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仙台地方裁判所 平成15年(わ)64号 判決 2003年7月17日

主文

被告会社A株式会社を罰金3600万円に,被告会社有限会社Bを罰金300万円に,被告人C及び被告人Dをそれぞれ懲役2年に,被告人E及び被告人Fをそれぞれ懲役1年6月に,被告人G及び被告人Hをそれぞれ懲役1年に,被告人Iを懲役10月に処する。

被告人C,被告人D,被告人E,被告人G,被告人F,被告人H及び被告人Iに対し,この裁判が確定した日から3年間,それぞれその刑の執行を猶予する。

(証拠により認定した罪となるべき事実の要旨)

被告会社A株式会社(以下「被告会社A」という。)は,東京都千代田区a町b丁目c番地に本店を置き,札幌市中央区d丁目e番地に札幌出張所を,平成5年10月1日ころから同14年6月30日ころまでの間,宮城県宮城郡f町g丁目h番地iに仙台営業所をそれぞれ設けるなどして,食肉等の製造加工及び販売業等を営むもの,被告人Cは,同被告会社の東北営業部長として上記仙台営業所の業務全般を統括していたもの,被告人Dは,同被告会社の仙台営業所長として同営業所の業務全般を掌理していたもの,被告人Eは,同被告会社の仙台営業所長代理として同営業所長を補佐していたもの,被告人Gは,同被告会社の同営業所営業担当をしていたもの,被告会社有限会社B(以下「被告会社B」という。)は,同県石巻市j町k番l号に本店を置き,食肉畜産食料品,魚介水産食料品等の加工,販売業等を営むもの,被告人Fは,同被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているもの,被告人Hは,被告会社Aの札幌出張所長として同出張所の業務全般を掌理していたもの,被告人Iは,J株式会社の業務部長として同社の業務全般を掌理していたものであるが,

第1被告人C,同D,同E,同G及び同Fらは,共謀の上,

1 被告人C,同D,同E,同Gの4名において,被告会社Aの業務に関し,被告人Fにおいて,被告会社Bの業務に関し,不正の目的をもって,別表1(省略)記載のとおり,平成13年9月24日ころから同年12月31日ころまでの間,被告会社Bにおいて,ブラジル連邦共和国(以下「ブラジル」という。)又はタイ王国産の食肉商品である輸入冷凍鶏肉の解凍肉合計約4万1706キログラムを被告会社Aの社名入りの「食鳥検査合格品,国産鶏肉,Xチキン」又は「食鳥検査合格品,国産鶏肉,Yチキン」等と印刷されたビニール袋及び同内容が印刷された段ボール箱の包装資材に詰め替え,これがあたかも同社で加工した国産銘柄鶏の鶏肉である商品名「Xチキン」又は国産鶏肉である商品名「Yチキン」の生鮮品であるかのように表記し,もって商品につきその原産地,品質等について誤認させるような表示をして不正競争を行い,

2 低単価の外国産冷凍鶏肉を高単価の国産鶏肉又は国産銘柄鶏肉である旨偽って,その販売名下に金員を詐取しようと企て,別表2(省略)記載のとおり,平成13年9月25日ころから同年12月31日ころまでの間,福島県郡山市m丁目n番o号株式会社Kほか2社からの前記「Yチキン」又は「Xチキン」の買入れ注文に関し,真実は,宮城県の行う食鳥検査を受けたものでも,国内産でもないのに,これを秘し,前記方法により虚偽表示をした外国産解凍鶏肉合計2184キログラムを前記「Yチキン」又は「Xチキン」であるかのように装って株式会社Kほか2社の関係店舗に納入の上,同年10月9日ころから同14年1月6日ころまでの間,株式会社K事務管理部総括マネージャーLほか2名に対し,8回にわたり,その代金合計137万1216円を請求し,同人らをしてその旨誤信させ,よって,同13年10月15日ころから同14年2月12日ころまでの間,3回にわたり,株式会社Kほか2社から,上記納入に係る鶏肉の売買代金として,東京都千代田区p丁目q番r号株式会社M銀行のA株式会社名義の当座預金口座等に合計137万1216円の振込入金を受け,もって人を欺いて財物を交付させ,

第2被告人H及び同Iらは,共謀の上,被告人Hにおいて,被告会社Aの業務に関し,不正の目的をもって,別表3(省略)記載のとおり,平成13年12月5日ころから同14年1月9日ころまでの間,岩手県気仙郡s町t番地uJ株式会社において,ブラジル産の食肉商品である輸入冷凍鶏肉の解凍肉合計約7536キログラムを「食鳥検査合格品,国産鶏肉,岩手・s産」等と印刷されたビニール袋及び「食鳥検査合格品,国産鶏肉,新鮮なYチキン」等と印刷された段ボール箱の包装資材に詰め替え,これがあたかも国産鶏肉の生鮮品であるかのように表記した上,同13年12月5日ころから同14年1月10日ころまでの間,27回にわたり,上記J株式会社ほか2か所において,株式会社Nから商品の運搬の委託を受けたO株式会社搬送担当者等に対し,上記包装にかかる鶏肉合計約7536キログラム(合計628箱)を納品し,もって商品につきその原産地,品質等について誤認させるような表示をしてこれを引き渡し,不正競争を行ったものである。

(量刑の理由)

本件は,被告会社Aの東北営業部長であった被告人C,同被告会社の仙台営業所長であった被告人D,同営業所の所長代理であった被告人E,同営業所の営業担当員であった被告人G及び被告会社Bの代表取締役であった被告人Fらが共謀の上,被告人C,同D,同E及び同Gが被告会社Aの業務に関し,被告人Fが被告会社Bの業務に関し,不正の目的をもって,被告会社Bにおいて,ブラジル産輸入冷凍鶏肉等を解凍するなどし,これを国産生鮮鶏肉等の表示のある包装資材に詰め替えて偽装し,鶏肉の原産地,品質等について誤認させるような表示をするとともに(判示第1の1),上記のとおり,偽装したブラジル産輸入冷凍鶏肉等を解凍したものを,あたかもこれが国産生鮮鶏肉であるかのように装い,各小売店に販売してその代金を詐取した(判示第1の2)という不正競争防止法違反,詐欺の各事案と,被告会社Aの札幌出張所長であった被告人H及びJ株式会社の業務部長であった被告人Iらが共謀の上,被告人Hにおいて被告会社Aの業務に関し,不正の目的をもって,J株式会社において,上記と同様の鶏肉の偽装を行い,運送会社の搬送担当者等に対し,偽装した鶏肉を納品して,鶏肉の原産地,品質等について誤認させるような表示をして引き渡したという不正競争防止法違反の事案(判示第2)である。

犯行の動機を見ると,日本国内では,特にクリスマスから年末にかけての時期に,国産鶏もも肉の需要が通常と比べて大幅に増える傾向があり,他方,鶏の生産量をある時期に限って急激に増やすということはできず,生産量を増やせるのはせいぜい2割くらいであったため,需要の増加する12月などには,小売店からの注文に応じて国産生鮮鶏肉を出荷することは困難な状況であり,加えて,平成13年9月に日本国内でいわゆる狂牛病に感染した牛が発見された後は,国産鶏肉の需要が急増し,もはや小売店から注文を受けた数量の商品を用意できないことが必至であったところ,被告会社Aの従業員である各被告人において,欠品を生じた場合,小売店側から,店頭での販売価格の弁償というようなペナルティーを課されたりするばかりか,場合によっては取引を停止されるなどの事態になるかもしれず,多数の競争相手がいる中,一時の欠品によって取引先を失うことは多額の利益を失うことになり,そうすれば,ほかの従業員の前で営業所の利益が減ったことを責められるが,偽装した外国産輸入冷凍鶏肉を国産鶏もも肉として販売すれば,相当額の利益を得ることができるなどと考えたことから,一方,被告人Fにおいては,平成13年も,年末近くになれば,仙台営業所から被告会社Bにこれまでと同様に偽装作業の依頼があるだろうなどと考え,そうなれば当然その依頼を引き受けるつもりでいたことなどから,また,被告人Iにおいては,大口取引先である被告会社Aの偽装依頼を断れば,同被告会社との取引が停止されてJ株式会社が大きな打撃を受けるなどと考えたことから,それぞれ本件各犯行に及んだというのである。

しかしながら,欠品が生じるのであれば,小売店に対して注文どおりに納品できない事情等を説明するなどして事態の打開を図るべきであったのに,上記のとおり,被告人らは,所属する各会社の利益や自らの組織内での地位等の確保などのために,取引先である小売店の信用や最終的に食品を口にする消費者などについて何ら顧慮することもなく,判示各犯行を敢行したものであって,その動機は,極めて身勝手かつ自己中心的であって,酌むべき事情はない。

次に,犯行の態様を見ると,判示第1の1の犯行については,被告会社Bにおいて,ブラジル産輸入冷凍鶏肉等を解凍し,解凍肉を生鮮品のように装うため,ドリップと呼ばれる解凍の際に生じる水分をふき取り,ドリップで目減りした分は別の肉を加えて1袋あたりの表示量以上にし,特別な連絡がなければ消費期限は詰め替えの日から六,七日に設定するなどという被告会社Aの仙台営業所側の指示の下に,判示第2の犯行については,J株式会社において,被告会社Aの札幌出張所側の依頼を受けた被告人Iの指示の下に,それぞれ解凍したブラジル産輸入冷凍鶏肉等を国産生鮮鶏肉である旨の表示のあるビニール袋に詰め替えて真空パック加工を施した上,そのビニール袋に詰め替えの日から6日ないし9日の品質保持期限を印字し,さらに,国産生鮮鶏肉である旨と上記のような品質保持期限が表示された段ボールに,上記鶏肉を詰め替えたビニール袋を梱包するなどしたものであり,さらに,判示第1の2においては,上記のように偽装したブラジル産輸入冷凍鶏肉等を,そのまま国産生鮮鶏肉であるかのように偽って小売店に販売するなどしたというのであるが,いずれも外国産輸入冷凍鶏肉を解凍したものであると区別するのは困難で,巧妙な犯行態様であり,極めて悪質である。

さらに,犯行の結果を見ると,判示第1の2の詐欺の各犯行については,その被害金額は少なくない上,判示第1の1及び判示第2の不正競争防止法違反の各犯行については,偽装された鶏肉の総量は,仙台営業所においては4万1706キログラム,札幌出張所においては7536キログラムといずれも極めて多量であり,しかも,被告会社Aが食肉業界の大手企業であることからすれば,その社会的影響が極めて甚大であったことは明らかであり,前記のとおり,いわゆる狂牛病の影響により例年に比べて鶏肉の需要が高まっていた本件各犯行当時,国産鶏肉の表示を信頼してこれを購入した小売店及び消費者が,実際には外国産輸入冷凍鶏肉であったことに気づかないままこれを店舗に陳列し,あるいは消費したであったであろうことに照らせば,本件各犯行は,公正な競争を害したばかりでなく,鶏肉の表示全般に対する信頼を損なうとともに,鶏肉の表示を信頼した多数の関係者,殊に消費者を裏切る著しく背信的な犯行というべきである。

被告会社Aと取引関係にある関係業者らが,被告会社Aを含む一部業者のおかげで食肉業界は一番大切なお客様の信用を失った,業界の信用を揺るがす卑劣なことをした,だまされたという憤りを感じるなどと述べているのも当然であって,犯行の結果は重大である。

加えて,被告会社Aの仙台営業所では,平成7年ころから,国産冷凍鶏肉を国産生鮮鶏肉である旨表示されたビニール袋に詰め替えるなどするようになり,その詰め替えの量も年々増加し,平成9年以降は,仙台営業所の職員のみでは詰め替え作業が困難となったことから被告会社Bに詰め替えを依頼するようになるとともに,詰め替える冷凍鶏肉も国産品からブラジル産等を用いるようになるなかで,判示第1の各犯行に及んだのであり,本件は,上記のように仙台営業所及び被告会社Bにおいてそれまで行われてきた鶏肉偽装の一環であると認められるほか,札幌出張所での犯行の背景には,同出張所長であった被告人Hが,被告会社Aの他の営業所において,ブラジル産輸入冷凍鶏肉を国産鶏肉と偽装して販売していたと知っていたこと,同被告人自身,ブラジル産輸入冷凍鶏肉を国産鶏肉として販売した経験があったことなどの事情が認められるのであり,さらに,仙台営業所を含め,被告会社Aの各営業所において,欠品対策と称して本件各犯行と同様の行為が繰り返されていたこともうかがわれるのであって,被告会社Aについては,その管理,監督責任が厳しく問われるべきである。

また,被告会社Bについては,判示第1の1の仙台営業所における鶏肉偽装の実行行為を担うなど,判示第1の各犯行に不可欠な役割を果たしている点で,被告人Cは,平成13年4月ころから被告会社Aの東北営業部長の地位にあり,仙台営業所の最高責任者であったのに,被告人Dらから鶏肉の偽装について報告を受けたにもかかわらず,何らの措置を講じることなく,安易に了承した点で,被告人Dは,平成7年から被告会社Aの仙台営業所長の地位にあり,業務全般を統括していたところ,長年鶏肉の偽装に関与し,判示第1の各犯行においては,被告人Eや同Gらに対し,鶏肉偽装の手法等を具体的に指示した点で,被告人Eは,平成13年10月22日まで株式会社Aの仙台営業所長代理の地位にあり,被告人Gは同営業所の営業担当であったところ,判示第1の各犯行において,被告人Dらの指示の下,被告会社Bに対する偽装鶏肉の発注等の指示を行う役割を担った点で,被告人Fは,被告会社Bの代表者として,同社の経営全般を統括していたところ,長年にわたり,被告会社A仙台営業所の依頼を受けて,実際に鶏肉の偽装を行い,判示第1の各犯行においても,従業員に指示するのみならず,自らも偽装作業を行うなどした点で,被告人Hは,被告会社A札幌出張所長の地位にあり,同出張所の業務全般を統括していたところ,被告人Iに対して鶏肉の偽装を持ちかけて判示第2の犯行を主導した点で,被告人Iは,平成11年6月ころから,J株式会社業務部長の地位にあったところ,部下に指示するなどして,判示第2の鶏肉偽装の実行行為を担った点で,いずれも犯情は悪く,以上によれば,各被告会社及び各被告人の刑責は重い。

しかしながら,被告会社Aについては,本件発覚後は捜査に協力して事案の解明に努めるとともに,本件を含む鶏肉偽装問題の責任者に対する社内処分の実施,営業所を廃止して物流配送等の業務を全て外部に委託するなどの組織変更,法令及び企業倫理の遵守を徹底するための社内教育体制の整備や相談窓口の設置,第三者機関立会による検査の実施等種々の再犯防止策を講じているほか,同被告会社が平成14年度決算において約1億3700万円の税引前損失を計上したことなどからすれば既に一定の経済的制裁を受けたともいえること,被告会社B及び被告人Fについては,判示第1の各犯行において,いずれも仙台営業所からの指示を拒絶しがたい従属的地位にあったと認められるほか,被告会社Bについては,平成15年2月期の決算において約1141万円の税引前損失を計上するなどして,既に一定の社会的,経済的制裁を受けており,また,社員間で法令遵守のための勉強会を開催するなど再犯防止にも努めていると認められること,被告人C,同D,同E,同G及び同Hについては,今後予定されていることも含めて被告会社Aの内部処分がなされ,既に一定の社会的制裁を受けていること,被告人Iについては,判示第2の犯行において従属的地位にあったと認められるほか,J株式会社からの退職を余儀なくされるなど相当程度の社会的制裁を受け,また,現在,鶏肉卸売業の会社を経営しているが,二度と同じような不誠実なことはしないと誓っていること,各被告会社の代表者及び各被告人が,本件各犯行について反省の情を示し,今後の法令遵守を誓約していること,各被告人にはいずれも前科前歴がなく,本件により相当期間の身柄拘束を受けたことなど,各被告会社及び各被告人に有利ないし斟酌すべき事情も認められる。

そこで,以上の事情を総合考慮し,各被告会社及び各被告人を主文の刑に処するのが相当であると判断した。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 本間榮一 裁判官 齊藤啓昭 裁判官 菅原暁)

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