仙台地方裁判所 平成14年(行ウ)15号 判決 2003年2月17日
原告
甲野太郎
訴訟代理人弁護士
佐川房子
同
藤田紀子
同
高橋輝雄
同
山田忠行
同
小野寺信一
同
増田隆男
同
松澤陽明
同
齋藤拓生
同
十河弘
同
松下明夫
被告
多賀城市教育委員会
代表者委員長
星永俊
訴訟代理人弁護士
斉藤睦男
同
阿部弘樹
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1) 被告が原告に対し平成14年4月2日付けでした「宮城県公立学校教員長期特別研修に関する要綱」に基づく長期特別研修命令を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 請求の趣旨に対する答弁
(1) 本案前の答弁
ア 本件訴えを却下する。
イ 主文第2項と同旨
(2) 本案の答弁
主文と同旨
第2 事案の概要
本件は,平成14年4月に,被告から長期特別研修命令を受けた原告が,被告に対し,同命令は違法である旨主張して,同命令の取消を求めた事案である。
1 争いのない事実等(当事者間に争いのない事実並びに各項末尾の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1) 原告は,昭和56年○○大学▲▲部を卒業し,昭和58年4月宮城県宮城郡七ヶ浜町立○○小学校教諭,昭和63年4月同△△小学校教諭,平成10年4月同××中学校教諭,平成12年4月宮城県多賀城市立□□小学校教諭にそれぞれ補された,県費負担教員である(乙3)。
(2) 平成12年4月1日,宮城県において,「宮城県公立学校教員長期特別研修に関する要綱」(以下「本件要綱」という。なお,平成14年3月に一部改正。)が施行された。本件要綱には,県費負担教員の長期特別研修について,おおむね以下のような規定がある(甲2,3)。
ア 目的
本件要綱は,公立学校の教員が,教育指導力等について特に学校現場を離れて再研修を要すると認められる場合に,学校以外の教育機関等における指導の下に課題研修の達成や各種調査研究活動に携わることにより,その教員の職務に対する主体的意欲と児童生徒に対する指導力の伸長を促し,教育現場が抱える課題に適切に対応できる力量を高めることによって,本県学校教育の向上,充実に資することを目的とする。
イ 事前協議
教育指導力について特に再研修を要すると認められる者については,市町村等教育委員会教育長(以下「市町村教育長」という。)から宮城県教育委員会教育長(以下「県教育長」という。)に対し事前協議を行う。その際,その教員の所属する学校の校長の意見を付する。
ウ 検討会議
上記事前協議があった場合は,教育次長及び関係課長等で構成する検討会議でその適否等を検討し,その結果を県教育長に報告しなければならない。
エ 事前協議に対する回答
県教育長は,検討会議を経た後,長期特別研修を必要と認める場合は,その教員を長期特別研修教員と認める旨の回答を市町村教育長に対して行う。
オ 研修を受ける旨の命令
市町村教育長は,上記回答及び長期特別研修プログラムの通知を受けて,長期特別研修教員に対して研修を受ける旨の命令を行う。
カ 長期特別研修プログラムにおいては,長期特別研修教員に応じて,長期特別研修の主たる実施場所として以下のいずれかを指定する。
(ア) 宮城県Kセンター
(イ) 宮城県特殊教育センター
(ウ) その他の宮城県教育委員会所管の教育機関(図書館,青年の家,野外活動施設等)
キ 長期特別研修の期間
長期特別研修の期間は原則として2年とし,4月から3月までとする。この期間は延長することができる。
(3) 被告は,原告に対し,平成12年4月3日,本件要綱に従い,研修期間を同年4月から平成14年3月まで,実施機関を宮城県桃生郡鳴瀬町野蒜字洲崎所在の宮城県Yセンター(以下「Yセンター」という。)として,研修を命じる旨の命令を発した(以下「前件命令」という。)。
(4) Yセンターは,野外活動の普及振興,青少年の健全な育成,一般県民の健全な心身の調和等を図るための事業を行うことを目的として設置された野外活動施設であり,幼稚園児から高齢者まで幅広い年齢層の利用者を対象として,キャンプ,アウトドアスポーツ,自然観察等の野外活動に関する事業を実施している(甲16)。
(5) 原告のYセンターでの研修内容は,同センターの特色を活かした実践研修と,課題を設定して報告書を提出するテーマ研修とに分かれ,実践研修では,研修を支援する立場にある社会教育主事とともに,利用者対応補助,主催事業における補助的業務,野外活動体験,環境整備作業等を行い,テーマ研修では,平成12年度の前期及び後期,平成13年度の前期及び後期のそれぞれ4回,報告書を提出した(乙4,6。以下,この研修を「前件研修」という。)。
(6) 被告は,原告に対し,平成14年4月2日,本件要綱に従い,研修期間を同年4月から平成15年3月まで,実施機関を仙台市青葉区荒巻字青葉所在の宮城県Kセンター(以下「Kセンター」という。)として,研修を延長するべく,新たに研修を命じる旨の命令を発した(以下「本件命令」という。)。
(7) 原告は,宮城県人事委員会に対し,平成14年4月5日,本件命令について地方公務員法49条の2第1項に基づく不服申立てを行ったが,同年5月21日,同委員会は,同申立てを却下するとの裁決をした。
(8) 原告は,本件命令に基づき,同年4月から,テーマを設定してその課題の解決を図るテーマ研修のほか,教職研修,教科研修,教育相談研修,情報教育研修,社会体験研修,授業実践研修等の研修を行っている(以下,この研修を「本件研修」という。)。
2 争点及びこれに対する当事者の主張
(1) 争点1
本件命令の行政処分性,訴えの利益の有無
ア 被告の主張
本件命令に行政処分性はなく,また原告が本件命令の取消を求めるにつき,訴えの利益はない。
本件命令はあくまで職務命令にすぎず,原告の教員としての身分,所属,給与等に何らの影響も及ぼさず,本件命令により所属教育機関における教育活動に従事できなくなったとしても,それは本件命令に当然随伴する事態であり,本件命令から直接生じる法的効果ではない。
イ 原告の主張
本件命令は,原告の昇進及びそれに伴う給与に大きな影響を及ぼす上,仮に身分,所属,給与等に変更を生じさせないとしても,勤務場所と勤務内容を変更するもので,長期間にわたって原告から学校における教育活動に従事する機会を奪うものである。したがって,本件命令は,原告に大きな不利益を与えるものであるから,行政処分性,訴えの利益は肯定されるべきである。
(2) 争点2
本件命令の適法性
ア 原告の主張
長期特別研修命令は,本件要綱に定められた要件を満たした場合に初めて命じうる羈束裁量行為と解すべきである。本件命令は実質的に前件命令による研修期間を延長するものであるところ,前件研修の目的,必要性,内容等に鑑みれば,前件命令が本件要綱の要件を満たしていないことは明らかであるから,前件命令が違法である以上,それを前提とする本件命令も当然に違法である。また,本件命令自体も研修の必要性や内容等に鑑みて違法である。
仮に,長期特別研修命令が自由裁量行為であったとしても,前件命令及び本件命令は裁量権の逸脱ないしその濫用にあたり,違法である。
具体的な事情は以下のとおりである。
(ア) 前件命令について
a 研修の目的
原告は,仙台市民オンブズマン・タイアップグループの一員として市民活動に取り組み,裁判の原告として公金不正支出の責任追求を行ってきた。平成11年には,七ヶ浜町立■■中学校の教員の部活動手当水増し請求の点を指摘して,当時の宮城県教育庁の課長らを被告として住民訴訟を提起したことがあったが,その被告のうち2名が,後に前件命令に関する検討会議の委員となった。また,七ヶ浜町,七ヶ浜町教育委員会は,別の訴訟で被告とされるなどした。
以上によれば,前件命令がされたのは,原告の教育指導力不足の改善が目的ではなく,市民活動や裁判活動をしている原告を学校現場から排除するという報復目的であった。
b 研修の必要性
原告には,何ら適切な教育指導力を欠くと評価される事実は存在せず,むしろ,授業中,休み時間,放課後を問わず,子供たちと常にふれあって子供たちの気持ちを汲みとろうとしていたし,部活動で熱心に生徒を指導するとともに,研究活動にも熱心で,国語教育の研究で表彰を受けるなど,優れた教育指導力を有していたから,研修の必要性はなかった。
c 研修の内容
原告がYセンターで従事した研修の内容は,遊歩道の造成,倒木の運搬,雪かき,リヤカーの製作,建物の解体作業,草刈り,自転車の整備作業等の肉体作業や独習などであり,仮に原告に研修を受けるべき問題点があったとしても,その問題点の改善に効果のあるような研修内容ではなかった。
そもそも原告には研修を受けるにあたって,研修を受けるべき理由が明示されなかったから,原告自身が自らの足りない点を自覚してそれを克服すべく研修に従事するということが不可能な状態であった。
d 適正手続
検討会議の人選,弁明の機会の不存在,研修を課せられた具体的理由の不開示,情報収集先の偏り,検討会議における検討不十分など,前件命令を発するに際し,手続の適正が保たれていなかった。
(イ) 本件命令について
a 研修の目的
前件命令と同様,原告を学校現場から排除し,原告に報復することを目的としたものであった。
b 延長の必要性
そもそも前件研修の内容は,問題点の改善に効果のあるようなものではなかったのであるから,長期特別研修の延長の当否を判断するに当たって,問題点の改善があったか否かを判断すること自体が不可能であった。
また,Yセンターの所長や社会教育主事は,原告に対し一方的な悪感情を抱いており,それらの人物の評価は正当な評価とは言い難く,延長の必要性はなかった。
c 研修の内容
本件研修の内容は,一般の教職員向けの教科研修やパソコン研修を,原告が同席して受けるのが中心であり,原告の欠点を補う内容とはなっていない。外部施設の見学や研修もまた同様である。
d 適正手続
弁明の機会の不存在,研修を課せられた具体的理由の不開示,不適切な前件研修を評価の基礎としていることなど,本件命令を発するに際し,手続の適正が保たれていなかった。
イ 被告の主張
本件命令が行政処分であるとしても,被告は,服務監督権者として,所属する教職員に対してその職責を遂行させるのに必要な場合は,相当の期間,学校外で研修を命じることができるところ,研修については,その必要性,内容,実施期間等を総合的に検討する必要があるから,研修を命じる職務命令は自由裁量行為と解すべきである。そして,長期特別研修の要否については,教員の人格識見を高め,資質,能力の向上を図るという同研修の目的に鑑みて,単に教育指導力を欠くか否かということにとどまらず,当該教員の日常の言動,職務に対する意欲,教育現場に与える影響等を考慮して,教員としての資質全般について研修を要すると認められるか否かで判断すべきである。
(ア) 前件命令について
a 原告には,積極的に生徒を受け入れ,生徒と関わるという教員として最も必要な姿勢が欠落しており,また,独善的,非協調的で,校内における教職員の協力関係を構築できず,学校の生徒に対する円滑で十分な教育の実施を阻害し,保護者や地域からも不信があることから前件研修を命じたものである。
b 上記認定は,七ヶ浜町教育委員会教育長から県教育長に対し事前協議がなされ,事前協議に基づく検討会議における検討の結果,研修の必要性が認められ,それに基づき,被告から原告に対し研修命令が発せられたのであり,本件要綱に定められた手続に則って適正に行われた。
c Yセンターは,施設利用者に対して「指導」ではなく「支援」を根本理念とし,さまざまな年齢層の児童生徒の,普段の学校生活では現われない側面に触れることができ,引率教員の指導をそばにいて観察することができる点で,原告の問題点を改善するのに適した研修の場であった。
d よって,前件命令は相当であり,裁量権の逸脱濫用はなかった。
(イ) 本件命令について
前件研修により,原告には,学習指導力,児童生徒へ向かう姿勢及び職場における人間関係については,一定程度の改善がみられたが,組織理解並びに勤務に対する意欲及び姿勢に関しては,それが,児童生徒の健全な発達に積極的に寄与しなければならない教員が本来有しているべき基本的事項であり,原告が教員として学校に復帰するに当たって最も改善されるべき点であったにもかかわらず,顕著な改善がなかったので,本件研修を命じた。
よって,本件命令は相当であり,裁量権の逸脱濫用はなかった。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件命令の行政処分性,訴えの利益の有無)について
前記争いのない事実等のとおり,本件要綱に基づく長期特別研修命令は,その教員の職務に対する主体的意欲と児童生徒に対する指導力の伸長を促すことを目的として研修を命じるものであるから,本件命令は職務命令としての性質を有するものである。もっとも,本件命令による研修期間が1年間という長期間であること,勤務場所が原告の所属機関である多賀城市立□□小学校からKセンターへと変更されること,勤務内容が学校における児童生徒への教育活動からそれ以外での研修活動へと変更されることに照らせば,本件命令は実質的には転任処分としての性格を有するというべきであるから,行政処分性を有するものである。また,上記のような勤務場所及び勤務内容の変動に照らせば,原告は本件命令の取消を求めるにつき訴えの利益を有するというべきである。
2 争点2(本件命令の適法性)について
(1) 前記争いのない事実等に,証拠(甲4,7,9ないし11,13,18,19,20の1及び2,23,乙2ないし14,15の1及び2,16の1ないし3,17ないし31,33の1ないし3,34ないし36,37の1ないし3,39,45,証人A,原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。
ア 前件命令に至った経緯
(ア) 平成12年3月21日,七ヶ浜町教育委員会教育長は,県教育長に対し,原告について長期特別研修が必要であるとして,校長の意見を添付した「宮城県公立学校教員長期特別研修に関する事前協議について(協議)」と題する書面(乙45)を送付し,事前協議を行った。
(イ) これを受けて,「長期特別研修教員に関する検討会議」が開かれ,平成12年3月23日,同会議は,下記の事情等を考慮した上,原告には,「学校が適切な事務分掌と教職員の円滑な協力連携により組織的に行われなければならないことを理解し,自己の意見の主張ばかりでなく,他人の意見を受け入れ,また積極的に対人関係を構築して業務運営の調整を図るなどの協調性」「生徒及び保護者が教員に求めるものを理解し,職務の遂行に必要な実践的指導力と教員としての自発的な使命感を持つことによって,本来有する熱意を学校教育に傾注すること」が求められるとして,長期特別研修が必要であると判断した(乙3)。
記
a 勤務状況
(a) 平成10年9月から平成11年8月まで
年休154時間,病気休暇10件35時間,特別休暇21件123時間,介護休暇3件24時間,職務専念義務の免除41時間
(b) 平成11年度(2月末日まで)
年休49件159時間,病気休暇6件176時間,特別休暇19件72時間
(c) 平成11年度の2月末日までに124件の授業等を欠課した。
(d) 出勤時間はときおり遅れることがあり,その都度,校長が注意している。
b 教育指導力についての状況
(a) 授業は表面的で深まりがない。休暇を取っても,ワークによる自習課題とすることが多く,事後の指導等の配慮がない。
(b) 学級経営は放任状態であり,生徒からは「また休みか,あんな先生はいない方がいいんだ」との声さえ出ている。
(c) 始業式後,教室で「本当は担任したくなかった」などと発言し,保護者から抗議があった。
c 校務分掌
(a) 校務分掌(安全点検,清掃計画を担当)でも主体性に欠け,特に清掃計画は計画案がずさんで,教務等がカバーする必要がある。
(b) 交通安全街頭指導について,事前に同僚に連絡せずに参加しなかった。
d 教職員との協調性
(a) 校長の指導に対しては,「文書で出すべきだ」「裁量権の濫用である」などと対応することがある。
(b) 意見の異なる者又は自分を非難するものには挑戦的であり,「名誉毀損で訴える」「裁判で決着をつける」などの言辞を用いる。
(c) 自分勝手で独善的であり,補欠授業,校務分掌等での他の教職員の協力を当然のように振る舞うため,教職員の間には不満,不信が強い。
(d) 学校評価を年休ですべて欠席し,職員会議も12回中8回欠席したほか,他の学校行事,学年行事,専門委員会にも欠席が多く,前後に自らその様子を尋ねることもない。
e 保護者との関係
保護者や地元関係者からは授業や家庭訪問等についての苦言が多く,「あんな先生と知ってなぜ担任にするのか」「3年生の担任だけは絶対にさせられない」などの声が,校長やPTA会長に寄せられている。
f 学校での対応状況
平成11年度は,問題ある言動の都度校長が時間をかけて対話しているが,教育指導の深化や他教職員との協調性については結局改まらない。
g 学校の意見
子どものそばで成長を支援するという意識が欠如しており,保護者や町議会からも排斥の声が強く,これ以上学校に置くことは正常な学校運営を阻害する。
組織的,意図的な自己改善に向けた特別の研修を受講させることが適当である。
(ウ) 被告は,原告に対し,平成12年4月3日,本件要綱に従い,研修期間を同年4月から平成14年3月まで,実施機関をYセンターとして,研修を命じる旨の命令(前件命令)を発した。
イ 前件研修の具体的実施状況等
(ア) 前件研修の状況
a Yセンターでの平成12年度の実践研修としては,施設利用者の多い4月から10月までは,オリエンテーションの実践及び補助,マレットゴルフ,釣り,貝殻細工などの実践及び指導,自転車の貸出,野外炊飯等の準備や後片づけ等の利用者対応補助,施設設備の管理補助,野外活動補助等の業務を行い,施設利用者が少なくなる11月から3月までは,翌年の準備のための整備計画に基づく,遊具の点検及び補修,遊歩道の補修,倒木運搬等の環境整備作業を行った(環境整備作業は,おおむね午前中の2時間程度行われた。)。また,1年を通じて,年に数回行われる同センター主催事業(野外活動フェスティバル等)の補助的業務等を行った。
平成13年度の実践研修も基本的には前年度と同様であるが,平成13年度は「一歩進んだ形の実践研修」ということで,補助的業務から支援者,指導者としての活動に重点を置くこととされた。しかしながら,原告自身の積極的意欲が乏しいため,結局は補助的業務を超えた活動はあまりできず,また環境整備作業については,後期テーマの設定,授業実践準備,実践授業のまとめなどの理由で業務免除を申し出ることが多く,あいた時間はすべてテーマ研修にあてていた。
Yセンターには,社会教育主事(多くは教員資格を有する)が配置され,日常的に上記のような作業を行っているが,原告の研修についても,4名の社会教育主事が役割を分担して研修支援に当たっており,原告は環境整備作業等の上記業務を社会教育主事とともに行った。
b 平成13年11月26日から5日間,多賀城市立□□小学校において授業実践研修が行われ,原告は,4年生の国語の授業として接続詞,接続助詞の使用法に関する授業を行った。
c テーマ研修には,平成12年度も平成13年度も,年間を通して毎日おおむね6ないし7時間が割り当てられ,原告は以下のテーマを自ら選択して,調査研究を行い,報告書を提出した。
(a) 平成12年度前期
社会教育施設勤務の実際とその実践(コミュニケーション・組織<人間関係>について)
(b) 平成12年度後期
主催事業における補助的業務と環境整備作業について
(c) 平成13年度前期
校外(野外)活動における目的と安全確保及び校外活動における生徒指導の実際(利用者対応における補助的業務を通して)
(d) 平成13年度後期
新教育課程の推進のあり方について(授業実践研修を通して)
d 平成13年5月ころ,原告が,社会教育主事で研修支援班長であるAとテーマ研修について協議した際,同人は,原告に対し,テーマの設定及び設定理由等について助言を与えたが,原告はこれらをほとんど聞き入れず,従前とほとんど同一内容の計画書を提出した。
e 原告は年休等の休暇が多く,しかも突発的な休暇の取得が多いため,研修支援班長が,原告の担当業務の割当てに苦慮することもあった。
f 原告は,同年6月6,7日に開催された「生徒指導研修初級」及び同年8月23,24日に開催された「総合的な学習研修講座」を自ら希望して受講したが,それぞれ休暇を取ったために,結局,一部分しか受講しなかった。
g Yセンター主催事業は,同センターの取組みを県民一般に知らせるための中心となる企画であり,所員全員が一丸となって取り組む行事であるのに,原告は,平成13年8月5日から同月11日まで行われた主催事業「ゆう遊塾奥松島」ではそのうち3日間を休暇で休み(前日も休み),平成14年1月26,27日に行われた主催事業「親子でチャレンジⅡ」では前日から休暇ですべて休んだ。
h 前件研修において,原告が実際に行った研修内容別の総時間は,平成12年度は,テーマ研修が995時間,環境整備作業が178時間,野外活動等の補助が102時間などとなっており,平成13年度は,テーマ研修が1434時間,環境整備作業が15時間などとなっている
なお,週休日以外の年休等による原告の休暇の時間数は,平成12年度が553時間,平成13年度が290時間であった。
(イ) 「CATCH」の放映について
平成13年5月19日,宮城県の長期特別研修制度が仙台放送の報道番組「CATCH」において取り上げられ,放映された。同番組では,原告が実名で登場し,長期特別研修の問題点について意見を述べるとともに,Yセンターにおいて原告が環境整備作業に従事している様子が放映されているが,これを見た視聴者は,あたかも原告が毎日,もっぱら土木作業に従事しているかのような誤解をしかねず,現に視聴者から強制収容のように感じた旨の反応が寄せられた。番組の作成にあたって,Yセンターには取材の申込みがされておらず,作業の様子の映像は原告側から仙台放送に提供された。
「CATCH」の放映により,原告とともに環境整備作業に従事していた社会教育主事をはじめ,Yセンターの所員の間には原告に対する失望と憤りが広がった。
ウ 前件研修の評価
(ア) Yセンター所長が原告の研修成果を報告した長期特別研修報告書(乙9,12,22)には,以下のような記載がある。
a 平成12年度後期の報告書(乙9)
(a) テーマ研修について
「主催事業における補助的業務と環境整備について」をテーマとしたが,テーマに沿ってどう掘り下げていくのか具体的な方向性が見えない。主催事業の背景や趣旨,運営の実際と評価,事業に絡んでくる環境整備はどうあるべきかという観点が抜け落ちたものとなっている。
(b) 実践研修について
自分にとって興味,関心のある業務については前向きで協力的であるが,そうでない業務については取り組む姿勢が消極的で作業量も半分以下に落ち込むケースも見られた。
常に利用者サービスの観点で物を見,行動するというレベルにはほど遠いものがある。
(c) 勤務について特記すべき事項
時間年休がセンター職員に比し際だっている。
(d) 総評
所員との接遇面では,立場をわきまえた控えめな態度で,トラブルもなく,和やかな対応ぶりであり,日々の実践研修活動にも不満を述べることなく淡々と取り組んで,一応研修員としての任務を果たしており,研修の成果が看てとれる。
しかし,テーマ研修については時間的ゆとりがありながら皮相的,便宜的取組みに終始し,深みのあるものとはならなかった。
b 平成13年度前期の報告書(乙12)
(a) テーマ研修について
十分な研修時間(1日6時間前後)とは裏腹に理論的な裏付けもなく極めて具体性の乏しい内容となっている。
(b) 実践研修について
屋外での作業中,姿が見えなくなったり,作業が長続きしないことが多く,旺盛な責任感の下で積極的に取り組んでいる状況とは言い難い。
児童生徒に接する態度は,貝殻細工等の製作活動を通して見ると大変機械的である。子どもたちと同じ輪の中に入って物を作り,共に学び,喜び,楽しむということが嫌いなのではないかと受け取っている。
(c) 勤務について特記すべき事項
年休の取得が細切れ的で件数,時間とも他職員に比して極めて多い。
(d) 総評
なぜ自分が研修を命じられたか分からないと常々口にしており,研修自体に前向きに取り組んでいない。今年度は現場復帰へ向けて研修プログラムが作成されているが,復帰に向けての本人の意欲が感じられない。
c 平成13年度後期の報告書(乙22)
(a) テーマ研修について
主題については,後期という長いスパンでテーマを捉えておらず,場当たり的で大雑把かつ安易なものとなっている。自己の教員としての資質や指導力の向上のために行う研修という意欲が感じられず,研修の計画,内容等,主体的な取組みとは言い難い状況であった。
研修のまとめ方は,単なる感想にとどまり,問題点を分析し,その課題を今後どのように生かしていくかという研修の最も重要な部分が欠けたものとなった。アンケートの分析も,本人に都合よく解釈する傾向が強いものとなっている。
(b) 実践研修について
実践研修については業務免除を申し立てることが多く,主催事業中にも休暇を取るなど,所員をあげて取り組んでいる中,全く協力の姿勢が見えない状況にあった。
(c) 勤務について特記すべき事項
年休の取得が細切れ的で件数,時間とも他職員に比して極めて多い。また,自己の健康管理にかかわる「かぜ」による病休が多い。
(d) 総評
教師に最も必要な研修意欲が極めて希薄であり,責任を他に転嫁する傾向が大きい。研修自体に前向きに取り組めず,人間性,社会性を身につけ,協調性を学ぶという点で最適な当センターにおいても職員は疑心暗鬼とならざるを得ず,本人と前向きに接することができない状況にあった。
以上のことから,後期は現場復帰に向けて研修プログラムが実施されたものの,児童生徒に質の高い教育を提供するという教員の本来的使命への気付き,意欲等は確認できなかった。
(イ) 原告の所属校である□□小学校の校長乙山次郎作成にかかる平成13年10月26日付け「長期特別研修教員の所属校からの評価」(乙14)には,特記事項として,以下のような記載がある。
a 校長,教頭,職員への挨拶や態度はぞんざいで横柄である。
b 勤務に対して無理な要望や変更が多い(年休,職務専念義務の免除,病気休暇,自宅研修等)
c 法的なことや裁判にはとても強く,すぐれていることをアピールしている。常に獲物を狙っているような威圧的な態度と脅しの言葉を言うことがある。
(ウ) 原告の授業実践研修については,複数の評価者が原告の実施した授業を参観し,その内容につきAないしCの3段階評価により評価を行ったが,その結果,各評価項目のうち,「間違いを教えることはなかったか」「子どもの成長過程を踏まえた授業であったか。」「子どもからの質問や声に親身になって応じていたか。」「問題を抱える子どもの指導に配慮が見られたか。」については,多くの評価者がCと低い評価をした。
また,授業実践研修期間中の原告への評価を記載した,□□小学校長作成の「長期特別研修員の授業実践研修の評価」(乙17)及び「長期特別研修(授業実践研修)報告書」(乙18)には,研修意欲,学習指導力,生徒指導力,職場の人間関係,組織理解,勤務姿勢について,全般的に低い評価がされているほか,具体的に次のような記載等がされている。
a 授業時間にくい込んで電話をしており,教頭が注意しても直らない。
b 清掃時の指導等の際,傍観者的な姿勢で適切な生活指導はなかった。
c 授業の構成は稚拙で,児童に誤りを指摘されるなど,指導力が十分でない。
d 様々な指示が通らず,上司に対する言動が横柄で乱れている。
e 児童の実態把握のため子どもと遊ぶこともなく,学級に対する配慮が不十分で,自己中心的な行動が多く見られた。授業風景をビデオに撮るなど自己アピールする場面作りが目立ち,児童1人1人への指導が不十分であった。教頭や職員に耳を傾けることなく,使命感や人間性に大変乏しいのは残念である。
エ 本件命令に至った経緯
(ア) 平成14年3月19日,被告教育長丙野三郎は,県教育長に対し,原告について長期特別研修の延長が相当であるとして,校長の意見を添付した「宮城県公立学校教員特別研修の期間満了後の取扱いに関する事前協議について(協議)」と題する書面(乙5)を送付し,事前協議を行った。
(イ) 上記協議を受けて,検討会議が開かれ,同会議では,以下の事情等を考慮し,原告の長期特別研修を延長するのが相当であるとの結論に達した(乙6)。
記
a 研修の状況
(a) 平成12年度前期のテーマ研修の報告書では,実際にどのような環境整備作業を行ったのかという事実の羅列及び実施機関の施設を撮影した写真が主たる内容となっており,環境整備作業を通してコミュニケーション能力や組織の一員としての視点から自らを振り返って考察する観点が欠けている。
(b) 平成12年度後期のテーマ研修の報告書も,主催事業が実施されている背景や趣旨,事業運営の実際と評価という観点からのアプローチが欠けているなど,全般に平板な内容となっている。原告が自らテーマの設定の理由とした「豊かな教育観の育成に役立てる」という視点について,自らを振り返って考察する観点についても不足している。
(c) 平成13年度前期のテーマ研修の報告書も,活動内容の事実の列挙が主な構成で,研修の内容が自らの資質,能力の向上にどのように反映されるかという視点に欠けて,平板な内容になっている。
(d) 平成13年度後期のテーマ研修の報告書も,事実関係の列挙が主たる内容となっており,自らの授業実践について客観的に評価するという視点が欠けている。
(e) 実践研修においては,徐々に実施機関業務を理解し,対応方法等について慣れてきたことが認められるが,組織の一員としての協調性や利用者である児童生徒に対する接し方など,原告に求められる改善点の改善が十分ではない。
b 研修に取り組む姿勢や意欲
原告のテーマ研修報告書や実施機関からの報告書を見ると,様々な研修を通して自己の教員としての資質や能力を見つめ直すという視点が全般的に欠如している。また,研修を行うに当たり,教員としての使命感に基づく自発的で熱意のある取組みが感じられず,全般的に受動的な取組みに終始している。
c 研修の成果及び評価
学習指導力,児童生徒へ向かう姿勢及び指導力,職場における人間関係については,一定程度の改善がみられたが,原告にもっとも改善が期待された組織理解及び勤務に対する意欲及び姿勢に関しては,顕著な改善がみられなかった。
(ウ) 被告は,原告に対し,平成14年4月2日,本件要綱に従い,研修期間を同年4月から平成15年3月まで,実施機関をKセンターとして,研修を延長するべく,研修を命じる旨の命令(本件命令)を発した。
(エ) 原告は,宮城県教育委員会に対し,平成14年4月19日,長期特別研修を延長した理由の説明を求める上申書(甲9)を提出したところ,同年5月8日,宮城県教育庁教職員課長から,組織における円満な人間関係と協力関係の大切さの自覚及び児童生徒・保護者との信頼関係の構築意欲の不足が理由である旨の回答(甲10)が示された。
オ 本件研修の具体的実施状況
本件研修は,教員として必要な資質全般の向上を図る共通研修プログラムと,原告の特に伸ばしたい資質の向上を図る個人研修プログラムに分かれており,共通研修プログラムでは,教職研修,情報教育研修,教科研修,教育相談研修等が,個別研修プログラムでは,テーマ研修,授業実践研修,社会体験研修,施設体験研修等が,その内容となっている。
具体的には,教職研修として初任者研修の担当職員の補助,初任者研修の傍聴,情報教育研修としてパソコン研修,教科研修として小学校音楽科,小学校社会科の研修,ろう学校での研修,社会体験研修,施設体験研修として特別養護老人ホームでの社会奉仕体験,東北歴史博物館,多賀城跡調査研究所での研修,授業実践研修として仙台向山高校でのホームルーム見学,授業の実施等を行った。また,個人テーマ研修として,「学校組織の一員として教職員,保護者,児童生徒,地域住民との理想的な信頼関係の作り方」というテーマのレポートに取り組んでいる。
(2) 前件命令の適法性について
被告は,所属する教員の服務監督権者として,各教員の職務に対する主体的意欲と児童生徒に対する指導力の伸長を促すため,必要と認められる研修を命じる権限を付与されているところ,意欲や指導力の程度,問題性は個々の教員によって異なり,また,その問題点を改善するために研修を命じる必要性の有無や研修を実施する場合の期間,内容,実施機関の決定は,その教員の抱える問題性の内容及び程度のほか,資質,性格,自らの職務や問題点の克服に対する意欲,児童生徒や保護者,他の教職員との関係,教育現場に与える影響など,諸般の事情を総合的に考慮して検討すべき事項であるから,被告が教員に対して研修を命じる職務命令は,被告の裁量行為である。もっとも,前件命令や本件命令のように学校の現場を離れて長期にわたり研修を命じる場合には,その教員に対して与える不利益の程度も大きいから,研修の必要性がないことが明らかである場合や,研修の目的に照らしてその実施内容が著しく不相当である場合には,裁量権の逸脱ないし濫用に当たり違法になるというべきである。
ア 原告に対する研修の必要性(目的,ねらいの相当性)
(ア) 教育指導力について
教員は,学校での授業や課外活動,学級運営等を通じて児童生徒と日常的に接する職業であり,その日常的な接触が児童生徒の人間形成上も大きな影響力を有することから,単に授業における教科指導力にとどまらず,全人格的な力量が求められて,人間的な資質の向上が常に必要であるとともに,児童生徒から求められるものを正しく理解しながら,積極的,自主的に児童生徒に関わっていくことが基本的な姿勢として要求されているというべきである。また,教育指導を行うにあたっては,学校全体が一丸となって取り組むことも必要となる上,教員が,児童生徒に対して,協調性の重要性や他への思いやりの大切さなどを身をもって指導するためにも,教員自身が,組織の一員としての自覚と協調性をしっかり備えていることが肝要というべきである。
(イ) 原告に資質向上が求められる点
前記認定事実に,証拠(乙3,45)及び弁論の全趣旨を総合すると,平成10年度から平成11年度の原告の勤務状況には休暇が多く,特に平成11年度の2月末までに124件の授業等を欠課し,児童生徒の授業を受ける回数が大幅に減少したにもかかわらず,事後の指導等の配慮がなかったこと(休暇の取得自体は権利の行使であるが,その休暇が児童生徒や同僚等にどのような影響を及ぼすかについての配慮は当然にあってしかるべきところ,原告にはその配慮に欠ける面があった。),学級運営はほとんど放任状態ともいえる状態と評され,児童生徒や保護者からも不信の声があがっていたこと,自己主張への拘わりが強く,容易に自説を曲げない独善的な面や,自己の行動が周囲にどのような迷惑,影響を与えるかを考えない自己中心的な面があったこと,校長や教頭等の上司の意見に耳を貸さないばかりか,同僚らの意見も含めて,自己への否定的な意見には反発して,謙虚に自省する姿勢が欠けていたことなどが認められ,これらに照らすと,検討会議が,「原告には,組織を理解し,他人の意見を受け入れ,業務運営の調整を図るなどの協調性が求められ,さらに,生徒及び保護者が教員に求めるものを理解し,実践的指導力と自発的な使命感を持って教育にあたることが求められる」として,長期特別研修が必要としたのは,相当な判断であり,これを受けた県教育長や被告の判断も相当と認められる。もとより,原告の優れた点も多々あるものの,上記事実に鑑みれば,原告に対する長期特別研修の必要性はあったというべきである。
イ 具体的研修内容の相当性
(ア) 研修場所
前記認定にかかる,原告の上司,同僚に対する節度をわきまえない反抗的,挑戦的態度等に鑑みると,原告への研修として,学校内での指導効果は期待できず,いったん職場を離れ,自己を見つめ直す機会を与えたことは相当な判断であったといえる。
(イ) 実践研修
前記認定事実によれば,Yセンターは幅広い年齢層の人たちが利用して,児童生徒と接触する機会も多い施設で,そこに勤務する社会教育主事の多くは教員資格を有しており,原告がこのような施設で社会教育主事とともに利用者対応補助や環境整備作業を行い,1つの目標に向かって協力し合うことは,組織の一員としての自覚及び協調性を養う点で有意義であるとともに,引率教員の指導ぶりや,社会教育主事の利用者(児童生徒を含む)への接し方を観察しつつ,自らも利用者と接することは,原告が教育現場における児童生徒との関わりの持ち方を考察するにあたって効果的で,実践研修は相当な内容であったと認められる。なお,環境整備作業のように肉体労働を伴う作業も,社会が様々な作業を行う人によって支えられていることを改めて認識し,他への配慮の大切さを体得するとともに,社会教育主事と協働することによって,協調性を養うという点において,有意義な研修である。
(ウ) テーマ研修
前記認定事実によれば,研修期間中,半年毎に1つの課題を掘り下げて検討するテーマ研修に最も多くの時間が割り当てられており,原告が教育指導の在り方等を振り返り,今後の改善を図るための研修として適切な内容であったと認められる。
ウ 他事考慮(報復目的)の主張について
原告は,前件命令は,原告が七ヶ浜町立中学校の校長等に対して住民訴訟等を提起したことに対する報復目的である旨主張するところ,証拠(甲36ないし38,40,41)及び弁論の全趣旨によれば,たしかに原告は平成11年ころ,仙台教育事務所長や七ヶ浜町立中学校の校長等を被告として出張旅費や部活動手当の返還を求める住民訴訟を提起したこと,これに対して七ヶ浜町議会議員や七ヶ浜町教育委員会内部などで不快感を示す者がいたことが認められるが,これらの事実によっても原告主張の事実を推認するに足りず,その他に原告主張の事実を認めるに足りる証拠はない。前記のとおり,原告にはこれとは別に研修の必要性が認められる。
エ 手続保障(特に研修命令の理由の開示の点)について
前件命令が本件要綱の定める手続に則って発令されたことは前記認定のとおりであるが,証拠(甲7,乙3,原告本人)によれば,研修を命じる際に,原告に対して研修理由の詳細な説明をしなかったことが認められ,本人に研修目的を告知し,自覚を促した上で研修を行い,その研修効果を高めるという観点からは被告に配慮に欠ける面があったことも否めない。しかし,そもそも原告に研修が必要とされたのは,上司の意見に耳を貸さず,自己に対する否定的な見解には反発して,謙虚に自省する態度が欠如していたという点が見られたためであり,研修理由を詳細に説明した場合にはかえって過剰に反発し,実施機関との良好な関係が築きにくくなることも予想され,そのような事態が生じれば,かえって研修の効果を減ずるおそれも考えられることから,研修を命じる際に研修理由の詳細な説明がなかったからといって,手続的適正を欠くとまでいうことはできない。なお,証拠(甲20の1,乙39)によれば,研修開始後,間もなく,概括的ながらも研修の趣旨やねらいが原告に伝えられたことが認められる。
原告は,前件命令を発する前に本人に弁明の機会が与えられなかった旨主張するが,前件命令は行政処分性を有するとはいえ,その命令の性質や不利益の程度等に鑑みると,事前に本人への弁明の機会を与えなかったとしても,その当否はともかく,違法とまではいえない。
その他,前件命令について,その手続が不適正であったことを認めるに足りる証拠はない。
オ 小括
以上によれば,前件命令は相当であり,裁量権の逸脱,濫用は認められない。
(3) 本件命令自体の適法性について
ア 本件命令の必要性(目的,ねらいの相当性)
前記認定事実に,証拠(甲20の1及び2,乙7,8,10,23,36,証人A)及び弁論の全趣旨を総合すると,前件研修における原告の取組みや問題点の改善の状況について,研修実施機関のYセンターの所長や所属機関の□□小学校校長から,主体的,積極的な取組みがなく,研修意欲が希薄で,成果が上がっていない旨の極めて厳しく低い評価がされていること,具体的にも,原告は,Yセンター所員が一丸となって取り組むべき同センター主催事業の際に,年休等を取得して参加しないことが少なくなかったこと,平成13年11月以降は,授業の準備,報告書の作成等を理由にして,本来予定されていた環境整備作業の免除を申し出,ほとんどこれに従事しなかったこと,原告自ら受講を希望した研修講座の一部を年休等で休んだこと,年休や特別休暇による休暇が突発的で,研修支援班長が原告の担当業務の割当てに苦慮したこと,4回にわたって原告から提出されたテーマ研修の報告書の内容は,いずれも事実の羅列やビデオ,写真等の添付が多く,深みに欠けていること,研修日誌も事実の列挙に終始し,自己洞察がほとんどみられないこと,自覚があれば容易に改善可能な平素の節度ある勤務態度の点においても,十分な改善がなかったことが認められ,かかる事実に照らせば,原告にとって最も改善を要する点である組織理解並びに勤務に対する意欲及び姿勢について,前件研修によっては顕著な改善がみられず,なお研修の必要性があったというべきである。
なお,原告が前件研修の効果について記述した報告書(甲15)においても,研修の効果として,「リヤカーの作り方を覚えた。電動カンナ,電動鋸の使用法を覚えた。」などと記述するのみであり,これが揶揄した表現であってもなくても,ここに,原告の研修への取組み方の自覚の欠如,研修成果の不十分性が端的に現われている。
イ 具体的研修内容の相当性
原告が従事した本件研修の内容は前記(1)オに認定のとおりであるところ,前件研修とは異なる角度から原告の資質向上を図るため,実施機関を変え,研修内容を大幅に変えるなどの工夫が見られる上,多種多様な研修の受講,初任者宿泊研修における担当職員の補助や東北歴史博物館,多賀城跡調査研究所での研修等は,いずれも原告の教員としての資質向上に有益で,原告の課題である組織の一員としての自覚及び協調性を養い,勤務に対する自覚を喚起して,積極的な意欲や姿勢を涵養する上でも効果的といえるから,原告に対する本件研修の内容は相当と認められる。
ウ 報復目的の主張について
本件命令が住民訴訟等を提起したことに対する報復目的であるとか,前件研修中において「CATCH」の放映をさせたことに対する報復目的であることを認めるに足りる証拠はない。
エ 手続保障(特に研修命令の理由の開示の点)について
本件命令が本件要綱の定める手続に則って発令されたこと,事後的ではあるものの,原告に対し研修理由が明らかにされたことは,いずれも前記認定のとおりであり,前件命令にかかる説示と同様に,本件命令についても手続保障に欠けることはなかったというべきである。
オ 小括
よって,本件命令自体も相当であり,裁量権の逸脱,濫用は認められない。
3 結論
以上により,原告の請求は理由がないからこれを棄却し,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・田村幸一,裁判官・清水知恵子,裁判官・能登謙太郎)