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仙台地方裁判所 平成14年(行ウ)24号 判決 2003年10月30日

主文

1  本件訴えのうち,原告A3(3)及び同A4(4)の訴えを却下する。

2  その余の原告らの請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

・被告が,平成14年10月29日付け第H14確更建築仙台市青10115号をもってした変更建築確認を取り消す。

・訴訟費用は被告の負担とする。

2  本案前の答弁

・本件訴えをいずれも却下する。

・訴訟費用は原告らの負担とする。

3  請求の趣旨に対する答弁

・原告らの請求をいずれも棄却する。

・訴訟費用は原告らの負担とする。

第2当事者の主張

1  請求原因

・本件変更建築確認等

ア・ B1建設株式会社及びB2建設株式会社(以下「本件建築主」という。)は,建築主事である被告に対し,平成13年4月5日,次の建築物(以下「本件建築物」といい,その敷地を「本件敷地」という。)の建築計画について,確認申請をした。

名称 (仮称)CパレスDE丁目

所在地 仙台市青葉区DE丁目F1-F2の一部,F3-F4,F5-F6,F7-F8

敷地面積 3932.58㎡

主要用途 共同住宅

用途地域 第2種住居地域

構造・階数 鉄筋コンクリート造一部鉄骨造 地上11階建て

・本件建築主は,その後,次のとおり,申請内容の訂正を行った。

容積対象床面積 7795.55㎡

容積率 198.22%

高さ 32.21m

・被告は,同年12月19日,建築基準法6条に基づき,上記確認申請につき,第H13確認建築仙台市青00409号をもって建築確認をした(以下「本件建築確認」という。)。

イ・ 本件建築主は,被告に対し,平成14年9月12日,本件建築物の計画の変更につき,次の内容の変更確認申請をした。

容積対象床面積 7534.01㎡

容積率 191.57%

・被告は,同年10月29日,建築基準法6条に基づき,上記変更確認申請につき,第H14確更建築仙台市青10115号をもって建築確認をした(以下「本件変更建築確認」という。)。

・接道関係等

ア  本件建築物は,総戸数87戸,駐車場数86台のいわゆるマンションである。

イ  本件敷地と,仙台市道青葉747(a1号線),仙台市道青葉746(b線),位置指定道路1127号及び同1166号との位置関係は,別紙1のとおりである。

ウ・ 本件敷地からa1号線へ行くためには,位置指定道路1166号及び同1127号を通らなければならない。

・位置指定道路1127号及び同1166号の幅員は,いずれも4メートルである。

・本件敷地は,北側部分において,位置指定道路1166号と6m以上接している。

エ・ 本件敷地の南端部分は,幅員4.71メートルの通路(以下「本件南側通路」という。)となっており,本件南側通路の南端で,b線と接している。

・b線の幅員は,8.91mである。

・原告らの位置関係等

ア  原告らと本件敷地との位置関係は,別紙2のとおりである。

イ・ 原告A1(1)は,本件敷地の南側に接する敷地に,自宅を所有して居住し,G診療所を開業している。さらに,自宅に隣接して家族用賃貸住宅1棟(H1),及び単身者用賃貸住宅1棟(H2)を所有している。

・原告A2(2)は,本件建築物の南端から53m,本件南側通路南西端から32メートルの場所に自宅を所有して居住している。

・原告A3(3)は,本件敷地から南東130mの場所に,b線をはさんで,自宅を所有して居住し,さらに,自宅の北側と南側に借家3棟(H3宅,H4宅,H5宅)と賃貸住宅1棟(H6アパート)を所有している。

・原告A4(4)は,本件敷地の東側80mの場所にある自宅(所有者は,夫であるa4)に居住している。さらに,自宅の北側に賃貸住宅1棟(H7)を所有している。

・原告A5(5)は,本件敷地の南側に接する敷地に,賃貸住宅1棟(H8)を所有している。

・原告A6(6)は,本件敷地の東側30mの場所に,自宅を所有して居住している。さらに,自宅東側に賃貸住宅2棟(H9とH10)を所有している。

・原告A7(7)は,本件敷地の北東側に隣接する敷地にあるIプラザDⅡの北棟H11号に居住している。

・原告A8(8)は,IプラザDⅡの北棟H12号の区分所有者である。

原告A9(9)は,IプラザDⅡの北棟H13号の区分所有者である。

原告A8(8)及び同A9(9)は,IプラザDⅡの北棟H14号及びH11号を共有している。

・原告A10(10)は,IプラザDⅡの北棟H15号の区分所有者である。

・原告A11(11)は,IプラザDⅡの北棟H16号の区分所有者である。

・原告適格

ア・ 建築基準法52条1項(容積率)は,建築物の過密化を避け,適切な都市空間を確保すること,より具体的には,当該建築物及びこれに隣接する建築物等における日照,通風,採光等を良好に保つことを目的としており,同条項が近隣住民らの個々人の個別的利益を保護する趣旨の規定であることは,明らかである。

・本件建築物の北東側に隣接するIプラザDⅡの区分所有者又は居住者である原告A7(7),同A8(8),同A9(9),同A10(10)及び同A11(11)は,本件建築物が建設されることによって,著しい日照・採光侵害を受けるから,同人らが本件変更建築確認の取消しを求めるにつき,原告適格を有する。

イ・ 建築基準法52条1項(容積率)及び同法43条(接道義務)に基づく建築基準条例(昭和35年宮城県条例第24号。以下「県条例」という。)9条は,いずれも平常時における通行・利用上の安全性の確保,災害等緊急時の防災活動・避難活動上の支障の防止を目的としている。

・そして,災害発生時における避難,消火及び救助活動等に支障が生ずれば,建築確認の対象となった建築物の居住者のみならず,近隣住民の生命,身体及び財産に対する危険が発生するものである。

・また,本件敷地の北側にある位置指定道路1166号及び同1127号の通行に支障が生ずれば,本件敷地からの自動車交通は,本件南側通路を利用してb線に向かうことになるが,そのような事態は,300人以上の居住者(4人×87戸=348人)と86台以上もの車両が,車両の通行に適さない本件南側通路を通行することとなるため,b線と本件南側通路との合流地点に,著しい交通渋滞を発生させることになる。

・原告A1(1),同A2(2),同A3(3),同A4(4),同A5(5)及び同A6(6)は,いずれも平常時・緊急時において必然的にb線を利用する者あるいは利用すべき場所にある建物所有者であるから,同人らが本件変更建築確認の取消しを求めるにつき,原告適格を有する。

ウ  本件建築物の完成によって,原告A1(1)及び同A5(5)は,通風侵害及びプライバシー侵害を受け,原告A1(1),同A2(2)及び同A5(5)は,圧迫感を受けることになるから,同人らは,この点からも,本件変更建築確認の取消しを求めるにつき,原告適格を有する。

・違法事由

本件変更建築確認には,次の違法がある。

ア  建築基準法52条1項違反(容積率違反)

建築基準法43条2項に基づく県条例9条が要求する6m以上の接道長さを満たさないb線は,建築基準法52条1項の「前面道路」とはいえないから,本件建築物の容積率は,160%以下でなければならない。

イ  建築基準法43条及び県条例9条違反(接道義務違反)

・本件敷地から位置指定道路1166号への通行可能な長さとして,6mが確保されていない。

・付近住民との協定により,位置指定道路1127号及び同1166号につき,緊急車両を含む車両の通行が禁止されている。

・位置指定道路1166号が同1127号に接続する部分に隅切りがなく,北側隣接地の塀が残置されている。

・審査請求前置

ア  原告らは,仙台市建築審査会に対し,平成14年2月14日,本件建築確認の取消しを求める審査請求をしたが,同審査会は,同年10月30日,原告A2(2),同A3(3),同A4(4)及び同A6(6)については審査請求を却下し,その余の原告については審査請求を棄却する旨の裁決をした。

イ  本件建築確認と本件変更建築確認との関係からすると,原告らが本件変更建築確認について審査請求を経由していないことにつき,正当な理由がある(行政事件訴訟法8条2項3号)。

・まとめ

よって,原告らは,被告に対し,本件変更建築確認の取消しを求める。

2  請求原因に対する認否

・請求原因・(本件変更建築確認等)は,認める。

・同・(接道関係等)は,認める。

・同・(原告らの位置関係等)は,不知。

・ア・ 同・(原告適格)ア・は,争う。

原告適格は,具体的な処分につき,その処分の根拠となった法規について検討すべきものであるところ,建築確認は,建築物の計画が敷地,構造及び建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定に適合するものであることを確認し,その計画の法規適合性を明らかにする処分であるから,原告らの法律上保護されるべき利益は,本件建築物について具体的に適用される諸法令について検討されるべきである。

本件についていえば,原告らは本件変更建築確認の県条例9条違反を請求原因として主張しているが,同条の規定は,建築確認の対象となった建築物の居住者の平常時における通行,利用上の安全性の確保並びに災害発生時における避難,消火及び救助活動等の確保を目的としたものであるから,原告らは原告適格を欠いている。

・同・ア・は否認する。

原告A8(8),同A9(9),同A10(10)及び同A11(11)は,IプラザDⅡに居住していないから,本件建築物が建築されることによって直接的に日照侵害を受けることはない。

また,H13号,H16号,H15号及びH12号は,1年を通して本件建築物による日影の影響を全く受けない。

さらに,H14号は,本件建築物よりも,IプラザDⅡの南棟による日影の影響を大きく受けており,本件建築物により日影が影響を受けるのは,11月下旬から1月中旬までであり,しかも,その日影の影響は,1日当たり30分以下にすぎないから,その影響は軽微なものである。

また,H11号が本件建築物により日影が影響を受けるのは,11月下旬から1月中旬までであり,しかも,冬至日においても,日影になるのは1時間にも満たないから,その影響は軽微なものである。

採光については,原告A8(8)らが所有又は居住するIプラザDⅡの住戸の窓と隣地境界線との関係は,本件建築物が建築されることによって変化するものではないから,本件建築物はIプラザDⅡの採光に何ら影響を与えるものではない。

イ  同・イは否認する。

県条例9条は,建築確認の対象となった建築物の居住者の,平常時における通行,利用上の安全性の確保並びに災害発生時における避難,消火及び救助活動等をその法律上保護される利益として規定しているものである。

原告A1(1)らの主張する通行上の利益が侵害されるのか否か,また,侵害される場合,その侵害の程度がどのようなものであるのかが明らかにされていない。

仮に,原告A1(1)らの主張する利益の侵害があったとしても,それは一般公衆として受ける反射的利益の侵害にすぎない。

ウ  同・ウは否認する。

原告A1(1)らの主張する通風侵害については,その侵害の程度及び内容が明確に示されておらず,その主張するような権利又は利益の侵害があると認めることはできない。

原告A1(1)らの主張する圧迫感から保護される利益については,そもそもその根拠とされる法令が不明であるなど,その主張するような利益の侵害があると認めることはできない。

原告A1(1)らの主張するプライバシーの侵害については,いまだ具体的な侵害という程度には至っていない。

・ 同・(違法事由)は,争う。

・ 同・(審査請求前置)のうちアは認め,イは争う。

3  被告の主張

・建築基準法52条1項違反(容積率違反)について

ア  建築基準法52条1項は,前面道路の幅員が12m未満である建築物の容積率は,当該前面道路の幅員のメートルの数値にその敷地の存する用途地域ごとに定められた一定の係数を乗じたもの以下とすること,そして,前面道路が2以上あるときはその幅員の最大のものによることを規定している。

前面道路について,建築基準法に特段の定義規定はないが,一般には建築物の敷地の接する道路の趣旨で使用されている(建築基準法56条等参照)。

イ・ 前面道路が敷地と接する長さについては,建築基準法43条2項に基づく県条例9条は,延べ面積が1000㎡を超える建築物の敷地が道路に接する部分の長さを6m以上と規定し,新たな制限を付加したが,建築基準法における容積率等他の制限を同時に付加したものと解することはできないから,敷地が当該前面道路に少なくとも建築基準法43条1項に規定する2m以上接していることで足りると解される。

・すなわち,建築基準法52条1項が同法43条1項の規定自体を引用していない以上,直接同項の規定が適用されるものではない。

・そして,延べ面積が1000㎡を超える建築物の敷地が道路に接する部分の長さにつき建築基準法43条1項を上回る規制を加えることと,前面道路と接する部分の長さを規制することとは,規定の趣旨が異なるものである。

ウ・ そうすると,本件敷地は建築基準法52条1項における2つの前面道路があり,その幅員の最大のものは8.91m(b線)となるから,本件敷地の容積率の最高限度は,都市計画決定による200%と356.4%(8.91×4/10)のうちの低い率である200%となる。

・これに対し,本件変更建築確認における本件建築物の容積率は,前記のとおり,191.57%であるから,容積率の最高限度を超えておらず,本件変更建築確認に違法はない。

・建築基準法43条及び県条例9条違反(接道義務違反)について

ア  敷地から道路への通行可能な長さ

・本件敷地から位置指定道路1166号への通行が可能な出入口の長さは,1.5m以上のものが2箇所(合計3m以上)確保されているが,6m全部が通行可能とはなっていない。

・しかしながら,県条例9条は,敷地が道路に接触する部分の長さが6m以上であることを規定しているが,門,塀等の障害物がなく通行できる部分の長さが6m以上であることは規定していない。

・すなわち,敷地と道路との関係における規定については,道路に「接する長さ」のみを規定しているものと,道路まで「通行が可能な有効長さ」を規定しているものがあるが,条文上,その区別は明確である。

前者は,建築基準法43条1項,県条例9条等の規定で,敷地が道路に一定長さ以上「接する」ことが求められているものであり,敷地が道路に物理的に接触する部分の長さを規定したものである。

これに対し,後者は,建築基準法施行令126条の7第1号(非常用進入口),同施行令128条(敷地内の通路)等の規定であり,道路等に通ずる一定の幅員以上の「通路」を設けることを求め,敷地から道路への出入口の部分も含めて,通行が可能な有効長さを規定している。

イ  位置指定道路における通行制限について

・後記被告の主張に対する原告らの認否及び反論・イ・及び・は,不知。

・歩行者や自転車のみが通行可能な道路であっても,建築基準法43条1項の接道義務を満たす道路から除外する規定はなく,また,法における「道路」の要件として,車両の通行に関する事項を規定している条項も見あたらない。県条例9条に関しても同様である。

したがって,後記本件通行制限協定により,本件敷地からの車両が本件位置指定道路1127号及び同1166号を通行することができないとしても,建築基準法43条1項に違反するものではない。

・また,本件建築主とIらとの間で,上記位置指定道路における車両の通行制限の合意を締結するに至った経緯を考慮すると,本件通行制限協定は,消防車,救急車等の緊急車両の通行まで禁止しているものとはいえない。

仮に,緊急車両の通行まで禁止したものであったとしても,道路交通法によれば,通行区分等の特例(同法39条),交差点等を含む道路の優先通行(同法40条),通行を禁止されている道路の通行,安全地帯等への進入等の特例(同法41条)が規定されており,さらに,消防法27条及び35条の8第1項では,消防車を含む消防隊又は救急車を含む救急隊が現場に到着するために緊急の必要があるときは,「一般交通の用に供しない通路若しくは公共の用に供しない空地及び水面を通行することができる」と規定されており,緊急車両は,緊急の必要があるときに,一般道路等の優先通行のみならず,通行禁止道路等を通行でき,さらに,一般交通の用に供しない通路等をも通行することが認められているから,本件通行制限協定は,緊急車両の通行まで禁止することはできないものである。

ウ  位置指定道路1166号に隅切りがないことについて

・建築基準法において,申請に係る敷地の所有者又は建築主以外の第三者の違反の有無によって申請に係る計画の適否を判断するとの規定はなく,建築主事は,当該違反の有無にかかわらず,申請に係る計画が適法であれば,建築確認処分を行わなければならない。

位置指定道路1166号の隅切り部分に設置されている塀によって通行に支障が生じた場合は,原告らは,特定行政庁である仙台市長に対し,違反是正の命令をして違反状態を解消させるように求めるべきであって,このことをもって,本件変更建築確認処分の取消しを求めるのは失当である。

・また,位置指定道路1166号と同1127号との北側接続部分に北側隣接地の所有者の塀が残っていることにより,位置指定道路1166号の通行に支障はなく,道路としての基本的機能は阻害されていない。

4  被告の主張に対する原告らの認否及び反論

・建築基準法52条1項違反(容積率違反)について

ア  建築基準法52条1項の「前面道路」といえるためには,同法43条2項に基づく県条例9条が要求する接道長さ6mが確保されていることを要すると解すべきである。

イ  建築基準法43条が要求する接道長さが確保されていない道路であっても,同法52条1項の前面道路に該当するとすれば,接道長さが確保されていない道路の幅員が12m以上である場合には,前面道路の幅員によって容積率を制限される余地が一切なくなってしまうが,そのような解釈では,前面道路の幅員によって容積率を制限しようとする同法52条1項の趣旨,とりわけ道路交通等の負担を間接的に制御する趣旨が完全に没却されてしまう。

また,敷地の前面道路という以上,当該敷地に一定の長さが接していることが必要であることは当然であるが,同法52条1項が前面道路が当該敷地に接する長さについて規定していないのは,前面道路が同法43条の要求する接道要件を充足するものであることを当然の前提としていると解するのが合理的である。

・建築基準法43条及び県条例9条違反(接道義務違反)について

ア  敷地から道路への通行可能な長さ

・被告の主張・ア・は,原告らにおいて明らかに争わない。

・同・ア・及び・は争う。

道路を単に交通の用に供するというばかりではなく,災害時の防災活動ないしは避難活動の上で支障がないようにするという接道義務に関する建築基準法43条1項及び県条例9条の趣旨からすれば,敷地と道路の接触自体が重要なのではなく,敷地から道路への通行可能な出入口の長さこそが重要である。したがって,県条例9条は,敷地から道路への通行可能な出入口の長さこそを問題としており,敷地から道路への通行可能な出入口の長さが6m以上であることまで要求していると解すべきである。

イ  位置指定道路における通行制限について

・位置指定道路1127号及び同1166号について,同位置指定道路に接する土地の所有者であるIほか4名と本件建築主との間で,次の内容の協定(甲42。以下「本件通行制限協定」という。)が締結され,車両止めの設置によって,物理的にも車両の通行が制限されている。

① 本件建築主は,本件建築物の各戸購入者に対し,位置指定道路1127号が,歩行者(これに類する者を含む)及び自転車のみ通行でき,車両,原動機付自転車等は通行できないものであることを承認させ(重要事項説明書に記載する),その上で分譲する(3項)。

② 本件建築主は,位置指定道路1166号上に,塀その他の築造物を設置せず,かつ,上記位置指定道路に車両等が進入しないよう適切な手段を講ずる(5項)。

③ 本件建築主は,位置指定道路1127号が同1166号と接する箇所に,移動式車両止めを設置する(6項)。

④ 本件建築主は,本件敷地内の位置指定道路1166号への通行可能な出入口付近に,埋込式車両止めを設置する(7項)。

・本件通行制限協定は,全面的に車両通行を禁止するとの前提で行われたものであり,緊急車両のための特段の留保はなかった。

・接道義務に関する建築基準法43条及び県条例9条の趣旨は,道路を単に交通の用に供するというばかりではなく,災害時の防災活動ないしは避難活動の上で支障がないようにすることにあり,接道要件を充足する「道路」といえるには,そのような接道要件の趣旨を実現するにふさわしい実質を備えたものでなければならない。

ところが,位置指定道路1166号は,上記のとおり,そのような実質を備えておらず,県条例9条の「道路」に該当しない。

ウ  位置指定道路1166号に隅切りがないことについて

建築基準法43条及び県条例9条の趣旨からすれば,それらの条項の道路は,接道要件の趣旨を実現するにふさわしい実質を備えたものでなければならないが,位置指定道路1166号には,隅切りがなく,北側隣接地の塀が残置しているため,消防車その他の大型車両が,位置指定道路1127号から同1166号に進入することが不可能であり,交通上,安全上,防火上及び衛生上の重大な支障が生じるから,建築基準法43条等の道路には該当しない。

理由

1  処分の存在等

・請求原因・(本件変更建築確認等)及び同・(接道関係等)は,当事者間に争いがない。

・証拠(甲6~17)及び弁論の全趣旨によれば,同・(原告らの位置関係等)が認められる。

2  審査請求前置について

・請求原因・(審査請求前置)アは,当事者間に争いがない。

・本件変更建築確認については,審査請求は経由されていないが,前記説示のとおり,本件建築確認と本件変更建築確認との申請内容の違いは小さいものであること,本件建築確認についての審査請求に対する裁決がされた日の前日に本件変更建築確認がされたことからすると,本件変更建築確認につき裁決を経ないことにつき正当な理由(行政事件訴訟法8条2項3号)があると認められる。

3  本案前の主張(原告適格)について

・行政事件訴訟法9条にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうものであり,当該処分の根拠となった行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。

そして,当該行政法規が,不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは,当該行政法規の趣旨・目的,当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断すべきである。

・建築基準法52条の容積率制限は,建築密度,建築物の規模等を規制することにより,建築物の敷地上に適度な空間を確保し,もって,当該建築物及びこれに隣接する建築物等における日照,通風,採光等を良好にすることを目的とするほか,当該建築物に火災その他の災害が発生した場合に,隣接する建築物等に延焼するなどの危険を抑制することをもその目的に含むものと解するのが相当である(平成9年(行ツ)第7号同14年1月22日第三小法廷判決・民集56巻1号46頁参照)。

また,建築基準法43条の接道義務は,建築物の敷地と道路との接道距離を規制することにより,当該敷地を道路に一定距離以上接することを確保し,もって,当該建築物の日常の通行を良好にすることを目的とするほか,火災その他の災害が発生した場合に,避難活動及び消火等の防災活動を支障なく行うことができるようにして,隣接する建築物等に延焼するなどの危険を抑制することをもその目的に含むものと解するのが相当である。同法43条2項に基づく県条例9条も,同様の目的を有するものと解するのが相当である。

以上のような建築基準法43条及び52条の趣旨・目的,これらの条項が建築確認を通して保護しようとしている利益の内容・性質等に加え,同法が建築物の敷地,構造,設備及び用途に関する最低の基準を定めて国民の生命,健康及び財産の保護を図ることを目的とするものであること(1条)にかんがみれば,同法43条及び52条は,当該建築物の倒壊,炎上等による被害が直接的に及ぶことが想定される周辺の一定範囲の地域に存する他の建築物について,その居住者の生命,身体の安全等及び財産としてのその建築物を,個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解すべきである。そうすると,建築確認に係る建築物の倒壊,炎上等により直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に存する建築物に居住し又はこれを所有する者は,建築確認の取消しを求めるにつき原告適格を有すると解するのが相当である。

・前記説示の本件建築物の高さ等の概要(請求原因・),及び原告らの位置関係等(請求原因・)の事実によれば,本件敷地の東側80mの場所にある自宅に居住し,自宅の北側に賃貸住宅を所有している原告A4(4),及び直線距離で本件敷地から130mの場所に自宅を所有して居住し,自宅の北側と南側に借家等を所有している原告A3(3)は,本件変更建築確認の取消しを求めるにつき原告適格を有しないが,その余の原告らは,いずれも本件建築物が倒壊又は炎上すれば直接的な損害を受けることが予想される範囲の地域に存する建築物に居住し又はこれを所有しており,本件変更建築確認の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として,その取消訴訟における原告適格を有するものと認められる。

・原告A3(3)及び同A4(4)は,本件建築物の居住者が車両の通行に適さない本件南側通路を通行することとなるため,b線において著しい交通渋滞が発生するから,同原告らは平常時・緊急時において必然的にb線を利用する者等として,原告適格を有する旨主張する。

確かに,建築基準法43条1項及び県条例9条は,建築物の敷地を道路に一定距離以上接することを要求し,もって,当該建築物からの日常の通行を良好にすることを目的としているが,接道義務を満たす道路以外の道路への車両等の通行を減少させることを目的にし,しかも,そのような利益を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解することはできないから,b線の通行の安全の点から,原告A3(3)らの原告適格を基礎付けることはできない。

4  建築基準法52条1項違反(容積率違反)について

ア  建築基準法52条1項は,前面道路の幅員が12m未満である建築物の容積率は,当該前面道路の幅員のメートルの数値にその敷地の存する用途地域ごとに定められた一定の係数を乗じたもの以下とすること,そして,前面道路が2以上あるときはその幅員の最大のものによることを規定している。前面道路とは,建築物の敷地に接する道路を意味すると解される。

イ  前面道路が敷地と接する長さについては,敷地が当該前面道路に建築基準法43条1項が規定する2m以上接していなければならないと解される。

しかしながら,本件におけるように,県条例9条が,建築基準法43条2項に基づき,延べ面積が1000㎡を超える建築物の敷地が道路に接する部分の長さを6m以上と規定した場合に,同法52条1項の前面道路といえるためには,県条例9条の6mの接道要件をも満たすことが必要であると解することはできない。

ウ  原告適格を有する原告らは,同法52条1項の前面道路といえるためには,同法43条2項に基づく県条例9条が要求する接道長さ6mが確保されていることを要する旨主張する。

しかしながら,立法政策としては,同原告ら主張の立場だけでなく,被告主張のように,延べ面積が1000㎡を超える建築物の敷地が道路に接する部分の長さを6m以上とする制限を加えるが,前面道路による容積率制限については,新たな要件を付加しないとの立場も十分あり得るところであり,同法52条1項の規定が,同法43条2項に基づく条例が制定された場合に前面道路となるには条例の規定する接道長さを満たす必要があるを旨を明示的に規定していない以上,同原告ら主張の解釈を採用することはできない。

エ  そうすると,本件敷地は,b線と4.71m接しているから,b線も,本件敷地の前面道路となる。

そして,前面道路のうち幅員の最大のものは,b線の8.91mであるから,本件敷地の容積率の最高限度は,都市計画決定による200%と356.4%(8.91×4/10)とのうちの低い率である200%となる。

これに対し,本件変更建築確認における本件建築物の容積率は,前記のとおり,191.57%であるから,容積率の最高限度を超えていない。

よって,本件変更建築確認には,建築基準法52条1項違反(容積率違反)の違法はない。

5  建築基準法43条及び県条例9条違反(接道義務違反)について

・敷地から道路への通行可能な長さについて

ア  本件敷地から位置指定道路1166号へ通行が可能な出入口の長さは1.5m以上のものが2箇所(合計3m以上)確保されているが,6m全部が通行可能とはなっていないことは,原告適格を有する原告らにおいて明らかに争わないから,これを自白したものとみなす。

イ  同原告らは,道路を単に交通の用に供するというばかりではなく,災害時の防災活動ないしは避難活動の上で支障がないようにするという接道義務に関する同法43条1項及び県条例9条の趣旨からすれば,県条例9条は,敷地から道路への通行可能な出入口の長さを6m以上とすることを要求していると解すべきである旨主張する。

しかしながら,同法43条1項は,「建築物の敷地は,道路に・・・二メートル以上接しなければならない。」と規定し,県条例も,同様に,「都市計画区域・・・内にある延べ面積の合計が千平方メートルを超える建築物の敷地は,・・・道路に六メートル以上接しなければならない。」と規定しているところ,これらの規定の文言によれば,県条例9条は,敷地が道路に接触する部分の長さが6m以上であることを規定しているが,門,塀等の障害物がなく通行できる部分の長さが6m以上であることは規定していないと解すべきである。

この点は,通行が可能な有効長さを規定する必要がある場合は,建築基準法施行令126条の7第1号(非常用進入口),同施行令128条(敷地内の通路)のように,道路等に通ずる一定の幅員以上の通路を設けることを規定していることと対比すると,より明らかとなる。

ウ  よって,本件変更建築確認には,敷地から道路への通行可能な長さの点で,建築基準法43条及び県条例9条違反(接道義務違反)の違法はない。

・位置指定道路における通行制限について

ア・ 証拠(甲24の2,42,乙18の3)及び弁論の全趣旨によれば,本件建築主と位置指定道路1127号に接する土地の所有者であるIほか4名との間で,位置指定道路1127号及び同1166号について,本件通行制限協定が締結されたこと,並びに本件通行制限協定に基づき,位置指定道路1127号が同1166号と接する箇所に,移動式車両止めが設置される予定であるが,移動式車両止めがあっても,人や自転車が通行するには支障がないこと,及び本件敷地から位置指定道路1166号への出入口付近の本件敷地内に,3本の埋込式車両止めが設置される予定であるが,間隔が1.5m以上で,人や自転車が通行することが可能な箇所が2箇所設けられる予定であることが認められる。

・本件通行制限協定が消防車,救急車等の緊急車両の通行まで禁止したものか否かについては,相対立する証拠が提出されており,いずれとも決しがたい。

しかしながら,仮に本件通行制限協定が緊急車両の通行まで禁止するものであったとしても,道路交通法によれば,被告主張のとおり,通行区分等の特例(同法39条),交差点等を含む道路の優先通行(同法40条),通行を禁止されている道路の通行,安全地帯等への進入等の特例(同法41条)が規定されており,さらに,消防法27条及び同法35条の8第1項では,消防車を含む消防隊又は救急車を含む救急隊が現場に到着するために緊急の必要があるときは,「一般交通の用に供しない通路若しくは公共の用に供しない空地及び水面を通行することができる」と規定されており,緊急車両は,緊急の必要があるときに,一般道路等の優先通行のみならず,通行禁止道路等を通行でき,さらに一般交通の用に供しない通路等をも通行することが認められているから,本件通行制限協定は,緊急車両の通行まで禁止することはできないものであることが認められる。

イ・ 原告適格を有する原告らは,接道要件を充足する「道路」といえるには,そのような接道要件の趣旨を実現するにふさわしい実質を備えたものでなければならないから,上記のような車両の通行制限のある位置指定道路1166号は,県条例9条の「道路」に該当しない旨主張する。

・しかしながら,建築基準法43条1項は,建築物の敷地は,道路に2m以上接しなければならない旨規定し,接道義務を満たす道路から自動車のみの交通の用に供する道路等を除外しているが,それ以上に,自動車の通行制限のある道路を接道義務を満たす道路から除外する旨の規定はないから,位置指定道路1166号も,同法43条1項にいう道路に該当するものといわなければならない。

この点は,県条例9条においても同様である。

・よって,本件変更建築確認には,位置指定道路における通行制限の点で,建築基準法43条及び県条例9条違反(接道義務違反)の違法はない。

・位置指定道路1166号に隅切りがないことについて

ア  原告適格を有する原告らは,位置指定道路1166号には隅切りがなく,北側隣接地の塀が残置しているため,消防車その他の大型車両が位置指定道路1127号から同1166号に進入することが不可能であり,交通上,安全上,防火上及び衛生上の重大な支障が生じるため,位置指定道路1166号は,建築基準法43条及び県条例9条の「道路」に該当しない旨主張する。

イ  しかしながら,建築基準法43条1項は,建築物の敷地は,道路に2m以上接しなければならない旨規定し,接道義務を満たす道路から自動車のみの交通の用に供する道路等を除外しているが,それ以上に,隅切りがない道路を接道義務を満たす道路から除外する旨の規定はないから,位置指定道路1166号も,同法43条1項にいう道路に該当するものといわなければならない。

この点は,県条例9条においても同様である。

ウ  よって,本件変更建築確認には,位置指定道路1166号の隅切り部分に塀が残置している点で,建築基準法43条及び県条例9条違反の違法はない。

6  結論

よって,本件訴えのうち,原告A3(3)及び同A4(4)の訴えは,不適法であるから,却下することとし,その余の原告らの請求は,理由がないから,棄却することとする。

付言すると,本件敷地に地上11階建てのマンションを建築する計画に対し建築確認がされたことにつき,周辺住民の立場からは納得できない点が残ることは,十分理解することができる。

そして,そのような事態は,容積率の判断の基礎となる前面道路を上乗せ規制のされた接道義務を満たす道路に限定していないこと,せっかく規模の大きい建築物の敷地につき,接道長さを規制する上乗せ規制がされても,接道義務を満たす道路の幅員については上乗せ規制がないこと,建築基準法が敷地が道路に接することを要求しても,その道路を通行するか,他の道路を通行するかまで強制することはできないこと,車両の通行制限を含む協定が締結された道路であっても,接道義務を満たす道路から除外していないことなど,原告らの立場からは立法の不備ともいうべきことが積み重なって生じたものである。当裁判所としても,本来の規制目的からすると,原告ら主張のような解釈が成り立ち得るのではないかとの観点から,種々検討を加えたが,建築基準法は,「建築物の敷地・・・に関する最低の基準を定め」(1条)るものであるためか,規制のための手段が,あるべき立法目的の観点からは不十分なものにとどまっているものであり,法の適用によっては,本件変更建築確認を違法とすることはできないものである。

よって,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 市川正巳 裁判官 髙木勝己 裁判官 櫻庭広樹)

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