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仙台地方裁判所 平成14年(わ)424号 判決 2004年3月25日

主文

被告人Aを死刑に処する。

被告人B,被告人C,被告人D及び被告人Eをそれぞれ無期懲役に処する。

未決勾留日数中,被告人Bに対しては400日を,被告人Cに対しては380日を,被告人Dに対しては140日を,被告人Eに対しては420日を,それぞれその刑に算入する。

理由

(被告人5名の身上経歴)

被告人Aは,秋田県内で出生し,地元の高等学校を卒業後,道路のライン引きの作業員をした後,消費者金融会社に就職したが,直ぐに仙台支店に転勤となって仙台市内で生活するようになり,消費者金融会社を退職した後,二,三の職に就き,さらに,病院の運転手などとして稼働していたが,平成9年ころ,暴力団組員から借金の取立てを受けた際,以前から知り合いであった暴力団F会の組員に助けてもらったことをきっかけに,同組員の勧めもあってその舎弟となって暴力団構成員として活動するようになり,平成11年ころには正式にF会組員となった。そして,間もなくF会内で頭角を現し,平成12年末ころには,服役中の会長に代わり,若頭としてその時点で活動しているF会の組員の頂点に立っていた。

被告人Bは,宮城県内で出生し,高等学校に進学したものの中退し,そのころ加入していた暴走族もやめて鉄筋工として稼働するようになったが,知人を介してF会の組員と知り合い,同組員に誘われてその若い衆となって暴力団構成員として活動するようになり,平成10年2月ころには正式にF会の組員となって,やがて,次第にその地位が上がり,平成12年末ころにはF会の本部長として被告人Aに次ぐ地位に立ち,それ以前の平成11年夏ころには,被告人Aと五分の兄弟の関係を結び,同被告人と行動を共にしていた。

被告人Cは,仙台市内で出生し,高等学校を卒業後,トラック運転手として,運送会社を二,三社替えながら稼働していたが,勤務先の支店長がF会の幹部であり,同人から誘われるや,平成9年夏ころにF会の組員となり,その幹部の下で暴力団構成員として活動していたが,その幹部がいつの間にかF会からいなくなると,被告人Aの世話を受けるようになって同被告人と行動を共にし,また,被告人Bとも行動を共にするようになり,平成12年末ころにはF会の事務局長として被告人Bに次ぐ地位にあった。

被告人Dは,宮城県内で出生し,中学校を卒業後,定時制高校に通いながら大工見習いとして稼働していたが,そのころから暴走族に加入し,高等学校を中退すると,造園業の会社等で稼働したことがあったものの,F会の組員である友人から勧められて平成10年12月ころにはF会の組員となり,その後,被告人Bの舎弟となり,1年余りの間,名古屋市内においてF会の上部団体の部屋住みの生活を送った後,平成12年秋ころ仙台市内に戻ってからは,F会の会長秘書,続いて行動隊長として被告人Aや被告人Bらと行動を共にしていた。

被告人Eは,岩手県内で出生し,地元の高等学校を卒業後,大学進学を目指して仙台市内で2年間浪人生活を送り,その後,大学進学を断念してガソリンスタンドの店員や運転手などとして稼働していたが,勤務先の上司から不当な金銭の要求をされ,やむなくこれに応じたことから多額の借金を抱えることになり,平成11年ころ,その借金の取立てに来た被告人Bに借金ができた経緯を説明すると,同被告人がその上司に働き掛けて問題を解決してくれたため,以後同被告人と親しく交際するようになり,その後,同被告人を介して被告人Aとも知り合い,被告人Aの勧めに応じて平成12年8月ころにその舎弟となってF会の組員となり,若中として活動し,被告人Aや被告人Bらと行動を共にし,被告人両名らが設立した有限会社Gの代表取締役として登記され,同社の名目上の代表者となっていた。

(第1の犯行(H殺害)に至る経緯)

Hは,仙台市内で出生し,中学校卒業後,造園業の会社や瓦屋などで稼働していたが,平成12年9月ころ,小中学校の同級生であった被告人Bから被告人Aを紹介されてF会の組員となり,被告人Eと五分の兄弟の関係となって,そのころ同被告人が住んでいた仙台市内の県営住宅に同居しながら,被告人Bの義兄が経営する飲食店の従業員として稼働していた。しかし,Hは,同店で稼働中,飲酒をしては客と喧嘩をするなどのトラブルを起こし,被告人Aらから勤務中は酒を飲まないように厳しく注意をされていたにもかかわらず,同年12月上旬ころ,再び飲酒して客と喧嘩をしたため,被告人B及び被告人Dから制裁として暴行を受け,また,その翌日ころに被告人Aからも厳しく叱責されたため,Hは,その数日後に被告人E方から逃げ出し,以後被告人5名らから身を隠し,仙台市内の塗装会社の寮に住みながら塗装工として稼働していた。

被告人Aは,被告人EからHがいなくなった旨の報告を受けると,同人に対し,制裁のために暴行を加える,いわゆるヤキ入れをしようと考え,他の被告人らに同人を呼び戻すように指示し,そこで,被告人Eが同人の携帯電話に何度も電話を掛け,ようやく電話に出た同人に戻ってくるようにと言ったものの,同人からF会に戻るつもりはないなどと断言されて電話を切られたため,その旨被告人Aに報告した。

これを聞いた被告人Aはますます憤激し,他の被告人らに対して,「見付けたらヤキを入れるから。」などと宣言してHを捜すように指示し,また,被告人Bも,そのころ,同人からかかってきた電話に「わびを入れれば大丈夫だから帰ってこい。」などと言ったにもかかわらず,何も言わずに電話を切られたことなどに憤激し,被告人Aと同様に,見付けたらヤキ入れをしようと考え,また,被告人C,被告人D,被告人Eも,被告人Aや被告人Bと同様に,同人を見付けたらヤキ入れをしようと考えた。

そこで,被告人Eらは,被告人Aの指示に従ってHの親戚の家などを回ってHを捜したが,同人を見付けることができずにいたところ,平成13年1月7日,同人から被告人Eに電話があり,「謝りたいことと話したいことがあるので今晩会えないか。今,鹿児島のペンキ屋で働いているが,今出張で仙台にきている。」などと言われたため,同被告人は,Hと翌8日の夜に会う約束をし,被告人Aにその旨連絡を入れたが,同日午前零時ころ,再び同人から電話が掛かってきて,「明日は忙しいから今すぐ会いたい。2人で会いたいからだれにも言わないでくれ。」などと言われたため,この機会を逃したら同人と連絡を取れなくなるなどと考えて,同日午前1時ころに(略)所在のパチンコ店駐車場で同人と会う約束をするとともに,直ちに被告人Aに電話を掛けてその旨を伝えた。

すると,被告人Aは,被告人Eに対し,Hを引き止めておくよう指示するとともに,被告人C及び被告人Dに電話を掛けて同人が見付かったので上記駐車場に来るように指示し,一緒にいた被告人Bと共に,被告人Bが運転する普通乗用自動車(a)で被告人C方に行き,同被告人を乗せて3人で上記駐車場に向かった。

一方,被告人Eは,同日午前1時過ぎころ,普通乗用自動車(b)を運転して待ち合わせ場所の上記駐車場に到着すると,ほどなくしてHがやって来たので,同人をbの助手席に乗せ,被告人Aの指示どおり,世間話をするなどして同被告人らが来るのを待っていたところ,同日午前1時20分ころ,同被告人らが乗ったaが上記駐車場に到着し,bの側にそのaが停車し,同被告人,被告人B,被告人Cはaから降りた。

(罪となるべき事実 第1)

被告人5名は,H(当時25歳)に暴行を加えようと考え,共謀の上,平成13年1月8日午前1時20分ころ,(略)所在の上記駐車場において,被告人B及び被告人CらがHの顔面や頭部を殴り付け,地面に正座して,「すいません,勘弁してください。」などと謝り続ける同人に対し,被告人Aがその顔面等を数回足蹴にし,さらに,被告人A,被告人B,被告人C及び被告人Eら4名がその頭部,顔面,背部,腹部等の全身を多数回足蹴にするなどし,さらに,被告人Cが同所にあった長さ1メートル50センチ程度の鉄製の火かき棒でその背部等を多数回殴り付けるなどし,被告人Aが同駐車場に置かれていた高さ約73センチメートル,直径約50ないし60センチメートル,重さ約12キログラムの円柱形の鉄製くずかごをその背中に投げ付けたり,重さ約15キログラムないし18キログラムの自動車用バッテリーをその頭部付近に落とすなどの暴行を加えた。

そして,そのころ前記駐車場にやって来た被告人Dも加わり,被告人5名は,同日午前1時40分ころ,Hをbに乗せて(略)所在の資材置場に連れ込み,同所において,地面に正座させてその周りを取り囲み,「すいません。許してください。勘弁してください。」などと何度も謝る同人に対し,それぞれ多数回,その頭部,顔面,腹部,背部等の全身を手拳で殴打したり足蹴にするなどの暴行を加え,さらに,被告人Cが上記鉄製の火かき棒を,被告人Dが持参した特殊警棒を,被告人Eがその場にあった鉄パイプを,それぞれ用いてその背部等を多数回殴打し,なおも,被告人Aが「うさぎ狩りをするから逃げてみろ。」などと言ったり,被告人Dがその首を絞め上げ,被告人Eがその腕を持って押さえ,その腕の上に被告人Dが飛び乗って腕を骨折させようとするなどの暴行を加えるなどした。すると,Hが「100万円やるから勘弁してください。」,「おやじの土地やるから勘弁してください。」などと言って許しを求めたが,被告人A及び被告人Bは「こいつ絶対デコに走る。」などと同人が警察に届け出る旨断言してこれを無視し,さらに,同人が「警察には行きません。余計なことは言いません。」などと言って助けを求めるや,これを聞いて逆上し,このころまでには同人を殺害しようと決意し,それぞれ殺すなどと口に出し,共謀の上,そのころ,前記資材置場において,同人に対し,被告人Bが,殺意をもって,普通乗用自動車(a)を運転してその脚部を轢過し,これを見たり,被告人Aと被告人Bの殺害を決意した言葉を聞くなどした被告人C,被告人D及び被告人Eにおいて,遅くともこのころまでには同人を殺害しようと決意するに至り,ここに,被告人5名は,殺害の意思を相通じ,同人を殺害する旨の共謀を遂げた。そして,被告人5名は,殺意をもって,Hの全身を,鉄パイプ,鉄棒,特殊警棒等を使用するなどして多数回にわたって殴打及び足蹴にした上,被告人Eが普通乗用自動車(b)を使用して同人の背部を轢過するなどし,さらに,身動きしなくなった同人を普通乗用自動車(b)に乗せて,同所から(略)I港埠頭まで搬送する際,同車内において,「100万円やるから勘弁してください。親父の土地やるから勘弁してください。」などと言い出した同人に対し,被告人C及び被告人Dが,殺意をもって,その背部,腰部等を多数回足蹴にするなどした上,上記埠頭において,被告人C,被告人D及び被告人Eが,同人の身体に金属製クランプ入り土嚢袋等の重りを装着して,同人を海中に投棄し,よって,同日深夜,同人を死因不明により死亡させて殺害した。

(第2の1,2の各犯行(Jに対する強盗殺人,死体遺棄)に至る経緯)

Jは,岡山県内で出生し,妻との間に2人の子供をもうけ,仙台市内のマンションにおいて家族4人で生活し,飲食店や風俗店を経営する傍ら無許可で貸金業を行い,平成11年ころからは自動販売機修理業も営んでいたが,その間の昭和60年ころに知人を介して被告人Aと知り合い,一緒に酒を飲んだりし,同被告人が金銭に窮したときには現金を貸したりしたこともあり,また,同被告人を通じて,平成11年ころには被告人Bと,平成12年ころには被告人Cと知り合った。

ところで,被告人Aは,平成12年夏ころ,知人のKから,パチンコ台に出玉が多くなるいわゆる「裏ロム」と呼ばれる装置を取り付け,金をもうける計画があり,その取り付け用の資金をJに出資してもらいたいので,同人に話を通してほしいと強く依頼されたため,Jにその旨話し,被告人Bを誘い,4人で集まった。

Jは,当初渋っていたものの,被告人Aの口添えもあって,Kに300万円を出資することを承諾してこれを交付したことから,Kは,同年10月末ころから,Jに,毎月100万円を,被告人A及び被告人Bを介して支払う旨約束し,また,被告人両名から口利き料を要求されたことから,被告人両名に毎月50万円を支払うことを約束したが,この合計150万円については,被告人両名が,Kからこれを受け取って50万円を差し引き,被告人両名からJに残りの100万円を渡すこととなった。

ところが,被告人A及び被告人Bは,そのころ金銭に窮していたため,同年11月5日ころにKから1回目の支払として受け取った100万円を,被告人Aの発案で,Jには,Kの仕事がうまくいかず,金を全く支払わないなどと虚偽の事実を述べて渡さずに着服し,小遣いや被告人両名が経営する飲食店の運転資金として費消し,さらに,同年12月5日ころにKから受け取った100万円についても,同様に全額費消してしまった。

Jは,Kから支払われるはずの金銭が全く手に入らなかったことから,同月中旬ころ,その理由をKに尋ねると,被告人A及び被告人Bが合計200万円を着服したことが分かって,被告人Aに何度も催促の電話を掛けるようになり,これに対し,被告人A及び被告人Bは,これまで,Jから頼まれて取り立てた金員を使っても,厳しくその支払を請求されなかったところ,今回は同人の態度が厳しいと受けとめてとまどい,焦りを感じた。そのため,被告人両名は,Kから不足分の合計100万円を取り立ててそれをJへの支払に充てようとしたものの,Kと連絡を取ることができず,そこで,以前,被告人Eの実母から多額の現金をだまし取ったことがあったため,平成13年1月6日ころ,同女に電話を掛けて現金をだまし取ろうとしたが失敗し,さらに,被告人Aは,同月10日ころ,Kと連絡が取れたものの,Kから既にJには全部話をしてあるなどと言われてしまい,同月11日には,Jから被告人Bに電話があって,Kから受領した200万円全額を支払うように要求され,それができない場合は,Lを通じて制裁を加えることを示唆されたため,被告人Bは直ぐに被告人Aにその旨伝えた。

ところで,Lは,暴力団の世界ではM組やN会とも深い関係にある実力者であり,以前,被告人Aの兄貴分であるF会の組員が仲間を使ってL宅に盗みに入らせた際には,被告人Aを呼び出して強く脅し付けたことがあり,LがF会の会長と不仲でF会自体を嫌悪していることなどから,被告人Aは,F会の組員らがLやその配下の者に迷惑を掛けるようなことをすれば,Lと親しい暴力団組織の会長も加担してきて,LがF会の組員に容赦なく徹底的に制裁を加え,相当ひどい仕打ちをしてくると考えてLを恐れていた。

そして,Jが,Lと親しく交際し,Lの番頭格といわれている人物であったことから,このままJに200万円を支払わなければ,同人がLにその旨話し,そうなればL及び上記暴力団組織の会長が,被告人A及び被告人Bはもちろん,F会自体にも制裁を加えかねないと考え,その旨被告人Bに話をし,同被告人も,被告人Aから上記のようなLの恐ろしさを聞かされるうち,被告人A同様,自身の身の安全のみならず,F会の存立自体も危惧するようになった。

そして,このころから,被告人Aは,Jを殺害して200万円の債務の追及を不能にして債務を免れることを考え始め,被告人Bにその旨の話をするようになったが,それでも,被告人Bと共に,同人に支払うために,再度,同月13日,被告人Eの実母から金銭をだまし取ろうとしたものの,結局失敗し,金策のあてもなくなって困ってしまい,ますます同人を殺害して200万円の債務を免れようという気持ちを強め,遅くとも同月下旬ころにはその旨決意し,警察はもちろんのこと,Lには絶対分からないようにしようと考え,また,Jが普段から自動車内に多額の現金を積んで持ち歩いていたと思っていたことから,同人を殺害した後にこの現金を強取することなどを企てた。

そこで,被告人Aは,被告人Bに,「Jの車には,金がかなり入っているべから,やってしまえば,それも手に入る。Jは,いつも200から300の金は持っているけど,もっと持っているかもしれない。」などとJを殺害し,債務を免れて所持金も奪う企てを再度持ち掛けたところ,被告人Bは,被告人Aの言うとおり,同人を殺す以外には方法はなく,また,同人を殺せば,債務を免れた上,多額の現金を手に入れることができて楽な生活ができるなどと考え,遅くとも同月下旬ころには,同人を殺害し,債務を免れて所持金も奪うことを決意し,ここに,被告人A及び被告人Bは,その旨の共謀を遂げた。

そこで,被告人Aは,被告人C,被告人D及び被告人Eに対し,同月中旬ころにJを殺さなくてはならないので手伝ってくれなどと言っていたが,同月下旬ころ,(略)所在の前記G事務所において,「Jを殺さないとまずいことになる。Jに返す金を使ってしまった。JのバックにいるLなどが動けば,F会がやばくなる。Jはいつも車の中に二,三百万円を持っている。取って山分けする。Jが死ぬと,後から入ってくる金がある。手伝ってくれ。」などと企てを明確に打ち明けて手助けを頼み,被告人Bも「そういうわけだ。」などと言ってその頼みを引き受けるように働き掛けたところ,被告人C,被告人D及び被告人Eは,F会を守るためにJを殺害して被告人A及び被告人Bの債務を免れさせようなどと決意するに至り,また,同人から所持金を奪おうと考えて同人殺害を承諾し,ここにおいて,被告人5名は,同人を殺害して被告人A及び被告人Bの債務を免れるとともに同人の所持金も奪う旨の共謀が成立した。

そして,被告人5名は,同年2月初めころまでの間,前記G事務所内で,被告人Aの主導の下,証拠を残さないように事を進めるため,Jを殺害する方法,その死体を遺棄する方法,その使用車両の投棄方法等,犯行の詳細に関して謀議を重ね,その結果,被告人5名は,金を返すなどと言って同人を呼び出し,被告人Eがbの車内に誘い込んで同人を押さえ付け,被告人Dが後方からその頸部をロープで絞め付けて殺害し,被告人Cが被告人Dの手助けをすることなどを決め,また,殺害後,同人の死体にコンクリートブロックをロープでくくり付けて,(略)O港や(略)P港などの海中に投棄することとし,同人が乗ってきた車両を死体とは別の場所であるI港の海中に投棄することなどを決めた。

被告人A及び被告人Bは,同月2日,Jが返済を待ってくれるのもわずかの日数であり,同人を殺害するのはここ数日以内にすべきである旨話し合い,結局,翌日に同人殺害を実行する旨決定し,同月2日,被告人Bが同人に電話を掛け,200万円を返済するので,翌3日午後8時に(略)ドライブインQの駐車場に来てほしいなどと言った。

そこで,被告人5名は,同月3日午後7時30分ころ,殺害に使用するビニール製ロープ2本,軍手,Jの死体にくくり付けるコンクリートブロックやロープなどを準備してbに乗り込んで前記G事務所を出発し,同日午後8時前ころ,ドライブインQ駐車場に赴き,bの車内で同人がやって来るのを待ちかまえていると,同日午後8時10分ころ,同人が普通乗用自動車(c)を運転して一人でやって来たので,被告人Eがbから降りてcに近づき,被告人Aが呼んでいる旨言って同人をbの車内に誘い入れた。

(罪となるべき事実 第2)

1  被告人5名は,J(当時36歳)を殺害して,被告人A及び被告人Bの同人に対する200万円の金銭債務の弁済を免れるとともに,同人の所持金を強取しようと企て,共謀の上,平成13年2月3日午後8時10分ころ,(略)ドライブインQ東側駐車場に駐車中の普通乗用自動車(b)内において,虚言を申し向けて同車両内に誘い入れた同人に対し,殺意をもって,いきなり被告人Eが同人の身体を座席に押さえ付けた上,被告人Dが所携のビニール製ロープを同人の背後からその頸部に巻いて強く引っ張り,さらに,被告人Cも所携のビニール製ロープを同人の背後からその頸部に巻き付け,被告人C及び被告人Dの両名がそれぞれ被告人Cの巻き付けたビニール製ロープの両端を持って強く引っ張るなどして同人の頸部を絞め付け,よって,そのころ,上記車両内において,同人を頸部圧迫により窒息死させて殺害し,もって,上記200万円の弁済を免れて,同金額相当の財産上不法の利益を得た上,そのころ,同所及びその周辺において,同人の着衣及び同人が使用していた普通乗用自動車(c)内から同人所有の現金約30万円を強取した。

2  被告人5名は,Jの死体を隠匿した上,海中に投棄するなどしてこれを遺棄しようと企て,共謀の上,同日午後8時10分過ぎころから同月4日午前1時過ぎころまでの間,前記ドライブインQ東側駐車場に駐車中の普通乗用自動車(b)内において,前記死体の頭部,両手部,両足部に所携のガムテープを巻き付けて緊縛し,そのまま同死体を前記車両内に隠匿した上,同所から(略)付近路上を経て,O港内に同車で同死体を運搬し,同所に駐車した同車両内において,所携のナイロン製ロープを使用して前記死体にかねて用意のコンクリート製ブロック約9個(総重量約94.1キログラム)をくくり付けた上,同状態の前記死体を同所からP港埠頭岸壁付近まで同車で運搬し,そのまま同所から同死体を水深約14メートルの海中に投棄して海底に沈め,もって死体を遺棄した。

(罪となるべき事実 第3)

被告人A及び被告人Bは,Eと共謀の上,同人の実母であるRから金員を詐取しようと企て,

1  平成11年4月中旬ころ,(略)同女方において,被告人Aが,R(当時57歳)に対し,真実は,Eが被告人Aを債権者とする1000万円の金銭消費貸借契約の連帯保証人となった事実はないのに,これあるように装い,「AがSに1000万円を貸し付け,Eがその連帯保証人となっている。」などと虚偽の内容が記載された金銭借用証書を示した上,「Sという人が商売をやるから金を貸したんだ。息子さんがその保証人になっている。期日になってSのところに行ったら部屋が引き上げられていてだれもいなかった。息子が保証人になっているのだから代わりに払ってくれ。利息も含めて1120万円を払ってくれ。」などと虚偽の事実を申し向け,同女をしてその旨誤信させ,よって,同女をして,同月26日600万円を,同年5月13日520万円を,(略)郵便局に開設したA名義の通常郵便貯金口座にそれぞれ振り込み入金させ,

2  同年7月上旬ころ,前記R方において,被告人Aが,Rに対し,真実は,Eが被告人Aから1000万円を借り入れた事実はないのに,これあるように装い,その旨虚偽の内容が記載された書類を示した上,「お母さん,私は息子さんが商売を始めるというので金を貸したのですが,返してもらえないんですよ。私は,息子さんが商売を始めるからその資金として融資したのですが,支払期日になっても支払ってくれず,心配になって,実際に商売をしているのか確認しました。そうしたところ,実際は商売などせず,ヤクザ者の女に手を出したということで,私が貸してあげた金をその詫び代金としてヤクザ者に支払ったということなんだそうです。息子さんに貸したお金をなるべく早めに返してもらえませんか。何せ大金ですので,分割でかまいませんから。ただし,初回の金額はある程度まとめた金で,7月8日までに支払ってください。1000万円をなるべく早く支払ってください。」などと虚偽の事実を申し向け,同女をしてその旨誤信させ,よって,同女をして,同年7月8日300万円を,同月15日200万円を,同年8月10日200万円を,同月19日300万円を,前記A名義の通常郵便貯金口座にそれぞれ振り込み入金させ,

3  平成12年6月中旬ころ,前記R方において,被告人Bが,R(当時58歳)に対し,真実は,Eが被告人Bから300万円を借り入れた事実はないのに,これあるように装い,その旨虚偽の内容が記載された書類を示した上,「Eが会社の車を壊し,会社に車の修理代を弁償するのに300万円を貸したが,返済期日が来ても金を返してもらえない。連帯保証人にお母さんの名前があるので利息を含む330万円を支払ってほしい。Eは,この事故のことで会社をクビになっている。直ぐにでも一括で330万円を支払ってほしい。」などと虚偽の事実を申し向け,同女をしてその旨誤信させ,よって,同女をして,同月26日110万円を,同月30日110万円を,同年7月7日110万円を,(略)郵便局に開設したB名義の通常郵便貯金口座にそれぞれ振り込み入金させ,

もっていずれも人を欺いて財物を交付させた。

(罪となるべき事実 第4)

被告人Bは,商標の使用に関し,何ら権限がないのに,平成13年12月25日ころ,(略)路上において,Tに対し,(略)U社が,別紙一覧表1記載のとおり,指定商品として商標登録を受けた商標と各類似する商標を付した別紙一覧表2記載のバッグ等6点を代金合計3万500円で販売譲渡し,もってU社の商標権を侵害した。

(罪となるべき事実 第5)

被告人Eは,不正に入手した株式会社V発行に係るW名義のクレジットカードを使用して商品を詐取しようと企て,平成14年1月30日午後9時ころ,(略)有限会社Xサービスステーションにおいて,同社従業員Yに対し,同カードの正当な使用権限がなく,同カードシステム所定の方法により代金を支払う意思がないのにあるように装って,同カードを提示し,スタッドレスタイヤ2本の購入及び自己の運転する普通乗用自動車への前記タイヤの装着方等を申し込み,前記Yをしてその旨誤信させ,よって,そのころ,同所において,同人からスタッドレスタイヤ2本(価格合計1万8200円相当)の交付を受けるとともに同タイヤの前記車両装着等の利便(料金合計4000円相当)を受け,もって人を欺いて財物を交付させるとともに財産上不法の利益を得た。

(事実認定の補足説明)

第1判示罪となるべき事実第1について

1  (1) 被告人Eは,当公判廷において,Hに殺意を抱いたことはなく,また,資材置場における暴行によって同人が死亡したと思っていたなどと供述し,同被告人の弁護人も,同被告人の公判供述に基づき,同被告人には殺意がなく,同被告人には傷害致死罪と死体遺棄罪が成立するにすぎないなどと主張する。(2) また,被告人A及び被告人Dは,当公判廷において,殺意があったことは認めながら,その殺意は確定的なものではない旨供述し,被告人Dの弁護人は,同被告人の公判供述に基づいて,同被告人の殺意は,Hが死亡してもやむを得ないというものであって,確定的なものではないなどと主張する。

そこで,以下検討する。

2  ところで,本件においては,Hを殺害した犯行の目撃者はおらず,被告人5名の捜査段階の供述及び公判供述が主たる証拠となっているが,これら被告人5名の供述によれば,殺意をはじめとする内心の点を除き,その犯行態様については,判示罪となるべき事実第1のとおりであると認められ,これについては,各被告人及び各被告人の弁護人も特に争ってはいない(なお,被告人Aは,当公判廷において,いなくなったHを捜すように他の被告人に指示を出したことはない,100万やりますなどと言ってきたときに同人に対して殺すということは言っていないなどと供述しているが,被告人Aを除く他の被告人の供述によれば,被告人Aが同人を捜すように他の被告人らに指示を出したことや,資材置場で同人に暴行を加えている途中で,同人が「警察には行きません。余計なことは言いません。」などと言って助けを求めたのに対して,被告人A及び被告人Bがそれぞれ同人を殺すなどと口に出したという判示の事実を認めることができる。)。

3  加えて,被告人らの捜査段階の供述及び当公判廷における供述によれば,判示罪となるべき事実第1のような犯行態様が認められるほかに,以下の各事実が認められる。すなわち,(1) 平成13年1月8日は雪が降っており,同事実第1のころ,上記駐車場においては二,三センチメートル,資材置場では5センチメートルくらい雪が積もっており,その後も雪が降り続いていたこと,(2) Hは,被告人Eが運転するbで轢かれた後,身動きしなくなったものの,被告人5名は,だれ一人として同人の生死を確認することもせず,被告人A,被告人B及び被告人Cの3名が同人の処分方法について相談し,被告人Cが「海にでも捨てたらいいじゃないですか。」などと言い出したため,被告人A及び被告人Bが,被告人C,被告人D及び被告人Eの3名に対し,同人に重りを付けてI港に沈めるように指示したこと,(3) そこで,被告人C,被告人D及び被告人Eは,Hをbの2列目シートの前の床に乗せた上,資材置場にあったクランプ入り土嚢袋等をbに積み込み,被告人Eがbを運転し,被告人C及び被告人Dがbの2列目シートに乗り込んで,I港へ向けて出発したこと,(4) 被告人C,被告人D及び被告人Eは,I港へ向かう途中,立て看板の重しとして使用されていたコンクリートブロック等を見付け,Hを沈める際の重りとするためにbに積み込んだこと,(5) その直後,それまで動かなかったHが意識を取り戻し,「100万円やるから勘弁してください。親父の土地やるから勘弁してください。」などと言い出したが,被告人C及び被告人Dは「うるせぇ。何言ってんだ。どうせお前は死ぬだけなんだから。」などと言いながら,うつ伏せになっている同人の背部等を殴打したり足蹴にするなどしたため,同人は再び動かなくなったが,被告人C,被告人D及び被告人Eは,同人の生死を確認することはしなかったこと,(6) 被告人C,被告人D及び被告人Eは,I港に到着すると,Hをbから降ろして仰向けに寝かせ,同人の体にクランプ入り土嚢袋2袋をロープでくくり付けたり,同人が着用していたジャンパーの中にコンクリートブロックを入れるなどした上,同人を海中に投棄して沈めたこと,(7) 被告人C,被告人D及び被告人Eは,bで仙台市内に戻ったが,その途中,被告人Cが被告人Aに電話を掛けてHを海中に投棄したことを報告し,また,仙台市内に到着後,被告人Dも被告人Bにその旨報告したこと,(8) そして,同日午後,被告人5名はGの事務所に集まり,被告人C,被告人D及び被告人Eが,被告人A及び被告人Bに対し,Hが途中で息を吹き返したがそのままI港に投棄したという話をしたが,被告人A及び被告人Bは,この件については特に何も述べなかったことが認められる。

4  以上の事実を総合すれば,被告人5名が長時間にわたって鉄パイプ等で全身を多数回殴打して負傷させたHに対し,雪が積もっていたことを考慮しても,被告人Bが車で同人を轢過した行為は,それまでの暴行とは明らかに異質の危険性の高いものであって,しかも,被告人5名は,その後も,同人を,鉄パイプ,鉄棒,特殊警棒等を使用し多数回にわたって殴打した上,被告人Eにおいて,またもや車で今度は同人の背部を轢過しているのであるから,資材置場で加えた暴行は,極めて執拗で強烈なものである。しかも,被告人5名は,Hが全く動かない状態となっても,だれ一人としてその生死を確かめようともせず,すぐさま海中に投棄することに決め,重りとなるクランプ入り土嚢袋等を積み込んで,I港へ向けて車で出発している。そして,被告人C及び被告人Dは,I港へ向かう途中の車内で,Hが意識を取り戻して助けてくれるようにと哀願しても,助けるどころか,更に暴行を加えているのであって,被告人Eは,上記のとおり,被告人C及び被告人Dが暴行を加えていてもそれを止めることもせず,I港まで運転を継続している。さらに,被告人C,被告人D及び被告人Eは,I港に到着後も,Hの生死を確認することなく,同人の体に重りを付け,そのまま海中に投棄し,被告人A及び被告人Bは,翌日,被告人Cらから車内で同人が意識を取り戻したことを聞かされても,被告人Cらを叱責することもしていないことなどの事情に照らせば,被告人5名が確定的殺意を有していたことは明らかである。

5(1)  これに対し,被告人Eは,当公判廷において,「Hに対する行為はヤキ入れだと思っていた。殺害しようとするものだとは思っていなかった。私が車で同人を轢くときも殺害する意思はなかった。資材置場で同人を車に乗せるときに,同人は動かなかったので,死んでしまったと思い,海に捨てに行った。途中で,突然同人が話し出し,これに対して被告人C及び被告人Dが蹴ったりしたが,海に着いて同人を捨てるときには動かなかったので,車の中で死んだと思った。死体を捨てるつもりだった。」などと供述している。

しかしながら,被告人Eは,捜査段階において,検察官に対し,「いくら暴力団のリンチと言っても,Hは同じ被告人Aの仲間内だし,車まで使ってリンチを加えるとは思えなかった。手足を使って暴力を振るったり,鉄パイプを使って暴力を振るったりしても,よほどのことがない限り命を落とすことはないと思っていたが,車で轢くとなれば,轢くところによってはすぐに人が死んでしまうと思った。しかし,何のためらいもなく被告人Bがし始めたこと,さらに,被告人A,被告人C,被告人Dにしても,当然だというような感じでそれを見ていて,被告人Bのするがままにしていたこと,さらに,その前に,『ヤバイ話も言いません。刺して沈めたじゃないですか。』という同人の話を聞いて,被告人Aが,Hを殺してしまうようなことを真顔で言っていたことから,被告人A,被告人B,被告人C,被告人Dは,皆同人を殺すつもりになっていると思った。私も,その時点で,同人を殺してしまおうと思った。」などと殺意を認める供述をしているところ,その供述は,前記認定の犯行態様に沿うものであるから十分に信用することができる。

これに対し,被告人Eの弁護人は,捜査段階の供述は,検察官の強い誘導に基づくものであり,信用できないと主張し,被告人Eは,当公判廷において,弁護人の主張に沿って,「最初は殺意を否認していたが,検察官がいうことを聞いてくれないので,その後は検察官の言うとおりに認めた。」などと供述している。

しかしながら,被告人Eは,捜査段階において,検察官から「駐車場でHに暴力を加え始めたときから,Hをみんなで殺すつもりだったのではないか。」と質問され,「今まで話したように,駐車場では,まだHを痛め付けて懲らしめるつもりしかなく,Hを殺すつもりになったのは,資材置場で被告人AがHを殺す話をした後,被告人BがaでHを轢いたのを見たときだった。」と答え,否定するところは否定する供述をしていることに照らせば,検察官に誘導されて殺意を認めたなどという被告人Eの公判供述は信用できず,この点に関する同被告人の弁護人の主張も理由がない。

したがって,被告人Eの殺意を否認する公判供述は,信用性の認められる同被告人の捜査段階の供述に反する上,前記認定の犯行態様にも反するのであって,到底信用することはできない。

なお,被告人Eの弁護人は,① 被告人Bの運転行為はHに車を激突させるとか,高速度で同人を轢くなどというものではないから,その運転行為から殺害に直結するような激しさは認められない,また,被告人Eの同人を轢く際の速度は著しく遅く,客観的にも殺害行為とは言い難く,当時雪が降り積もっており,雪の上の同人の体に徐行で乗り上げる行為も殺害行為とは認め難い,② また,被告人Aや被告人Bから他の被告人に対する殺害行為についての具体的な指示もなく,その方法について相談したことを裏付ける証拠もない,被告人Eは,被告人Bから轢き殺せなどと指示されていない旨主張する。

しかし,前記のとおり,犯行当時雪が降り積もっていたとしても,車で人を轢くという行為は,それ自体生命を奪いかねない行為であって,殺意があることを推測させるに十分というべきであり,現に,被告人EはHの背部をb(重量約1700キログラム)で轢くという行為を行っている。そして,前記のとおり,信用性の認められる被告人Eの捜査段階の供述によれば,被告人Eは,被告人Aや被告人Bの言動から,被告人両名に殺意があることを理解し,自らも殺意を形成して,共に犯行に及んだというのであるから,被告人Eは,被告人Aや被告人BとH殺害の共謀をしたのであり,そのような共謀があるのであるから,その後に,被告人Eが車で同人を轢く前に,被告人Bから単に「じゃ,お前いけ。」などと言われたにすぎないとしても,それが殺害の指示であったことは明らかである。

以上のとおり,本件では,被告人Eに殺意があったという証拠は十分にあり,同被告人に確定的殺意があったことに疑問はない。

(2)  次に,被告人Aは,当公判廷において,「被告人Bが車で轢いたのを見て,とことんヤキ入れるつもりなんだなと思った。被告人Bがとことんやるなら,自分も一緒になってやるしかないと思ったが,徹底的にやって,万一死ぬようなことがあったら,それは仕方がないと思っていた。」などと確定的殺意を否定する供述をしている。

しかしながら,被告人Aは,捜査段階において,検察官に対し,「突然,被告人BがHを車で轢いたので,びっくりした。それを見て,被告人Bは同人を殺すつもりでいるとはっきり分かり,私としても,被告人Bが殺す気でいるなら,被告人Bと兄弟分の私も一緒に殺すしかない,私としても,同人に警察に走られて,ヤキを入れたことで捕まるのは嫌だ,殺してしまった方がいいと思い,Hを殺すことを決意した。」などと供述をしているところ,その供述は,殺意の発生時期に関しては,他の共犯者の供述から認められる被告人Aの客観的な態度とも反するので,その部分は信用し難いが,確定的な殺意があったことを認める供述部分は,前記認定の犯行態様などに沿うものであるから,信用できる。

これに対し,被告人Aは,当公判廷において,「自分は殺意を否定していたが,取調べ検察官から,徹底的にやったら死んじゃうんじゃないかという話をされたので,まあ,死んでもしょうがないかという気持ちはあったと言うと,じゃあ死んでもしょうがないんだったら,殺すというつもりだったんだねというように確定されたのを否定しなかっただけである。」旨述べて,捜査段階の供述の信用性を争っている。

しかしながら,被告人Aは,検察官調書において,検察官と殺意に関して問答を交わしており,検察官の質問に対し,「何度尋ねられても,私はHを最初から殺すつもりでいたわけではなく,被告人Bがaで同人を轢いたことから,その時点で初めて,同人を殺そうと決意した。」などと答えている上,同調書中には,問答体による録取部分が多数あり,明確に自己の主張を通していたと認められることに照らせば,検察官調書中の確定的殺意を認める供述部分は信用でき,これに反する被告人Aの公判供述は,到底信用できない。

(3)  さらに,被告人Dは,当公判廷において,「車で轢くというようなヤキ入れは見たことがなかったので,Hが被告人Bの運転する車で轢かれるのを見てからは,これは死んでしまうかもしれないと思ったが,死んでも仕方ないかと思ってそのままヤキ入れをした。私は,殺そうと思って暴行を加えていない。」などと確定的な殺意があったことを否定する供述をする一方,「被告人BがHをaで轢いた後は,自分も殺さなきゃだめだと思って殴ったり,蹴ったりした。」旨確定的な殺意を認める趣旨の供述もしている。そして,被告人Dは,捜査段階において,検察官に対し,「私は,これまで,暴走族やヤクザの中で何度もヤキを入れているのを見たことがあったが,普通のヤキ入れで人を車で轢くなどというのは見たこともなかった。私は,被告人BがaでHの両足を轢くのを見て,そこまでやれば,同人が無事帰れるわけがなく,被告人Aや被告人Bが同人を殺すつもりだと思った。私は,被告人Bがaで同人を轢いたことで,自分より高目の被告人Bや被告人Aが同人を殺すつもりだと分かり,私も一緒に同人を殺そうと決意した。」などと明確に確定的な殺意があったことを供述している。この点につき,被告人Dは,当公判廷において,「最初1日否認していたが,警察官から,はっきりはしないが,もうみんなしゃべっているから遅れるぞとか,全部お前になすりつけられるぞとか言われたので,正直に話をするしかないかなどと考えて話した。」などと供述しているのであるから,確定的殺意を認める捜査段階の供述の信用性に疑問はなく,これに反する上記公判供述部分は信用できない。

なお,被告人Dの弁護人は,① 被告人DはHと個人的利害関係は一切なく,確定的殺意を抱く動機は全くない,被告人Dは,被告人Bに呼ばれるまま,いわゆる「ヤキを入れる」ために現場に赴いただけであり,また,被告人Dの暴行自体は直接的に同人の生命を奪う質のものではなかった,② I港へ向かう途中の車内でHを蹴るなどした理由は,既に死亡したと考えていた同人が突然話し出したので,気が動転し,無我夢中で蹴るなどの暴行を加えてしまったものであり,また,被告人Dとしては,被告人A及び被告人Bから同人を海に捨てるように言われ,被告人Aらの意思に反して同人を助けるわけにはいかなかったものであるなどと主張し,確定的殺意を争っている。

なるほど,前記認定のとおり,被告人Aらがヤキ入れとしてHに暴行を加えていた駐車場に,被告人Dが遅れて赴いたものであり,そして,その後の資材置場における被告人Dの暴行を取り上げて見れば,それだけで直ちに同人の生命を奪う性質のものとは断言し難い。しかし,被告人BがaでHを轢いた以後の暴行は,ほとんど身動きしなくなった同人に対し,鉄パイプ等を使用して,手加減しないで殴打し,bで背部を轢くというそれ以前の暴行とは異質な強度のものである。しかも,被告人Dは,Hを海に捨てようとして運んでいる車の中で,息を吹き返した同人に対し,両足でその背中を,足に体重をかけ,踏み付けるようにして思いっきり10回以上蹴飛ばしている旨述べているのであるから,当時の同人の状態からすれば,被告人Dの上記暴行は同人の生命を奪う危険なものであったことは明らかである。そして,被告人Dは,捜査段階において,「私としても,Hが今回のヤキのことで警察に行くと,逮捕されたら困るという気持ちもあったので,被告人Aや被告人Bが同人を殺すつもりであれば,自分も一緒に同人を殺そうと思った。私が,同人を殺そうと決意したのは,稼業上の高目である被告人Aや被告人Bが殺すつもりなのに,下の自分が引くわけにはいかないという思いだった。私は,18歳のとき,ヤクザに憧れてF会の組員になり,ヤクザになってからは,兄貴分や稼業上の高目の命令に対しては絶対に服従しなければならないと思っていた。そして,私は,ヤクザとして,上の者の命令に従うだけではなく,上の者が言葉に出さなくても,その意思をくみ取って行動するのが当然と思っていた。だから,私は,F会の若頭の被告人Aと本部長で,しかも,自分の兄貴分である被告人Bが,Hに対し,血相を変えて怒り出し,その後,被告人Bがaで轢くのを見て,被告人Aと被告人Bが同人を殺すつもりだとはっきり分かり,私も一緒に同人を殺すしかないと決意した。」などと述べているのであって,その動機は自然であり,不合理なところは見当たらず,被告人Dに確定的な殺意があったことに疑問はない。

(4)  なお,判示第1の事実に係る公訴事実は,「被告人5名は,共謀の上,H(当時25年)を殺害しようと企て,平成13年1月8日ころの深夜,(略)所在の(略)駐車場及び(略)所在の資材置場において,同人に対し,殺意をもって,その全身を,鉄パイプ,鉄棒,警棒等を使用するなどして多数回にわたって殴打及び足蹴にした上,(略)上記埠頭において,同人の身体に金属製クランプ入り土嚢袋等の重りを装着して,同人を海中に投棄し,よって,そのころ,同人を死因不明により死亡させて殺害したものである。」というものであるところ,被告人Bの弁護人は,被告人BがaでHの脚部を轢く直前に初めて同被告人に殺意が発生した旨主張して争っているが,検察官作成の冒頭陳述要旨(2)及び論告書を見れば,この点に関する検察官の主張は,前記弁護人の主張と同旨と考えられ,当裁判所もまた,判示のとおり,同旨の事実を認定した。そして,前記のとおり,本件暴行は一連のものであり,被告人らは,その途中で殺害の共謀を遂げてHを殺害したのであるから,結局,包括して殺人罪一罪が成立するものとして,判示第1のとおり認定したものである。

第2判示罪となるべき事実第2の1について

1  (1) 被告人Aは,当公判廷において,Jを殺害したことは間違いないが,債務を免れようとか金品を強奪しようとしたことはないなどと供述し,同被告人の弁護人も同被告人の公判供述に基づき,同被告人には殺人罪及び窃盗罪又は占有離脱物横領罪が成立するにすぎないと主張する。(2) また,被告人Dも,当公判廷において,殺害の点は認めながら,債務を免れようとか金品を強奪しようという気持ちはなかった,この点について共謀もしていないなどと供述し,同被告人の弁護人も同被告人の公判供述に基づき,同被告人には殺人罪が成立するにすぎないなどと主張する。(3) そして,被告人Eは,当公判廷において,Jを殺害して金品を奪った点から強盗殺人罪の成立を認めながら,債務を免れようとする意思はなかった,この点について共謀はしていないなどと供述し,同被告人の弁護人もその旨主張している。

そこで,以下検討する。

2  被告人5名の捜査段階及び当公判廷における供述によれば,被告人5名がJを殺害して,死体を遺棄したこと,被告人A及び被告人BがJに対して200万円の債務を負っていたことが認められ,これらは被告人5名において特に争っていない。

そして,被告人5名の供述によれば,金額の点は別にして(なお,後記のとおり信用性の認められる被告人C及び被告人Bの当公判廷における供述によれば,強取金額は約30万円であると認定することができる。),J殺害後に被告人A及び被告人Bが被告人Cらに命じて同人の着衣から携帯電話等を取り出させ,その後,被告人A及び被告人Bがcを別の場所に移動して車の中にあった現金入り封筒等を取り出し,被告人Aがその現金を5つに分けるなどして,被告人5名が取得したことが認められ,また,同人殺害後,被告人A及び被告人Bらにおいて,同人の遺族にその200万円を支払っていないこと,Kに対し,Jに支払うべき金銭を被告人Aらに支払うように要求したことも認められる。

しかしながら,以上のような事実があったとしても,そのことから直ちに,被告人5名が,被告人A及び被告人BのJに対する債務を免れ,その所持金を奪う目的で同人を殺害したなどと認定することは困難であるところ,本件においても,犯行が発覚しないように事が進められていたため,犯行を目撃した者や被告人らの謀議を聞いたりなどした者はおらず,殺害の共謀状況,殺害状況,さらには,死体遺棄の状況等を含め,同人殺害がいかなる動機や目的で行われたかなどについては,被告人5名の供述しかなく,その各供述は一致していないが,各供述が相違しているところについては,主として,被告人C及び被告人Bの捜査段階及び当公判廷における各供述並びに被告人D及び被告人Eの捜査段階における各供述により,判示事実のとおりに認定したので,以下この点について説明する。

(1) 被告人Cは,捜査段階及び当公判廷において,判示事実に沿って,被告人AからJ殺害計画を持ち掛けられた状況やその後の謀議の状況,殺害状況,死体遺棄の状況等について具体的かつ詳細に供述し,その内容は,終始一貫していて,自然であり,不合理な点はなく,記憶があいまいな部分はその旨述べている上,犯行前日に自ら死体を遺棄する海の下見に行った旨述べるなど自己に不利益なことについても積極的に供述している。そして,被告人Cは,F会内における地位や同被告人の供述などに照らし,犯行において首謀者でないことは明らかであり,自己の責任を他に転嫁して軽減しようとする危険性がそもそも少ない上,記憶のとおりに述べていて,自己の責任を軽減しようとして,他に責任を転嫁しようとしている様子もうかがわれない。加えて,被告人Aについては,当公判廷において,「平成11年か12年ころから,食事をさせてもらったり,月30万円くらい小遣いをもらったりしていた。今でも恩義を感じている。」などと述べ,他方,被告人Bについては,「いつも若い者に対して口うるさく怒るくせに,上の者にはいい顔をするところがある。」などと供述しているのであるから,被告人Cは,被告人Bには不利な供述をするおそれがあるとしても,被告人Aにあえて不利益となる供述をするとは考えられないところ,被告人Cの供述は,被告人Aの供述とは一致せず,むしろ,細部はともかく,中核的な部分は被告人Bの供述と一致していることに照らせば,被告人Cの供述の信用性は高い。

(2) 次に,被告人Bは,捜査段階及び当公判廷において,判示事実に沿って,被告人5名で殺害の謀議を重ねた状況や,殺害状況,死体遺棄状況等について具体的かつ詳細に供述しており,自らが主導した部分も含めて自己に不利益な事実も供述し,その内容は自然で,不合理な点は見当たらない。

もっとも,被告人Bは,本件犯行において被告人Aと並びその首謀者性の有無や程度が問題となっており,被告人Aへその責任を転嫁する危険性も否定できないところであって,その供述の信用性の判断は慎重に行う必要があるが,その内容は,細部はともかく,その中核的な部分については,上記のとおり信用できる被告人Cの供述とも一致していることに照らせば,被告人Bの供述の信用性は高いといえる。

(3) さらに,被告人D及び被告人Eは,捜査段階において,いずれも,判示事実に沿って,被告人AからJ殺害計画を持ち掛けられた状況やその後の謀議の状況,殺害状況,死体遺棄の状況等について具体的かつ詳細に供述し,その内容は,自然であり,不合理な点はなく,上記被告人Cの供述や被告人Bの供述とも一致していることなどに照らせば,被告人D及び被告人Eの捜査段階の各供述の信用性は高いといえる。

なお,被告人Dの弁護人は,強盗目的があったことを認める被告人Dの捜査段階の供述については信用性がないなどと主張し,被告人Dは,当公判廷において,弁護人の主張に沿って,「この調書を取られているとき,取調べが毎日朝から遅いとき夜中の11時,12時まであった。それで,どうでもいいというような気持ちで,『ああ,はいはい。』と聞いていたので,そのような調書になった。」などと述べている。しかしながら,被告人Dの検察官調書を見ると,検察官から,被告人Aが,被告人DらにJを殺して所持金等を奪うことを話す前に,被告人A以外の者からその話を聞かされていないかなどと質問されて,「今,検察官に質問されたような事実はありません。」などと答えて,否定するところは否定する供述をしていることに照らせば,捜査段階の供述の信用性がない旨の被告人Dの公判供述は信用できず,この点に関する同被告人の弁護人の主張は理由がない。

(4) これに対し,被告人Aは,当公判廷において,Jを殺害したことは間違いないが,債務を免れようとか金品を強奪しようとしたことはないなどと述べ,「被告人Bから,『金ができない以上Lにやられる。Lらにばれる前にやったほうがいいんじゃないか。一人殺すも二人殺すも同じだ。』などと言われ,私は,最終的に,『兄弟がその気ならやるしかないだろう。』などと答えた。そして,二人だけではできないという話になり,私が,被告人C,被告人D及び被告人Eに,『Jという奴がいて,トラブっていて追い込まれている。このままいったらLらが出てきて,ただではすまない。Lらに知られる前にやるしかないが,手伝ってくれ。』などと言った。返さなければならない金があるなどとは言っていない。普段から二,三百万円積んで持って歩いているから,たいした奴だと言った。しかし,Jから金を取るという話はしていない。私たちがJを殺害したのは,JとのトラブルがLにばれて,私たちがけじめをつけられるのが嫌だということであり,金を踏み倒そうと思ったからではない。」などと判示事実と異なる供述をしている。

しかしながら,その供述は,前記のとおり,Kの依頼を受けて出資話をJに持ち掛けたのが被告人Aであり,Lに呼び出されて強く脅されていたのも被告人Aであることが証拠上明らかなことなどに照らして不自然で,不合理なものである上,自ら指示した点はほとんどないなど首謀者性について極めて不自然不合理な供述に終始し,被告人Bに責任を転嫁して自身の責任を免れようとしていることが顕著に認められ,特に,前記のとおり,被告人Aに恩義を感じ,同被告人にあえて不利益なことを述べるはずのない被告人Cの供述と符合していない。加えて,被告人Aは,捜査段階においては,J殺害の目的につき,「私と被告人Bにとっては,Jを殺す元々の理由は,200万円を同人に支払わなければならないのに支払っていないので,Jを殺害することによりその事実そのものをLらに知られないようにし,債務の存在自体闇に消してしまうことにあった。」などと述べ,また,被告人C,被告人D及び被告人EにJ殺害を持ち掛けた者につき,「被告人Bである。」と述べ,さらに,Jの所持金につき「私は,Jが持っている金を奪って分配する話をしたが,被告人Cら3名が弱気を見せたときなどに,えさを与えてやる気を起こさせるために言ったものである。」などと述べていたのに,当公判廷においては,上記のとおり供述して捜査段階の供述を変遷させた上,「捜査段階において,取調官に押し切られてしまった,自分が言い出したと思われたくなくて逃げた,警察が言ったことに便乗できると思った。」などと供述を変遷させた理由を述べているが,その理由は到底納得できるものではない。

したがって,被告人Aの公判供述や捜査段階における供述は信用できない。

(5) 次に,被告人Dは,前記のとおり,捜査段階において,判示事実に沿う供述をしていながら,当公判廷において,「被告人Aから,『Jの件だが追い込みを掛けられている。Lが動けば,F会も大変なことになる。』などと聞いたが,なぜ追い込みを掛けられているのか詳しいことは聞けなかった。しかし,最終的には金のことだと思った。被告人Aが,『お前らの生活も楽になる。Jさんが二,三百万円の金をいつも持っている。』と言った。私は,その話を聞いてお金を取れるとは考えなかった。借金をなくすというようなことは考えなかった。私は,被告人Aから組が大変なことになると言われたので,被告人Aと被告人Bが殺されると思い,手伝った。私は,その時,金には困っていなかった。所持金などを奪い取ることを話し合ったことはない。」などと供述している。

しかしながら,強盗目的を否認する被告人Dの公判供述は,不自然かつ不合理であって,あいまいな点を多く含んでいる。加えて,被告人Dは,交際している女性に金策を依頼していることは証拠上明らかであるが,この点につき,捜査段階において,「私は,被告人Aや被告人Bから詳しい話を聞いていないが,被告人AらがJに支払わなければならない正確な金額は分からないものの,百万円単位の金額を支払わなければならないと考え,私が400万円を準備すれば,Jを殺さなくてもすむと思い,当時交際していた女性に400万円を貸してほしいと頼んだ。」などと供述しており,当公判廷でもその供述を維持しているのであって,これらの供述に照らせば,被告人Dは,被告人AらがJに支払わなければならない債務を負っていたことを認識していたことは明らかであり,強盗目的を否認する被告人Dの公判供述がこの事実と整合していないことなどに照らせば,被告人Dの公判供述は信用できない。

(6) さらに,被告人Eは,当公判廷において,現金を奪ったことは認めながら,被告人A及び被告人BのJに対する200万円の債務を免れようという気持ちはなかった,この点の共謀もしていないなどと供述している。

この点に関し,被告人Eの捜査段階の供述を見ると,被告人Eは,検察官に対し,「被告人Aが,みんながいるところで,『あいつは俺と兄弟がやっている仕事を邪魔しているから,金が入ってこない。めんどくせえから殺しちまうから。あいつの金を取れればみんな金持ちになれる。もし,あいつを殺すのに失敗したら,Lの若い者にねらわれる。殺すのを手伝ってくれ。』などと言ったので,私は,相手を殺すことにより,当時の私にとっては少なくない金額の金が入るということが主な理由で,被告人Aらの言うことに従って,一緒に,その相手を殺そうと思い,『分かりました。』などと言った。」などと供述し,被告人Aから,J殺害を持ち掛けられたときや被告人5名の謀議の中で,同人を殺害して金員を奪う話があったという点は述べているものの,被告人Aと被告人Bの同人に対する債務を免れる目的があったかどうかについては直接触れていない。

ところが,被告人Eは,当公判廷において,前記のように債務を免れる気持ちはなかったと明確に供述しているのであるが,しかし,他方では,「返さないお金があるけど,返していないというような話は出ていなかったと思うが,記憶にない。Lにねらわれている,Jを殺すのを手伝ってくれと言われた。追い込みを掛けられているという話は記憶にない。」などと述べているだけであって,肝心の点の供述はあいまいである上,被告人Aが,被告人Eもいるところで,被告人Aや被告人BがJに支払うべき債務を負っており,それが支払えず,このままではLから追い込みを掛けられるので,Jを殺害する旨述べたことは,前記のとおり,被告人C,被告人B及び被告人Dが一致して供述しているところであり,これに反する被告人Eの公判供述は信用できない。

(7) 以上のとおり,主として,信用性の認められる被告人C及び被告人Bの捜査段階及び当公判廷における各供述並びに被告人D及び被告人Eの捜査段階における各供述によれば,判示事実のとおり,①被告人A及び被告人Bは,Jに支払わなくてはならない合計200万円を着服し,同人から何度も催促を受け,支払わなければLに話をしてもいいなどと言われたこと,②被告人Aと被告人Bは,このまま支払をしなければ,JからLに話が伝わり,被告人A及び被告人Bのみならず,F会自体が存立の危機に立たされるなどと考え,被告人AはJを殺害することを考えるようになったこと,③一方で,被告人Aと被告人Bは被告人Eの実母から現金をだまし取るなどしてJに支払う金を作ろうとしたものの結局失敗に終わり,被告人Aは,いよいよJを殺害するしか方法はないと考えるようになって被告人Bにその旨話をし,被告人Bも同様に同人を殺害して債務を免れようと決意し,また,被告人Aと被告人Bは,同人を殺害後,同人の車内にある現金を奪うことを決意したこと,④そこで,被告人Aは,平成13年1月中旬の後半ころ,被告人C,被告人D及び被告人Eに対し,Jを殺害しなければならないという話を伝え,さらに,同月下旬ころ,再度被告人Cら3名に対して,同人を殺害する話をし,その際,同人に返さなくてはならない金を使ってしまい,このままではLなどに追い込みを掛けられF会自体も危機に立たされる,Jはいつも車に二,三百万円を積んでいるので,殺害した後にそれを奪ってみんなで分ける,同人を殺害すれば入ってくる金もあるなどと言って説明し,被告人Cら3名もその説明を聞いて,同人を殺害して被告人A及び被告人Bの同人に対する債務を免れ,また同人の所持金を奪うことを決意して了承したこと,⑤その後,被告人5名は,Jの殺害方法等について話し合いをし,同年2月3日,同人を殺害して同人の着衣や車から現金約30万円を強奪したこと,⑥そして,Jの死体と車をそれぞれ海中に投棄し,⑦同月4日,奪った現金約30万円のうち,約10万円を被告人A及び被告人Bの経営する飲食店の運転資金として除き,残りの約20万円を被告人5名で平等に分配したこと,⑧被告人A及び被告人BはJの遺族に200万円を払っていないことなどが認められる。

このように,被告人5名は,Jを殺害して被告人A及び被告人Bの同人に対する合計200万円の債務を免れるとともに,同人の所持金を奪おうと考えて,共謀の上,Jを殺害し,現金約30万円を奪っているのであって,被告人5名に債務免脱目的及び財物奪取目的があったことは明らかである。

3(1)  この点について,被告人Aの弁護人は,被告人AらはJからLに話が伝わり,自らに危害が及び,また,所属していた組織自体も壊滅させられるとの認識でJ殺害に至っているのであり,殺害動機そのものは,同人の金品を奪うことや同人らからの取立てを免れることを念頭に置いたものではなく,強盗目的があったとしても副次的なものにすぎず,同人殺害の主たる目的はF会が壊滅させられるのを避けるためであり,強盗殺人罪の成立には疑問が残ると主張する。

しかしながら,被告人Aは,Jに対して債務を負っていた当事者であり,他の被告人に対して,同人を殺害しなければ追い込みを掛けられること及びその所持金を奪うことを告げた本人である上,被告人Bとともに実際に所持金を奪い取り,他の被告人にも現金を分配していたものであって,被告人Aが債務を免れ,かつ,財物を強取する目的を有していたことは明らかである。そして,既に認定したとおり,そもそもF会が存立の危機に立たされることと,被告人A及び被告人Bが,Jに対する債務を支払わないこととは,表裏一体の関係にあるのであって,上記の判断を左右するものではない。

(2)  次に,被告人Dの弁護人は,被告人Dの捜査段階の供述中,強盗目的を認める供述部分以外の部分を取り上げ,被告人Aから,追い込みを掛けられていることや,Jが現金を持ち歩いているとは言われたが,具体的な話は一切聞いていなかったものであり,被告人Dが殺害を決意したのは,被告人AからF会がつぶされると言われたからであるなどと主張する。

確かに,被告人Dは,本件のきっかけとなった被告人A及び被告人BのJに対する債務とは直接関係はなく,被告人Dの認識としては,F会が壊滅されるのを防ごうという気持ちが強かったものと認められる。

しかしながら,被告人Dの捜査段階の供述に信用性があることは前記のとおりであり,その供述を見れば,被告人Dは,「被告人Aから『Jに追い込みを掛けられている。Jを殺さなければ,こっちが殺される。Lが動けば,F会までつぶされてしまう。だからやるしかない。』などと聞き,Jに支払わなければならない金を踏み倒そうとしていることが分かった。さらに,被告人Aから,『Jはいつも現金を200から300万くらいは持ち歩いているから,その金も入るし,切取りの仕事も入ってくるから,お前達の生活も楽になるんだ。Jを殺すのを手伝ってくれ。』などと言われ,同人を殺すときに所持金を奪うつもりでもいることがはっきり分かった。」などと述べているのであるから,被告人Dにおいて,被告人Aらが債務を免れるためにJを殺害し,所持金も奪うことを十分理解しつつ,本件犯行に及んだことは明らかである。

(3)  さらに,被告人Eの弁護人は,Jに対する債務を支払えないという利害関係を有するのは被告人Aと被告人Bであり,被告人Eには関係ないことであり,共謀の場で強盗利得目的での殺害の話が出たとしても,被告人Eが関心を持たず,利得目的での犯行との理解ができなかったしても不自然ではないと主張する。

確かに,被告人Eも,被告人Dと同様,上記債務とは直接関係はないが,判示事実のとおり,被告人Eも,1月下旬ころに,被告人AがJに支払うべき金があるが払えないから殺害する旨話をした場にいたこと,被告人Eは被告人Aの言葉を聞いた上で犯行を承諾したことなどからすれば,被告人Eにも債務免脱目的があったことが認められる。

第3結論

以上検討したとおり,判示第1及び第2の各事実が認められ,これに反する各被告人及び各弁護人の主張は採用できない。

(確定裁判,法令の適用 省略)

(量刑の理由)

第1事案の概要

本件は,暴力団の構成員である被告人5名が,共謀の上,同じ暴力団の構成員である被害者に対し,多数回殴る蹴るなどの暴行を加え,途中で,殺意を持って自動車で轢き,殴る蹴るなどの暴行を加えた上,海中に投棄するなどして殺害したという殺人の事案(判示第1),被告人5名が共謀の上,貸金業などを営んでいた被害者を殺害して,被告人A及び被告人Bが被害者に対して負っていた債務を免れるとともに被害者の所持金を奪おうと企て,同人の首を絞めて殺害して債務を免れ,所持金を奪い,その死体を海中に投棄したという強盗殺人,死体遺棄の事案(判示第2の1,2),被告人A及び被告人Bが,共犯者1名と共謀の上,被告人Eの実母から合計2400万円余りの現金をだまし取ったという詐欺の事案(判示第3の1ないし3),被告人Bが偽のブランド品を知人に販売した商標法違反の事案(判示第4)及び被告人Eが不正に入手したクレジットカードを使用してガソリンスタンドからタイヤをだまし取るなどした詐欺の事案(判示第5)である。

第2被告人5名に共通する情状

1  判示第1の事実について

被告人5名は,同じ暴力団に所属していた被害者が,被告人Aらから注意されていたにもかかわらず,勤務先の飲食店で,勤務中に飲酒して客と喧嘩をするなどしたことから,被告人Bらが制裁のために暴行を加えたところ,無断でいなくなったことに憤激し,共謀の上,集団で被害者に暴行を加えた上,その途中で,被告人A及び被告人Bが,このまま帰宅させれば被害者が警察に通報するなどと考えて被害者を殺害することを決意し,他の被告人3名もこれに従って被害者殺害を決意して,被告人5名が,共謀の上,判示第1の犯行に及んだものである。

そもそも,暴力団組織を無断で抜け出した被害者に憤激して暴力を加えて制裁するなどということは,暴力団組織に所属する者の特有の考えに基づくものであって,到底是認できるものではない上,被害者が警察に通報することなどを危惧して殺害を決意したなどというその犯行の動機は,余りにも身勝手かつ自己中心的で短絡的であるというほかなく,酌量の余地は全くない。

犯行の態様について見ると,被告人Dを除く被告人4名において,ヤキ入れと称して,被害者の全身を多数回殴打したり足蹴にするなどした上,遅れて合流した被告人Dも加わり,場所を変え,被告人5名が集団で,何ら抵抗することなく必死に助けを求める被害者に対して,容赦のない激しい暴行を執ように加え続け,ついには,被害者の脚部を普通乗用自動車で轢き,動けなくなった被害者の全身を鉄パイプ等で殴打するなどした上,またもや被害者の背部を普通乗用自動車で轢過するなど強度の暴行を加え,これにより被害者が動かなくなると,ためらうことなく被害者の体に重りを付けて海中に投棄することを決意し,被告人Aの指示により,被告人Eが運転する車で被害者を運搬し,港に向かう途中の車内で,被害者が意識を取り戻して助けを求めるや,被告人C及び被告人Dが足に体重をかけて被害者を踏み付けるなどの暴行を加え続け,港に着くと,海中に投棄するなどして殺害したものである。

このように,被告人5名は,ひたすら謝罪し助けを求めて哀願する被害者に凄惨な暴行を加え,最後には海中に投棄しているのであって,犯行態様は,誠に残虐かつ冷酷非情で,極めて悪質といわざるを得ない。

被害者は,被告人らと同じ暴力団組織に所属していたものであるが,被告人Bらから暴行を受けるなどしたことに嫌気がさして,無断で行方をくらませたことをきっかけにして,被告人らと縁を切り塗装工として稼働していたところ,理由は分からないものの,自ら会いたいなどと言って被告人Eに電話を掛け,だれにも言わないでほしいと被告人Eに頼んだのに,被告人Eによって被告人Aらに伝えられ,そのことを知らないまま,被告人Eと会ったことから被告人5名により最後には殺害されるに至ったものであるが,上記のとおり,勤務中に飲酒して客と喧嘩をするなどのことはあったとはいえ,もとより殺害されなければならない理由は全くなく,わずか25歳という若さで命を奪われ,離婚した妻が引き取った幼い長男と会う機会も永遠に奪われてしまったものであり,その無念のほどは察するに余りある。また,被害者は,長時間にわたって凄惨な暴行を受けた挙げ句に海中に投棄されたものであり,被害者が死に至るまでの肉体的,精神的な苦痛,衝撃や恐怖感は筆舌に尽くし難く,被害結果は誠に重大である。

さらに,このような残虐非情な犯行により大切な息子を失った被害者の母をはじめとする遺族の悲しみは深く,被告人らに対する怒りは激しく,被害者の母が被告人5名全員に対して極刑を望むと述べ,峻烈な処罰感情を抱いているのも当然のことといえる。これに対して,被告人らからは何らの慰謝の措置も講じられていないし,将来,慰謝の措置が講じられる見込みもない。

2  判示第2の事実について

被告人A及び被告人Bは,被害者に渡すべき合計200万円を遊興費などとして使い込んだ挙げ句,被害者から支払の催促を受け,暗に被害者と親交のある暴力団組織の有力者を通じて制裁を加える旨示唆されるや,金策の当てもなかったことから,200万円を使い込んだことなどがその暴力団組織の有力者の耳に入れば,被告人A及び被告人Bばかりでなく被告人らが所属する暴力団組織の存立自体も危機に立たされるなどと考えて,被害者を殺害してその債務の支払を免れることを企て,それと同時に,被害者が日ごろから多額の現金を持ち歩いていたと思っていたことからその現金も強取しようと考え,その旨共謀し,その暴力団組織の有力者らに発覚することなく犯行を遂げるには他の被告人3名の協力が必要であるなどと考え,被告人Aにおいて,他の被告人3名にその犯行を持ち掛け,他の被告人3名においてもこれに応じ,被告人5名が,共謀の上,判示第2の犯行に及んだものである。このように,被告人5名は,自己や所属する暴力団組織を守る考えもあったとはいえ,200万円の債務を免れることとの引き替えに被害者を殺害して命を奪い,さらに,現金も手に入れようなどと考えたその動機は,余りにも身勝手で自己中心的であって,酌量の余地は全くなく,特に,第1の被害者を殺害してわずか1か月も経過しないうちに,またもや第2の被害者の殺害を企てるなどしているのであって,その人命軽視の考えには言うべき言葉もない。

犯行の態様を見ると,被告人5名は,被害者を殺害する旨の共謀が成立するや,被告人Aが主導して何度も話し合って謀議を重ね,被害者を殺害する場所,方法,役割分担,死体や被害者の車両を遺棄する場所や方法等について周到な計画を立てた上,あらかじめ被害者に電話を掛けて金を返すなどとうそを言って呼び出し,犯行当日には,死体にコンクリートブロックをくくり付ける場所の下見をしたり,コンクリートブロック等を購入するなどして準備を整えて殺害現場で被害者を待ち受け,被害者が車で現れるや,当初の計画どおり,被告人5名が乗る車内へ誘い込んで,被害者を押さえ付けた上,準備していたロープで被害者の頸部を絞め付けて殺害したもので,本件は,強固な殺意に基づく極めて計画的かつ組織的で,残忍,非道で凶悪な犯行である。

そして,被告人5名は,被害者を殺害後,その着衣や車内などから所持金を奪い,身元が分かるような書類等を車内から持ち出した上,その後,被害者の死体にあらかじめ用意していたコンクリートブロックをロープでくくり付けて海中に投棄し,さらに,被害者の使用車両を別の海に投棄するなどし,完全犯罪をねらって入念な罪証隠滅工作を行っているのであって,本件犯行は極めて違法性が高い。

被害者は,被告人A及び被告人Bに着服された200万円の支払を催促していたものであるが,その支払を催促するのは当然のことであって,もとより殺害される理由は全くないのに,被害者の催促をこれまでよりも厳しいと感じて焦りを覚え,金策もできなくなった被告人A及び被告人Bをはじめとする被告人5名により殺害されたものであり,被告人らの身勝手な考えから,妻と2人の子供を残し,36歳という若さで命を奪われたものであって,その無念さは察するに余りある。そして,被害者は,周到に立てられた殺害計画があるなどとは予想もできずに,金を返してもらうつもりで被告人らが待つ車内へと入ったところ,突然押さえ付けられてロープで頸部を絞め付けられ,もがき苦しみながら命を落としたものであり,被害者の死に至るまでの肉体的,精神的な苦痛,衝撃や恐怖感は甚大であって,被害結果は重大である。加えて,一家の大黒柱である被害者を失い,女手一つで2人の息子を育てることになった被害者の妻や,父親を失った2人の息子が受けた悲しみは計り知れず,妻が被告人5名全員に対して極刑を望むなど,処罰感情が峻烈であるのは当然のことといえる。これに対し,被告人らからは何らの慰謝の措置も講じられていないし,将来,慰謝の措置が講じられる見込みもない。

また,被告人5名は,被害者を殺害することによって,被告人A及び被告人Bが被害者に対して負っていた200万円の債務の支払を免れた上,被害者から現金約30万円を奪っているのであって,財産的被害も重大である。

加えて,被告人5名の暴力団構成員によって,わずか1か月足らずの間に2人の尊い命が奪われたばかりでなく,いずれも重りを付けられて海中に投棄され,犯行が発覚することなく1年以上が経過し,白骨化した状態で遺体が発見されたという一連の犯行の凶悪性,残忍性が社会に与えた衝撃も大きい。

第3被告人A及び被告人Bに共通する情状

被告人A及び被告人Bは,ポーカーゲーム店の開店資金や遊興費等に充てるため,夫の死亡により多額の生命保険金を手にしていた被告人Eの実母である被害者から多額の現金をだまし取ることを企て,被告人Eを言葉巧みに仲間に誘い込み,1年余りの間に,数回にわたって被害者から合計2400万円余りの多額の現金をだまし取ったものであるが,その動機は身勝手なものであって,酌量の余地はない。

また,あらかじめ虚偽の内容が記載された借用書等を用意し,判示第3の1の犯行の際には,被告人Eを同伴するなど息子を思う母の気持ちを利用して多額の現金をだまし取ったのであって,巧妙で悪質な犯行である。

被害者は,本件により合計2400万円余りの多額の現金をだまし取られて老後の蓄えを失った上,親戚などからの借入れをして,現在では年金で細々と生活することを余儀なくされているものであり,被害結果は重大であるが,被告人A及び被告人Bからの被害弁償は一切なく,被害者の処罰感情が強いのも当然である。

第4被告人5名の個別の情状

1  被告人Aについて

(1) 被告人Aは,平成9年ころから暴力団に所属し,その後は,正業に就くこともなく,債権の取立てで得た金員や複数の交際相手の女性から援助を受けて遊興の日々を送り,平成11年から平成12年には,判示第3のとおり,被告人Eの実母から多額の現金をだまし取ってその金で遊び暮らすなど,次第に規範意識を低下させていったものである。そして,平成13年に入ると,わずか1か月足らずの間に,立て続けに判示第1及び第2の各犯行に及んでいるのであるが,その根底には,暴力団組織の幹部として,配下の組員を意のままに使い,その意に沿わない者に対しては,手段を選ばず,徹底的に排除するという暴力団に特有の法規範を無視した態度が身に染みついているといわざるを得ず,被告人Aの反社会性,犯罪性は強固というべきである。

(2) 被告人Aについて,特に強調すべきは,判示第1及び第2の犯行において,当時所属していた暴力団組織の最上位の幹部として,他の被告人らに強い影響力を及ぼす立場にあり,最も重要な役割を果たした点である。

すなわち,判示第1の犯行においては,被告人Aが,被害者を捜し出すように指示を出し,被害者が見つかると,他の被告人を集めて暴行を加えるきっかけを作った上,被害者に対して鉄製のくずかごを投げ付けたり,車のバッテリーを頭部付近に落とすなどの強烈な暴行を率先して加え,他の被告人らに指示して容赦なく暴行を加えさせ,その間,被害者の謝罪や命乞いに耳を貸すことなく暴行を継続したものである。そして,被害者が動かなくなると,直ちに被告人Cら3名に指示して,被害者に重りを付けて海中に投棄させ,一方,自身はアリバイを作るなどと言って,被告人Bと共に帰宅しているのであり,被告人Aが果たした役割は極めて重大である。

次に,判示第2の犯行についてみると,被告人Aは,被告人Bと共に使い込んだ金銭の支払に窮すると,安易に被害者を殺害することを決意して被告人Bにその旨持ち掛け,さらに,自らの債務とは全く無関係の被告人Cら3名の被告人を犯行に引き込み,その後の謀議においても自ら主導して詳細な計画を立てた上,殺害後は,被告人Bと共に被害者の車両を探して現金を奪っており,判示第2の犯行においても,被告人Aが果たした役割は極めて重大である。

以上のとおり,被告人Aは,判示第1及び第2の犯行を終始主導し,また,被告人Aが他の被告人を犯行に巻き込んだもので,被告人Aの存在なくして判示第1及び第2の犯行がなされることはなかったものといえ,被告人Aの責任は被告人5名のうちで最も重いことは明らかである。

この点について,被告人Aの弁護人は,判示第1及び第2の犯行は,その所属していた組織の行為としてなされたのではなく,組織内において特に関係の深かった者同士によるものであり,組織上の地位がそのまま上位者から下位者への指示となり犯行に至った事案とは異なるなどと主張するが,これまで述べたとおり,被告人5名の中で,暴力団組織内で最上位にある被告人Aが,その組織上の地位を利用して上記各犯行を遂行したことは明らかであり,上記弁護人の主張は理由がない。

(3) また,判示第3の犯行においては,被告人Bの誘いを受けて,被告人Eを仲間に引き込むこととし,被告人Aが,被告人Eを説得し,被害者をだます方法を考え,判示第3の1,2の犯行においては,被害者宅へ赴いて実行行為を行うなどした上,本件によって得た現金の半分を受け取り,遊興費などとして費消しているのであって,判示第3の犯行において被告人Aの果たした役割も大きい。加えて,被告人Aは,判示第2の犯行後も暴力団に所属し続け,被告人Bと共に,被害者の知人や関係者に対して自分たちも被害者を捜しているなどと言って自らの犯行を隠蔽しようとしたり,結局は支払を拒まれたものの,本件の発端となったKへの出資の見返りとして毎月被害者が受け取る予定の金銭について,今後は,被告人Aらに支払うように要求するなどしており,犯行後の情状も悪い。

(4) 加えて,被告人Aは,判示第1の殺人,判示第2の強盗殺人,死体遺棄の犯行につき,首謀者で主導者であることは明らかであるのに,被告人Bに責任を転嫁して自己の責任を軽減しようとする態度が顕著である上,判示第1の犯行については,確定的な殺意はなかった,判示第2の犯行については,債務を免れようとか金品を強奪しようとしたことはないなどと犯行の重要な部分を否認し,自己の責任を免れようとする供述に終始しており,真摯な反省の情は見られない。

(5) そうすると,被告人Aが,各被害者の冥福を毎日祈るなどしていること,その生涯をかけて罪を償う意向を示していること,判示第3の犯行の被害者に謝罪していること,暴力団組織とは二度と関わりをもたない旨誓約していること,交通事犯による罰金前科しかなく,交際相手の女性が,被告人Aの社会復帰を願い,今後も被告人Aの支えになりたいと述べていることなど被告人Aにとって酌むべき事情を十分斟酌しても,被告人Aの刑責は余りにも重いといわざるを得ない。

(6) 死刑の選択は慎重に検討しなければならないが,以上のような諸事情を総合し,犯行の罪質,動機,態様(ことに殺害の手段方法の執よう性・残虐性),結果の重大性(ことに殺害された被害者の数),遺族の被害感情,社会的影響,犯人の年齢,前科,犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき,その罪質が誠に重大であって,罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも,被告人Aについては極刑を科すのはやむを得ない。

2  被告人Bについて

(1) 被告人Bは,平成10年ころから暴力団組織の構成員となり,その後は,正業に就くこともなく,不当な債権の取立てで得た金員等で遊興の日々を送り,平成11年ころ,被告人Aと行動を共にするようになってからは,判示第3の詐欺の犯行で得た多額の現金で遊び暮らすようになるなど,次第に規範意識を低下させ,ついには判示第1及び第2の犯行に及び,その後も暴力団組織に身を置き続けて,判示第4の犯行に及んでいるのであり,被告人Bの反社会性,犯罪性も相当強固というべきである。

(2) 被告人Bは,判示第1の犯行については,被害者の言動等に憤激し,被告人Aと相前後して殺意を生じ,その直後に,被害者の脚部を車で轢いて被害者に対する暴行を激化させるきっかけを作った上,被告人Eに指示を出し,再度被害者を車で轢かせているのであって,判示第1の犯行において,被告人Bが果たした役割は,被告人Aと同様に極めて重大である。加えて,被害者が被告人Bの小中学校の同級生で,父子家庭の被告人Bが被害者の母に世話になり,また,被告人Bにおいて被害者が暴力団に加入するきっかけを作るなどしたのであるが,そのような関係にある被害者が助けを求めたにもかかわらず,被害者を殺害するに至ったものであって,犯情は悪い。

なお,被告人Bの弁護人は,判示第1の犯行について,被告人Bは,aで被害者を轢く行為と被告人Eにbで轢くように指示した以外はめぼしい行為は行っておらず,それらも,被告人Aから被害者殺害の指示があったと考えた後のものであり,被告人Bは,必ずしも主犯格とはいえないと主張する。しかし,前記認定のとおり,被告人Bが殺意を抱くに至った経緯や被告人Bが暴行を激化させるきっかけを作ったことなどからすると,判示第1の犯行における被告人Bの責任は,被告人Aと異なるところはない。

(3) 次に,判示第2の犯行について見ると,被告人Bは,被告人Aと共に被害者に渡すべき金銭を費消して犯行のきっかけを作っているほか,被告人Aから殺害を持ち掛けられるやそれほど逡巡することなく,自己や所属する暴力団組織を守るために被害者を殺害して債務を免れようなどと考えて殺害を決意し,被告人5名で犯行の計画を立案している際には,終始被告人Aを後押しする言動をしていたものであり,被告人Bの賛同なしに本件を敢行することは困難であったといえる。また,被告人Aと共に,被害者の車両から現金を奪っていることなどに照らすと,本件において被告人Bが果たした役割は大きく,被告人Aに次ぐものであることは明らかである。

(4) さらに,判示第3の犯行について見ると,被告人Bは,被告人E及びその実母はだましやすい人物であるなどと言って,被告人Aに被告人Eを紹介した上,実行行為の一部も行い,だまし取った現金を被告人Aと折半しているのであって,本件における被告人Bの責任は被告人Aと異なるところはなく,また,第4の犯行については,被告人Bは,同じ暴力団組織の者から依頼され,偽ブランドバッグ等6点を入手して同人に譲渡したものであり,被害会社のブランドイメージを著しく損なう悪質なものである。

以上によれば,被告人Bの刑責は極めて重大である。

(5) そうすると,判示第2の犯行においては,終始被告人Aの提案を受け入れて従ったという面もあり,主犯格とまではいえないこと,いずれの犯行についても事実を素直に認めて深く反省し,各被害者の冥福を祈っていること,暴力団組織から離脱し二度と関わりを持たない旨誓約していること,前科がなく,幼い2人の娘がいること,被告人Bの妻及び実母が当公判廷において被告人Bの社会復帰を待つ旨述べていることなど被告人Bにとって酌むべき事情を最大限有利に考慮しても,被告人Bの刑責には極刑に近いものがあると考えられ,その生涯をかけて償うべきほどの重さがあることは明らかである。よって,被告人Bを無期懲役に処するのが相当である。

3  被告人Cについて

(1) 被告人Cは,判示第1の犯行においては,被告人Aの呼出しを受けて,同人らと共に第1の現場に赴き,鉄棒を使用するなどして積極的に暴行を加え,第2の現場において,被告人A及び被告人Bが被害者を殺害する意思があると分かると,さしたる抵抗もなく自らも被害者を殺害することを決意して更に暴行を加えたものである。そして,被害者が動かなくなると,海中に投棄することを提案したり,被害者を車に乗せて運搬中,被告人D及び被告人Eの2人に指示を出して,重りとして使用するコンクリートブロックを拾って車に積み込むなどし,さらに,被害者が意識を取り戻すと,被告人Dと共に更なる暴行を加えているのであって,判示第1の犯行において被告人Cが果たした役割はやはり重要である。

(2) また,判示第2の犯行については,被告人Aから被害者を殺害することを持ち掛けられると,被告人Aらが被害者に債務を負っていることを十分理解した上で,所属する暴力団組織を守るために被害者を殺害することを決意し,それと同時に,遊興費ほしさに被害者から所持金を奪うという提案にものって判示第2の犯行に及んでいるのであって,動機に酌量の余地はない。そして,被害者を殺害する前日には,死体を投棄する海の港を下見したり,殺害の際には,被害者を押さえ付けたり首を絞めるなどの実行行為を行い,死体遺棄行為も行っているのであって,判示第2の犯行においても重要な役割を果たしたといえる。

(3) 加えて,被告人Cは,判示第1及び第2の犯行後も暴力団組織に身を置き,前記確定裁判となった詐欺罪等で執行猶予付き懲役刑の判決を受けるなど,その反社会性,犯罪性も相当強固である。

以上によれば,被告人Cの刑責もまた極めて重い。

(4) そうすると,被告人Cは,いずれの犯行においても被告人A及び被告人Bの指示に従って犯行を行ったものであり,判示第2の犯行においては,組織内における被告人Cの立場上,被告人Aらの指示を断れなかったという面も否定できないこと(なお,この事情は斟酌すべき事情であると考えられるが,被告人Cは,自らそのような上下関係を重んじる暴力団組織に身を置いたものであるから,特に大きな考慮要素と認められない。この点は被告人D及び被告人Eについても同様である。),判示第2の犯行については,被告人C自身が債務を負っていたわけではないこと,逮捕直後から事実を素直に認めて真摯に反省し,特に,前記のとおり,被告人Aに恩義があるにもかかわらず,被告人Aに不利益なこともつつみ隠さず述べていること,毎日各被害者の冥福を祈っていること,暴力団組織から離脱して二度と関わりを持たない旨誓約していること,本件各犯行前までは罰金前科しかなく,生まれたばかりの娘がいること,妻が被告人Cの社会復帰を待つ旨述べていることなどの事情が認められ,これらの事情を最大限斟酌し,なお,被告人Bの刑を考慮しても,被告人Cの刑が有期懲役刑にとどまるべきであるとの事情は見当たらず,被告人Cに対しても無期懲役に処することはやむを得ない。

4  被告人Dについて

(1) 被告人Dは,判示第1の犯行においては,被告人Aの呼出しを受けて,他の被告人らに合流し,持参した特殊警棒などを使用して被害者の全身を殴打するなどし,被告人A及び被告人Bが被害者を殺害する意図であると分かると,さしたる抵抗もなく自身も被害者を殺害することを決意して更に暴行を加えたものである。そして,被害者を海中に投棄するために運搬する途中,被害者が意識を取り戻すと,更なる暴行を加えた上,海中に投棄しているのであって,判示第1の犯行において被告人Dが果たした役割は重要である。

(2) また,判示第2の犯行については,被告人Aから被害者を殺害することを持ち掛けられると,被告人Aらが被害者に債務を負っていることを理解した上で,所属する暴力団組織を守るために被害者を殺害することを決意し,それと同時に,遊興費欲しさで被害者から所持金を奪うという提案に応じて判示第2の犯行に及んでいるものであり,動機に酌量の余地はない。そして,殺害の際には,被害者を押さえ付けたり首を絞めるなどの実行行為を行い,死体遺棄行為も行っているのであって,判示第2の犯行においても重要な役割を果たしたといえる。

(3) さらに,被告人Dは,判示第1及び第2の犯行後も暴力団組織に身を置き,前記確定裁判となった傷害罪等で実刑判決を受けるなど,その反社会性,犯罪性も強固になりつつあったといえる。

加えて,被告人Dは,当公判廷において,判示第1については確定的な殺意がなかった,判示第2については,債務を免れようとか金品を強奪しようという気持ちはなかったなどと重要な部分を否認する供述をし,不合理な弁解をしていることに照らせば,真摯に反省しているか疑問である。

以上によれば,被告人Dの刑責もまた極めて重い。

(4) そうすると,被告人Dは,いずれの犯行においても被告人A及び被告人Bの指示に従って犯行を行ったものであり,判示第2の犯行においては,組織内における被告人Dの立場上,被告人Aらの指示を断れなかったという面も否定できないこと,判示第2の犯行については,被告人D自身が債務を負っていたわけではないこと,断られているが,交際相手に金策を依頼していること,捜査段階では事実を素直に認めていたこと,毎日各被害者の冥福を祈っていること,暴力団組織から離脱して二度と関係を持たない旨誓約していること,判示第1及び第2の犯行当時は20歳と若年であり,本件各犯行以前には前科がないこと,本件各犯行後に犯した傷害罪等により懲役1年6月の実刑判決を受け,すでに服役を終えたこと,実父が被告人Dの社会復帰を待つ旨述べていることなど被告人Dにとって酌むべき事情も認められ,これらの事情を最大限斟酌し,なお,被告人B及び被告人Cの刑を考慮しても,被告人Dの刑が有期懲役刑にとどまるべきであるというまでの事情は見い出すことができず,被告人Dに対しても無期懲役に処することはやむを得ない。

5  被告人Eについて

(1) 被告人Eは,判示第1の犯行においては,被害者が,2人だけで会いたい,だれにも言わないでほしいと言ったのに,被告人Aらに伝えて犯行のきっかけを作り,他の被告人の指示によるものとはいえ,被害者を車で轢くという強烈な暴行を加え,同人の体に重りをくくり付けて海中に投棄するという重要な実行行為を行っている。そして,判示第2の犯行においては,現金欲しさなどから犯行に加わることを承諾し,被害者を車内に誘い込んでシートに押さえ付けるという重要な行為を分担し,死体遺棄行為にも加担するなど,判示第1及び第2の犯行において,被告人Eが果たした役割は大きい。

(2) 加えて,判示第1及び第2の犯行後も,暴力団組織に身を置き,組員から受け取った無効なクレジットカードを使用してタイヤをだまし取る判示第5の犯行に及ぶなどしており,その反社会性,犯罪性を身に付けつつあるものと認められる。

以上によれば,被告人Eの刑責も極めて重い。

(3) そうすると,被告人Eは,いずれの犯行においても被告人A及び被告人Bの指示に従って犯行を行ったものであり,判示第2の犯行においては,組織内における被告人Eの立場上,被告人C,被告人Dらに比べて最も被告人Aらの指示を断れない立場にあったという面は否定できないこと,判示第1の犯行においては,自ら積極的に暴行を加えた様子はうかがわれず,他の被告人の指示に従って暴行を加えていたと認められること,判示第2の犯行については,被告人E自身が債務を負っていたわけではないこと,捜査段階では素直に犯行を認めていたこと,毎日各被害者の冥福を祈っていること,暴力団組織から離脱し二度と関わりをもたない旨誓約していること,前科がなく,実母及び実兄が被告人Eの社会復帰を待つ旨述べていることなど被告人Eにとって酌むべき事情も認められ,これらの事情を最大限斟酌し,なお,被告人B,被告人C及び被告人Dの刑を考慮しても,被告人Eを有期懲役刑に処するのを相当とするというまでの事情はなく,被告人Eに対しても無期懲役に処することはやむを得ない。

よって,主文のとおり判決する。

(求刑 被告人Aにつき死刑,被告人B,被告人C,被告人D,被告人Eにつきいずれも無期懲役)

(裁判長裁判官 本間榮一 裁判官 齊藤啓昭)

裁判官大塚さや子はてん補のため署名押印できない。裁判長裁判官 本間榮一

(別紙一覧表1,2 省略)

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