) しかるに、死体解剖医の所属、氏名、口座番号等を公開した場合、ある解剖を担当した解剖医の特定が可能となるから、事件関係者が、無罪判決を得る目的で、当該解剖医に対する懐柔、脅迫又は攻撃や嫌がらせ等を加え、又は解剖所見の変更を強要するなどして罪証隠滅を図るおそれがある。特に、犯罪組織等が介在する場合には、公判手続とは無関係に、上記の行為が行われるおそれが生じ得ることを想起すべきである。
(ウ) また、犯罪死体でないため、司法解剖に移行しない場合であっても、死因そのものが生命保険金請求あるいは損害賠償請求等に大きな影響を与えるから、保険金請求の関係者等が、死体解剖医に対し、懐柔、脅迫又は強要等を行うおそれがあり、その場合、死体解剖医が刑事事件の被害者の立場に至る事態も想定される。
ウ 原告の主張
(ア) 捜査段階において、被疑者等が、死体解剖医の所属及び氏名等を知り得ることは通常ないのであるし、公判段階では、死体解剖医の所属及び氏名等は、捜査記録の一部として開示され、無罪を争う事案であれば、死体解剖医に対する反対尋問を通じて立証活動を行うのであり、刑事手続を無視して死体解剖医に接触を図り、所見の変更を強要することはあり得ない。
(イ) 解剖の結果は、死体解剖医が客観的な死体の状況について解剖所見をまとめ、写真や記録等によって証拠化するものであり、死体解剖医の主観のみで解剖所見がまとめられるものではないから、死体解剖医に対する懐柔、威迫等によって、事後的に解剖所見が影響されることはあり得ない。
(ウ) 被告の主張するおそれのうち、生命保険金請求等に係る部分は、4号にいう公共の安全及び秩序の維持に支障が生ずるおそれがある情報とは無関係の非現実的なおそれである。
(6) 警察犬関係
ア 被告の主張
(ア) 警察犬指導士に関する情報(別紙1の68番ないし91番のうち、別紙2―2の3番①上段、③第1段前段、⑥上段の警察犬指導士の住所、氏名、口座番号等)
a.我が国の警察犬運用制度には、「直轄警察犬制度」と「嘱託警察犬制度」とがある。直轄警察犬制度とは、各都道府県警察が警察犬を直接飼育管理し、専従警察官が常時事件出動に備えているものである。嘱託警察犬制度とは、民間人が飼育管理する犬及び犬の訓練士について、各府県警察が警察犬審査会等を実施してこれを選定した上、各府県警察本部長が一定の期間を定めて嘱託するものである。
b.宮城県警における警察犬運用制度は、嘱託警察犬制度であり、警察犬指導士は、犯罪現場において、事案の内容、犯人の行動及び原臭となる遺留品の存在等について具体的な説明を受けるとともに、場合によっては、犯罪現場に立ち入り、被害者と接するなど、捜査に関する情報を知り得る立場にある。
c.したがって、警察犬指導士の住所、氏名、口座番号等の情報を公開した場合、警察犬指導士個人の特定が可能となり、警察を敵視する個人及び団体等が、警察犬の運用による捜査手法を入手し、特定の犯罪の捜査状況を調査し、あるいは警察犬の運用を妨害する目的で、当該警察犬指導士及びその家族に対し、威迫、懐柔、嫌がらせ及び攻撃等を行うおそれがある。
(イ) 警察犬、警察犬所有者等に関する情報(別紙1の58番ないし67番及び92番のうち、別紙2―2の3番③第1段後段、⑥上段後段)
a.警察犬の所有者の大多数は一般の愛好家で、社団法人日本警察犬協会等の公認訓練所(公認訓練士)へ犬を委託するなどして犬の訓練育成に当たっており、その一環として、社会協力を兼ねて「嘱託警察犬制度」に協力しているものである。
b.これらの情報を公開した場合、警察犬所有者個人の特定が可能となり、警察を敵視する者が、嘱託警察犬制度に打撃を与えるため、警察犬の所有者に嫌がらせ及び攻撃等を行うおそれがあり、所有者の中には、高齢者等の自己防衛力の乏しい者も含まれることから、単なる嫌がらせであっても、警察犬の嘱託を辞退するなど、今後の嘱託警察犬制度の運用に重大な支障を生じるおそれがある。
(ウ) 警察犬審査会に伴う報償費等の支給を受けた審査員に関する情報(別紙1の93番のうち、別紙2―2の3番⑥中段、⑦上段に記載の警察犬審査会審査員の氏名等)
a.警察犬審査会の審査員は、警察犬及び警察犬指導士を選考するため、社団法人日本警察犬協会から派遣された一般人であり、警察犬及びその運用に関する専門的な知識、技能を有し、専門審査員として、適正かつ公平な審査に当たっている者である。
b.警察犬審査会の審査員は、宮城県警の警察犬運用に関する事項、公表していない警察犬指導士、所有者等の所属及び住所等を知り得る立場にある。
c.したがって、これらの情報を公開した場合、審査員個人の特定が可能となり、警察を敵視する個人及び団体等が、警察犬の運用に関する組織体制や警察犬の所有者及び警察犬指導士を割り出すため、同審査員に対し、威迫、懐柔、嫌がらせ及び攻撃等を行い、ひいては審査員が警察犬及び警察犬指導士の派遣要請に応じなくなるなど、今後の嘱託警察犬制度の運用に重大な事態を招くおそれがある。
イ 原告の主張
(ア) 警察犬指導士に関する情報
a.警察犬出動の有無、目的及び時期等は、捜査関係者でなければ知り得ないから、事件関係者は、警察犬指導士に嫌がらせ等をしようとする意識をそもそも持ち得ない。また、警察犬指導士は、捜査の一部を担うにすぎず、被害者等の当事者の立場にもないから、この点からも、事件関係者がこれらの者に対し嫌がらせ等を行うことは、あり得ない。
b.嘱託警察犬制度は一般的には知られておらず、警察犬といえば、一般人は直轄警察犬制度を想起するから、警察犬の運用に打撃を与えるため、警察犬指導士に嫌がらせ等を行うとの発想自体が生じる余地がない。
(イ) 警察犬、警察犬所有者等に関する情報
a.嘱託警察犬制度は、その存在自体が一般的に知られていない現状にあるから、仮に、警察活動を妨害しようとする者がいたとして、警察犬の所有者(飼育者)に嫌がらせ等をしようとする者はいないはずである。
b.警察犬の所有者に嫌がらせ等をしても、別の警察犬を依頼することも可能であり、しかも、直轄警察犬制度が存在するのであるから、何ら警察犬の運用に打撃を与えることにはならず、したがって、警察犬の所有者に打撃を与えるようなことを考える者は存在しない。
(ウ) 警察犬審査会に伴う報償費等の支給を受けた審査員に関する情報
a.警察犬審査会の存在自体、一般には周知されていないのであるから、その審査員に対する攻撃等は考えられない。
b.警察犬の指導士や所有者よりも更に警察活動に与える影響が間接的である警察犬審査会の審査員に対する攻撃等は、あり得ない。
(7) 刑事部長感謝状贈呈に伴う報償費関係
ア 被告の主張
(ア) 刑事部長感謝状贈呈に伴う報償費の性格
a.この報償費は、平成11年の上半期及び年間において、犯罪の予防、犯罪捜査への協力及び被疑者の検挙等の功労があったと認められる部外団体及び部外者個人並びに死体解剖医に対し、刑事部長が贈呈した感謝状の副賞としての「額縁」の購入代金である。
b.この刑事部長表彰は、いずれも特定の団体又は個人が犯罪捜査等に対して協力したことに謝意を表すために贈呈したものであり、人命救助に対する感謝状のように、部外に広く知らしめるべきものとは性格を異にしている。
c.なお、この種の表彰等の事実に関し、過去に新聞等で報道された事実はあるが、これは、当時の個別事情もあって結果として報道されたにすぎず、公表することを目的として表彰したものではない。
(イ) 特定事件の被疑者に関する情報を提供した団体名及び代表者名(別紙1の8番及び9番のうち、別紙2―1の2番①第2段、第4段、③第1段、第2段)
a.当該団体名及び代表者名を公にした場合、その名称から業種が判明し、犯罪捜査協力の内容(提供した情報の種別)が推定されることなり、その情報と、既に開示している功労の概要及び施行日等の情報、さらに、公判廷で明らかにされる検挙の端緒に関する情報と組み合わせることにより、当該犯罪者等が、自分が検挙されるに至った事情を知ることになる。
b.その結果、当該犯罪者等が報復を企図して、あるいは証拠隠滅等を目的として、被贈呈団体及びその代表者に対する攻撃や嫌がらせを行うおそれがある。
c.また、団体名等の公表を前提としない協力が、今後控えられるなど、犯罪捜査における信頼、協力関係を損ねることにもなり、公共の安全と秩序の維持に支障が生じるおそれがある。
(ウ) 捜査における通訳人を派遣した団体名及び代表者名(別紙1の8番及び9番のうち、別紙2―1の2番①第2段、第4段、③第1段、第2段)
a.当該団体名及び代表者名を公にした場合、その名称及び代表者氏名から業種が判明し、その功労が国際犯罪捜査協力であることが明示されているため、被疑者等は、感謝状の贈呈時期等の情報を組み合わせ、自己の取調べを担当した通訳人の派遣団体を特定できる。
b.外国人犯罪者の取調べに当たり、通訳人は必要不可欠である上、捜査段階における通訳人は、取調べを担当する警察官の補助者という意味合いが強く、警察官の手足となって外国人被疑者を追及するかのような印象を与えるため、外国人犯罪者の通訳人に対する遺恨には極めて強いものがあり、その感情は、当然ながら当該通訳人を派遣した団体にも向けられる。
c.したがって、外国人犯罪者等が、特定された通訳人派遣団体を逆恨みし、復讐を企図して当該団体及びその代表者に対する攻撃や嫌がらせを行う可能性があり、一度そのような事態が発生すれば、通訳人を辞退するなど、宮城県のみならず全国の犯罪捜査に重大な支障が生じるおそれがある。
d.宮城県においても、宮城県警が嘱託した民間人たる通訳人が被疑者等から脅迫等を受けた事例が発生している。
(エ) 暴力団排除活動の推進に功績があった団体名及び代表者名(別紙1の8番及び9番のうち、別紙2―1の2番①第2段、第4段、③第1段、第2段)
a.当該団体名及び代表者名を公にした場合、既に開示している「功労の概要」に関する情報と組み合わせることにより、当該団体等が、暴力団排除活動に顕著な功績があることが判明する。
b.その結果、暴力団の反社会的集団としての特質に照らせば、暴力団排除活動が暴力団組織の存続を危うくするものであり、その活動を阻止するため、被贈呈団体及びその代表者に対して攻撃や嫌がらせを行う可能性が極めて高く、公共の安全と秩序の維持に支障が生じるおそれがある。
(オ) 捜査支援資料を提供し又は捜査活動に係る技術支援をした団体名及び代表者名(別紙1の8番及び9番のうち、別紙2―1の2番①第2段、第4段、③第1段、第2段)
a.これらの団体名及び代表者名を公にした場合、その名称及び代表者名から業種が判明し、結果として、当該団体が提供したデータベース又は技術支援の内容が推定されることになる。
b.「捜査支援システムへのデータベースの提供」及び「捜査技術の内容」に関する情報は、犯罪捜査の手段、方法等に直結する情報であり、これらを開示した場合、犯罪を企図する者が自らが捕捉されないよう対抗手段を講ずることが可能となるなど、当該システム及び操作技術の有効性を維持することが困難となって捜査力の低下を招き、公共の安全及び秩序の維持に支障が生ずるおそれがある。
c.また、団体名等の公表を前提としない資料提供又は技術支援が、今後、控えられるなど、犯罪捜査における信頼、協力関係を損ねることにもなり、その意味でも、公共の安全と秩序の維持に支障が生じるおそれがある。
(カ) 死体解剖医の所属、氏名(別紙1の8番及び9番のうち、別紙2―1の2番①第5段)
前記(5)イのとおりである。
イ 原告の主張
(ア) 刑事部長感謝状贈呈に伴う報償費の性格
捜査協力に対する表彰は、公的機関たる宮城県警が、犯罪捜査に対する功労を表して感謝状等を贈呈するのであるから、その性質上、表彰に関する情報は、公表を予定したものというべきである。
(イ) 特定事件の被疑者に関する情報を提供した団体名等
a.団体名等から業種、業種から捜査協力の内容、さらには特定の事件を推定することなど不可能である。
b.業種から捜査への協力内容が推定されるとは限らないし、同種犯罪が多い中、犯罪者等が自ら検挙されるに至った情報と感謝状の被贈呈団体とを結び付けることなどできない。
c.「犯罪捜査功労」等との表彰理由では、捜査協力の内容は全く分かり得ないし、検挙の時期と表彰の時期には時間的なずれがあるから、当該団体の捜査協力と自己が逮捕された事実を結び付けることなどできない。
(ウ) 捜査における通訳人を派遣した団体名等
通訳人は、言語伝達の補助を行うにすぎず、被疑者等は、そのような立場にある通訳人を信頼し、打ち解けるのが通常であって、捜査段階における警察の通訳人であっても、被疑者等から逆恨みされる事例はまず存在しない。したがって、通訳人自体が逆恨みされることがまずない以上、通訳人を派遣した団体等が逆恨みされることは、あり得ない。
(エ) 暴力団排除活動の推進に功績があった団体名等
a.特定の暴力団に対する排除活動をしたことが判明するならばまだしも、「暴力団排除活動」を行ったのみでは、暴力団関係者から嫌がらせや攻撃を受ける可能性は少ない。
b.現に、「暴力団お断り」等の張り紙や注意書きを掲げて営業している店舗は多数あるが、一般的な暴力団排除運動をしたことにより暴力団から攻撃や嫌がらせを受けるということはまずない。
(オ) 捜査支援資料を提供し又は捜査活動に係る技術支援をした団体名等
a.当該団体名等の開示により、業種が判明し得るとしても、そこから直ちに、データベースの内容又は捜査技術の内容を推察できるとはいえない。また、一般的に販売されているデータベースであれば、非開示とする実益はないし、特殊なデータベースであれば、団体名等からデータベースの内容を知ることは不可能である。
b.犯罪を企図する者が当該会社の社員等に対する懐柔工作、脅迫行為等を行うなどということは、およそ考え難いし、守秘義務を負う会社の従業員等が捜査情報を漏洩するなどというおそれも杞憂にすぎない。
(カ) 死体解剖医の所属、氏名
前記(5)ウのとおりである。
(8) 精神鑑定嘱託謝金関係
ア 精神鑑定嘱託謝金関係(別紙1の45番)の非開示情報は、別紙2―1の3番①、③ないし⑤記載のとおり、精神鑑定医の病院名、住所、氏名、口座番号等である。
イ 被告の主張
(ア) 運転免許申請に伴う精神鑑定について
a.道路交通法88条1項2号は、「精神病者」を運転免許の欠格事由と定めており、精神が病的状態にある者の運転免許申請に際し、事前に受験相談を実施することがある。
b.その場合、当該相談者から主治医等が作成した診断書の提示を受け、その内容から適格性を判断するが、判断の適正を期するため、公安委員会が指定する医師に対し、精神鑑定を嘱託する。
c.それを受けて、精神鑑定医は、上記診断書に基づく鑑定を実施する。
なお、精神鑑定医は、主治医に対する照会等は行うが、相談者に対する面接は実施しない。
d.その結果、当該相談者が不適格と判断された場合には、運転免許の申請を拒否することとなる。
(イ) この情報を開示した場合、精神鑑定医が具体的に特定されるから、過去において受験を拒否された者が、受験拒否処分の根拠となった鑑定をした医師を逆恨みし、これに対する攻撃や嫌がらせ等を行うおそれがある。
(ウ) また、鑑定を依頼する際、氏名等の公表を前提としていないことから、この情報を開示した場合、今後、鑑定依頼が断られるなどの事態が生じ、公共の安全と秩序の維持に支障が生じるおそれがある。
ウ 原告の主張
(ア) 被告の主張は、行政目的の鑑定に影響するとの主張であり、犯罪捜査活動を想定している4号の予定する非開示理由には当たらない。
(イ) 受験者が、面接したこともない精神鑑定医を逆恨みするようなことは考え難く、精神鑑定医に対して嫌がらせ等を行うおそれはあり得ない。
(9) 犯罪捜査協力報償費関係
ア 被告の主張
(ア) 犯罪捜査協力報償費の性質
a.犯罪捜査協力報償費は、各種犯罪捜査の過程において、情報提供者等に対する謝礼等として、あるいは汚職事件等の長期間かつ継続的な内偵捜査に伴う協力謝礼等として支払われるものである。
b.各種犯罪捜査の成否は、犯罪捜査協力者から得た情報によるところが大きく、被疑者の直近及び犯罪組織の中枢へ秘匿工作を行うなどして協力者を確保、運用している。したがって、ひとたび被疑者側に捜査協力の事実が発覚した場合、協力者側の生命身体等に危害が及ぶおそれがあり、そのため、協力者の確保に際し、協力者であることを完全に秘匿することを絶対条件としているものである。
(イ) 支出負担行為兼支出命令決議書、年度・会計・科目訂正決議書、精算通知票、施行伺及び普通預金通帳の金額欄等(別紙1の94番ないし99番のうち、別紙2―3の1番①上段、②、③、④上段、⑦上段)
a.これらの情報は、犯罪捜査を担当する所属(関係各課)における月額の犯罪捜査協力報償費を表したものであり、その時々における宮城県警の犯罪捜査状況を数値的に直接反映した情報である。
b.このため、これらの情報を公にすれば、各課の月額執行金額の増減が知れることになり、当該各課の分掌事務及び被疑者側が持つ犯行の具体的内容等の情報を組み合わせることにより、各課における捜査活動の動静等を把握することが可能となる。したがって、被疑者等が、自己に対する捜査の状況等を推察し、逃亡し、又は被害関係者を威迫するなどして罪証隠滅等を図るなど、犯罪の捜査又は予防等の公共の安全と秩序の維持に支障が生じるおそれがある。
c.また、これら執行金額を公にした場合、捜査協力者が、自己が受けた報償金と比較することにより、報償費の増額を要求し、又は捜査協力を拒むなど、犯罪の捜査に支障が生じ、公共の安全と秩序の維持に支障が生じるおそれがある。
(ウ) 犯罪捜査協力報償費支払明細兼残高証明書の支払月日、受入額等(別紙1の94番ないし99番のうち、別紙2―3の1番⑤)
a.この情報は、支払月日、犯罪捜査協力報償費の個別又は月別の受入金額、支払額及び残額、並びに摘要である。
b.月別の執行金額の増減が知れることによる支障が生ずるおそれは、上記(イ)b.及びc.と同様である。個別の執行金額が知られることにより、被疑者等は、自己に対する捜査の状況等をより具体的に推察できることになる。
c.支払月日等は、担当警察官が犯罪捜査協力者に接触し、報償費を支払った日を表すものである。したがって、協力者をよく知る捜査対象者が、当該月日に同協力者の密談現場を目撃した場合、同協力者が捜査協力者であると確信し、これに対して攻撃を加えるおそれがある。また、被疑者等は、上記の確信に至らなくとも、その疑念を生じただけで、威迫等の手段によって捜査協力者の割り出しや罪証隠滅を図ることは必定であるから、協力者が、自己の保身のため、以後の捜査協力を回避するなどの支障が生ずるおそれがある。
(エ) 現金出納簿(別紙1の94番ないし99番のうち、別紙2―3の1番⑥)
a.この情報は、①金額情報(月分の受入金額、個別の支払額及び個別の入出金前後の金額、月ごと又は会計年度の締めとしての各金額の累計)、②月日欄(報償費が入出金された月日)、③摘要欄(報償費が支出された具体的事件名、担当捜査員の階級及び氏名)である。
b.金額情報を開示することによる支障のおそれについては、上記(ウ)b.と同様である。
c.月日及び摘要欄を開示した場合、具体的事件名も知れることになるから、具体的事件に係る捜査状況が把握されることになり、被疑者等が逃亡又は罪証隠滅を企てる端緒を与えることになる。
また、具体的事件について協力者が存在する事実が明らかとなる上、摘要欄の開示によって担当警察職員の氏名が知れることになるから、当該警察職員を知る前歴者等が、当該警察職員の所属部署等の情報を総合して、特定の事件における協力者の割り出しが可能となる。その場合に生ずるおそれについては、上記(ウ)c.と同様である。
(オ) 支出証拠書類(別紙文書目録2)
a.犯罪捜査協力報償費に係る支出証拠書類の表紙(別紙1の94ないし99の表紙)
この情報は、2号、4号の非開示理由が存在する月分捜査費総括表、捜査費支出伺、支払精算書及び領収書を月ごとに編綴したものの表紙で、分離しても、表紙単体では意味を持たないものであるから、県条例9条後段の規定を適用して非開示としたものである。
b.月分捜査費総括表(別紙1の94番ないし99番のうち、別紙2―3の2番①)
月分捜査費総括表は、各課における犯罪捜査協力報償費の月ごとの繰越額、受入額、支払額及び残額等の総額を記載したものであり、併せて返納又は追給が生じた場合には、その総額を記載したものである。
c.捜査費支出伺(別紙1の94番ないし99番のうち、別紙2―3の2番②上段)
捜査費支出伺は、資金前渡職員が具体的事件名や支出金額を記載したものであり、支出事由として、具体的事件について情報提供者が存在すること、捜査関係者に係る情報、捜査費が執行された時期に関する情報が捜査に関する独立した一体的な情報を成すものとして記載されている。
d.支払精算書・支払額内訳(別紙1の94番ないし99番のうち、別紙2―3の2番③上段)
支払精算書・支払額内訳は、捜査担当者が債主名を明らかにして支払事由や支払金額を記載したものであり、具体的事件に関する情報、情報提供者、捜査関係者に関する情報が捜査に関する独立した一体的な情報を成すものとして記載されている。
e.領収書(別紙1の94番ないし99番のうち、別紙2―3の2番④)
領収書には、犯罪捜査協力報償費を受領した協力者本人の住所、氏名、受領月日、受領金額、印影が捜査に関する独立した一体的な情報を成すものとして記載されており、これらの記載は、犯罪捜査協力者の直近情報となるものである。
f.以上の文書(b.〜e.)を開示した場合、各情報は、個別の犯罪捜査の内容を表すとともに、犯罪捜査等の具体的内容や秘密の情報源の存在等、捜査関係者のみが知り得る情報が記録されており、その全体を集約した場合、犯罪捜査の全貌を詳細に現すものとなるから、上記(イ)ないし(エ)で述べたところと同様の支障が生じるおそれがある。
g.原告は、犯罪捜査協力報償費の支出は架空であるか、裏金捻出等違法な経理が行われている疑いが強い旨主張するが、本件訴訟の争点は、領収書等の偽造の有無ではなく、文書に記載された情報が4号に該当するか否かであって、犯罪捜査協力報償費の架空支出をいう原告の主張は失当である。
イ 原告の主張
(ア) 犯罪捜査協力報償費の支出は、架空であるか、裏金捻出等違法な経理が行われている疑いが強い。その根拠は、次のとおりである。
a.不自然な使い切り状態
犯罪捜査報償費の支出は、協力者の存否や必要性、捜査の時期等の偶発的、突発的事情によって左右される以上、予算にかかわらず、各部署において支出の多寡が生じるはずであり、平成11年及び12年度のいずれにおいても年度末残高が使い切りの状態となっているのは、報償費の性格上、不自然というほかない。
b.不自然な単価のバラツキ
原告が現金出納票を分析したところによれば、各署課の年間支出件数と1件当たりの支出単価は、各課署で相当のバラツキが見られる(甲21。鉄道警察隊の3634円から暴力団対策課の3万0693円まで)。謝金には基準額があると考えられるから、これほどまでにバラツキがあるのは不自然である。
c.犯罪統計との関係
犯罪捜査協力報償費の支出額は、費目の性質上、犯罪等の発生件数と相関関係にあると考えられるのに、実際にはそうなっておらず、これらの事実は、この費目が犯罪捜査の名を借りて、実際には別の形の支出がなされている疑いを抱かせる。
d.入金日の全額払戻し
取扱要領では、「現金は金融機関に預金して保管する。ただし、経理の性格上、必要な限度の現金を手元に保管することができる」となっているのに、すべての署課で、入金されたその日に全額が払い戻されているのは不自然である。
e.大内顕の意見等
警視庁銃器対策課の裏金作りを内部告発した大内顕に対し、原告が意見を求めたところ、警視庁では、国費の犯罪捜査報償費も都費の犯罪捜査報償費も完全に架空であり、宮城県警においても同様であるとのことであった(甲2)。
f.警察の不正経理の常態化
以上の事実によれば、警察内部では、不正経理が常態化し、裏金捻出が恒常的に行われてきており、宮城県警における犯罪捜査協力報償費の支出もその一環であると認めるべきである。
(イ) 支出負担行為兼支出命令決議書・債権者内訳書、年度・会計・科目訂正決議書、精算通知票、施行伺及び普通預金通帳の金額欄等
a.宮城県警刑事部は、刑事総務課、捜査第一課、捜査第二課、暴力団対策課、鑑識課及び機動捜査隊、交通部は交通企画課を始めとする五課、警備部は公安課及び警備課からなるところ、各課ごとに職務内容は異なり、その担当職務の内容も多様である。
b.このように各課において様々な職務を担当する以上、各課の月別執行金額の増減は、各課ごとの総合的な報償費の執行金額の増減を表すものにすぎないし、そもそも、捜査協力のみに基づいて捜査が行われるものではないから、犯罪捜査協力報償費の支出状況は、特定の事件の捜査活動の活発さを表すものではない。
c.情報公開により、報償費支出関連文書が開示されたとしても、過去の報償費の支出状況を事後的に確認し得るにすぎず、現在又は将来の捜査状況を推察することなど不可能であるから、被疑者が逃亡又は証拠隠滅を図るおそれなどあり得ない。
d.捜査協力者から増額要求されるおそれなどというのは非現実的であるし、仮に増額要求があったとしても、報償費の性質上、そのような要求は拒否し得るのであって、そのことによって、捜査協力を拒否されるとも思われない。
(ウ) 犯罪捜査協力報償費支払明細兼残高証明書の支払月日、受入額等
上記(イ)と同様であるほか、各課における捜査協力者は多数存在し、各担当警察官ごとに協力者が多数いるはずであるから、支払日等の記載から、特定事件における捜査協力者が特定されることはあり得ないし、特定事件の捜査の進行状況を知ることなど不可能である。
(エ) 現金出納簿
a.金額情報
上記(イ)及び(ウ)と同様である。
b.月日及び摘要欄
報償費を支出する場面は一部であり、個別の執行金額や事件名が知れたからといって、犯罪者が捜査の進行状況を推察するおそれがあるというのは非現実的である。現金出納簿が開示されるにしても事後的である。
情報公開請求に際しては、請求者の身分を明らかにする必要がある以上、逃亡又は罪証隠滅のおそれはあり得ない。
また、犯罪捜査協力報償費の支出自体から捜査協力者の存在が知れるとは通常いえず、協力者が誰であるかは現金出納簿からは全く分からない。摘要欄における具体的事件名がどの程度の具体的内容を持った記載であるかも不明である。
(オ) 支出証拠書類
a.これらの文書については、上記(ア)ないし(エ)で述べたところと同様である。
b.支払事由欄から具体的事件名が判明したとしても、被疑事実の詳細までは知り得ないし、既に立件済みの事件に至っては、捜査活動に何らの支障もないはずである。支払事由欄は、極めて小さく、捜査活動の個別具体的あるいは詳細な内容が記載されることは予定されていないというべきである。
c.捜査協力者等の氏名等を開示することにより、これらの者に危害が及ぶおそれがあるなどというのも、極めて観念的かつ抽象的な危惧であり、公共の安全と秩序に支障が生ずるおそれを何ら具体的に主張立証するものではない。
d.当該支出は、実体のない架空の支出であるから、被告の主張するおそれがないことは、ますます明白である。
3 争点3(6号該当性)
(1) 6号の解釈基準
ア 被告の主張
(ア) 6号の趣旨は、地方公共団体が行う事務又は事業は、公共の利益のために行われるものであるが、開示によりその適正な遂行に支障を及ぼすおそれのある情報については、開示によって得られる利益を一部制約することにも合理的な理由があるとの立法判断に基づいている。
(イ) そのため、実施機関としては、当該事務又は事業の本質的な性格、当該事務又は事業の目的、その目的達成のための手法等に照らして、開示によってその事務事業の適正な遂行に支障が生じる可能性の有無をある程度抽象的、類型的に判断すれば足りるというべきである。
(ウ) 5号(意思形成過程情報)が、「支障が生ずると明らかに認められるもの」と規定しているのに対し、6号(行政執行情報)は、単に「支障が生ずると認められるもの」と規定していることにも留意すべきである。
イ 原告の主張
(ア) 6号において、「支障が生じると認められる」とは、単なる抽象的な可能性では足りず、客観的、具体的な支障の存在が主張立証されなければならない。
(イ) 抽象的、類型的判断で足りるとすることは、6号の非開示範囲が著しく拡大し、情報公開の趣旨を没却することとなってしまい、不当な解釈であるといわざるを得ない。
(2) 6号該当性
ア 6号関係の情報は、随意契約に係る業者選定伺のうち、契約金額の基礎となる予定価格を定める計算式(単価×掛率×数量=金額)である(別紙1の8番ないし13番及び92番のうち、別紙2―1の2番⑤)。
イ 被告の主張
(ア) この文書は、随意契約に係るものであるが、契約価格の公正さ等を担保するため、競争入札に準じて、あらかじめ積算して予定価格を定めておき、相手方が提示する価格の当否を比較検討する基準としているものである。
(イ) 当該情報に係る物品購入については、将来にわたって同一又は同様規格の事務用品等を購入する必要性があるから(特に、「警察犬用ガウン」については一般に市販されていないため、将来にわたって反復して購入する必要性が高い。)、これを公にした場合、本来の入札制度の目的とする「競争」が妨げられるなど、当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務事業の公正若しくは円滑な遂行に支障が生ずると認められる。
ウ 原告の主張
(ア) 競争入札における予定価格については、これを公開することによって談合を容易にすることが考えられるが、本件の情報は、随意契約における予定価格であり、競争入札におけるそれではない。最近では、競争入札における予定価格さえ情報公開される例がある。
(イ) 本件のような随意契約において、予定価格を事後に公表したとしても、談合を誘引するといったおそれは全くない。
第5 当裁判所の判断
1 争点1(2号該当性)について
(1) 警察犬関係について
ア 警察犬指導士の住所、氏名、口座番号等について
(ア)a.弁論の全趣旨によれば、「嘱託警察犬制度」(後記2(5)参照)においては、警察犬指導士は民間人であり、社会協力活動の一環として警察の捜査活動の一部に協力しているものではあるが、少なくとも警察犬指導士の一部は、犬の訓練等を職業とし、警察犬指導士として出動した際は宮城県警から出動手当の支給を受けていることが認められる。
b.したがって、警察犬指導士は3号の「事業を営む個人」に該当し、警察犬指導士として警察に協力したという事実は「当該事業に関する情報」と認めるべきであるから、その氏名は、2号には該当しないと認められる(犬の訓練等を職業とせず、純然たる社会協力活動として警察犬指導士となっている者については、被告は、その者を特定して主張すべきである。また、犬の訓練等を職業としている者についても、3号の「正当な利益」に該当するか否かが問題となる余地はある。)。
c.警察犬指導士の住所、郵便番号及び債権者コード(電話番号)は、事業を営む個人の「当該事業に関する情報」ではないと認めるべきところ、これらの情報は、2号に該当する。
d.警察犬指導士の口座番号等は、事業を営む個人の「当該事業に関する情報」と認めざるを得ず、この情報は、2号には該当しない。
(イ) よって、警察犬指導士の住所、郵便番号及び債権者コード(電話番号)について2号該当をいう被告の主張は理由があるが、警察犬指導士の氏名、口座番号等について2号該当をいう被告の主張は理由がない。
イ 警察犬所有者の住所、氏名、口座番号等について
(ア)a.弁論の全趣旨によれば、警察犬所有者(飼育者)は、「嘱託警察犬制度」の下において、宮城県警から自己が所有する犬につき警察犬の嘱託を受けている民間人であり、警察犬の飼育を生業とする者はいないことが認められるから、警察犬所有者は、2号の「個人」に該当すると認められる。
b.警察犬所有者の氏名が開示されれば、当該個人が警察の犯罪捜査活動に協力していることが明らかになるから、警察犬所有者の氏名は、2号本文に規定する「個人に関する情報」であって、特定の個人が識別されるものに該当すると認められる。
c.警察犬所有者の氏名が同号ただし書イ(公開が予定されている情報)に該当しないことは、明らかである。
d.警察犬所有者の活動を公務員による公務遂行に係る情報と同列に扱うことはできないから、警察犬所有者の氏名は同号ただし書ロの規定する開示すべき情報にも該当しない。
e.警察犬所有者の住所、口座番号等は、警察犬名を含め、2号本文に該当し、同号ただし書に該当しないと認められる。
(イ) 原告は、個人の行動であっても、社会的活動を行う団体において、職務上の行為としてされた場合には、もはや私事に関するものとはいえない旨主張する。確かに、警察犬所有者が犬の飼育を職業とし、その一環として警察犬を所有しているのであれば、原告主張のように解する余地もあるが、前記認定のとおり、警察犬所有者は自己が所有する犬につき警察犬の嘱託を受けている民間人であり、警察犬の飼育を生業にする者はいないものであるから、警察犬所有者を「事業を営む個人」と認めることはできず、この点の原告の主張は採用することができない。
(ウ) よって、警察犬所有者の住所、氏名、口座番号等について2号該当をいう被告の主張は、理由がある。
ウ 警察犬の出動現場名等の情報について
(ア) 弁論の全趣旨によれば、別紙1の70番、72番、75番、83番、88番、90番及び91番の出動理由は、逮捕監禁事件(70番)、強姦致傷事件(72番、75番)、強姦事件(83番)、住居侵入及び強制わいせつ事件等(88番)、窃盗(色情盗)事件(90番、91番)であることが認められる。
これらの事件につき、警察犬の出動した具体的事件現場名(住所、アパート名等)が開示されれば、強姦事件等の被害者がその住人であると推測され、強姦事件等の被害者が具体的事件現場やアパートの住人の中のだれかであると特定されることになり、付近の住民やアパートの住人がだれであるか、最近転居した人はいるか等の情報と組み合わせることにより、特定の個人が識別され得るものと認められる。
また、弁論の全趣旨によれば、別紙1の70番(逮捕監禁事件)については、施行理由欄に「○○○運転手に対する逮捕監禁容疑事件」と記載され、○○○部分に特定の企業名が記載されていることが認められるところ、特定の企業名が開示されれば、「運転手」という職種が開示されていることと相まって、被害者がだれであるか識別され得ると認めるべきである。
したがって、警察犬の出動した事件現場名及び企業名は、2号本文に規定する「個人に関する情報」であって、同号ただし書に該当しないものと認められる。
(イ) これに対し、強姦事件等につき、警察犬の出動した具体的事件現場名等が非開示とされれば、出動月日を開示しても被害者個人が識別特定されることはないと認められるから、警察犬の出動月日の情報が2号本文に規定する「個人に関する情報」に該当すると解することはできない。
(ウ) 原告は、事件現場等の開示により被害者が特定されるとは考え難い旨主張する。
しかしながら、この問題は、開示される場所情報による場所の大きさに関わる問題であり、「仙台市」や「青葉区」との情報を公開しても、通常は被害者を特定することはできないが、10戸程度のアパートの名前が開示された場合を想定すれば明らかなように、個別の事件現場名等が開示されれば、被害者名は容易に識別されると考えられるからこの点の原告の主張は採用することができない。
(エ) よって、具体的事件現場名等について2号該当をいう被告の主張は、出動月日については理由がないが、出動した事件現場名等については理由がある。
エ 警察犬審査会審査員に係る情報について
(ア) 社団法人日本警察犬協会の性格についての詳細な立証はないが、社団法人格を有していること及びその名称からすると、同協会は、公益的な事業を目的とする公の団体に準ずる団体であると認められる。
そして、警察犬審査会審査員は、宮城県警から同協会への派遣要請に基づき、宮城県警において実施する警察犬指導士及び嘱託警察犬の審査会に派遣され、審査員の一員として専門的知識や技能等に基づき審査を行うということからすると、公の団体に準ずる団体の職務上の行為として審査員を務めたものと認めるべきであるから、警察犬審査会審査員の氏名及び印影は、2号本文の「個人に関する情報」に該当しないといわなければならない。
(イ) これに反する被告の主張は、採用することができない。
(ウ) したがって、警察犬審査会審査員の氏名等につき2号該当をいう被告の主張は、理由がない(この情報につき、3号の「正当な利益」に該当するか否かが問題となる余地はある。)。
(2) 精神鑑定嘱託謝金について
ア 道路交通法88条1項2号は「精神病者」を運転免許の欠格事由として規定しているところ、弁論の全趣旨によれば、運転免許の取得希望者が、上記精神病者に該当する可能性がある場合、事前に運転免許試験の受験の可否につき相談されることがあること、当該相談者が提示する主治医作成の診断書の内容からその者の受験の可否につき判断するに当たり、必要な場合、精神科医師に対し、診断書に基づく鑑定を嘱託することがあること、嘱託を受けた精神鑑定医は、主治医作成の診断書等を検討し、主治医に対する照会を行うことはあるが、相談者に面接することはないこと、精神鑑定嘱託謝金は、その鑑定を実施した精神鑑定医に対して支払われる謝礼金であることが認められる。
イ(ア) 精神鑑定医は、3号の「事業を営む個人」に該当すると認められる(「情報公開事務の手引」(乙1)19頁も、事業を営む個人とは、地方税法72条5項から7項までに掲げる事業を営む個人等であると解説しているが、地方税法72条7項1号は、第三種事業の1つとして「医業」を掲げている。)。この理は、病院に勤務する精神科医師が運転免許試験の受験可否の判断のために、個別的、臨時的な必要性によって鑑定を依頼される場合であっても、同様であると解せられる。
(イ) したがって、精神鑑定医の病院名、氏名、印影及び口座番号等につき2号該当をいう被告の主張は、理由がない。
ウ これに対し、精神鑑定医の住所、郵便番号及び債権者コード(電話番号)は、事業を営む個人の「当該事業に関する情報」ではないと認めるべきところ、これらの情報は、2号に該当する。
エ よって、精神鑑定医の病院名、氏名、印影及び口座番号等について2号該当をいう被告の主張は理由がないが、精神鑑定医の住所、郵便番号及び債権者コード(電話番号)について2号該当をいう被告の主張は理由がある。
(3) 部外講師謝金について
ア 弁論の全趣旨によれば、部外講師謝金は、宮城県警の依頼に基づき、被害者対策講演会あるいは指定自動車講習所職員講習会等で講話を行った講師に対して支払われた謝金であることが認められる。
イ 部外講師を3号の「事業を営む個人」と認めることはできないから、部外講師の住所、電話番号、印影及び口座番号等は、2号本文に該当し、同号ただし書に該当しないと認められる。この結論は、部外講師の職名、氏名が開示されていることにより、左右されるものではない。
ウ よって、部外講師の住所、口座番号等について2号該当をいう被告の主張は、理由がある。
(4) 表彰に伴う報償費について
ア 被贈呈団体の代表者氏名について
a.弁論の全趣旨によれば、被贈呈団体は、団体として警察の犯罪捜査等に協力した功労により表彰されたものであるが、その代表者は、従業員等として表彰を受けた当該団体の活動に職務として従事したため、「代表者名」欄に記載されたことが認められる。
b.したがって、その代表者名は、2号にいう「個人に関する情報」には該当しないものと解される(この情報につき、3号の「正当な利益」に該当するか否かが問題となる余地はある。)。
c.よって、被贈呈団体の代表者氏名について2号該当をいう被告の主張は、理由がない。
イ 暴力団排除運動及び犯罪捜査協力(犯罪捜査通訳、検視業務を含む。)の功労により感謝状を授与された個人の住所、職名及び氏名について
(ア) 犯罪を目撃し、警察へ通報したような典型例では、感謝状を授与された者は、個人として通報を行ったものであり、警察に対し通報したという事実は、「個人に関する情報」と認めるべきであるから、犯罪捜査協力の功労により感謝状を授与されたことは、2号本文に該当し、同号ただし書ロに該当しないと認められる。
また、同号ただし書イについても、溺れかかった子どもを救助した例とは異なり、「法令の規定により又は慣行として公開され、又は公開することが予定されている情報」には該当しないと認められる。
(イ) しかしながら、弁論の全趣旨によれば、本件において個人の資格で感謝状を授与された者は、事業を営む個人が当該事業に関連して、又は従業員等が会社等の団体の職務上の行為として犯罪捜査活動等に協力したことを理由に感謝状を授与されたものと認められるから、その職名及び氏名は、2号にいう「個人に関する情報」には該当しないものと解される(上記(ア)に該当する者がいる場合は、被告は、その者を特定して主張すべきである。また、この情報につき、3号の「正当な利益」に該当するか否かが問題となる余地はある。)。
(ウ) 個人の資格で感謝状を授与された者の住所は、事業を営む個人の「当該事業に関する情報」ではないと認めるべきであるから、この情報は、2号に該当すると認められる。
(エ) よって、暴力団排除運動及び犯罪捜査協力(犯罪捜査通訳、検視業務を含む。)の功労により感謝状を授与された個人の職名及び氏名について2号該当をいう被告の主張は理由がないが、それらの者の住所について2号該当をいう被告の主張は理由がある。
ウ 交通安全運動等の功労として表彰を受けた個人あるいは団体等の代表者の住所について
(ア) 弁論の全趣旨によれば、交通安全運動等の功労として表彰を受けた個人は、個人として交通安全運動等に協力しているものと認められるから、その住所は2号に該当するものと認められる。
(イ) 弁論の全趣旨によれば、交通安全運動等の功労として表彰を受けた団体は、団体として警察の交通安全運動等に協力した功労により表彰されたものであり、その代表者は、当該団体の活動に職務として従事したものと認められるから、その代表者名は、2号にいう「個人に関する情報」には該当しないものと解され、現に開示されたものであるが、代表者の住所は、事業を営む個人の「当該事業に関する情報」ではないと認めるべきであるから、この情報は、2号に該当すると認められる。
(ウ) よって、交通安全運動等の功労として表彰を受けた個人あるいは団体等の代表者の住所について2号該当をいう被告の主張は、理由がある。
エ 交通指導取締りに対する協力者の住所、氏名及び屋号について
(ア) 弁論の全趣旨によれば、交通指導取締りに対する協力は、交通機動隊員による交通指導取締りに対し、当該協力者が個人として行ったものと認められるから、協力者は、2号の「個人」に該当すると認められる。協力者の氏名が開示されれば、当該個人が警察の交通指導取締りに協力していることが明らかになるから、協力者の氏名は、2号に該当すると認められる。
(イ) 協力者の住所、屋号は、2号に該当すると認められる。
(ウ) よって、交通指導取締りに対する協力者の住所、氏名及び屋号について2号該当をいう被告の主張は、理由がある。
(5) 質屋、古物商報償金について
ア 質屋等の住所、氏名等について
(ア) 質屋等は、質受け等をした物品が盗品であることが判明した場合、その旨の届出(質屋営業法21条3項、古物営業法19条4項)をしなければならず、盗難等の時から1年以内は被害者等に無償で返還しなければならないと規定されている(質屋営業法22条、古物営業法20条)。弁論の全趣旨によれば、質屋、古物商報償金は、捜査協力の内容及び上記の無償返還による経済的損失等を考慮し、警察が所定の等級を適用して質屋等に交付する金員であることが認められる。
(イ) 質屋等は、3号の「事業を営む個人」に該当するものと認められる。
(ウ) そして、質屋等の盗品の届出は、その営業の取締法規である質屋営業法等の規定に基づき、その事業の一環として行われているものであるから、質屋等の盗品の届出に関する情報は、3号の事業を営む個人の「当該事業に関する情報」に該当すると認められる。
(エ) したがって、質屋等の氏名、印影及び屋号は、2号にいう「個人に関する情報」には該当しないものと解される(この情報につき、3号の「正当な利益」に該当するか否かが問題となる余地はある。)。
(オ) しかし、質屋等の住所、年齢は、事業を営む個人の「当該事業に関する情報」ではないと認めるべきであるから、これらの情報は、2号に該当すると認められる。
(カ) よって、質屋等の氏名、印影及び屋号につき2号該当をいう被告の主張は理由がないが、質屋等の住所、年齢について2号該当をいう被告の主張は、理由がある。
イ 被疑者の住居、氏名等について
(ア) この情報は、2号本文に該当し、同号ただし書に該当しないと認められる。
(イ) よって、被疑者の住居、氏名等について2号該当をいう被告の主張は、理由がある。
ウ 被害者の住所、氏名等
(ア) この情報は、2号本文に該当し、同号ただし書に該当しないと認められる。
(イ) よって、被害者の住所、氏名等について2号該当をいう被告の主張は、理由がある。
(6) 死体解剖謝金について
ア 死者の氏名、年齢は、2号本文に該当し、同号ただし書に該当しないと認められる。
イ よって、死者の氏名、年齢について2号該当をいう被告の主張は、理由がある。
(7) 犯罪捜査協力者の氏名等について
ア 弁論の全趣旨によれば、強盗、殺人等の凶悪事件、窃盗事件、暴力団犯罪、暴走族等による犯罪等の事件についての犯罪捜査の過程において、情報を提供し又は捜査に協力した者に対し、謝礼が支払われることがあり、汚職事件や広域窃盗事件等の長期間かつ継続的に行われている内偵捜査、情報収集等においても、同様の謝礼が支払われることがあることが認められる。
このような犯罪捜査協力者は、個人として情報提供等を行っているものであり、警察に対し情報提供等の協力をしたという事実は、「個人に関する情報」に該当すると認めるべきであるから、領収書等の犯罪捜査協力者の住所、氏名及び印影は、2号本文に該当し、同号ただし書に該当しないと認められる。
これに反する原告の主張は、採用することができない。
イ(ア) 原告は、犯罪捜査協力報償費の支出は架空であるか、裏金捻出等違法な経理が行われている疑いが強い旨主張する。
(イ) 裏金捻出のために架空名義の受領証を作成したような場合、そこに記載された住所、氏名を2号本文にいう「個人に関する情報」に該当すると解することはできないと考えられる。
(ウ) しかしながら、後記2(8)カのとおり、宮城県警における犯罪捜査協力費に係る文書が偽造されたものであるとか、宮城県警における犯罪捜査協力費の支出が架空であると認めることはできないから、この点の原告の主張は理由がない。
ウ よって、犯罪捜査協力者の氏名等について2号該当をいう被告の主張は、理由がある。
2 4号該当性
(1) 警察職員の氏名等関係について
ア 各項に掲げた証拠等によれば、以下の事実が認められる。
(ア) 宮城県警察本部には、警務部、生活安全部、刑事部、交通部、警備部及び総務室がある。
刑事部には、刑事総務課、捜査第一課、捜査第二課、暴力団対策課、鑑識課、機動捜査隊及び科学捜査研究所が、交通部には、交通企画課、交通規制課、交通指導課、運転免許課、交通機動隊及び高速道路交通警察隊が、警備部には、公安課、警備課、外事課及び機動隊等が設置されている。
また、総務室には、総務課、会計課、広報課及び情報管理課が設置され、他県に対する又は他県による援助要請の窓口となったり、装備品機材等の機密品の購入業務を行うなどしている。
総務室には、警察官及び一般職員(事務吏員、技術吏員)が配置されており、これら総務室勤務の警察職員は、警察官、一般職員を問わず、頻繁な人事交流により、捜査部門、警備部門等に勤務したことがあり、将来もそれらの部門に勤務することが予定されている。
(乙14、26、29)
(イ) 階級別の特色
a.警視以上
宮城県警において、警視(同相当職を含む。)以上の警察職員は、一般職員を含む全警察職員(約3400人)の約3パーセントを占めている。
警視(同相当職を含む。)以上の警察職員は、指導的、管理的な業務を担当している。
b.警部
宮城県警において、警部(同相当職を含む。)である警察職員は、一般職員を含む全警察職員(約3400人)の約7パーセントを占めている。
警部(同相当職を含む。)である警察職員は、管理的立場にある警視に近い警部から、警部補に近い警部まで存在する。
c.警部補以下
宮城県警において、警部補(同相当職を含む。)以下の警察職員は、一般職員を含む全警察職員(約3400人)の約90パーセントを占めている。
警部補以下の警察職員は、捜査業務等の実働を担当している。
(乙14、29、弁論の全趣旨)
(ウ) 警察業務の特殊性
警察業務は、「警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもってその責務とする。」(警察法2条)とあるとおり、犯罪捜査及び警察規制を目的としている。そして、「検察官は、必要と認めるときは、自ら犯罪を捜査することができる。」(刑事訴訟法191条1項)と規定されているとおり、犯罪捜査権は、主として警察官によって行使されることが予定されている。したがって、警察官は、犯行現場や警察規制の現場で、直接被疑者や被規制者と対峙し、逮捕や規制の結果を直接かつ強制的に実現するものであるから、その職務は、その相手方個人や過激派、暴力団等の組織からの反発、反感を招きやすいものである。実際、全国的には、成田関係の警備に当たる機動隊員が過激派学生に襲撃されて殺害されたり、交番が襲撃されたり、警察署が金属弾を打ち込まれたり、警察官の自宅に猫の首が投げ込まれる事件が発生している。宮城県においても、被疑者や交通違反で呼出しを受けた者が担当警察職員に対し、警察職員及びその家族に仕返しをすることを明言したり、ほのめかして脅迫する例等が数多く発生しており、その発生頻度は、裁判官、検察官、税務署員らに対するそれを超えるものである。
また、警察職員の配置を含む警察業務に関する情報は、一般市民にとっては些細な情報であっても、犯罪の実行や仕返しを目論む個人や組織にとっては、貴重な情報となることがあり、犯罪捜査及び警察規制を業務とする警察は、そのような情報が犯罪組織等に入手されることを防止する必要がある。実際、過激派組織が警察無線を傍受したり、公安担当の警察官について家族構成を含めた情報を収集しデータベース化した例や、刑務所を出所した者が地方自治体に自己の事件を担当した警察官の転勤先を執ように尋ねる例があった。
(乙4、5、14、29、弁論の全趣旨)
イ(ア) 以上の認定事実によれば、警察の業務は、相手方からの反発、反感を招きやすく、警察職員が攻撃や懐柔の対象とされるおそれが高いものであるから(この点は、総務室勤務の警察職員についても、同様である。)、警察職員の氏名及び印影の職員情報は、4号に該当すると認めるべきである。
(イ) 原告は、警察業務のみが相手方の反発等を招きやすいわけではない旨主張するが、前記認定の逮捕や規制の結果を直接かつ強制的に実現するという警察の業務の特殊性を考慮すると、原告が指摘する裁判所、検察庁、国税局との比較においても、反発の程度や頻度において差があるものと認めざるを得ず、この点の原告の主張は採用することができない。
(ウ) 原告は、警察職員や警察施設への攻撃等と警察職員の氏名等の開示との間には因果関係がない旨主張する。
確かに、警察署や交番の所在は隠しようがないから、警察署への金属弾攻撃や交番の襲撃事例については、警察職員の氏名等の開示との間に因果関係はないと考えられる。
しかし、暴力団事件の内偵や公安関係の捜査及び情報収集は、必ずしも警察官が名札を付けて行うものではないと認められるところ、警察内部における配置をうかがわせる情報が開示されれば、暴力団事件の内偵や公安関係の捜査及び情報収集を行っている警察官の特定が容易になり、過激派組織や暴力団による攻撃及び懐柔のおそれが増すものと認められる。さらに、執念深い犯罪者を念頭におけば、職員情報の記載された文書の開示により、過去に自分の事件を担当した警察官の転勤先を知ることができる場合があるから、このような犯罪者による仕返しに手を貸すことになる。
よって、原告のこの点の主張は採用することができない。
(エ) 原告は、被告が主張する危惧が存在するのであれば、被告が新聞紙上で警部以上の警察職員の人事異動を公表していることの説明が付かない旨主張する。
この点については、前記認定のとおり、警部補以下の警察職員は宮城県警察職員の90パーセントを占め、捜査業務等の実働を担当しているところ、現場で直接被疑者等と接触する警部補以下の警察職員は、それだけ脅迫や仕返しを受けやすいと考えられる。そして、弁論の全趣旨によれば、警部(同相当職を含む。)以上の者については、指導的、管理的職務を遂行するための氏名開示の必要性と、攻撃や懐柔を受けるおそれがあるため氏名を非開示とする必要性とを衡量した結果、異動の際、新聞紙上で氏名が公表されているものと認められる。
よって、警部以上の氏名を公表していることから立論する原告の上記主張は採用することができない。
ウ 以上によれば、警察職員の氏名等について、4号該当をいう被告の主張は、理由がある。
(2) 資金前渡職員の普通預金通帳関係について
ア 証拠(乙7、13)及び弁論の全趣旨によれば、ある者の銀行預金の口座番号及びそれと同一番号であるお客様番号を公開した場合、預金残高及び入出金状況を割り出し、不正引出しを行うことが技術的に可能であり、預金残高の調査等を売り物にしている調査会社、探偵社が数多く存在することが認められる。
前記のとおり、警察の業務は、逮捕や規制の結果を直接かつ強制的に実現するものであり、警察業務に関する情報は、犯罪の実行や仕返しを目論む個人や組織にとって貴重な情報となることがあるから、口座番号等が公開されれば、警察業務を妨害しようとする個人や組織が、預金残高、入出金状況の割り出し及び不正引出し等を行うおそれがあるものと認められ、預金口座情報は、4号に該当するものと認めるべきである。
イ 原告は、預金口座番号等の公開により、預金残高の割り出し、不正引出し等が行われる危険が存在することの具体的理由、根拠は、何ら明らかにされていない旨主張するが、4号の規定する「おそれ」があることは、前記認定の事実から認められるところであり、この点の原告の主張は採用することができない。
ウ 以上によれば、資金前渡職員の普通預金通帳の口座番号等について4号該当をいう被告の主張は、理由がある。
(3) 質屋、古物商報償費関係について
ア 報償費支出金額、等級及び精算内訳欄について
(ア) 前記1(5)に認定のとおり、質屋等に対する報償金は、捜査協力の内容及び無償返還による経済的損失等を考慮し、警察が所定の等級を適用して決定されているものである。
報償費支出金額及び等級の情報が開示されたとしても、質屋等に対する報償費は、物品の価額等から機械的に決定するものではなく、捜査協力の度合い等を総合考慮して決定されるということからすると、各事案を単純に金銭として比較判断することはできず、質屋等から不満が出ることはないと考えられる。また、不満を持つ質屋等があったとしても、等級付けが適切に行われている限り、他との比較から自己の貢献についての警察の評価等に不満を持ち、十分な捜査協力が得られなくなる事態も、皆無ではないが、通常、想定し難いといわなければならない。
したがって、これらの情報は、4号に該当しないと認めるべきである。
(イ) これに反する被告の主張は採用することができない。
イ 報償金受償者の住所、氏名等について
(ア) 報償金受償者の住所、氏名、印影等の情報は、個別の質屋等を特定させるものであり、結果として、当該質屋等が被害品の発見や犯人の特定等の捜査過程に協力したことを知らせ、少なくとも容易に推測させるものであるから、これらの情報を開示した場合、質屋等が被疑者等から攻撃、嫌がらせを受けるおそれがあると認めるべきである。
したがって、これらの情報は、4号に該当すると認めるべきである。
(イ)a.原告は、被疑者等は自ら持ち込んだ質屋等を知っており、当該質屋が通報したであろうことは容易に推測しうるはずであり、さらに、被害品の入手先や発見の端緒等は捜査記録に記載され、刑事手続に従って閲覧し得るのであるから、秘匿を前提とした情報とは必ずしもいえない旨主張する。
しかしながら、他の手段で質屋等が協力した事実及び内容を知り得るからといって、これらの情報を非開示とする必要はないと解することはできないし、特に、犯人の逮捕や起訴前の時点で考えれば、これらの情報を非開示とする必要性は認められるものである。よって、原告のこの点の主張は採用することができない。
b.原告は、質屋等は法律上警察への届出が義務付けられており、かつ当該事件について第三者の立場にあるのであるから、事件関係者が、質屋等を逆恨みすることは考え難い旨主張するが、原告主張のような正常な判断をすることができる事件関係者ばかりではないのであるから、原告のこの点の主張は採用することができない。
ウ 事案の概要等について
(ア) 証拠(乙3)及び弁論の全趣旨によれば、事案の概要等の情報とは、具体的犯行日、被害者の住所及び氏名、犯行の手段方法、被害品の数量及び犯罪行為の概要、これまでの質屋等の捜査協力状況、本件捜査の具体的協力内容、協力に対する評価、被害品名等であることが認められる。
これらの情報を開示した場合、捜査協力に係る犯罪事実が具体的に判明するとともに、報償金受償者の氏名等を非開示としたとしても、当該事実の捜査に協力した質屋等が特定されるから、捜査状況を知った被疑者等が、質屋等に対して攻撃等をするおそれや、逃走又は証拠隠滅を図るなどして犯罪捜査を困難にするおそれがあると認められる。
したがって、これらの情報は、4号に該当すると認めるべきである。
(イ) これに反する原告の主張は採用することができない。
エ まとめ
以上によれば、質屋、古物商報償費について4号該当をいう被告の主張は、報償費金額、等級及び精算内訳欄については理由がないが、その余については理由がある。
(4) 死体解剖謝金関係について
ア 死体解剖保存法によれば、死体の解剖は、遺族の承諾を受けて行われるものであるが(7条)、死体を解剖した者は、その死体について犯罪と関係のある異状があると認めたときは、24時間以内に、解剖をした地の警察署長に届け出なければならない(11条)と規定されており、捜査の端緒となり得るものである。
イ したがって、死体解剖医の所属、氏名、口座番号等が開示されれば、ある解剖を担当した死体解剖医が特定され、事件関係者が、捜査の端緒となる解剖所見を警察に伝えないように又は真実とは異なる解剖所見を伝えるように、当該死体解剖医に対する懐柔、脅迫又は攻撃や嫌がらせ等を加えるおそれがあるものと認められる。
ウ 原告は、解剖の結果は、死体解剖医が客観的な死体の状況について解剖所見をまとめ、写真や記録等によって証拠化したものであるから、死体解剖医に対する懐柔、威迫等によって、事後的に解剖所見が影響されることはあり得ない旨主張する。
しかしながら、写真や記録等の存在により、直接解剖をした死体解剖医による判断の余地がなくなるものと認めることはできないから、この点の原告の主張は採用することができない。
エ よって、死体解剖医の所属、氏名、口座番号等について4号該当をいう被告の主張は、理由がある。
(5) 警察犬関係について
ア 警察犬指導士に関する情報について
(ア) 弁論の全趣旨によれば、我が国の警察犬運用制度には、「直轄警察犬制度」と「嘱託警察犬制度」とがあり、宮城県警における警察犬運用制度は嘱託警察犬制度であること、嘱託警察犬制度の下では、民間人が飼育管理する犬及び犬の訓練士について、府県警察が嘱託警察犬審査会等を実施してこれを選定した上、府県警察本部長が一定の期間を定めて嘱託するものであること、警察犬指導士は、犯罪現場において、事案の内容、犯人の行動及び原臭となる遺留品の存在等について具体的な説明を受けるとともに、場合によっては、犯罪現場に立ち入り、被害者と接するなど、捜査に関する情報を知り得る立場にあることが認められる。
このように、警察犬指導士は、犯罪の捜査活動の一部に関与しているものであるから、警察犬指導士の住所、氏名及び口座番号等が開示されれば、当該警察犬指導士が警察犬指導士として警察の犯罪捜査活動に協力していること、及び当該具体的事件について警察犬を連れて犯罪捜査活動に従事したことを知ることができるから、犯人等の事件関係者が警察犬指導士に対し威迫、懐柔、嫌がらせ及び攻撃等を行うおそれがあると認めるべきである。
(イ) これに反する原告の主張は採用することができない。
(ウ) よって、警察犬指導士に関する情報について4号該当をいう被告の主張は、理由がある。
イ 警察犬、警察犬所有者等に関する情報について
(ア) 警察犬は、警察犬指導士とともに犯罪捜査活動に従事しているところ、警察犬名、警察犬所有者(飼育者)の住所、氏名、口座番号等が開示されれば、当該所有者が警察犬を所有し、警察犬を通じて警察の犯罪捜査活動に協力していることを知ることができるから、警察を敵視する者が、「嘱託警察犬制度」に打撃を与えるため、警察犬の所有者に嫌がらせ及び攻撃等を行うおそれがあるものと認めるべきである。
したがって、これらの情報は、4号に該当すると認めるべきである。
(イ) これに反する原告の主張は採用することができない。
(ウ) よって、警察犬、警察犬所有者等に関する情報について4号該当をいう被告の主張は、理由がある。
ウ 警察犬審査会に伴う報償費等の支給を受けた審査員に関する情報について
(ア) 警察犬審査会審査員は、宮城県警から社団法人日本警察犬協会への派遣要請に基づき、宮城県警において実施する警察犬指導士及び嘱託警察犬の審査会において、専門的知識や技能等に基づき審査を行うというのであり、直接の犯罪捜査活動からは相当離れた場面で警察活動に協力しているものであるから、警察を敵視する団体等が、警察犬の運用に関する組織体制や警察犬の所有者及び警察犬指導士を割り出すため、警察犬審査会の審査員に対し、威迫、懐柔、嫌がらせ及び攻撃等を行うおそれがあるものとまで認めることはできない。
(イ) よって、警察犬審査会に伴う報償費等の支給を受けた審査員に関する情報について4号該当をいう被告の主張は、理由がない。
(6) 刑事部長感謝状贈呈に伴う報償費関係について
ア 特定事件の被疑者に関する情報を提供した団体名及び代表者名について
(ア) 弁論の全趣旨によれば、感謝状を贈呈された団体名及び代表者名を開示した場合、団体名及び代表者名から業種が判明し、犯罪捜査協力として提供した情報の種別が推定され、その情報と、既に開示されている施行日等の情報及び公判廷で明らかにされる検挙の端緒に関する情報と組み合わせることにより、当該犯罪者等が、自分が当該団体からの情報の提供を端緒として自己が検挙されるに至った事情を知り、被贈呈団体及びその代表者を逆恨みし、報復や証拠隠滅等を目的とする攻撃や嫌がらせを行うおそれがあることが認められる。
したがって、特定事件の被疑者に関する情報を提供した団体名及び代表者名は、4号に該当すると認められる。
(イ)a.原告は、業種から捜査への協力内容が推定されるとは限らない、同種犯罪が多い中、犯罪者等が自ら検挙されるに至った情報と感謝状受贈団体とを結び付けることなどできない、「犯罪捜査功労」等との表彰理由では、捜査協力の内容は全く分かり得ない、検挙の時期と表彰の時期には時間的なずれがあるから、当該団体の捜査協力と自己が逮捕された事実を結び付けることなどできない旨主張する。
確かに、証拠(乙3)及び弁論の全趣旨によれば、「功労の概要」欄の記載は、「犯罪捜査功労」等と抽象的な記載にとどまっていることが認められるし、検挙の時期と表彰の時期との時間的ずれ等の点を考慮すると、犯罪者等が当該団体の捜査協力と自己が逮捕された事実を結び付けることができる場合は必ずしも多くはないものと認められるが、団体名及び代表者名によっては、捜査への協力内容が直ちに判明することが少なからずあるものと認められるところ、4号が「おそれのある情報」と、「支障が生ずると明らかに認められるもの」(5号)や「生ずると認められるもの」(6号)とは異なる表現により、おそれとしてさほど高いものを要求しているものとは解せられないことからすると、上記認定の関連性をもって、4号の「おそれ」に該当すると認めるべきであり、原告のこの点の主張は採用することができない。
b.原告は、捜査協力に対する表彰は、公的機関たる宮城県警が犯罪捜査に対する功労を表して感謝状等を贈呈するのであるから、その性質上、表彰に関する情報は公表を予定したものであり、何ら公共の安全に支障が生ずるおそれはない旨主張する。
しかしながら、捜査協力に対する表彰は、溺れかかった子どもを救助した例とは異なり、「法令の規定により又は慣行として公開され、又は公開することが予定されている情報」には該当しないと認められることは、前記1(4)に説示のとおりであり、原告のこの点の主張は採用することができない。
(ウ) よって、特定事件の被疑者に関する情報を提供した団体名及び代表者名について4号該当をいう被告の主張は、理由がある。
イ 捜査における通訳人を派遣した団体名及び代表者名について
(ア) 証拠(乙15、29)及び弁論の全趣旨によれば、警察における捜査段階における通訳人は、自分の言いたいことを警察に伝えてくれる人として感謝される場合もあるが、警察に協力する人として恨まれることもあること、そのため、取調べの席で、「警察に協力する奴には、報復してやる。」と脅迫された事例や、「○○さんいますか。」と片言の日本語で通訳人の家に十数回牽制のためと考えられる電話をかけられた事例があることが認められる。そして、通訳人を派遣した団体名を開示した場合、その名称から業種が判明し、その功労が国際犯罪捜査協力であることが明示されているため(乙2の6番)、当該団体が捜査における通訳人を派遣したことが判明することが認められる。
しかしながら、弁論の全趣旨によれば、当該団体が表彰を受けるのは、ある程度の期間にわたり、相当数の通訳人を派遣した貢献があったためであると認められるところ、当該団体名及び代表者名が開示されれば、当該団体が相当期間捜査における通訳人を派遣したことは判明するが、それ以上に、個別事件との関係で通訳人を派遣したことまで判明するものではないと考えられるから、特殊な言語においては通訳人の数がさほど多くないことを考慮しても、外国人犯罪者等が感謝状から通訳人派遣団体を特定し、当該団体及びその代表者に対する攻撃や嫌がらせを行うおそれがあるとまで認めることはできない。
(イ) これに反する被告の主張は採用することができない。
(ウ) よって、通訳人を派遣した団体名及び代表者名について4号該当をいう被告の主張は、理由がない。
ウ 暴力団排除活動の推進に功績があった団体名及び代表者名について
(ア) 弁論の全趣旨によれば、暴力団排除活動の推進に功績があった団体名及び代表者を開示した場合、既に開示している「功労の概要」に関する情報と組み合わせることにより、当該団体が暴力団排除活動に顕著な功績があることが判明し、暴力団組織が暴力団排除活動を阻止するため、被贈呈団体及び代表者に対して攻撃や嫌がらせを行うおそれがあるものと認められる。
したがって、暴力団排除活動の推進に功績があった団体名及び代表者名は、4号に該当すると認められる。
(イ) 原告は、特定の暴力団に対する排除活動をしたことが判明するならばまだしも、「暴力団排除活動」を行ったのみでは、暴力団関係者から嫌がらせや攻撃を受ける可能性は少ない、現に「暴力団お断り」等の張り紙や注意書きを掲げて営業している店舗は多数あるが、一般的な暴力団排除運動をしたことにより暴力団から攻撃や嫌がらせを受けるということはない旨主張する。
しかしながら、暴力団排除活動の中には、当該団体を困らせた特定の暴力団の排除活動で表彰された事例も含まれていると考えられるし、特定の暴力団に対する排除活動ではない場合であっても、見せしめのために攻撃等をしかける場合も十分考えられるから、この点の原告の主張は採用することができない。
(ウ) よって、暴力団排除活動の推進に功績があった団体名及び代表者名について4号該当をいう被告の主張は、理由がある。
エ 捜査支援資料を提供し又は捜査活動に係る技術支援をした団体名及び代表者名について
(ア) 新種の「捜査支援システムへのデータベースの提供」及び「捜査技術の内容」に関する情報が導入され、その内容を犯人が知らなければ、犯人の検挙が容易になると考えられるところ、弁論の全趣旨によれば、被告が主張するものも、このような新種で、犯人に知られていない捜査支援資料であると認められる(捜査支援資料という性質上、具体的にその内容を主張することができないことは当然である。)。
そして、団体名及び代表者名を開示すれば、その名称、代表者名や業種から当該団体が提供したデータベース又は技術支援の内容が推定されることがあると考えられ、その結果、犯罪を企図する者が自らが捕捉されないよう対抗手段を講ずることが可能となり、当該システム及び操作技術の有効性を維持することが困難となって捜査力の低下を招くおそれがあると認められる。
したがって、捜査支援資料を提供した団体名及び代表者名並びに捜査活動に係る技術支援をした団体名及び代表者名は、4号に該当すると認められる。
(イ) これに反する原告の主張は採用することができない。
(ウ) よって、捜査支援資料を提供した団体名及び代表者名並びに捜査活動に係る技術支援をした団体名及び代表者名について4号該当をいう被告の主張は、理由がある。
オ 被贈呈者である死体解剖医の所属及び氏名について
(ア) 弁論の全趣旨によれば、死体解剖医が表彰を受けるのは、ある程度の期間にわたり、相当数の死体解剖を行った貢献への表彰であると認められるところ、被贈呈者である死体解剖医の所属及び氏名が開示されれば、当該死体解剖医が相当期間犯罪捜査等に関係する死体解剖を行ったことは判明するが、それ以上に、個別事件との関係で死体解剖を行ったことまで判明するものではないと考えられるから、宮城県で死体解剖を行う医師の数がさほど多くないことを考慮しても、事件関係者等から、無罪判決や保険金を得る目的で、懐柔、脅迫又は攻撃や嫌がらせを受けるおそれがあるとまで認めることはできない。
(イ) よって、被贈呈者である死体解剖医の所属及び氏名について4号該当をいう被告の主張は、理由がない。
(7) 精神鑑定嘱託謝金関係について
ア 精神鑑定嘱託謝金の性質等は、前記1(2)のとおりであり、精神鑑定医の病院名、住所、氏名、口座番号等が開示されれば、当該医師が特定されるところ、弁論の全趣旨によれば、「精神病者」を理由に運転免許試験の受験を拒否された人物が、受験拒否を恨み、その手続に嘱託医として関与した精神鑑定医を探し出し、攻撃や嫌がらせをするおそれがあると認められる。
したがって、精神鑑定医の病院名、住所、氏名及び口座番号等の情報は、4号に該当すると認められる。
イ(ア) 面接したこともない精神鑑定医を逆恨みするようなことは考え難い旨の原告の主張は採用することができない。
(イ) 原告は、被告主張の行政目的の鑑定に影響するとの理由は、犯罪捜査活動を想定している4号の予定する非開示理由には当たらない旨主張する。
しかしながら、4号は、「犯罪の予防又は捜査」だけでなく、「人の生命、身体又は財産の保護その他の公共の安全と秩序の維持」に支障が生ずるおそれのある情報と規定しているものであるから、被告主張の上記のおそれも含み得るものであり、この点の原告の主張は採用することができない。
ウ よって、精神鑑定医の病院名、住所、氏名及び口座番号等について4号該当をいう被告の主張は、理由がある。
(8) 犯罪捜査協力報償費関係について
ア 犯罪捜査協力報償費の性質等は、前記1(7)のとおりである。
イ 支出負担行為兼支出命令決議書、年度・会計・科目訂正決議書、精算通知票、施行伺及び普通預金通帳の金額欄等について
(ア) 弁論の全趣旨によれば、支出負担行為兼支出命令決議書、年度・会計・科目訂正決議書、精算通知票、施行伺及び普通預金通帳の金額欄には、犯罪捜査を担当する各課における犯罪捜査協力報償費の月額が、精算通知票の領収書の枚数欄には、月ごとの領収書の枚数が記載されていることが認められる(普通預金通帳も、個別の支出額を推測させるものではない(乙3の60番参照)。)。
(イ) 各課別の犯罪捜査協力報償費の支出額(月額)の推移(乙10参照)や領収書枚数は、当該部署の捜査活動の活発さをある程度反映していると考えられるが、その増減の状況から、特定の事件の捜査状況が把握され、被疑者等が逃亡又は罪証隠滅等を図るおそれがあるとか、捜査協力者が報償金の増額を要求するおそれがあるとまで認めることはできない。
(ウ) これに反する被告の主張は採用することができない。
(エ) よって、支出負担行為兼支出命令決議書、年度・会計・科目訂正決議書、精算通知票、施行伺及び普通預金通帳の金額欄等及び領収書枚数について4号該当をいう被告の主張は、理由がない。
ウ 犯罪捜査協力報償費支払明細兼残高証明書の支払月日、受入額等について
(ア) 犯罪捜査協力報償費支払明細兼残高証明書の支払月日、受入額等のうち、犯罪捜査協力報償費の月別の受入金額、支払額及び残額については、上記イの理由により、4号該当をいう被告の主張は、理由がない。
(イ)a.犯罪捜査協力報償費支払明細兼残高証明書の支払月日、受入額等のうち、支払月日、犯罪捜査協力報償費の個別の受入金額、支払額及び残額、並びに摘要については、弁論の全趣旨によれば、それらの記載は、担当警察官が犯罪捜査協力者に接触し、報償費を支払った日、額及びその内容を表すものと認められる。
これらの情報が開示されれば、協力者及び捜査官をよく知る捜査対象者が、当該月日に同協力者と同捜査官の密談現場を目撃した場合、同協力者が捜査協力者であると確信し、これに対して攻撃を加え、仮に上記の確信に至らなくとも、その疑念を生じただけで、威迫等の手段によって捜査協力者の割り出しや罪証隠滅を図るおそれがあることが認められる。
したがって、支払月日、犯罪捜査協力報償費の個別の受入金額、支払額及び残額、並びに摘要の情報は、4号に該当すると認められる。
b.これに反する原告の主張は、採用することができない。
c.よって、支払月日、犯罪捜査協力報償費の個別の受入金額、支払額及び残額、並びに摘要等について4号該当をいう被告の主張は、理由がある。
エ 現金出納簿について
(ア) 弁論の全趣旨によれば、現金出納簿には、①金額情報として、月分の受入金額、個別の支払額及び個別の入出金前後の金額、月ごと又は会計年度の締めとしての各金額の累計、②月日欄に報償費が入出金された月日、③摘要欄に報償費が支出された具体的事件名、担当捜査員の階級及び氏名が記載されていることが認められる。
(イ) これらのうち、月分の受入金額、月ごと又は会計年度の締めとしての各金額の累計については、前記イの理由により、4号該当をいう被告の主張は、理由がない。
(ウ) その余の情報については、上記ウ(イ)の理由により、4号該当をいう被告の主張は、理由がある。
オ 支出証拠書類(別紙文書目録2)について
(ア) 犯罪捜査協力報償費に係る証拠書類の表紙
弁論の全趣旨によれば、犯罪捜査協力報償費に係る証拠書類の表紙は、支出証拠書類(月分捜査費総括表、捜査費支出伺、支払精算書及び領収書)を月ごとに編綴したものの表紙で、分離が可能であると考えても、表紙自体には有意の情報が記載されていないものと認められる。
よって、犯罪捜査協力報償費に係る支出証拠書類の表紙についての被告の主張は、理由がある。
(イ) 月分捜査費総括表
a.弁論の全趣旨によれば、月分捜査費総括表は、各課における犯罪捜査協力報償費の月ごとの繰越額、受入額、支払額及び残額等の総額を記載したものであり、併せて返納又は追給が生じた場合には、その総額を記載したものであることが認められるから、これらの情報については、前記イの理由により、4号該当をいう被告の主張は、理由がない。
b.また、弁論の全趣旨によれば、取扱者欄には、警部以上であり、捜査員でない警察職員の氏名等が記載されることが認められるから、この部分についても、4号該当をいう被告の主張は、理由がない。
(ウ) 捜査費支出伺
a.弁論の全趣旨によれば、捜査費支出伺の日付欄には支出伺の日付が、金額欄には支出される捜査費の総額が、勤務課署名、官職、氏名欄には捜査費の交付を受ける捜査員の所属課署名、官職、氏名が、内訳欄には捜査費を受領する捜査員の官職、氏名、金額及び支出の事由が、支出の事由欄には具体的事件名や捜査費を必要とする理由等が、領収書欄には捜査員が捜査費を受領した月日及び領収印が、それぞれ記載されていることが認められる。
これらのうち、勤務課署名については、これのみが開示されても捜査状況が推測される等の事態は想定することができず、4号に該当すると認めることはできないが、その余の情報については、前記ウ(イ)の理由により、4号に該当すると認められる。
b.しかしながら、弁論の全趣旨によれば、捜査費支出伺の「課・署長」欄、「次長等」欄及び「出納簿登記」欄には、警部以上であり、捜査員でない警察職員の印影が記載されると認められるから、この部分について4号該当をいう被告の主張は、理由がない。
c.よって、捜査費支出伺について4号該当をいう被告の主張は、勤務課署名、並びに「課・署長」欄、「次長等」欄及び「出納簿登記」欄の印影については理由がないが、その余については理由がある。
(エ) 支払精算書・支払額内訳
a.弁論の全趣旨によれば、支払精算書・支払額内訳は、捜査担当者が債主名を明らかにして支払事由や支払金額を記載したものであり、具体的事件に関する情報、情報提供者、捜査関係者に関する情報が記載されていることが認められるから、起案年月日、受領日、既受領額、支払額、差引過不足額、支払額内訳、返納・不足の別(2箇所)、返納又は支出の別、返納又は領収の別、領収年月日及び領収印は、前記ウ(イ)の理由により、4号に該当すると認めるべきである。
b.弁論の全趣旨によれば、支払精算書の宛名となる警察職員の氏名等を記載する欄には、警部以上であり、捜査員でない警察職員の氏名等が記載されると認められるから、4号に該当しないと認めるべきである。
c.弁論の全趣旨によれば、支払精算書の勤務課署名、官職及び氏名には、捜査費の精算をする個別の犯罪捜査に携わる捜査員の勤務課署名、官職及び氏名が記載されていることが認められる。そうすると、勤務課署名については、前記(ウ)の理由により、4号に該当すると認めることはできないが、その余の情報については、前記ウ(イ)の理由により、4号に該当すると認められる。
d.弁論の全趣旨によれば、「課・署長」欄、「次長等」欄及び「出納簿登記」欄には、警部以上であり、捜査員でない警察職員の印影が記載されると認められるから、4号には該当しないと認めるべきである。
e.弁論の全趣旨によれば、確認書欄には、領収書を徴することができなかった理由が内訳欄の備考欄に記載されたとおりであることについて、警部以上であり、捜査員でない警察職員(課・署長)の決裁印が記載されていると認められるところ、領収書を徴することができたか否かという情報自体が、捜査情報提供者の特定に資する情報であると認めるべきであるから、当該情報は、4号に該当するというべきである。
f.よって、支払精算書・支払額内訳について4号該当をいう被告の主張は、支払精算書の宛名となる警察職員の氏名、勤務課署名、並びに「課・署長」欄、「次長等」欄及び「出納簿登記」欄の印影については理由がないが、その余については理由がある。
(オ) 領収書
弁論の全趣旨によれば、領収書には、犯罪捜査協力報償費を受領した協力者本人の住所、氏名、受領月日、受領金額及び印影が記載されていることが認められる。
したがって、これらの情報については、上記ウ(イ)の理由により、4号該当をいう被告の主張は、理由がある。
カ 違法経理の主張について
(ア) 原告は、犯罪捜査協力報償費の支出は架空であるか、裏金捻出等違法な経理が行われている疑いが強い旨主張する。
(イ) 裏金捻出のために架空名義の受領証を作成したような場合、そこに記載された住所、氏名を4号にいう公共の安全等に支障が生ずるおそれのある情報に該当すると解することはできないと考えられる。
(ウ) しかしながら、原告主張の不自然な使い切り状態等の事実(第4、2(9)イ(ア)a.ないしe.)から、宮城県警における犯罪捜査協力報償費に係る文書が偽造されたものであるとか、宮城県警における犯罪捜査協力報償費の支出が架空であるとまで推認することはできず、この点は、証拠(甲1、2、12ないし20、35、37、38、43)及び弁論の全趣旨を総合しても同様であるから、この点の原告の主張は理由がない。
3 争点3(6号該当性)について
(1) 6号該当性が問題となる情報は、随意契約に係る業者選定伺のうち、契約金額の基礎となる予定価格を定める計算式(単価×掛率×数量=金額)であるところ、これらの情報が随意契約後に開示されたとしても、交渉等の事務事業若しくは将来の同種の事務事業の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務事業の公正若しくは円滑な執行に支障が生ずると認められるものとは認められない。
(2)ア 被告は、随意契約における契約価格の公正さ等を担保するため、競争入札に準じて、あらかじめ積算して予定価格を定めておき、相手方が提示する価格の当否を比較検討する基準としているものであり、非開示とする必要性は高い旨主張するが、他方で、宮城県の行う随意契約による契約金額が適正に設定されているかを監視するために、予定価格及びその計算式を開示する必要性が高いことを考慮すべきであり、被告のこの点の主張は採用することができない。
イ 被告は、将来にわたって同一又は同様規格の事務用品等を購入する必要性があり、特に、「警察犬用ガウン」については一般に市販されていないため、将来にわたって反復して購入する必要性が高いから、これを公にした場合、相手方の提示額が高止まりする旨主張する。
しかしながら、デフレの進行、生産拠点の海外移転等の経済情勢、産業構造の変化等の事情を考慮すると、単価や掛率は毎年のように変化すべきものであるから、掛率等が毎年変わらないことを前提とする被告の上記主張は採用することができない。
(3) 以上によれば、契約金額の基礎となる予定価格を定める計算式につき6号該当をいう被告の主張は、理由がない。
第6 結論
以上によれば、原告の請求は主文第1項掲記の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、64条本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・市川正巳、裁判官・工藤哲郎 裁判官・千々和博志は、退官のため、署名押印することができない。裁判長裁判官・市川正巳)
別紙文書目録<省略>
別紙1報償費支出事由別一覧表<省略>
別紙2-1「一般報償費」の非開示情報と該当条項一覧表<省略>
別紙2-2「犯罪捜査に関連する報償費」の非開示情報と該当条項一覧表<省略>
別紙2-3「犯罪捜査協力報償費」の非開示情報と該当条項一覧表<省略>
別紙3条例第8条第2号非開示情報一覧表<省略>