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仙台地方裁判所 平成15年(わ)751号 判決 2004年6月03日

主文

被告人を懲役10年に処する。

未決勾留日数中140日をその刑に算入する。

理由

(犯行に至る経緯)

1  被告人は,昭和37年にA県内の高等学校を卒業後,東京都内の会社に就職して稼働していたが,本籍地で一般土木工事業を目的とするB建設を営んでいた父から手伝ってほしいと頼まれたため,昭和40年にA県内の実家に戻ってB建設で働くようになり,昭和60年ころには,父からB建設の経営を引き継いで事業にあたり,その間,妻と婚姻して3人の娘をもうけ,本件当時は,肩書住所地で妻と二女と3人で暮らしていた。

2  B建設は,元請会社から護岸工事,道路工事等を下請けし,A県等から公共工事を受注するなどして事業を行い,平成5年ころまでは二,三十人の従業員を抱えて経営状態は順調であったものの,平成6年ころに道路工事で多額の損失を出し,さらに,平成7年ころからは不景気で受注が急激に減少して経営が悪化したため,被告人は,それまで借り入れていた金融機関などへの月々の返済に困るようになり,消費者金融からも借り入れるなどしてB建設の経営を続けていたが,平成14年には,売上の約7割を占めていた元請けの2つの会社が相次いで倒産した上,公共工事もほとんど受注できなくなり,従業員も1名となってしまった。しかし,被告人は,親族や知人から借金をして金融機関などへ返済を続け,仕事をしていたが,平成15年には約2700万円もの債務を抱えるまでになり,仕事をする気を失い,公共工事の指名願いも提出せず,同年5月ころからは,それまでは遅れながらも返済していた金融機関に対する月々の返済もできなくなり,同年8月には住宅ローンの未払で自宅の土地建物の差押えを受け,同年9月には滞納した税金の支払を督促され,同年10月には金融機関から具体的な返済計画を提示するように迫られるなどして困り果ててしまったが,それでも,連帯保証人である知人に迷惑をかけるわけにはいかないなどと考え,B建設の経営をやめたくてもやめられずに,前記のような高額な債務の重圧に耐える毎日を送り,さらに,妻との関係も悪化し,家にいづらくなり,好きなパチンコをするために遠くまで出掛けて,家に帰らないこともあった。

3  ところで,被告人は,B建設で働き出した当初,現場において,元請会社のダイナマイトを扱う資格を有する者の下で雑用等をするなどしていたが,昭和42年ころに発破技師の資格を取得すると,自ら作業員を使ってダイナマイトの発破作業を行うようになり,そうすると,ダイナマイトを爆破させることに快感を覚え始め,多量のダイナマイトを使った海中での爆破により,大きな泡とともに海面が盛り上がり,魚が浮き上がってくる様子などを見るうちにますます快感を覚え,一,二本のダイナマイトを使った小規模のものでもいいから身近なところで爆破を行ってみたいなどと考えるようになった。しかし,被告人は,元請会社の管理が厳しくて余ったダイナマイト等を回収されたことから,その考えを実行に移すこともできず,また,平成2年に乙類火薬類取扱保安責任者の資格を取得したことから,B建設が使用するダイナマイト等を被告人が自分で火薬店から購入できるようになったものの,仕事も順調であったため,ここで警察に捕まるようなことをして従業員や家族を路頭に迷わすようなことはできないなどと考え,ダイナマイトを爆破してみたいという前記のような考えを抑えていた。

4  ところが,平成13年五,六月ころ,B建設の事務所敷地内にある物置をかたづけていた際,未使用のダイナマイト5本及び雷管6本を発見し,どうしてそこにあるかよく分からなかったが,高額な債務の重圧に沈んだ気分を晴らすために発見したダイナマイトを爆発させようと考えるようなり,さらに,ダイナマイトを使った時限式爆弾を作り,どこかの施設を爆破して脅かし,お金を取れれば借金の返済ができるなどと思うようになった。そこで,被告人は,発見した雷管が腐食していたことから,使えるかどうか確かめようと考え,そのうちの1個に乾電池の電流を流したところ,破裂したことから,使用可能であることが分かり,同年8月ころには,爆破物を仕掛けてから遠くまで逃げるための時間を稼ぐために時限装置を作ろうと考え,デジタル表示式のキッチンタイマーを購入して時限装置の製作を試みたが,タイマーの構造が複雑であったことからうまく細工することができずに失敗した。しかし,被告人は,その後もダイナマイトを爆発させて債務の重圧に沈んだ気分を晴したい,爆発を怖がる人の心理を利用してお金を取り,これを借金の返済に充てたいという考えを変えず,時限装置を作ろうと考え続けていたところ,平成15年9月ころ,A県C市内の100円ショップでアナログ式のバスルームクロックを見つけるや,その時計の仕組みは簡単であると考え,時限装置を作ることがきるのではないかと思いつき,これを購入した。(略)

5  被告人は,同年10月ころ,前記のとおり,いよいよ借金の返済に追い詰められたことから,時限式爆弾を製作して仕掛けることを決意し,具体的な場所として,人の恐怖心をあおり,かつ,個人に経済的負担を負わせないために公園内の公衆便所のような公共施設を狙うこと,犯行の発覚を防ぐためにD県E市内に仕掛けること,破壊力を試すために最初は5本のダイナマイトのうちの1本を使用することなどを決め,そして,同月7日,ダイナマイト1本,雷管1個,時計,乾電池,リード線等を普通貨物自動車に積み込んで自宅を出発し,D県E市に向かった。

(罪となるべき事実)

第1被告人は,人の財産を害する目的を持って,平成15年10月7日午後3時45分ころ,A県(略)F株式会社G店駐車場に駐車中の普通貨物自動車内において,ダイナマイト1本に雷管1個を装着し,雷管から延びたリード線をアナログ式時計及び乾電池を用いた時限回路に接続し,もって時限式爆発物1個を製造した。

第2被告人は,同日夜E市に到着すると,公園の公衆便所ではなく,もっと大勢の人が利用するパチンコ店を爆破すれば,人を怖がらせることができる,パチンコ店は大きな利益を上げているから,施設を多少壊しても大きな痛手にはならないなどと考えて,パチンコ店に時限式爆発物を仕掛けることとし,人の財産を害する目的をもって,同日午後7時30分ころ,D県E市(略)パチンコH風除室兼休憩室において,時限回路を起動させた前記第1記載の時限式爆発物を白色ビニール袋に入れて,同所に設置された自動販売機と壁面の間に仕掛け,同月8日午前10時13分ころ,これを爆発させ,もって爆発物を使用した。

第3被告人は,同月8日の朝方になっても,前記第2で仕掛けた時限式爆発物が爆発したという報道に接しなかったため,失敗したものと考え,再度時限式爆発物を製造することとし,人の財産を害する目的を持って,同日午後10時30分ころ,D県(略)一般国道(略)チェーン着脱場に駐車中の普通貨物自動車内において,ダイナマイト2本に雷管1個を装着し,雷管から延びたリード線をアナログ式時計及び乾電池を用いた時限回路に接続し,もって時限式爆発物1個を製造した。

第4被告人は,人の財産を害する目的をもって,同月9日午前0時18分ころ,D県E市(略)株式会社IJ無人店において,時限回路を起動させた前記第3記載の時限式爆発物を白色ビニール袋に入れて同店出入口のコンクリート製たたきの上に仕掛け,同日午前4時5分ころ,これを爆発させ,もって爆発物を使用した。

第5被告人は,前記第4で仕掛けた時限式爆発物が爆発したという報道に接しなかったため,またもや失敗したものと考え,更に時限式爆発物を製造してE警察署に仕掛けることとし,治安を妨げ,かつ,人の身体,財産を害する目的をもって,同月14日午後9時20分ころ,E市(略)付近路上の普通貨物自動車内において,ダイナマイト2本に雷管1個を装着し,雷管から延びたリード線をアナログ式時計及び乾電池を用いた時限回路に接続し,もって時限式爆発物1個を製造した。

第6被告人は,治安を妨げ,かつ,人の身体,財産を害する目的をもって,同日午後9時50分ころ,E市(略)D県E警察署において,同月15日午前4時10分ころに爆発するように時限回路を起動させた前記第5記載の時限式爆発物を白色ビニール袋に入れて正面玄関脇の植え込みに仕掛け,もって,爆発物を使用した。

(証拠の標目 省略)

(法令の適用)

被告人の判示第1,第3及び第5の各所為は爆発物取締罰則3条に,判示第2,第4及び第6の各所為は同罰則1条にそれぞれ該当するところ,所定刑中,第1,第3及び第5の各罪についていずれも懲役刑を,第2,第4及び第6の各罪についていずれも有期懲役刑をそれぞれ選択し,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により刑及び犯情の最も重い判示第2の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役10年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中140日をその刑に算入することとし,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

(量刑の理由)

1  本件は,被告人が,約1週間の間に,3回にわたり,ダイナマイトに時限回路を接続した時限式爆発物3個を製造し,それらを1個ずつ3か所に仕掛け,うち2か所で2個の時限式爆発物を爆発させたという爆発物取締罰則違反の事案である。

2  犯行の動機を見ると,判示のとおり,発破技師の資格を有して,長年工事現場でダイナマイトの発破作業に従事してきた被告人が,ダイナマイトを爆発させることなどに快感を覚え,工事現場以外の場所でもダイナマイトを爆発させてみたいと思っていたところ,たまたま会社の物置にあったダイナマイト5本と雷管6本を発見したことから,時限装置を作り,これにダイナマイトを装着した時限式爆発物を製造し,これを仕掛けて爆発させ,高額な債務の重圧に沈んだ気持ちを晴らしたい,恐怖を感じた人から金銭を脅し取って債務を返済したいなどと考えて,本件犯行に及んだものであり,身勝手かつ利欲的な動機に酌量の余地は全くない。

なお,被告人は,当公判廷(弁2,3の書面を含む。)において,40歳代のころからダイナマイトを爆発させてみたいという欲求を抱えていたところ,深く考えないで本件に及んでしまったなどと供述し,弁護人は,前記被告人の供述に基づき,本件各犯行により金銭を脅し取ることを被告人の動機として挙げることはできないなどと主張する。

確かに,関係証拠によれば,被告人は,本件各犯行に当たり,具体的な金銭支払の要求をしていないことが認められるが,他方,被告人は,捜査段階では,一貫して,ダイナマイトを爆発させて債務の重圧に沈んだ気持ちを晴らすとともに,人々に恐怖心を与えて,金銭を脅し取れば,借金を返済して楽な生活ができると思った,お金のことは爆破してから考えればいい,爆発の威力に驚いて,自分のいうことを聞くはずだと思ったなどと供述しており,その内容は,具体的であって,不自然なところはない。そして,関係証拠によれば,判示第6の犯行後E警察署にかけた電話で,更なる爆破を予告するとともに現金を要求したことが認められ,また,被告人が多額の債務を抱えてその返済に窮していたことは判示のとおりであって,被告人の捜査段階の供述はこれらの事実に符合している。加えて,被告人が,当公判廷において,お金目的だというと罪が重くなるので弁解する気持ちもある,捜査段階では弁護人に諭されて正直に話した旨述べていることにも照らすと,捜査段階の供述の信用性に疑問はなく,これに反する被告人の当公判廷の供述は信用できず,したがって,弁護人の主張は採用できない。

次に,犯行態様を見ると,被告人は,前記のとおり,長年ダイナマイトの発破作業に従事してきた経験を生かし,現場から離れるための時間稼ぎに時限式で爆発させる装置を作り,これが通電することを確かめた上,爆発力の高いダイナマイトを使用して時限式爆発物を製造し,これを,人が集まるパチンコ店の風除室兼休憩室に仕掛け,爆発したとの報道に接しないと,失敗したものと判断し,あくまでも爆発させたいと考えて,I社の無人店舗出入口のコンクリート製たたきの上に,さらには,治安の要である警察署の敷地内に仕掛けるに至り,前の2か所に仕掛けた時限式爆発物を爆発させたものであって,本件は,強固な犯意に基づく,極めて計画的,かつ大胆で悪質な犯行である。

そして,判示第2の犯行においては,パチンコ店の風徐室兼休憩室の壁や同所にあった清涼飲料水の自動販売機などを損壊し,パチンコ店に85万円余りの,自動販売機の設置会社に19万円余りの財産的損害を与えているのに,被害の弁償は何らなされていない上,被告人の意図が人がいなくなった深夜に爆発させようとしたものであるとはいえ,時限回路の接触不良と考えられる原因により時限式爆発物がパチンコ店の営業時間中に爆発しているのであって,結果的に客や従業員の身体に危害が及ぶ危険性があったものである。また,判示第4の犯行においては,仕掛けられた時限式爆発物は爆発したものの,幸いにも,無人店舗が損壊することはなく,大きな財産的被害は発生していないが,プラスチックの破片等が周辺に飛び散っていたのであって,同店舗が交通量の多い国道の直ぐ近くに位置していたことから,被告人の意図が無人店舗を爆破させることであったとしても,通行中の車両やその国道に沿った歩道を通行中の歩行者らの身体に危害が及ぶ危険性があったこともうかがわれ,さらに,判示第6の犯行においては,目撃者がいて警察署に通報したことから,D県警察機動隊所属の爆発物処理部隊が出動してこれを解体処理したために,被告人が仕掛けた時限式爆発物が爆発するには至らなかったものであるが,警察署には深夜でも警察官がいて,一般人が警察署に出入りしないわけではないのであるから,仕掛けられた爆発物が爆発すれば,警察官や警察署に出入りする一般市民に危害が及ぶ危険性があったと認められるのである。

加えて,本件が,D県E市内で,1週間の間に連続して3件の爆発物が仕掛けられ,しかも,3件目の犯行は治安の要である警察署が狙われたものであり,これらにより近隣住民の抱いた不安や恐怖は多大であったとうかがわれ,本件が地域社会に与えた影響は大きく,本件の結果は重大である。

その上,被告人は,犯行後においては,更に警察署に爆破予告の電話をして捜査の攪乱を図るなどしているのであって,犯行後の情状も悪質である。

以上の諸事情に,本件爆発物取締罰則違反の犯行が,それ自体罪質の重いものであることを併せ考慮すれば,被告人の刑責は誠に重いといわざるを得ない。

3  そうすると,被告人が事実関係を認める供述をしていて,被告人なりに反省していると認められること,各時限式爆発物の破壊力はそれほど大きいものではなかったこと,爆発時刻を深夜に設定するなど被告人なりに死傷者を出さないように考えていたこと,前記のとおり,幸いにも,爆発した2件のうちの1件は,大きな財産的な被害が発生せず,爆発した2件とも負傷者はいなかったこと,警察署の敷地内に仕掛けられた時限式爆発物は直ぐに発見されて,爆発前に解体処理されたこと,被告人はこれまで長年真面目に稼働してきたと認められ,道路交通法違反の罪での罰金前科しか有していないこと,妻が被告人の社会復帰を待つ考えであること,被告人は60歳と比較的高齢であることなど,被告人に有利ないし斟酌すべき事情を最大限考慮しても,主文の実刑が相当であると判断した。

よって主文のとおり判決する。

(求刑 懲役12年)

(裁判長裁判官 本間榮一 裁判官 齊藤啓昭 裁判官 大木美結己)

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