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仙台地方裁判所 平成14年(行ウ)2号 判決 2004年3月31日

主文

1  原告の別紙物件目録記載の建物に係る平成11年度固定資産課税台帳の登録価格に関する審査申出について,被告が平成13年12月25日付けでした棄却決定のうち,価格6億8425万円を超える部分を取り消す。

2  原告の別紙物件目録記載の建物に係る平成12年度固定資産課税台帳の登録価格に関する審査申出について,被告が平成13年12月25日付けでした棄却決定のうち,価格6億3825万円を超える部分を取り消す。

3  原告のその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用は,これを4分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  原告の別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)に係る平成11年度固定資産課税台帳の登録価格に関する審査申出について,被告が平成13年12月25日付けでした棄却決定のうち,価格5億1500万円を超える部分を取り消す。

2  原告の本件建物に係る平成12年度固定資産課税台帳の登録価格に関する審査申出について,被告が平成13年12月25日付けでした棄却決定のうち,価格4億8000万円を超える部分を取り消す。

第2事案の概要

本件は,原告が,その所有する本件建物の平成11年度固定資産課税台帳登録価格(15億7789万3454円)及び平成12年度固定資産課税台帳登録価格(15億5754万7654円)が適正な時価(平成11年1月1日時点で5億1500万円,平成12年1月1日時点で4億8000万円)を超えるものであるとして,被告が平成13年12月25日付けでした審査申出を棄却する決定(以下「本件決定」という。)のうち,上記各主張額を超える部分の取消しを求めた事案である。

1  争いのない事実等

(1)  原告の本件建物の所有

ア 原告は,本件建物を所有している。

(種類,構造及び床面積を含め,当事者間に争いがない。)。

イ 本件建物は,昭和62年2月10日,西棟の1階から5階までは大学受験予備校の講義棟として,西棟の6階から8階までは事務所として,東棟の1階から5階は学生寮として,東棟の1階及び2階の一部は職員寮として建築された。

(争いのない事実,甲1,11,19~27)

(2)  仙台市長による固定資産課税台帳への登録

ア 平成11年度

仙台市長は,地方税法(以下「法」という。)403条,410条,411条の規定により,固定資産評価基準(昭和38年自治省告示第158号。以下「評価基準」という。平成11年度については,平成10年自治省告示第87号による改正後のもの。)及び仙台市固定資産(家屋)事務取扱要領に従い,平成11年2月末日,平成11年度の本件建物(ただし,従来の課税部分のみ。)の価格を9億2533万1745円と決定し,固定資産課税台帳に登録し,同法415条1項の規定により当該台帳を縦覧に供した。

イ 平成12年度

仙台市長は,同じく,評価基準(ただし,平成12年度については,平成12年自治省告示第12号による改正後のもの。)及び仙台市固定資産(家屋)事務取扱要領に従い,平成12年2月末日,平成12年度の本件建物(ただし,従来の課税部分のみ。)の価格を9億1339万9314円と決定し,固定資産課税台帳に登録し,当該台帳を縦覧に供した。

ウ 価格の修正

(ア) 本件建物の一部は,学校法人の設置する各種学校において直接教育の用に供する固定資産として同法348条2項9号の非課税規定の適用を受けていたところ,平成10年7月31日付けで各種学校の廃止認可を受けていた。

(イ) そこで,仙台市長は,非課税としていた部分に課税するため,平成12年12月11日,本件建物の平成11年度の価格を15億7789万3454円に,平成12年度の価格を15億5754万7654円にそれぞれ修正してその旨台帳登録し,同日付けで原告に通知した。

(いずれも当事者間に争いがない。)

(3)  家屋の固定資産評価額の算出方法

ア 再建築価格方式

(ア) 評価基準は,家屋の評価について,再建築価格方式を採用している。

再建築価格方式は,評価対象家屋と同一のものを評価の時点で新築する場合に必要な建築費(再建築費)を求めた上,当該家屋の損耗の状況による減価等を考慮して,当該家屋の価格を求める方法である。

(イ) 評価基準上,家屋の評価は,木造家屋及び木造家屋以外の家屋(以下「非木造家屋」という。)の区分に従い,各個の家屋について評点数を付設し,当該評点数に評点1点当たりの価額を乗じて各個の家屋の価額を求める。

(ウ) 各個の家屋の評点数は,当該家屋の再建築費評点数を基礎とし,これに家屋の損耗の状況による減点を行って付設する。

(エ) 家屋の状況に応じ必要があるものについては,更に家屋の需給事情による減点を行う。

イ 非木造家屋の損耗の状況による減点補正

(ア) 非木造家屋の損耗の状況による減点補正率は,「非木造家屋経年減点補正率基準表」によって求める。

(イ) ただし,天災,火災その他の事由により当該非木造家屋の状況からみて非木造家屋経年減点補正率基準表によって損耗の状況による減点補正率表を求めることが適当でないと認められる場合においては,当該非木造家屋の部門別に「非木造家屋部分別減点補正率表」によって求めるものとする。

ウ 非木造家屋の需給事情による減点補正

建築様式が著しく旧式となっている非木造家屋,所在地域の状況により,その価額が減少すると認められる非木造家屋等について,その減少する価額の範囲において需給事情による減点補正をする。

エ 非木造家屋の評点1点当たりの価額

(ア) 評点1点当たりの価額は,1円に,①物価水準による補正率と,②設計管理費等による補正率とを乗じて得た額を基礎として定める。

(イ) 物価水準による補正率は,家屋の工事原価に相当する費用等の東京都(特別区の地域)における物価水準に対する地域的格差を考慮して定められているが,非木造家屋に係る物価水準による補正率は,全市町村を通じて1.00と定められている。

(ウ) 設計管理費等による補正率は,工事原価に含まれていない設計監理費,一般管理費等の負担額の費用を基礎として定められており,非木造家屋に係る設計管理費等による補正率は,全市町村を通じて1.10と定められている。

オ 再建築費評点数の算出

(ア) 基準年度の翌々年度(第3年度)の価格については,原則として基準年度の価格を据え置く(法349条3項)。

また,基準年度において固定資産税が非課税であった家屋等で,第3年度において新たに固定資産税を課することとなる家屋に対して課する第3年度の価格は,それらの家屋に類似する家屋の基準年度の価格に比準する価格とする(法349条6項)。

(イ)a 仙台市長は,新増分の非木造家屋(当該年度において新たに課税の対象となる非木造家屋をいう。)で,プレハブ方式家屋以外のものの固定資産評価について,評価基準に定める方法(①部分別による再建築費評点数の算出方法,②部分別比準による再建築費評点数の算出方法又は③総合比準による再建築費評点数の算出方法)のうち,①部分別による再建築費評点数の算出方法を採用していた。

b 部分別による再建築費評点数の算出方法は,当該非木造家屋の構造の区分に応じて適用すべき非木造家屋再建築費評点基準表によって求める。この場合,各個の非木造家屋の構造区分に応じ,当該非木造家屋について適用すべき非木造家屋評点基準表によって当該非木造家屋の各部分別(主体構造部,基礎工事,外周壁骨組等14の区分がある。)に標準評点数を求め,これに補正項目について定められている補正係数を乗じて得た数値に計算単位の数値を乗じて算出した部分別再建築費評点数を合計して求める。

c 当該非木造家屋について適用すべき非木造家屋評点基準表を定める場合においては,その使用状況のいかんにかかわらず,当該非木造家屋の本来の構造によりその適用すべき非木造家屋評点基準表を定めるものとする。

非木造家屋の構造等からみて直ちに適用すべき非木造家屋評点基準表を定めることが困難なものについては,当該非木造家屋の構造等からみて最も類似している建物に係る非木造家屋評点基準表を適用するものとする。

一棟の建物で二以上の異なった構造を有する部分のある非木造家屋については,当該各部分について,それぞれに対応する非木造家屋評点基準表を適用する(乙1の39頁,乙2の48頁)。

(ウ)a 仙台市長は,在来分の非木造家屋(新増分以外の非木造家屋をいう。)の固定資産評価について,③総合比準による再建築費評点数の算出方法を採用していた。

b 平成9基準年度評価基準においては,総合比準による再建築費評点数の算出方法によって非木造家屋の再建築費評点数を求める場合は,「1 当該市町村に所在する非木造家屋を,その実態に応じ,構造,程度,規模等の別に区分し,それぞれの区分ごとに標準とすべき非木造家屋を標準非木造家屋として定める。2 標準非木造家屋について,二(注・部分別による再建築費評点数の算出方法)又は二の二(注・部分別比準による再建築費評点数の算出方法)によって再建築費評点数を付設する。3 標準非木造家屋以外の非木造家屋で当該標準非木造家屋の属する区分と同一の区分に属するもの(以下「比準非木造家屋」という。)の再建築費評点数は,当該比準非木造家屋と当該標準非木造家屋の各部分別の使用資材,施工量等の相違を総合的に考慮し,当該標準非木造家屋の再建築費評点数に比準して付設する。」(乙1の42頁)とされていた。

平成9基準年度においては,在来分家屋に係る再建築費評点数の付設については,総合比準の方法を適用する場合の方法として,標準家屋について改正後の評価基準(平成9基準年度評価基準)による部分別評価の方法により求めた再建築費評点数の改正前の評価基準(平成6基準年度評価基準)により求めた再建築費評点数に対する割合(変動率)を求め,当該割合を基礎として定めた率を標準家屋と同一の区分に属する比準家屋に係る改正前の評価基準により求めた再建築費評点数に乗じて新たな再建築費評点数を求めることとして差し支えないものとされていた(乙1の150頁)。

なお,変動率は,具体的には,構造・用途等の区分ごとに標準家屋を選定し,標準家屋について改正前と改正後の評価基準によって部分別評価の方法で再建築費評点数を算出する。その後,各区分ごとに変動率の平均値を算出する。

c 平成12年度評価基準においては,在来分の非木造家屋に係る再建築費評点数は,原則として,次の①から③の方法によって求めるものとされていた(乙2の51頁)。

① 当該市町村に所在する在来分の非木造家屋を,その実態に応じ,構造,用途,規模等の別に区分し,それぞれの区分ごとに標準とすべき在来分の非木造家屋を標準非木造家屋として定める。

② 標準非木造家屋について,部分別による再建築費評点数の算出方法によって再建築費評点数を付設する。

③ 標準非木造家屋以外の非木造家屋で当該標準非木造家屋の属する区分と同一の区分に属するもの(比準非木造家屋)の再建築費評点数は,②によって求めた再建築費評点数の前年度における再建築費評点数の割合を求め,当該割合を基礎として市町村長が定めた率を比準非木造家屋の前年度における再建築費評点数に乗じて求める。

カ 経過措置

(ア) 平成9年度における在来分の家屋の評価については,当該家屋について改正後の評価基準(平成9基準年度評価基準)により求めた価額と,当該家屋の平成8年度の価額のいずれか低い価額とする経過措置が講じられている(乙1の43頁)。

(イ) 平成12年度における在来分の家屋の評価についても,当該家屋について改正後の評価基準(平成12基準年度評価基準)により求めた価額と,当該家屋の平成11年度の価額のいずれか低い価額とする経過措置が講じられている(乙2の53頁)。

キ 非課税部分等のある家屋の価額の区分

評価基準上,「一棟の家屋について固定資産税を課することができる部分とこれを課することができない部分とがある場合その他一棟の家屋の価額を二以上の部分に区分して求める必要がある場合においては,それぞれの部分ごとに区分して価額を求めるものとする。ただし,それぞれの部分ごとに区分して価額を求めることが困難であると認められるときは,当該家屋の価額をそれぞれの部分の占める床面積の割合その他それぞれの部分の価額を求めるのに適当と認められる基準によってあん分してそれぞれの部分の価額を求めるものとする。」(乙1の31頁,乙2の39頁)とされている。

((3)につき,乙1,2,弁論の全趣旨)

(4)  平成11年度(平成9基準年度の第3年度)の本件建物の固定資産評価額の算出過程

ア 本件建物の区分

仙台市長は,本件建物を事務所であると認定した。

イ 修正前の再建築評点数

(ア) 本件建物の一部は,平成10年度(平成9基準年度の第2年度)まで,学校法人の設置する各種学校として非課税規定(法348条2項9号)の適用を受けていたため,本件建物には,固定資産税を課することのできる部分(課税部分)とこれを課することができない部分(非課税部分)とが存在し,仙台市長は,それぞれの部分ごとに区分して価額を求めることが困難であったため,本件家屋を新築当初に一棟として評価を行い,課税部分と非課税部分の床面積によりあん分し(前記(3)キ参照),課税部分について価額を決定してきた。

(イ) 原告は,本件建物で行っていた各種学校につき,平成10年7月31日付けで各種学校の廃止認可を受けた。

課税部分の延べ床面積は,5995.69㎡であり,非課税部分の延べ床面積は,4228.33㎡である。

(ウ) 仙台市長は,上記廃止認可が判明する前,本件建物の平成9基準年度の再建築費評点数の算出に当たり,在来分非木造家屋に係る再建築費評点数の算出方法(前記(3)オ(ウ)b参照)により,本件建物に係る前基準年度(平成6基準年度)の評価基準により求めた延べ床面積1㎡当たりの再建築費評点数18万4877点に本件建物が属する区分に係る変動率0.91を乗じて,平成9基準年度に係る床面積1㎡当たりの再建築評点数を16万8238点(小数点以下切捨て)と算出した。

18万4877点×0.91=16万8238点

(エ) さらに,これに本件建物のうち課税部分の延べ床面積(5995.69㎡)を乗じて,再建築費評点数10億0870万2894点(小数点以下切捨て)を算出した。

16万8238点×5995.69㎡=10億0870万2894点

ウ 損耗による減点補正

(ア) 次に,仙台市長は,上記再建築費評点数10億0870万2894点に,非木造家屋経年減点補正率基準表に従い算出した経年減点補正率0.8769(非木造家屋経年減点補正率基準表「1 事務所,銀行用建物及び2~7以外の建物」(乙1の124頁)において,10年経過。残価率を20%とし,80%を65年の定額法で減額補正)を乗じ,評点数8億8453万1567点(小数点以下切捨て)を算出した(前記(3)イ(ア)参照)。

10億0870万2894×0.8769=8億8453万1567点

(イ) これに,評点1点当たりの価額1.10円(1円×物価水準による補正率1.00×設計管理費等による補正率1.10)を乗じて,評価額9億7298万4723円を算出した(前記(3)エ参照)。

8億8453万1567点×1.10=9億7298万4723円

エ 前年度との比較(修正前の評価額)

(ア) 前基準年度(平成6基準年度)の評価額は,9億2533万1745円であった。

(イ) 仙台市長は上記により算出した価額(9億7298万4723円)と平成8年度の評価額(9億2533万1745円)とを比較し,より低い方の価額を採用して(前記(3)カ(ア)参照),平成11年度(平成9基準年度の第3年度)の修正前の評価額を9億2533万1745円とした。

オ 修正後の価格の算出

仙台市長は,修正前の評価額を課税部分の延べ床面積(5995.69㎡)で割り,それに非課税部分を課税部分に算入した修正後の延べ床面積(1万0224.02㎡)を乗じて,平成11年度に係る修正後評価額を算出し,これを15億7789万3454円と決定した(各床面積を乗除した段階で小数点以下を切り捨てた。)。

9億2533万1745円÷5995.69㎡×1万0224.02㎡=15億7789万3454円((4)につき,争いのない事実,弁論の全趣旨)

(5)  平成12年度の評価額の算出過程

ア 再建築評点数

(ア) 仙台市長は,前記廃止認可の判明前,本件建物の再建築費評点数の算出に当たり,在来分非木造家屋に係る再建築費評点数の算出方法(前記(3)オ(ウ)b参照)により,本件建物に係る前基準年度(平成9基準年度)の評価基準により求めた延べ床面積1㎡当たりの再建築費評点数16万8238点に本件建物が属する区分に係る変動率0.98を乗じて,平成12基準年度に係る延べ床面積1㎡当たりの再建築評点数を16万4873点(小数点以下切捨て)と算出した。

16万8238点×0.98=16万4873点

(イ) さらに,これに本件建物のうち課税部分の延べ床面積(5995.69㎡)を乗じて,再建築費評点数9億8852万7397点(小数点以下切捨て)を算出した。

16万4873点×5995.69㎡=9億8852万7397点

イ 損耗による減点補正

(ア) 次に,仙台市長は,上記再建築費評点数9億8852万7397点に,経年減点補正率0.8400(乙2の164頁。13年経過)を乗じ,評点数8億3036万3013点(小数点以下切捨て)を算出した。

9億8852万7397点×0.8400=8億3036万3013点

(イ) これに,評点1点当たりの価額1.10円(1円×物価水準による補正率1.00×設計管理費等による補正率1.10)を乗じて,評価額9億1339万9314円(小数点以下切捨て)を算出した。

8億3036万3013点×1.10=9億1339万9314円

ウ 前年度との比較

仙台市長は上記により算出した価額と平成11年度の修正前の評価額(9億2533万1745円)とを比較し,より低い方の価額を採用して(前記(3)カ(イ)参照),平成12年度の修正前の評価額を9億1339万9314円とした。

エ 修正後の価格の算出

仙台市長は,修正前の価額を課税部分の延べ床面積(5995.69㎡)で割り,それに非課税部分を課税部分に算入した修正後の延べ床面積(1万0224.02㎡)を乗じて,平成12年度に係る修正後評価額を算出し,これを15億5754万7654円と決定した(各床面積を乗除した段階で小数点以下を切り捨てた。)。

9億1339万9314円÷5995.69㎡×1万0224.02㎡=15億5754万7654円((5)につき,弁論の全趣旨)

(6)  本件建物1~5階部分の賃貸時期

本件建物1~5階部分の賃貸時期は,別紙仙台Aビル5階以下のオフィス転用一覧のとおりである。

(甲44~51,弁論の全趣旨)

(7)  本件決定等

ア 原告は,被告に対し,平成12年12月28日,本件建物の平成11年度修正後評価額及び平成12年度修正後評価額のうち各価格4億3000万円を超える部分の取消しを求めて,法432条1項に基づく審査の申出をした。

イ 被告は,上記原告からの審査申出について,平成13年8月31日に口頭で意見を述べる機会(法433条2項)を与えた後,同年12月25日,本件決定をした。

(甲17,18)

2  争点

本件建物の固定資産評価額は,「適正な時価」(法349条1項,341条5号)といえるか。これを細分化すると,次のとおりである。

(1)  評価基準の法的拘束力の有無

(2)  評価基準の一般的合理性の有無

(3)  評価基準が定める評価の方法によっては再建築費を適切に算定することができない特別の事情の有無

3  争点(1)(評価基準の法的拘束力の有無)に関する当事者の主張

(1)  被告

ア 法403条1項は,市町村長は,自治大臣(現在は総務大臣)が告示する評価基準によって課税標準となる価格を決定しなければならない旨規定している。専門的・技術的性格を有している評価基準は,評価を行う者の主観的な判断に基づく個人差をできるだけ排除し,評価における全国的な統一と市町村間の均衡を維持するため,自治大臣が法律の具体的委任を受けて告示するものであって,一種の委任立法であり,補充立法としての法的性格を有するものである。

イ したがって,評価基準は,固定資産税の課税標準となる適正な時価を算出するため,法により許容された唯一の基準であり,評価基準にのっとって算定された価格は,適正な時価である。

(2)  原告

ア 評価基準は,固定資産の評価の大量性と便宜性を考慮して定められたものであるが,法は,価格を「適正な時価」(341条5号)と規定しており,評価基準に従って適正な時価を超えた価格を算出することまで認めているものではない。

イ 評価基準に従った家屋の評価額は,通常認められる個別の情況を考慮しても,客観的交換価値よりも低めに評価されるという前提でのみ,正当性を有する。

4  争点(2)(評価基準の一般的合理性の有無)に関する当事者の主張

(1)  被告

ア 再建築価格方式の合理性

(ア) 仙台市長が,評価基準にのっとり,本件建物について採用した評価の方法は,イ及びウのとおり,この種の家屋について通常の維持管理がされた場合の減価の手法として一般的な合理性を有している。

(イ) したがって,被告は,本件建物について評価基準に基づいて評価したことについて主張立証すれば足り,原告が,評価基準が定める評価の方法によっては再建築費を適切に算定することができない特別の事情又は評価基準が定める減点補正を超える減価を要する特別の事情の存在の有無について,主張立証するべきである。

イ 標準評点数,物価水準による補正率及び設計管理費等による補正率の一般的合理性

(ア) 標準評点数

a 評点数の基礎となる再建築費評点数は,建築費のうちの工事原価に相当する。

標準評点数は,評点項目(資材の種別及び品等,施工の態様等の区分)に従い,標準量(標準的な家屋の各部分別の単位当たり施工量)に対する工事費を基礎として算出されている。

この標準評点数は,東京都(特別区の区域)における物価水準により算定した工事原価(資材費及びこれを施工するために要する労務費)に相当する費用に基づいて,その費用の1円を1点として表すものである。資材費については,財団法人経済調査会の「積算資料」及び財団法人建設物価調査会の「建設物価」に掲載されている建設業者が現場で受け取る段階での各建築資材ごとの標準的な価格を基に算定された(乙4の4153・32頁)。

b 本件建物は,建築に当たり実際に使用された鉄骨やコンクリート等の資材の施工量が把握できたため,実際に使用された資材の施工量に基づき,評価された(乙1の41頁,乙2の50頁)。

(イ) 物価水準による補正率の一般的合理性

木造家屋の物価水準による補正率は,東京都(特別区の区域)を1.00として,各指定市(道府県庁所在市及び東京都特別区をいう。)ごとに,1.00,0.95,0.90と三段階に定められているが,非木造家屋の物価水準による補正率は,全市町村を通じて東京都(特別区の区域)と同一率である1.00とされている。

主要都市以外の指定市に所在する非木造家屋については,事務所,工場等の建物の規模,程度の差が大きく,かつ,各資料の母数が僅少な地域があるため,特定の建物が㎡当たりの単価に強く影響を与えることから,木造家屋と同様の手法によって合理的な地域格差指数を求めることは困難であること,また,非木造家屋の生産技術は,中央の企業が営業活動を全国展開し,仕事を受注する体制をとっており,中央と地方の単価に大きな差はないから,主要都市の理論的な地域差指数を基に物価水準の補正率について判断しても差し支えないものと考えられることなどから,平成15年度の評価替えの際も,すべての指定都市の補正率が1.00とされた。

(ウ) 設計管理費等による補正率の一般的合理性

建設工事費は,建材費,労務費等の直接工事費と,設計管理費等(設計料,現場管理費,一般管理費,利潤等)の間接工事費とに分けられ,間接工事費は,コスト要因の積上げによる算出が困難なため,直接工事費に対する率を乗じて積算されている。

設計管理費等による補正率は,全市町村を通じて,非木造家屋については1.10とされている。

国土交通省建築工事積算基準(乙20)に基づいて,本件建物の昭和63年度再建築費における一般管理費の割合を試算したところ,工事費に対する現場管理費及び一般管理費の割合は,全工事の平均で18.23%となり,10%を大幅に超えた。

また,社団法人宮城県建築士事務所協会発行のパンフレットによれば,貸事務所の設計監理料の算定例においても10%を超えている。

よって,非木造家屋の設計管理費等による補正率1.10は,合理性を有する。

ウ 非木造家屋の経年減点補正率の一般的合理性

(ア) 経年減点補正率

本件に適用される「鉄骨鉄筋コンクリート造,鉄筋コンクリート造」の経年減点補正率(残価率20%,80%を65年で定額法で補正。乙1の124頁,乙2の164頁)は,次のとおり,合理的なものである。

(イ) 経過年数

a 固定資産税の建物の経過年数(耐用年数)については,国税の考え方を参考として定められてきているが,経年減点補正率における経過年数は,平成5年に改正され,非木造家屋についてはほとんどの用途構造で,概ね大蔵省令(乙1の213頁)と一致することとされた。

b 平成5年の経過年数の改正に当たっては,社団法人日本建築学会に委託して,部位別による算定方法と家屋の滅失状況による算定方法により短縮の是非が検討され,その結果,短縮することが適当であるとされた。

滅失状況調査は,全国都道府県庁所在市46市(那覇市を除く。)に川崎市と北九州市を加えた合計48市の固定資産課税台帳を基に,残存棟数と除却棟数から平均的な建物の残存年数を推計したもので,建築年次別に半数(50%)が滅失する年数を寿命値と考えるものである。状況としては,相当数の年数短縮が認められたが,滅失状況調査による年数短縮は物理的には十分使用可能であるのに,所有者の事情(土地絡み,使用収益,利用効率等)で取り壊され,寿命が短縮されているものがあって,税の立場からは課題が残ることから,これを参考とし,かつて国税で検討されたといわれる部位別による算定方法により理論上の年数を検討することとされたものである(乙18の26頁)。

このように,評価基準においては,物理的耐用年数を基礎としながら,機能的耐用年数,経済的耐用年数についても一定の考慮を行って,一般的な「効用持続年数」を設定し,定額法を基本として時の経過に応じた損耗分の考慮を行うこととしているものである。

(ウ) 残価率

一定経過年数(耐用年数)以後の最終残価率は,0.20にされているが,これは,通常の維持管理を継続して行った場合,家屋の効用を発揮し得る最低限を捉えるとした場合には,経過年数による損耗度合からみて家屋の残価は20%程度が限度という考え方に立っている(乙14の6頁)。

税務会計上の減価償却資産(建物)の残価率は10%となっているが,税務会計上の減価償却は,当該資産に係る償却費用を毎期に適切に配分すること(投下資本の適正な費用配分)を目的としているのに対し,評価基準における経年減点補正率は,家屋として維持存続している効用(実体価値)を把握しようとするものであるから,両者は趣旨・目的が異なるものであり,同一に論ずることはできない。

エ B鑑定評価書について

(ア) はじめに

後記B鑑定評価書は,次のとおり,評価を行う者の主観的な判断に基づく個人差をできるだけ排除し,評価における全国的な統一と市町村間の均衡を維持することが必要な固定資産の評価には全く適していない。

(イ) 評価の対象を異にしていること

a 評価基準は,固定資産税の課税標準となる適正な時価を算出するための基準である。したがって,土地と建物が民法上別個の不動産とされ,課税上も家屋が独立した財産課税の対象とされ,家屋所有者が租税負担をする法制度の下では,敷地との一体的な評価を行わずに対象家屋そのものを評価する評価基準は,その存在目的に合致した合理的なものであるということができる。

b これに対し,不動産鑑定評価基準によると,「建物は,その敷地と結合して有機的に効用を発揮するものであり,建物とその敷地とは密接に関連しており,両者は一体として鑑定評価の対象とされるのが通例であるが,鑑定評価の依頼目的及び条件により,建物及びその敷地が一体として市場性を有する場合における建物のみの鑑定評価又は建物及びその敷地が一体として市場性を有しない場合における建物のみの鑑定評価がある。」と定められており,敷地との有機的な効用を重視し,建物のみの鑑定評価は例外的なものと位置付けられている。

さらに,不動産鑑定評価基準によると,建物のみの鑑定評価を行う例外的場合にも,「この場合の建物の鑑定評価は,その敷地と一体化している状態を前提として,その全体の鑑定評価額の内訳として建物について部分鑑定評価を行うものである。この場合における建物の鑑定評価額は,積算価格,配分法に基づく比準価格及び建物残余法・・・による収益価格を関連づけて決定するものとする。」と定められている。

さらに,賃貸料等の収益を基準として評価する収益換算法(収益還元法)は,賃貸料等についてはなはだしい格差があるなどの難点があり,また,比準法についても,個々の売買に個別的な事情による偏差があることのほか,家屋の取引が一般的に宅地とともに行われている現状からして,そのうちの家屋の部分を分離することが困難であるなどの難点がある。

(ウ) 最有効使用について

a 評価基準は,土地,家屋及び償却資産の資産的価値に着目し,その所有という事実に担税力を認めて課される財産税である固定資産税の課税標準となる適正な時価を算出するための基準である。したがって,評価基準による本件家屋の評価は,その使用方法が最有効使用であるか否かと関連しない。

これに対し,不動産鑑定評価基準によると,不動産の価格に関する諸原則の1つとして最有効使用の原則があり,「不動産の価格は,その不動産の効用が最高度に発揮される可能性に最も富む使用(最有効使用)を前提として把握される価格を標準として形成される。この場合の最有効使用とは,客観的にみて,良識と通常の使用能力を持つ人による合理的かつ合法的な最高最善の使用方法をいう。なお,ある不動産についての現実の使用方法は,必ずしも最有効使用に基づいているものではなく,不合理又は個人的な事情による使用方法のために,当該不動産が十分な効用を発揮していない場合があることに留意すべきである。」と定められている。

b B鑑定評価書による最有効使用の認定は,次のとおり妥当でない。

すなわち,建築当初の本件建物の最有効使用は,建築時の建物の種類である校舎・事務所・寄宿舎・駐車場としての使用方法である。したがって,最有効使用を学校とした場合の評価額と貸事務所とした場合の評価額とを比較対照し,その結果によって判定するという過程を経ないと,最有効使用判定についての実証的な検証ができない。ところが,B証人の証言によっても,B鑑定評価書の作成過程においてそのような検討がなされた形跡はうかがわれない。

(エ) 減価の基準について

a B鑑定評価書において,躯体と設備の割合が70対30とされている点は,その根拠は不明確である。

b 設備の観察減価により100%の減価がされている点は,主観的な判断である。

c 躯体の耐用年数が35年とされている点についても,客観的な基準に基づくものではない。

d 躯体の観察減価率が55.0%とされている点についても,客観的な基準に基づいて観察減価がなされたものとは認められない。

(2)  原告

ア 再建築価格方式の問題点

(ア) 再建築価格方式は,個別事情を斟酌せず,また,原価法に重点を置き,市場性(現実の取引価格)や収益性(現実の収益力)を無視している。

(イ) 評価基準の経年減点補正率は,鉄筋コンクリート造の店舗であれば,毎年1.6%ずつ,50年間にわたって直線的に減点している。

しかし,現実の建物では,そのような直線的な減価をすることはあり得ず,双曲線のような減価をたどるのが一般である。それは,設計の良否,コンクリート材の良否,施工の良否,構造や間取りの陳腐化など様々な要因によって建物の問題が顕在化して維持修繕費がかさんだり,競争力が低下したりして,それが建物の価値に直接影響を及ぼすためである。

被告は,通常の維持管理を継続して行った場合,家屋の効用を発揮し得る最低限を捉えるとした場合には,経過年数による損耗度合からみて家屋の残価は20%程度が限度という考え方に立って残価率が定められた旨主張するが,どうして通常の維持管理を行った場合直線的な減価になるのか,残価がなぜ20%になるのかについて,積極的理由付けは皆無である。

(ウ) また,店舗用の鉄筋コンクリート造建物の法定耐用年数は,現在では39年であり,50年間にわたって減価するというのは現在の社会経済情勢にそぐわない。

(エ) これらの原因により,多くの建物では評価基準によって算出された価格が客観的な交換価値を上回るという逆転現象が早期に現れることになる。

(オ) この逆転現象を是正するために,各種の減点補正を適切に行うことが期待される。しかしながら,実際は,減点箇所が目視可能な状態になければ,減点補正がされないし,目視可能な場合であっても,減点補正が適切に行われているとはいい難い。

イ B鑑定評価書

(ア) はじめに

B不動産鑑定士による鑑定評価書(甲11,37,38。以下「B鑑定評価書」という。)は,十分信頼することができる。

(イ) 鑑定評価の個別性

本件建物については,評価基準によって求めた価格と不動産鑑定士が不動産鑑定評価基準によって求めた鑑定価格との間に大幅な価格差が認められる。

このような場合,評価基準は合理性の根拠を失っているものと推定されるべきである。なぜなら,評価基準は,客観的交換価値を簡易迅速に求めるために定められた大雑把な基準にすぎず,個別具体的事情をつぶさに把握して正確な算定をする不動産鑑定士による鑑定評価には遠く及ばないからである。

(ウ) 最有効使用

本件建物の最有効使用は,事務所ビルである。学校を最有効使用とすることは,非現実的である。

(エ) 被告の主張に対する反論

a 被告は,評価基準と不動産鑑定評価基準とは,趣旨・目的,根拠,評価対象及び評価方法が異なる旨指摘するが,そのような見解は,課税目的のための時価評価という点に独自の価値を見出す見解であり,最高裁判所平成10年(行ヒ)第41号同15年6月26日第一小法廷判決・裁判所時報1342号に照らし,失当である。

b 被告は,不動産鑑定評価基準が敷地と建物を一体として鑑定評価の対象とすることを原則としていることを批判し,この手法によったB鑑定評価書を批判している。

しかし,建物の客観的な交換価値を把握する方法として,敷地と一体のものとして評価することは,十分に合理的であり,だからこそ不動産鑑定評価基準において,その手法が原則とされている。社会通念上も,敷地と建物は,一体のものとして有機的な効用を発揮し,一体のものとして市場価値を持つ。これを無理矢理切り離して建物だけを評価しようとしても,客観的な交換価値を算出することは難しい。

よって,被告のB鑑定評価書の批判は,失当である。

5  争点(3)(特別の事情の有無)に関する当事者の主張

(1)  原告

ア 特別の事情

(ア) イ以下のとおり,評価基準が定める評価の方法によっては本件建物の価格を適切に算定することができない特別の事情がある。

(イ) 本件建物の適正な時価は,次のとおりである(甲38)。

平成11年1月1日時点 5億1500万円

平成12年1月1日時点 4億8000万円

イ 減価率の不合理性

(ア) 本件建物は,学校用建物であるにもかかわらず,評価基準上,事務所用建物と同一の減価年数と取り扱われた。

(イ)a しかし,事務所用建物と学校用建物とは,構造上かなり異なっている。

b そのため,減価償却資産の耐用年数等に関する省令(乙2の230頁。昭和40年大蔵省令第15号。平成10年大蔵省令第50号による改正後のもの)上も,寄宿舎用建物及び学校用建物は,住宅用建物と同一区分に属し,耐用年数が47年とされているのに対し,事務所用建物のそれは50年とされている。

(ウ) 前記1(3)オ(イ)cのとおり,直ちに適用すべき評点基準表を定めることが困難な場合は,最も類似する建物に係るものを適用するとされ,一棟の建物で二以上の異なった構造を有する部分のある非木造家屋については,当該各部分について,それぞれに対応する非木造家屋評点基準表を適用するものとされている。

(エ) 本件建物の1階から5階までは,学校の講義棟であるところ,学校は不特定の多数人が同一スペースに集合すること,ロビーやトイレ,エレベーターといったいわゆるパブリックスペースが広く確保されることなどから,「3 店舗及び病院用建物」が最も類似する用途区分であり,1階から5階まではこれを適用すべきである。

(オ) 本件建物の東棟の1階から5階までは学生寮として建築されているところ,「2住宅,アパート用建物」が最も類似するので,東棟1階から5階までには,これを適用すべきである。

(カ) したがって,上記(ア)の取扱いは,不合理である。

ウ 用途変更の必要性

平成5年をピークとして18歳人口が減少したにもかかわらず,文部省(現在の文部科学省)による昭和61年から平成4年までの大学の定員増を図る臨時的定員増と平成5年度から既存校に対する7年間の臨時的定員増の追加実施のため,大学・短大への入学者が高水準を保ち続け(平成15年には,84%に達している。),大学浪人生が激減した。

このような国の大学定員増政策・社会情勢の変化という客観的要因により,本件建物での予備校経営は不可能となり,貸事務所に転用せざるを得なくなった。

エ 各種学校用建物であったことによる特殊性

(ア) 本件建物は,宮城県では各種学校に分類されるため,校地,校舎の設備,校舎の面積などを定めた専修学校設置基準(昭和51年1月10日文部省令第2号),私立各種学校の設置等の認可に関する審査基準及び学校環境衛生の基準(平成4年6月体育局長裁定)を充たす必要があったため,一般の貸事務所と比較して,建築費が相当高額となった。

(イ)a すなわち,多数の生徒が同時に授業を受けるため,県の指導により,廊下やエレベーターホール等パブリックスペースを相当広く設けた。多数の若者が集うという特殊性を考慮して,汚れにくい壁とするために特殊なコーティングを施し,これに相当の費用がかかった。

b また,予備校部分と事務所部分(6ないし8階)を別々にするようにとの県の指導により,入口が2か所,事務所用エレベーター2機と学生用エレベーター2機の合計4機を設置した。

c 本件建物は,新幹線及び在来線の線路脇に建築されたため,「学校環境衛生の基準」等すべての法規制に合致するよう,壁に相当の防音材を入れ,二重サッシにするなどし,相当の費用を要した。

d これらのため,建築費用が上昇したにもかかわらず,事務所として賃貸可能な面積の全体の延べ床面積(駐車場を除く。)に占める比率が45.4%にすぎず,競争力低下につながっている。

e さらに,東棟の1階から5階の学生寮であった部分は,本件係争年度においては,倉庫としてしか使用できなかった。

f 教室用,学生寮又は職員寮部分を事務所用としての用途変更のために多額の費用投下を必要とするから,本件係争年度における評価に当たっては,その用途変更に要する費用を評価上のマイナス要因として斟酌する必要がある。

オ 近隣商業地域に建築された貸事務所

本件建物は,近隣商業地域に建築されたため,商業施設たる貸事務所に転用した場合は,他との競争に勝てず,経済的価値も低い。

カ 敷地条件等の個別事情

(ア) 本件建物は,新幹線の線路の隣に建築されたので,建設工事中の事故防止に特に配慮し,工事期間中,監視保安員を3名雇うなど人件費が多くかかった。

(イ) 本件建物の敷地からわき水がしみ出し,このため,地下2階部分に湧水槽を設けたが,これに多額の費用を要した。

(2)  被告

ア 原告の主張ア(特別事情)は否認する。

イ 同イ(減価率の不合理性)のうち,(ア)は認める。

(イ) aは否認し,(イ)bは不知。

(ウ) は認める。ただし,これらは,再建築費評点数の適用に関するものであり,経年減点補正率適用に関するものではないから,経年減点補正率の該当性判断には不適切である。

(エ) は否認する。事務所及び銀行用建物と比較して,店舗については顧客誘引のための機能維持の必要性が特に高く,また,病院用建物についても衛生管理のための機能維持上の必要性が特に高いことから,評価基準の別表第13の経年減点補正率表は,店舗及び病院用建物について事務所及び銀行用建物についてよりも高い減価率を定めているものと解されるところ,校舎については,店舗及び病院用建物に匹敵するだけの特殊な機能維持上の必要性はなく,経年減価の程度は事務所及び銀行用建物と特に異ならないものである。

(オ) は否認する。本件建物は,建築当初から登記上の種類が「校舎・事務所・寄宿舎・駐車場」であるだけでなく,寄宿舎の部分も,他の部分と一棟の建物として結合しており,構造上一体であること,また,本件建物全体の機能維持上も寄宿舎部分だけを事務所部分から切り離すことができないこと,1階ないし5階の校舎部分が貸事務所に転用された後の事務所部分の床面積が全体の概ね8割を占めることなどから,原告主張の部分を他から分離して住宅又はアパート用建物とみることができないものと認められる。

(カ) は否認する。

ウ 同ウ(用途変更の必要性)は不知。

固定資産税は,収益税ではなく,財産税であり,かつ,固定資産税における家屋の評価は,再建築価格方式を採用している評価基準によるべきであるから,所有者が当該建物の用途を学校施設から事務所に変更し,そのため,現実の収益が減少したとしても,家屋課税台帳の評価額が収益の減少に伴って変動するわけではない。

また,再建築価格方式による家屋の評価額は,実際に使用されている資材の種別やその施工量等を基に求められるのであるから,改築が行われて資材や施工量自体に変化があった場合を除き,用途変更による収益の増減により家屋の評価額は変わらない。

エ 同エ(各種学校用建物であったことによる特殊性)のうち,(ア)及び(イ)aは不知,bのうち,入口が2か所,エレベーター4機が設置されていることは認め,その余は不知,cのうち,新幹線及び在来線の線路近くに建築されたこと,壁に防音材を使用し,一部の窓に二重サッシを使用していることは認め,その余は不知,d及びeは不知,fは否認する。

本件建物の建築当初に付設された諸設備は,除却されず残存する以上,家屋の固定資産評価上,無視できないし,賃貸用のスペース部分の割合が低いこと等も,評価基準上考慮されない。

オ 同オ(近隣商業地域)は不知。

カ 同カ(敷地条件等の個別事情)(ア)のうち,本件建物は新幹線の線路の隣に建築されたことは認め,その余は不知。(イ)のうち,本件建物の地下に湧水槽を設けたことは認め,その余は不知。

第3当裁判所の判断

1  争点(1)(評価基準の法的拘束力の有無)について

(1)  評価基準の位置付け

ア 法349条1項は,家屋に対して課する基準年度の固定資産税の課税標準を,当該家屋の基準年度に係る賦課期日における価格で家屋課税台帳又は家屋補充課税台帳に登録されたものとすると規定し,同項にいう価格について,法341条5号は,「適正な時価」と規定している。「適正な時価」とは,正常な条件の下で成立する当該家屋の取引価格,すなわち,客観的な交換価値を意味する(前記最高裁平成15年6月26日第一小法廷判決参照)。

イ 他方,法は,固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続を自治大臣(現在は総務大臣)の告示である評価基準にゆだね(388条1項),市町村長は,評価基準によって固定資産の価格を決定しなければならないと規定している(403条1項)。これは,全国一律の統一的な評価基準による評価によって,各市町村の評価の均衡を図り,評価に関与する者の個人差に基づく評価の不均衡を解消することを目的として,適正な時価を算定するための技術的かつ細目的な基準の定めを自治大臣の告示に委任したものであって,賦課期日における適正な時価を上回る価格を算定することまでもゆだねたものではない(前記最高裁平成15年6月26日第一小法廷判決参照)。

(2)  まとめ

したがって,評価基準は法により許容された唯一の基準であり,評価基準にのっとって算定された価格は適正な時価である旨の被告の主張は,理由がない。

2  争点(2)(評価基準の一般的合理性の有無)及び争点(3)(特別の事情の有無)について

(1)  事実認定

各項に掲記の証拠によれば,次の事実が認められる(争いのない事実を含む。)。

ア 標準評点数

(ア) 評点数の基礎となる再建築費評点数は,建築費のうちの工事原価に相当する。

標準評点数は,評点項目(資材の種別及び品等,施工の態様等の区分)に従い,標準量(標準的な家屋の各部分別の単位当たり施工量)に対する工事費を基礎として算出されている。この標準評点数は,東京都(特別区の区域)における物価水準により算定した工事原価(資材費及びこれを施工するために要する労務費)に相当する費用に基づいて,その費用の1円を1点として表すものである。

資材費については,財団法人経済調査会の「積算資料」及び財団法人建設物価調査会の「建設物価」に掲載されている建設業者が現場で受け取る段階での各建築資材ごとの標準的な価格を基に算定されている。

(乙4の4153・32頁,弁論の全趣旨)

(イ) 本件建物は,建築に当たり実際に使用された鉄骨やコンクリート等の資材の施工量が把握できたため,実際に使用された資材の施工量に基づき,評価された。

(甲33,弁論の全趣旨)

イ 物価水準による補正率

木造家屋の物価水準による補正率は,東京都(特別区の区域)を1.00として,各指定市(道府県庁所在市及び東京都特別区をいう。)ごとに,1.00,0.95,0.90と三段階に定められているが,非木造家屋の物価水準による補正率は,全市町村を通じて東京都(特別区の区域)と同一率である1.00とされている。

主要都市以外の指定市に所在する非木造家屋については,事務所,工場等の建物の規模,程度の差が大きく,かつ,各資料の母数が僅少な地域があるため,特定の建物が㎡当たりの単価に強く影響を与えることから,木造家屋と同様の手法によって合理的な地域格差指数を求めることは困難であること,また,非木造家屋の生産技術は,中央の企業が営業活動を全国展開し,仕事を受注する体制を採っており,中央と地方の単価に大きな差はないから,主要都市の理論的な地域差指数を基に物価水準の補正率について判断しても差し支えないものと考えられることなどから,平成15年度の評価替えの際も,すべての指定都市の補正率が1.00とされた。

(乙19)

ウ 設計管理費等による補正率

建設工事費は,建材費,労務費等の直接工事費と,設計管理費等(設計料,現場管理費,一般管理費,利潤等)の間接工事費とに分けられ,間接工事費は,コスト要因の積上げによる算出が困難なため,直接工事費に対する率を乗じて積算されている。

設計管理費等による補正率は,全市町村を通じて,非木造家屋については1.10とされている。

国土交通省建築工事積算基準(乙20)に基づいて,本件建物の昭和63年度再建築費における一般管理費の割合を試算したところ,工事費に対する現場管理費及び一般管理費の割合は,全工事の平均で18.23%となり,10%を大幅に超えた。

また,社団法人宮城県建築士事務所協会発行のパンフレットによれば,貸事務所の設計監理料の算定例においても10%を超えている。

よって,非木造家屋の設計管理費等による補正率1.10は,合理性を有する。

(乙19~22,弁論の全趣旨)

エ 経過年数

(ア) 固定資産税の建物の経過年数(耐用年数)については,国税の考え方を参考として定められてきているが,経年減点補正率における経過年数は,平成5年に改正され,非木造家屋についてはほとんどの用途構造で,概ね大蔵省令(乙1の213頁)と一致することとされた。

(イ) 平成5年の経過年数の改正に当たっては,社団法人日本建築学会に委託して,部位別による算定方法と家屋の滅失状況による算定方法により短縮の是非が検討され,その結果,短縮することが適当であるとされた。

滅失状況調査は,全国都道府県庁所在市46市(那覇市を除く。)に川崎市と北九州市を加えた合計48市の固定資産課税台帳を基に,残存棟数と除却棟数から平均的な建物の残存年数を推計したもので,建築年次別に半数(50%)が滅失する年数を寿命値と考えるものである。状況としては,相当数の年数短縮が認められたが,滅失状況調査による年数短縮は物理的には十分使用可能であるのに,所有者の事情(土地絡み,使用収益,利用効率等)で取り壊され,寿命が短縮されているものがあって,税の立場からは課題が残ることから,これを参考とし,かつて国税で検討されたといわれる部位別による算定方法により理論上の年数を検討することとされた。

(ウ) 上記の説明には,分かりにくい点があるが,実際には建物が早期に取り壊されているのに,固定資産税の観点から修正を加えていることを意味するのであれば,そのような取扱いに,評価基準による価格と客観的交換価値とのずれが生じる契機が存在することになる。

(乙1,乙18の26頁)

オ 残価率

(ア) 一定経過年数以後の最終残価率は,0.20とされているが,これは,通常の維持管理を継続して行った場合,家屋の効用を発揮し得る最低限を捉えるとした場合には,経過年数による損耗度合からみて家屋の残価は20%程度が限度という考え方に立っている。

(イ) 上記説明にも,分かりにくい点がある。上記説明は,通常の維持管理を継続して行い,家屋の効用を発揮している以上,最低20%の残価があることを説明しているというよりは,一定年数が経過した以上,残価として評価し得るのは,最大20%であることを説明していると理解することもできる。

(ウ) 税務会計上の減価償却資産(建物)の残価率は,10%となっている。

(乙14,弁論の全趣旨)

カ 再建築価格方式採用の理由の当否

(ア) 評価基準が家屋について再建築価格方式を採用した理由は,再建築価格は,家屋の価格の構成要素として基本的なものであり,その評価の方式化も比較的容易であり,また建築物価等の個別の事情による偏差や建築の時点の差異等を取り除き,家屋の資産価値を客観的に把握できること,これに対し,①家屋の取得時における取得価格を基準とする評価方法は,取得価格の形成に取引当事者間の個別事情等(取得者と売主又は建築主との関係,建築時期における建築資材の価格の相違等)の影響があること,在来分家屋においては,取得価格の不明なものが多いと思われたことなどから直ちに取得価格を正常価格とみなすことは難しく,適当でないこと,②類似家屋の売買実例価格を基準とする評価方法も,売買実例価格に個別的事情が含まれ,③また,家屋が土地と一体となって売買される場合,家屋部分の価格を適正に把握することが困難であることなどから適当ではないこと,さらに,④賃貸料等の収益を基準とする方法も,家屋の賃貸料等が借主と貸主との間の個別事情等により価格形成がなされることなどから,賃貸料等を基準として求めた価格が正常価格とみなすことは難しいと考えられたためである。

(乙7の41~46頁)。

(イ) しかしながら,これらの理由を不動産鑑定評価基準の観点から検討すると,①家屋の取得時における取得価格を基準とする評価方法及び②類似家屋の売買実例価格を基準とする評価方法における特殊事情は,その特殊事情を考慮して各種の修正を加えることの理由とはなっても,取引事例比較法の採用そのものを否定する理由とはなり得ないと考えられる。

また,④賃貸料等の収益を基準とする方法について,家屋の賃貸料等が借主と貸主との間の個別事情があることも,同様に,その特殊事情を考慮して各種の修正を加えることの理由とはなっても,収益還元法の採用そのものを否定する理由とはなり得ないと考えられる。

③家屋が土地と一体となって売買される点も,土地と建物は法制上別個の不動産とされているが,通常は一体として売買されざるを得ない実態を前提とする限り,一体としての売買が通常の事態なのであって,家屋だけの公開された合理的な市場を想定することの方が実際的ではない。

キ 再建築価格方式による価格と適正な時価

(ア) 不動産鑑定評価基準が正常な条件の下で成立する家屋の取引価格,すなわち,客観的な交換価値を算定するための基準であることは,明らかである。

(イ) 再建築価格方式により算定された価格が不動産鑑定評価基準の観点から見た「適正な時価」を超えていないかについては,疑問が生じる。

すなわち,店舗用建物のうち鉄筋コンクリート造の例で検討すると,残価率が20%とされ,残りの80%を50年にわたり定額法で減価するため(乙2の166頁),10年経過で16%,20年経過で32%の減価にとどまる。

これに対し,不動産鑑定評価基準による価格は,B鑑定評価書等から明らかなように,減価率が評価基準よりも大きく,残価率も低いことがうかがわれる(弁論の全趣旨)。

(ウ) 評価基準に従い,再建築価格方式により算定する際,再建築費を実際よりも低く把握する方法を採用すれば,再建築価格方式により算定された価格が不動産鑑定評価基準による価格を上回る事態を少なくすることができる。

また,木造家屋,及び非木造家屋のうち住宅,アパート用建物のように,初期減価率を初年度0.80,2年度0.75,3年度0.70とすれば(乙2の76頁,165頁,乙15),同様に,再建築価格方式により算定された価格が不動産鑑定評価基準による価格を上回る事態を少なくすることができる。

ク 学校用建物及び寄宿舎用建物の減価率

(ア) 事務所用建物と若者の集う学校用建物及び寄宿舎用建物とでは,後者の耐用年数が前者のそれよりも短いことが推認される。減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和40年大蔵省令第15号。平成10年大蔵省令第50号による改正後のもの。乙2の230頁)上も,学校用建物と寄宿舎用建物は,住宅用建物と同一区分に属し,耐用年数が47年とされているのに対し,事務所用建物のそれは50年とされていることも,上記の点を裏付けるものである。

そして,評価基準に非木造家屋の学校用建物と寄宿用建物について定めがないのは,それらが非課税とされることが多いためであると考えられる(弁論の全趣旨)。

(イ) そうすると,本件建物のうち教室,学生寮及び職員寮については,少なくとも平成10年7月31日の各種学校の廃止認可まで,経年減点補正率基準表の適用において,鉄骨鉄筋コンクリート造の事務所,銀行用建物及び2~7以外の建物(乙1の124頁,乙2の164頁)と取り扱うことは,合理性に欠ける点がある。

ケ B鑑定評価書

(ア) 原告提出のB鑑定評価書(甲11,37,38)の概要は,次のとおりである。

a 価格時点

平成12年12月10日を価格時点とする。

b 最有効使用

本件建物の敷地の最有効使用を高層の事務所ビルの敷地としての使用と判定した。

c 収益還元法

総収益を1億5959万0704円(空室部分については,地域周辺の賃料等状況を調査し,適正賃料を求め,年間収入を算定した。)及び総費用9203万9376円(実費相当額及び地域周辺における一般的な収益事例を基に算定した。)に基づき,純収益を6755万1328円とし,総合還元利回り5.93%(土地について4.5%,建物について8.0%)に基づき,収益価格を10億5000万円と算定した。

d 原価法

土地の再調達原価を,取引事例比較法,土地残余法により,17万円/㎡×3706㎡≒6億3000万円と算定した。

建物の再調達原価を,同種の建物の建設事例及び財団法人建物物価調査会発行「建物鑑定評価資料」の同種の建築コストモデル等を基に,次のとおり算定した。

事務所,教室部分 22万5000円/㎡×8802.50㎡≒19億8000万円

学生寮部分 15万4000円/㎡×1918.40㎡≒2億9500万円

職員寮部分 17万4000円/㎡×254.10㎡≒4400万円

合計 23億円

e 建物現価率

躯体については,耐用年数を35年とみて,14年経過で40%減価とし,残りの60%についても,観察減価55%として,現価率を27%とした(60%×(1-0.55))。

設備については,耐用年数を15年とみて,14年経過で93.3%減価,残りの6.7%についても,観察減価100%として,現価率0%とした。

建物の再調達原価のうち,70%を躯体,30%を設備とし,建物価格を4億3500万円と算定した(23億円×0.7×0.27)。

f 鑑定価格

土地価格と建物価格とを積算すると,その価格は10億6500万円(6億3000万円+4億3500万円)となるが,鑑定評価額を10億6000万円とした。

上記割合は,土地59.2%,建物40.8%であり,次の時点修正率を乗ずると,平成11年1月1日時点における本件建物の価格は5億1500万円,平成12年1月1日時点における本件建物の価格は4億8000万円となる。

土地,平成11年1月1日 131.6%,

建物,平成11年1月1日 119%,

土地,平成12年1月1日 114.4%,

建物,平成12年1月1日 111%

(イ)a 出発となる再建築費は,B鑑定評価書の23億円の方が,評価基準による平成9基準年度における18億9207万5544円(16万8238円×10224.02㎡×1.10)よりも高い。

本件建物の再建築費が23億円よりも高い旨の主張立証はない。

b B鑑定評価書における減価率は,評価基準におけるそれに比し,大きい。

被告は,躯体と設備の割合が70対30とされている点,設備の観察減価により100%の減価がされている点,躯体の耐用年数が35年とされている点,躯体の観察減価率が55.0%とされている点は客観的な基準に基づくものではない等と主張する。

確かに,これらの減価等の判定には,不動産鑑定士ごとにバラツキはあり得ることが認められる(証人Bの証言(甲40を含む。))。

しかしながら,これらの減価等は,収益還元法や取引事例比較法等による試算価格との調整を目的とするものであり,収益還元法や取引事例比較法等による試算価格との均衡を無視した無制限なものではあり得ないから,B鑑定評価書における減価等は,相当なものと認めるべきである(被告は,評価基準と不動産鑑定評価基準はそもそもその対象が異なる等と主張しているため,B鑑定評価書を批判する不動産鑑定評価基準にのっとった不動産鑑定評価書を提出していないものである。)。

コ 最有効使用

(ア) 本件建物の敷地の最有効利用としては,B鑑定評価書のとおり,高層の事務所ビルの敷地であることには,異論が少ないと考えられる。

(イ) さらに,一般の貸事務所としての需要に比し,各種学校用建物の需要が極めて少ないことは,認めざるを得ないところであり,既に本件建物が学校用建物等として建築されたことや,仙台市は東北地方における教育の中心であり,各種学校を含め多くの学校が存在していること(弁論の全趣旨)を考慮しても,本件建物を学校用建物及び寄宿舎用建物として容易に転売や賃貸ができるものと認めることはできないから,本件建物の最有効利用も貸事務所であると認めざるを得ない。

サ その他

(ア) 本件建物は,宮城県では各種学校に分類されるため,校地,校舎の設備,校舎の面積などを定めた専修学校設置基準(昭和51年1月10日文部省令第2号),私立各種学校の設置等の認可に関する審査基準及び学校環境衛生の基準(平成4年6月体育局長裁定)を充たす必要があったため,一般の貸事務所と比較して,建築費が相当高額となった。

a すなわち,多数の生徒が同時に授業を受けるため,県の指導により,廊下やエレベーターホール等パブリックスペースを相当広く設けた。多数の若者が集うという特殊性を考慮して,汚れにくい壁とするために特殊なコーティングを施し,これに相当の費用がかかった。

b また,予備校部分と事務所部分(6~8階)を別々にするようにとの県の指導により,入口が2か所,事務所用エレベーター2機と学生用エレベーター2機の合計4機を設置した。

c 本件建物は,新幹線及び在来線の線路脇に建築されたため,「学校環境衛生の基準」等すべての法規制に合致するよう,壁に相当の防音材を入れ,二重サッシにするなどし,相当の費用を要した。

d これらのため,建築費用が上昇したにもかかわらず,事務所として賃貸可能な面積の全体の延べ床面積(駐車場を除く。)に占める比率が45.4%にすぎず,競争力低下につながっている。

e 東棟の1階から5階の学生寮及び職員寮であった部分は,事務所への転用が教室部分に比し,更に困難である。

(甲11,20~31,33~35,弁論の全趣旨)

(イ) 原告は,本件建物は近隣商業地域に建築されたため,商業施設たる貸事務所に転用した場合は,他との競争に勝てず,経済的価値も低い旨主張する。この点は,評価基準においては,余り考慮されない点であるが,不動産鑑定評価基準による評価においては,十分考慮されると考えられる。

(ウ) 原告は,本件建物は,新幹線の線路の隣に建築されたので,建設工事中の事故防止に特に配慮し,工事期間中,監視保安員を3名雇うなど人件費が多くかかった旨主張する。前記のとおり,本件建物については,建築に当たり実際に使用された鉄骨やコンクリート等の資材の施工量が把握できたため,実際に使用された資材の施工量に基づき評価されたものであるが,このことは,評価基準による評価に当たり,原告の建設会社との請負契約における工事請負金額をそのまま取り入れたことを意味するものではないから,監視保安員等の人件費が多くかかった点は,評価基準による評価に影響していないものと認められ,この点の原告の主張は理由がない。

(エ) 原告は,本件建物の敷地からわき水がしみ出し,このため,地下2階部分に湧水槽を設けたが,これに多額の費用を要した旨主張する。

湧水槽を設けた点は,評価基準においては,施工量としてそのまま考慮される点であるが,不動産鑑定評価基準による評価においては,さほど考慮されない点であると考えられる。

(2)  判断

ア 以上の事実によれば,評価基準により算定された本件建物の価格は,毎年の減価率が低く,経過年数(耐用年数)後の残価率が高いため,客観的な交換価値を上回るおそれがあるといわなければならない。

前記のとおり,評価基準における再調達原価が実際の再建築費(23億円)よりも低いことは,評価基準による価格が不動産鑑定評価基準による価格を上回る事態を少なくすることができるが,本件におけるように,経過年数が10年及び13年となった場合においても,上記上回る事態を避けるほどに評価基準における再調達原価が低く把握されているものとまで認めることはできない。

しかも,本件では,学校用建物等として建設された建物を事務所用建物として評価する必要があり,評価基準の適用についても,鉄骨鉄筋コンクリート造の事務所用建物の基準表を適用している問題がある。

イ これらの事実からすると,仙台市長がした平成11年度及び平成12年度における本件建物の評価の方法に一般的な合理性があると認めることはできない。

仮に一般的な合理性は認められるとしても,仙台市長が算出した平成11年度及び平成12年度における本件建物の価格には,評価基準が定める減点補正を超える減価を要する特別の事情があるといわなければならない。

ウ 前記のとおり,B鑑定評価書は,本件建物の再建築費23億円に現価率18.9%(70%×27%)を乗じて,平成12年12月時点における本件建物の鑑定価格を4億3500万円と評価したものであるが,減価等の割合について,不動産鑑定士の間でも多少のバラツキがあり得ること,本件建物は,各種学校に再度転用が可能であることは,多少とも有利な点として評価すべきであると考えられることからすると,安全率を見込んで,現価率を25%と認めるべきである(弁論の全趣旨)。

そうすると,平成12年12月時点における本件建物の価格は,5億7500万円となり(23億円×0.25),平成11年1月1日時点における本件建物の客観的な交換価値は,6億8425万円(5億7500万円×1.19),平成12年1月1日時点におけるそれは,6億3825万円(5億7500万円×1.11)となる。

3  結論

よって,原告の本訴請求は,主文第1項及び第2項掲記の限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,64条本文を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 市川正巳 裁判官 髙木勝己 裁判官 櫻庭広樹)

<以下省略>

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